著者
松本 耿郎
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.347-371, 2004-09-30

イスラームの信仰宣言「アッラーのほかに神はなく。ムハンマドはアッラーの使徒である」はムスリムを宗教的瞑想に誘う。その理由は、二つの命題の論理的関係が文言だけでは不明で、なぜ二つの命題を宣言するのかも明らかでないからである。多くのムスリムの思想家たちがこの問題に取り組み、その知的営為の中から存在一性論という哲学が形成され、この哲学を継承発展させる運動がイスラーム世界全域で展開した。存在一性論はアッラーを唯一の真実在者とし、それ以外の諸存在は仮の、あるいは幻の存在であるとする。そして、唯一の真実在者と幻の存在との関係を考察し、さらにこの真実在者から預言者ムハンマドが派遣される理由を可能な限り理論的に説明しようとする。これは相当なエネルギーを必要とする知的営為である。しかし、存在一性論はその中で使用する基本概念をいずれも重層的意味を持つものに設定して、この学派の枠組みの中での思索がほぼ自己増殖的に発展する装置を創り上げている。それは思想的生命力の自動的維持装置ともみなしうる。存在一性論が中国の思想的土壌のなかでも見事に開花していることもこのことを証明している。
著者
川田 俊成 児玉 基一朗 岡本 芳晴 山本 福壽
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

4種類の天然型フェニルプロパノイド配糖体、アクテオシド(1)、コナンドロシド(2)、プランタマジョシド(3)、およびイソアクテオシド(4)の合成を行い、フェニルプロパノイド配糖体ライブラリーの一部を構築できた。いずれの化合物についても全合成に成功したのはこれが最初の例である。合成方法は新規に開発した方法を用いた。即ち、2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エチル2,6-ジ-O-アセチル-4-O-カフェオイル-β-D-グルコピラノシドを中間体として用い、これにラムノース、キシロース、グルコース各残基をそれぞれイミデート法により導入して化合物1、2、3の各アセチル・ベンジル誘導体の合成を行った。これら各誘導体はメチルアミンによる脱アセチル化、パラジウム炭素触媒下1,4-シクロヘキサジエンを水素源とする還元法でベンジル基を脱離した。この過程で、反応条件を制御することにより化合物1から化合物4のベンジル誘導体に変換する方法を確立した。さらに、カテコール部分の保護基をベンジル基からtert-butyldimethylsisyl基(TBDSM基)に変更する改良を試みた。その結果、総収率を約3.0%から約7%に向上させることに成功した。合成した4種類の化合物を用いた抗菌性試験として、ナシ黒斑病原菌、Altanaria altanata Japanese pear pathotype (O-216)およびNon pathogenic Altanaria altanata(O-94)を用いた胞子発芽試験を行った。その結果、プランタマジョシドに胞子発芽促進活性を有することが明らかになった。このことは、フェニルプロパノイド配糖体の化学構造と生物活性に相関のあることを示す一例と云える。
著者
栗田 靖
出版者
東海学園大学
雑誌
紀要 (ISSN:02858428)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.139-148, 1976-10-30
著者
安達 みちる 猪飼 哲夫 平澤 恭子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.BbPI2149-BbPI2149, 2011

