著者
根ケ山 光一 河原 紀子 大藪 泰 山口 創 岡本 依子 菅野 純 川野 健治
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、人間の対人関係において基本的に重要な役割を果たしている身体接触に関して、その正負両面にまたがる意味を、ライフサイクルのさまざまな時期にわたって注目し、生涯発達的に検討したものである。まず、胎児期においては接触が胎動という形で採り上げられ、母親が胎内の子どもの身体と接触的にコミュニケーションする様が、「オノマトペ」を通じて明らかにされた。乳幼児の研究としては、抱き(および抱きにくさ)・身体接触遊び・ベビーマッサージといった異なるアプローチを通じて、身体接触が母子間での重要なコミュニケーションチャンネルであることが示され、またそこに子どもも主体的にかかわっていることが明らかにされた。また、母子関係を離れても、子ども同士や保育士との身体接触には、子どもの対人関係構築上の大きな機能が示唆された。さらに、寝かしつけという睡眠・分離導入場面においては身体接触の様態に大きな文化差がみられ、接触・分離が文化規定性の強い側面であることも示された。青年期になると、親子の反発性、友人関係における性や攻撃性に伴う反発性など、身体接触の負の側面が強く前面に出てくることがある。親子関係でいえば、インセストなど身体的反発性が接触への嫌悪として強くみられることが明らかにされた。また、老化とともに、身体が相手に触れることの意味がさらに変化する。介護と身体接触につながるようなテーマが介護ロボットを用いて明らかにされた。以上のような研究の成果をもちよって報告会を行い、関係構築の確固たる土台としての身体と、それを触れあわせることの発達に伴う意味の推移とが議論された。そして、それをふまえて最後に報告書を作成した。
著者
藤田 護
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

前年度には、文献調査及び予備的現地調査を実施した。これを基に、本年度はボリビアにおける長期現地調査を実施した。この現地調査においては、参与観察の手法に基づき複数の組織(NGO、ラジオ局)において活動に同伴し、これらの機関の補助的業務を自ら担いながら、民族誌的データの収集に尽力するとともに、アイマラ先住民の人々が自らをどう見ているかに関する、現地でも限られた人間しか存在を知らない未公刊の貴重なラジオドラマ資料(脚本、音声資料、視聴者のお便りなど)へのアクセスを多数得るとともに、重要関係者への聞き取り調査を実施し、また現地で公刊されたおもにアンデスの言語人類学と社会人類学に関する文献のさらなる収集作業を行った。これらはすべて日本国内ではアクセスできないデータであるため、今回の現地調査は有意義な結果を上げることができた。これらの作業と並行して、博士論文執筆のための大枠の構成・目次案を定め、研究指導教官および現地で研究上のアドバイスを受けている研究者との打ち合わせを行った。また、アイマラ語での聞き取りデータについては文字起こしを進め、正確さを期すためネイティブの話者との確認作業を継続した。本年度の調査で収集した題材を基にして、博士論文に関するコロキアムを次年度に実施する予定である。また、次年度において、日本では日本ラテンアメリカ学会(使用言語は日本語)で、また現地ではボリビアの国立民族学・民俗学博物館で開催される民族学の年次大会(使用言語はスペイン語)で、本年度の研究成果を部分的に報告することを予定している。
著者
加須屋 誠
出版者
帝塚山学院大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

