著者
福原 正代 安細 敏弘 高田 豊 秋房 住郎 園木 一男 竹原 直道 脇坂 正則
出版者
九州歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

福岡県内在住の大正6年生まれ(1917)の人を対象に、80歳時に口腔と全身状態の調査をおこなった(福岡県8020調査)。福岡県8020調査の受診者を対象に、平成15年85歳時の口腔と全身状態の調査を施行した。口腔健診には、現在歯数、咀嚼能力を含む。咀嚼能力は15食品の咀嚼可能食品数で表現した(ピーナッツ、たくわん、堅焼きせんべい、フランスパン、ビーフステーキ、酢だこ、らっきょう、貝柱干物、するめ、イカ刺身、こんにゃく、ちくわ、ごはん、まぐろ刺身、うなぎ蒲焼き)。内科健診には、身長、体重、血圧、脈波伝播速度(PWV)、心電図、血液検査を含む。Mini-Mental State Examination(MMSE)を用い認知機能を調査した。現在歯数・咀嚼状態と、認知機能および動脈硬化の関係を検討した。受診者207名のうち205名(男性88名、女性117名)でMMSEを施行した。MMSE得点は23.8±0.3点(30点満点、平均±標準誤差)で、性差はない。MMSE得点は24点以上が正常とされるが、MMSE24点以上の達成率は62.4%。現在歯数は7.3±0.6本で、咀嚼可能食品数は10.7±0.3。MMSE得点と現在歯数の間には有意な相関はなかった。一方、MMSE得点と、咀嚼食品数の間には正の相関の傾向があった(相関係数0.12、p=0.08)。咀嚼食品数を0-4、5-9、10-14、15の4群にわけると、それぞれの群のMMSE得点は、22.7±1.3点、23.6±0.7点、23.9±0.5点、24.4±0.5点であった。PWVはMMSE正常群22.9±0.5m/sec、MMSE低下群24.9±0.8m/secで、有意にMMSE低下群で高値であった(p<0.05)。性別、BMI、収縮期血圧、PWV、脈圧、心電図SV1+RV5、総コレステロール、HbA1c、喫煙、飲酒、教育歴について、MMSE得点との単相関をとると、PWV、SV1+RV5、教育歴が有意となった。重回帰分析でもPWV、SV1+RV5、教育歴のみが有意な説明変数となった(p<0.05)。【結論】口腔衛生状況を改善し咀嚼能力を保つことで、認知症が少なくなる可能性が示唆された。仮に自分の歯がなくても、義歯をつけていれば、咀嚼できる食品数が多く、認知症が少なくなる可能性がある。また、85歳一般住民において、PWVは認知障害の独立した説明変数であった。PWVは動脈硬化性血管病変を反映するひとつの指標であるが、85歳という超高齢者においても、認知機能が、動脈硬化性血管病変の進行にともなって障害されると考えられた。
著者
津田 基之 岩佐 達郎
出版者
姫路工業大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

多くの視物質のアミノ酸配列が明らかにされており、視物質は分子進化を研究する上で格好な蛋白質である。しかしその多くは脊椎動物の視物質で、無脊椎動物では昆虫と頭足類に限られている。これらは動物界ではほんのわずかな種類であり、分子系統樹を確立するためには広い動物種の視物質の情報が必要である。我々はすでに頭足類タコ、無顎類やつめうなぎの視物質のクローニングをした、昨年はプラナリアの視物質のクローニングを行いこれが頭足類に似ていることを示した。本年は種々の無脊椎動物の眼のcDNAを得て試してみたところ、ゴカイ、クラゲ、ヒトデ等からロドプシンに相同性を示すDNA断片を得ることができた。さらにクラゲでは全長の遺伝子をクローニングできた。原索動物ホヤの幼生は脊椎動物の始原型であり、特に重要である。我々は、ホヤの初期幼生cDNAライブラリー、初期幼生の種々のステージの全RNAから得たcDNA、ゲノムDNAをテンペレートとしてPCRを試みても、目的とするサイズの特異的バンドは得られなかった。そこでタコロドプシン遺伝子、ウシロドプシン遺伝子をプローブとして種々の条件でサザンハイブリダイゼーションを行ったところ、各々のプローブに相同性を示す、いくつかのバンドを同定することが出来た。現在これらの知見を基にホヤのゲノムライブラリーのスクリーニングを行ている。
著者
藤尾 伸三
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

