著者
田中 健一郎
出版者
熊本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

私は多くの疾患の原因が活性酸素による組織傷害であることに着目し、活性酸素を消去するストレスタンパク質、SODに注目した。私は、SODにリン脂質を結合させその組織親和性と血中安定性を向上させたDDS製剤・PC-SODを開発し、この薬が炎症性腸疾患、肺線維症、COPDの動物モデルで予防・治療効果を発揮することを見出した。
著者
中村 太一 土肥 拓生
出版者
国立情報学研究所
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2018-06-29

本研究は,アジャイル開発のチームメンバ,プロダクトオーナーおよびファシリテーター に求められるマネジメントスキルを修得するため,開発プロセスにおいて実行されるプラクティスを疑似体験するロールプレイ演習システムを開発する.具体的には、(1) アジャイル開発プロセスで生み出す価値の量をシミュレーションにより算出するため,システムダイナミックスモデルと待ち行列ネットワークモデルを組み合わせたアジャイル開発プロセスモデルを構築し,(2) アジャイル開発で生み出される価値の量を定量的に算出するために、アジャイル開発プロセスにてより多くの価値を生み出すために実行されるプラクティスと開発プロセスの生産性を低下させる要因の関係を定式化し,(3) 正統的周辺参加の学習論に基づき,開発業務という文脈の中で学習者がアジャイル開発のマネジメント知識の定着を図るロールプレイ演習シナリオを開発する.2107年10月,PMI(Project Management Institute)からPMBOK; Guide Sixth Edition とAgile Practice Guideが刊行され,顧客の要求が確定している下で費用とリリース時期を遵守するマネジメントと顧客が求める価値を繰り返し提供し続けるアジャイル開発のマネジメントの関係が記述されているが、二つのマネジメントの使い分けについて確定した知見はない.このような状況に鑑み、本研究の成果を実装したロールプレイ演習で、学習者個々人が開発実務においてアジャイル開発と伝統的な開発のマネジメントを使い分ける能力を涵養できる学習環境を提供する意義は大きい.
著者
小原 敦美
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

情報、システム科学分野のさまざまな問題が、正定値対称行列あるいはそのひとつの一般化である対称錐上の構造あるいは数理計画問題として定式化されるようになってきている。本研究は、対称錐と関連の深いJordan代数を道具として1.対称錐およびその部分集合の幾何構造や性質、特に情報幾何との関連、2.対称錐上の線形計画問題アルゴリズムの開発と解析3.これらの知見のシステム科学分野とくに制御理論への応用を目的としていた。これに対して研究実績としては1については、情報幾何で特徴的な双対接続のJordan代数による特徴付け(裏ページ発表論文3)、錐の特性関数のレベルセット上のダイバージェンスの性質(発表論文2)やアファイン幾何との関連(発表論文1)、また対称錐上の平均の定義と測地線との関連(発表論文4)などの成果が得られた。2については、1と関連して双対な接続に関して平坦の部分集合の重要性が明らかになっているが、計算量と曲率の明確な関係はまだ得られていない。部分的な結果は発表準備中であるが、今後の課題としたい。3については対称行列の正定値性を順序とする不等式、いわゆる線形行列不等式を用いた応用的な結果を得た。制御理論への応用として、発表論文5,6をあげておく。
著者
西村 雄一郎 瀬戸 寿一 金杉 洋 吉田 大介
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-07-18

