著者
北原 理雄 神谷 文子
出版者
千葉大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

1.予備的な分析として、西日本各地の小学校校歌をサンプルに、そこに謳われた景観要素の出現頻度と性格を考察し、校歌から抽出すべき景観要素の範囲を明らかにした。さらに、関東地方の小学校校歌をサンプルに、そこに謳われた景観要素の出現頻度と性格に加えて、主要景観要素の情景描写、地域性、また現実の景観との関係を明らかにした。2.三重県の3都市(津市・四日市市・松坂市)を取り上げ、各市内の小・中・高等学校を対象に、校歌の歌詞の中から景観要素を抽出し、地図上でその分布・頻度・影響圏の広がりを調べ、市民意識として共有される地域の景観構造を把握し、校歌に謳われた景観構造との照合を行い、両者の関係とその背景を明らかにした。3.千葉県の3都市(柏・八千代・銚子)を取り上げ、各市内の小・中・高等学校を対象に、校歌の歌詞の中から景観要素を抽出し、その分布と頻度から市民意識として共有される地域の景観構造を把握するとともに、それを現実の景観構造と照合し、両者の関係を明らかにした。また、各都市において校歌に謳われた景観の都市化の前後における変化を分析し、そこから市民のイメージの中に形成されている景観構造とその変容を読み取った。4.全国の各地域から選んだ人口規模10万〜50万の11都市(函館・八戸・秋田・前橋・清水・富山・奈良・松江・倉敷・松山・鹿児島)を対象に、それぞれの都市の小学校校歌の歌詞の中から景観要素を抽出し、その種類と頻度から校歌に謳われた景観像を都市比較的に把握した。また、その結果を踏まえて、地域景観の物的特性とイメージとしての景観像との関係を明らかにした。
著者
上町 達也
出版者
滋賀県立短期大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

本実験では,アジサイのがく片の弁化の機構を解明することを目的として,アジサイの花序形成及び小花の発達過程について調査を行った.花序形成初期の花序原基は1つの原基が3つの原基に分裂して発達しているように見えた.しかし花序形成の後半になるにつれ,花序は1つの原基の基部に新たな原基が腋芽的に形成される,いわゆる岐散型の発達の様相を示した.開花調査と照らし合わせると,アジサイの花序はいくつかの岐散型の花序が集まった複集散型の花序であると考えられた.手鞠咲きアジサイでは,両性花の花軸に4〜6個の装飾花が着生するが,装飾花の花軸には側花蕾は着生しなかった.装飾花は両性花に比べて発達が遅かった.両性花の原基は花軸に側花蕾が着生した後にがく片の形成を始めたが,装飾花の原基は側花蕾を形成せずにがく片を形成した.装飾花の着生位置に花序が着生する場合があるが,その花序の中心の小花では,がく片の一部が弁化した,両性花と装飾花の中間型を示すものが多くみられた.またこの小花の花軸には1〜2個の装飾花が着生していた.額咲きアジサイでは,いずれの両性花においても花軸に側花序,あるいは側花蕾が着生していた.最も開花が遅く,形成された時期が遅かったと思われる両性花においても,その花軸には未熟な側花蕾が着生していた.額咲きアジサイでは,装飾花よりも発達時期の遅い両性花がいくつかみられた.これらの結果から,アジサイにおいて小花のがく片の弁化は,その小花の形成・発達時期よりもむしろ側花蕾形成と何らかの因果関係を持つことが示唆された.小花分化期に加温処理を行ったところ,額咲きの'紅ヤマアジサイ'及び額咲きで八重咲きの'隅田の花火'において,がく片の弁化した小花の割合が増加した.植物生長調節物質ががく片の弁化に及ぼす影響については現在調査中である.
著者
佐々木 正晴
出版者
弘前学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

