著者
岩田 慈 山岡 邦宏 新納 宏昭 中野 和久 Sheau-Pey WANG 齋藤 和義 赤司 浩一 田中 良哉
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.56-61, 2012 (Released:2012-02-28)
参考文献数
25
被引用文献数
3 3

近年関節リウマチ(RA)や全身性エリテマトーデス(SLE)をはじめとした自己免疫疾患に対し,生物学的製剤の高い有効性が報告されている.一方で,低分子化合物は経口投与可能であり,また廉価となる期待などから注目を集めている.Sykは72 kDaのチロシンキナーゼで,B,T細胞,肥満細胞,マクロファージ,好中球,滑膜線維芽細胞などの免疫や炎症に関与する公汎な細胞に発現している.SykはBCR,TCR,FcR,インテグリンなどITAM領域を含む多鎖免疫レセプターのシグナル伝達において重要な役割を担う.近年,Syk阻害剤(fostamatinib)のRAをはじめとした,気管支喘息,特発性血小板減少性紫斑病などの自己免疫やアレルギー病態に対する有効性が報告され,SLEモデルマウスにおいても皮膚症状,腎障害の進展抑制効果がみられているが,その作用機序は依然不詳である.我々は,ヒト末梢血B細胞において,Sykを介したBCRシグナルは,TLR9,TRAF-6のoptimalな発現誘導に極めて重要で,結果として,効率的なCD40,TLR9シグナル伝達が齎されることを明らかにした.以上より,Sykは自己免疫疾患のB細胞依存性病態において重要な役割を担う可能性が示唆された.本編では,RAやSLEを中心に,自己免疫疾患に対するSyk阻害剤のin vitro,in vivoにおける効果について概説する.
著者
藤本 順子 紅露 瑞代 米澤 義彦
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3-4, pp.140-147, 2014 (Released:2019-09-28)
参考文献数
30

中学校理科第2分野における「花粉の発芽と花粉管の伸長」に関する実験材料,発芽用基材および培地組成について再検討を行った.実験材料としては,従来から使用されているホウセンカやインパチェンスげフリカホウセンカ)に加えて,①花粉が置床後10分以内に発芽すること,②花期が長いこと,③花粉粒内で雄原細胞の分裂が行われており,減数分裂によって染色体数が半減したことが確認できること,などの理由から,ヒガンバナ科のミドリアマナも有効であることがわかった.また,発芽用基材としては,教科書等に記載されている「寒天培地」よりも,市販の「普通セロハン」(吸水性のセロハン)にスクロース液をしみこませた「スクロース―セロハン培地」が簡便で有効であることがわかった.さらに, 10%スクロース液に100 ppmのホウ酸と300 ppmの硝酸カルシウムを加えると,花粉粒の破裂を防ぐことができることができ,観察できる確率が高くなることが示された.
著者
丸田 健
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 = Memoirs of the Nara University
巻号頁・発行日
no.51, pp.1-16, 2023-02-28

本稿では、柳宗悦の民藝思想の基礎を辿りながら、現代に通じる民藝の意義を考察する。民藝理論では、直下に直観されるべき道具の美が強調される。しかし民藝的諸道具にある価値は、それだけではないだろう。諸道具には様々な指示内容があり、それらにも人間にとって重要な価値がある。そしてそれらを知ることではじめて見える美の側面もある。民藝的道具はまた、使用を通じ、様々な親密な関係を作らせるものである。これらの、美や指示内容や用途性の全体によって、民藝は我々を、生活へ向かわせる。民藝には、人間存在の根源に触れる重要な価値があるが、他方、手仕事道具の存続は危ぶまれている。民藝は多くを与えつつ、同時に、人間がいかに生きるべきかを考える課題も突き付けているように思われる。
著者
井内 真帆
出版者
日本印度学仏教学会
雑誌
印度學佛教學研究 (ISSN:00194344)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.361-357, 2020-12-25 (Released:2021-09-06)
参考文献数
5

In 2002, around 12,000 folio manuscript pages constituting something like 150 texts were discovered in Phuri, an ancient place in the Gung thang Kingdom, near the northern border of modern Nepal. Details of this discovery have recently been made available to scholars in the catalogue Phu ri Manuscripts (2018, 2 vols.) published by the Tibetan Ancient Books Research Institute, Tibet University. Most of the Phu ri manuscripts are ritual texts, dated between the 10th and 13th centuries, the beginning of the Tibetan period of the second diffusion (phyi dar) or that of fragmentation (sil bu’i skabs).This paper examines the ritual texts in the Phu ri manuscripts, and those bringing down thunder and hail in particular (ser ba dang thog dbab pa’i man ngag, T.P.137); it also considers the transmission of Buddhism to Western Tibet at the beginning of the period of the second diffusion.
著者
高橋 祐輔 三島 修 北野 司久 三澤 賢治 牛山 俊樹
出版者
一般社団法人 日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.435-439, 2013-05-15 (Released:2013-06-04)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

