著者
原 順子
出版者
四天王寺大学大学院
雑誌
四天王寺大学大学院研究論集 (ISSN:18836364)
巻号頁・発行日
no.12, pp.33-48, 2018-03-20

聴覚障害は外見では分からない障害であり、また聞こえ方、失聴時期等の多様な障害実態があり、かつ誤解を受けやすい障害であるといわれている。そこで日頃から聴覚障害者のコミュニケーション保障および情報保障に携わる手話通訳者を対象に、聴覚障害者についての障害認識を問う調査を実施した。その結果、コア・カテゴリーとして出現数の多い順に、【聴覚障害者独自のコミュニケーション】【聴覚障害は情報アクセス障害】【ろう文化は聴覚障害者の独自の文化】【理解困難な障害】【オーディズム:聴者至上主義】【手話コミュニケーションの特徴】の6 つが生成された。【聴覚障害者独自のコミュニケーション】【聴覚障害は情報アクセス障害】の出現数が多いのは、手話通訳という業務上の理由からであることは推測できる結果である。また、【ろう文化は聴覚障害者の独自の文化】が生成されたことは、わが国においてもろう文化の理解が定着してきているという実態が明らかとなった。
著者
後藤 玲子
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.135-146, 2017

<p> 本稿の目的は,福祉における「情報の壁」,すなわち,知らされないことによる制度へのアクセス障害の実態と原因を一自治体の事例調査によって探索的に解明することである。調査対象は介護福祉及び児童福祉に関する自治体広報で,自治体職員への書面調査及び面接調査並びに自治体ホームページ調査により,住民ニーズが大きいのに自治体ホームページで容易には見つけられない福祉情報が多いこと,自治体職員は広報内容の不十分さではなく広報媒体の不十分さを問題視する傾向にあること等が分かった。その原因は,住民の情報ニーズと広報実態とのギャップを組織的にチェックし改善する仕組みがないこと,及び,担当職員の認知バイアスゆえに現状維持が優先されたり手段の目的化が生じてしまうことにある可能性が示唆された。当該ギャップの自覚を促し,広報内容を系統的に改善するための組織体制を構築することが必要だと考えられる。</p>
著者
多和田 裕司
出版者
大阪市立大学大学院文学研究科
雑誌
人文研究 : 大阪市立大学大学院文学研究科紀要 = Studies in the humanities : Bulletin of the Graduate School of Literature and Human Sciences, Osaka City University (ISSN:04913329)
巻号頁・発行日
vol.69, pp.41-58, 2018

本稿は、臓器移植にかんするイスラームの倫理を検討することによって、現代社会においてイスラームがどのように実践されているかを示すことを目的としている。臓器移植は、コーランとハディース(ムハンマドの言行録)に基づくイスラームの伝統的な死生観にたいして倫理的な課題を突きつけてきた。しかし医療技術の進歩とそれによって得られる治療成果の高まりにともない、いまや世界中のイスラーム法学者の大半は、人体から人体への臓器移植をイスラームの教義からみて許されるものとしてとらえている。本稿では、イスラーム世界で臓器移植を肯定的にとらえる代表的なファトワ(イスラームにおける法的勧告)を紹介した後、臓器移植にかんするマレーシアの医療ガイドラインと同国におけるイスラームの権威が発したファトワを比較検討する。結論として、イスラームは、現代の生命倫理と共通する価値を持つ可能性を有していることが示される。イスラームは、イスラーム教義と非イスラーム的な価値が出会う境界上で、つねに現代社会に、より適合的な宗教へと変容を続けているのである。
著者
Ashima Jain Vidyarthi Arghya Das Rama Chaudhry
出版者
International Research and Cooperation Association for Bio & Socio-Sciences Advancement
雑誌
Drug Discoveries & Therapeutics (ISSN:18817831)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.124-129, 2021-06-30 (Released:2021-07-06)
参考文献数
34
被引用文献数
4

The COVID -19 pandemic has had a catastrophic impact on the global economy and the healthcare industry. Unfortunately, the scientific community still hasn't discovered a definite cure for this virus. Also, owing to the unscrupulous use of antibiotics in wake of the current situation, another ongoing pandemic of antimicrobial resistance (AMR) has been entirely eclipsed. However, increased compliance to infection control measures like hand hygiene (both at hospital and community level), and restricted travel might be favorable. It is evident that the AMR strategies will be impacted disproportionately varying with the respective policies followed by the countries and hospitals to deal with the pandemic. The vaccination drive initiated globally has provided a glimmer of hope. In this article, the possible reciprocity between the two contemporaneous pandemics has been addressed. The world needs to be vigilant to punctuate the symphony between these lethal threats to global health. The restraint to combat against AMR will be boosted as our discernment of the problem also changes with the epidemiological interplay becoming more apparent in near future.
著者
若松 千裕 石合 純夫
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.299-309, 2018