2年計画の最終年であり,診断モデルによりLevitus et al.(1994)による水温・塩分データセットから流速場を計算した.モデルは全体として観測などによる海洋循環像をよく再現する.1991年に行った結果を比較しても,モデルのエラーは小さくなった.水温・塩分データ(Levitus,1981)が更新され,精度が向上したことやモデルの解像度を高めた(水平2度,鉛直15層から水平0.5度,鉛直29層),海底地形をより正確に再現できたことによる.深層での流れを調べるため,標識粒子を投入してその移動を調べた.深層水の起源とされるグリーンランド沖やウェッデル海に投入した標識粒子の一部は北太平洋の深層に達することが確かめられた.最も速い粒子の移動に要する時間は200年程度であり,化学トレーサーなどからの数千年という推定とは異なるが,主に混合・拡散の効果をモデルでは無視しているためであり,今後の課題である.標識粒子により同定された深層水の移動経路などを今後,観測などと比較し,その確からしさなどを把握する必要もある.なお,モデル計算と合わせて,日本東方域の流速観測・CTD観測データなどの解析も行い,伊豆小笠原海溝における北上・南下の流れを明らかにした.流速観測では局所的な地形の効果は明瞭である一方,CTD観測では水塊の性質が均一化されているため,循環がわかりづらい.これらをモデルと合わせることで深層循環に関する理解を深めることができよう.
著者
富田 裕介
出版者
東京都立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

クラスターアルゴリズムは隣り合うスピンをある確率でつなぎ、系を大域的に更新することによって効率よく計算するアルゴリズムである。しかし、系にフラストレートがあるときやスピンと相転移との関係が明らかでないときにはクラスターアルゴリズムは必ずしも有効ではない。このような背景から我々は確率変動クラスターアルゴリズムを一般化し、クラスターアルゴリズムと切り離すことを考えた。確率変動クラスターアルゴリズムの枠組みを広げてみると、1変数有限サイズスケーリング関数に閾値を設定し、ある瞬間において系の状態がその閾値を超えているか否かで温度を変化させていると考えることができる。1変数有限サイズスケーリング関数はパーコレーションのほかに秩序変数のモーメント比や相関関数の比(相関比)などが考えられる。2次元イジングモデルとクロックモデルを用いて、モーメント比と相関比を数値的に求め比較を行い、相関比がモーメント比より確率変動アルゴリズムに適していることを確かめた。特に2次元クロックモデルのKosterlitz-Thouless相と秩序相の臨界領域において、モーメント比では解析が非常に困難なのに対し、相関比では比較的容易に解析できることを示した。相関比を使った確率変動アルゴリズムで2次元S=1/2量子XYモデルの解析を行った。アルゴリズムは、鈴木-トロッター軸の外挿が必要ない・非対角成分の計算が容易、などの利点があることから連続虚時間ループクラスターアルゴリズムを用いた。確率変動アルゴリズムから得られた結果は相転移温度の評価に関して最近の結果と誤差の範囲で一致した。また臨界指数に関してはくりこみ群の計算が正しいことを裏付け、確率変動アルゴリズムが量子スピン系の臨界現象の解析にも有効であることを示した。
著者
服部 英雄 稲葉 継陽 春田 直紀 榎原 雅治
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