1.早期開眼手術後における定位・移動行動の形成過程開眼少女YKは,生後73日目に両眼の先天性白内障の手術を受け,2001年で9歳になる。聴覚障害(推定聴力損失80-90dB)、心臓疾患(心房中隔欠損等)を伴う。われわれはその6年前にYKと出会い,YKが小学校入学以降組織的な関わりを続けてきた。その視・運動系活動,移動行動の状況を5年前と現在とで対比させると,【5年前】触覚(手)の支えなしに立ち上がることができない。仰向けに寝る姿勢でいることが多く,その姿勢で自分の手や手に持つ物を眼前で動かす。移動の際,仰向けに寝る姿勢のまま手や足で床面を四方に進む。夜の屋外での花火に視線を向けることはないが,テレヒ画面上に映る花火の光をテレビの両端に両手を添えてその所在を捉えて追視する。【現在】触覚の支えなしに立ち上がり,歩行により移動する。場所により他者と手をつながずに一人で歩くことができる。ただし,繰り返し歩いている場所と初めて行く場所とでは路面の段差,陰に対してその対処の仕方を変える。繰り返し歩くことを積み重ねて着実に移動空間が拡大している。2.視野遮蔽,視野変換,視野制限事態における移動空間と操作空間の形成過程本報告者(佐々木)が数日間アイマスク,逆さめがね,視野制限ゴーグルをかけて移動行動と操作行動の形成過程を探索し,それらの結果を開眼受術者の視覚形成過程と比較した。その結果,1)視野遮蔽・アイマスク事態における移動行動と開眼者における形の弁別行動との形成過程において,対象の外郭を基準点によりつなげる,2)逆さめがね・視野変換における移動行動と開眼者における立体の弁別行動の形成過程において,各視点から得られた情報を統合する,という共通点が見出された。
著者
安藤 宏
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

太宰治の肉筆原稿は現在確認されているものの八割近くが遺族によって日本近代文学館に寄贈されており、現在同館の「太宰治文庫」に収蔵されている。しかし、これらの原稿の調査は膨大な時間と人手を要するため、これまでほとんど手つかずの状態にあった。申請者はこのうち、いまだに原稿が全集に未収録の22作品、2648枚を対象に、そのすべてに関して訂正後、抹消跡の調査を行い、その成果をCDと二分冊の冊子に集成した。まず、初年度においては全国の原稿の所蔵状況を調査すると共に備品の整備を行い、近代文学館との協議を重ねた。二年目に、青森県近代文学館所蔵の太宰治の肉筆資料に関する貴重な調査を行うことができた。これらと平行し、2〜4年目にかけ、作業補助者の協力の下に現行の調査を推し進めた。本調査の成果は今後の同館の「太宰治文庫」閲覧に大きく寄与すると共に、海外を初めとする遠隔地にあって、原稿の閲覧が困難な研究者にとって、太宰治の原稿を一望できる貴重な資料といえる。また、作者が原稿を訂正しながら書き進めていく過程を再現したものとして、近代文学の原稿調査の方法に一つの実例を提示することができたものと考える。なお、本調査は日本近代文学館との協議のもとに、同館としてはじめて化学研究費補助金にもとづく貴重資料の調査許可を得たケースであり、今後の同館収蔵資料の共同調査のためのテストケースとして、さまざまな可能性を提示するものである。
著者
高橋 潤二郎 渡辺 貴介 盛岡 通 鈴木 邦雄 久保 幸夫 淡路 剛久
出版者
慶応義塾大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1990

