著者
高村 昇 青柳 潔 関根 一郎
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1986年のチェルノブイリ原子力発電所の事故からすでに20年余りが経過したが、事故当時小児であった群は現在思春期から成人期へとシフトしてきており、現在この年齢層における甲状腺がんの発生が大きな問題となっている。一方で汚染地域の中で最も甲状腺がんの増加が見られたベラルーシ共和国は、旧ソ連邦時代の経済的混乱から抜け出しつつあるものの、地方ではまだまだ医療インフラの立ち遅れが見られ、その影響は医療・医学教育の分野にも深刻な影響を及ぼしている。本申請では、長崎大学と学術交流協定を締結しているベラルーシ共和国のゴメリ医科大学との共同事業による遠隔医療・教育ネットワークシステムのための準備を行った。具体的には平成17年6月に研究代表者がベラルーシ共和国を訪問し、ゴメリ医科大学の担当者と協議の上、ゴメリ州内における医療機関との調整を行い、ベラルーシ共和国ゴメリ州のホイニキ地区病院における、無線LANを用いたネットワーク構築の準備を開始した。本プロジェクトについては、ベラルーシ共和国日本大使館とも協議して、草の根無償協力でのプロジェクト形成を行うことにした。今後、ホイニキ地区病院とゴメリ医科大学関連病院との遠隔医療システムをモデルとして、他の地区病院とゴメリ医科大学との間にも同様のネットワークを形成し、早期診断、早期治療に役立てる予定である。さらに、遠隔講義システムの構築についても協議を行い、その結果として平成17年に長崎からゴメリ医科大学に対しての遠隔講義を開始することができた。すでに数回にわたって、インターネットを用いた遠隔講義を行い、大きなインパクトを与えることができた。遠隔講義はベラルーシにおいて大きくマスコミにも取り上げられ、研究代表者がゴメリ医科大学の名誉教授を授与されるなど、医学教育の分野における大学間連携の推進に大きく寄与した。
著者
川人 貞史 坂本 孝治郎 増山 幹高 待鳥 聡史 福元 健太郎 空井 護
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

1.国会運営ルールの形成と変化(1)予算国会の衆院予算委の審議日程等に関するデータを整理し,運営方式の変遷や争点の推移を概観できるようにした.(2)国会中心主義の国会制度と議院内閣制に関する法整備の分析を進め,国会制度の形成・変容とその政治的帰結を分析する研究を本にまとめた.(3)戦後国会における両院間調整の制度がどのように運用され,そこで参議院の意向がどの程度まで政策結果に反映されるかに関する論文を執筆し,衆議院の優越が条件付きにとどまることを示した.2.立法案件データの作成(1)法案の議事日程の資料整備を進め,会期延長と法案成立に要する日数の関係を分析し,また厚生省関連法案の動向と所管部局再編の関連を検証した.(2)両院間調整に至った議案についてのデータを,閣法,衆法,参法についても完成させた.(3)第119回〜141回国会の内閣提出法案審議状況を一覧形式で資料としてまとめた論文を公刊した.3.国会運営の制度と立法行動を説明するための理論と実証(1)国会法改正が法案の議事日程に及ぼした作用を検証した.(2)参議院議員は衆議院議員に比べてシニアとは限らないことを,全国会議員のデータ分析で明らかにした.(3)米連邦議会の予算編成改革を比較政治学的観点から分析した単著を公刊した.(4)国会における内閣提出法案を対象とした議事運営の計量分析を本にまとめた.(5)国会運営の制度分析を行う際に,諸外国や地方の議会との比較の視座を導入する意義を示した論文を執筆した.(6)内閣提出法案と議員提出法案の立法過程を法案個々の成立確率という意味において比較し,権力の集中と分散を規定する国会の憲法構造的作用を戦後の長期的な時系列変化という観点から検証する論文を執筆した.(7)日本の国会と内閣の関係を概説し,内閣が選挙や立法においてリーダーシップを発揮する状況を分析した論文を公刊した.
著者
高瀬 雅男
出版者
福島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

