著者
多田 邦尚 一見 和彦 山口 一岩 石塚 正秀 本城 凡夫 樽谷 賢治
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

瀬戸内海東部海域における近年の栄養塩低下とその原因について研究した。瀬戸内海では高度経済成長期に富栄養化が著しく赤潮も多発していた。その後、水質は改善されたが、逆に近年では養殖ノリの色落ち等の被害が出ている。栄養塩の減少原因には、陸域からの窒素負荷量の減少だけでなく、堆積物からの栄養塩溶出量の低下も大きく影響していると考えられた。栄養塩濃度と赤潮発生件数等との関係についても検討した。
著者
藤目 ゆき 山本 ベバリー 南田 みどり 今岡 良子
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

大規模な国際組織であるWIDF(国際民主女性連盟)による世界平和運動の取り組み、またアジア各地の女性運動の展開を調査し、朝鮮戦争真相調査団の活動をはじめとして冷戦時代の国際女性運動の諸相を明らかにした。
著者
山本 ベバリーアン (2010) 山本 Beverley Anne (2009) DALES Laura
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究では,日本の男女共同センターや女性センターを中心とする女性運動について、主に結婚していない女性達の多様な経験を考察することによって、男女共同参画政策が想定しているのが「結婚して子どもがいる働く女性」であり、彼女達がこのディスコースの枠を意識的あるいは無意識的に越えている'unconventional'な存在である点をまず明らかにした。その上で、少子化・高齢化社会における彼女達の存在を考察するとともに、同政策を批判的に再考した。研究では20-40代の結婚していない女性33名(平成22年度は21名)に対して、ライフスタイルや結婚観、仕事観、社会観1、将来の展望等について綿密なインタビュー調査を実施した。その結果、彼女達の多くが結婚制度そのものを否定しているわけではなく、仕事と家庭の両立の問題や社会から「嫁」として期待されること、家制度などの社会的な理由から非婚を選択しているに過ぎないことが明らかになった。彼女達は現代日本の社会システムの中での婚姻制度とその期待に当てはまらない存在なのである。また、現在の男女共同参画社会の対策には彼女たちも含まれるごく一部の長時間勤務する専門職の独身女性を支援するものはあっても、依然として家族と仕事への責任をともに果たすことを可能にするようなものではない。このような状況下において仕事と結婚の二者択一を迫られ、女性達は働くことを選んできたのである。ただ彼女達自身の家族とのつながりは強く、多くが親の介護について責任をもっていると感じている。こうした女性達にとって男女共同センターはむしろ同じような立場の女性達とのネットワーキングの場であり、独身生活を支える原動力として機能している。以上の研究によって、女性達の多様な経験をもとにこの少子化・高齢化社会において国の男女共同参画政策はより現実に即した観点から再考することが求められていると指摘した。
著者
浅井 さとみ 宮地 勇人
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

緑膿菌の抗菌薬耐性と耐性遺伝子の発現について、既存の遺伝子発現の状態を臨床分離株を用いて詳細に調査し、簡易迅速診断検査に用いるための耐性遺伝子の検索を行った。薬剤排出ポンプ機能の亢進に関与するMexEF-OprNとMexXY-OprM同時発現臨床菌株を用いて、各遺伝子発現の有無を可視的に観察するシステムや、Enzyme-linked immunosorbent assay(ELISA法)による耐性遺伝子の発現検出法の開発を新たに試みた。Acinetobacter baumanniiでは、薬剤排出ポンプの関与は緑膿菌ほど強くなく、他の遺伝子発現の関与が考えられた。
著者
岡崎 隆 平野 雅宣 高柳 滋 田口 哲 高久 元
出版者
北海道教育大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

