著者
青山 亨
出版者
東洋文庫
雑誌
東洋学報 = The Toyo Gakuho (ISSN:03869067)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.1-33, 1995-10

In the second half of the fourteenth century, the Majapahit court poet Tantular composed two major Old Javanese kakawins, Arjunawijaya and Sutasoma. The former was composed sometime after the death of the powerful chief minister Gajah Mada in 1364, who epitomized the kingdom's expansionist policy, and the latter some time before the death of the king Rājasanagara in 1389. Between the two texts, there is a significant shift in contents and theme, which may be adequately accounted for by referring to the historical context in which they were created. The story of the Arjunawijaya, derived directly from the Rāmāyana cycle, is orthodox Hindu, despite an undercurrent of Buddhist ideology. It recounts that the just king Arjunasahasrabāhu subjugates the evil Rāwaṇa after a series of fierce battles. But his victory is impermanent as Rāwaṇa is spared and destined to become the foe of Rāma, underlining the uncertainty of the peace brought by the kṣatriya rule of force. It has been pointed out that one of the recurrent themes of the text is tension between a king and religious communities, and that this might be an implicit accusation of the Majapahit ruler's neglect of the clerical wellbeing during the expansionist days. The story of the Sutasoma, on the other hand, is based on Tantric Buddhism and is in effect an indigenous creation. The hero attains Buddhahood and the status of universal monarch simultaneously on account of the Tantric concept of non-duality, whereby the tension in the Arjunawijaya is theoretically reconciled, and resolves confrontations by the power of mercy. The practice of cross-cousin marriage is also advocated in order to strengthen the ties between royal families. The author suggests that the text is the poet's proposal for peace in anticipation of the increasing division among the Majapahit royal families which culminated in the civil war in 1406.
著者
長井 桃子 黒木 裕士 飯島 弘貴 伊藤 明良 太治野 純一 中畑 晶博 喜屋武 弥 張 ジュエ 王 天舒 青山 朋樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>近年,様々な疾患に対し多能性幹細胞を用いた臨床試験が行われている。神経再生には神経のミエリン鞘とシュワン細胞の補充が肝要とされ(Zhiwu, 2012),末梢神経損傷動物モデルを用いて,幹細胞やiPS細胞移植による治療効果を検討した報告は多数あり,幹細胞を用いた臨床試験も始まっている。また,conduit(人工神経鞘)を断端部に連結させる手法においても,その中に自家培養細胞を移植する取り組みが行われている。一方,末梢神経損傷に対する介入効果として,運動は神経発芽や再生軸索の成熟を促進し(Sabatier, 2015),電気刺激は神経再生を促す(Gordon, 2010. Wong, 2015)報告もあり,細胞移植後のリハビリテーション介入が神経再生を促す可能性がある。しかし,同疾患患者の再生治療におけるリハビリテーション効果について,現時点でどこまで明らかになっているか不明な点が多い。本研究の目的は,末梢神経損傷患者に対してconduitや幹細胞を用いた治療方法と効果を報告した論文を系統的かつ網羅的に収集することに加え,これらの治療方法とリハビリテーションのかかわりにおける現状を明らかにすることである。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>研究デザインはシステマティックレビューとし,PRISMA声明に準じて実施した。検索式にはhuman,peripheral nerve,stem cell transplantation,nerve regenerationを用い,データベースはPubMed,PEDro,CINAHL,Cochrane libraryを用いた。2016年9月までに報告された,査読のある英語で記載された論文かつ,ヒトを対象に実施された臨床試験(シングルケースを含む)を対象として,conduitと細胞移植に関するものを抽出した。内科疾患や遺伝疾患に関するものは除外した。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>キーワードを用いたデータベースの検索では1220件が抽出された。適合基準に合致するものは16件(全体数比:1.31%,出版年:2000~2016)であり,そのうち,リハビリテーションに言及しているものは7件(適合論文内比:43.7%,出版年:2000~2011)だった。うち6件が手部に関するものであり,その内容は,手術直後から穏やかに手指屈伸運動を長期に行うものや実施の記載のみなど,リハビリテーションプログラムの内容や期間について詳細について記したものはなく,統一した見解は得られなかった。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>末梢神経損傷患者に対する再生治療介入の臨床試験数は少なく,リハビリテーション介入に関しても十分に検証されていない現状が明らかとなった。今後さらに,臨床試験の蓄積と,末梢神経損傷の再生治療におけるリハビリテーション効果に関するエビデンスが求められることが予測される。これらのエビデンスを,基礎的研究を通じて理学療法士が自ら示してくことは,理学療法介入の重要性を示す一助になると考える。</p>
著者
青山 英康 大平 昌彦 太田 武夫 吉岡 信一 吉田 健男 大原 啓志 和気 健三 柳楽 翼 五島 正規 小野 昭雄 藤田 征男 合田 節子 深見 郁子 板野 猛虎
出版者
The Japanese Society for Hygiene
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.468-471, 1970-12-30 (Released:2009-02-17)
参考文献数
20
被引用文献数
1

