著者
伊藤 たかね 萩原 裕子 杉岡 洋子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では,語レベルの言語処理にかかわる心内・脳内メカニズムを明らかにすることを目的として,事象関連電位(ERP)計測の手法を用いた実験を行った。具体的には,複文の特徴を示す複雑述語(サセ使役)および,動詞の屈折を取り上げ,いずれの場合にも規則による演算処理と,レキシコン内のネットワーク的記憶という,質の異なる処理メカニズムが働いていることを示唆する結果を得た。
著者
宮岸 真
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

RNAiは非常に効果的な遺伝子抑制法であり、簡便で、効果の高い遺伝子機能の解析法として、注目を集めている。しかし、最近、siRNAによって、非特異的な抑制効果であるインターフェロン応答が励起されることが報告され、その詳細な解析が急務となっている。本研究課題では、ベクター系によって発現されるsiRNAによるインターフェロン応答の解析を行うと共に、二本鎖RNAによって誘起されるインターフェロン応答のパスウェイの解析を行った。初年度、数種類のsiRNAベクターのインターフェロン反応を、2',5'オリゴアデニレースシンセターゼ(OAS)の発現により調べたところ、どれもインターフェロン応答を起こしていないことが分かった。そこで、次に、より長い二本鎖RNAを発現するベクターを作製し、それによって生じるインターフェロン反応について解析を行った。発現系としては、tRNAプロモーターおよび、U6プロモーターを用いた2つの発現系を使用した。また、インターフェロン応答は、PKRのリン酸化、発現量をウエスタンブロッティングにより解析すると共に、OASの発現をリアルタイムPCRにより、定量することにより調べた。その結果、50、100塩基対を発現するtRNA連結型のベクターは、PKRのリン酸化、発現量、OASの発現量を増加させることから、インターフェロン応答を誘起していることが分かった。また、二本鎖RNAのセンス鎖にミューテーションを挿入することにより、このインターフェロン応答を軽減することができることが判明した。RNAiライブラリーを用いた二本鎖RNAによるアポトシスパスウェイの解析に関しては、数百のシグナルトランスダクションの遺伝子に関して、検索したところ、今回新たに、JNKからミトコンドリアに至るパスウェイおよび、MST2、PKCαからERK2に至るパスウェイが関与していることが分かった。
著者
辻 延浩 佐藤 尚武 宮崎 総一郎 大川 匡子
出版者
滋賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

