著者
大野 寿子 野呂 香 早川 芳枝 池原 陽斉
出版者
東洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

『メルヒェン集』、『伝説集』の森の特性を検証しつつ、グリム兄弟の「理念としての森」の意義を、「生の連続性」という観点から明らかにした。言語、歴史、文学、文化における「古いにしえのもの」の喪失を森林破壊プロセスにたとえ、「古いにしえのもの」の再評価の重要性を説く彼らの自然観および詩ポエジー観は、19世紀エコロジー運動の理念における先駆的地位を担いうる。伝承文芸に必要な想像力の豊かさとは、心情としての内面的「自然」を豊かにする「癒し」の力を有する意味で、現代社会における「心のエコロジー」にも繋がりうる。
著者
柳原 崇男 三星 昭宏
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D (ISSN:18806058)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.285-298, 2008 (Released:2008-06-20)
参考文献数
32
被引用文献数
1

本研究は,全盲者および重度弱視者を対象として,視覚障害者の方向感覚を測定し,視覚障害者用移動支援システムの開発や評価などにおいて,被験者を分類し,評価を行うことを検討した.まず,方向感覚質問紙簡易版(SDQ-S)により,これまでの歩行実験などではなく,簡易な質問紙で方向感覚から歩行能力を測定できることを示した.そして,歩行者音声案内システム社会実験において,方向感覚から歩行能力の高い群と低い群に分類し,評価結果を示した.その結果,方向感覚から被験者を分類し,その評価の有効性を示すことができた.
著者
直江 眞一 朝治 啓三 井内 太郎 國方 敬治 苑田 亜矢 都築 彰 沢田 裕治 吉武 憲司
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、イギリス(イングランドのみならずスコットランドおよびウェールズも含む)中世史および近世史における諸史資料を、総合的・学際的・系統的に検討し、あわせて諸史資料の解釈を通して、イギリス中・近世史の再構成を試みたものである。研究分担者の間では、史資料を、[1]文書の性格に応じて、統治・行政文書(都築)、荘園関連文書(宮城)、証書(中村)、叙述史料(有光)、私文書(森下)に分類する一方、[2]発行主体に応じて、国王裁判文書(澤田)、国王立法関連文書(苑田)、国王宮廷関連文書(吉武)、国家財政関係文書(井内)、貴族家政文書(朝治)、領主支配関連文書(國方)、ジェントリ関連文書(新井)に一応分類することによって、全体として体系性を保つようにした。研究代表者および研究分担者はそれぞれ、研究対象とする史資料に関するマニュスクリプトをはじめとする1次史料に関する情報を国内外の図書館・文書館から収集し、それらを分析・整理する一方で、とりわけ研究会における共同討議を重視した。毎年度2回、研究期間全体で8回開催された研究会の活動を通して、史資料に関する情報の共有化、さらには各史資料の間での形態・様式・機能・伝来状況の比較研究等、個人レヴェルでの研究では到達しえない研究組織全体としてのイギリス中・近世史資料に関する知見の拡大を得ることができた。また、毎年度3名がイギリスに出張し、史資料の調査・収集および学会ないし研究会における研究成果の発表あるいはイギリス在住研究者との意見交換等を通して、研究の深化を図ることができた。
著者
大高 泉 鶴岡 義彦 江口 勇治 藤田 剛志 井田 仁康 服部 環 郡司 賀透 山本 容子 板橋 夏樹 鈴木 宏昭 布施 達治 大嶌 竜午 柳本 高秀 宮本 直樹 泉 直志 芹澤 翔太 石崎 友規 遠藤 優介 花吉 直子
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究プロジェクトは、日本、ドイツ、イギリス、アメリカ等のESD(持続可能性のための教育)としての環境教育の展開を探り、実践、効果の一端を探った。具体的には、ドイツの環境教育の40年間の展開を探り、持続可能性を標榜するドイツの環境教育の動向を解明した。また、ESDとしての環境教育政策やその一般的特質、意義と課題を解明した。さらに、12の事例に基づきイギリスや日本の環境教育の広範な取り組みの特質を解明した。
著者
石崎 涼子
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.29-39, 2010-03-01
被引用文献数
3