この研究の目的は、広域都市圏の湾岸域を対象に望ましい親水環境を明らかにし、その実現のための体系を構築することである。本年度は、第一年次であるため、東京湾岸域の土地利用、親水条件、住民の親水イメ-ジ、市民の親水活動・イメ-ジ選好・居住環境に対する意識構造、親水環境としての植生、行政主導型ウォ-タ-・フロント計画などの実態把握と分析を行なった。土地利用・海岸利用施設に関しては、国土庁湾岸域情報を入手して読み込み用・地図作成のソフトを作成し、空中写真・リモ-トセンシング映像・空中写真などと併せて湾岸域の総合的なマルチメディア・デ-タベ-スシステムの作成を目的として、埋立地を対象にディジタル化・デ-タベ-ス化を行なった。親水条件に関しては、市民の湾岸域へのアクセシビリティについて東京都を取り上げ、マストランゼッションと湾岸の土地利用親水性との関連を明らかにした。市民の親水イメ-ジを知るために、横浜〜富津の公立小中学校の校歌(357曲)を取り上げ、これを8イメ-ジ、12モチ-フ、4場面の計24のカテゴリ-に分け、これを数量化3類で分析し、4つに類型化するとともに、それらが時代や地域と深くかかわっていることを明らかにした。東京湾における活動・イメ-ジの居住者による選好特徴は、景観に関する内容が大きな割合を占めていて、活動・イメ-ジでは自然的な内容が望まれていることがわかった。親水環境としての植生に関しては、環境指標となる植生単位の抽出を行なった結果、3つのグル-プに分けられることが明らかになった。行政主導型の計画を取り上げ、国・自治体・企業・住民の役割について、船橋・市川・川崎を例に、その問題点を明らかにした。
著者
渡辺 正夫 鈴木 剛 諏訪部 圭太
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

花粉と・柱頭でのコミュニケーションの障害が受粉時の「ゲノム障壁」として検出される。そこで、この受粉反応時に関連する遺伝子を分子遺伝学的手法により解析した。その結果、新規-側性不和合性、花粉特異的遺伝子群の機能解明、環境ストレス関連遺伝子の解明、コミュニケーションに重要である新規small RNAを大量に同定した。
著者
柳田 益造 武田 昌一 郡 史郎 桑原 尚夫 吉田 優子 力丸 裕
出版者
同志社大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

日本語の韻律について,現象面から見た多様性と歌唱における韻律制御の自由度,韻律の個人性,社会的要因の影響,感情との関係,韻律情報の脳内処理に関する神経科学的検討,一般言語学からの考察を行った.(1)特殊な状況での韻律についてのデータから音響的特徴の変動幅を調査した.特殊な発声例として,幼児の矯声における高F_0,高校野球の選手宣誓における平坦F_0,母語との近さや状況による平均F_0の違いなどを調べた.また,制約付きの韻律としての歌唱におけるF_0の特にビブラートについて邦楽と洋楽(ベルカント唱法)を比較した.(2)基本周波数、ホルマント周波数等の音響的特徴と個人性との関係を物理的および知覚的に分析した.同時に,発声速度の異なる音声や,訛りなどに現われる特徴の変化についても研究した.個別音に関する研究としては,連続音声中に現れる鼻音化された/g/について,音響的ならびに知覚的な面から検討した.(3)社会的要因に由来する韻律の多様性.およびアクセント型以外の韻律の地域的多様性について,社会言語学的観点を加えつつ音響音声学的な手法を用いて調査した.具体的には,共通の台詞を種々の方言話者が発声した音声データについての知覚的な印象について検討した.(4)発話に含まれる感情と韻律の関係を多変量解析等の手法を用いて規則として抽出し,その規則に基づいた韻律で音声合成を行い,その有効性を評価した.また,百人一首の韻律やホーミーについても研究した.(5)物理量としての音のどのパラメタが韻律知覚に関与し,脳内のどのような処理によって,韻律知覚が生成されているかを,劣化音声を用いて聴覚神経科学の立場から追究し,韻律知覚生成機構の解明を試みた.(6)一般言語学の立場から,ピッチアクセント言語である日本語の韻律をストレスアクセント言語における韻律と比較することによって,音声におけるアクセント付与の普遍性について考察した.
著者
濱 日出夫
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