文献資料のみに依拠してきた従来型の歴史学の隘路を切り開くべく、地名を史料(歴史資料)として科学的に活用する方法を確立した。地名を網羅収集する作業を進め、文字化されていない未記録地名を収集し、地図に記録し印刷した(主として佐賀県および熊本県阿蘇郡)。地名を史料として利用するため、電算化による検索を九州各県および滋賀県で進めた。研究上の環境整備を進めるいっぽうで、地名の歴史史料としての学問的有効性を確認し、拡大する作業を行った。交通に関わる地名、タンガ(旦過)、武家社会を考える地名イヌノババ(犬の馬場)、対外交渉史を考える地名トウボウ(唐房)をはじめ、条里関係、荘園関係、祭祀関係などの地名の分布調査、および現地調査を進めていった。地名の活用によって、研究視野が拡大される例。唐房地名は中世チャイナタウンを示す。従来の研究は対外交渉の窓口は博多のみであると強調してきたが、唐房は九州北部(福岡県、佐賀県、長崎県)、九州南部(鹿児島県)にみられる。一つの港津にトウボウ(当方)のほか、イマトウボウ(今東方)もあって、複数のチャイナタウンがあった。綱首とよばれる中国人貿易商の間に利害の対立があったことを示唆する。福岡・博多は新河口を開削して(御笠川や樋井川、名柄川)、干潟内湖を陸化し、平野の開発を進めた。それ以前には多くの内湖があって、それに面して箱崎、博多、鳥飼、姪浜、今津の港があった。自然環境・立地は類似する。博多のみが卓越していたわけではない。貿易商社たる綱首は一枚岩ではなく、競合した。それぞれが幕府、朝廷(大宰府)、院・摂関家と結びつく。地元では相互が対立する寺社と結びついた。チャイナタウンは多数あって、カンパニー・ブランチを形成した。これは考古学上の成果(箱崎遺跡で中国独自の瓦検出)とも一致する。従来の研究にはなかった視点を獲得した。
著者
酒井 暁子 北川 涼 近藤 博史
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

丹沢山地の306ha集水域において、樹木の分布パターンは地形変数で説明され、大径木が主尾根に分布することと支尾根で小径木の本数が多いことにより、尾根周辺で地上部バイオマスが大きいこと、また樹種により多様な分布特性を持つこと等を示した。また南アルプスの亜高山帯で、地表の撹乱状況と対応した微地形構造に規定される樹種の分布パターンを明らかにし、山地帯渓畔林との類似・相違点を示した。
著者
飯島 慈裕
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2009

近年、東シベリアにおいて、気候の急速な湿潤化が進行している。本研究は、現地観測の展開によって、永久凍土地域の土壌水分量が増加し、同時に地温上昇・表層部の永久凍土融解(活動層厚増加)が顕著に進行し、さらに植生・地形の変化がもたらされた一連の凍土荒廃の物理・生態的プロセスを明らかにした。さらに、衛星データ解析から湿潤化による凍土環境荒廃状況について、その時空間分布の地図化手法の開発と検証を行った。
著者
藤田 耕司 松本 マスミ 谷口 一美 児玉 一宏
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