本稿は,政策設計に焦点をあて,現在の森林・林業政策に機能不全をもたらす要因とその改革方向を検討することで,公共政策を通じた森林管理の課題について論じるものである。検討の結果,(1)現在の森林・林業政策が抱える機能不全を打開するには,戦略的な視点をもった政策設計が求められること,(2)私有林においては,基本的に民間の主体的な判断が重視される必要があること,(3)森林・林業に関わる知識や知見,技術などの情報的な基盤の整備や強化が民間の意思決定を支援するうえで重要となること,(4)競争力の強化を目指す施策は経営主体への側面的な支援を主とし,公益確保を目指した施策は実効性のある監視体制の構築が必要であるとともに,所有者等の自発的な参画を重視した政策手段の活用も有効と考えられることを指摘した。こうした視点で構築された制度・政策的な森林管理においては,現場に密着しながらも充分な専門的知見を有するフォレスターを核とした地域森林管理の果たす役割が大きいと考えられる。
著者
古川 泰
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.39-52, 2004-03-01
被引用文献数
4

地球環境時代にはいり,地方自治体から環境を強く意識した林政(森林・林業施策)が打ち出されてきている。本稿では高知県で導入された森林環境税と高知県梼原町で展開されている環境型森林・林業振興策を事例に,これら施策の成立と展開過程で住民参加がどのように行われているかを検証した。県レベルでは住民の参加はアンケート等の行政側の意見聴取という形で行われ新税推進の力となったこと,税制度設計,新税の使途についても影響力があったと言えること。梼原町の事例では住民自治組織を基礎とした意見聴取過程や施策実施における住民の直接的参加が追求され,効果が上がっていることが確認された。今後,地方自治体林政において環境面がより重視される方向に進んでゆく中で,行政もふくめた林業関係者は住民,市民をともに考えるパートナーとして受け入れることが必要である。
著者
高橋 卓也
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.19-28, 2005-11-01
被引用文献数
2

2000年の地方分権一括法の施行と時期を同じくして,地方森林税(または森林環境税,水源税)の導入が各都道府県で検討されている。地方森林税導入の動きは2つの点から興味深い。1)どのような要因によって地方森林税は各都道府県で現実化しているのだろうか。2)各都道府県別に意思決定がなされる結果,多様な林政の展開の端緒となる可能性があるのではないか。現状では政策決定の全過程(政策過程)を全都道府県について観察することは実質的に不可能であるため,本報告では政策決定の初期段階である地方森林税の政策課題設定(アジェンダ・セッティング)について分析し,以上2つの問いに答える第一歩とする。具体的には,地方森林税が各都道府県で政策課題となった時期と各都道府県の政治経済的な変数の関係をイベントヒストリー分析(生存時間分析)により統計的に検討する。分析のための作業仮説としてKingdonの提唱した「政策の窓」論を使用した。分析の結果,渇水の危険度,私有林の保育水準,都道府県林業費の支出水準,財政力の変化を示す変数と地方森林税検討開始時期との間に統計的に有意な関係が見出された。
著者
Weber Jurgen 吉次 基宣
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.48, no.6, pp.366-370, 2005
被引用文献数
1

アンナ・アマリア公爵夫人図書館の建物と収集品は,1998年以来ユネスコの世界文化遺産に登録されている。2004年9月2日のアンナ・アマリア公爵夫人図書館の大火は,第二次大戦後ドイツ最大の図書館火災であり,建物,美術品,書籍などに多大な被害をもたらした。このレポートでは,消火作業と書籍の救出の状況を説明し,被害を受けた図書の修復の準備状況について報告したい。
著者
吉田 毅 山本 教人
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