(1)博物館の戦争展示と戦争の集合的記憶の関わりを考察するための理論的枠組みの検討を行なった(成果報告書「序「歴史の社会学」の可能性」「1記憶のトポグラフィー」『2社会変動のミクロロジー」参照)。アルヴァックス、ベンヤミン、シュッツらの業績の検討を通して、(1)記憶とは過去の出来事の再現であるのではなく、現在の視点から行なわれる過去の再構成であること、(2)過去の再構成が行なわれるさいに、物質や空間が重要な役割を果たしていることについての理論的見通しを得た。(2)この理論的見通しをもって、(1)土浦市、(2)米国ワシントンD.C.、(3)広島市、(4)カンボジア・プノンペンにおいて、博物館の戦争展示と戦争の集合的記憶の関わりに関する調査を行なった(成果報告書「3歴史と集合的記憶」「4他者の場所」「5ヒロシマを歩く」「7モニュメントとしての写真」参照)。その結果、(1)土浦市においては土浦まちかど蔵の飛行船グラーフ・ツェッペリン号の飛来に関する展示が予科練の記憶を、(2)米国ではスミソニアン航空宇宙博物館に展示されたエノラ・ゲイの機体が原爆の記憶を、(3)広島市内のさまざまな資料館や記念碑、またさまざまな追悼行事が原爆の記憶を、(4)カンボジアにおいてはトゥール・スレン博物館の写真の展示がポルポト政権による虐殺の記憶を、それぞれ形成し再生産するうえで果たしている役割が確認された。(3)とくに土浦市・広島市における調査によって、戦争の記憶が単一のものではなく、地域の内部でいくつにも分裂し、たがいに対抗し合い、「記憶のアリーナ」を形成していることを明らかにした。
著者
長谷川 珠代
出版者
宮崎大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

ケアする人々の健康増進を目的としたヘルスケア・アートプログラムは、楽しみが得られる場、交流の場等として認識され、『ケアする人』に専門職も含めた結果、ケアされる方や家族との一体感、気持の共有が図られた。このプログラムはケアする人々が感じる精神的・身体的な疲労感を解消でき、アートを活用することで精神面と身体面の双方への効果が得られ、心身の緊張緩和、意欲の向上に繋がることが示唆された。またNPOやボランティアと連携した実施により、地域ケアシステムとして稼働可能性が示唆された。
著者
山口 幸代
出版者
熊本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

株主利益の追求と社会的配慮という企業に対する二つの要請の関係性をどのように捉えるべきなのか。英国で2006年に成立した新会社法は、従来の会社法制においては明言されることのなかったこの課題に果敢に取り組み、法的な位置づけを試みたものとして注目に値する。そこで平成19年度は、企業運営における社会的要因の配慮の位置づけと、それに関する法的枠組みのあり方を、英国新会社法を例にとり考察した。同考察においては、域内国としての英国に影響を及ぼすEU規制の状況を同時にカバーすることで、EUレベルでの動向にも目を向けた。英国会社法上の社会的責任にかかる規制のあり方は、第一に、会社の目的を株主利益の追求と位置づけながらも、その実現には社会的な配慮が求められるという認識のもと、会社法上の明文で-具体的には、取締役の一般義務の一部として-このことを示すに至った。第二に、環境情報の開示義務については、改正前から存在していたものの、度重なる改正でやや混乱を招いていたその内容を、新しいビジネス・レビュー規制の枠組みの中で再整理した。ここで情報開示の目的が、取締役がどのように上述の一般義務を遂行したか判断するための情報を株主に提供することにある、と明示されたため、社会的要素に関わる情報提供の重要性はこの一般義務の遵守の観点からも裏付けられることとなった。さらに、代表訴訟に関する改正によって株主が直接取締役の一般義務違反を追及するための道が開かれたことで、会社の社会的配慮のあり方にとどまらず一般的にみても株主の経営監視体制は強化されたことになる。会社に対して社会的配慮を備えた株主利益の追求が義務づけられたことには、コーポレート・ガバナンスの基本命題である「会社はだれのために、どのように運営されるべきか」という問いに対する一つの答えが示されているといっても過言ではないだろう。
著者
中島 勇喜 林田 光祐 阿子島 功 江崎 次夫 吉崎 真司 丸谷 知己 眞板 秀二 木村 正信 井上 章二 岡田 穣 小林 範之 坂本 知己 柳原 敦 阿子島 功 江崎 次夫 吉崎 真司 丸谷 知己 眞板 秀二 木村 正信 井上 章二 岡田 穣 小林 範之 坂本 知己 柳原 敦
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

