著者
眞嶋 良全 鈴木 紘子
出版者
北星学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

偽ニュースは,社会に与える影響が極めて大きいにも関わらず,その受容と伝達の背景にある認知過程の検討が十分に行われていない。本研究では,1) 実証的信念との関連が指摘されている,認知的内省性,パターン錯覚,擬人観等の個人の認知特性が,同様に偽ニュースの受容と関連するかどうか,2) 文化伝達の領域で提唱されている最小反直観性(MCI) 説が偽ニュースの受容と伝達に対しても適用可能か,同様に信念の文化伝達への関与が指摘されている,3) 権威に対する信頼,議論に対する適切な理解,主張者の信念-行動間の一致が偽ニュースの伝達にも関与するかどうかという3つの観点から検討を行う。
著者
大原 信一郎 川崎 幸彦 陶山 和秀 小野 敦史 菅野 修人 鈴木 重雄 鈴木 順造 細矢 光亮
出版者
一般社団法人 日本小児腎臓病学会
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.55-59, 2015 (Released:2015-10-15)
参考文献数
12

要旨 Wunderlich 症候群は重複子宮,片側子宮膣部閉鎖,同側の腎無形成を伴う稀な疾患である。患側子宮膣内に経血が貯留する月経困難症を契機として,10代前半以降に診断されることが多い。症例は11歳,女児。日齢3,初期嘔吐症の診断で近医に入院した際の腹部超音波検査(ultrasonography: US)で右腎無形成を指摘され,定期的にフォローされた。3 歳時の腹部US にて膀胱背部に囊胞性病変が確認されていた。11 歳時に腎機能および腎尿路・生殖器の形態評価目的に当科受診した。MRI 画像で右腎無形成,重複子宮,右側子宮頸部の囊胞状拡張を認め,膣鏡診にて右膣の閉鎖を確認し,Wunderlich 症候群と診断した。自覚症状は認めなかったが,月経発来後の12歳時,待機的に膣中隔切除・開窓術を施行した。自験例は,片側腎無形成に合併するWunderlich症候群を念頭におき,二次性徴発来時期にMRI による合併奇形の評価を行うことで早期診断し,待機的に手術し得た貴重な症例であると思われた。
著者
鵜澤 成一 鈴木 美保 中久木 康一 道 泰之 山城 正司 原田 清
出版者
一般社団法人 日本口腔腫瘍学会
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.151-159, 2013-12-15 (Released:2014-01-30)
参考文献数
12
被引用文献数
5 1

前腕皮弁は薄くしなやかな皮弁であり,長い血管柄を有するため頭頸部再建に多用されている皮弁の1つである。当科では,1987年から頭頸部領域の欠損に対し,遊離皮弁を用いた再建手術を行っている。2012年9月までにおいて395例に対し,401皮弁の移植手術を行ってきた。皮弁の内訳は,前腕皮弁193例,腹直筋皮弁155例,肩甲骨複合皮弁42例,腓骨皮弁8例,前外側大腿皮弁2例,広背筋皮弁1例であり,前腕皮弁が最も多く用いられていた。前腕皮弁を用いた再建手術の適応としては,おおむね半側までの舌口底欠損,頰粘膜,中咽頭欠損などであり,さまざまな頭頸部領域の欠損に用いることが可能であった。前腕皮弁移植における生着率は99%(191例/193例)であったが,口腔内の創部哆開などの合併症は39例(20.1%)に生じており,また,皮弁採取部の合併症は27例(13.9%)に生じていた。今回の概説では,当科における前腕皮弁の採取法,適応,再建時の工夫などについて概説し,さらに,今後の課題について述べてゆく。
著者
水間 久美子 岩部 博子 北久保 佳織 松浦 成志 浅見 暁子 中山 雅博 田川 学 鈴木 浩明 増本 幸二
出版者
一般社団法人 日本臨床栄養代謝学会
雑誌
学会誌JSPEN (ISSN:24344966)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.11-19, 2021 (Released:2021-08-25)
参考文献数
14