中間動詞構文は、狭義の統語論・意味論の相関のみならず事態認知の有り様を反映した言語現象でありながら、これまで理論横断的な包括的研究はあまり行われてこなかった。本研究では、現代理論言語学の二大潮流である生成文法と認知言語学の双方の利点を組み入れた統合的なアプローチを採ることによって、この多様な側面を持つ現象のより優れた分析方法を提案するとともに、生成文法、認知言語学それぞれの問題点と今後の展望を浮き彫りにした。
著者
田倉 哲也
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究で採用しているソフトヒーティング法は,感温磁性体と金属環を組み合わせることにより,自動温度制御機能と高発熱を同時に実現することが可能な唯一のハイパーサーミア用デバイスである.今回は,そのデバイスの更なる小型化に着目し,上記の手法を応用した感温磁性粉末のハイパーサーミアへの可能性を検討した.また,腫瘍に対する効果の確認された針状埋込発熱素子の加温可能範囲について,数値解析法を用いることで検討を行った.金属被膜を施した感温磁性粉末の温度制御機能と高周波磁界中での発熱特性については既に明らかにしているので,今回の検討事項としては,金属被膜を施した感温磁性粉末の金属被膜厚に関して,その厚みを変化させたときの発熱特性についてシミュレーションと実験から検討を行った.まず,シミュレーションについては,市販の磁場解析ソフトを用いてモデルを作成し,解析を行ったところ,粉末量固定の場合,発熱量が最大となる最適金属被膜厚なるものを確認することができた.さらに,検証を行うために,種々,金属被膜厚を変化させた発熱粉を用いて実験を行ったところ,同様の傾向が確認された.このことから,粉末状埋込素子の設計が可能になり,より治療効率の高い埋込デバイスを開発していくことが可能になる.続いて,針状埋込発熱素子の加温可能範囲に関して検討を行った.第一種境界条件を適用した二次元の熱伝導方程式を解くことにより,42.5℃以上に加温することが可能な発熱素子からの距離について解析を行った.その結果,腫瘍サイズと発熱素子の配置方法・発熱素子温度の関係を導くことが可能になり,ハイパーサーミア時における治療プロトコルを進捗させることができた.
著者
犬丸 啓 福岡 宏 山中 昭司
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では,系を特徴づける分子レベル,ナノレベルあるいはそれ以上のレベルの階層同士が機能面で絡み合っている系を,「機能階層系」と定義し、これをキーワードにした材料の探索を、薄膜合成や超高圧合成などの特殊反応条件を活用し行った。酸化チタン粒子や金属Pd粒子をメソポーラスシリカで包含した複合体の(光)触媒作用、超伝導金属窒化物や反強磁性窒化物の高圧合成や薄膜合成などにより、特殊反応条件の特徴の現れた、あるいは界面における相互作用が物性に大きく影響を与える系が見出された。
著者
赤川 学
出版者
信州大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本研究は、近代日本におけるセクシュアリティ(性、性欲)に関する言説が、いかに形成され変容したかを、一般向け性啓蒙書を中心とする豊富な一次史料をもとに、言説分析・歴史社会学の手法を用いて分析している。本研究の主要な知見は、以下の通りである。第一に、19世紀に西洋社会で沸騰した、「オナニー有害論」の言説が、近代日本社会に輸入・定着・消滅する過程を分析した。オナニーに関する医学的言説は、「強い」有害論/「弱い」有害論/必要論の三つからなっており、「強い」有害論全盛期(1870-1950)、「弱い」有害論全盛期(1950-60)、必要論全盛期(1970-)という経過をたどることが示された。そして、(1)「強い」有害論から「弱い」有害論への変化の背景に、「買売春するよりはオナニーの方がまし」とする「性欲のエコノミー問題」が存在したこと、(2)「弱い」有害論から必要論への変化の背景に、「性欲=本能論から性=人格論へ」という性欲の意味論的転換が存在したことを明らかにした。第二に、近代日本における「性欲の意味論」が、「性欲=本能論」と「性=人格論」の二つからなることを示した。前者は「抑えきれない性欲をいかに満足させるか」という「性欲のエコノミー問題」を社会問題として提起し、この問題に人々がどう解決を与えるかに応じて、個別性行動に対する社会的規制の緩和/強化が定まることを論じた。また性=人格論には、フロイト式のそれとカント式のそれが存在し、この二つはときに合流したり(純潔教育)、ときに拮抗・対立したりする(オナニー中心主義とセックス中心主義)ことを示した。最後に1970年代以降、あらゆる性の領域において、愛や親密性を称揚する親密性のパラダイムが、行為の価値を定める至高の原理となりつつあることを確認した。
著者
福田 妙子 斎藤 重行
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

「ハロタン最小肺胞濃度における7-Nitro Indazoleの効果」(平成10年度分課題)[方法]Sprague-Dawleyラット14匹を、対照群と7-Nitro Indazole(7-NI;神経型一酸化窒素合成酵素阻害薬)群に分けた。ハロタンの最小肺胞濃度(MAC)をEgerらの方法で測定した後、7-NI100mg/kgあるいは溶剤のピーナッツ油を腹腔内投与し、再度MACを測定した。測定後ホルマリンで脳と脊髄を固定し、NADPH-diaphorase染色を施行した。[結果]7-NIはハロタンのMACを約50%低下させた。同時にNADPH-diaphorase染色では青斑核と脊髄後角で約25%の陽性細胞低下を認めた。「デキサメデトメジン投与後のハロタン最小肺胞濃度とNADPHジアホラーゼ組織化学染色」(平成11年度分課題)[方法]Sprague-Dawleyラット36匹を、デキサメデトメジン(DEX;α2作動薬)単回投与(50μg/kg)と3日及び14日間の慢性投与(50μg/kg/day)の3群、さらに各々の対照群3群の合計6群に分け、MAC測定とNADPH-diaphorase染色を施行した。[結果]単回投与のDEXはハロタンMACを約50%低下させたが、NADPH-diaphorase染色の低下は伴なわなかった。持続投与のDEXはハロタンMACを変化させなかったが、3日投与群で青斑核の陽性細胞数が有意に低下していた。DEXによるMACの低下は一酸化窒素の抑制を介しているとはいえなかった。[まとめ]一酸化窒素は吸入麻酔薬の最小肺胞濃度決定に重要な役割を果たしていたが、最小肺胞濃度は一酸化窒素単独で決定されてはいない。
著者
権藤 恭之 高橋 龍太郎 増井 幸恵 石崎 達郎 呉田 陽一 高山 緑
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、高齢期におけるサクセスフルエイジングを達成するためのモデルが加齢に伴って、機能維持方略から論理的心理的適応方略、そして非論理的超越方略へと移行するという仮説に基づき実証研究を行ったものである。70 歳、80 歳、90 歳の地域在住の高齢者 2245 名を対象に会場招待調査を実施しそれぞれ関連する指標を収集した。その結果、高い年齢群ほど身体機能、認知機能の低下が顕著である一方で、非論理的適応方略の指標である老年的超越の得点は上昇しており、高い年齢になるほどサクセスフルエイジング達成のために非論理的適応方略が有効であることが示唆された。
著者
坂田 完三 碓氷 泰市 渡邊 修治
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