日本独禁法22条は、協同組合に対する独禁法適用除外について定めている。しかし適用除外の範囲は必ずしも明確ではない。独禁法22条は、米国の協同組合に対する反トラスト法適用除外立法であるカッパー=ヴォルステッド法を参考に制定された。そこで本研究はカッパー=ヴォルステッド法の立法過程を分析し、適用除外の必要性、適用除外要件、限界要件などに関する連邦議会の立法意思を明らかにし、独禁法22条の適用除外の範囲について示唆を得た。
著者
神田 秀樹 岩原 紳作 山下 友信 神作 裕之 藤田 友敬
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

消費者信用取引の規制のあり方は, 欧州や米国の規制がそうであるように, 商品やサービスの販売に伴う与信契約か単純な金銭の貸付かを問わず, 横断的・統一的に規制すべきである。その際, 私法的規制, 監督法上の規制および市場法的な観点から, それぞれの有効性と限界を常に意識しつつ, 統合的かつ公正な規制体系を構築するとともに, 法規制のみならず自主規制などの非法的規制との最適の組み合わせを探る必要がある。
著者
長澤 和俊 長沢 和俊 (1993) 樊 自立 夏 訓誠 張 玉忠 王 炳華 荒川 正晴 大橋 一章 櫻井 清彦 XI Ao Li BING Hua Wang ZI Li Fan XUN Cheng Xia 李 肖 劉 文鎖 王 炳ほあ
出版者
早稲田大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

この共同研究は平成3年から5年にわたって、新疆各地のシルクロードの路線と主要遺跡を全面的に踏査することを目的として実施されたが、さいわい中国側研究者の友好的協力により、ほぼ予定通り各地の遺跡を踏査することができた。中国では1990年2月、国家文物局令が発布され、各地の遺跡・文化財の調査研究については、すべて国家文物局長の許可の下に行われることとなった。そのため平成3〜5年の3年間にわたる調査は、すべて国家文物局長の許可の下に、新疆文化庁が主催し、新疆文物考古研究所と沙漠研究所との協力の下に実施されることになった。以下、年度毎の研究業績の概要を略述する。まず平成3年度は、同年7月16日から8月25日まで41日間実施された。この年は新疆の南疆を全面的に踏査することとなり、各遺跡の歴史的地理的位置関係を確認した。とくに文化庁の手配により、従来未開放であった雅尓湖千仏洞・トユク千仏洞・勝金口千仏洞・柳中古城・焉耆古城・シクチン仏寺・和静古墓・温宿古城・且末古城等を見学できたことは、大きな収獲であった。ついで平成4年度は、7月26日から8月24日まで30日間滞在し、ジュンガリアおよび天山山脈東部の南北麓地域の東西交通路と主要遺跡の踏査を行なった。新疆ジュンガリアおよび天山東部の調査は順調に進み、本年度は伊寧の海努克古城・阿力麻里古城・摩河旧城・吐魯番〓子旧城・塔城の岩面・呼図壁岩画・哈密白楊溝仏寺・拉布橋克古城・巴里坤・北庭都護府故城・西大寺・吉木薩尓千仏洞等、多くの未開放の遺跡を実地踏査することができた。なお平成4年度には、1992年12月2日から21日にかけて、共同研究者の新疆文物考古研究所長・王炳華氏を招聘し、早稲田大学その他において学術講演を行ない、内外の研究者と交流し、かつ来年度の研究計画を討議し、多くの成果をあげた。また先年度に引続き、ウルムチの新疆文物考古研究所において、調査後、古代シルクロードの路線と史跡について、考古研究所研究員を調査員全員によるシルクロード討論会が実施された。さらに平成4年度から平成5年度の初めにかけて、共同研究者の新疆沙漠研究所所長・夏訓誠氏を招聘し、早稲田大学理工学部の草炭研究会のメンバーとともに学術討論会を実施し、かつ平成5年度の調査に際し、研究計画を充実すべく討議を重ねた。平成5年度は平成3〜4年度の調査で踏査できなかったタリム盆地内の未踏査地域を全面的に調査することとし、平成5年7月21日から9月2日にかけて新疆文物考古研究所長・王炳華氏の全面的な協力のもとに、調査を実施した。すなわちまずカラシャール・コルラ・クチャ・アクス・温宿・鳥什・カシュガルの所謂北道では、アクス文物処長・曽安軍氏の案内で各地の古代史跡を踏査した。とくにクチャでは亀茲石窟研究所長・陳世良氏の協力により、クムトラ・シムシム・クズルガハ・キジルの各石窟を踏査することができた。アクスからはウチトゥルファンを経て、玄奘三蔵の足跡を辿ってベダル峠の直下まで行くことができた。カシュガルからはパミール高原に赴き、タシュクルガン古城を調査し、さらに大谷探検隊のとったルートを辿って、ミンタカ峠の直下まで赴くことができた。またカシュガルからはホ-タンに至り、途中皮山で〓賓烏弋山離道の跡を尋ね、ホ-タンではアクスピル・ラワク仏塔・牛角山等を調査した。この3年間の踏査において、われわれはSony製のG.P.S(Global Positioning System)により、新疆における遺跡約100ケ所の経度・緯度を測定することができた。われわれはいまその測定によって新疆における遺跡地図を作製中であるが、その遺跡を結ぶことによって、古代シルクロードが、現在の自動車路と大分異なったルートによって結ばれていたことが明らかになりつつある。またこの測定によって、従来もっとも信頼されてきたSir Aurel Steinの実測地図の多くの経緯度を訂正することができた。また毎年ウルムチにおいて中国側研究者とシルクロードの共同研究会を開き、とくに平成4年9月には蘭州での国際シルクロード学術討論会に出席し、中国側研究者とさまざまな分野で意見を交換し、今後日中共同で継続的にシルクロードの調査を推進することで合意した。今回の調査を基礎に、今後はトゥルファン・クチャ地区のより詳細な調査を行うことを、日中共同研究者全員で再確認した。
著者
沢田 昭二 小林 昭三 斎藤 栄 安野 愈
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