【目的】当院では2013年9月より頭頸部がん患者の栄養管理を目的に,病棟担当管理栄養士を配置している.今回,配置前後の対象患者の体重減少率およびエネルギー充足率を比較検討した.【方法】対象は2013年4月1日~2014年3月31日に当院耳鼻咽喉科に14日以上入院した頭頸部がん患者91名(年齢64.6±9.8歳,男性74名,女性17名).病棟担当管理栄養士配置を行っていなかった群(以下,配置前群と略)46名と病棟配置後群(以下,配置後群と略)45名の体重減少率およびエネルギー充足率を比較した.【結果】頭頸部がん患者の入院中の体重減少率は配置前群7.1±4.7%から配置後群4.9±4.7%へと有意に低下した(p=0.029).退院時エネルギー充足率は,配置前群71±30%から配置後群87±27%へと有意に上昇した(p=0.011).【結論】管理栄養士の病棟配置によりエネルギー充足率が高まり,体重減少を抑えることが可能であった.
著者
西村 康 和田 晴吾 斎藤 正徳 中条 利一郎 鈴木 努 道家 達將 稲田 孝司
出版者
奈良国立文化財研究所
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

重点領域研究『遺跡探査』では、地下に埋没している遺跡・遺構のみならず、地上に遺存する文化財も含めて、それらが包含する歴史情報をもれなく収集するための、格段に進歩した遺跡探査専用の装置と方法を開発することを目的とした。目的を達成するためには、理工学の研究者と考古学を中心とする人文学研究者とが緊密な連携のもとに、共同研究をすることが必須である。そこで、総括班では装置の設計段階、遺跡の実際での実験的測定、応用測定において、両分野の研究者が検討あるいは共同作業をするための環境設定を優先事項として考え、研究会議などの機会を数多く設定してきた。研究では、1)地中レーダー探査、2)電気探査、3)磁気探査、4)超音波探査においてぞぞれ装置と方法を開発、5)化学・光学探査では熱履歴を特定する手法を考案した。一方、遺跡の実際における探査では、1)被熱の遺構を特定する手法として、磁気探査、帯磁率測定、磁化率測定を組み合わせる方法を開発、2)石造構造物を対象とする場合には、地中レーダー探査、電気探査、VLF探査の方法を用いれば、遺構が推定可能なことを実証、3)土層判別探査(含:金属有機物探査)では、パルス(チャープ)レーダー探査、FM-CWレーダー探査、電気探査と電磁誘導探査の方法を応用すれば、有効な成果が得られることを実証した。なお、総括班では研究の進行に伴う成果の公表を逐次発表するために、公開シンポジウムを開催、ニュースレターを刊行してきた。また、研究成果を世界にアピールすること、正当な評価を得ることを目的に、平成9年9月には伊勢市において『第2回国際遺跡探査学会』を開催したところである。
著者
御園生 淳 磯山 直彦 森薗 繁光 鈴木 千吉 及川 真司 藤井 誠二
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会 年会・大会予稿集 2009年春の年会
巻号頁・発行日
pp.702, 2009 (Released:2009-04-15)

平成18年度から下北沖合を主に海水の安定ヨウ素及びヨウ素129濃度を測定して来た。安定ヨウ素及びヨウ素129濃度のバックグラウンド濃度は、それぞれ、52μg/l、20~30nBq/l程度である。
著者
石山 一樹 合原 一幸 鈴木 秀幸
出版者
Institute of Industrial Science The University of Tokyo
雑誌
生産研究 (ISSN:0037105X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.251-255, 2016-05-01 (Released:2016-05-30)
参考文献数
5

今後,再生可能エネルギーによる発電の割合が増加した場合,電力会社は不安定な発電量に応じて電力価格を調整することで,需要量を制御することが考えられる.一方で,このような価格の調整により,過度な需要の集中が一定の確率で発生することを示す数理モデルが最近提案されている.本研究では,このモデルに少し変更を加えることで,こうした現象がどれだけロバストに現れるものなのかを調べ,価格が正規分布やランジュバン方程式に従う場合には,ある程度の変更を与えても普遍的に見られる性質であることを示した.また,需要の分布の理論的解析を行い,その結果が数値実験とよく一致することを確認した.
著者
鈴木 孝浩
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.27, no.7, pp.631-638, 2007 (Released:2007-12-07)
参考文献数
9
被引用文献数
2 2