The authors have already reported the results of epidemiological studies of SMON in the town of Yubara, Japan.Recently, the Ministry of Health and Welfare ordered pharmaceutical companies to stop production and sale of all drugs containing chinoform, since it was revealed by the Committee on SMON that attack rates of SMON could be related to ingestion of chinoform.The authors compared the attack rate of persons who had taken chinoform with that of persons who had not.It was noted that the morbidity of gastrointestinal diseases and allergic diseases among SMON patients was higher than that of the control group.Results are as follows:1. SMON patients had not taken chinoform at home.2. SMON patients usually had taken less medication for their gastrointestinal diseases than the control group, in spite of a higher morbidity of gastrointestinal diseases among them than that of the control group.3. Accordingly, the increased attack rate of SMON might be related to administration of chinoform while in the hospital and not related to ingestion at home.4. Chinoform is a very popular drug. For this reason careful attention must be given to dosage and method of administration as well as indications to determine relationship in the etiology of SMON.5. Careful attention should also be given to the physical conditions of patients being treated with chinoform.6. If persons in the control group were subjected to a detailed investigation there is some possibility many may be found to be using chinoform contained medications.
著者
青山 昌文 Masafumi Aoyama
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of the Open University of Japan (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.55-61, 2011-03-22

役者の演技の在り方については、対立する二つの見解が存在している。より正確に言えば、一つの意見と一つの理論が存在しているのである。その一つの意見によれば、役者は、演じている芝居の登場人物の役のなかに自己を没入させるべきであり、心で演じるべきである。その一つの理論によれば、役者は、演じている芝居の登場人物の役を、意識的・自覚的に演技するべきであり、多大な判断力をもってして、演じるべきである。 『俳優についての逆説』と題された著作において、ディドロは、この理論を見事に確立した。彼は、凡庸な、つまらない大根役者を作るのが、極度の感受性であり、無数の幾らでもいる下手な大根役者を作るのが、ほどほどの感受性であり、卓越した役者を準備するのが、感受性の絶対的欠如である、と述べているのである。 この理論は、ディドロのミーメーシス美学に基づいている。感受性の絶対的欠如の理論は、彼の理想的モデルの美学に根拠をもっているのである。 ディドロは、スタニスラフスキーの先駆者である。但し、そのスタニスラフスキーは、真のスタニスラフスキーであって、ソ連の社会主義リアリズムのスタニスラフスキーではなく、演技の実践についての演劇理論のスタニスラフスキーである。 ディドロ美学は、アリストテレス美学と同じく、創造の美学なのである。