小学校の系統的な睡眠学習カリキュラムを構築することを目指して, 教材を開発するとともに, 睡眠学習プログラムを作成して実践化を試み, その有効性について検討した。さらに, 開発した睡眠学習教材をデジタルコンテンツ化し, 学校園の授業や校内研究会等で活用できるようにすることを目的とした。得られた結果の大要は以下のとおりである。(1) 現行の小学校体育科の保健領域(3~6年生)の指導内容に沿って睡眠の科学的知見を位置づけ, 発達段階をふまえた系統的な睡眠学習教材を作成した。睡眠学習における児童の評価は, 3年生と4年生では, 授業の楽しさ, 内容の理解度,生活への活用度,教具の適切度ついてほぼ全員から「大いにある」または「まあまあある」の評価が得られた。5年生と6年生では, 中学年に比べて「あまりない」あるいは「まったくない」とする児童の数が多少増えているものの, 多くの児童から高い評価が得られた。授業者および授業観察者の評価では, 提示した資料の説明の仕方でいくつかの改善点が指摘されたが, いずれの学年の授業においても, 児童が睡眠の科学的知見を通して, 自分の睡眠生活を見直したり, 再発見したりしていたことが高く評価された。これらの結果から, 開発した教材およびプログラムは, 児童に睡眠の大切さに気づかせるとともに, 睡眠に関する知識を深めることができると考えられた。(2) Web教材は, 「睡眠科学の基礎」, 「健やかな体をつくる睡眠6か条」, 「快眠に向けて補足6か条」で構成させた。Web教材に対して質問紙調査(5段階評価)を実施した結果, 画像等に関わる項目の平均得点は3.9~4.3の範囲にあり, 内容等に関わる項目の平均得点は3.8~4.5の範囲にあった。Web教材の改善に向けては56件の具体的な指摘を受けた。これらをふまえて, リンクのはり方, 図の色調, 図中の文字, カット図の挿入について改善を加えた。
著者
住吉 智子 渡邉 タミ子 竹村 眞理
出版者
新潟大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は,幼児期からの肥満予防のため家族が生活習慣を客観視し,生活のコントロールが行えるための生活習慣セルフモニタリング測定尺度を開発することである。最終年度にあたる今年度は生活習慣セルフモニタリング尺度の質問紙の信頼性と妥当性の検証を行った。尺度の原案は平成19,20年度の結果に基づき幼児ならびに家族に関する基礎情報の質問項目15問,尺度構成は質問項目50問となった。子どもの体型が気になると回答した5~6歳の子どもがいる保護者63名に対し質問紙調査を実施し55名(91%)より回答を得た後,再テスト法を試みた。調査結果の因子分析(主因子法,バリマックス回転)により,解釈可能な9因子が抽出された。第1因子は「崩せない家族のペース」第2因子は「間食と活動量の少なさ」,第3因子「母親の指導力不足に起因する肥満になる食生活」,第4因子「家族のコミュニケーション力」,第5因子「規律のない食生活」,第6因子「子どもの運動量の不足と遅寝遅起き」,第7因子「働く母親と遅い夕食時刻」,第8因子「計画性のない家族行動パターン」,第9因子「甘党の朝食パンメニュー」となり,9下位尺度33項目(5段階評価)からなる質問紙となった。累積寄与率は54.5%,内的整合性を示すクロバッハαは0.78であった。再テストによる再現性は良好であった(Spearman's p=0.61, p<0.01)。以上の結果より,家族の生活習慣セルフモニタリング尺度が作成され,尺度構成の内的一貫性と再現性が検証できた。今後は質問紙の標準化と子どもの肥満度群別による得点法について検討を進めていき,さらなる信頼性と妥当性を検証していく必要がある。また,この尺度の保健指導における活用方法の検討も行う必要が示唆された。これらの結果は小児保健学の学会で発表予定である。
著者
NIRAULA Madan
出版者
名古屋工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究では高い空間及びエネルギー分解能、高い検出効率を有する高性能放射線検出器を実現することを目的とし、CdTe半導体結晶を用いて検出器の作成を行った。CdTeは放射線に対する吸収係数が大きく、また禁制帯幅が大きいため常温動作可能な検出器を作製できる。しかしながら、CdTe検出器では電子と正孔の移動度と寿命差に起因する検出感度の低下や、エネルギー分解能劣化などの問題がある。それを解決するため本研究では新規の電極構造である微小収束型電極構造を持つ検出素子の検討を行った。今年度は昨年度得た成果を基に電極構造、検出器作製の最適化を行い、さらにこの検出器アレイ化について検討した。また、大規模アレイ作製に必要な素子分離に適用できるレーザーアブレーション技術の検討を行った。検出器作製技術の改良により単一検出器及び小規模アレイ(2x2素子)の検出特性の向上を達成できた。その結果は従来の結晶表面と表面に平面電極を形成した構造の検出器より優れた検出特性を持っていることが確認できた。また、検出器アレイでは素子間の特性のばらつきがなく、均等な検出特性が得られた。一方、レーザーアブレーションによるアレイの素子分離では結晶上に金属マスクを置きKrFエキシマレーザー照射することにより深いトレンチが形成可能であることを確認した。また、レーザー照射がCdTe結晶内に及ばす影響が少ないことが電気特性から明らかになった。以上の結果は来年度アメリカに開催予定の放射線検出器に関する国際会議に報告する予定である。
著者
山城 香菜子
出版者
国立大学法人琉球大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

