著者
久恒 辰博
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010

成体になっても、記憶をつかさどる海馬では、新しくニューロンが生まれ、新しく神経回路ができている。近年の研究から、この新しい神経回路は、社会コミュニケーションの成立に欠かすことができないエピソード記憶の形成や維持に探く寄与していることがわかってきた。そのため、新生ニューロンによって形成される新しい海馬回路を調べ上げること、すなわちアダルトニューロジェネシスによるヘテロ脳回路の動的アセンブルを明らかにすることは、コミュニケーションの脳内機構の理解につながる。本研究では新生ニューロンによって形成される新しい海馬回路を可視化することを研究目的とした。新生ニューロンを除去する方法としては放射線照射を利用し、新しい研究手法であるOpto-fMRIを用い、新生ニューロン回路のあぶり出しを行った。海馬新生ニューロン回路の生理的特性を調べるためにOpto-fMRI解析を行った。Thy1プロモーターの制御下で光感受性チャネルChR2(チャネルロドプシン2)を発現する遺伝子組み換えラットを用い、光ファイバーを海馬歯状回部位に挿入し、MRI装置内で青色半導体レーザー光源(473nm)のを用いて光刺激した。新生ニューロンのはたらきを調べるために、ガンマ線照射(10Gy)により新生ニューロンを除去した遺伝子組み換えラットを準備し、同様の実験を行い、結果をコントロールラットと比較した。光刺激の有無によるBOLD信号の変化を4.7Tesla小動物用MRI(Varian)を用いて導出した。これらのMRIデータを脳機能解析ソフトであるSPMを用いて統計学的に解析し、集団解析を行った。その結果、新生ニューロンを除去した放射線照射ラットでは、コントロールと比較して、CA3領域における有意なBOLD信号の低下が観察された。アダルトニューロジェネシスは海馬回路の機能的連結に深く寄与していることが示唆された。
著者
今中 國泰 西平 賀昭
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、顕在的・潜在的知覚と運動反応に関して、逆向マスキング下の反応時間と事象関連電位、偏側性運動準備電位から検討した。逆向マスキング下の反応時間課題では、感覚閾値付近の弱い刺激(prime)とその数十ミリ秒後に提示される強い刺激(mask)の2つの連続刺激を用い、それらに対してできるだけ早く反応するという単純反応時間課題を用いた。またprime刺激の検出率及び脳波事象関連電位を測定し、単純反応時間と脳内情報処理の時間関係を検討した。その結果、単純反応時間は逆向マスキング下ではprime刺激が顕在的には知覚されないにもかかわらず、prime刺激があるときの方がないとき(つまりmask刺激のみ)よりも反応が早く起こることが示された。またその短縮した単純反応時間は、刺激呈示から偏側性運動準備電位(S-LRP)立ち上がりまでの時間(対側性運動準備過程が始まるまでの時間)と相関性が高く、LRP立ち上がりから反応動作までの時間(運動準備過程に要する時間)とは関連性がなかった。この結果から、逆向マスキング下の反応時間短縮効果は、顕在化されないprime刺激によって知覚過程の活性化が生じ知覚情報処理時間が短縮したか、あるいはprime刺激の感覚入力が直接運動準備過程の情報処理を賦活させたか、これらのいずれかによって運動準備過程の早期化が起こったものと考えられた。事象関連電位からは、逆向マスキング下のprime刺激によりP100(1次視覚野付近の活動)は明確に生じたがP300(刺激の認知)にはprime刺激の影響は生じなかった。したがって、prime刺激は初期視覚過程の処理はなされているが認知処理は行われていないことが示された。本研究ではprimeの潜在知覚による反応時間短縮効果について、行動的指標に加え脳波事象関連電位からそれらの背景にある脳内情報処理過程を明らかにした。
著者
小原 哲郎
出版者
埼玉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

