著者
高田 時雄 余 欣 YU Xin
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本年度の研究実績は以下の通りである。(1)前年度に引き続き、さらに関連資料の収集につとめ、充実と完備を期するとともに、文献の校訂、輯佚、注釈及び考証などの各段階におよぶ整理と分析も合わせおこなった。(2)古籍原本の調査は、漢籍の他に、調査の重点を日本古抄本に転じ、とくに古類書、古歳時記、日本の陰陽道文献の調査をおこなった。本年度は、国立公文書館内閣文庫、国立国会図書館、東洋文庫、金澤文庫などに加え、重点調査対象機関として、宮内庁書陵部および前田育徳会尊經閣文庫において調査をおこない、本課題に関する非常に重要な資料を発見した。それらのうち最も重要な稀見資料については複製許可を申請し、すでに批准されている。(3)上述の資料を用いて六朝隋唐時代の歳時記と占卜文献に関する輯佚と校訂作業を行った。(4)昨年度の実績をふまえ、幾つかの重要な問題点にっき、個別的研究を行った。それらのうち唐宋時期の土貢の名称と歴史的背景については、京都大学人文科学研究所の"西陲發現中國中世寫本研究班"において研究報告をおこない、『敦煌学研究年報』第四号に公刊予定である。また"蔓菁"という植物の考証論文の初稿も完成させた。(5)九月初にロシアのサンクト・ペテルブルグで開催された「敦煌学--更なる百年:研究の視点と論題」国際学術会議に出席し、「シルクロードにおける人形を用いた避邪技法」という論文を提出した。このほか六月に関西大学で開催された「東アジア文化交渉学会」の創立総会及び第一回年次大会に出席した。
著者
中野 貴文
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

二年間にわたって続けてきた消息的テキストの文学史的な位置つげを明らかにする研究のまとめとして、消息的テキストの中心である『徒然草』の文学史的性格を闡明した。これまで論じてきた通り、『徒然草』の序段から三十数段までのいわゆる「第一部」には、「身ぬ世の人へ宛てた消息」という性格が濃厚であった。加えて、幾つかの章段からは、『源氏物語』、及びその強い影響下に成立した中世の王朝物語の類と非常によく似た表現・美意職が看取された。具体的に言えば、「第一部」には閑居の理想を説いた第五段や晩秋の美を説いた第十一段など、『源氏物語』の中でも「賢木」から「須磨」にかけての光源氏を彷彿とさせる章段が散見する。これは兼好が、失脚し閑居において無聊を箪で慰める源氏の姿を借りる(したがって著名な序段の「つれづれ」も、ある種の擬態・ポーズと見るべきであろう)ことで、『徒然草』という文学史的に特異なテキストを書き進める根拠としたためであると思われる。『徒然草』「第一部」の内容は、兼好固有の思想として即時的に理解されるのではなく、むしろこのような執筆姿勢によって規定されたものとして把握されるべきなのである。以上の内容をまとめた論文を『日本文学』に投稿し、二〇一〇年六月号に掲載されることとなった。『徒然草』は、「書く」という行為の次元において『源氏物語』と密接につながっており、さらに同時代の物語群とも強い関連を有している。同論文は、従来は指摘されることの少なかった古典テキストと『徒然草』との影響関係を解明したことによって、中世文学史の見直しの契機と成り得るものと確信する。また、共著『大学生のための文学レッスン古典編』を上梓し、『徒然草』の文学的性格を広く世に問うことにも貢献した。(733字)
著者
古永 真一
出版者
早稲田大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

