著者
鈴木 弥香子
出版者
日本社会学理論学会
雑誌
現代社会学理論研究 (ISSN:18817467)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.55-67, 2014 (Released:2020-03-09)

現在、グローバリゼーションの進展によって様々な変容が社会に対して迫られ、多方面で弊害が生じており、それに対してどう対応するかという新たな社会構想を描く必要性が増しているが、その試みはこれまで進展してこなかった。本稿では、新たな構想としてコスモポリタニズムに着目し、それがアクチュアリティを持つ考えであると同時に、実践するにあたってはある困難性を有していることを明らかにする。コスモポリタニズムは、近年グローバリゼーションの進展に呼応するようにヨーロッパ圏を中心として盛んに議論されている一方で、日本においてはその検討が不十分であるのが現状である。そこで第一に、コスモポリタニズムの中でも政治的な変革に関連する議論を、「規範的」なものと「記述的」なものに区別し、整理する中で、そのアクチュアリティを明らかにする。第二に、同概念をより具体的な実践として考えるため、政治的な変革に関わるコスモポリタニズムの議論の多くがコスモポリタンな実践の条件となるグローバルな連帯の存在を自明視、過大評価しているという問題について検討を行う。その中で、連帯を「弱い連帯」と「強い連帯」に分けて考える必要性を提起し、グローバルなレベルでは「弱い連帯」は見られるものの「強い連帯」の構築は困難であることを指摘し、コスモポリタニズムの実践における困難性を明らかにしながらも、EUにおける金融取引税という事例から新たな可能性についても素描する。
著者
村上 覚 種石 始弘 鈴木 公威 佐々木 俊之 橋本 望
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.117-125, 2019 (Released:2019-06-30)
参考文献数
16
被引用文献数
1

開花期が早い ‘レインボーレッド’ においても自然受粉を可能とする雄品種として ‘にじ太郎’ を育成した.‘にじ太郎’ は ‘レインボーレッド’ の偶発実生から選抜した二倍体品種である.花粉品質は,酢酸カーミン染色率はやや低いものの,発芽率は他品種と同程度であった.一方で,‘トムリ’ と比べると,採葯量および採取純花粉量は少ないため,花粉採取用としては適さないと考えられた.‘にじ太郎’ の花粉で受粉した ‘レインボーレッド’ 果実は,‘トムリ’ 花粉で受粉した果実と比べて,結実率や果実品質に差はみられなかったものの,黒色の充実した種子が増えた.開花期は ‘レインボーレッド’ と重なるため,‘レインボーレッド’ を自然受粉させることができる.3年間の自然受粉栽培について検討した結果,1.0~1.5 mの1年生側枝を ‘レインボーレッド’ に高接ぎして配置した場合,枝から2 mの範囲内では概ね80%の結実率を確保でき,果実品質も比較的良好であったが,それよりも離れると結実不良や果実の肥大不良が懸念された.このことから,4 m間隔で ‘にじ太郎’ の枝を高接ぎし配置することが望ましいと考えられた.以上のことから ‘にじ太郎’ は ‘レインボーレッド’ の自然受粉に有効であると考えられ,‘レインボーレッド’ の安定生産に寄与することが期待できる.
著者
高野 博幸 鈴木 忠直 梅田 圭司
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.21, no.10, pp.483-489, 1974-10-15 (Released:2010-01-20)
参考文献数
10
被引用文献数
2 2