【目的】腎臓での糸球体濾過量(glomerular filtration rate : GFR)を評価する指標として、従来よりクレアチニン・クリアランス(Ccr)が日常の臨床現場において広く用いられてきた。2008年には日本腎臓学会より"日本人の推算GFR(eGFR)"が提唱され、24時間の蓄尿を行うことなく血清クレアチニン(Cre)値から簡便にGFRを算出することが可能になった。しかし、年齢や筋肉量の違いによるクレアチニン値への影響は避けられず、得られたGFRには未だ信頼性に乏しい部分がある。近年、性や年齢に影響を受けない新たな腎機能マーカーとしてシスタチンCが注目されている。本研究では、シスタチンCとeGFRとの相関性を分析し、慢性腎臓病(chronic kidney disease : CKD)診断の指標としての有用性を検討した。【対象および方法】対象は本院において血清Creを測定した患者検体200件とした。各々の検体についてシスタチンCを測定し、同時にCre値から算出されたeGFRとの相関分析を行った。【結果と考察】シスタチンCはeGFRと対数相関を示し、CKD診断指標であるeGFR 60ml/min/1.73m^2未満での相関はγ=0.714であった。一方、eGFR 60ml/min/1.73m^2以上ではγ=0.472であった。また、シスタチンCと血清Creは直線相関にあり、eGFR 60未満および60以上での相関はγ=0.636、γ=0.424であった。いずれの場合も、腎障害が疑われるeGFR 60未満の検体で比較的高い相関が得られた。しかし、シスタチンCがGFRと同等に、CKDの診断指標となるには満足できる相関とは言い難い。シスタチンCの測定は標準化が遅れており、GFRへの推算式の検討が行われている段階にある。今後、eGFR算出でのCreの影響、シスタチンC測定の標準化などを解決した上で再度、相関解析を行うことが必要である。さらに、薬剤投与でのeGFRの普及、さらにはシスタチンC値そのものがGFRに代わることを期待したい。
著者
奥田 勝博
出版者
広島国際大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

4-Methyl-2, 4-bis(ρ-hydroxyphenyl)pent-1-ene(MBP)は、我々のグループがビスフェノールA(BPA)の活性代謝物として発見した化合物であり、in vitroではBPAの数十倍から千数百倍のエストロゲン活性を示すことが明らかとなっている。本研究ではラットin vivoにおけるMBPのエストロゲン活性を評価することを目的とした。Wistar系ラットの卵巣を外科的に摘出し(OVX)、内在性のエストロゲンを枯渇させたOVXラットにエストラジオール(0.55μg/kg/day)、BPA(0.5,5,50mg/kg/day)及びNBP(0.1,1,10mg/kg/day)を5日間皮下投与し、最終投与の翌日に子宮を摘出して重量を測定した。ホルマリン固定・パラフィン包埋サンプルを作成して、薄切後にHE染色を行い、組織の観察を行った。また、パラフィン包埋サンプルからRNAの抽出を行い、リアルタイムPCRによって、各種エストロゲン関連遺伝子のmRNA発現量を定量した。MBPを投与したOVXラットの子宮重量はコントロールに比べて有意かつ濃度依存的に増加し、子宮内膜上皮高、及び子宮筋層厚についても同様の結果が観察された。同時に行ったBPA投与群と比較して、MBPはBPAの500倍以上のエストロゲン活性を有することが示唆された。また、OVXによって惹起されたエストロゲン受容体のmRNA発現上昇を有意に抑制し、IGF-1およびc-fosのmRNA発現の減少を濃度依存的に回復させた。これらの結果から、MBPは哺乳動物においても高いエストロゲン活性を有し、BPAの活性代謝物として人体に影響を及ぼす化合物であることが示唆された。
著者
河崎 善一郎 山本 賢司 王 道洪 高木 伸之 RCICHRAD Gum HUGH Christi
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本年度の成果は,当該研究遂行のために設計・試作した「VHF波帯広帯域干渉計」が,仕様通りの機能を有する観測機であることを実証できた点である。すなわち雷放電に伴って放射されるVHF/UHF波帯パルスを,高い時・空間分解能で標定することに成功し,俗に「枝分かれ」と呼ばれほぼ同時に並行して進展する放電の様相が可視化できた点であると結論できる。通常放電路の可視化は,VHF/UHF波帯で,狭帯干渉法,時間差法を用いて具体化されてきたが,いずれの方法においても,樹枝状に進展する放電についての可視化は不可能で,本研究申請者等が,世界で初めて実現したといっても過言ではない。その結果,これまで先行する雷撃の放電路と同じ経路を取るものと,数十年来信じられていた多重落雷の後続雷撃が,時として異なる経路をとり,その結果,後続雷撃の落雷地点が,先行する雷撃の落雷地点と,数キロメートルも離れることのあることが明らかとされている。さらに雷放電の開始点についての詳細な理解や,多重落雷を引き起こす雷雲内の電荷構造,雲内放電の進展様相等々,電波観測という利点を生かして,数多くの観測的事実を見出している。一方,超高感度ビデオカメラにより,Red Spritesの観測にも成功し,共同研究者であるニュージーランド・オタゴ大学D.Dowden教授の,低周波電磁波観測結果との照合により,Red Spriteが,雷雲頂部から電離層下部への「放電」現象であるとの結論を得ていることも特筆すべき研究成果となっている。またこのRed Spriteの観測により,その発生が,地域や緯度に依存せず,きわめて一般的な現象であることが明らかとなり,その後北陸や地中海等でその発生が相次いで見出されるきっかけとなっている。なお上記の成果は,全て米国地球物理学会誌及び電気電子学会誌に公表印刷されると共に,「VHF波帯広帯域干渉計」は,特許申請中(出願番号 特願平11-170666)となっている。
著者
石橋 明浩
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2000