【目的】超低出生体重児の運動発達は、体重が少ないほど遅れる傾向があると報告されている。400g未満で出生した児の運動発達経過についての報告は少なく、今回、346gで出生した超低出生体重児の理学療法をNICU退院後も引き続き経験した。発達経過と理学療法について検討考察し、今後の症例への理学療法に活かす事を目的とした。<BR>【方法】対象は、346gで出生した超低出生体重児。重症IUGRを認め、27週4日で緊急帝王切開にて出生。アプガースコアは1分1点、5分1点。呼吸器管理日数は63日。修正5ヶ月で経口と経管栄養で自宅退院。修正11ヶ月で経管栄養を離脱。修正18ヶ月のMRIは異常なし。3歳時の新版K式はDQ78(運動48、認知84、言語社会78)。38週から3歳まで理学療法が行われ、児の発達経過と理学療法との関連を検討した。<BR>【説明と同意】理学療法の施行と本学会への発表において、家族から口頭と書面で承諾をいただいた。<BR>【結果】38週1日(756g)保育器内より理学療法施行。覚醒時、驚愕しやすく啼泣が多いためホールディングにて落ち着くポジショニングを確認し施行指導した。屈曲位の側臥位または腹臥位で下部体幹骨盤を圧迫包み込むことで睡眠への導入、落ち着いた覚醒が得られた。39週(890g)以降、State4が保てる様になり自発運動等を評価できた。肩の後退と足外反は各姿勢でみられ、四肢の分離的自発運動は見られるがぎごちなく体幹を含め回旋運動と運動範囲が少なく、下肢のROM制限、四肢の過筋緊張、自発運動で驚愕しやすかった。手足のホールディングで落ち着かせると注視が可能であり、ホールディングした中で落ち着いた覚醒を経験させ、リラクゼーション後、四肢の他動運動等を通して触圧運動の感覚入力など施行し、親にホールディングと声かけ、見つめ合い等指導した。40週(1079g)では、State4が増え、追視可能。背臥位のポジショニングでは、頭部を安定させるための枕を作製した。41週(1184g)経口開始。吸啜嚥下みられ咽せはないが、3ccを10分要した。42週(1228g)でクベース外での理学療法が可能。感覚入力への受け入れは良く、ROMは改善したが、GMsはPRで自発運動と筋緊張は39週と同様の傾向であった。経口も1回5~20ccと安定せず、胃残や嘔吐を繰り返していたため、理学療法は経口前に施行するなど介入時間を配慮した。43週3日(1372g)でコットへ移床。四肢の過筋緊張は軽減していたがGMsはPRであった。評価、四肢の自発運動の促し、感覚運動入力、ポジショニングなど施行し、親へは、児の感覚運動の特徴や発達の変化を伝え、好む抱っこや落ち着いた覚醒での相互的な感覚運動入力を通して母子関係を促した。以降、感覚運動発達はみられ、53週(2918g)では関わりで声出し笑いや、四肢の抗重力運動が可能となった。退院後は、独歩獲得まで月に1回、獲得後は3~6ヶ月に1回の理学療法評価と各機能獲得に向けた運動、遊び方を指導した。各機能の獲得は修正で、定頚4ヶ月、寝返り6ヶ月,座位保持10ヶ月、四つ這い移動11ヶ月、伝い歩き12ヶ月、独歩19ヶ月であった。独歩獲得までの問題として、立位時に足外反足趾屈曲が見られ、足部の支持性と体重移動への反応が低下していた。足部でのけり出しと運動を指導した。足部の問題は独歩獲得後もみられ、足部運動の継続と靴の指導を施行、2歳9ヶ月時には改善していた。<BR>【考察】40週前後で週数に比し体重が少ない児は、過敏で驚愕啼泣しやすいと感じているが、本児も38週時の理学療法介入時は感覚過敏が問題であった。自発運動で受ける感覚を過剰に受け、覚醒時啼泣が多かったことが、四肢の筋緊張に影響していたと考えられた。ポジショニングの施行で睡眠への導入、落ち着いた覚醒が得られたことは筋緊張の緩和に、また、在胎37週以降に覚醒して集中する能力を発達させるといわれておりポジショニングでState4が保てたことは集中するための環境作りに有用だったと考える。超低出生体重児の粗大機能の獲得時期については、第44回の本学会で報告したIQ70以上の超低出生体重児群の運動獲得時期と比較すると、独歩のみ、90%通過修正月齢よりも遅かった。独歩獲得が遅れたことは、足部の問題が影響していたと考えられるが、修正11ヶ月まで経管栄養であり、体力の少なさ等他の影響も考えられた。<BR>【理学療法学研究としての意義】近年、出生体重が400g未満であっても生存可能となっている。400g未満で出生した脳の器質的異常を伴わない超低出生体重児へのNICUからの理学療法で、児の安定を引き出し発達経過に沿った理学療法の施行経験は、今後の症例への理学療法に役立つと考える。<BR>
著者
川崎 順久 福田 宏之 辻 ドミンゴス浩司 塩谷 彰浩 高山 悦代 川井田 政弘
出版者
The Japan Broncho-esophagological Society
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.236-240, 1990
被引用文献数
1

Recently CO2 laser surgery has been employed for Ti glottic cancer to avoid side effects caused by irradiation. However phonatory disturbance caused by post-operative anterior glottic web is sometime troublesome to patients. In this study, a survey of 17 patients with Ti glottic cancer, whose anterior comissure was vaporized with CO2 laser, was reviewed. In eight cases among them, anterior glottic web was observed during post operative course. Hence, we applied the fibrin glue (Tisseel) on the vaporized wound in 4 cases of Ti glottic cancer to avoid post-operative anterior glottic web. Post-operative wound healing of vocal folds were excellent in each cases. In the cases of anterior comissure involvement, the fibrin glue is applicable adjunct for prevention of anterior glottic web with CO2 laser surgery.
著者
井原 雅行 小林 稔
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. MVE, マルチメディア・仮想環境基礎 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.106, no.158, pp.41-46, 2006-07-07