量子色力学(QCD)の低エネルギー有効理論である非線形シグマ模型のソリトン解であるスキルミオンに関する研究を行うとともに、QCDの成立にいたる過程において重要な役割を果たし現象論的にも実験事実をよく再現する非相対論的クォーク模型との関連についても研究した。成果を項目的にまとめると次のようになる。1.量子化したカイラル・ソリトンのトポロジカルな性質に付いての研究については、特に3次元球面上のカイラル・ソリトンのスピン-アイソスピン空間における回転およびソリトンの中心を中心とする伸縮運動(ブリージング・モード)を集団座標の方法によって量子化し、この系の相転移構造を調べた。2.スキルミオン描像に基づき、高次補正を含めて一貫した矛盾の無い方法によって湯川相互作用やパイ中間子-核子散乱現象を記述することができるかどうかは、この描像の長い間の懸案であったが、この問題について基本的な解決を得ることが出来た。3.カイラル・ソリトン描像と非相対論的クォーク模型の描像の両者をQCDのカラー自由度N_Cを変化させてバリオンのスピン・フリップ・頂点について研究した。4.カイラル・ソリトンに採り入れられていないクォークの自由度を考慮した研究の新しい芽も生まれている。
著者
荒牧 正也 小川 修三 小川 修三 廣川 俊吉 沢田 昭二 早川 幸男 小沼 通二 荒牧 正也
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

坂田昌一氏は、氏の複合模型の提案にかぎらず夙に研究における方法論の重要性を強調していた。氏はまた湯川秀樹、朝永振一郎両氏の4年後輩として京都大学を卒業し、以来研究上でも両氏と緊密な関係をもっていた。そこで複合模型展開の研究に先立ち、坂田昌一氏の研究開始の時期に遡ってその足跡を辿り、氏の遺作や遺稿の収集・整理から手を付け、それを目録として纏めることとした。この仕事は未だ不十分なところが残っているが一段落し、「坂田記念史料室 資料目録第一集」として出版できた。これによって、坂田昌一氏の研究活動についてその背景を含めて検討する手立てが得られた。この目録作成と平行して、坂田昌一氏の社会的・文化的背景の検討を行ない、京都大学卒業論文から第二次大戦終結までに至る氏の方法論的考察の伸展と具体的研究との関連、とくに湯川博士との研究の進め方に関する考え方の違いが極く初期に遡ること及び武谷三男博士との緊密な関係と微妙な違いなどを追求し、その結果を「坂田昌一氏における『物理学と方法』」なる表題のもとにいくつか発表した。加えて坂田昌一氏とは研究の進め方及びその内容において相補的な朝永振一郎氏を提唱者とする、くりこみ理論、展開の歴史研究「Development of the renormalization Theory in Quantum Electrodynamics」が行なわれたが、これは複合模型の展開に至る坂田昌一氏の方法論に別の面から光を与えるだけでなく、日本の素粒子論発展の解明に大きく寄与すると考えられる。
著者
沢田 昭二 大槻 昭一郎 玉垣 良三 吉川 圭二 福田 礼次郎 高木 富士夫 松田 哲 秋葉 巴也
出版者
名古屋大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1988