発芽抑制を目的に放射線処理をした北海道産馬鈴薯“農林1号”の長期貯蔵中における還元糖とアミノ酸含量の変化を調べ,さらにポテトチップス製造試験を行ないその影響を調べた。(1) 10Krad照射後,常温に10ヵ月間貯蔵しても,生イモの還元糖量は0.4%以下であった。一方非照射試料は貯蔵後6ヵ月目から急激に発芽し始め,2ヵ月目以降は加工用に用いられなくなった。(2) 照射後5℃に貯蔵すると還元糖は,常温貯蔵区のものより2~3倍多くなるが,これを常温に2週間移すことによって常温貯蔵区のものと同程度にまで減少させることができる。(3) 10Krad照射で増減するアミノ酸もあったが,アミノ酸パターンの類似率でみると,照射による影響はほとんどなかった。貯蔵中のアミノ酸の変化をパターン類似率からみると,照射または貯蔵温度による差はほとんどなく,貯蔵期間の影響が大きく,長期貯蔵によってパターンは変化していた。(4) 貯蔵後6, 8および10ヵ月目にポテトチップスを製造し品質を調べた。官能検査の総合評価では5℃貯蔵から室温に2週間移した後製造したものが最もすぐれていた。照射後常温貯蔵した試料は,照射後8ヵ月目まではポテトチップスの品質はよかったが,10ヵ月目以降のものの品質は著しく低下した。(5) 生イモの還元糖含量が低いと,色の白いポテトチップスができるが,チップスの品質を考えると必ずしも還元糖含量だけに起因しているのでない。還元糖含量が低くても,発芽あるいは水分蒸散によって萎縮し表面にシワが多くみられる馬鈴薯から作ったチップスの品質は,他の試料よりも劣っていた。(6) 以上の結果から,照射馬鈴薯を常温に長時間貯蔵しても還元糖量は増加せず,8ヵ月間は加工原料として十分利用できる。8ヵ月以降に加工原料として用いる場合は,水分蒸散による萎縮を防止するため5℃に貯蔵し,加工する2週間前に常温に移し還元糖含量を低下させる必要がある。アミノ酸含量は,照射あるいは貯蔵温度による影響よりも貯蔵期間による影響の方が大きかった。しかしアミノ酸は,二次加工製品の品質に対しては影響を及ぼしていないと思われた。
著者
小野寺 誠 塚田 泰彦 鈴木 剛 三澤 友誉 上野 智史 全田 吏栄 菅谷 一樹 武藤 憲哉 反町 光太朗 伊関 憲
出版者
福島医学会
雑誌
福島医学雑誌 (ISSN:00162582)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.57-64, 2022 (Released:2022-08-10)
参考文献数
26

要旨:【目的】福島市消防本部管内における照会回数5回以上の救急搬送困難事案に対して救急専従医である地域救急医療支援講座による二次救急輪番当直支援の有用性について検討すること。【方法】2017年1月より2020年12月までの4年間に福島市消防本部管内で発生した救急搬送困難事案を対象とした。対象データは,福島市消防本部で保存している救急搬送記録簿,および地域救急医療支援講座から輪番当直支援を行っている二次救急医療機関4病院(以下,A~D病院)の救急車搬送時間記録簿から抽出した。4病院別に救急搬送数を調査し,平日で地域救急医療支援講座から当直支援を行った日(以下,支援日)と行っていない日(以下,非支援日)の二群に分け,救急搬送困難事案数および比率を検討した。【結果】調査期間内に4病院へ搬送された救急車は計34,578台,そのうち搬送困難事案数は589件(1.7%)であった。支援日と非支援日を比較すると,4病院ともに支援日での救急搬送困難事案数は少なく,比率も有意差をもって支援日で少なかった(A病院6件 vs 34件:p < 0.001,B病院7件 vs 26件:p < 0.001,C病院5件 vs 35件:p < 0.001,D病院0件 vs 28件:p = 0.025)。【結語】福島市二次救急医療機関に対する当講座の輪番当直支援は,救急搬送困難事案を有意に減少させていた。救急専従医による適切なトリアージが要因と考えられ,救急専従医が不足している地域での有用なモデルになる可能性がある。
著者
小野寺 誠 後藤 沙由里 関根 萌 鈴木 光子 菅谷 一樹 大山 亜紗美 全田 吏栄 鈴木 剛 塚田 泰彦 伊関 憲
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.633-640, 2023-10-31 (Released:2023-10-31)
参考文献数
23