金星の太陽面通過周期の「規則性」を考える-数理融合教材の試み;ハレーは金星の太陽面通過を観測することによって地球-太陽間距離の決定が可能であることを示した。この現象は8年の短周期と百年を超す長周期を繰り返すという特異な周期性をもっておりこの現象観測の科学史上の意義とともに、理科教育の題材として興味深い内容を持つ。金星と地球の公転周期が近似的に整数比(8対13)になっていることおよびこの整数比からの僅かなずれが特異な周期性の要因である。コンピューターシミュレーションを活用しながら、周期運動の合成、惑星現象の立体幾何学的考察、有理数がもつ意味を自然現象の中で明らかにする数理融合教材として検討した。電子天秤による液体の表面張力の測定-表面張力の分子論的理解のための実験教材;「表面張力」は日常の様々な場面で見かける液体表面の振る舞いを説明する言葉として用いられる。「液体(水)=引力で引き合う分子集団」として表面張力の正体を明らかにすることを目標とした測定実験を考案しその指導法を検討した。表面張力測定法として「ジョリーのバネばかり」が知られているが、この原理に従い電子天秤を利用することによって微小な表面張力を容易に測定することができる。水の表面張力の温度依存、エタノール、オリーブ油の表面張力との比較を測定結果から考察し、液体の物性(融点、沸点、比熱)を考え合わせて物質の分子論的理解を促す教材実験とした。教材実験の解説・演示映像の編集;これまでに検討、作成した以下の理科実験教材の解説・演示映像の編集を行った。創造性を育む理科実験教材として、教育現場での活用・普及を図っている。1)ブラウン運動の観察とアボガドロ数の導出-分子運動を見る、2)電子天秤による磁気力の測定-遠隔力の規則性を測る、3)ブランコの運動とパラメーター励振、4)断熱蒸発による液体の温度低下の観察・計測-分子が運ぶエネルギー、5)金星の太陽面通過周期の「規則性」を考える-数理融合教材の試み、6)電子天秤による液体の表面張力の測定-表面張力の分子論的理解のための実験教材
著者
西矢 貴文
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

近代日本の「国家神道」期における神道家の内実を聞明するために、明治末期から昭和戦前期に活動した神道人の一人である葦津耕次郎に焦点を当てて研究を遂行した。とりわけ、強烈な神道信仰をもつ宗教的人間として、その信仰に導かれて形成される国体観、天皇観などに基づいだ諸活動とともに、葦津の事業家としての側面も明らかにすることを目的とした。如上の目的を達成するために、今年度は、国立国会図書館、国立公文書館、外交史料館、國學院大学図書館、関西大学図書館などにおいて未見資料の調査と蒐集を行った。その成果として結実した研究論文が、「事業家としての葦津耕次郎」(『明治聖徳記念学会紀要』復刊第43号)と「大正期の葦津耕次郎」(『神道宗教』205号掲載予定)である。「事業家としての葦津耕次郎」では、葦津耕次郎が関わった事業として、満洲における鉱山業・博多湾築港事業・社寺建設業を扱い、その事業の経緯を検討することを通じて、筥崎八幡の神威高揚と天皇の皇威発揚、そして国威向上を目的とするという自らが語る事業観が、そのまま経営のありかたに反映されていることを論じた。また、「大正期の葦津耕次郎」では、明治末期から大衆社会化が進行する一方で、第一次世界大戦やロシア革命を経て日本国内でも思想悪化、共産主義の脅威が喧伝されるなか、あるべき国の姿を実現することを鋭く追求するようになってゆく葦津の思想と活動を考察した。葦津は、大正初年に出会った川面凡児の神道教学に多大な影響を受けて自らの信仰を語る言葉を得た。大正期における敬神護国団の結成と純正普選運動への関わりを通じて、そのなかで葦津が川面教学から得たタームを使用しながら語った天皇観や国体観は、危殆に瀕する国体を救済するための政治的言説に直結し、この後の葦津による神道的昭和維新案へと結実してゆく前提となることが明らかになった。
著者
ヤマンラール水野 美奈子 黄 暁芬 杉村 棟 小柴 はるみ 桝屋 友子 阿部 克彦
出版者
東亜大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