時空特異点の波動によるプローブによって、特異点は波動に対して正則、非正則の二つに分類される。もしダイナミカルなブロセスで非正則な裸の特異点が現れる様な状況は、宇宙検閲官仮説に法って、排除されることが望ましい。このような非正則な裸の特異点発生の排除が、量子効果を考えることで達成され得ることを簡単なモデルにおいて、具体的に量子粒子の計算をして、示した。(A.Ishibashi and A.Hosoya)我々の4次元宇宙が、高次元の反-de Sitter時空の中にあるブレーンとして記述される、いわゆるブレイン宇宙シナリオが近年、盛んに議論されている。このシナリオでは、5次元方向に運動しているダイナミカルな4次元ブレーンの振舞いを議論することが本質的に重要である。このシナリオは、これまでのところ通常の4次元一般相対論に基づく重力理諭と整合している。我々は、この5次元方向の存在が顕著な役割を果たすブレイン宇宙の新しいモデルを提案した。その特徴は、まずRandall-Sundrum modelと違って、はじめに5次元バルク時空は反-de Sitter時空である必要はない。bulk時空で真空泡発生、その膨張とブレーンと衝突する事によって、ブレイン宇宙の有効宇宙項が消え、ブレーン上のンフレーションが終り、ビッグバン宇宙に転じることができる。同時にバルクが反-de Sitter時空になるため、通常の4次元一般相対論的重力が再現されることになる。特に、通常の4次元での真空泡に因るインフレーションの終了と違い、ホライズンスケールを越えて、同時に4次元宇宙が再加熱される。この様に、ブレーン宇宙とバルク内部の真空泡や、別のブレーンとの衝突を用いて我々の4次元ビッグバン宇宙モデルを再現しようとする幾つかのモデルが最近提案されてきた。上述した我々のモデルの紹介とともにその他のブレーンの衝突を用いた理論についてレポートした。(U.Gen, A.Ishibashi, T.Tanaka)また、ブレーンの様な物体が重力とどの様な相互作用をするのかについて、4次元の場合には、線形摂動の範疇でブレーンの揺らぎの自由度が、その自己重力を考慮すると、周りの重力波摂動の自由度で記述されるという、ブレーンのダイナミクスについての、これまでの素朴な予想とは非常に異なる結論がえられていた。我々は、この現象は、一般の次元で起こることを示すとともに、この一見この矛盾する様な現象は、ある状況下では解消することを示した。即ち、我々の提案した、弱い自己重力近似の状況かでは、自己重力を考慮したダイナミクスは、考慮しないテストブレーン近似による運動の解析によって得ることができることを示した。(A. Ishibashi, T. Tanaka)また、ブレーンの様に拡がりをもつ物体と、同じく拡がりをもつ相対論的物体であるブラックホールとの相互作用は非常に興味深い。我々は数値計算の方法を用いて、この二つの物体の共存する静的な時空解が存在することを示し、相互作用について議論した。(R.Morisawa et al.)
著者
馬越 徹
出版者
桜美林大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

近年におけるアジアの大学は、従来の理論(欧米の大学への従属から脱することは不可能とする言説)では説明できない発展相を示している。特に、広義の東アジアの大学は、グローバル化に対応した積極的な戦略を展開してきており、いわゆる「研究大学」が確実に誕生しており、国際競争力を増している。本年度(初年度)は、韓国、マレーシアの事例研究を中心に作業を進めた。まず韓国においては、「頭脳韓国21世紀計画(通称:ブレインコリア21)」(第2期)事業を通じ、ソウル所在の有力大学(ソウル大学、高麗大学、延世大学等)及び韓国科学技術大学等が、国際的大学ランキング(例:タイムズ紙)の上位200校入りを果たしたことに見られるように、研究大学としてのレベルアップが図られている。国家的にも教育科学技術部が打ち出したワールドクラス大学育成事業(WCU)がスタートし、研究大学の強化が図られている。また、マレーシアの場合も、従来から有力大学であったマラヤ大学のほかに、2020年を目途とする国家戦略のもと、マレーシア科学大学(ペナン)、国民大学(セランゴール州)、プトラ大学(セランゴール州)が研究大学の仲間入りを果たし、マレーシア科学大学が国内ランキングの上で、マラヤ大学を追い抜いたことに見られるように、大学間競争が熾烈となっている。これらの大学は法人化されており、ますますのガバナンス改革と競争力強化のための戦略が進行中であることが判明した。同時に、大学の質保証機構としてMQA(マレーシア大学質保証機構)が本格的な活動を開始していることも注目される。
著者
守山 正樹 我妻 則明 齊場 三十四 福島 哲仁
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