2004年12月に発生したインド洋大津波および2007年4月に発生したソロモン諸島での津波による被害地を調査し、津波に対する海岸林の被害軽減効果を検証した。その結果、海岸林による漂流物の移動の阻止、津波の波力の減殺、よじ登り・すがりつき効果が確認できた。さらに、被害軽減効果と海岸林の組成や構造は海岸地形に大きく依存していることから、地形を考慮した海岸林の保全が津波被害軽減に有効であることがわかった。
著者
武田 博清 東 純一
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

熱帯季節林における3年間の調査により得られた、熱帯季節林での細根の現存量、組成と土壌動物群集の構造(グループの構成)から、細根の組成は、土壌動物の種類構成に影響していることが明らかとなった。細根の現存量と土壌動物の個体数には高い相関性が見いだされた。さらに、細根と土壌動物の現存量の間にも相関性が認められた。土壌動物群集の維持における細根の重要性が明らかとなった
著者
安部 琢哉 KIRTIBUTR N SLAYTOR M KAMBHAMPATI S THORNE B BIGNELL D.E HOLT J 杉本 敦子 武田 博清 山村 則男 東 正彦 松本 忠夫 SLAYTOR Michael THOME Barbara L HOLT John A SLAYTOR M. KIRTIBUTR N. KAMBHAMPATI エス THORNE B. BIGNELL D.E. HOLT J. GRIMARDI D.
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

本研究は、熱帯陸上生態系で植物遺体の分解に大きな役割を果たしてシロアリが、地球規模で適応放散による多様化を遂げた道筋と機構を明らかにすることを目的とする。シロアリにおける(1)微生物との共生による植物遺体の利用、(2)社会性の発達、(3)食物貯蔵・加工の3過程に注目し、これらに系統進化(DNA解析による分子系統や形態や共生微生物に基づく系統進化)および生物地理に重ね、それに理論的な検討を加えた。特にシロアリの多様化の鍵を握る(1)下等シロアリから高等シロアリへの進化、(2)キノコを栽培するシロアリの起源、(3)社会性の進化と多様性について仮説を提出すると共に、(1)空中窒素固定とセルロース・ヘミセルロース分解、(2)土を食べるシロアリの適応放散、(3)シロアリが地球上でのメタン生成に果たす役割について質の高いデータの提出を目指した。(1)下等シロアリから高等シロアリへの進化中生代白亜紀の遺存森林であるオーストラリアのクイーンスランドの熱帯林とそれに隣接する、第三紀に発達したサバンナにおいてシロアリ種組成を比較した。その結果、前者では下等シロアリが、後者では高等シロアリが卓越していた。このことから、高等シロアリが森林でなくサバンナで進化して熱帯林とサバンナで適応放散を遂げたとの新しい仮説の提出しつつある。(2)キノコを栽培するシロアリの起源シロアリ主要グループの分子系統樹を作成して、キノコシロアリが高等シロアリの中で最も古い時代に分化し、下等シロアリのミゾガシラシロアリ科と近縁であることを明らかにすると共に、キノコシロアリ巣内のキノコ培養基とミゾガシラシロアリ科のイエシロアリの巣内構造物の化学組成を特にリグニン含量を比較することにより、シロアリにおける糞食とキノコ栽培の起源に迫りつつある。(3)シロアリにおける社会性の進化と多様性シロアリ地球規模での多様化を微生物との共生と社会性の進化に注目して検討し,これをT.Abe,S.A.Levin & M.Higashi編(1997):Biodiversity(Springer)中で展開した。(4)空中窒素固定、セルロース・ヘミセルロース分解材を食べるコウシュンシロアリでは体を構成する窒素の50%が空中窒素起源であること、しかし土を食べるシロアリでは空中窒素固定能が低いこと、また下等シロアリでも共生原生動物だけでなくシロアリ自身もセルロースやヘミセルロースを分解する酵素を作ることなど、これまでの常識をくつがえすデータを次々を提出した。(5)土を食べるシロアリの適応放散過程カメルーンの熱帯林で土壌食シロアリの安定同位体分析と腸内容物分析を行い、土食いへの指標として安定同位体比が有効であることを明らかにした。次いでオーストラリアでシロアリ亜科のシロアリの土食いへの進化過程を安定同位体分析、セルロースが分解酵素の活性分析、ミトコンドリアDNAを用いた系統解析から解明し、Termesグループで土食いへの進化が一回起こったことを示した。またTermesグループがアメーバと共生関係を持つことを明らかにした。(6)生態系におけるシロアリの役割シロアリの代表的なグループにおけるメタン生成のデータを実験室で集めると共に、タイの森林で野外調査を行った。シロアリが地球上でのメタン生成に果たす役割についての精度の高い答えを出しつつある。(7)「シロアリの多様化プロセス」ワークショップ世界中の関連分野の研究者を招き、シロアリ研究の現在までの成果をまとめた教科書を編集する目的で国際ワークショップを1997年3月に開催した。
著者
寺田 元一
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