1)海外調査を通じて得た主な研究業績(1)研究対象である2冊の詩画帳(通称サライ・アルバム)(トプカプ宮殿美術館所蔵登録番号H.2153,H.2160)の合計289フォリオ、2152作品のデーターの入力を完了した。2冊の詩画帳の画像とデーターの総合的入力は本研究グループが初めて成し遂げた成果である。(2)2冊の詩画帳の書の索引の作成が完了した。これも本研究グループがはじめて成し遂げた成果である。絵画作品に関しては、索引を作成中である。(3)平成16年にはベルリンの国立図書館が所蔵するディーツ・アルバムを調査し、トプカプ宮殿美術館の上記2冊の詩画帳との関連性を考証した。この件に関しては更に詳細な研究調査が必要である。2)研究発表における主な業績:11.研究発表の中でも以下の論文発表は新説であり、本研究グループが成し遂げた成果である;(1)ヤマンラール水野美奈子「サライ・アルバムH.2153における半円形のデザイン文様に関する考察」:従来半円形デザイン文様は根拠なしに襟の型紙とされていたが、住吉神社、手向山神社や中国の例証などからそれらが馬具の障泥のパターンであることを証明した。(2)関喜房「サライ・アルバム(H.2153,H.2160)の装丁の考察(原文ペルシア語)」:研究対象の詩画帳は数回装丁を改められているが、そのオリジナルな装丁の考察に示唆を与える画期的研究である。3)海外における講演・発表(1)上記2)(1)は平成14年の国際トルコ美術史学会で発表された。(ヤマンラール水野美奈子)(2)平成16年10月に中国、煙台大学でサライ・アルバムに見られる中国美術の影響を発表し、中国で始めてサライ・アルバムを紹介した。(ヤマンラール水野美奈子、黄暁芬)(3)平成17年3月には、イラン国立アカデミーでサライ・アルバムを紹介。(ヤマンラール水野美奈子・杉村棟)
著者
石田 憲二 松田 祐司 佐藤 憲昭 神戸 振作 井澤 公一 古川 はづき 西田 信彦
出版者
京都大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2008

本研究班では、主に、強相関電子系超伝導体における超伝導対状態、発現機構解明を目指して研究を行った。また重い電子系における量子臨界現象も研究した。主な成果を以下に挙げる。(1)人工超格子による二次元重い電子状態の創製と、人工超格子の手法による量子臨界の制御とそこでの強結合超伝導(2)強磁性超伝導UCoGeにおける(1)強磁性と超伝導の共存、(2)自己誘導渦糸状態の発見、(3)イジング型の異方性を持つ強磁性ゆらぎにより引き起こされる超伝導(3)熱伝送率の角度回転によるUPt3の超伝導ギャップ構造の決定(4)Uru_2Si_2の「隠れた秩序」における対称性の低下(5)準結晶Au-Al-Ybに見られる量子臨界現象(6)磁気励起の解析から明らかになったUsn_3における磁気異常の起源(7)二次元構造を持つ重い電子系Ce(Ru_<1-x>Fe_x)POにおける強磁性量子臨界現象
著者
細川 宜秀
出版者
群馬大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

我々は,これまでに,文書データに出現する地名表現をそれが指すランドマークの緯度経度に翻訳するための技術(ジオ・コーディング技術)追求を行ってきた.その技術の特徴は,空間的文脈認識を伴って地名の指すランドマークの緯度経度を自動算出することにある.ここで,空間的文脈とは,説明文を構成する語群のうち,文書に含まれる地名表現が指し示す意味(緯度経度)を特定するのに貢献する語群を表す.しかしながら,我々のジオ・コーディング技術は,ランドマークに関する知識メタデータベース(ランドマーク・メタデータベース)を前提とするため,そのメタデータベースに登録されていないランドマークの緯度経度を指す地名を含む文書データを翻訳対象外としてきた.本研究開発では,文書データベースを対象としたランドマーク・メタデータベースを自動生成するためのシステムの実現方式を実現した.本実現方式の主要な特徴は次の点にある:文書データベースから得られるランドマーク-単語間共起関係に基づいたランドマーク・メタデータ自動生成メカニズムの実現.これにより,先行研究で実現したジオ・コーディング技術の適用範囲を拡大することが可能になる.つまり,地理空間上に自動配置可能な文書数を大幅に増大させる.実験により,本実現方式の妥当性を明らかにした.
著者
越 森彦
出版者
白百合女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