本研究は,近年活発化しているクラウドソーシングと呼ばれる一般市民からの情報によって,インターネット上の地図を編集するプロジェクトに着目し,そのようなクラウドソース型地理情報のトラストに関して,多角的な視点による研究を行う.研究実施計画に設定した5つの研究フェイズのうち、主に以下の2つを中心に研究を実施した.・クラウドソース型地理情報の理論的位置づけに関する研究(西村・瀬戸):クラウドソース型地理情報に関する先行研究・論文は,主に英語圏におけるGISと社会に関する地理学的な研究を中心に存在するが,クラウドソース型地理情報に関する理論的な位置づけ・学術的な議論に関するレビューを行い,従来の研究を包括的に整理した.また,クラウドソース型地理情報の実践的な取り組みにも着目し,作成方法やデータの編集方法の進展について調査を行うとともに,それらを整理した.・日本におけるクラウドソース型地理情報の正確性や網羅性に関する分析(西村・瀬戸・吉田):クラウドソース型地理情報は、地理情報に関する専門的な知識や技能を必ずしも持っていない一般の市民によって作成されている.日本におけるクラウドソース型地理情報に対して,公的な組織が測量によって作成した地理情報や,商用の地理情報とその正確性や網羅性を比較した.また,クラウドソース型の地理情報の編集の特徴の一つである,コミュニティによる正確性や網羅性を実現するための試みや,データの相互チェックなど実態に関しての分析を行った.
著者
関口 靖広
出版者
山口大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は,「学びの共同体」に基づく学校改革において,数学教育研究がどのように貢献しうるのかを,改革に取り組む中学校での観察とインタビューによる質的研究で探究した。研究成果として,「学びの共同体」に基づく学校改革においては,伝統的な一斉授業や問題解決型授業からの転換が必要となることがわかった。これまでの数学教育研究の知見を活用しながらも,新しい学びの在り方に基づいた数学教育研究が必要である。
著者
安冨 歩 深尾 葉子 高見澤 磨 大木 康 川瀬 由高
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

いわゆる「共通の」何かによって社会秩序を担保する、という発想の限界を離脱するために、中国社会の紛争の場面における解決の作動原理を探求した。その結果、周囲にいる人々の好奇心に基づいているように見える、いわゆる「野次馬」的な行動が、重要な役割を果たしていることが明らかとなった。かつて路上で頻繁に展開されていたその現象は、現在ではインターネット上で観察される。この原理は、人類社会、一般に見られるものと予想している。
著者
藤井 健太郎 秋光 信佳 藤井 紳一郎 加藤 大 月本 光俊 成田 あゆみ 横谷 明徳 丹羽 修 小島 周二
出版者
独立行政法人日本原子力研究開発機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

リボ核酸の一種であるアデノシン三リン酸(ATP)は、生体エネルギー供与物質として様々な生化学反応へエネルギーを供与している。また同時に、遺伝情報の仲介物質であるメッセンジャーRNAを合成するための基質として、さらには細胞間情報伝達物質としても働く。本研究では、放射光軟X線により、ATPに生じた放射線障害が、ATPの持つ生物学作用にどのように関わっているかに注目して、その生物学的効果への寄与を解析することを試みた。そして、ATP分子の構造変化はガン細胞の放射線感受性に変化を生じさせている可能性を示唆する結果を得た。
著者
内川 隆志 阪本 是丸 加藤 里美 成澤 麻子 長谷川 祥子 山田 正樹 大橋 美織 笹木 義友 三浦 泰之 山本 命 宇野 淳子
出版者
國學院大學
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

公益財団法人静嘉堂文庫に収蔵されている松浦武四郎旧蔵古物資料約900点の整理が完成した。本研究は近代初期において松浦武四郎に代表される当時の好古家達が蒐集対象とした古物(文化財)の内容を直裁的に示すと共に、明治4(1871)年の太政官布告である「古器旧物保存方」の示す保存すべき器物の内容とも一致することを明らかにした。また、箱書きや文書の翻刻によって古物をとりまく人的ネットワークの実態を明らかにした。
著者
内川 隆志 三浦 泰之 長谷 洋一
出版者
國學院大學
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