1.QCDジェットや重いクォ-コニウムなど摂動論的方法が有効な領域において実験との一致をみているQCQ(量子クロモ力学)が、非摂動的効果が重要となる領域において、どのようにカイラル対称性が自発的に破れる相に移行し、カラ-自由度が閉じ込められてハドロンを構成するか、その機構を理論的に明らかにすることを本研究の中心課題とした。2.この方向に沿って、非摂動効果を含む問題を取扱う新たな手法として、格子ゲ-ジ理論、ア-ベリアン射影、逆転法などを用いた方法が開発され、相移転機構や閉じ込めなどの具体的問題に適用された。3.QCDの低エネルギ-有効理論と考えられる非線型シグマ模型とQCDとの関連を明らかにするとりくみもおこなわれ、またこの模型におけるソリトン解すなわちスカ-ミオンによって核子をはじめとするバリオンとその相互作用の研究が引きつづいておこなわれ、またカイラル・バッグ模型にもとづいて核子の諸特性および核力の導出がおこなわれた。4.格子ゲ-ジ理論にもとづいてQCDから電子計算機を用いて直接QCD系の相構造、ハドロンの質量スペクトル、レッジュ軌跡の勾配などを求めるとりくみは、新しい計算方法の開発と電子計算機の大型化、高速化によって、一層信頼性の高い結果が得られ、当初の結果の抜本的な見直しがおこなわれた。この方向の研究は計算機の進歩とあいまって今後引きつがれる。5.QCDを含めた相互作用の統一を求める研究、標準模型を超える試みも活発におこなわれ、100GeVおよびこれを越える実験結果がえられつつある状況の中でCD不変性の破れ、トップ・クォ-ク質量予測などの研究成果も挙げられた。また宇宙初期の創成過程とかかわって有限温度QCDにもとづくクォ-ク・グル-オンプラズマ,高密度核物質の研究にも新たな知見が加わった。
著者
岩村 正彦 太田 匡彦 笠木 映里
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

1.本研究は、地方公共団体(および地方レベルの公法人等)に焦点を当てて、医療制度、公的医療保険、公的扶助、社会福祉等の社会保障各領域に関する地方公共団体等の役割とその変容を分析し、地方公共団体等の社会保障に関する役割の構築について、法的に見て合理的といいうる方向性を模索するものである。2.本研究の柱のドイツ、フランス両国の公的医療保険法制、公的扶助法制および社会福祉法制(高齢者の介護サービス・障害者福祉を含む)について、その沿革・動向や近年を中心とした制度改革に関するわが国の既存の業績(図書、雑誌論文、各種資料)および前記両国の文献・資料を収集した。また、近年のわが国の公的医療保険法制、生活保護法制および社会福祉法制の政策・法制度の動きを跡づけるために、これらに関する図書・論文・資料等の収集作業を行った。3.ドイツ・フランス両国について現地での調査・資料収集を実施した。ドイツについては太田(研究分担者)が、フランスについては笠木(研究分担者)・永野仁美(研究協力者)が、資料収集および行政担当者、研究者等との面談を行った。4.収集した国内外の文献・資料などの整理、その一部のデジタル・データ化を行った。5地方公共団体(福岡県及び福岡県・北海道の市)を訪問し、医療制度・医療保険制度の改革への取り組み、生活保護、とりわけ自立支援プログラムに関する市の対応状況について、聞き取り調査をし、あわせて資料を収集した。6以上の研究の成果をもとに、研究代表者、研究分担者および研究協力者(永野)がそれぞれ論文・著書を執筆した。

1 0 0 0 斎〓の研究

著者
小林 正美 森 由利亞 吾妻 重二 二階堂 善弘 阿 純章 吉村 誠
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