日本の「マンガ」はフランスで盛んに読まれているが、日本ではバンドデシネ(フランス語圏マンガ)は紹介が進んでいない。そこでBDの重要作品を選び出し、背景や影響関係を調査し、その意義と魅力を伝えることが本研究の目的となった。まず五月に来日したBDの巨匠メビウスが京都で行った講演を聴講し、「ユリイカメビウス特集号』(2009年7月)に論考「『インサイド・メビウス』は自伝なのか」、メビウスのインタビューとBD研究家ヌマ・サドゥールのエッセイの翻訳、「メビウス/ジャン・ジロー--主要作品解題」(原正人氏との共著)を寄稿した。六月には「大学でマンガ?!--研究発表とシンポジウム、第三部何を学び、何を見るか」と題されたマンガ学会主催によるマンガ学に関するシンポジウム(東京工芸大学)にコメンテーターとして参加し、首都大学東京で行った「バンドデシネ比較文化論」を題材にとり、日本における海外マンガの受容について発言した。同月には早稲田大学文学部主催によるシンポジウム「BDとは何か」において「文学/BD/美術」と題する発表を行い、文学的なBDやヴィジュアル・アート的なBDを紹介した。文学的BDとは実験的な文学作品を探究した「ウリポ」(潜在文学工房)の流れをくむウバポ(潜在マンガ工房)の活動にみられる、形式にこだわった図像遊戯的な作品である。ヴィジュアル・アート的なBDとは、フレモクと呼ばれる出版社が中心となって起こった従来のマンガの枠を越えた前衛的な作品を指している。このときの発表と討論をもとに推敲を施した論文「文学/BD/美術」を早稲田大学部フランス文学専修が発行する雑誌『Etudes francaises』第17号に発表した。
著者
赤井 周司
出版者
静岡県立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

フッ素原子の持つ特異な性質を活用した医薬品開発,ならびに医療への応用研究が近年盛んに行われている。含フッ素化合物の合成のために,脂肪族化合物の水酸基からフルオロ基への変換法が多数開発されたが,芳香環上の水酸基からフルオロ基への置換は成功例が殆ど無い。本研究では,カテコール化合物の水酸基の一つを求核的にフルオロ基に変換する前例の無い方法の開発,天然カテコールへの応用,^<18>F含有放射活性化合物の迅速調製法の開発を目的とした。本年度は,研究実施計画に基づき次の成果を得た。1. H21年度に見出した方法論を,カテキンとエピガロカテキンに適用した。多数ある水酸基の環境の違いを利用した選択的保護法、並びに、好ましい保護基の種類を見出し、本法によって当該天然物のフッ素誘導体を効率的に調製できた。この成果は、今後、多様な官能基を有する様々な天然カテコールへ本法を適用する際の有益な知見となった。2. 非対称置換カテコールについて、可能な2種の位置異性体の選択的合成を試みた。電子供与性置換基のパラ位の水酸基がフルオロ基へ置換されること、並びに、ジオキサン中で最大22:1の選択性が生じることが分かった。しかし、マイナー生成物を優先的に得るための条件を見出すには至らなかった。引き続き検討を行う。3. 本学薬学部の生物系研究室の協力の下に合成した含フッ素誘導体の各種生物活性試験を行った。今のところ有用な活性は見られていないが、引き続き他の活性試験を依頼する。4. H21年度に見出した方法論は4工程からなる。現状、全工程を約3時間で完了することが出来るが、^<18>F含有放射活性化合物の調製のためには、更に迅速化を図る必要がある。
著者
佐藤 海二
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

永久磁石を用いず,多層構造により高い推力-可動部質量比を有する精密・高速平面モータを実現することを目的に,まず基本となるアクチュエータ構造の課題を調べ,次にその結果を基礎に2種類の新たなアクチュエータ構造を提案し,その有効性を検証した.その結果,摩擦力低減の課題はあるが,それらが高い推力-可動部質量比を有する平面モータ用電磁アクチュエータや,簡易で応用範囲の広いアクチュエータとして利用できることがわかった.
著者
木田 雅成 大野 真裕
出版者
電気通信大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

代数的トーラスの有理点のなす群と最大基本アーベル拡大のガロア群の双対性を証明した。これは古典的なクンマー理論の1の冪根を含まない体への自然な拡張になっている。クンマー理論の基礎体が素体まで下げられるいくつかの場合について、巡回拡大を与える方程式の具体的な形を計算機を援用することによって計算することができた。またこの理論の代数学、整数論への応用も研究した。
著者
名西 憓之 荒木 努 山口 智広 金子 昌充 WANG Ke 城川 潤二郎
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