① 「物産会」研究プロジェクトでは、石水博物館所蔵資料(山本亡羊・榕室主催「読書室物産会」他)の調査、西尾市岩瀬文庫調査を実施し、事業計画に明記した関連文献の調査を実施した。② 1) 好古家蒐集古物資料の調査研究プロジェクトでは、静嘉堂文庫・松浦武四郎記念館その他における松浦武四郎関連古物の調査研究を実施した。武四郎が出版した調査日誌に挿まれた絵画や詩歌、武四郎が文人などの様々な人びとから揮毫してもらった渋団扇などを通じて、武四郎による好古家ネットワーク形成を探る調査を実施。合わせて函館市中央図書館所蔵資料の調査も実施した。静嘉堂では、特に連携研究者の川村佳男氏による静嘉堂所蔵中国古代青銅器の調査を実施した。2) 好古家ネットワーク研究プロジェクトでは、近代初期の好古根岸武香関係資料調査のため熊谷市の根岸家と同市江南文化財センターにおいて関連資料調査を敢行した。③シーボルト父子蒐集古物調査研究プロジェクトでは、昨年度実施した大英博物館収蔵のH.v.シーボルト蒐集日本考古関連資料の整理と関連情報の収集を行った。平成30年度は、好古家松浦武四郎生誕200年、北海道命名150年にあたり松浦武四郎ゆかりの北海道、生誕地の三重県で大きなイベント、展示会が開催され本科研メンバーも多くの講演会やシンポジウム、フォーラムに登壇した。特に分担研究者の三浦泰之は、北海道博物館・松浦武四郎記念館・帯広美術館において実施した連携展示「松浦武四郎 - 見る、集める、伝える」の企画を担当し、本科研の成果を発信した。平成30年9月29日には三重県生涯学習センターにおいて、本科研メンバーによる公開研究会「武四郎研究の最前線」実施し、その成果を『好古家ネットワークの形成と近代博物館創設に関する学祭的研究Ⅱ』(平成31年2月28日)として刊行した。
著者
葛原 隆
出版者
徳島文理大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

フラーレン派生化合物群にインフルエンザエンドヌクレアーゼ阻害活性と抗インフルエンザ活性があることを見いだした。また葛根湯、麻黄湯、柴胡桂枝湯、桂枝湯、小柴胡湯、及び麻黄附子細辛湯の漢方薬エキスがPAエンドヌクレアーゼ活性を阻害した。竹如温胆湯には阻害活性は見いだされなかった。フラーレン派生化合物群や漢方薬がPAサブユニットのエンドヌクレアーゼ活性を阻害することを見いだしたのは本研究が世界で初めてである。さらに天然型バクチオールは、インフルエンザウイルス感染阻害効果を有することを示した。天然型バクチオール処理により細胞内酸化ストレス応答の遺伝子発現が上昇することも解明した。
著者
中野 泰 足立 泰紀 林 圭史 渡瀬 綾乃 辻本 侑生
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

1.民俗学者桜田勝徳の調査研究資料の目録を作成し、このアーカイブが、柳田国男の薫陶を受け、民俗学を実践し始めた以降の資料が中心であることを明らかにした。2.桜田のフィールドノートの検討から、その記載形式に一貫性(右面に記載し、左面を補助的に利用)とともに変化(日次、立て横書き等)があること、彼のフィールドワークには2つのスタイルがあること、フィールドノートとフィールドワークの変化は、共に1940年代に認められることが分かった。3.GHQ下の社会調査において、桜田がGHQの改革案を指示する立場で働き掛けていた事実を明らかにし、このようなフィールドワークに関わる実践の民俗学的な意義を明らかにした。
著者
伊藤 公雄 MIYAKE Toshio 三宅 俊夫
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

研究実施計画に基づき、まず、戦前から戦後にかけての日本社会におけるオクシデンタリズムについての文献収集と分析を、受け入れ教授の伊藤公雄のアドバイスを受けつつ進めました。前年度、特に消費文化とポピュラー文化のグローバル化について検討を加えることで、近年の日本におけるイタリアイメージの形成について、考察を進めました。その成果の一部は、5月にダートマス大学で開催された「イタリアン・カルチュラル・スタディーズ学会」で発表しました("ltaly Made in Japan : Occidentalism, Self-Orientalism and Italianism in Japan", Dartmouth College 2010. 05. 08)。また、日独伊3国同盟を擬人化した『ヘタリアAxis Powers』という人気マンガを分析し、その成果について、「カルチュラル・タイフーン2010学会」で報告を行いました("Revisiting Japanese Occidentalism via Hetalia Axis Powers : Nation Anthrapomorphism and Sexualized Parody in otaku/yaoi Subcultures,駒澤大学、2010.07.04~07)。さらに、日本において進めてきたオクシデンタリズムと自己オリエンタリズムの交錯について、収集した資料等を活用しつつ、これまでミヤケが発表してきた論文を対象に再検討を行い、論文の修正点や改正点を洗い出した上で、"L'Occidente e l'Italia in Giappone. Occidentalismo, italianismo e auto-orientalismo"(日本における「西洋」と「イタリア」:オクシデンタリズム、オリエンタリズム、自己オリエンタリズム)と題した著書の出版の準備を進め、ほぼ完成段階に至っています(2011年に刊行予定)。
著者
長井 歩
出版者
群馬大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