1)烏龍茶のアルコール系香気生成機構の分子レベルでの解明:我々が確立したアルコール系香気前駆体検出法を用いて,烏龍茶水仙種および毛蟹種の殺青葉から,アルコール系香気前駆体を単離,構造決定し、これらのほとんどが2糖配糖体(β-primeverosides)であることを明らかにした.ついで,予備検討として,入手が容易な緑茶用品種やぶきた種新鮮葉からアルコール系香気生成酵素を精製し、本酵素がβ-primeverosidesを特異的に認識して加水分解し,アルコール系香気とprimeveroseを生成する酵素β-primeverosidaseであることを明らかにした.さらに,p-nitrophenyl β-primeveroside(pNP-Pri)を合成することができたので,これを用いて中国から入手した烏龍茶水仙種および日本産やぶきた種の新鮮葉中の香気生成酵素の精製を行い,これらがSDS-PAGEにて61KDaに単一バンドを示すほとんど同一の酵素であることを明らかにした以上のようにして,茶葉におけるアルコール系香気生成機構を分子レベルで明らかにすることができた.2)茉莉花の香気生成機構の分子レベルでの解明:ジャスミン茶の製造に用いられている茉莉花から,linaloolと2-phenylethanol,benzyl alcoholの2糖配糖体を香気前駆体として単離同定した.また茉莉花の開花直後の花から調製したアセトンパウダーの可溶化,カラムクロマトグラフィー等による部分的精製の結果,香気生成酵素は,グリコシダーゼで,本酵素は少なくとも3種類存在し,これらの酵素は2糖配糖体をアグリコンとグリコシド結合のみを加水分解して香気成分へと変換することを明らかにした.3)pNP-Priの酵素合成:香気生成酵素研究に不可欠な基質であるpNP-Priの酵素合成を行った.市販のpNP-β-D-glucophyranoside(pNP-Glc)を受容体基質,xylobioseを供与体基質として市販の酵素をスクリーニングしたところ,Pectinase Gに糖転移活性を認められた.部分精製した酵素を用いてpNP-Priの酵素合成が行えることを見いだした.この基質を手に入れることで,上記の研究は飛躍的に進展した.
著者
土橋 宜典
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本年度は、ポイントモデルを用いた仮想物体の高精度輝度計算、空・雲の高速表示の研究を行った。さらに、画像だけでなく、音まで加えることで仮想空間のリアリティの向上を図った。それぞれについて、概要を述べる。・ポイントモデルによる仮想物体の表示本研究では、ポイントサンプルジオメトリのための相互反射計算法を開発した。サンプル点の集合で表現された3次元物体からメッシュを発生させることなく相互反射計算を行う。メッシュ構築の手間を軽減し、記憶容量の削減が実現できる。・空の高速表示空の色を忠実に表現するために,天空光の輝度計算を多重散乱まで考慮して行う必要があるが,この多重散乱の計算は非常に複雑であり,膨大な計算コストがかかってしまう.本研究では,光の多重散乱の計算を効率よく行う手法を開発した。大気を仮想的な層(サンプリングシェル)に分割し,それらの層上での微粒子による散乱光の輝度分布を散乱マップと呼ぶテクスチャとして扱うことで,グラフィクスハードウェアを効果的に使用した手法を開発した.・雲の高速表示流体シミュレーションなどで得られる雲密度のボリュームデータを可視化するためには、光源方向の光の減衰とおよび視点方向の光の減衰を考えなければならない.従来法では、ボリュームデータを光源方向と視点方向にそれぞれ垂直にスライスを取ることによって減衰の計算を行っていた.本稿ではシャドウ・ビュースライスという光源方向と視点方向間のスライスを取ることにより、二つの計算のプロセスを統合し、従来法よりも計算コストを削減した手法を提案する.・炎の音のシミュレーション本研究では、炎によって生じる音のシミュレーション手法を提案する。炎の音は流体中の渦の非定常運動が主原因であるため、流体解析結果から渦度分布の時間変化から計算する。
著者
藤本 明宏
出版者
福井大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、車両熱および凍結防止剤散布の影響をそれぞれ組み込んだ熱・水分収支による路面雪氷状態モデル(車両熱モデルおよび凍結防止剤モデル)を構築し、実験結果との比較からモデルの妥当性を検証した。車両熱モデルによる計算結果は、乾燥路面温度の実測値、圧雪路面の融解過程における雪氷厚および雪氷密度の実測値とそれぞれ良好に一致した。凍結防止剤モデルの計算結果は、凍結防止剤散布路面の凍結および融解過程における舗装温度および塩分濃度の実験値と概ね一致した。本研究により、車両熱と凍結防止剤を考慮して路面温度および路面雪氷状態を計算することが可能になった。
著者
鈴木 玲子 常盤 文枝 山口 乃生子 大場 良子 横井 郁子 高橋 博美
出版者
埼玉県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、批判的思考力の育成が養われるWeb 版でのPBL 教育プログラムを開発・実践し、開発したプログラムの有用性を批判的思考力などから検証することである。研究Iは、看護教育独自な批判的思考を支えるCT 尺度の信頼性と妥当性を検討し、5 つの下位尺度、15 項目からなる看護版の「批判的思考態度尺度」を開発した。下位尺度は、「懐疑的態度」「協同的態度」「根気強さ」「探究心」「論理的思考への自信」と命名し、Cronbach'α係数は全体で0.79、外的基準尺度と看護基礎教育用批判的思考態度尺度との間には有意な正の相関が得られ、この尺度をWeb 版でのPBL 教育プログラムの検証に使用した。研究IIでは、看護診断学習に対して、Web を活用した場合のPBL 学習とPBL テュートリアル学習の教育前後での批判的思考力評価を比較し、Web 版PBL 教育の効果を検証した。その結果、批判的思考態度や対人技能態度評価の比較では、二つの教育方法による有意な差はみられず、同等の教育効果を示す傾向が得られた。しかしながら、対象者数が少ないこともあり、さらなる検証を必要する課題が残る。また、ICT の教育への運用面についても検討が必要である。
著者
田中 仁 NGUYEN XuanTinh NGUYEN Xuan Tinh NAUYEN XuanTinh
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