著者
青山 倫久 林 英俊 竹内 大樹 福留 千弥 太田 夏未 中村 崇 清水 勇樹 宇都宮 啓 内田 宗志 綿貫 誠
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】近年Femoroacetabular Impingement(以下FAI)患者におけるCore stabilization training(以下体幹トレーニング)の治療効果がケーススタディレベルではあるが報告されている。我々は第50回日本理学療法学術大会で,FAI患者を一般的な殿部トレーニングを行う群とそれに体幹トレーニングを加えた群とに分け比較し,体幹トレーニングを加えた群で有意に疼痛や股関節スコアが改善したことを報告した。しかしながらFAI患者においてどの体幹筋に機能低下が存在し,アプローチすべきかは明らかになってはいない。本研究の目的は,内腹斜筋(以下IO),外腹斜筋(以下EO)に着目し超音波診断装置(以下US)を用いてFAI患者の体幹筋の筋動態を観察し,健常人の筋動態と比較検討することである。【方法】対象は,当院でFAIと診断された患者12名(男性5名,女性7名,平均年齢41.8歳)をFAI群とし,股関節痛および腰痛の既往のない健常成人男性17名(平均年齢26.0歳,BMI:21.9)を健常群とした。US(HITACHI社製Noblus)の7.5MHzLinerプローブを用い,安静時,下肢の自動伸展拳上(以下ASLR)時および抵抗下SLR時のIOとEOの最大筋厚を計測した。測定位置は臍レベルで腹直筋鞘と内外腹斜筋を描出できる部位で体幹の長軸に対し短軸走査として測定した。抵抗下SLRはBealsらの報告に基づき体重の6%にあたる4kgの重錘を足部に着用して行った。ASLR時および抵抗下SLR時筋厚の安静時筋厚に対する割合を算出し,各筋を対応のないt検定を用い群間で比較した。統計学的有意水準は5%未満とした。【結果】EOはASLR時にFAI群110%,健常群100%,抵抗下SLR時にFAI群115%,健常群107%とFAI群で有意な筋厚増加率を認めた(<i>p</i><.01)。IOはASLR時にFAI群103%,健常群107%,抵抗下SLR時にFAI群106%,健常群110%とFAI群で筋厚増加率の幅が小さく有意であった(<i>p</i><.01)。【結論】FAI患者は健常人に比べASLRや抵抗下SLRの運動課題を課した際にIOの筋活動が弱く,主にEOを使用して運動課題を遂行していた。BealsらはASLRのような低負荷の運動では同側のIOが主に活動するが,骨盤帯部痛患者はASLRが高負荷運動であるかのように腹壁全体を活動させると報告している。今回の我々の結果においてもFAI群でローカルマッスルであるIOが弱化していることで,EOが代償的に過度な収縮を強いられている可能性が考えられた。本研究よりFAI患者における体幹トレーニングにはIOが有用である可能性が示唆された。今後はFAI患者の体幹トレーニングにおいてIOを中心的に実施した縦断研究を行っていくことでFAI患者におけるIOトレーニングの有用性を証明していきたい。
著者
木下康介 山下和希 中道上 青山幹雄
雑誌
第74回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2012, no.1, pp.383-384, 2012-03-06

要求獲得においてステークホルダ分析やゴール分析が利用されているが,ステークホルダの多様化により,ステークホルダ間の関係や情報システムに対するゴールが複雑化している.本稿では,ステークホルダを絞り込み,ゴール分析で扱う情報量を限定できるゴール分析方法を提案する.ステークホルダ間の関係性のモデル化にはi*を用い,役割,活動,リスクを段階的に分析し依存関係をモデル化する.i*モデルに基づき,依存強度を相互作用マトリクスで評価し,ステークホルダを絞り込む方法を提案する.絞り込んだステークホルダからゴールを抽出することで,ゴール分析で扱う情報の特定を容易にする.提案方法を例題に適用し,その有用性を評価する.
著者
青山 幹雄 木下 康介 山下 和希
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.3_102-3_108, 2013