研究代表者の小林正美は平成16年3月に調査した四川省綿陽・安岳・大足の摩崖道教造像に関する論文「金〓斎法に基づく道教造像の形成と展開-四川省綿陽・安岳・大足の摩崖道教造像を中心に」を作成し、さらに12月に四川省仁寿県牛角寨壇神岩の摩崖道教造像の調査を行い、論文の内容を補強した。また、小林は道教の斎法の原型である指教斎法の成立と構造に関する論文「道教の斎法儀礼の原型の形成-指教斎法の成立と構造」を作成した。本年度は研究期間の最終年度にあたるので、研究分担者はそれぞれ以下の報告論文を作成した。森由利亜 「清朝全真教と天師道儀礼の関係に関する覚え書き」吾妻重二 「宋代の景霊宮について-道教祭祀と儒教祭祀の交差」二階堂善弘 「『法海遺珠』の元帥神について-道教の〓・民間信仰の儀礼と元帥」「2003年度厦門・泉州寺廟調査報告」阿 純章 「受菩薩戒儀及び受八斎戒儀の変遷」吉村 誠 「曇無讖の菩薩戒-『菩薩地持経』の受戒作法を中心に」「四川省仏教道教調査旅行報告」また、「研究成果報告書」にはこれまでに入力した道教経典電子テキストと仏教経典電子テキストの目録を付録に載せた。
著者
山下 英俊 蕪城 俊克 山本 禎子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

角膜の透明性維持のためには角膜内皮細胞及び上皮細胞の構造、機能が保たれていることが重要である。本研究では上記2種類の細胞の機能制御におけるサイトカイン、増殖因子の影響を検討するためにTGF-βスーパーファミリーの各因子及びその受容体の発現を観察した。角膜上皮、内皮両細胞ともに、TGF-β1、2、3を発現していた。さらに受容体としては、TGF-βI型受容体,II受容体、アクチビンI、IA型受容体,II受容体、骨形成因子(BMP)IA、IB型受容体,II受容体、ALK-1が発現しており、多くの因子によりその機能が多重に制御されていることが示唆された。角膜上皮細胞を剥離してその創傷治癒モデルをラット角膜で作成し上皮細胞の再生過程でのTGF-βスーパーファミリーの働きを検討したところ、上皮細胞が遊走、進展する際にはTGF-β1、2、3および受容体は発現しているが、上皮が創傷部を覆った時期には一時的に受容体の発現が低下し、上皮の層状化に際しては再び受容体が発現することが示された。これらのことより上皮創傷治癒過程においてTGF-βは初期の細胞遊走進展及び後期の上皮細胞の分化に関与することが示された。角膜内皮細胞は角膜透明性維持のためには主要な働きをしている。コンフルエントな条件ではG0/G1期で停止している。その制御メカニズムを検討した。細胞周期をG0/G1期からS期へと進行させる因子としてTGF-β1、2が有効でありアクチビンAは促進、抑制双方の作用が見られなかった。TGF-β1、2が細胞周期進行の作用機序としてはPDGFを介する二次的な作用であることが分かった。機能分子としての水及びイオンチャンネルのクローニングは牛角膜内皮細胞ライブラリーから現在塩素イオンチャンネルの一部フラグメントがPCR法を用いた研究から得られて、その全長を得るべく研究が進行している。角膜内皮細胞が何らかの因子を分泌する機能を有することが示唆されている。
著者
山本 達之 高橋 哲也 神田 啓史 伊村 智 神田 啓史 伊村 智
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