鎌倉後期制作の聖衆来迎寺所蔵「六道絵」は地獄幅四幅・閻魔王庁図一幅・餓鬼道図一幅・畜生道図一幅・阿修羅道図一幅・人道図四幅・天道図一幅・念仏功徳図二幅の計十五幅からなる仏教説話画遺品である。これらは現在、東京及び関西の博物館美術館に分割保管されているが、報告者はその実地調査を行い、各幅の詳細な細部写真撮影をなした。さらに各場面を『往生要集』をはじめとする仏教教典と対照し、カード及びコンピュータ・データベース形式で整理することにより、今後の研究の基礎となる資料を作成した。研究上とりわけ注目したのは、このなかで現実世界を描いた人道図である。これに関しては仏典(教理的プレテクスト)のみならず鎌倉時代の社会状況(社会的コンテクスト)をも考慮して、従来と異なる作品論(テクスト解釈)を試みた。その成果として一昨年すでに「聖衆来迎寺本六道絵「人道不浄相図」考」と題した論文を『帝塚山学院大学研究論集』に発表していたが、引き続き本年度は「生老病死の図像学-仏教説話画研究序説-」と題した論文を著し『国華』に掲載(1996年9月10月刊)。また特に病気の問題については「病草紙」等との比較を中心にして「病・表象・まなざし」と題して口頭発表(1996年12月、国際ワークショップ『美術史と他者』、於高野山福智院)、さらに死の問題に関しては『往生要集』の視覚イメージ論として「臨終行儀の美術-儀礼・身体・物語-」と題して口頭発表(1997年3月、公開フォーラム『宗教と美術』、於名古屋大学)を行った。これらの口頭発表の内容はいずれも平成9年度中に論文として刊行の予定である。そして、さらなる今後の研究課題に、異界についての考察がある。まずは地獄福に関する考察から始めて、順次各福の図像と様式解釈を試みた論文を執筆し、今後5年間をめどにして『聖衆来迎寺本六道絵の研究』をまとめることとしたい。その際には国際ワークショップで同席し、示唆に富んだアドバイスをくださったN.Brysonハーバード大学教授等が主導するいわゆる「ニュー・アート・ヒストリー」の研究方法が有効と考えている。
著者
友重 竜一 石田 清仁 及川 勝成
出版者
崇城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

燃焼合成法を利用してCr硫化物、Ti系およびZr系炭硫化物を安定的に得た。透過電子顕微鏡観察結果から代表的な固体潤滑剤のMoS2と同様な層状構造を確認した。高温酸化試験の結果、約500℃以上での酸化が激しいことから、被削性向上用分散剤として溶鋼中への当該化合物を投入・分散させる方法は酸化雰囲気では困難と考える。一方、動摩擦係数μは概ね0.11-0.12を示し、MoS2と同程度であった。以上より固体潤滑剤としては十分期待できる物質であると結論づけた。
著者
明石 孝也
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

LaCoO_3系材料は、固体酸化物燃料電池の電極やNO_x分解触媒などに応用される。これらの用途のためには、大きい表面積を持つことが望ましく、ゾル-ゲル法や溶液噴霧法などの様々な方法で、数十〜数百nmの気孔を持つメソポーラス材料が合成されている。しかし、メソポーラス材料では表面エネルギーを駆動力とした粒成長が起こりやすく、高温で長時間安定に存在することが難しい。そこで、本研究ではメソポーラス複合酸化物中にナノ単酸化物粒子を分散させることにより、高い粒成長抑制効果と優れた電極特性を同時に発現させるために、CoOナノ粒子を分散したメソポーラス(La, Sr)CoO_3膜の粒成長機構を解明し、粒成長抑制のための指針を設計した。ゾル-ゲル法を用いて、CoOナノ粒子を分散したメソポーラスLa_<0.6>Sr_<0.4>CoO_<3-δ>膜をGd_2O_3ドープCeO_2焼結体基板上に作製し、La_<0.6>Sr_<0.4>CoO_<3-δ>膜の1273Kにおける粒成長速度を評価した。粒成長速度の酸素分圧依存性と粒成長の式による解析により、約50nmの初期粒径を持つLa_<0.6>Sr_<0.4>CoO_<3-δ>膜の粒成長は、拡散律速ではなく、界面反応律速で進行していることを明らにした。ナノ〜サブミクロンサイズの粒径をもつ(La, Sr)CoO_<3-δ>膜の粒成長抑制には、粒界の偏析層を制御し、空間電荷層を横切る陽イオンの移動を抑制することが重要であるという設計指針を確立した。
著者
中村 和利 土屋 康雄 斎藤 トシ子
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、閉経後女性の骨密度低下抑制に有効なカルシウム付加量を明らかにすることであった。女性ボランティア450人を1)カルシウム250mg、2)カルシウム500mg、3)プラセボを毎日服用する群、の3群に割付け、2年間の腰椎および大腿骨頸部骨密度の低下を3群間で比較した。カルシウム250mg/日および500mg/日付加群の腰椎骨密度の低下がプラセボ群より有意に小さかった。カルシウム250mg/日の摂取増加は腰椎の骨密度の低下を遅らせる。
著者
石田 俊正 南部 伸孝 チュン ウィルフレド
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