目的:福島市における救急搬送困難事案の推移および原因をコロナ禍発生前後で調査した。方法:2019年度〜2021年度の間に福島市内で発生した照会回数5回以上の救急搬送困難事案を対象に,年度別に発生数,事故種別,照会時間帯(平日日勤帯,平日夜間帯,土日祝日),医療機関の断り理由を検討した。結果:発生数は71件/82件/193件と2021年度で有意(p<0.001)に増加していた。事故種別検討では一般負傷が19 年度と比較して2021年度で有意(p<0.001)に多く,照会時間帯別にみると平日日勤帯の割合が2019年度と比較して2021年度で有意(p<0.001)に多かった。断り理由別では「ベッド満床」が2021年度で,2019年度, 2020年度と比較して有意(それぞれp<0.001,p<0.001)に多かった。結論:コロナ禍では需要と供給の両輪に対応可能な救急搬送システムを立案し,回復期・慢性期施設を含めた地域連携を構築することが重要と思われた。
著者
新開 瑞希 中川 悠 馬場 政典 松田 有加子 佐藤 理加子 高野 日南子 鈴木 拓 真柄 仁 井上 誠
出版者
日本顎口腔機能学会
雑誌
日本顎口腔機能学会雑誌 (ISSN:13409085)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.128-129, 2023 (Released:2023-11-22)

I.目的加齢に伴う口腔内の生理学的変化の一つとして,唾液分泌量の減少が挙げられる.我々は,本学会第66回,67回学術大会において,唾液分泌量の減少が摂食嚥下動態に及ぼす影響について報告した.今回,健常成人を対象に,塩酸ピロカルピン誘発性の唾液分泌量の増加が咀嚼嚥下に及ぼす影響を検証した.
著者
鈴木 良弥 川隅 里奈 関口 芳廣 重永 実
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告音声言語情報処理(SLP) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.1995, no.51, pp.21-26, 1995-05-25
参考文献数
6

話し言葉中では助詞の省略,曖昧な発声などが頻繁に起こる.従って,話し言葉の認識や理解を行なうには助詞の推定を行なう必要がある.我々は朗読文用連続音声認識システムをすでに作成しているが,そのシステムの助詞推定能力を人間と比較した.まず,話し言葉(対話文とスピーチ)中の各助詞の出現回数などを調べた.その結果,良く使われる助詞は対話文でもスピーチでもほとんど同じであることがわかった.また認識システムの出力と学生73人にアンケートを行なった結果とを比較した.実験により,学生が作成した文の約94%をシステムが生成し,システムが作成した候補文の約3%を学生が作成したことを確認した.We are trying to make our speech recognition system to correspond to spoken dialogue. First, we investigated the frequency of each particle in some dialogues and speeches, and we registerd 29 frequently used particles to our system. Second, We sent out a questionnaire to 73 students in order to compare with the performance of estimation of particles by the linguistic processor (case structures, syntactic rules, and so on) of our speech recognition system. According to the comparison, our system can generate most of sentences which students can think out.
著者
菊池 大典 鈴木 はる江
出版者
日本心身健康科学会
雑誌
心身健康科学 (ISSN:18826881)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.15-22, 2020 (Released:2020-06-07)
参考文献数
21

国が推進する地域医療構想の実現に向けて,訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ)の需要が増す中,作業療法士(以下,OTR)の配置は必ずしも十分ではない.本研究は訪問リハに従事するOTRの職業性ストレスとその関連要因を明らかにすることを目的に,OTR101名(有効回答率78.9%)の職業性ストレスを調査し,ストレス反応と基本属性,臨床経験,ストレス要因の関連性を分析した.重回帰分析の結果,満足度がストレス反応の緩衝要因として最も影響しており,活気には正の相関(β=0.437,調整済みR2=0.305)を示し,抑うつ感(β=-0.546,調整済みR2=0.291),イライラ感,疲労感,不安感,身体愁訴には,満足度が負の相関として回帰式が得られた.このことから良好なメンタルヘルスを保つ為には,仕事と家庭に満足していることの重要性が示唆されたと共に,今後は満足度の具体的な内容を明らかにすることが,より良いメンタルヘルス対策の検討に資すると考えられた.
著者
桑原 恵介 金森 悟 鈴木 明日香 渋谷 克彦 加藤 美生 福田 吉治 井上 まり子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.70, no.9, pp.544-553, 2023-09-15 (Released:2023-09-30)
参考文献数
26