パルスデトネーションエンジン(PDE)は,これまでのジェットエンジンの構造と大きく異なる.すなわち,PDEではエンジン筒内に燃料と酸化剤をパルス状に噴射させて,混合気を着火しデトネーション波を発生させ既燃気体をノズルによって噴射し推力を得るのが基本原理である.しかしながら,PDEはまだ構想あるいは試験段階にあり,実用化するには至っていない.そこで,申請者はPDEの開発に必要な基礎データを得ることを研究目的とし,本研究課題を遂行した.まず,研究の初年度において,PDEの試作機を構築し,実験を開始した.本年度においては系統的に実験を進め,主に以下の知見が得られた.(1)本装置におけるデフラグレーション波からデトネーション波への遷移過程(DDT過程)では,混合気の点火位置を管端より下流の側壁上で行うことで上流と下流へ伝ぱする2つのデトネーション波を生成し,特にスラスト壁付近で生じる過大デトネーションは点火位置から非常に短距離で生じることを明らかにした.(2)筒内に噴射するした際の混合気の初期圧力や当量比の影響について調べ,燃焼後の圧力変化について明らかにした.また,量論混合比においてDDT過程への短縮効果が大きいことを明らかにした.(3)本装置により作動周波数50Hzまでのパルス作動が可能なことを明らかにした.また,得られる比推力は作動周波数によらず一定となること,すなわち推力がサイクル速度に比例して増加することを明らかにした.(4)エンジン筒内に挿入する内部障害物はデトネーション波の伝ぱ持続性を高め比推力が増加すること,また管の長さの増加はノズルのように作用し比推力を増加できることが明らかとなった.
著者
高瀬 えりか
出版者
京都コンピュータ学院
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

研究の背景現在の情報教育において,プログラミング初心者が最初に学ぶプログラミング言語はC言語やJavaが主流である。これらの言語は英語圏の国で開発された言語で,日本語のネイティブスピーカーにとっては馴染みにくい。また,一つのソフトウェアを作成するためには膨大は技術習得時間・作品制作時間を必要としてしる。日本語プログラミング「ドリトル」は、中高生やプログラミング初心者向けの教育用プログラミング言語で、下記のような特徴がある。(1)日本語でプログラミング出来る(2)GUIの開発が簡単である(3)ゲーム作成やロボット制御プログラミングを比較的簡単に行える(4)インスタンスベースのオブジェクト指向言語であるこの言語を用いて、「複数のチームが小型飛行船をラジコン制御するためのソフトウェアを開発したうえで相撲競技(1対1で飛行船を対戦させることを行い勝負する」ことを指南する教材を教材を開発した。※相撲競技とは、情報処理学会主催の組込みシステムシンポジウム内で開催されている、MDDロボットチャレンジにて行われているエキシビション競技である。この競技が生徒の意欲的学習を促すのではないかと考え、研究に取り入れた。教材概要ハードウェアは、基地局PC、地上MPU (Micro Processing Unit)、2つ合わせて地上局とする。このPCからの入力を地上MPUを通し、無線で機体搭載MPUに送信する。飛行船はバルーンと、機体搭載MPUから成っている。無線で入力を受けると、機体搭載MPUに取り付けられたプロペラが回転し、飛行船が動作する。飛行船の浮力はヘリウムガスによって得て浮る。上昇・下降・前進や旋回の動作はプロペラによって行う。実際の授業では、飛行船を操作よるためのハードウェア環境は既に用意しておき、生徒が直接手を加えて改造するなどしないことを前提とした。本システムの飛行船制御用ソフトウェアは、ドリトルで作成した。実行画面では動作を入力はるためのボタンが配置され、ボタンをマウスでクリックすることで飛行船を操作できる。生徒には、このソフトウェアに手を加えることで、相撲競技で対戦するゲームに勝つための開発をさせる。
著者
横井 克彦 許斐 亜紀
出版者
聖徳大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

わが国は超高齢化社会に達しており、微量元素、特に亜鉛による老化制御の可能性を検討した。亜鉛欠乏ラットには、脱毛、体重の低下、脂肪の減少が見られ、超高齢者の老化に類似した表現型であった。亜鉛欠乏ラットは、自由摂取対照群やペアフェッド対照群とは明らかに異なった肝臓タンパク質の発現パターンを示した。わが国では亜鉛や鉄の摂取が不足しており、微量元素補給による老化制御について検討を続ける必要があるだろう。
著者
久保 勘二
出版者
九州大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