一流選手のキャリア・パターンを明らかにするために、16校の一流サッカー選手たちを対象に調査を行った。また、スポーツキャリア形成過程をめぐる日本的特徴を明らかにするために、ユニバ-シア-ド競技大会参加選手を対象に国際比較調査を行った。ここでは、紙幅の都合上、前者についてのみ報告する。選手たちは非常に早期から、ほとんど独占的にサッカーと関わっていた。生活においても、小学校時代よりサッカーが中心を占め、また多くが一流選手になりたいという指向性を持っていた。彼らの主たる活動の場は、地域や学校のクラブであった。始めるきっかけは、自分の判断やメディア、友人の影響が大きかった。サッカーとの関わりで中学校への進学を考えた者は少数であったが、多くの者にとって、進学する高校の選択には、サッカー環境は重要な要因であった。現在、4割以上が遠征に年間1月〜2月を費やしており、そのことが将来の進学や就職、勉強への不安となって現れているようであった。卒業後は4割以上が大学への進学を希望しており、すぐにプロとして活躍したいとする者は意外にも少なかった。スポーツ選手のリタイアメントについては、過去に大学で活躍した人々を対象に調査を行った。その主な結果は次のようなものであった。彼らは大学時代、生活の多くを犠牲にして競技に取り組んでおり、4割以上が将来一流選手になることを強く願っていた。2割は、大学への進学はスポーツの推薦入学であった。8割近くが大学卒業後も実業団・教職員チームなどで競技選手としての活動を続けていた。引退の決断は自発的なもので、体力や意欲の減退、時間的な制約などが主な理由であった。多くは、競技生活について後悔の念を抱いてはいなかった。引退後の職業生活上の困難を感じている者は少数であった。これは、多くが体育やスポーツに関わりのある職業を得ることができたためと考えられる。
著者
薩摩 雅登 竹内 順一 稲葉 政満 薩摩 雅登 横溝 廣子 古田 亮 佐藤 真実子 松村 智郁子 竹内 順一
出版者
東京芸術大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

東京藝術大学大学美術館では、明治期の音楽録音資料・蝋管を212本所蔵している。しかしながら、経年変化とカビにより保存状態が悪く、音楽資料としての価値を失いつつある。そのため、その保存体制として、アモルデン水溶液による蝋管の洗浄、収納棚やトランクの薫蒸、針接触方式のデジタル再録音機・アーキフォン(Archeophone)により124本の音源の再録音を行った。また、蝋管の基礎調査として、国内や海外の各機関や個人コレクターを対象としたアンケート調査および実地調査にて、収蔵環境や音源のデジタル化、蝋管の公開の手法、関連する最先端の情報を収集した。さらに、明治期の蝋管や蓄音機に関する新聞記事および広告を調査し、当時の社会状況を把握した。現在に至るまで断片的な研究しか行われていなかったが、本研究において、蝋管に関する情報を集約した。
著者
深尾 葉子 安冨 歩 安冨 歩
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究により、現地における通年の農作業調査を行い、また社会的コンテキストに働きかける緑化実験として、「黄土高原国際民間緑色ネットワーク」の活動を支援、参画し、観察を行った。同活動は、陝西北部楡林市一帯で、着実に活動を定着させ、広がりを見せており、地域の文化的社会的コンテキストに依拠した自律的自発的緑化モデルとして、貴重な事例となっている。現在一連の活動の成果を、『黄土高原生態文化回復活動資料集』としてまとめており平成21年度中に東京大学東洋文化研究所および風響社より出版予定である。
著者
入野 俊夫 河原 英紀 津崎 実 西村 竜一
出版者
和歌山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

音声知覚の基盤となる聴知覚特性を明確にし、数理的な理論の構築/検証を行った。1)寸法・形状知覚:発声方法による寸法弁別閾の違いが無いことや時間特性を明確にした。2)聴覚フィルタ特性/難聴者・健聴者の聴知覚特性:聴覚フィルタの周波数選択性や圧縮特性の同時測定と、模擬難聴を実現できる枠組みを世界に先駆けて開発した。3)機能的磁気共鳴像(fMRI)実験:音声からの寸法知覚の情報処理の座に関して知見を得た。4)音声知覚モデル化/音声・音響処理:理論的な背景をもとに話者の声道長推定が精度良くできることを示した。また、知覚的音響処理の改善も行った。
著者
清水 厚志
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