筆者らは,多人数から特定個人に向けてのコミュニケーション(N-to-1コミュニケーション)をサポートするタンジブルメディアの一例として「寄せ書き」に着目し,タブレットコンピュータを用いた電子寄せ書きツールを開発している.N-to-1コミュニケーションでは,遠慮等の書き手同士の社会心理がメッセージに影響する.本稿では,電子寄せ書きツール評価実験における被験者の事前主観評価と事後主観評価の比較から,N-to-1コミュニケーションツールのデザイン要件と,電子メディアを用いたN-to-1コミュニケーションの可能性を分析する.描かれる文字の大きさ,メッセージ領域の大きさ,位置の観点から,書き手同士のコミュニケーション心理を分析する.
著者
柿本 正憲 土佐 尚子 森 淳一 真田 麻子
雑誌
全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.第44回, no.データ処理, pp.383-384, 1992-02-24

顔の実時間表情合成の研究が盛んだが、筆者らは人間の感情モデルを導入し、人間の音声に対して、CGで作った赤ちゃんの表情とCDからサンプリングした赤ちゃんの声によって応答するシステム「ニューロベビー」を試作した。ニューロベビーに対し人間がマイクを通して呼びかけると、その声の調子に応じてニューロベビーが反応する。例えば人間が楽して声を出すとニューロベビーは笑った顔と笑い声によって反応する。怒った声を出すとニューロベビーも怒った声で反応する。
著者
井原 雅行 小林 稔
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. SIS, スマートインフォメディアシステム (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.106, no.95, pp.1-6, 2006-06-08
参考文献数
18
被引用文献数
2

筆者らは,多人数から特定個人に向けてのコミュニケーション(N-to-1 コミュニケーション)をサポートするタンジブルメディアの一例として「寄せ書き」に着目し,タブレットコンピュータを用いた電子寄せ書きツールを開発している.本稿では,電子寄せ書きツール評価実験における被験者の事前主観評価と事後主観評価の比較から,N-to-1 コミュニケーションツールのデザイン要件と,電子メディアを用いたN-to-1 コミュニケーションの可能性を分析する.メッセージの分量と書く際の所要時間,および,後でメッセージを書く人への配慮に関して,電子的に寄せ書きを行う場合の意識調査を実施した結果,年齢や性別によって傾向が異なることが確認された.
著者
井原 雅行 小林 稔
出版者
日本知能情報ファジィ学会
雑誌
日本知能情報ファジィ学会 ファジィ システム シンポジウム 講演論文集
巻号頁・発行日
vol.23, pp.453-453, 2007

情報伝達手段としてのメディアの価値が認知されて久しいが,人と人のコミュニケーションを媒介するメディアについては,まだまだ課題が多い.認知心理学の世界に,物理的なモノがヒトに対して発する概念として理解されてきたアフォーダンス理論がある.ここでは,これを拡張してヒトに適用した新概念「ヒューマンアフォーダンス」を紹介し,コミュニケーションにおいて不足しがちな情報を,メディア処理技術により生成,強調してアフォードすることの効果を述べる.具体的事例として,会話における同意・非同意に着目した価値観共有メディア,および,多人数から個人に向けたN-to-1コミュニケーションを実現する電子寄せ書きメディアを紹介する.
著者
中川 聖一 神谷 伸 坂井 利之
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:09135713)
巻号頁・発行日
vol.J64-D, no.2, pp.116-123, 1981-02-25

本論文は,不特定話者の音声自動認識のための個人差,特に年齢・性別が同一層である話者間の個人差の正規化法について述べる.まず,パターンマッチング法で,個人差によるパターン変動に対処するためには,個人差に関する何んらかのモデル・構造を導入する必要のあることを述べる.これに基づいて,音声スペクトルの周波数軸上とスペクトル強度軸上での非線形なマッチングによる正規化法を提案し,この手法を10数字音声の認識に適用する.更に,この手法は,キーワードを用いた話者適応化にも有効であることを示す.最後に,標準パターンの選択法について述べ,これにより不特定話者に対して安定な認識率を得ることができることを示す.本手法により,不特定男性話者30名の10数字音声に対して,約97.6%の認識率を得ることができた.
著者
高野 秀之
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦大学研究論集 (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.47-73, 2010-10-25