近年,筆者はトロポノイドの構造的な特徴を活かした機能性ホストの開発を行っている。これまでに,トロポノイドに種々のイオノファー(アームドクラウン,アザクラウンエーテル,大環状ポリアン,シクロファン)を組み合わせたトロポノイドイオノファーを合成し,その金属イオンに対する錯体形成挙動を評価した。今回,蛍光分子(アントラセン,ナフタレン),トロポン並びにジアザクラウンエーテルを組み合わせたトロポノオイドイオノファーを合成し,その光化学的性質と重金属イオンに対する錯形成評価を試みた。N-アンスリルメチル-N'-トロポニルジアザ-18-クラウン-6エーテルはメタノール溶液中9-メチルアントラセンの発光強度の400分の1という非常に弱い発光を与えた。この発光強度の現象は窒素原子から励起されたアントラセンヘの光誘起電子移動による蛍光消光により説明することができる。また,各種金属イオン存在下での蛍光スペクトルを測定したところ,N-アンスリルメチル-N'-トロポニルジアザ-18-クラウン-6エーテルは平衡定数・発光強度変化共に高い銅イオン選択性を示した。ビスアンスリルメチルジアザ-18-クラウン-6エーテルはカリウムイオン選択性を示すことから,N-アンスリルメチル-N'-トロポニルジアザ-18-クラウン-6エーテルは銅イオン蛍光分析試薬として利用できる。一方,トロポノイドアザマクロサイクルの分子集合体への応用として,トロポノイドアザマクロサイクルをコアに有する液晶化合物を合成した。ビストロポニルピペラジン誘導体はエナンチオトロピックにスメクチックC相を発現することを見い出した。さらに,そのX線結晶構造解析の結果から,ビストロポニルピペラジン誘導体は結晶状態で,分子長軸が層法線に対して30度チルトした層構造を形成していることを見い出した。
著者
今西 幸男 松田 武久 川口 春馬 片岡 一則
出版者
京都大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

長さ5cmのポリウレタン管の内壁に細胞増殖因子と接着因子を共固定化し,管の一端にシードした内皮細胞が培養によって成長し,他端まで管壁を一様に覆うのに要する時間が約1/2に短縮された。また,90日以上培養を続け,管壁が完全に内皮細胞層で覆れたあとも,細胞層ははく離しなかった。さらに,共固定化PMMA膜を用いて培養した内皮細胞のプロスタサイクリン分泌量は,流殖因子だけを固定化した場合の約1,7倍であった(今西)。ボロン酸素含有率を高めた水溶性ポリマーは,リンパ球の増殖能を有し,リンパ球増殖促進剤としてレクチン様の機能を有することが明らかとなった。このような合成ポリマーによるリンパ球活性化は,非抗原性,安定性など,天然レクチンに比して優れた特徴が期待され,新しい生物応答調節剤としての展開が考えられた(片岡)。表面構造をさまざまな制御した高分子ミクロスフェアを用いて,表面構造との生体成分との相互作用性の関係を解析した。また,DNA固定化ミクロスフェアを用いてDNA結合性転写活性因子の精製効率を上げるためDNAの固定化量を高めることを試み,成功した。さらに,細胞接着因子の活性部位テトラペプチド(RGDS)を固定化したミクロスフェアに対する顆粒球の認識応答として,特異的な活性酸素に基づく酸素消費を観察した(川口)。人工基底膜や平滑筋細胞を組め込むことにより安定性を高めた内皮細胞層は,非凝血性を著明に促進し,また,階層性構造をとることにより,高次の配向組織化をもたらした。平滑筋細胞の形質転換は,(1)生体中の環境因子(体液性因子および内皮細胞との細胞間相互作用),(2)拍動,および(3)三次元環境による細胞の形態,などの諸因子によって起こると考えられた(松田)。
著者
宮東 昭彦
出版者
杏林大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