非常に難解な将棋の必至問題を計算機で多数解いたことである。詰将棋を高速に解くアルゴリズムは近年著しく進歩したが、必至問題を高速に解くアルゴリズムは未開拓であった。本研究では、難解な必至問題を高速に解くアルゴリズムとしてdf-pn+を応用し実装した。実験の結果、難解な必至問題として有名な『来条克由必至名作集』全81問のうち79問を計算機で解くことに成功した。また多数の別解(余必至)を発見した。
著者
松本 裕子 小林 友彦 坂田 雅夫 遠井 朗子 落合 研一 桐山 孝信 上村 英明
出版者
中京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

人権法以外の国際法の文脈(国際環境法・国際開発法・国際経済法)でも、先住民族が影響を受ける国際規範の定立にその参加が認められる場合があり、程度の差はあるものの、規範の実施にその権利尊重の必要性が認識されつつある。ただし、国家中心的な国際法が構造転換したといえるかについては、現状ではそれを肯定するに十分な実行の積み重ねはない。国際法上の先住民族の権利の日本国内への影響については、国連宣言採択を受けて、国及び一部の地方自治体による公文書等への一定の反映や政策決定の正当性の根拠とする動きはある。ただし、国連宣言の採択が国及び地方自治体の既存の政策の根本的変更を招くような状況は存在していない。
著者
安部 哲人
出版者
独立行政法人森林総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

平成17年度は2回渡航して,訪花頻度データを補充するとともに人工授粉試験と結実率調査を行った。その結果,父島・母島では花粉制限と判定された種は帰化植物で少なく,広域分布種・固有種で多かった。このことは前年度報告した訪花頻度の偏りが結実に影響していることを示唆するものである。また,在来の訪花昆虫相が衰退した要因について島間の分布及び移入の経緯からグリーンアノールによる捕食の可能性が浮上した。この可能性を検証すべく飼育ケージによる捕食試験を行った結果,在来の訪花昆虫は旺盛に捕食するのに対して,毒針をもつセイヨウミツバチは全く捕食されなかった。このことは父島・母島にセイヨウミツバチとオガサワラクマバチだけが生き残っていることと符号する結果であった。このことから,小笠原の送粉系保全にはセイヨウミツバチの駆除よりもグリーンアノールの駆除を優先して行う必要があると考えられた。また,セイヨウミツバチは花外蜜腺に訪花する様子も観察された。このことは食害防止のための植物-アリ間の相利共生系に影響を与える可能性がある。この花外蜜腺を観察する過程で固有種テリハハマボウにおいて花外蜜腺が退化している現象が新たに発見され,海洋島特有の選択圧による現象であると考えられた。個体数が非常に少ない絶滅危惧種に関して,ナガバキブシやセキモンノキにはセイヨウミツバチの訪花が全くなかった。また,ナガバキブシに関しては雌個体が少ないこともあって結実がほとんどないことが明らかになった。さらに,自生地では移入種ノヤギによる幼個体の食害と移入種クマネズミによる種子食害によって更新が絶望的であることが明らかになった。このことから本種に関しては更に詳細な現況調査と平行して,これらの移入種の排除,及び人工受粉等により結実した種子を育苗するなどの対策を早急に施す必要があると考えられた。
著者
濱村 貴史
出版者
岡山大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