18世紀フランスの法廷書類(「訴訟趣意書」)を一次資料とすることで、スキャンダル・ジャーナリズムとの関係から、ジャン=ジャック・ルソーにおける自伝的言説の成立過程およびその文体的特徴を明らかにすることを目的としている。初年次はフランスのパリ国立図書館において、次年次はスイスのヌシャテル市立図書館において、それぞれ『名高くも面白おかしい訴訟事件』と『我が肖像』の読解を行い、「公論」と自伝的言説の関係を分析した。
著者
渡部 賢
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

マツ材線虫病によるマツ類の集団枯死が,マツ林生態系の炭素動態に与えるインパクトを調べることを目的として,東京大学愛知演習林新居試験地において,固定プロット内での毎木調査による純一次生産量(NPP)の調査と同試験地に残存している被害木の分解呼吸量の調査を実施した.調査を実施した新居試験地は,1929年より海岸の砂丘にクロマツを主体とした造林をおこなわれ,1998年からマツ材線虫病被害が本格化し,最近,その被害が収束し,生き残ったクロマツと枯死したクロマツが混在しているような試験地となっている.毎木調査によるNPP推定結果と分解呼吸速度を用いて,マツ材線虫病被害が甚大であった過去10年間における同試験地(23ha)のマツ林生態系の炭素収支を見積もった結果,同試験地は75 tC 23ha^<-1> 10yr^<-1>の炭素を大気に放出していることがわかった.また,現時点で分解されていない枯死木が,今後数十年にわたって,同試験地の炭素循環に影響を与え続けると考えられた.分解呼吸速度の測定は,大型の測定チャンバーを用いて,同試験地内にハイ積みされているクロマツ枯死木の丸太を対象に実施された.その結果,丸太の分解呼吸速度と丸太の温度および体積含水率の間には,正の相関が認められた.本研究のように,林地に残存する倒木の分解呼吸速度を調べた事例は非常少ないため,本研究で得た結果は,今後の森林の炭素循環と病虫害による集団枯死との関係を論じる際の基礎的な知見として重要である.
著者
PEREZRIOBO Andres (2012) ペレス・リオボ アンドレス (2011)
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

(1)本研究は近世日本思想とキリスト教思想の課題として、16・17世紀におけるキリスト教の日本への受容と後のかくれキリシタンの様子を背景として、キリシタンの風俗習慣、および思想が宣教の最初期から日本の風俗習慣と思想と混合していたことを実証し、キリシタンとかくれキリシタンの思想的・宗教的な区別を排除するこを目的とした。さらに、キリシタン思想を新たに日本思想中に位置づけ、徳川初期の思想形成に与えた、与えられた影響を日本思想とヨーロッパ思想の対立という枠組みを越えて、思想の流動的なパースペクティブしようとする。(2)さらに、近世日本におけるキリシタンの研究に止まらず、マニラの交易圏を可能にした日本・中国・スペイン・ポルトガルの国家・文化・政治経済をそれぞれ分析し、マニラでの活動を計ることと、キリスト教の伝播基地であったマニラで、宗教がどのような影響を外交や交易に与えたかを解明すること、または自他認識においてどのような役目を果たしたかを説明するこというテーマに取り組み、その成果を論文作成、学会報告、国際シンポジウムなどを通じて発表しました。近世日本キリシタンを研究することはマニラへ目を向ける契機となった。既往の研究において、「マカオ・ポルトガル人・イエズス会」を通して十六・十七世紀の日本キリスト教の歴史が語られたが、「マニラ・スペイン人・托鉢修道会」の影響力は過少評価された。私は先行研究の不足を強く感じ、マニラに焦点を当てた。
著者
吉崎 歩
出版者
長崎医療センター
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