DERI法(DropletEliminationbyRadicalbeamIrradiation)を用いた高品質厚膜InN結晶成長技術を基盤として、InN系材料をベースとした電子・光デバイス実現へ向けたInNおよびInGaN混晶材料の結晶成長高品質化技術、厚膜化技術、ラジカルモニタリングによる組成制御技術、Mgドーピングによるp型伝導制御技術、InGaN系ヘテロ・ナノ構造作製技術、デバイス作製基盤要素技術の開発を実施した。
著者
倉科 一希
出版者
広島市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、1960年代のケネディおよびジョンソン政権に着目し、アメリカの対西ヨーロッパ政策を、通商問題を中心にしつつ、政治・安全保障問題との関係にも注意を払いながら検討した。当該時期には、ヨーロッパ統合をめぐって西ヨーロッパ諸国が対立していたこともあり、通商政策が大きく動いたとは言えない。その一方で、アメリカの政治・安全保障政策とヨーロッパ統合との密接な関係が確認された。
著者
KIKOMBO Andrew Kilinga
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

半導体デバイスの発展は個々の素子の微細化により進められてきた。しかし、素子の寸法が小さくなるにつれて量子効果(通常の回路動作にとっては望ましない影響)が顕著になり、近い将来に微細化の限界が避けられないとも言われている。その一方、量子効果を積極的に利用する研究も盛んに行われる様になり、CMOSに代わる次世代量子デバイスの候補として単電子デバイスが注目を浴びている。単電子デバイスを用いれば、超高集積かつ極低消費電力な集積デバイスの実現が可能である。しかし単電子デバイスの動作は現用のCMOSデバイスと異なるため、CMOSデバイスとは異なる新しい回路構成と信号処理の方法を考える必要がある。本研究では、量子ドットを用いた集積デバイスの一例として、量子ドットの構造的特徴と動作原理を生かした高空間分解能のフォトン位置検出センサの構築を行う。そしてその情報処理方法を画像処理サブ・プロセッサに拡張する。本研究は、フォトンの入射位置を正確に読み取る(空間的に高い分解能をもつ)センサの開発を行うことを目的とする。現在、フォトンの入射位置を検出するためには、Micro-channel plate(以下MCP)が用いられる。MCPの入射面に向かってくるフォトンは光電子増倍チャンネルの内面の伝導層に当たって光電子を発生させる。さらに発生した電子が多くの2次電子を発生させて光信号を増幅する。出力面から出てくる電子を観測することで、フォトンの入射位置を特定することが可能である。MCPの空間的分解能はチャンネルの配列ピッチで決まり、製造プロセス上、10μm前後が限界である。一方で、量子ドット集積体のドットピッチは数十ナノメートルであり、これをセンサとして用いることで空間的に高い分解能を得ることが可能である。そこで、これまで解析した量子デバイスの非線形特性を生かして、フォトンの(入射)位置を正確に検出可能なセンサデバイスを提案する。
著者
澤村 大輔 松崎 康司 中野 創
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

遺伝子を破壊するのではなく,任意の時期に目的の蛋白そのものを分解できるマウスシステムを着想した.そこでBP180の分解を試みた. K14プロモーター下に、分解TAGを持つBP180遺伝子を発現する遺伝子コンストラクトを作製。表皮細胞株にTIR遺伝子を導入して、TIR遺伝子を恒常的に発現する細胞株を作製した。それらの発現をウエスタンブロットと蛍光抗体法で確認した。次にその細胞株に、TAG-BP180の遺伝子を導入し、オーキシンを加えたところ、TAG-BP180の分解が確かめられた.本研究は、接合部型表皮水疱症や類天疱瘡の新しい観点からの診断法や治療法が確立される可能性が高いことが解明された。
著者
布柴 達男
出版者
国際基督教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