1)データベースの構築1000個のカオナシ遺伝子についてデータベースを構築し相同性のある遺伝子および他の生物種の相同遺伝子のデータをBLASTを用いて集積するシステムを立ち上げた。ヒトカオナシ遺伝子に関しては、cDNAの増幅のために必要なゲノム構造の入力を行いプライマーの設計も自動で行うシステムを構築した。設計した20個のモルフォリノアンチセンスオリゴ(MO)の配列データおよび位置の登録を行った。RT-PCRの結果やメダカ胚の画像、条件などをインジェクション機器に付属したPCからデータベースにアップロードするシステムを構築した。さらに、これらのデータをウェブブラウザーで表示できるシステム構築を行った。2)カオナシ遣伝子に対するRT-PCR及びWhole mount in situ法による発生初期ステージの発現解析メダカの発生ステージごとに受精卵を100-1000個採取しmRNAを抽出しcDNAを合成した。これらのcDNAライブラリーを用いて130個のヒトカオナシ遺伝子のメダカオルソログのRT-PCRによる発現解析を行った。これらの発現情報をもとにMOが有効な初期胚から発現している遺伝子20個をノックダウン解析の対象遺伝子とした。3)ノックダウン法による機能解析2)で選択した20個のカオナシ遺伝子についてMOを作製しメダカ初期胚に対しノックダウンを行った。その結果、脳室の肥大、発生阻害、アポトーシスなどを引き起こすMOを得ることができた。これらのことから機能推定が全くできず逆遺伝学の対象から外れているカオナシ遺伝子の中に発生に関与する遺伝子が含まれていることが確認できた。一方で、より安価にノックダウン解析を進めるためMOの他に市販されているアンチセンスオリゴであるGripNAやLNAなどを用いてノックダウン解析を行ったがMOと同様の表現型を得ることができなかった。
著者
栗原 豪彦
出版者
北海学園大学
雑誌
北海学園大学学園論集 (ISSN:03857271)
巻号頁・発行日
vol.140, pp.81-106, 2009-06-25
著者
伊東 久之
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

鵜飼は飼い慣らした鵜をたくみに利用して魚を獲る漁法である。この漁法は中国と日本において盛んにおこなわれ、一部は東南アジアからインドまで広がっている。両国の鵜飼はほぼ、同類と思われてきた。そのため、日本の鵜飼は中国から伝わってきたとする考え方が一般的である。しかし、両者の間には大きな違いがあるのである。長江にそって中国南部に広く分布する鵜飼は、鮎を獲る漁ではない。中国に鮎はいないのであり、鯉科の魚を獲るのである。この獲物の違いは、鵜を獲る漁法と鵜の日常生活に大きな差をもたらしている。日本の鵜飼が夏に行われるのに対して、中国の鵜飼は冬をシーズンとしている。中国に限らず、鯉は年中川にいて、晩春に産卵する。中国ではこの時期を禁漁とする。一方、日本の鮎は秋になると産卵のために川を下り、春に子供が遡上するまでの間、川には魚の姿がほとんど見られなくなる。このことは日本の鵜飼の漁期が短かいという結果をもたらす。しかし、最も大きな問題は、魚が減少する冬の間,鮎をどうやって食べさせていくかを考えなければならないことである。鮎の越年方法を持たない鵜飼は、日本では成り立たない。これが中国の鵜飼と大きく異なる点である。こうした観点から、日本での鵜の越年方法を全国的に調べてみた。そこには三つの方法が見出される。一つは秋になると鵜を海に戻す「放鳥方式」。二つめは海辺に預ける「里子方式」。三つ目は鵜とともに漂泊の旅に出る「餌飼方式」である。このように、さまざまな越年方法が各地で編み出されているということは、この漁法の歴史の長さを感じさせる。また、中国からの伝来説も、単純な移入でないことがわかり、簡単に決めつけることができなくなった。ともかく、鵜飼が鵜と鮎の習性の中で営まれる巧みな技であることが再確認された。