これまで,海浜変形に関する研究は枚挙に暇がないほど数多くのものがなされている.ただし,これらの既往の研究は,沖浜帯から砕波帯,遡上域までを対象とする研究がほとんどである.海浜において大規模な地形変動をもたらす高波浪時には,このような沖域から遡上域までの海浜部のみならず,波が遡上し,さらには越波が生じる海浜域においても大きな地形変動が生じる.しかし,このような間欠的に生じる越波現象に伴う地形変化については,これまでほとんど研究がなされていない.その理由は,(1)現象の生起がまれであり,またその発生箇所も予測が困難であるため,現地データがほとんど蓄積されていない,(2)間欠的に生じる越波による,ドライな砂面上の薄層流を記述する動力学が確立されていないことなどが挙げられる.そこで,今年度の研究においては,このような越波に伴う地形変化に対する対策工の効果に関する検討を行った.対象は宮城県仙台市に位置する七北田川河口の蒲生干潟であり,同所には砂丘頂部に越波防止を目的とした捨て石堤が建設されている箇所と,未整備の箇所がある.そこで,これまでに開発したモデルを両者に適用することにより,3mの越波防止堤の存在が土砂移動を効果的に防止していることが分かった.一方,越波防止堤が整備されていない箇所については,越流により大規模な土砂堆積が生じることが分かった.また,蒲生干潟海岸では津波の越流により砂浜地形が大きく変化した.そこで,2011年3月以降には津波による地形変動についても現地調査を行い,バリアー地形の回復過程を明らかにした.
著者
中野 幸紀 MOE Espen
出版者
関西学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