非変異発がん物質Benzeneの代謝物、hydroquinone(HQ)の染色体分配異常に伴うヘテロ接合性喪失(LOH)誘発性を確認した。HQがtubulinとの相互作用を介し紡錘体形成におけるtubulin重合/解離のバランスを乱すことやHog1-Swe1 morphogenesis checkpointを活性化することから、それらの性質がLOH誘発に寄与すると考えられた。また様々な線エネルギー付与(LET)のイオンビームが相同組換えに起因するLOHを誘発することを確認した。
著者
田中 規夫 DAS SHAMAL Chandra DAS SHAMAL Chandra
出版者
埼玉大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

バングラデシュ国における側岸侵食の実態と現状で行われている対策方法、堤防被覆に使用可能な植生(草本・木本)を整理した。また、高潮時における被災事例の把握をもとに、堤防や盛土法面を被覆し侵食を防止する植物としてのベチベル草を選定し、水理模型実験の粗度としてモデル化し、堤防を越水する流れに及ぼす草本や低木の効果を定量評価するための実験を行い、せん断力低減効果を評価した。また、側岸侵食防止効果について、高水敷上の水制の長さ・間隔や傾きをパラメータとして、流速低減域と加速域がどのように変化するかについて、水理模型実験を行い、それを表現する数値モデルの開発を行った。さらに、樹木の倒伏限界値の把握に関して、荒川明戸地点・荒川板橋地点・高麗川にて行った樹木引き倒し試験の比較検討を行った。特に、荒川板橋地区にて行った引き倒し試験結果を詳細に解析した.その結果,地上部体積を表すパラメータが転倒限界モーメントMmaxを精度良く表現すること、根茎構造(浅根型,深根型)の相違による根鉢のサイズ(根鉢の表面積および体積)が転倒限界モーメントに大きく影響していること、転倒限界モーメントには地盤の粘着性が大きな影響を与えることなどを明らかにした.樹林帯の高潮減災効果については、数値モデル解析を行い、バングラデシュに存在するマングローブ樹種の効果について、樹林幅・樹種などによる相違を解析した.特に緩勾配条件化では2つの樹種を組み合わせることで高潮に乗っている高波成分の流速の低減には有効であることを示した。
著者
小林 淳子 赤間 明子 大竹 まり子 鈴木 育子 叶谷 由佳 藤村 由希子 右田 周平
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

平成17年度は,妊娠を契機に禁煙した、あるいは喫煙を継続した女性喫煙者の「たばこに対する思い」を因子探索的に分析した。その結果,出産後まで禁煙を継続した女性では「子どものため,自分のため,他の人のために喫煙はやめるべき」という規範的意職と,「出産後のいたずら喫煙,育児の負担がなければ喫煙しない」という将来の再喫煙を避けるための対策の因子が抽出された。一方,再喫煙した女性では「また吸ってしまうかもしれない」という再喫煙の予感,「止めたいが止められない」という禁煙困難,「禁煙は考えていない」という無関心の因子が抽出された。「子どもと喫煙」に関するラベル数の割合が,禁煙継統群は喫煙再開群よりも明らかに高く,PRECEDEPROCEEDモデルの「実現要因」である喫煙環塊への対策に加えて,「前提要因」である「喫煙による子どもへの影響の認知」を高めるために,「強化要因」である医療関係者の役割の璽要性が示唆された。平成18年度は,地域における禁煙サポート源として看護職者が機能するために,看護職者よる禁煙・防煙支援の実態と関連要因を解明を目的とする質問紙調査を実施した。Y県内の55施設,所属する看護職1414名を分析対象とした。その結果、禁煙・防煙支援が業務としての位置づけられている407名(28.8%)、禁煙・防煙支援の経験あり267名(18.9%)と低率であり、禁煙支援・防煙支援の困難は189名(70.8%)が感じていた。同時に、禁煙・防煙支援の講習会の参加は250名(17.7%)に留まった。業務の位置づけがある群で支援経験ありは38.3%,位置づけが無い群では11.0%,しかし位置づけがあっても支援経験なしが61.7%を占めた。禁煙支援の自己効力感は100点満点で平均14.4(±12.3)点と低かった。以上の結果から,看護職者は禁煙支援・防煙支援を業務として位置づけられていても実施していない割合が高く,支援の自己効力感が低い点が課題であることが明らかとなった。
著者
羽多野 毅 王 華兵
出版者
独立行政法人物質・材料研究機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