スガマデクスは臨床麻酔において“革新的”な薬物となることは間違いない. ロクロニウム分子との間に1: 1のホスト-ゲスト複合体を形成し, 筋弛緩に拮抗するという点で本来の特異的拮抗薬といえる. その拮抗作用は迅速かつ確実で, ロクロニウム投与直後の深部遮断時にも1~2分で完全拮抗が可能である. 副作用がないため, 投与禁忌となる症例もない. 本薬の臨床使用が可能になれば, 挿管困難時の対処が容易になるとともに, 術後筋弛緩遷延に基づく呼吸器合併症の発生率は減少するはずである. 近い将来, ロクロニウムとスガマデクスのコンビネーションは, 患者の安全に確実に貢献するであろう.
著者
山田 孝良 立松 憲親 内藤 清 鈴木 健夫
出版者
Japanese Society for Oral Health
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.117-124, 1966 (Released:2010-10-27)
参考文献数
21

Significance of changes in the teeth especially Hutchinson and Fournier teeth among student of schools for the blind and deaf was reported from our Department about 10 years ago. In order to assess the recent situation, 124 students were examined in a school for the blind concerning the intraoral state from an odontological point of view.Abnormalities in the development and morphology of the teeth, degree of carious state, pyorrhea, state of the cleaning of the oral cavity, presence of deposition around the teeth, and relationship with diseases of the eye were investigated. No difference was found between students in the school for the blind and other healthy subjects concerning the degree of carious state, alveolar pyorrhea, state of the cleaning of the oral cavity, and deposition around the teeth. In 4 students Hutchinson and Fournier teeth were noted simultaneously, while Hutchinson teeth alone were noted in 1 and Fournier teeth alone were seen in 8. Among those, congenital complete or almost complete blindness was seen in 8 and acquired complete or almost complete blindness was seen in 5, indicating a pronounced decrease as compared with the result of 10 years ago.
著者
鈴木 萌々香 氏家 悠太 高橋 康介
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第19回大会
巻号頁・発行日
pp.15, 2022 (Released:2022-04-20)

複数の顔写真を周辺視野に次々に提示すると不気味さや歪みを感じる(FFDE)。本研究ではFFDE刺激として顔全体提示、上半分提示、目のみ提示、目非提示、輪郭非提示の5条件を用いて、顔の各部位がFFDEの強さに及ぼす影響を検討した。実験では250 msごとに写真を切り替えながらFFDE刺激を10秒間提示し、刺激観察中に歪み知覚が生じたらボタンを押すこと、刺激提示後に歪みと不気味さの主観的強度を7段階で回答することを求めた。実験の結果、提示する顔部位により歪みや不気味さの主観的強度が異なり、顔全体>輪郭非提示>上半分>目非提示>目のみ提示の順となった。また刺激観察中に歪みを知覚するまでの潜時も提示する顔部位により異なっていたが、主観的強度の順序とは乖離が見られた。以上の結果から顔の全体処理がFFDEの生起に関与すること、またFFDEの強度と潜時には異なる決定要因が存在することが示唆された。
著者
鈴木 匡子
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.222-230, 1996-12-25 (Released:2009-11-18)
参考文献数
9

喚語困難は,語産生,語選択,語義の各過程およびこれらの離断によるものの4種類に分けられる.喚語困難の種類と臨床的な失語症の分類とはほぼ対応しており,それぞれの喚語困難の解剖学的基盤は異なっていると考えられる.さらにPETによる正常人の研究から,呼称をする対象のカテゴリーによって脳の活動部位が異なることが報告されている.我々の施行したカテゴリー別視覚性呼称課題では,失語群で有意に成績が低下していたが,身体部位と野菜では有意差がなかった.語想起課題では,(1)流暢性失語と非流暢性失語で有意差がない,(2)左前頭葉病変群は左前頭葉病変のない群に比べて,身体部位,甘いもの以外で成績が低下していた.また我々の経験した語義失語例では,喚語困難と単語の聴覚的理解障害がみられたが,身体部位の呼称と指示は比較的保たれていた.単語の成立基盤はカテゴリーにより異なるため解離性の喚語困難が生じると考えられる.
著者
太田 陽子 渡辺 満久 鈴木 康弘 澤 祥
出版者
Tokyo Geographical Society
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.112, no.1, pp.18-34, 2003-02-25 (Released:2009-11-12)
参考文献数
24
被引用文献数
2 2