齧歯類精巣では、精細管精上皮ステージが精細管長軸方向に周期的に繰り返される、精上皮の波"the wave of the seminiferous epithelium"の存在が知られる。今週齢および30週齢マウス精巣を材料とし、連続切片(PAS染色)の立体再構築法を用い、精上皮の波の進行パターンについて検討した。10週齢精巣では、精巣網から始まる精細管に沿って、観察される精上皮周期ステージが若くなっていく、従来記載されているパターンが観察された。一方、30、60週齢精巣では、精上皮の波は、蛇行する精細管の反転部位毎に分断され、分断部位の両側では波の方向が逆転する現象が高頻度に観察された。また、この逆転に伴い、精細管の反転部位間の各部分の波の方向は、空間的には同じ向き、すなわち精巣の頭側から尾側方向にステージが若くなる向きに揃っていた。また、10、30週齢精巣において、特定のステージの精細管が有意に高頻度で集合するという現象が観察された。これらの現象は、精上皮周期の進行が、10週齢精巣では精細管内を伝わる情報によって決定されるのに対し、30週齢では、隣接する精細管、間質細胞を含む精細管周囲の情報の影響をより受けていることを示唆する。研究代表者らは、精細管の精上皮周期ステージが異なると、(1)隣接している間質Leydig細胞の水酸化ステロイド脱水素酵素活性、および、(2)精細管上皮のアンドロゲン受容体レベルが変動すること見い出しており,これと合わせて考えると、アンドロゲンが"paracrine factor"として精細管周期の調節に機能している可能性があるものと思われる。
著者
冨永 典子
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

体内の内分泌撹乱化学物質(ビスフェノールAや4-ノニルフェノール、フタル酸エステル類)の大半は食品からの摂取によると言われているが、日常食品中の濃度については現在までのところ測定例が少ない。そこで近年ますます購買層が拡大し、容器ごと温めることの多いプラスチック容器入りの総菜に着目し、購入時および電子レンジ加熱後の濃度を測定した。1)フタル酸エステル類:抽出・精製は日本環境科学会の定めた方法を一部改変して行った。同定はGCMS、測定は逆相HPLCで行った。6種類のフタル酸化合物について測定したが、実際の試料中からは常にフタル酸ジプチル(DBP)とフタル酸ジエチルヘキシル(DEHP)のみが検出され、現在の我が国での生産量を反映していた。含有量は加熱の有無によってほとんど変わらないか、加熱後の値の方が低い場合が多かった。これはフタル酸化合物の揮発性が高いためと考えられた。密閉度を上げて食品をラップで包み加熱すると、一旦揮発した物質がまた蒸気の凝縮とともに戻る傾向が見られた。2)ビスフェノールA : Tsuda, T.et al., J.Chromatogr.B, 723, 273(1999)の方法で抽出・精製後、同定・測定ともにGCMSで行った。食用油脂を使用した総菜と使用しないものを比較すると、明らかに油脂を用いて調理したものの方が高濃度であった。したがって、この物質が油脂および脂肪性食品に移行することが示唆された。加熱により含有量の増加傾向が見られたが、加熱による変動よりも加熱前総菜別の差の方が大きいことから、低温〜常温条件下でも容器から食品へ移行が起こると思われた。3)4-ノニルフェノール:ビスフェノールAと同時に抽出、精製段階で分離しGCMSで測定したが、夾雑物質が取りきれずピークの同定に至らなかった。抽出効率や精製度を高めるため別法での調製を試みたが、著しい結果は得られなかった。
著者
小林 信之 渡辺 昌宏 張 亜軍
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