L-selectinとICAM-1それぞれのノックアウトマウスではブレオマイシンによって誘導された皮膚硬化と肺線維化の有意な抑制が認められ、これとは逆にE,P-selectinとPSGL-1それぞれのノックアウトマウスでは線維化の増悪が認められた。このことは、L,E,P-selectin,ICAM-1よびPSGL-1が、未だ有効な治療法が開発されていないSScに対する新たな治療ターゲットとなり得ることを示していると考えられる。今後更なる検討を経て、SScの新規治療法が開発されることが期待される。
著者
清原 泰治 西村 秀樹 米谷 正造 五百蔵 高浩
出版者
高知県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、伝統的な地域スポーツ・イベントがまちづくりに果たした役割を考察した。「昭和の大合併」を経て、地域住民の「融和」が行政課題となった高知県内の各自治体において1950年代に行政主導で始まった市町村民運動会は、新たなまちづくりを担うことを期待されるスポーツ・イベントであった。一方、地域の伝統的な相撲大会は、住民によって主体的に運営され、地域社会を維持していくためのつながりを強化・継承する機能を持っていた。
著者
長谷川 敦章
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

昨年度の研究活動において,北レヴァントの海岸部であるシリア・アラブ共和国ラタキア県における遺跡踏査および測量調査を行った。これにより本研究の目的の一つである,調査対象が地中海沿岸の大規模テル型遺跡への偏重の是正を試みた。本年度の研究では,この成果を周辺地域と比較し位置づけていく調査・研究を実施した。特に本研究のねらいの一つである,先行研究で疎かにされてきた,内陸地域との関係に焦点をあてるため,以下の3地域で調査を行った。その一つは,ラタキア県の東に隣接する,北レヴァントの内陸部であるシリア・アラブ共和国イドリブ県のエル・ルージュ盆地である。当該地域では,テル・エル・ケルク1号丘遺跡の発掘調査を行った。本調査では,ラタキア県,ひいては該期の東地中海世界に極めて特徴的なミケーネ土器が出土した。この事例は内陸地域では極めて珍しく,ミケーネ土器の東限域を示す可能性がある。またこの成果は,これまで東地中海世界と隔離されて考えられがちであった北レヴァント内陸地域の歴史的位置づけに再考を促すものである。第2の調査は,ラタキア県の北側に位置するトルコ共和国アンタキア県における考古学的踏査である。この地域は北レヴァントを南北に流れるオロンテス川下流域であり,ラタキア県と比較する上で重要な資料を得ることができた。第3の調査は,ユーフラテス中流域に位置するテル・ガーネム・アル・アリ遺跡である。当該遺跡周辺は考古学的調査の空白地域であり,その成果は極めて貴重である。メソポタミア地域の西端にあたり,北レヴァントに影響を与えたメソポタミアの文化を考える上での一つのケーススタディになると考えている。東地中海世界に果たした北レヴァントの歴史的意義について再考するためには,上述した地域での成果を詳細に分析し,北レヴァントの歴史的重要性を内陸地域との関係性で捉え直し,歴史の再構成を試みる必要がある。
著者
福島 宏器
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、他者にたいする共感(感情の共有・理解)が強化または抑制されるメカニズムを明らかにし、さらに共感の強さにおける個人差の原因を解明することである。3年目となる今年度は,米国カリフォルニア州における社会性の研究プロジェクトに参加し,(1)他者の感情理解の正確さの個人差の検討,および(2)感情の理解にともなう生理活動の連動が他者理解において果たす役割の検討,の二点に関わる研究に従事した.具体的には,30名の実験参加者が,注意や感情を制御する練習を3ヶ月間集中的に行うことによって,心身にどのような効果が現れるかを研究した.実験では,感情を推定される側と推定する側の両者の推定の一致度から「共感の正確さ」を数値化し,同時に,両者の生理指標(心拍・血圧(指先脈派)・発汗・呼吸)の連動を解析することにより,共感の正確さと,共感課題時の生理活動の連動が評価された.その結果,注意と感情制御のトレーニングによって,実験参加者の共感性尺度(Davis,1983)は有意に上昇していた.他者の感情理解の正確さについては,一部の課題にのみトレーニングの効果が見られたが,感情制御の訓練による社会不安(とくに愛着不安)の低減が,他者のポジティブ感情の正確な理解に関連することが示唆されている,また,課題中の生理指標から,他者の感情の推測と,その課題中の自分自身の生理的反応(とくに血圧系や皮膚電位系)の連動が変容することも示唆されている.申請者は昨年度までに,自分の身体生理活動の調整に関わる神経機構が,他者理解,そして日常場面での共感性と関わっていることを示唆してきた(例えば,Fukushima et al.2011).3年目の研究はなお進行中であるが,申請者のこれまでの成果と合わせて,他者に対する共感の強さや正確さを左右する大きな要因の一つとして,身体の生理的活動と,これに対する認知・神経活動が関わっていることをさらに示唆した.
著者
梅室 博行 徃住 彰文 福田 亮子
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、「ユーザに感情反応を引き起こす技術製品・サービス」をアフェクティブ・テクノロジーと定義し、その概念および方法論を確立することを目的とした。まず概念を定義した後、製品・サービス側の要因(原因系)とユーザの感情反応(結果系)それぞれについて要因を分類・体系化するとともに測定方法を確立した。さらに原因系・結果系の両要因の関連を明らかにし、実際にアフェクティブ・テクノロジーを造り出すための方法論を提案した。また造り出す組織に求められる資質やその評価方法について明らかにした。
著者
山口 優子 (越野 優子)
出版者
国文学研究資料館
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