18世紀を中心とする創発論的自然観について、ボイル、ハラー、モンペリエ学派を中心にして考察を行い、次のような成果を上げることができた。ボイルは化学的場面における粒子論的物質理論、ハラーは生理学における階層的構造機能論的生物像、モンペリエ学派は、やはり生理学ではあるが、諸生命の生命という階層的生気論的生物像と、それぞれ相違しながらも、そこには次のような共通性が見られた。(1)全体を考えるに当たって基本単位として原子的なものを前提する、(2)全体を諸構造の構造、諸生命の生命といった階層的秩序において見る、(3)より高次の構造に対応してより高次の機能が存在するとする、(4)低次の構造にはなかった機能が高次の構造においてなぜ出現するのかを説明する必要を感じている、(5)その説明のために、あるときは創発、あるときは「隠れた力」、あるときは霊魂などに依拠する、(6)神秘的なものに助けを求めず、構造機能論を徹底的に貫こうとする場面で、創発の論理を豊かに展開することになる、以上の共通性である。彼らに共通する自然観は粒子論的階層的構造機能論的創発論的自然観(以下、創発論的自然観)と特徴づけることができる。17、8世紀の自然観については、宇宙全体を機械=時計とする機械論が流行し、それに生気論などが対抗したが、最終的に前者が勝利したと見られている。しかし、これでは創発論的自然観の存在が見えなくなってしまう。だが、実は近代科学=機械論・要素主義ではなかった。原子論の復興を契機として、上述したような創発論的自然観が登場し全体論的で複雑な見方を展開していった。言葉はなくても創発を問題とせざるをえないような自然観がこの時代に存在し発展し続け、近代科学を支える自然観の重要な一部を形成していたのである。それゆえ、粒子(原子)論もまた機械論ではない。粒子(原子)論からある種全体論的ともいえる自然観が展開されたからである。
著者
斉藤 宏
出版者
東京都立新宿山吹高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