本稿は、ソシュールの一般言語学理論を再考することを通じて、言語研究の歴史における、その評価の妥当性を問い直すものである。 言語研究の歴史において、ソシュールはさまざまな批判にさらされてきたが、その中には、ソシュールの思想や学説への不理解や誤った歴史認識に基づいたものもある。そうした誤解を払拭するために、ソシュールの思想や学説を可能な限り忠実に再現した後、ソシュールに向けられた批判の型を『一般言語学講義』の成立事情に基づくもの、ソシュールの言語理論自体に関するもの、歴史認識にかかわるものの3 種類に分類し、それぞれを検証することを通じて正当な評価を下すことを試みる。 筆者は、人間の知的活動としての理論構築というものが、対立や批判からのみもたらされるとは考えない。それは、既存の理論や学説と相互に関連し合いながら、視点の位置と適用範囲の変遷によって刷新されてゆくものである。その視点と適用範囲とが時間の経過とともに増加・累積し、洗練されてゆく過程が言語研究の対象であるとするソシュールは、批判の対象ではない。それは、言語研究の対象と方法とを示しながら、それを自らの手で一冊の本にまとめることを躊躇したこと、ただ一点においてのみであると考える。
著者
堀口 寿広
出版者
The Japanese Society of Child Neurology
雑誌
脳と発達 (ISSN:18847668)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.193-197, 2007

発達障害福祉サービスのあり方を検討する目的で, アンケート形式で施設サービスの自己評価を実施した. 回答した21施設は利用者の個別の要求に対応していると答える一方で, 不満や苦情処理のあり方, 個人情報の保護, 職員の教育や医療との連携に改善すべき点が多いと感じていた. 児の施設は全体的にサービスが充実していると回答していた.施設内に苦情受け付けの仕組みを設け, サービス内容を利用者に説明し意見交換を行うことにより, 利用者一人ひとりのニーズに沿った支援を提供することが必要である.
著者
山本隆志編
出版者
思文閣出版
巻号頁・発行日
2012
著者
菱沼一憲著
出版者
汲古書院
巻号頁・発行日
2011

2 0 0 0 中央史學

著者
中央史学会
出版者
中央史学会
巻号頁・発行日
1977
著者
岩田 みゆき
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

この研究は、幕末期の在地社会における「風説留」と総称される情報記録について検討したものである。江戸時代後期以降、在地社会では上層民らを中心に、多くの政治・経済・文化・対外情報が収集され、記録され、相互に情報交換も行われていた。本研究では、それらの情報記録の所在調査や複数の家の情報記録の内容の比較検討を行い、それぞれの特徴について明らかにした。また、豪農が記録した情報の一部を翻刻し報告書にまとめた。
著者
佐久間 浩
出版者
日本乳癌検診学会
雑誌
日本乳癌検診学会誌 (ISSN:09180729)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.74-78, 2007-03-30 (Released:2008-07-25)
参考文献数
4
被引用文献数
4 3

わが国の乳癌罹患者数を40,000人, その10%が非浸潤癌であると仮定すると, 浸潤癌は36,000人となる。これらがすべて腫瘤径2cm以下で見つかり適切な治療がされれば, その10年生存率は90%であるから乳癌死は3,600人に止まるはずである。しかし現在乳癌死は10,000人を超えている。この差を埋めるために, どのような点に注意して超音波検診を行うべきかを考察する。まず, 浸潤癌はほぼ全例が腫瘤を形成する。そして超音波は腫瘤の描出を得意とする。熟練者であれば径0.5cmの腫瘤が描出可能である。さらに径1cmの腫瘤となれば0.5cmの腫瘤の4倍の面積の像として描出される。したがって検診の現場においても, 発見すべき腫瘤径は2cmではなく1cmに目標設定をしてもその達成は十分に期待できる。また, 超音波では浸潤癌のみならず非浸潤癌の発見も期待できる。非浸潤性乳管癌の約35%は腫瘤 (嚢胞内腫瘍, 充実性腫瘤) を形成するので超音波による発見は可能である。それ以外では扁平低エコー像を呈するものが約40%と最も頻度が高い。よってこのパターンを見つける目を養うことが, 非浸潤性乳管癌の発見能を飛躍的に向上させるカギとなる。直径1cmの腫瘤像と扁平低エコー像の発見に努めれば, 超音波検診で乳癌死を減らすことは可能である。