船舶などで推進器として使用されているスクリューは,推進効率と運動性能の向上に限界がある.一方,進化の過程で最適化された水棲生物の泳動方法を見てみると,高い運動性能と高推進効率を有する泳動を行っていることが分かる.このことから,高効率で運動性能の高い船舶を開発する上で,水棲生物の泳動を模倣した研究は有益な知見をもたらすと考えられる.このため,本研究は柔軟なヒレの波動運動における波の数と振動数を変えられる水中推進機構の開発とその波動運動を滑らかに制御するための制御手法を構築した。水中推進機構の開発では、カムとフォロワーから構成されるスコッチヨーク機構を用いて柔軟なヒレに波動運動を発生させる水中推進機構を開発し,その機構を水槽内で泳動させることにより,柔らかいヒレの波の数と振動数の推進力と泳動速度への影響を調べた.また、波動運動を滑らかに制御する目的のために、水中推進機構の運動をマルチボディ・ダイナミクスの手法を用いて定式化した。運動方程式は幾何学的な拘束により非線形な微分代数方程式により表される。そして、運動制御のための制御系設計するための効率的な線形化手法を開発した。また、出力を用いたスライディングモード制御系の設計において、PD制御を併用する方法を提案し、より高い制御性能を得られる超平面設計を可能にした。実験から得られた以下の結果をいかに示す.(1)製作した水中推進機構は波の移動方向を変えることで前進と後進が可能である.(2)波の数が多くなると推力と泳動速度の変動が小さくなりスムーズな泳動が可能である.しかしながら,平均推力は小さい.(3)振動数が大きくなると平均推力と推力の変動は増大する.また,泳動速度は増大する.(4)波の数n=1程度の時,大きな平均泳動速度を得られる.(5)無次元振動数が大きくなると推進力と平均泳動速度は減少し,無次元振動数の値にかかわらず泳動速度の変動はほぼ一定である.
著者
渡邉 富夫 神代 充 山本 倫也
出版者
岡山県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

音声対話におけるうなずきや身振りなどの身体的リズムの引き込みをCGキャラクタやロボットなどのメディアに導入することで、身体的インタラクションを促進させ、一体感が実感できる身体的コミュニケーションシステムを研究開発した。本システム・技術は、メディアロボット・コンテンツ制作や携帯電話・インターネット等の音声対話インタフェース、音声認識ソフトへの導入など、広範囲な応用が容易に可能で、うなずく植物「ペコッぱ」など商品化した。
著者
赤間 亮 水田 かや乃 神楽岡 幼子 黒石 陽子 池山 晃 野口 隆 齊藤 千惠
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、日本近世演劇の基盤研究として近世期に出版された「役者評判記」を対象に、研究資料として正確な翻刻本文を作成し、それを使ったデータ・ベースを構築しようとするものである。今回の研究期間においては、いわゆる第三期(安永年間から享和年間まで)の役者評判記について、正確なデジタル翻刻本文を完成させるべく、研究協力グループも組織しながら大きく作業を進展させた。新時代の翻刻凡例を策定し、それに則った本文の調整、諸本を対照して、諸本確認翻刻(C翻刻)までの作業を実施した。また、役者移動DBを代表に、評判記を校正する情報データ・ベースの集合体をWEB上に展開し、海外の歌舞伎研究者の利用も想定した役者評判記の閲覧・検索システムによる、デジタル歌舞伎情報書庫を完成させるための作業を展開した。外題・人名・用語索引については、いわゆる手作業の線引は行わず、統合的な用語索引のシステムの実験を行った。役者評判記デジタル閲覧システムの原本閲覧システムを運用継続しながら、翻刻本文とのレイヤー化が実験された。検索された用語から、「歌舞伎興行年表」や「歌舞伎人名DB」「歌舞伎外題DB」「登場人物DB」「歌舞伎用語DB」へと連動が可能となった。また、今回の研究成果として、第三期以降の評判記の需要や地方への伝播について、あらたな視点による研究論文集をまとめた。
著者
合田 榮一
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

肝細胞増殖因子(HGF)は肝細胞をはじめ様々な組織の上皮系細胞の増殖を促進し、組織再生に重要な役割を担っていることが知られている。本研究でヒト線維芽細胞におけるHGF産生が天然物であるニガウリ胎座抽出物、冬虫夏草抽出物及びポリミキシンBにより促進されること、その作用機序並びに活性成分の性状を明らかにした。また、ポリミキシンB投与によりラット血漿及び肝臓中のHGFレベルが増加した。
著者
大塚 譲 上田 悦子
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