源氏物語の最終部分である宇治十帖(橋姫~夢浮橋巻)において、室町期に流通した伝本である高松宮家本と国冬本の顕著な類似が、一年度目で確認できたので、二年度目の今年は、この事実を如何に視覚化し・分析するかに最重点のポイントを置いた。ただし宇治十帖は膨大な量であり、この分析には規制の方法では多くの時間と手間がかかる。そこでここに、統計学的手法(多変量解析等)を用いることとし、出来るだけ多くの巻について対照・分析を行う。文字列の一致の段階は先例があるので、そこに新しい係数を加え、国冬本全体の考察の最終的な完成を導き、同時に文学と統計学的解析に進歩をもたらした。また一年度目の昨年末、"源氏物語とは一つ(青表紙本系統、とりわけ大島本)ではないことを国内外に明確に知らせたい為、独特の物語世界をもつ5巻に絞って翻刻・注釈・現代訳・(外国語訳)考察等を付し試作版を韓国で口頭発表し、論文を韓国で二〇〇九年五月末刊行した。更に七月には台湾(台湾日本語文学会)で、上記に述べた統計的手法について口頭発表し、これを同八月に刊行した。
著者
徳田 献一 似内 映之 衣笠 哲也
出版者
和歌山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究では,自然災害などにより発生した脆弱な地盤の上をロボットが移動する際の問題を解決する手段として足探りを切り口として,(1)脚ロボットによる足探りスキルの記述,(2)地盤と脚の関係性のモデル化,(3)柔軟全周囲クローラの不整地踏破の取り組みを行った.研究成果として,表面が固く内部の状態がわからない脆弱な地盤を対象に足探りスキルのロボットへの埋め込みを実現し,シミュレータで獲得した強化学習結果を実環境で実現することができた.また,脆弱な地面についての考察の中で,ロボット脚と地面の関係性に着目することによる能動歩行と受動歩行の比較システムを用いて環境推定システムの構築を行うことができた.