ステークホルダ間の動的な利害の相互作用の分析方法を提案する.従来のステークホルダ分析はステークホルダの組織における役割などの単一で静的な属性に基づいている.しかし,ステークホルダの利害は複合的で相互に影響する.本稿は,ステークホルダの役割とその活動を起点として利害を定義し,ステークホルダ間の動的な利害相互作用をi*を拡張してモデル化する方法を示す.さらに,ステークホルダ間の利害相互作用をその活動の貢献/リスク評価マトリクスにより評価し,ステークホルダを絞り込む方法を示す.提案方法を大学の節電問題に適用し,有用性を評価した.
著者
土屋 奈々絵 宮城 一也 藤田 次郎 熱海 恵理子 青山 肇 安富 由衣子 草田 武朗 村山 貞之
出版者
特定非営利活動法人 日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.61, no.7, pp.979-984, 2021

<p><b>背景.</b>腸型肺腺癌は稀な腺癌の亜型であり,臨床的には大腸癌肺転移との鑑別が問題となる.<b>症例.</b>60歳代男性.前立腺癌の経過観察中に胸部異常影を指摘,肺癌を疑われて紹介された.胸部CTでは左上葉支を閉塞し多発小石灰化巣を有する腫瘤を認め,末梢側は閉塞性無気肺を呈した.FDG-PETでは肺病変にSUV<sub>max</sub> 12.7の集積があり,左鎖骨上窩・縦隔リンパ節への集積亢進を認めた.経気管支肺生検を行い,病理組織で高円柱状上皮からなる異型腺管が,単純腺管や癒合腺管の形態で増殖する像を認めた.免疫染色ではCK7(-),CK20(一部+),TTF-1(-),CDX2(+),Napsin A(-)で,形態と合わせて腸型肺腺癌と大腸癌肺転移との鑑別が必要となった.下部消化管内視鏡検査にて大腸に病変を認めず,cT2bN3M0,cStage IIIBの腸型肺腺癌として化学放射線療法を行い,病変は縮小した.<b>結論.</b>石灰化を伴った腸型肺腺癌の1例を経験した.腸型肺腺癌のCT所見は浸潤性肺腺癌や大腸癌肺転移の画像所見と共通しており,画像のみでこれらを鑑別することは困難である.</p>
著者
青山 克実 豊嶋 明日美 小林 暉尚
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.96-102, 2019-02-15 (Released:2019-02-15)
参考文献数
16

今回,筆者らは生活行為向上マネジメント(以下,MTDLP)を用いて,統合失調症の40代男性(以下,A氏)の地域生活移行支援を経験した.MTDLPの補助ツールとして,運動技能とプロセス技能評価(AMPS)を用いた.我々は,多職種連携支援をマネジメントし,A氏が退院後に必要で大切な食事の準備に焦点をあてた介入や,退院後の再発予防に対する心理教育などを行った.その結果,生活に対する有能性や認知機能障害が改善し,地域生活にスムーズにつながった.MTDLPは,統合失調症者の地域生活移行支援として有用なマネジメントツールだと考えられた.
著者
青山 浩一郎
出版者
多摩大学経営情報学部
雑誌
経営・情報研究 多摩大学研究紀要 = Tama University Journal of Management and Information Sciences (ISSN:13429507)
巻号頁・発行日
no.7, pp.17-37, 2003-03-01