光に応答する生成分子として、視覚に関するタンパク質ロドプシン中に存在するレチナール分子をとりあげ、分子に光を当てた際に起こる反応のシミュレーションを行った。レチナールの種類による光に対する応答性の違い、とくに、光を当てたときどれだけ反応するか、また、反応はどれくらい速くおこるかについて調べ、実験と一致する結果を得た。9cis-レチナールが私たちの目にある11-cisレチナールより反応が遅く、反応性が悪いのは、光で生成する励起状態においてトラジェクトリがエネルギー障壁に補足されるためであることを明らかにした。
著者
矢吹 理恵
出版者
東京都市大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

アメリカ在住の夫アメリカ人・妻日本人国際結婚家族を対象に、夫の国であり多文化社会であるアメリカに居住することが、家族の文化・秩序・習慣にどのような影響を与え、そこで育つ子どもはどのような文化的アイデンティティを構築するかを質的に検討した。その結果、子どもの文化的アイデンティティは4つの型に分かれ、それを規定する要因として、(1)日本人母親の渡米年齢、(2)日本人母親の結婚前の異文化体験とアメリカ文化への心理的距離、(3)アメリカ人父親の結婚前の異文化体験と日本文化への心理的距離、(4)日本人母親とアメリカ人父親の、アメリカにおける家庭内での勢力関係が析出された。
著者
堀 健彦 矢田 俊文
出版者
新潟大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

本年度は、佐渡における地籍図の作成過程を明らかにし、佐渡島の地籍図の資料的性格に関する検討を完了させた。「佐渡市所管地押調査更正地図の調製状況とその特徴」と題したこの論文は国立歴史民俗博物館研究報告に掲載予定であったが、諸般の事情から来年度以降の発行になったため、今年度の成果として表記できなかった。この論文は、従来は網羅的には把握されていなかった佐渡島における地籍図作製について、作製年、製図者、地主総代などの情報をデータとして体系化したものなっており、近代期における地域社会の一側面を示す資料としての価値も有する。また、本研究計画上で中核となる地籍図の集成作業については、本年度は、地籍図の撮影を旧佐和田町域について行ったほか、効率的なデジタルデータ化のために有効なノウハウの蓄積に関して、昨年度の知見を踏まえたうえで、新たな方法による地籍図と現代の地理情報とを重ね合わせる方法を試した。それにより明らかになった問題点を踏まえ、さらなる方法について、実際に作業を行った作業者を交えて討議を行い、より省力化が図れるであろう方法やノウハウについて情報を集積することにつとめた。これにより、研究期間満了後も継続的に佐渡島の地籍図のデジタルアーカイブ化作業を進めるための道筋をつけることができた。本研究計画は、申請者が構想する佐渡島全体を一つの歴史空間としてとらえ、様々なデータをコンテンツとして提供していく計画の第一段階であった。研究期間満了後のプロジェクトの推進に関しては、所属機関である新潟大学人文学部が2009年3月に佐渡市教育委員会との間で締結した連携協定等に依拠しながら、大学における教育・研究の枠組みの中で行っていく。
著者
前田 良知
出版者
独立行政法人宇宙航空研究開発機構
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