ヒト肝癌細胞Hep-G2あるいはヒト正常細胞HUCF2などを用いて、食品抽出物が遺伝子発現にどのような影響をもたらすのかを検討するため、DNAマイクロアレイにて網羅的な遺伝子発現を解析し、食品の機能性を明らかにすることにした。さらに、パスウェイ解析やリアルタイム-PCRにより詳細な遺伝子発現への影響を検討した。
著者
伊東 弘行 藤田 修
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

カーボンナノチューブ(CNT)を安価に大量に生成できると期待される火炎プラズマを有する燃焼合成法において、直流電場を与えることによりCNT生成が促進される。本研究では、電場印加によるCNT生成場の温度や化学種濃度の変化、生成CNT量および性状への効果を調べるとともに、電気炉中におけるCNT合成に電場を与えCNT成長への電場の効果を調べた。その結果、電場の付与によりCNT成長促進、結晶度の向上が見られ、燃焼合成法における電場付与のCNT合成への効果として、火炎プラズマ移動にともなうCNT捕集増大と金属触媒活性の向上が示唆された。
著者
清長 友和
出版者
近畿大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

H21年度の研究成果は以下の通りである。1.CdSシェル層の形成による金ナノ粒子の表面プラズモン吸収帯の赤外光領域への著しいブロードニングは,金ナノ粒子と硫黄の特異的な相互作用に起因することが明らかとなった。2.Au(コアー)-CdS(シェル)/TiO_2を光電極として用いた太陽電池においてS^<2->/S系の酸化還元対を用いた結果,光電変換効率が大幅に向上した。また,50時間以上経過しても,光電極の劣化は認められなかった。3.Au(コアー)-CdS(シェル)/TiO_2を光電極として用いた太陽電池は,CdS量子ドット増感型太陽電池の約2倍の光電変換効率を示した。4.金ナノ粒子担持SnO_2対極を用いて太陽電池性能の評価を行った。その結果,金粒子サイズの減少にともない光電変換効率が向上することが明らかとなり,金粒子サイズが約6nmの時,金薄膜対極時の約2倍の光電変換効率が得られた。以上述べた通り、当初の目標を概ね達成することができた。
著者
西村 博明
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

高速点火核融合プラズマを対象とし、爆縮コアプラズマの形成過程、密度半径積の計測、ならびに超短パルスレーザーによる追加熱過程の観測を目的として、超高速単色X線X線分光診断法の研究を実施した。爆縮コアプラズマの電子温度プロファイルを計測するため,塩素トレーサーガス封入ターゲットを開発し、爆縮実験に用いた。昨年開発した単色X線サンプリングストリークカメラで塩素の共鳴線であるHea線とLya線を単ショットベースで取得し、二次元電子温度の時間履歴が500~820eVの間で変化することなどが分かった。さらに,流体シミュレーションと比較した結果,爆縮過程の減速相でシェルと内部ガスの混合が発生し、その現象が電子温度を低下させていることを明らかにした。プラズマの初期密度を駆動レーザーに対する臨界密度より低い低密度ターゲットを使用すると、加熱膨張が起こるまでに速やかに一様加熱でき、固体平板と比べ一桁以上高いX線の変換効率を得ることを定量的に示した。爆縮コアプラズマの密度計測に最適なチタンのK殻X線(4.5-6.0keV)に着目し、チタンドープエアロジェル(密度3.2mg/cc,チタン含有量が3%原子数)をシリンダーに詰めたターゲットを用いて加熱波の観測実験を行った。実験結果と二次元放射流体シミュレーションとを比較し、シリンダー壁面からのプラズマ膨張がシリンダー軸上で衝突しプラズマ温度を上昇させていることが確認された。さらに,チタンの含有率を上げ、更なる変換効率の向上を目的に,新規ターゲット材料の二酸化チタンナノファイバーコットン(密度27mg/cc)を用いたX線発生実験を行い、従来のX線発生方式と比較して一桁以上高いX線変換効率の向上に成功した。
著者
日高 優
出版者
群馬県立女子大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2006