高温超伝導体は層状の結晶構造そのものが超伝導性と絶縁性を示すことから、ジョセフソン素子としてどうさすることが知られ、固有ジョセフソン接合と呼ばれている。固有ジョセフソン接合Y-123系における磁束量子の層平行磁束と層に垂直の磁束との二状態間を、電流によりスイッチングさせることに成功した。磁束状態は温度を保持している限り電流を切っても不揮発性で記憶されていることを見いだした。また、その繰り返し読み出し・繰り返し書き込み消去動作を確認した。
著者
寄本 勝美 片岡 寛光 石田 光義 藤井 浩司 縣 公一郎 寄本 勝美
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

1980年代以降、各国に新自由主義の潮流が押し寄せ、日本でもその路線に従った行政改革が続けられている。その基調は、企業経営を行政に導入するNew Public Managementの考え方である。大別して、5つのスタンスが挙げられよう。まず、業績に基づいて行政の対内的対外的活動全般を評価する業績評価の手法がある。これは、直截には、人事管理上の業績評価に繋がるが、さらには、一定の政府活動自身の評価を意味し、現実には、政策評価ないし行政評価といわれる手法の流布を促している。加えて、階層を少なくした簡素な組織、企業会計に倣った発生主義会計、パートナーである国民を顧客として捉える顧客志向が挙げられるが、今日まで最も追及されてきたスタンスは、政府活動全体の範囲を問い直し、民営化もしくは民間委託を行う市場原理の導入だろう。例えば、国のレヴェルでは、電電公社、国鉄、専売公社の民営化を発端に、郵政事業、高速道路建設・運営、空港建設・運営等が俎上に乗ったのは周知のことであり、また自治体レヴェルでは、廃棄物収集・処理を典型として、水道事業、病院建設・運営、保育所や幼稚園、そして学校経営等にも議論が及んでいる。勿論これらには、奏功している分野が多く見られるが、今日問うべきは、どこまで市場原理を導入するべきなのか、という点である。営利性と効率を基調とした市場原理のみでは最終的に達成しきれない価値が社会に必ず存在する、ということもまた、事実ではないだろうか。これは、ナショナルミニマム或いはシヴィルミニマムの達成、もしくはユニヴァーサルサーヴィスの確保といった観点でも議論されてきた。効率を追求する余り、逆に公平が損なわれてはいないだろうか。また、効率追求によって生じた余剰が、公平の促進に繋がっているだろうか。この観点で、公平と効率の間で均衡が図られる必要があるだろう。どのような状況で公平が優先され、また効率が優先されるのか、これを適切に判断する必要がある。本研究は、かかる議論に一つの方向性を示したものである。
著者
湯之上 隆 鈴木 淳 大塚 英二 大友 一雄 保谷 徹 岩井 淳 杉本 史子 横山 伊徳
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

静岡県を調査主体とする江川文庫史料西蔵調査事業と連携して調査研究を進めた。平成24年3月刊行の静岡県文化財調査報告書第63集『江川文庫古文書史料調査報告書』4冊により、約30, 000点の古文書を目録化した。本研究の前提となる第1次調査分の約20, 000点と合わせた約50, 000点にのぼる古文書調査はほぼ完了し、本研究の所期の目的は完遂した。江川文庫研究会を5回開催し、調査研究成果の公表と情報の共有を図った。国文学研究資料館の「伊豆韮山江川家文書データベース」により、調査成果を公開した。
著者
廣瀬 浩二郎 小山 修三 五月女 賢司
出版者
国立民族学博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本プロジェクトは、ユニバーサル・ミュージアム(誰もが楽しめる博物館)の具体像を模索する多様な研究活動を展開した。2011年10月にはプロジェクトの成果発表を目的とする公開シンポジウム「ユニバーサル・ミュージアムの理論と実践」を国立民族学博物館で行なった。吹田市立博物館の実験展示「さわる-五感の挑戦」(2009年・2010年)、特別展「さわる-みんなで楽しむ博物館」(2011年)の開催に当たっては、展示コンセプトの立案、資料選定などで協力した。
著者
谷口 真吾
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