最近の研究から、Low metalicityな環境で生まれたWolf-Rayet星がガンマ線バーストの前駆星の最有力候補として注目されている。ガンマ線バーストは超新星の爆発エネルギーが爆発前に撒き散らされたWoif-Rayet windに追いつくことで外部衝撃波を立て、残光としてX線等が放射されている可能性が考えられる。またそのスペクトルはその周りを囲うWolf-Rayef windによる吸収を受ける。したがって、ガンマ線バーストの前駆星の星風の解明が、ガンマ線バーストの理解を推し進める重要な因子になっている。我々は、はえ座θ型星のWC型の星風のアパンダンスを測定し、C/N(炭素/窒素)比が太陽組成を桁で超えることを見つけた。WC星を親星とするガンマ線バーストが発生した時には、この炭素と酸素の吸収を受けることが予想される。したがって、ガンマ線バーストの吸収構造を調べることで、その前駆星の起源が検証できることを観測的に立証した重要な観測結果であると考えている。また、この連星は周期19日の連星と思われていたが、我々の特性X線を用いたドップラー解析で周期130年以上の3番目の伴星が存在することがわかった。一例であるが、Wolf-Rayet星の連星率が高い可能性を支持する結果であり、我々が推進しているX線の分光観測がWolf-Rayet星の連星率の導出にも有効であることを示唆している。
著者
山田 賢 久留島 浩 岩城 高広 安田 浩 秋葉 淳 趙 景達 佐藤 博信 菅原 憲二 安田 浩
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究においては、北東アジア(具体的には中国・朝鮮、そして日本を対象として想定している)の近代移行期における国民国家の形成について比較研究を行った。それぞれの地域の事例について文献調査を実施したほか、浙江工商大学日本文化研究所、武漢大学日本研究中心の研究者と共同研究会を開催して検討を行った。その結果、北東アジア各地域における国民国家は、それぞれの地域において育まれた近世伝統社会における社会関係を基体として出現したことを明らかにした。
著者
横山 三菜
出版者
神奈川歯科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

ホスホセリンをポリマーとしたポリホスホセリンやホスホセリンとアスパラギン酸の1対1の共重合体がアパタイトに吸着し、硬組織の形成を促進する。牛歯エナメル質表面に作用させた場合、ポリホスホセリンでは、硬組織形成が早く、エナメル質小窩裂溝入口を硬組織で塞いでしまうため、ホスホセリンとアスパラギン酸の共重合体にて、小窩裂溝内部の石灰化を促す割合を検討する必要がある。
著者
坂庭 好一
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

Shannon限界に迫る符号化方式として注目されている,LDPC(Low-DensityParity-Check)符号に関する未解決問題として,(1)出来るだけ詳細に規定された符号アンサンブルを導出し,その性能評価を効率的に行なうこと,(2)装置化を考慮した,代数的な構造を有するLDPC符号の構成法,などが上げられる.本研究では,上記の問題に対する解決策として,(1)MuIti-Edge型と呼ばれる新しい非正則LDPC符号アンサンブルの提案とその性能評価に必要な密度発展(Density Evolution)アルゴリズムの開発,(2)LDPC符号のクラスである,修正エキスパンダ符号,アレー符号に対して,ランダム性と代数的構造のバランスをとった,装置化が容易で高性能な符号の構成法,の検討を目的として行なわれ,平成18年度には(1)『対称性』と呼ぶ,Multi-Edge型非正則LDPC符号を規定する基本構造を明らかにして,Multi-Edge型非正則LDPC符号アンサンブルを組織的に記述し,これに適合した密度発展アルゴリズムを開発した(2)修正エキスパンダ符号に対する一般化最小距離繰り返し復号法を提案し,Justesen符号に類似の構成法による,線形時間復号可能でかつ漸近的に良い符号を"陽に"与えることに成功したなどの成果を得た.引き続き,平成19年度には,実際に近い環境を想定したシミュレーションを実施して,提案方式の実用性を検証し,・提案したMulti-Edge型の非正則LDPC符号アンサンブルの具体例に関して,重み分布ならびにStopping Set分布の漸近的振る舞いを求め,提案符号の有効性を確認する・提案した代数的構造を有する各種LDPC(-likeな)符号に関して,従来符号との性能比較を行ない,提案符号の有効性を確認することができた.
著者
沢木 勝茂 國田 寛 赤壁 弘康 岩城 秀樹 竹澤 直哉 徳永 俊史
出版者
南山大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