A remarkable surface rupture appeared in the 1999 Chichi earthquake, in central Taiwan. The nature and location of the earthquake fault was studied in detail immediately after the earthquake (e.g., Central Geological Survey, Taiwan, 2000). Its location to the pre-existing active fault trace, however, was unknown. We wish to establish a location relationship between the earthquake fault and the pre-existing active faults which are mapped from photo interpretation at a scale of 1 : 20, 000, taken in 1970's, supplemented by field observation. The identified active faults are divided into four types from I to IV, depending on their certainty as active faults as well as their location accuracy. A Type I fault is where the active fault is definite and location is certain, II is also an active fault, but with a little uncertainty as to exact location due to subsequent erosion of the fault sacrp, and also because of sedimentation on the foot-wall, and III is a concealed fault beneath the younger sediment. Type IV appeared as a lineament without any clear evidence of deformed morphology. After mapping these active faults, we added the location of our observation to the 1999 surface rupture and GPS sites for measuring the earthquake fault using CGS map (2000).We present eight areas to show the exact relationship between active fault trace and earthquake fault trace and summarized them into Fig. 10. We concluded that most (ca. more than 80%) of the earthquake fault trace occurred exactly on the active fault of Type I and II. The earthqauke fault often appeard even on lineament of Type IV, implying that this lineament should be mapped for the acive fault map. On the young alluvial lowland where it is too young to record past faulting, the earthquake fault still appears on the probable extension of known active fault trace. The earthquake fault sometimes jumps from one fault to another where two or three active fault traces are recognized. Although we can not explain the reason for such a jumping, the earthquake fault still appears on one of the known faults. Therefore, repeated faulting activity during the late Quaternary on the same trace was confirmed for the Chelugmu Fault. This implies the detailed mapping of many other active faults in Taiwan, including Type III and IV, is essential for the understanding of future rupture locations.
著者
久保田 萌々 藤川 真樹 鈴木 真樹史
出版者
一般社団法人 産業応用工学会
雑誌
産業応用工学会論文誌 (ISSN:2189373X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.54-64, 2023 (Released:2023-03-15)
参考文献数
9

We propose a Multi-model CAPTCHA that is composed of one sentence with typo and multiple pictures. This CAPTCHA utilizes human's three abilities (inferring the meaning of the sentence with typo, understanding the meaning of pictures, and linking the meaning of the sentence and corresponding picture), and it is based on a hypothesis, "the longer of the sentence with typo, the time could be longer for a machine to link the meaning of the sentence and corresponding picture (= the shorter of the time of linking, the higher of the probability of human)." We found three findings from our experiment: (1) Examinees were able to link the meaning of the sentence to corresponding picture even there were some pictures with similar composition, (2) Typoglycemia is likely to be appeared on a sentence constructed by short and familiar words, (3) The time for linking was not exponentially increased even the length of the sentence was getting long (= It was not getting difficult for users in this situation).
著者
前田 拓真 大井川 秀聡 小野寺 康暉 佐藤 大樹 鈴木 海馬 栗田 浩樹
出版者
一般社団法人 日本脳卒中の外科学会
雑誌
脳卒中の外科 (ISSN:09145508)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.397-404, 2023 (Released:2023-10-04)
参考文献数
12