胸腔ドレーン抜去時には,創部を結紮したりフィルム剤を貼付したりと施設により方法は様々である.当院では胸腔ドレーン抜去時に縫合はせず,ハイドロコロイドドレッシングであるカラヤヘッシブTM(以下:カラヤ)を貼付しており,簡便で低侵襲であり創傷治癒の面から有用であると思われるため報告する.2010年1月から2011年10月まで当院呼吸器外科で手術を行い胸腔ドレーンを挿入した181人を対象とした.ドレーン抜去後にカラヤの交換が必要だった症例は9例であった.ドレーン抜去後に浸出液が多く創部を縫合閉鎖した症例が1例あった.再挿入は2例であったが,抜去の手技に問題はなく時期に問題があると思われた.以上の結果から,ほとんどの症例で,抜去に伴う問題はなく,当院におけるドレーン抜去の工夫は有用であると思われた.
著者
外木 守雄 有坂 岳大 塚本 裕介 佐藤 一道 山根 源之 大櫛 哲史 中島 庸也
出版者
特定非営利活動法人 日本顎変形症学会
雑誌
日本顎変形症学会雑誌 (ISSN:09167048)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.9-15, 2007-04-15 (Released:2011-02-09)
参考文献数
16
被引用文献数
10 7

This study investigated risk factors for obstructive sleep apnea hypopnea syndrome (OSAHS) induced by orthognathic surgery for malocclusion, by analysis of preoperative and postoperative examination findings. In this first report, we discuss the relationship between the findings from the polysomnographic record and the direction of jaw movement during orthognathic surgery. The postoperative Apnea Hypopnea Index was significantly decreased in the group that underwent maxillaryadvancement with or without mandibular movement; however, there was no significant difference between the groups that underwent mandibular movement with and without maxillary movement. Mandibular morphology is frequently considered when evaluating the relationship between the maxillofacial structure and sleep-disordered breathing; our findings also indicated that maxillary morphology is an important factor. Hence, we advocate orthognathic surgery to treat malocclusion when necessary and to take sleep-disordered breathing into consideration. Additionally, we considered that the findings of this study provide important evaluation criteria for determining the indications for orthognathic surgery to treat OSAHS.
著者
野村 亮太
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第84回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PI-011, 2020-09-08 (Released:2021-12-08)

2020年には,ソーシャルディスタンシングという用語が一般化し,多くの人が集まる会議は制限されている。それらの代替手段として,企業や大学ではweb会議がこれまでにないほど高い頻度で行われるようになった。web会議では,画面中の相手に注意を向けなければならないことに加え,時に通信状況に起因した遅延が生じるなど,通常の会議では経験しない出来事も生じやすい。あるタイミングで会話中にふと静まり返り,誰も言葉を発しない時,フランスのことわざで「天使が通る Un ange passe.」と表現される。こうした少々の気まずい瞬間の生起頻度について,著者の知る限り正確な統計はないが,体験的にはweb会議での方が多いようだ。本研究では,会議で円滑にターンテイキング状況とぎこちない場合で何が異なるかを比較できるように,行動指標の定量化を目指した。具体的には,多人数が参加するweb会議を想定して,画面から人の顔を検出し,瞬目タイミングを同定するプログラムを作成した。また,瞬目生起タイミングの一致度について比較できる統計量を定義した。今後は,通信による遅延が生じない360度カメラでの映像とweb会議で統計量を比較する予定である。
著者
平本 毅
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.198-209, 2011-09-30 (Released:2017-05-02)

発話ターンの冒頭にはしばしば,ターンテイキングの組織化,行為連鎖の組織化,活動の組織化・話題の管理,といった相互行為上の仕事を担う特定の言語的要素(ターン開始要素)が置かれる.本稿では,特定の相互行為的環境において行為連鎖の組織化や活動の組織化・話題の管理の仕事をほとんど行わないと考えられるターン開始要素「なんか」を取り上げ,そのターンテイキングの組織化におけるはたらきを分析する.具体的には,特定の次話者が選択されていない条件において,ターン開始要素「なんか」を伴って発された発話が他者の発話と同時開始により重複した際に,どちらが脱落するのかを調べる.分析の結果,話題の境界部の後など,特定の相互行為上の位置において,「なんか」を配置することにより重複に対する話者性の「弱さ」を示す,という相互行為上の手続きが存在することが明らかになる.この手続きが利用される理由の一つは,会話における「最小限の間と最小限の重複」を達成することにある.参与者は「なんか」を話者性の「弱さ」を示すものとして扱い,「なんか」により会話中の間を最小化しつつも,その発話が重複した場合には,「なんか」を利用した者が脱落することにより重複も最小化することができる.
著者
小西 吉呂
出版者
沖縄大学教養部
雑誌
沖縄大学紀要 = OKINAWA DAIGAKU KIYO (ISSN:03884198)
巻号頁・発行日
no.9, pp.130-148, 1992-03-25
著者
中村 俊哉 中島 義実 倉元 直樹 中村 幸 Antartika I Kadek
出版者
福岡教育大学
雑誌
福岡教育大学紀要. 第四分冊, 教職科編 = Bulletin of Fukuoka University of Education. Part IV, Education and psychology (ISSN:02863235)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.223-240, 2005-02-10

福岡,沖縄,インドネシアのバリ島地区,インドのベンガル地区の4地域において,国際比較のための死生観尺度を用いて調査を行い,これらの尺度の英文,インドネシア語における信頼性を検討するとともに,4つの地域の間の死生観の比較を行った。その結果,魂の行方を決めるもの,祖先との対話などでは,大きな地域差があった。死者,祖先への働きかけは日本で高く,神への働きかけはバリ島,ベンガルで高かった。また輪廻観などはゆるやかだがヒンドゥー地域の方が高かった。同じヒンドゥーでもベンガルとバリ島の間には,様々な差(たとえば神との合体や魂の消滅について)があった。