目的 本邦の公衆衛生専門職大学院は疫学,生物統計学,社会行動科学,保健政策・医療管理学,産業環境保健学を基本5領域に据えて教育を行ってきたが,その現状と課題に関する知見は乏しい。そこで,帝京大学大学院公衆衛生学研究科を教育活動事例として,公衆衛生学修士課程(Master of Public Health, MPH)での教育の現状と課題,改善案をまとめることとした。方法 MPH教育の目標と授業科目の記述には,帝京大学大学院公衆衛生学研究科2022年度履修要項を参照した。課題と改善案は,同研究科での各領域の担当教員から意見を抽出し,要約した。活動内容 疫学では問題の本質を定式化して,データを収集・評価し,因果効果について推定できるように,討議を含む講義が行われきたが(計8科目),新たな公衆衛生課題への応用や技術革新へのキャッチアップの担保が課題である。生物統計学ではデータと統計学を理解し,解析を実践するための講義・演習が行われてきた(計9科目)。課題としては学生の理論の理解と講義難易度の設定,新しい統計手法の教材不足が浮かび上がった。社会行動科学では人間の行動を理解し,課題解決に向けて行動するための講義・演習・実習が行われてきた(計8科目)。課題としては,様々な行動理論の限られた時間内での習得,多様なニーズとの乖離,実践で役立つ人材育成が示された。保健政策・医療管理学では世界や地域の課題を発見・解決するために,政策や医療経済的視点も交えて講義・演習・実習を行ってきたが(計19科目),グローバル人材の輩出や行政実務者の入学不足,合理的・経済学的思考やマクロ経済的変化の認識の不足が課題である。産業環境保健学では産業・環境による影響と対策を法律・政策も含めて理解するための講義・演習・実習を行ってきた(計9科目)。課題としては最新技術や環境保健,社会的に脆弱な集団等のテーマの充実が挙げられた。結論 帝京大学でのMPH教育の振り返りを通じて,時代に即したカリキュラム編成,多様な学生,求められる知識・技能の増加,実務家の実践力醸成といった課題に対処していくことが,次世代の公衆衛生リーダーの育成に向けて重要であることが示唆された。こうした課題を解決していくために,公衆衛生専門職大学院での教育内容を全体像の視点から定期的に見直し,改革を行う不断の努力が求められよう。
著者
藤岡 秀英 野口 理子 山岡 順太郎 鈴木 純 堀江 進也 佐藤 純恵 内種 岳詞 木下 祐輔 山岡 淳 足立 泰美 勇上 和史 張 帆
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究では、勤労者の心身の健康の維持・増進に資する効果的な施策のあり方を検討するため、健康保険事業者と連携し、事業者、従業者への2回目のアンケート調査を実施して「統合パネルデータ」を構築する。これにより、A.特定健診や特定保健指導等の疾病予防施策の有効性、B.職場環境や企業の健康管理施策が勤労者の心身の健康に及ぼす効果、ならびに、C.勤労者の心身の健康の維持・増進が企業業績に及ぼす影響を実証的に検証する。新しく考案した「加点式健診事業」の実施と評価を行い、地域全体の健康づくりへのモチベーションを高めることで、住民の健康診断受診率の向上、就労、所得、地域生活への効果を調査検証する。
著者
鈴木 あい 讃井 知 春田 悠佳 島田 貴仁
出版者
日本行動計量学会
雑誌
行動計量学 (ISSN:03855481)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.33-43, 2023 (Released:2023-11-22)
参考文献数
47

Public confidence in the police has become an important issue in many countries because high levels of trust and confidence can allow the public to believe the police organisation is accountable and legitimate. Much empirical research on public attitudes towards policing is available in Western countries, and it has been revealed that community policing can affect the levels of trust and confidence in the police both positively and negatively. Using data from an online survey, this article seeks to address the impact of community policing on public trust and confidence in the Japanese police. The results of a series of hierarchical multiple regression models demonstrated that being female, participating in crime prevention and self-defence classes are associated with high levels of trust in the police, while being liberal and experiencing police-initiated contact are associated with low levels of trust in the police. The implications of the findings for theory, research, and policing policy and practice are discussed.
著者
杉田 慎之介 長谷川 純子 鈴木 英樹
出版者
一般社団法人 日本地域理学療法学会
雑誌
地域理学療法学 (ISSN:27580318)
巻号頁・発行日
pp.JJCCPT22016, (Released:2023-10-03)
参考文献数
28