研究の最終年度として、触知実験の手順をまとめ、実習書を試作した。同時に、触知などの保有感覚を生かして社会復帰をする過程を総合的に把握するため、中途失明を克服し、サラリーマンとして働いているS氏の事例研究を試みた。特に注目したのは、社会復帰後に失明前の仕事だけでなく、ボランティア活動までも行っているS氏のコミュニケーションである。2001年11月にA大学医学部の医学概論カリキュラムにおいてS氏が行った授業を分析し、S氏が周囲と人間関係を築く過程の解明を試みた。「S氏の授業の進め方は、他の講師の授業に比較して、どのような特徴を持つか」を、S氏の授業が終了した直後に、自記式の評価表により、学生に評価してもらった。評価表の作成に関しては、S氏が1998、99年度にも同様の授業をした際に、学生が述べた感想や、医学概論の全授業に臨席したスタッフの印象を参考に作成した。11個の評価項目のうち最初の三評価項目については、S氏の授業は他の授業に比較して有意な低値をとった。特に、「1、黒板を活用する」、および「2、スライドやOHPを活用する」の2項目はゼロであった。S氏の授業に際しては、S氏が職場復帰した様子を報じた新聞記事を資料として印刷し、学生に配布していたが、「3、プリントを活用する」においても、S氏の授業は4.2%と他の授業の82.1%に比較して、有意な低値とった。資料のプリントは講義後に読む参考資料と位置づけられ、プリント自体の解説をS氏が授業中には行わなかったことが、低値の原因と考えられた。4番目以降の項目については、その全てでS氏の授業は他の授業に比較して高値をとり、特に「5、全体の学生に語りかける」、「8、ひとり一人の学生に語りかける」、「9、ひとり一人の学生に問いかける」、「10、ひとり一人の学生の応答から話を発展させる」の4項目に関しては、差が有意であった。これらのことより、S氏の授業は、全体の学生に対しても、個別の学生に対しても語りかけ、問いかけることを、特徴とすることが明らかになった。
著者
井端 泰彦 井上 慎一 岡村 均 千原 和夫 本間 さと 貴邑 冨久子
出版者
京都府立医科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1996

本研究は昨年に続き12名の班員による研究により,生体リズム発現及び同調機構,内分泌リズム,自律神経リズム,ヒトにおけるリズム発現,時間記憶などの研究課題について研究を行ってきた。平成9年度に多電極皿上における培養視交叉上核のリズム解析(井端),行動リズム位相変化と哺乳類時間遺伝子(岡村),視交叉上核VIP,AVPニューロンの自律神経反応と高血糖反応への影響(永井),視交叉上核におけるリズム同調機構に対するCREB,CREMの関与(井上)マウスにおける概日リズム突然変異体の分離(海老原),概日リズム光同調に対する心理的ストレスの影響(柴田)GnRHの概日リズム発現に対する視交叉上核AVP,VIPニューロンの影響(貴邑)視床下部成長ホルモン分泌制御機構(千原),条件恐怖刺激に対する視床下部オキシトシン,バソプレシン分泌反応に対する視交叉上核の関与(八木),ヒトにおける生物時間同調因子について(本間),高血圧における血圧の概日リズム機構異常とその治療(田村),睡眠覚醒障害に対する高照度光治療(佐々木)についてそれぞれ研究を行い昨年12月に班会議を開催し研究成果の発表と討論が行われた。特筆すべきことは昨年哺乳動物(ヒトにおいても)にショウジョウバエの時計遺伝子とホモローグである遺伝子が存在することが異なる研究施設から時を同じくして発表されたが(Science,Nature)本研究班の一人である岡村はこの研究グループのひとりであり,彼は続いてこの遺伝子のマウス視交叉上核での発現や光照射による影響や位相変化について"Cell"に発表したことである。即ち哺乳動物における概日リズム発現機序の手がかりが得られたことは大きな成果と考えられる。
著者
神田 清子 栃原 裕 飯田 苗恵
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