本研究の二年目に当たる平成19年度は、研究計画に基づき、前年度の基礎的作業によって取り上げるべき事例として選定された各々の内容を、「パフォーマティヴィティ」概念を手掛かりにして調査、分析した。本研究の目的は「デモクラシーの価値を動態的に生成してくるつねに可変的な価値として分析する」というものであり、「パフォーマティヴィティ」概念はこの目的にとって根幹にある概念であった。デモクラシーの価値とポジティヴに、あるいはネガティヴに切り結ぶ事例として取り上げたのは、冷戦構造下アメリカ文化が世界に急速に波及していった50年代の<ファミリー・オヴ・マン>展、60年代の公民権運動やヴェトナム戦争などにおける写真実践、ポピュラーカルチャーの浸透を背景にした70年代のニューカラー・フォトグラフィのインパクトなどである。<観者>-<メディア>-<写真行為者>というデモクラシーの意味・価値生成連関においてこうした事例を分析することが目指され、おこなうことができた。(具体的な成果は、現在青弓社からの刊行のために執筆中の著書にて公表予定される)。ワシントンD.C.の議会図書館やナショナル・ギャラリー・オブ・アートのアーカイヴ、ボストン美術館図書館に直接赴き、本研究の一次資料の調査、収集をおこなった。西部開拓期の初期写真から60年代のカウンターカルチャーの下に撮影されたゲイリー・ウィノグランドのポートフォリオなどの一資料、研究論文など文献調査をおこなうことができた。特に、デモクラシーと写真という観点からの文献資料、トラウマという観点を導入した展覧会カタログや文献などを収集したことは、新しい視角へと本研究テーマを広げて探るのに有効であった。
著者
岡田 まり 栄 セツコ 前田 信彦 三品 桂子 岡田 進一 大山 博史
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

平成18年度には、精神障害者のQOL等を大学生との比較を通して把握し、それに影響を及ぼす要因を明らかにするために平成17年度に実施した量的調査のデータを再分析した。これは、調査票の回収が遅れた27名分(精神障害者20名、大学生7名)のデータが平成17年度の分析に含まれていなかったため、これらのデータを追加して改めて分析を行ったものである。結果は、17年度の結果と同じで、精神障害者のQOLや生活満足度等は、不安や怖れなど一部の質問をのぞき、ほとんど大学生よりも低く、生活満足度、自己決定、希望がQOLに有意に関連していることが明らかになった。また、平成17年度に、QOL向上のきっかけやプロセス等を明らかにするために精神障害者、家族、専門職を対象に行った面接調査の結果についても、平成16年度より行ってきた国内外の専門職へのヒアリングや視察、ワークショップで得られた情報を加えて、再度、整理しなおした。これら当事者、家族、専門職ら計50名以上の経験や研究によると、重度の精神障害者であっても、適切な支援があれば地域での生活が可能であり、回復の可能性があること、必要な支援の内容としては、住居の確保、経済援助、就労支援、日常生活支援、家族支援、近隣の人々の理解と良好な関係維持のための支援、ピアサポート、新たな体験や活動のための支援と意欲・希望・自信を支えることなどである。これらの結果から、精神障害者のQOL向上のための取り組みがもっと必要であり、そのためには、個別支援および環境への働きかけなど、さまざまな支援を重層的におこなう必要があるとの結論に達し、サービス提供のあり方についての提言を行った。
著者
加藤 弘之 陳 光輝 厳 善平 日置 史郎 梶谷 懐 宝劔 久俊 唐 成 中兼 和津次 丸川 知雄
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、中国長江デルタの農村地域を対象として、企業の集中・集積、農地の流動化と不動産開発、出稼ぎ者の流入と定着の実態を、独自に収集したミクロデータの計量的分析を通じて明らかにした。また、空間経済学の手法に基づき、地理情報つき企業データを利用して産業集積地図を作成した