澤木:本年度は、新株引受権、ロシアオプション、他社債転換社債、リアル・オプション、および仕組債の評価式の導出とその数値計算に関する研究を中心に実施した。これらの研究成果を国際会議(INFORMS、Bachelier Finance Society、日本ファイナンス学会、RASOR2007)および国内学会(日本オペレーションズ学会、日本ファイナンス学会、日本経営数学会、JAFEE等)において発表した。3年間の萌芽研究の成果を踏まえて、ワークショップの開催と科学研究費補助金研究成果報告書を作成した。また、研究代表者は日本オペレーションズ・リサーチ学会より学会賞(実施賞)を受賞した。本研究分担者の研究実績は以下の通りである。國田:"Jump diffusion processes and their average options", RASOR 2007,2007.3赤壁:「観光ブームの発生と消滅に関するもうひとつの力学モデル-角本論文に対するRejoinder-」,日本観光学会第94回全国大会,姫路獨協大学,2006.12、「遊園地・テーマパークの生残り策としてみた会計的手法-サンリオ「ピューロランド・ハーモニーランド」の事例を中心として-」,南山大学経営学部講師長谷川高則、同教授斎藤孝一との共同報告,日本観光学会第93回全国大会,奈良県立大学,2006.6、「高収益を稼ぎ出す投資ファンドのからくり〜リスクとリターンの関係から〜」,大学コンソーシアムせと,2006.10、「あなたもリスクに無関心ではいられない時代-資産運用とファイナンスを学ぶ意味-」,学科長が語る南山の現在第10回,2006.10岩城:"Speculation and stock prices -An analysis from the herding approach-",Workshop on Mathematical Finance and Stochastic Control,北海道大学,2006.9竹澤:本年度は、Lamberchetらのリアルオプションモデルを情報エントロピーへ応用した評価方法、部品調達戦略の柔軟性についての評価オプションなどについて、INFORMS、日本ファイナンス学会、日本リアルオプション学会などにおいて、研究報告を行なった。また、石油化学プラントのリアルオプション評価に関する著書および半導体子会社の調達契約に関するリアルオプション評価を用いたリスクヘッジに関する論文を出版した。なお、研究代表者および研究分担者の刊行論文については、次頁に記載した通りである。
著者
河村 公隆 WANG Haobo
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