研究成果の概要:南極上空に発生するオゾンホールにより増加したB領域の紫外線が,動物眼の角膜や水晶体に及ぼす影響を,分子分光学的手法により研究した。牛角膜に紫外線を照射すると,照射時間に応じて,角膜コラーゲンのアミドII赤外バンドの強度が,アミドI赤外バンドと比較して強度を減少させることが,FT-IR測定によって明らかになった。これは,コラーゲンの主成分であるプロリン残基が紫外線によって損傷を受けた結果と解釈された。また,ビタミンを添加した牛眼試料では,上記の強度減少が抑制されることも確かめられた。更に,南極で紫外線曝露した牛眼の水晶体の近い赤外ラマン散乱測定の結果,水晶体のトリプトファン残基由来のラマンシグナルが,他のアミノ酸残基と比較して著しく減少していることが明らかになった。主にシステイン残基が酸化されて重合することが原因で生じる老化による白内障とは,明らかに異なる機構で紫外線による白内障が進行していることを示していた。一方,南極昭和基地周辺で実施した,野生アデリーペンギンの眼の目視による調査では,眼に異常を来たしている個体を発見することは出来なった。ただし,ペンギン眼の分光学的な調査を実施しているわけではないので,分子レベルでの異常が眼に発生しているかどうかは未だに不明である。また,南極昭和基地周辺の紫外線強度の季節変動を連続的にモニターする目的で,昭和基地の環境科学棟に設置した分光装置の記録を日本に持ち帰って検討した。その結果,太陽光高度が等しい春と秋の紫外線強度が大きく異なり,春の強度が明らかに大きいことや,夏と比較してもB領域紫外線に限ってみると春の強度の方が大きいことも明らかになった。このように,本研究によって紫外線が眼に引き起こす白内障などの異常を分光学的手法によってある程度解明することが出来た。オゾンホールによる紫外線強度の増大による影響を今後も継続して調査することが望ましい。
著者
渡邊 啓貴 滝田 賢治 羽場 久美子 田中 孝彦 小久保 康之 森井 裕一
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

平成19年度は、研究代表者・分担者はそれぞれ3年計画の趣旨に沿って3年目の計画を無事に終了した。研究代表者、渡邊啓貴は、フランスに渡航し、フランスの立場について、パリ政治学院、フランス国際問題研究所、在フランス日本大使館を訪問、意見交換・情報収集を行った。また、韓国では梨花女子大学、延世大学、マレーシアではマレーシア大学、戦略研究所、経済研究センターをそれぞれ訪問し、意見交換・情報収集を行った。研究分担者、羽場久美子は、ロシア(ウラジオストク、アカデミー歴史学研究所)、ドイツ(ベルリン、フンボルト大学)、同小久保康之はベルギー、同滝田賢治は、米国(ワシントンDC)、同森井裕一は、ドイツを訪問し、研究課題に即したネットワーク形成と情報収集を行った。平成19年10月下旬には、パスカル・ペリノー教授(パリ政治学院・フランス政治研究所所長)、12月初旬には、ジャン・ボベロ教授(Ecole Pratique des hautes etudes)を招聘し、シンポジウムや研究会合を開催した。(10月23日「サルコジ政権の誕生と行方」(於日本財団)、12月11日科研メンバーとの会合(日仏会館))いずれも盛会で、フロアーなどからも多くの質問が出され、積極的な議論が行われた。以上のように研究計画第3年度としては、予定通りの実り大きな成果を上げることが出来、最終年度を締めくくることが出来たと確信している。
著者
伊藤 龍史
出版者
新潟大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、先進国諸企業による国境をまたいだアウトソーシング、すなわちオフショア化を分析するものである。具体的には、日本企業によるオフショア化を戦略レベルで検討し、その成否について分析した。本研究から得られた知見は以下の通りである。すなわち、企業のオフショア化戦略が、市民権を得ていないようなオフショア化の仕方に先鞭をつけようとしつつ策定され、その実行においては市民権を得ている仕方をとる場合には、オフショア化は成功的となる。
著者
曽山 典子 森 徹
出版者
天理大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では,ピボタル・メカニズムの性能とGroves-Ledyardメカニズムの下での均衡戦略の学習可能性について実験経済学手法を用いて研究し,次の2点を明らかにした。(1)厳密に凹の評価関数の下で連続的に変化する公共プロジェクトの規模決定問題に適用されるピボタル・メカニズムは,支配戦略である真実表明以外には最良反応が存在しない利得構造を実現でき,支配戦略の適合的学習を促す上で優れた性能を発揮する。(2)Groves-Ledyardメカニズムにおいて,個人の戦略選択行動のNash均衡への収束を図るために罰則パラメータの値はsupermoduralityの充足を要求するほど高い水準に設定される必要はなく,Nash行動下での収束条件の下限を超える値で十分収束が可能である。
著者
肥前 洋一
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