Espen MOE研究員が提示した「産業活動の持続的可能性に関する指摘理論分析フレームワーク」に沿って、日本の省エネルギー政策及び新エネルギー政策に関する文献調査、ヒアリング調査及び研究会を実施した。なお、本研究については当初2年間(24か月)の調査実施期間を想定していたが、Espen MOE研究員の本国ノルウェー科学技術大学に就職が決まったため平成21年12月22日までの1年と1カ月間の研究期間となった。これにより、平成21年度に計画していた研究については一部その実施が結果的にできなかった。以下、研究計画に沿って報告する。平成20年度にはEspen MOE研究員の来日を待って日本国内で実施する共同研究の具体化のために有識者との懇談を4回実施した(平成20年度実績報告書)。平成21年度前半には、風力発電システムの開発及びその社会的普及に関する調査を行った。(1)省エネルギー推進政策省エネルギー法の制定導入時に意図された政策目的を当時の担当課長、課長補佐などに電力中央研究所が過去にインタビュー調査した結果などについて、調査担当者などからヒアリング調査を行うことができた。(2)新エネルギー機器産業形成政策風力発電システムの開発普及に関して元三菱重工業風力発電システム開発担当者に7月末にインタビューを行い、風力発電電力の価格設定、既存電力系統との接続問題、電力の地域独占などの問題が日本における風力発電の社会的普及に足かせとなった時期があったことが明らかにされた。この経験から、将来のオフショア型風力発電システムの導入、スマート・グリッド導入などの政策的検討の際にもグリッド既得権の調整が大きな課題となることが予想されることが明らかとされた。本事例研究によって、MOE研究員が欧州及び米国の事例研究を通じて提示している既得権調整に関わる史的分析アプローチが日本の事例に対しても有効であることがわかった。次に、日本における太陽光発電システムの社会的普及について、同様のインタビュー調査を行うために夏休み明けから複数の企業と接触を開始したが、MOE研究員のノルウェー本国での就職が決まったことによって中断した。日本を事例とした研究成果は、MOE研究員がノルウェーに帰国後発表される予定である。平成22年度についてはMOE研究員が新たに所属することとなったノルウェー科学技術大学のプロジェクト研究として継続される予定である。
著者
吉野 純
出版者
岐阜大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

昨年度に引き続き,構築されたバランス台風モデルを用いて,台風強度と環境場との関係についての統計的解析を行った。その結果,台風の十分な強度発達のためには,高い海水面温度環境のみならず,定常に達するまでの十分な経過時間(台風発生から140時間以上)を要することが理解された。経過時間の不十分な台風は,陸地や強い風の鉛直シアーの影響を受けて定常に達する前に減衰してしまうことが明らかとなった。すなわち,台風の発生位置や進路までもが,間接的には台風強度に影響を及ぼしていると言い換えられる。また,これらの統計解析の結果に基づき,個々の台風のピーク時の強度を台風発生時に瞬時に推定できる回帰関係式を提案し,リアルタイム台風災害ハザードマップの構築が可能となる画期的な結果を得た。更に,これらの知見に基づき,非定常な台風強度変化を評価できる台風強度予測システムを構築した。気象モデルMM5から得られる台風の環境場(海水面温度,対流圏界面温度,水蒸気プロファイル,風の鉛直シアー,海洋混合層深等)に関する情報を入力値とすることで,低い計算機資源の下で台風の内部構造とその強度が予測可能となった。本システムを用いて実事例として1999年の全台風の強度予測実験を行い,精度検証することで,平均バイアス誤差±5hPa以内で台風強度予測が可能であることを実証した。以上より,今日まで台風予測において問題となっていた1)空間解像度の問題,2)モデル定式化の問題,3)初期値の問題,のうち1)と2)の問題が本研究により解決され,高精度かつ経済的に台風予測が可能となった。依然として3)の問題が残されるが,更なる高精度化のための今後の最重要検討課題であると言える。