癌化学療法に伴う味覚識別能の変化に対応した食事ケアを検討することを目的として,次の3研究を施行した.第一に,癌化学療法を受けた入院中の患者45名を対象に治療前・中(4日目)・後(治療後10日目)の甘味・塩味・酸味・苦味についての識別能を試薬滴下法により検査し分析した.第二に,癌化学療法を施行する患者のための病院献立および食事への取り組みについて,全国の病院241施設を対象として郵送法により調査し,有効回答145施設の現況を分析した.第三に,癌化学療法を受けている患者,3事例の味覚識別能および食事摂取状況,食事嗜好を調査し,栄養バランスの評価を行った.結果は次のようにまとめられる.1.甘味・塩味・酸味・苦味のうち癌化学療法の影響を強く受けていたのは塩味であり,識別閾値は治療中敏感になり,治療後は有意に鈍感になっていた.2.癌化学療法を受ける患者のために特別な献立を有している施設は,48(33%)であり,献立の種類は,化学療法食,口内炎食,加熱食などであった.3.味覚識別能と食事の嗜好との関係では,甘味・塩味・酸味の味覚では,味が鈍感になった味覚を主体とする食品を補食する傾向にあった.また,薬剤投与中は,蛋白食品や煮物に対する嫌悪感が認められた.4.化学療法剤が投与されている期間および口内炎の合併は,蛋白質,脂質,炭水化物摂取量を極端に減少させ,熱量は基礎代謝量にさえ満ちていない.以上,癌化学療法を受け味覚に変化をきたした患者の食事ケアとしては,鈍感になった味を少し強化した味付けにする.化学療法剤投与中では,肉,卵,魚類の蛋白食品を少量使用する.治療後は,口内炎の合併がなければ塩味をやや濃くし,麺類など塩分の味付けを集中させる献立を提供する.加えて,食事ケアでは,病院食として化学療法食,口内炎食を確立する必要がある.そのためには栄養士と協力し,組織的な取り組みを行うことが不可欠である.
著者
大下 市子 山本 友江 足立 蓉子
出版者
山口女子大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

調理済み・半調理済み商品の利用について、1984,1990,1994年に、大阪・広島・山口で学生の家族の調理担当者にアンケート調査を実施した。その結果、調査した30品目を利用の変化から5つのグループに分類し、その特徴を明らかにした。第1のグループは、1984年から1994年の10年間で利用に変化のない食品で、持ち帰り食品のすし、冷凍食品のハンバーグ、インスタント食品のス-プの3種であった。第2のグループは、1984、1990、1994年と利用が増加している食品で、持ち帰り弁当、そう菜のだしまき卵、そう菜の酢の物・あえ物の3種であった。第3のグループは、年次で増減が認められるもので、9種中6種はそう菜であった。第4のグループは1984年から1990年にかけて増加が認められる食品で、8種中レトルト食品3種、持ち帰り2種で、その食品はハンバーグ、カレ-・フライドチキン、ス-プ・シチューと洋風の食品が多く見受けられた。第5のグループは、1990年から1994年にかけて利用が増加している食品で、7種中4種がそう菜、3種が冷凍で、今まで家庭で作るとされていたきんぴら、にしめ、焼き魚等和食の食品が多く見受けられた。現在、これらの食品の利用におよぼす生活概況・食生活概況等の因子について、また、食品のイメージと利用の関連についても解析中である。
著者
山本 祐介
出版者
東京歯科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