研究目的サンゴは栄養分の多くを共生している褐虫藻から供給されることから、褐虫藻の状態を可視化できれば、サンゴの健康状態をモニタリングできると考えた,陸域植生ではクロロフィルが赤色域の光を吸収し、近赤外域の光を反射する性質を用いて、正規化植生指標で解析しモニタリングができる。しかし、水中では、長波長の光は吸収のため遠距離からの観測は困難である。そこで、水中で近距離からの反射を捉える方法として、水中での青色域の減衰が赤色域より少ないこと、光合成は青色域も利用されている性質を活用して開発を行った。市販のデジタルカメラを活用することで安価なコストでモニタリングできるうえ、白化にいたる段階を数値化できるため、いままでの目視による主観的なモニタリングに対して客観的データを収集することができる。このシステムを用い、サンゴの期間経過での変化と、目視では確認できない変化が起こっているかを調べた。研究方法市販のナイトショット機能(近赤外域の感度が高い機能)を持つデジタルカメラに青と近赤外光を切り分けるフイルターをつけてそれぞれ撮影し、2つのサンゴの画像から画素演算したNDCI画像(画像用サンゴ用正規化植生指標)から、サンゴの健康度をシュードカラー表示で可視化すると共に、一定の範囲のNDCI画素のデジタル値の平均値を比較することで健康度の推移を調べた。研究成果この手法により、7月、8月、10月、1月と石垣島白保リーフにおいて観測を続けた結果、白化と通常の状態の間で目視では確認できない段階を可視化し、期間変化を数値化し、高温ストレスや低温ストレスの影響を明らかにすることができた。また、10月のときは台風通過の翌日の観測になったが、キクメイシの画像解析では、流れ上流側の健康度が低く、流れと反対側は高いことが分かり、1月にもう一度同じキクメイシを測定したところ、通常の状態のように、全体に健康度の高い部分が広がっていた。このことから、上流側に砂や泥が流れてきてその泥ストレスによる健康度変化と思われるデータも収集でき、大きな成果をあげた。
著者
市川 温
出版者
山梨大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は、流域管理による水防災政策の実現可能性を検証するとともに、効果的・効率的で持続可能な水防災政策とその実現方策を探ることである。本研究で対象とした、大阪地域、東京地域では、流域管理の一つの方策である土地利用規制・建築規制が水防災対策として一定程度の適用性を有していることが明らかとなった。その一方で、これらの規制は、所得の低い世帯に対して相対的に大きな負担を強いることも明らかとなった。
著者
伊集院 睦雄
出版者
地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

読解とは,文字を入力とし意味を出力とする計算過程であり,その計算には,文字表象から直接その語の意味表象を計算する過程(orth→sem)と,文字表象からその語の音韻表象を計算した後,そこから語の意味表象を計算する過程(orth→phon→sem)がある.本研究では,意味の計算における両過程の役割分担に注目し,人工的ニューラル・ネットワークを用いたシミュレーション実験を行った.日本語の音読と読解を学習したモデルにおいて,orth→semとorth→phon→semの各処理過程を孤立させて意味を計算し,両処理過程の寄与を漢字と仮名の表記別に検討した.その結果,漢字語全般における両処理の寄与率に差は認められなかったが,orth→semの一貫性が高い漢字語の意味計算では,直接計算過程の寄与が高かった.一方,仮名語では,音韻媒介過程の寄与が高かった.本結果は,日本語の読解における意味の計算過程の役割分担が,表記によって異なる可能性を示唆する.
著者
田辺 欧
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究はアンデルセン文学のなかで特にマイナーとされるジャンルを中心に、"移動"というテーマによってテクストを選別し、脱領域観点からアンデルセン文学を「越境文学」として検証することであった。空間と文化を越境しつづけたアンデルセンの流動的なマルチ芸術性に注目しつつ、アンデルセン文学が複数の文学領域、また文学以外の芸術領域と交錯するなかで「総合芸術」として創造されたことを考察した。その結果、単にロマン主義文学としての「総合芸術」の所産に留まることなく、現代においても、統合芸術として、常に新たな解釈の可能性があることが検証された。
著者
バイアライン オリファ 里村 和秋 鈴木 伸一
出版者
南山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

私たちは、e-LearningソフトのMoodleをベースにして、初心者レベルにある日本の学生のために、「外国語としてのドイツ語」の独習コースをどの程度まで発展させることが可能なのかを調べました。私たちは、試験や観察を通して、特に次のことを見いだしました。つまり学生は、条件つきで独習コースを受講するということです。すなわち、学生にとって、自己学習は、教育的な器具としてのコンピュータとの接触に、あまり慣れていないということです。私たちの研究のもう一つの主要なポイントは、自学自習に適しているフィードバックの方法がどのようなものであるのかという研究でした。これに関して私たちは、仮定に反して、詳細なフィードバックは必ずしも必要ではなく、いくつかの練習形式では学生を混乱さえさせることがわかりました。さらに私たちは、Moodleをベースに会話練習する場合、どのような可能性があるのか研究しました。