本研究では、大気中の微粒子、特に有機物からなるエアロゾルに着目し、その組成解析を行うことを目的にする。特に、都市における有機エアロゾルをガスクロマトグラフ・質量分析計を使って解析し、主要な燃料に違いによって大気中のエアロゾル成分にどのような違いが生ずるのかを明らかにする。中国では、石炭が重要な工業的エネルギー源であり、家庭においても石炭・木材の双方が燃料源として広く使われている。一方、ニュージーランドでは、両方のエネルギーが使われており、特に、クライストチャーチでは家庭の暖房に薪を多用するために大気汚染が問題となっているのに対し、オークランドでは石油が一般的につかわれている。二つの主要都市は、冬期に使用するエネルギーの種類において対照的である。そこで、本研究では、ニュージーランドの2つの都市で採取されたエアロゾル試料を分析し、その化学成分の特徴から化石燃料とバイオマスの燃焼の寄与を明らかにすることを目的とした。エアロゾル試料中の有機炭素、黒色炭素、水溶性炭素の濃度を測定するとともに、主要イオン成分を測定した。その結果、冬季の暖房に薪を多用するクライストチャーチでは、有機炭素・黒色炭素の濃度がオークランドにくらべて著しく高いことがわかった。更に、エアロゾル試料から有機成分を分離し、GC/MSによる詳細な解析を行った。その結果、バイオマス燃焼に由来する有機物がクライストチャーチの冬のサンプルで高い濃度を示すことが明らかになった。特に、セルロースの燃焼生成物であるレボグルコサンは最も高い濃度をしめす有機物として検出され、薪の使用が有機エアロゾルの生成に大きく寄与していることを明らかになった。一方、オークランドで採取したエアゾル試料では、原油や石炭など化石燃料の燃焼に起因する有機物(例えば、ホパノイド炭化水素)が高い濃度で検出された。以上の成果は、国際誌であるEnviron.Sci.and Technol.に投稿された。現在、審査中である。
著者
岡戸 浩子
出版者
名城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究では、この国で推進されている言語政策および言語教育政策と大きな関わりを持つ学校教育における「第二言語教育」について社会言語学(狭義での言語社会学)的視点から現状を考察し、政策の推進における問題点および阻害要因を明らかにすることを目的とした。そのために、平成15年度〜18年度に渡ってニュージーランドを訪れ様々な調査を行った。第一に、「第二言語教育」の実態と学習者の意識に関して明らかにするために、中等学校の第二言語学習者に対してアンケート調査を行い、得られたデータを基にしてSPSS, Amosによる因子分析やパス解析等の種々の統計的手法を用いた分析を行った。第二に、上記の量的調査に加えて、質的にも確認するために、言語教師に対しては第二言語教育の現状と最近の傾向について、そして言語学習者に対しては言語学習に関するインタビュー調査を行った。第三に、カンタベリー大学、マッセー大学、ワイカト大学、オークランド大学、オークランド工科大学の研究者およびニュージーランド教育省の担当者に対してインタビュー調査を行った。その際、今回の研究にとって貴重な資料・情報を入手することができた。上記の調査結果から、(1)カリキュラム、(2)第二言語の必修化、(3)教員不足、(4)学習者の「言語」教育に対する意識、に関する問題点および課題が明らかになった。これらの課題に取り組むためには、行政によるさらなる積極的な言語教育政策の施行と、ひいては総合的な言語政策が国から打ち出されることが必要であると言える。研究期間中には、中間報告的な内容も含め、いくつかの雑誌論文や図書(著作)のかたちで研究の成果を発表した。
著者
神野 健二 河村 明 西山 浩司
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