明らかなマイボーム腺機能不全(meibomian gland dysfunction ; MGD)を有さないが、ドライアイに関する愁訴を有する者19例38眼を対象とし、アイマスク型の温熱マッサージ器「アイマッサー」を1回5分、1日2回、2週間毎日使用させ、自覚症状、涙膜破壊時間などの眼機能の変化、一般所見などを観察した。対象は男性2名、女性17名。平均年齢33.4歳(±6.9歳)。短期間効果:5分間使用し、前後の変化(眼瞼角膜温度、涙液膜破壊時間(BUT)など)を評価した。治療的効果:1日5分使用を1日に2回行い、2週間続けた。結果 BUTは短期間調査、治療的調査ともに著明改善した(P<0.01)。多くの症状が2週間の治療後に改善をみせた。DR-1上、干渉像の変化はないものから、厚みのある油層が観察されるようになる症例まで様々であった。5分間の温熱療法後、上眼瞼温度は1.6℃、角膜温度は1.3℃上昇した(P<0.01)。視力、眼圧、シルマー値に変化は認められなかった。調査した多くの自覚症状項目(瞼の重い感じ(p<0.001)、眼が疲れる、眼が乾燥する、異物感、充血する、不快感がある(以上5項目、p<0.01)、瞬きが多い、めやにが出る、眼がほてった感じがある(以上3項目、p<0.05))で改善が認められた。総合評価でも良好な成績が得られた。また、本試験では併せて眼精疲労に関する愁訴についてもアンケート調査を行ったが、これについても調査した症状の項目の半数以上で改善が認められるなど、良好な成績が得られた。これらのことからアイマッサーはドライアイ及び眼精疲労に関連した愁訴に対して有効であると考えられた。現在、論文執筆中である
著者
布川 清彦 伊福 部達 井野 秀一 中邑 賢龍 井手口 範男 大河内 直之
出版者
東京国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

全盲者の白杖利用を対象として対象認知のために必要となる感覚情報を特定し,感覚情報と機器の身体化との関係を明らかにするために,マグニチュード推定法を用いて,利き手で握った白杖を用いた場合のゴムの硬度と硬さ感覚の関係を実験的に明らかにした.これにより白杖ユーザの移動支援のために,1)触覚と聴覚というマルチモーダルな情報提供を行う道具としての白杖に関する基礎的知見と,2)それに対応する環境側のデザインを考察するための手がかりが得られた.
著者
畑 信吾
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

PCR法を用いてミヤコグサ菌根cDNAライブラリーから単離した3種類のリン酸トランスポーター遺伝子のうち、LjPT3が菌根特異的に発現していることをリアルタイムRT-PCRで確認した。次いで、in situ hybridizationによってLjPT3 mRNAは菌根菌の樹枝状体を含む皮層細胞に局在することを見いだした。また、高親和性リン酸輸送体を欠損した酵母PAM2変異株にLjPT3を発現させたところ、菌体内へのリン酸取り込みが上昇したので、LjPT3には確かにリン酸輸送能があることが証明された。さらにLjPT3の役割を明らかにするため、毛状根形質転換によってRNAiコンストラクトをミヤコグサに導入した。菌根菌を接種して低リン酸濃度で対照との生育を比較したところ、LjPT3ノックダウン形質転換体では樹枝状体付近にリン酸が蓄積して吸収がスムーズに行われない結果、対照よりも生育が有意に劣っていた。共生時における菌根菌の発達をさらに詳しく観察したところ、LjPT3ノックダウン形質転換体では対照に比べて樹枝状体の数が半分近くに減少する一方、idioblast細胞(褐色のフェノール化合物を液胞に蓄積し防御応答に関与すると思われる植物細胞)や菌糸侵入地点が2倍近くに増加していた。この結果から、植物は菌根菌由来のリン酸吸収量を監視しており、能率の悪い菌根菌を排除して新たな共生関係を模索することが示唆された。次にノックダウン形質転換体に菌根菌と根粒菌を同時に接種したところ、ネクローシスを起こして早死した根粒が多数観察された。これは、宿主植物が低能率だと認識した菌根菌への攻撃を行う際に、根粒菌もそのあおりを食ったために起こった現象だと思われた。
著者
池野 武行 徳山 孝子
出版者
一宮女子短期大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

平成10年度では、中国産、ブラジル産、ニュージーランド産プロポリスのうち特に芳香性の強いブラジル産プロポリス1種(スーパーグリーン)を特定した。このプロポリスの従来からの応用・利用は、健康食品のみであったので次の点を開発した。1. アルコール抽出プロポリス(SG)を濃度調節に各プレーとして分散させる。2. 日本人の好きな檜チップ材(8×8mm)に加工してプロポリス芳香をもつ檜チップを開発して、枕の中に入れてリラックスを期待する。3. プロポリス原塊をアルコール抽出した残り分にも芳香性はあるため、これを粒子化して錠剤タイプ製型に持続型芳香剤を開発した。4. 上記の残り分を粉末のまま不織布等に封入して持ちはこび可能な芳香剤とした。とした。
著者
藤田 尚文
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