わが国が発行している国債の現状に関して、次のことを指摘できる。1)国債の発行残高は絶対額でも、相対的にも巨額である。2)いまの国債価格は、これ以上は上昇しにくい高い水準にある。3)国債の保有構造は異常である。資金余剰主体である家計の直接保有がすくない。今後、数年を展望して次のようなことを主張したい。1)国債の発行残高は、数年以内に600 兆円を超えるであろう。2)国債の価格は現在をピークとして、下落する可能性しかない。3)国債の保有構造は、ここ数年間では大きくはかわらない。こうしたなかで、国債問題を総合的に、冷静にかんがえることが重要である。そのためには、いま利用できる情報は乏しいし、事態はまいにち進行しているが、本稿での主張をつぎのように要約しておきたい。1)国債の発行残高が、巨額であることを認識したうえで、無用な誤解や混乱があるとすれば、それは払拭されなければならない。日本国債がデフオールトする、家計が国債の購入を強制される、郵便貯金がもどってこない、などの妄言は、政府の責任において打ち消さなければならない。これまでのところ、政府は巨額な債務者としての説明責任を、自覚しているとはおもえない。2)国債の価格は下落するが、正常な長期金利の上昇なら影響はそれほど大きくはない。民間銀行の国債保有期間は平均5年以下で、小幅な長期金利の上昇なら、国債価格の値下がり幅は大きくはない。また、正常な金利の上昇なら、同時におこる株価の上昇や、貸出し収益の改善などで吸収できる。問題は、インフレにともなう大幅な金利の上昇である。これは、国債価格の暴落をもたらす。インフレは回避すべきである。3)国債の保有構造を正常化させるよう、官民の尽力が必要である。公的機関が家計にかわって国債を保有している現在、運用の実態を開示すると同時に、このような現状の改革をすすめなければいけない。郵便貯金からの家計資金の解放が、民間金融機関とのバランスから不可欠である。家計がすすんで有価証券で金融資産を運用する国、これを早く実現させなければならない。いま、わが国で最大の課題である国債、この小論でとりあつかうには大きすぎるテーマではあるが、問題の理解に関して、ここにアプローチの視点を提示したつもりである。
著者
青山 浩一郎
出版者
多摩大学
雑誌
経営・情報研究 : 多摩大学研究紀要 (ISSN:13429507)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.1-21, 2004

日本の長期金利は0.4%を底にして上昇の可能性しかない。長期金利が3.5%になったとしたら、日本国債の保有者と政府にどんな影響があるだろうか。1)15 年度末の国債発行残高は450 兆円である。これをもとにすると評価損は53 兆円となる。2)国債発行残高は、18 年度末には600 兆円に近づくだろう。3)国債の利払い額は年間9 兆円である。それは18 年度には20 兆円に増大する。 国債問題は分析すればするほど、危機の大きさを痛感する。解決には長い年月がかかるだろう。論者は妙案をもっていないが、小泉内閣も国債問題の解決に何の策もない。それどころか、政府は巨大な債務者としての説明責任を自覚しているとは思えない。
著者
伊藤 綾子 五十嵐 清治 倉重 多栄 佐藤 夕紀 藤本 正幸 西平 守昭 松下 標 青山 有子 平 博彦 丹下 貴司
出版者
The Japanese Society of Pediatric Dentistry
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.591-597, 2006

含歯性嚢胞は歯原性嚢胞では歯根嚢胞に次いで多く見られる。一般的には未萌出または埋伏永久歯の歯冠に由来して発生するが,原因埋伏歯は正常歯胚であることがほとんどで,過剰歯に由来する含歯性嚢胞は比較的少ない。今回,我々は全身的問題から抜去を行わず経過観察していた上顎正中部の逆性埋伏過剰歯が嚢胞化し,定期検診の中断期間に急速に増大し,顔貌の腫脹まで来した含歯性嚢胞の症例を経験したので報告する。<BR>症例は13歳の男児で,既往歴として生後間もなくWilson-Mikity症候群の診断にて入院加療を受け,その後にてんかん,脳性麻痺,および精神発達遅滞と診断された。患児の埋伏過剰歯は当科で10歳時に発見されたが,全身状態が不良のため抜去を行わず経過観察を行っていた。その後,定期検診受診が途絶え1年3か月後に,過去数か月間で徐々に上顎右側前歯唇側歯槽部が腫脹してきたことを主訴に再来初診となった。口腔内診査では上顎左側前歯部歯槽部に青紫色の腫脹を認め羊皮紙様感を触知した。エックス線診査では上顎前歯部に1本の逆性埋伏過剰歯を含む単房性の境界明瞭な透過像を認めた。局所麻酔下に嚢胞と埋伏過剰歯の摘出術を施行したが,術後17日目に術部感染を来したため抗菌薬投与と局部の洗浄を継続し消炎・治癒に至った。術後2か月の経過は良好である。<BR>本例のように何らかの理由により埋伏過剰歯抜去が困難な場合は,その変化を早期に発見するために定期的,かつ確実な画像診断を含む精査が必須であると考えられた。