<p>名称の通常表記が仮名の物体について,語頭文字cue(通常文字cue,例:ピアノ→ピ)が語頭音cueよりも呼称を促した2例を対象に,通常文字cueの呼称促進機序を検討した.症例1は30歳代男性,左脳腫瘍術後.症例2は60歳代女性,左脳膿瘍術後.2例ともに,呼称の誤反応は無反応と意味性錯語であり,呼称障害の機序は意味記憶から音韻性出力辞書へのアクセス障害と推定した.呼称失敗時に与えた通常文字cueは,語頭音cueよりも有意に強い呼称促進効果を示した.Cueの音読と復唱は良好であった.通常文字cueは,表記妥当性が高く,音韻経路に加えて視覚性語彙経路を経て,音韻性出力辞書の賦活を促したと考えられる.</p>
著者
平川 南
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.133, pp.317-350, 2006-12-20

道祖神は、日本の民間信仰の神々のうちで、古くかつ広く信じられてきた神の代表格である。筆者は古代朝鮮の百済の王都から出土した一点の木簡に注目してみた。王宮の四方を羅城(城壁)が取り囲んでおり、木簡は羅城の東門から平野部に通ずる唯一の道付近にある陵山里寺跡の前面から出土した。木簡は陽物(男性性器を表現したもの)の形状を呈し、下端に穿孔もあり、しかも「道縁立立立」という文字が墨書されていた。おそらく六世紀前半の百済では、王京を囲む羅城の東門入り口付近に設置された柱に陽物形木簡を架けていたのであろう。日本列島では、旧石器時代から陽物形製品は、活力または威嚇の機能をもち、邪悪なものを防ぐ呪術の道具として用いられていたとされている。現在各地の道祖神祭においても、陽物が重要な役割を果している。古代においても、七世紀半ばの前期難波宮跡および東北地方の多賀城跡から出土した陽物形木製品は、宮域や城柵の入り口・四隅で行われた古代の道の祭祀の際に使用されたと考えられる。七世紀から一〇世紀頃まで「道祖」は、クナト(フナト)ノカミ・サエノカミという邪悪なものの侵入を防ぐカミと、タムケノカミという旅人の安全を守る道のカミという二要素を包括する概念であった。陽物形木製品を用いた道の祭祀は都の宮域や地方の城柵の方形の四隅で行われてきたが、一〇世紀以降、政治と儀礼の場の多様化とともに実施されなくなったと推測される。そして、平安京の大小路や各地の辻(チマタ)などに木製の男女二体の神像が立てられ、その像の下半身に陽物・陰部を刻んで表現し、その木製の神像が道祖神と呼ばれるようになったのである。近年の陽物形木製品の発見とその出土地点に着目するならば、道祖神の源流を古代朝鮮・日本における都城で行われた道の祭祀に求めることができるであろう。
出版者
日経BP社
雑誌
日経コンピュ-タ (ISSN:02854619)
巻号頁・発行日
no.444, pp.233-235, 1998-05-25

ゴールデンウイーク明けの5月6日,山形市に本店を置く第二地銀の殖産銀行は,第3次オンラインの勘定系と対外接続系のシステム「ACROSS21」を本稼働させた。同じ第二地銀の福島銀行(本店福島市)と共同開発し,共同センターで機器を共用して運用するもので,福島銀行も同日から本稼働を始めた。 98年5月6日の本稼働は,95年7月に両行が共同開発を発表したときの計画通りである。
著者
猪又 孝元
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.846-853, 2011

&nbsp;&nbsp;現在の心不全治療は,目に見えて悪い状態からの脱却を目指す「目に見える治療」と,長期予後改善というエビデンスに基づく「目に見えない治療」とに大別される.前者はその場を乗り切る治療であり,後者は固有の質を改善する治療である.心不全は進行性の病態が特徴的であり,先手先手の介入がより大きな利益を生む.最近では,慢性期予後を意識しての急性期介入,すなわち「目に見える治療」の際に「目に見えない治療」を含有できるかの試みがなされつつある.根底に流れるコンセプトは,治療アウトカムをいかに的確かつ具体的に意識できるかという点である.周術期という一種の急性病態に対し,麻酔科医が念頭に置くべき新たな潮流である.
著者
五島 史行 矢部 はる奈 五島 一吉 小川 郁
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.330-332, 2007