亜熱帯地域の沖縄県を中心とする沖縄島嶼域では、森林のもつ公益的機能の高度発揮のため計27種の有用樹を造林樹種として指定している。沖縄県はこれらの有用樹種を用いた人工造林や樹下植栽、育成天然林施業など多種多様な森林造成を積極的に推進している。しかしながら、指定樹種には開花結実、受粉・交配様式などの繁殖特性が未解明な樹種が大半を占めている。亜熱帯域の多様な樹種から構成される森林を維持し、種子の供給と確実な更新を安定的に促すためには、構成樹種ごとに個々の繁殖特性を主体とする生活史を解明することが急務である。そこで、本研究課題では亜熱帯性樹木の繁殖特性を明らかにするため、有用樹4種の開花フェノロジー、送受粉機構、結実機構について研究を行った。本研究で得られた知見は、有用樹の効率的な種子生産に寄与する成果であり、沖縄島嶼域の森林保全あるいは再生、さらには新規造成のための地元産種子による苗木生産、あるいは天然更新のための種子確保に不可欠となる種子生産技術の基礎的情報の体系化に極めて重要な成果を提供するものである。
著者
池口 良輔
出版者
公益財団法人先端医療振興財団
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

近年,世界で30例以上の手同種移植成功例と数例の顔面同種移植成功例が報告されている。しかし、通常の免疫抑制療法には術後,感染や悪性腫瘍の発生など致命的な副作用があり,腎、肝,心肺移植などの生命維持器官の移植では,致命的副作用を伴う免疫抑制剤の使用は認められるが,生命維持器官でない四肢運動器官の同種移植では,免疫抑制剤の使用については議論の多いところである。一方、骨髄間葉系幹細胞(MSC)は、骨、軟骨、脂肪組織などへの多分化能を有し、採取分離培養が比較的容易な細胞として知られているが、移植医療分野では同細胞の免疫調節効果を用いた治療法が近年報告されてきている。今回我々は、免疫調節効果を持つ骨髄間葉系幹細胞を投与し、ラット四肢同種移植モデルでの拒絶反応の抑制効果を評価検討した。Lewisラットをレシピエントとし、Wisterラットの後肢の同種移植を行いMSC(2×10^6)と1週間のFK506(0.2mg/kg/日)を投与したものをMSC群(n=6)、同様に同種移植を行いFK506(0.2mg/kg/日)のみを投与したものをFK群(n=6)、コントロール群として免疫抑制療法を行わない群(n=6)とLewisラット間の同系移植群(n=6)を作成した。移植肢の生着期間を組織学的に評価し、拒絶反応の程度を免疫学的に評価した。移植肢の生着期間について、MSC群ではFK群に対して有意な生着期間の延長が認めら、組織学的にも拒絶反応が抑制されていた。免疫学的にもMSC群での拒絶反応抑制が確認された。MSCには免疫反応抑制効果があり、それによりラット四肢同種移植モデルでの生着期間が延長したものと思われる。運動器官の同種移植など通常の免疫抑制剤の使用が致命的副作用のため制限されるような場合、細胞を用いた新たな免疫抑制療法として間葉系幹細胞を応用できる可能性が示唆された。
著者
酒井 潤一 横山 賢一
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、不働態皮膜により高耐食性を有する合金の腐食に伴う水素吸収から脆化に至るまでの全体像の特徴とメカニズムについて、電気化学的観点と材料強度学的観点を相互に関連させて複合的に調べ明らかにした。得られた種々の知見は、使用環境中における金属や合金の安全性・信頼性のさらなる向上のための材料評価法及び新しい合金開発のための指針の一つとして期待されることを示した。