神経外視鏡手術が脳神経外科臨床にも導入され,その有用性が報告されている.当科では2021年から脳血管外科手術を神経外視鏡化するプロジェクトに取り組み,2022年は大部分の手術を神経外視鏡下で行っている.今回,顕微鏡手術からの移行期における脳動脈瘤手術の治療成績を検討した.対象は2021年1月から2022年8月までに当院で開頭手術を行った未破裂脳動脈瘤連続134例のうち,開頭クリッピング術を行った132例とした.神経外視鏡と顕微鏡の両群間で患者背景,セットアップ時間,手術時間,周術期合併症の有無,退院時予後について後方視的に検討を行った.神経外視鏡は75例(55.1%)で選択された.両群間で年齢・性別などの患者背景に有意差を認めなかった.両群で専攻医の執刀率が最も高く(65.3% vs. 59.0%),セットアップ時間(63分 vs. 62分),手術時間(295分 vs. 304分),周術期合併症(5.3% vs. 3.3%),退院時予後良好(97.3% vs. 95.1%)は両群間で有意差を認めなかった.アンケート調査では,画質(78.9%),明るさ(84.2%),操作性(73.7%),教育(57.9%)などにおいて,神経外視鏡がより高い評価を得た.一方で,助手の操作性については課題も明らかとなった.神経外視鏡は高画質,デジタルズームによる従来以上の強拡大,head-up surgeryによる疲労軽減,接眼レンズをもたない小型なカメラで視軸の自由度が大きいなどのメリットを有する.神経外視鏡は開頭クリッピング術においても有用であり,trainer,traineeの経験がともに少ない初期経験においても,許容可能な治療成績であった.
著者
鈴木 克哉
出版者
環境社会学会
雑誌
環境社会学研究 (ISSN:24340618)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.55-69, 2008-11-15 (Released:2018-12-18)
被引用文献数
6

近年,野生動物と人間活動との軋礫が世界各地で問題になっている。しかし日本では,加害動物による人間活動への影響量の軽減手法に関する技術的側面やその普及論が注目されがちであり,被害を受ける側である地域住民の「被害認識」が管理政策に取り入れられることはほとんどなかった。一方,この分野で先進的な欧米では,野生動物と人の軋礫問題において,さまざまな利害関係者間の相互関係をも調整対象とする軋礫管理(wildlife conflict management)の視点が注目されている。そこで本稿では,下北半島のニホンザルによる農作物被害問題を事例に,「被害認識」の形成要因として対人関係に着目した。その結果,被害農家は日常レベルにおいて許容を伴う複雑な「被害認識」を持っているが,被害経験を共有しない他者と対峙する場面では,サルに対する否定的価値観だけが表出されやすいこと,またそのような否定的価値観は地域社会において先鋭化され,捕獲をめぐる意見に収斂されやすいことが明らかになった。しかし,ニホンザルの農作物被害軽減に向けては,捕獲が必ずしも有効な手法ではなく,このような場合,施策をめぐって異なる価値観を持つ利害関係者間で意見の対立が生じ,獣害が社会問題化しやすい状況にある。今後,さまざまな獣害問題を解消するためには,従来の生物学的なアプローチに,それぞれの利害関係者の認識構造の把握や異なる価値観の調整手法に関する社会科学的なアプローチを融合させる方法がある。
著者
大川 優子 安部 義一 鈴木 正義
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.22-30, 2022 (Released:2022-06-23)
参考文献数
6

起立性調節障害(OD:orthostatic dysregulation)は,自律神経系による循環調節不全が主要原因であり,心身症としての側面も強く不登校を伴うこともある。今回我々は,心身症としてのOD診断チェックリスト陽性OD患者のうち,不登校の原因とコロナ禍での問題点を調査した。期間は2020年4月1日から2021年10月31日に当院小児科外来を受診したOD患者67例を検討した。対象は平均年齢13.7±2.4歳,男20例:女47例であった。ODの各サブタイプの内訳は体位性頻脈症候群43例,遷延性起立性低血圧15例,起立直後性低血圧1例,起立直後性低血圧を伴う血管迷走神経性失神1例,他に従来の診断基準で陽性が7例あった。患者67例のうち,心身症としてのチェックリスト陽性が37例,不登校が22例であった。COVID-19(Coronavirus disease 2019)流行に伴い子供達の生活環境も一変し,変化に適応出来ず不登校になった症例や,体調不良を訴えると感染を疑われ,保健室で休養出来ず早退させられた症例もあった。また外出自粛による生活リズムの乱れや,運動不足も症状悪化の原因と考えられた。当院では自律神経調節機構の病態の説明や生活指導を患者本人や家族へ行ない,不登校の期間や心身状態の程度に応じて環境調整など学校と連携を取り,他医療機関の精神科と連携し心理療法を行なった。コロナ禍におけるOD患者を診察する上での問題点を考察した。