"Ear popper<SUP>&reg;</SUP>" は自宅または外来で小児滲出性中耳炎に対する通気を行うための機器である。外来にてポリッツエル球の代わりに本機を用いて2歳から9歳の小児滲出性中耳炎症例18例 (男児8例, 女児10例) に対して通気治療を行った。通気治療前後の鼓膜, ティンパノグラム, 聴力検査所見により評価を行った。<BR>〈結果〉17例において苦痛なく確実に通気可能であった。〈まとめ〉日本では国民皆保険制度が整備され, 医療機関へのアクセスも比較的容易なため患者自身で病気を治療しようという意欲はアメリカに比べると低い。また自治体によっては小児の医療費は無料であり通院治療が経済的には負担にならないため在宅治療器の普及はあまり進んでいない。今回は外来での使用にとどまったが頻回な通院が必要な難治性の滲出性中耳炎児に対しては容易に在宅でも通気治療できる本装置のメリットは大きいと考えられた。
著者
Masato Okada Kazunori Kashiwase Akio Hirata Mayu Nishio Yasuharu Takeda Takayoshi Nemoto Ryohei Amiya Yasunori Ueda Yoshiharu Higuchi Yoshio Yasumura
出版者
The Japanese Circulation Society
雑誌
Circulation Journal (ISSN:13469843)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.56-66, 2018-12-25 (Released:2018-12-25)
参考文献数
31

Background: Identifying who among current Japanese patients with prior myocardial infarction (MI) would benefit from an implantable cardioverter-defibrillator (ICD) is imperative. Accordingly, this study seeks to determine whether single-photon emission computed tomography (SPECT) can help identify such patients. Methods and Results: This retrospective study enrolled 60 consecutive patients with prior MI who underwent stress thallium-201 SPECT and ICD implantation from February 2000 to October 2014. Occurrence of arrhythmic death and/or or appropriate ICD therapy, defined as shock or antitachycardia pacing for ventricular fibrillation or tachycardia, was identified until November 2016. During the median follow-up interval of 6.6 years, 18 (30%) patients experienced arrhythmic death and/or appropriate ICD therapy. Multivariate Cox proportional hazard regression analysis revealed that the summed stress score (SSS) [hazard ratio (HR)=1.14; P=0.005] and left ventricular ejection fraction (LVEF) at rest (HR=0.92; P=0.038) were significantly associated with the occurrence of arrhythmic events. Patients with SSS ≥21 and LVEF ≤30%, which were determined to be the best cutoff points, had significantly higher incidence of the arrhythmic events than the other patients (64% vs. 11%; HR=7.18; log-rank P=0.001). Conclusions: SSS using stress thallium-201 SPECT in combination with LVEF can help determine the need for ICD therapy among current Japanese patients with prior MI.
著者
羽鳥 剛史 中野 剛志 藤井 聡
出版者
人間環境学研究会
雑誌
人間環境学研究 (ISSN:13485253)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.163-168, 2010 (Released:2010-12-29)
参考文献数
13
被引用文献数
4

The aim of this paper is to examine the relationship between nationalism and civil society. The present hypothesis, which was developed from the theory of civil society, especially Hegel's thought, supposes a mutually dependent relationship between nationalism and civil society: the stronger (weaker) nationalism, the stronger (weaker) civil society and vice versa. On the other hand, its competitive hypothesis supposes a mutually substitute relationship: the stronger (weaker) nationalism, the weaker (stronger) civil society and vice versa. These hypotheses were tested in a survey, in which participants (n = 400) were asked to respond to measurements for a sense of alienation from four communities (family, organization, region, and state). All the items for the measurements were developed based on Hegel's descriptions about alienation from communities. The obtained data showed that the sense of alienation from each community was positively related with each other. This result gave supports to the interdependent relationship hypothesis. The implication of the result was discussed.
著者
小川 浩司
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.106, no.6, pp.685-691, 2003-06-20
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

滲出性中耳炎55症例に風船を使った自己通気(鼻吹き風船)治療を行い次の結果を得た.<br>1. 中耳換気チューブの既往歴のない小児27例49耳の87%,成人16例23耳の65%が著効以上の成績を示した.鼻吹き風船で治癒した小児の26%,成人の31%が14日以内に,また小児の24%は15日から21日までに治っていた.<br>2. 3年以上治療し換気チューブの既往歴がある小児7例中5例,成人5例中1例が鼻吹き風船によって治癒した.引き続き治療が必要だった6例中2例はアレルギー性鼻炎を合併していて,換気チューブ留置により貯留液が消失しても音響耳管法による耳管開口が認められず,成人2例は喘息,副鼻腔炎を合併した好酸球性中耳炎であった.中耳や耳管粘膜病変が強い場合は受動的換気だけでは治らない.また,他の2例は自己通気を決められた回数どおりに続けられなかった症例で,通気回数と継続が結果を左右するものと考える.<br>3. 風船を膨らませるとき鼻咽腔にかかる圧力は40~48mmHgでポリッツェル送気圧の40~60mmHgやユニット付き送気管の60~100mmHgに比べ低く,より安全なものと思われる.当院ではこれまで圧外傷等の副作用はなかった.