どのような市町村どうしであれば合併が住民に賛成されやすいかを政治経済学の理論を用いて分析し、その理論的帰結を平成の市町村大合併のデータを用いて検証した。合併の是非を問う住民投票での賛成票を増やす効果があるのは、合併後の65歳以上人口比率・可住地面積・一人当たり所得が大きいこと、人口や公債費比率が小さいことであることが確認された。また、合併協議開始後の経過年数が長いとき、もしくは合併支援金が交付されないとき、賛成票のシェアが大きいことも観察された。
著者
中務 哲郎 岡 道男
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

3年間の研究を通じて、古代の民間伝承がギリシア・ラテン文学をいかに豊かにしたか、また、民間伝承を摂取するにあたり詩人たちがいかなる創造的才能を発揮したか、が明らかにされた。中務は、エウリピデス『キュクロプス』が普通考えられているようにホメロス『オデュッセイア』9歌の挿話に基づくものではなく、前5世紀に民間に流布していたと思われる「ポリュペモスの民話」を前提にして作劇されたと仮定すれば、数々の疑問が解けることを指摘した。岡はソポクレス『オイディプス王』の解釈に民話の構造分析という新しい観点を導入した。オイディプス物語の類話(父親殺しの予言、捨て子のモチーフ)は民間説話としてもオリエントからギリシアに広く流布していたが、それらには共通の構造が認められる。その構造はこの類話群の最も基本的な要素であるばかりでなく、悲劇『オイディプス王』の構成をも律している。素材としての民間説話の構造分析を踏まえて悲劇の構造を再考した結果、オイディプスは不撓不屈の真実の追究者か、真実から逃れようとする人間か、という問題に関して極めて明快な解釈が得られた。中務はまた、古代ギリシアの昔話の実態に関して、昔話の呼称、担い手、語り出しと結びの形式、社会的役割などを、文学・哲学・歴史・弁論等の資料から明らかにできる限りを記述した。なお、中務は論文「ホメロスにおけるアポストロペーについて」において、文字以前の口承詩の伝統の中で、詩人と聴衆が相互に干渉しながら口承詩特有の技巧を発展させていったことを考証した。しかし、研究目的に掲げた「口承伝承と文書伝承の関係」一般に考察を及ぼすことはできなかったので、今後の課題としたい。
著者
中嶋 哲彦
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究の当初の研究計画は、(1)市町村教育委員会及び公立学校における公文書の管理及び公開・開示にかかわる問題点と課題を明らかにすること、(2)児童生徒の学習権保障にふさわしい教育情報の取扱い原則と情報管理体制のモデルを開発することにあった。この研究は児童生徒の学習権を保障する教育行政・学校運営に保護者または児童生徒自身が参加するルートを開拓するという実践的課題に応えようとするもので、本申請における地方分権的教育行政と自律的学校運営に対する民主主義的規制または合意形成という研究課題と密接に関連している。海外調査を含む調査研究により、次の研究成果が得られた。(1)学校教育情報の公開・開示は教育委員会が定めるガイドラインにもとづき学校の判断により行うことが、教育の地方自治及び学校自治の観点から望ましい。(2)学校教育情報の公開・開示や訂正の請求があった場合、当該学校に第一次的判断が委ねられるべきであるが、その決定に不服が申し立てられた場合は他の学校の校長・教員・保護者代表により組織される審査会において処理することが望ましい。(3)保護者の主体的な教育参加を促しかつその機会を保障するためには、学校教育情報の公開・開示ルールを保護者に周知することが必要であり、学校または教育行政区で保護者マニュアルを作成することが望ましい。(4)児童生徒と保護者の利益相反の可能性を否定できないことから、一定年齢以上の児童生徒には保護者から独立して学校教育情報の公開・開示を請求する権利が保障されるべきである。
著者
大津留 晶 市川 辰樹 熊谷 敦史
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

光同調性概日リズムは、明暗刺激に同調し1日周期の概日リズムを形成する。一方、胃ホルモン・グレリンは1日4峰性ピークのリズムを持ち、このグレリン概日リズムは、従来の概日リズムとは全く別の制御メカニズムによると推測される。グレリンの日内変動が、単に食事摂取カロリーや血糖などの代謝要因にのみで規定されるのか、それとも食習慣にもとづく何らかの概日リズムに左右されているかを明らかにした。解析した結果、グレリンは摂食時に変動する代謝因子以外の、調整因子、即ち食習慣によって規定される新たな概日リズムによって制御されていることが示唆された。