気候変動や異常気象の発生が降水量変動に与える影響が危惧されている.本研究では気候変動と降水量変動との関係について統計的手法による解析を行った.具体的にはまず,大規模の気候場を表す指標として南方振動指数(SOI),太平洋数十年振動指数(PDOI),北太平洋指数(NPI),インド洋ダイポールモード指数(DMI)といった4つの気候指標を用いた.過去約100年間にこれら4つの気候指標が各月および各年単位で示したパターンを,非線形分類手法(自己組織化マップ)を用いて分類した.さらに,これら気候指標のパターンと福岡市の降水量及び気温との対応関係を調べた.その結果,4つの気候指標が特定のパターンを示した月に,対応する福岡市の降水量が通常より少なくなる傾向等がみられた、また,これら指標が年規模で示したパターンを調べた場合,SOI,NPIが通常年より高く,PDOI,DMIが通常年より低い値であった年の翌年は,福岡市の気温が通常年より低くなる傾向がみられた.また,西日本における重要な降雨期である梅雨期を対象にして,日本周辺の気象場の分類も行った,具体的には,日本列島周辺の気象場・成層状態を多次元格子点情報を利用し,非線形分類手法(自己組織化マップ)を適用することでパターン分類した,その結果,気象場・成層状態のパターンと西日本域の降水特性との関係が明らかになった,特に,西日本の豪雨と,湿舌と下層ジェットの水平分布のパターン,梅雨前線帯内の対流活動と関連がある対流不安定成層・中立成層のパターンとの間に明瞭な関係を得ることができた.
著者
田中 隆之
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年度は地球方向のダークマターWIMP起源イベントに着目した解析を行った。WIMPは地球でspin-independent散乱を起こして地球の重力場にトラップされた後、地球中心方向に集積され対消滅を起こし、最終的にニュートリノを放出すると考えられている。そこでスーパーカミオカンデ検出器にて今まで取得された3109.6日分の上向きミューオン(upmu)イベントを用いて地球中心からやってくるイベントの到来方向分布を調査した。バックグラウンド源である大気ニュートリノに対して有意なWIMP起源イベントは観測されなかった。そこで、地球中心方向WIMP対消滅起源upmuイベントのフラックスリミット、WIMPと核子のspin-independent散乱断面積リミットを算出した。この手法でspin-independent反応断面積にリミットを付けた他の実験は類が無く、他実験への一つの指標を作ることが出来た。これらの結果はneutrino2010国際会議、Novel Searches For Dark Matter 2010などの国際学会にて発表され、APJ誌に論文を投稿中である。また、現行の解析手法の問題点や誤差、また将来に向けてさらに精度のよい解析手法に関して議論するために、宇宙素粒子研究の世界的な機関であるオハイオ州立大学のCCAPPに赴き一カ月半程度滞在した。そこでは、現行の手法に内在するさまざまな不定性をリストアップしそれらの影響の大きさをまとめた。これらは以前よりニュートリノを用いたWIMP探索に関して多くの研究者が興味、疑問に感じていた部分でありそれらに対する初めて明確な回答が出せたといえる。この研究結果に関してはオハイオ州立大学のCarsten Rott氏との共著論文としてJCAP誌に投稿予定である。以上のようなWIMP解析(昨年度行った太陽方向からのWIMPイベント探索も含む)を柱として、以前から進めていたスーパーカミオカンデでの各種キャリブレーション、upmuイベントサンプル作りに関してなどをまとめ、博士学位論文として執筆した。
著者
神山 潤
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

昨年度の3歳児における検討に引き続き、今年度は3歳以下の児でアクチウオッチによる行動量と起床時刻、就床時刻の関連、ならびに尿中のコルチゾール代謝物(17OHCS)とセロトニン代謝物(5HIAA)とこれら因子の関連を検討した。17OHCS,5HIAAの結果はまだ得られていないが、行動量に関しては貴重な結果を得ることができた。昨年度の3歳児での検討では行動量が多いほどその晩の就床時刻が早くなること、早寝早起きでは遅寝遅起きに比し、朝の尿中17OHCS濃度が高いことの2点を得たが、今年度は、6ヶ月から3歳の75名で検討した。その結果、(1)加齢ともに行動量は増加する、(2)男児が女児よりも行動量が多い、(3)起床時刻が早いほどその日の行動量が多くなる、(4)ある日の行動量はその晩の就床時刻には影響しない、の4点が現時点で確認されている。このうち(4)に関しては昨年度の3歳児における検討と相容れない結果ではある。これは今年度得た行動量が加齢とともに有意に増加する点を考慮すると、行動量が未だ十分に増していない若年層においては、起床・就床時刻よりも加齢が行動量の決定に大きな影響を与えることが想定された。しかし興味あることは、このような若年齢において起床時刻が早まるとその日の行動量が増加することが確認された点である。この所見は「起床時刻が遅れると内的脱同調をきたし、日中の行動量が低下する」という研究者自身の仮説を支持する知見として注目したい。
著者
丁 貴連
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、夏目漱石や島崎藤村、国木田独歩、有島武郎など韓国近代文学の成立に深く関わった日本近代文学者の中でも、とりわけ有島武郎と国木田独歩に注目し、廉想渉や金東仁、田榮澤といった韓国の近代文学者が有島武郎と国木田独歩の何を、そしてそれをどのように受容したのかを解明することによって、韓国近代文学に及ぼした日本近代文学の影響が国木田独歩から有島武郎へ受けつがれていった事実を明らかにした。