【目的】積雪寒冷地在住高齢者の冬季と春季の生活空間変化および性別,フレイルの有無による生活空間の季節変化について明らかにすることを目的とした.【方法】対象は北海道当別町在住で高齢者クラブに所属している高齢者とし,冬季に基本チェックリストを実施し,ロバスト群とプレフレイル・フレイル群に分類した.さらに,冬季と春季で生活空間(Life-space assessment:以下LSA)を評価した.LSAの季節変化を全対象者,性別,フレイル分類でそれぞれ比較した.また,LSAによる最大到達範囲と外出頻度の変化について検討した.【結果】春季に比べ冬季のLSAは全対象者(p=0.004,95%CI 2.67-13.34),ロバスト群(p=0.038,95%CI 0.52-16.48)で有意に低値を示した.最大到達範囲と外出頻度の変化については主に「町内」と「町外」レベルでの変化が認められた.【結論】積雪寒冷地在住の高齢者に対する介護予防活動の提案は季節やフレイルの有無による影響を考慮する必要がある.
著者
坂井 麻里子 鈴木 則夫 西川 隆
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.144-154, 2022-06-25 (Released:2022-07-12)
参考文献数
14

左側頭葉前部の脳膿瘍の患者にみられた軽度の言語性意味記憶障害に対し,障害の質的検討を行った.本例の理解障害の特徴は,語の派生的意味の理解障害と語の範疇的使用の障害であった.また,語の理解が困難な場合,語の一部の意味や,その語を含む慣用表現の音韻的脈絡を手掛かりとして意味を探索する代償的方略もみられた.Pattersonら(2007)のDistributed-plus-hub仮説を援用すれば,これらの所見は,損傷が及ばない脳領域のtrans-modal pathwayにより各様式の表象間の局部的連結に基づく具体的な意味記憶は喚起されるが,semantic hubである側頭葉前部の損傷によって,より広範な表象の統合を要する抽象的な語の意味記憶が解体されたものと解釈できる.
著者
森 将 岸上 靖幸 伊藤 泰広 金 明 森部 真由 柴田 崇宏 稲村 達生 上野 琢史 山田 拓馬 竹田 健彦 宇野 枢 田野 翔 鈴木 徹平 小口 秀紀
出版者
一般社団法人 日本周産期・新生児医学会
雑誌
日本周産期・新生児医学会雑誌 (ISSN:1348964X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.182-188, 2021 (Released:2021-05-10)
参考文献数
23

症例は35歳,妊娠35週3日.吐血によるショックバイタルと意識障害の事前情報で当院に救急搬送された.消化管出血はなく,舌咬傷と口腔内出血がみられ,血圧182/130mmHg,尿蛋白定性は4+であった.胎児心拍数は70-100bpmと胎児徐脈を認めた.子癇による痙攣後の意識障害と,舌咬傷による口腔内出血,痙攣に伴う低酸素血症による胎児機能不全と診断した.ニカルジピン塩酸塩,硫酸マグネシウム投与後に母体循環動態,胎児心拍数は改善した.MRIではPRESの所見を認め,意識障害が遷延するため,緊急帝王切開を施行した.分娩後,意識障害,PRESの所見は改善し,血圧も安定し,術後11日目に退院となった.児は日齢18で退院となり,その後,発達に異常はみられていない.子癇では母体治療により児の状態改善も期待できるため,妊婦の意識障害では,常に子癇を鑑別に挙げることが重要である.また,舌咬傷による口腔内出血を吐血と誤診する可能性も念頭に置く必要がある.
著者
大田 穂 小出 真奈美 岩間 圭祐 鈴木 由香 木塚 朝博
出版者
日本体育科教育学会
雑誌
体育科教育学研究 (ISSN:13428039)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.13-25, 2022-09-30 (Released:2023-03-23)
参考文献数
30

This study examined baseball-type lessons offered in physical education classes and clarified the issues that arose while implementing such lessons at the elementary school level. The participants were elementary school teachers working in T Ward, Yokohama City. We collected data using a self-administered questionnaire. Results indicated that: a) the lesson that was most frequently offered in all grades was T-ball, and b) 30% of baseball-type lessons were not implemented for classes between 3rd and 6th grades. From the systematic learning perspective, it is necessary to identify teaching materials and criteria for progressing from easy to difficult lessons in terms of skills and game-judgment. Additionally, while implementing baseball-type lessons, many novice female teachers were worried about their knowledge and skills, suggesting that they needed support. Furthermore, as many of the reference materials, videos, and new teaching materials about baseball-type lessons were not well known, improvements are needed to make these more known. In conclusion, improvements based on these results could lead to more effective and efficient implementation of baseball-type lessons in elementary school physical education.
著者
鈴木 貴史
出版者
全国大学国語教育学会
雑誌
国語科教育 (ISSN:02870479)
巻号頁・発行日
vol.78, pp.37-44, 2015-09-30 (Released:2017-07-10)