アカシジアは、放置すると突発的な暴力や、自殺企図に至ることもあり、早急な対応が要求される抗精神病薬の重要な副作用として認識されてきている。本研究では、このアカシジアの脳内機序を解明し、アカシジアを惹起しない抗精神病薬のスクリーニング法を開発することを目的に以下の実験をおこなった。定型的抗精神病薬であるハロペリドール投与によって活性化する神経細胞を、臨床的にアカシジアに有効であるプロプラノロールがどの脳部位で抑制するか、Fos蛋白を指標にした脳機能マッピング法を用いて比較検討した。ハロペリドール(1mg/kg)投与により前頭前野皮質、線条体、側坐核、後肢知覚野、中隔、海馬、扁桃核などの広範な脳部位にFos蛋白が出現した。このうち、プロプラノロール(5mg/kg)前処理により前頭前野皮質、海馬、後肢知覚野においてFos蛋白発現が有意に抑制された。アカシジアは下肢のムズムズ感と精神運動不穏を主兆とするが、今回の結果から、後肢知覚野の神経細胞が活性化したことが、下肢のムズムズ感の直接原因として推定された。また精神運動不穏の原因部位として、前頭前野皮質の関与が示唆された。一方、錐体外路系の出力核である線条体においては、プロプラノロールはハロペリドールによるFos発現に影響を与えなかったが、これはプロプラノロールが抗パーキンソン作用を持たないことに一致している。今回の結果から、抗精神病薬のスクリーニングにおいて、抗肢知覚野にFos蛋白を誘導しない薬物を探索することにより、アカシジアを惹起しない抗精神病薬のスクリーニングが可能となる可能性が開けた。
著者
高橋 綾
出版者
高知大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本年度も引き続きFDG-PET/CTを用いた乾癬患者における関節症の評価を行った。60名の乾癬患者が参加された。内訳は関節症性乾癬 (PsA) 患者31名、尋常性乾癬 (PsV) 患者29名であった。PsV患者では無症候性の付着部炎の評価のため、全身療法を受けていない18名の患者において詳細な解析を行った。その結果、全身療法を行っていないPsV患者18名のうち6名(33.3%)において付着部炎が検出され、これらの患者を無症候性PsAと診断した。6名中3名では2箇所以上の付着部炎が検出されており、好発罹患部位としては股関節周囲が最多で(50%)次いで四肢末端関節(33%)であったが、脊椎炎はみられなった。次にPsA、PsVおよび無症候性PsA患者の3群間で臨床的・血液学的相違点の検討を行った。PsA発症の臨床的予測因子と考えられる、爪、頭部および臀部の乾癬の合併率は無症候性PsA患者群でそれぞれ66.7%、100%、83.3%であり、PsV患者群(42%、67%、25%)に比べ高い傾向がみられた。一方、PsA患者における、爪、頭部および臀部の乾癬の合併率はそれぞれ64%、54%、14%であり、頭部と臀部乾癬の合併率はPsV患者より低い結果であったが、これはPsA患者の半数が全身療法をうけており、治療による修飾があると考えた。血液検査では炎症反応の指標として、白血球数、CRPと血沈値を3群間で比較した。PsV患者と無症候性PsA患者で明らかな差は見られず、PsA患者群でCRPと血沈の上昇がみられた。HLAタイピングにおいても、PsV患者と無症候性PsA患者において特記すべき違いはみられなかった。無症候性PsA患者6名のうち1名は数ヶ月後にPsAへ移行した。1名はその後約2年間関節症状は出現していない。残り4名は皮膚病変のために全身療法が導入され、以後も関節症状はみられていない。
著者
井上 貴雄
出版者
長崎大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

乳児の泣き声が母親の母乳分泌に如何なる影響を及ぼすかを泣き声の成分解析と胸部血流を測定することで調べた。その結果、乳児の泣き声には非可聴領域(超音波)の成分がふんだんに含まれていた。そして、可聴領域と非可聴領域の成分が同時に母親に曝されることによって、胸部血流量は特異的に上昇した。一方で、未経産女性に対しては非可聴成分の有無によって、胸部血流の変動は見られなかった。したがって、ヒト母親では出産によって、泣き声に対する感受性が増強され、それによって、意識下における乳児から母親への情報伝達が引き起こされる可能性が示唆された。