曲面の違いの影響について調べた。また、図形の向き(上向きか下向きか右向きか左向きか)の違い、比べる曲面(同じ曲面か異なる曲面か)の違い、図形の置く位置(右と左か上と下か)の違いの影響についても調べた。3次元の曲面では他の要因の影響を受けやすいため、曲面を2次元のものに限定して実験を行った。実験において被験者はアイマスクをして机の前に座り、提示された刺激図形を右手の人さし指で触れる。被験者には1個の標準図形と1個の比較図形が提示される。被験者の課題はそれらの提示された図形を比べてより高い図形(より深い図形)を選ぶかあるいは両者が同じかを判断することである。極限法により主観的等価値(PSE)を測定した。実験で用いた標準図形と比較図形には山曲面を持つ図形と谷曲面を持つ図形の2種類がある。山曲面と谷曲面は、一山または一谷のsin曲線であった。標準図形の曲面の幅は5.1cmの1種類;高さ(深さ)は1.0cmの1種類。比較図形の曲面の幅は3.4cmの1種類;高さ(深さ)は0.1cmから1.5cmまで0.1cm刻みで15種類。実験1〜4において以下の4点が影響を及ぼしていることが分かった。この4点は、図形の位置(右と左か上と下か)に関係なく影響を及ぼしていた。図形の位置については、標準図形の位置が右(上)の時と左(下)の時の数値には差がないことから、影響はないと考えられる。(1)幅5.1cmと幅3.4cmでは幅3.4cmを高く(深く)知覚し、幅5.1cmを低く(浅く)知覚する。(2)標準図形の向きを下向きにした時に高く(深く)知覚し、標準図形の向きを左向きにした時、低く(浅く)知覚する。(3)幅3.4cmの山曲面と谷曲面では山曲面を高く(深く)知覚し、谷曲面を低く(浅く)知覚する。(4)比べる曲面、比べる曲面の幅が異なる時、比較図形を高く(深く)知覚する。(山曲面と谷曲面、幅3.4cmと幅5.1cmを比べた時、比較図形を高く(深く)知覚する。)比較図形(幅3.4cm)の山曲面、谷曲面の影響の原因については、山曲面の時は指が外側を通り、谷曲面の時は指が内側を通るためと思われる。標準図形(幅5.1cm)では影響がなかったことから、曲面の幅が広くなる程、影響力はなくなると推測される。向きの影響については、前後の平地の高さをずれて知覚するためだと思われる。上、下、右向きの時は、後ろの平地を低く感じるために高く知覚し、左向きの時は、後ろの平地を高く感じるために低く知覚すると考えられる。図形の触りやすさ、触りにくさも影響していると思われる。
著者
岸 幹二 繁原 宏 若狭 亨 杉本 朋貞 窪木 拓男
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究の目的は、第1に顎口腔領域における各種感覚刺激のfMRIに最適の撮像条件の設定、頭部の固定法、画像処理を確立することである。第2に味覚など体動や筋肉の動きを伴わない刺激および嚥下運動におけるfMRIの描出能について健全例について種々条件を変えて検討を加え、fMRIの顎口腔領域各種感覚刺激の研究、臨床応用の可能性を追及することである。平成12年度にまず撮像法の検討を行った。手指の運動に対し、gradient echo type EPI(GE-EPI)とspin echo typeEPI(SP-EPI)の2種類の撮像シーケンスを用いて、fMRI画像の比較検討を行った。その結果、SP-EPIが信号検出の特異性、正確度共に高いため、このシーケンスを用いることにした。頭部固定は、ヘッドコイルと頭部に対し、ヘアバンド、スポンジ等を組み合わせることにより施行し、アイマスクと耳栓で視覚、聴覚刺激を遮断した。画像処理は、Magnetom Visibn付属のソフトウエア-(Numaris)内のz-scoreを用いて行った。次に、味覚刺激は、濃度1Mの食塩水と3mMのサッカリンを被験者の口腔へ挿入したチューブより滴下することにより与え、fMRI撮像を行った。その結果、味覚刺激による脳賦活領域はpariental operculum、frontal operculumとinsulaに分布することが明らかになった。味覚刺激の種類による分布の差異は今回の研究では認められなかった。平成13年度は、主に嚥下運動によるfMRI studyを行った。すなわち、被験者の口腔に挿入したチューブより、蒸留水を3ml/秒注入し、断続的に嚥下してもらうことにより行った。その結果、primary motor cortex、primarys somatosensory cortexが主に賦活されることが明らかになった。