This study confirmed that writing education changed to skill education during the early Meiji era. The subject of penmanship was altered to include two separate topics of the intellectual education during the Edo era. It was divided into "Shuji-ka" (penmanship) and "Sakubun-ka" (composition) in the lower courses, whereas in the advance courses, these topics were unified by the letter-writing education of the "Gakusei" educational system in 1872. Until the 1870s, "Shuji-ka" retained both composition and intellectual education functions; however, in the 1880s, these functions were lost. This was due to the utilitarianism and penmanship theories of Western spread in Japan. Therefore, it was acquired only through practical use and eliminated as a function of language education.
著者
鈴木 英明 鈴木 義純 岡田 珠美 神谷 直孝 森 俊幸 藤田 光 池見 宅司
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.373-380, 2012-12-31 (Released:2018-03-15)
参考文献数
44

目的:過酸化尿素は,ホワイトニングに使用する薬剤に含まれており,主にホームホワイトニング剤に用いられている薬剤である.過酸化尿素の作用機序は,尿素と過酸化水素に解離し,活性酸素を放出することにより,着色や変色の原因になっている物質に作用し漂白することで歯を白くさせることが知られている.元来,この過酸化水素・過酸化尿素の両薬剤はホワイトニング用としてではなく,口腔用殺菌剤として使用されており,そのうえ,毒性や副作用をもたない安全性の高い薬剤といわれている.ホームホワイトニングで頻用されている過酸化尿素の齲蝕予防の可能性を検討する目的で,その抗菌作用についてin vitroにて実験を行った.材料と方法:実験には,Streptococcus mutans PS-14 (c)株,Streptococcus sobrinus 6715 (d)株,Actinomyces naeslundii ATCC 19246株を用い,10倍段階法にて最小発育阻止濃度の計測を行った.また,Resting cellに対する殺菌作用を濃度的変化ならびに経時的変化について検討した.さらに,不溶性グルカン生成阻害試験としてglucosyltransferase活性値の測定を行った.成績:1.S. mutansに対する最小発育阻止濃度は250μg/mlであった.2.S. sobyinusに対する最小発育阻止濃度は300μg/mlであった.3.A. naeslundiiに対する最小発育阻止濃度は300μg/mlであった.4.過酸化尿素の抗菌作用はS. mutans, S. sobrinusおよびA. naeslundiiのResting cellに対して殺菌的であった.5.過酸化尿素はS. mutans PS-14株ならびにS. sobrinus 6715株産生粗glucosyltransferaseのsucrose依存性不溶性グルカン合成活性を顕著に阻害した.結論:以上のことより過酸化尿素は,齲蝕原因菌に対して顕著な殺菌作用が認められ,抗齲蝕作用を有することが示唆された.
著者
鈴木 晋介 井上 智夫 村上 謙介 江面 正幸 上之原 広司
出版者
一般社団法人日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.200-207, 2016 (Released:2017-03-25)
参考文献数
32
被引用文献数
2 1

脊髄損傷の急性期の管理の要点は, ADL自立に向けて早期離床させ, 早期にリハビリテーションを開始することにある. 責任圧迫病変や高度不安定病変に対しての急性期早期観血的治療を行い早期に離床させることはその意味で理にかなっているものと思われる. 脊椎インストゥルメンテーションの使用により術後臥床期間の短縮が可能である. 本邦では近年, 高齢者脊髄外傷症例の著明な増加傾向を認める. 何らかの対策が必要である. 頚椎外傷では椎骨動脈損傷に留意し, その評価が重要である. 移植治療は今後有望な治療方法であるが, まだ決定的なところまでは行っていない. 今後待たれるところが大きい. 脊髄外傷の病態を理解しイニシアチブのとれる脳神経外科医が増えることを切望する.