著者
沢辺 元司 村松 正明 田中 紀子 池田 仁子
出版者
(財)東京都老人総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は遺伝子多型解析という最新の手法を用いて、心筋梗塞、脳血管障害などの基礎病態である動脈硬化症の発生に関係する遺伝子を同定する事である。対象症例はセンターで行われた約2,000例の連続病理解剖症例であり、冠状動脈、脳動脈などの全身10動脈の動脈硬化度と各種遺伝子多型の関連を解析した。その結果、炎症性サイトカイン、葉酸代謝に関係する酵素、リポタンパクの遺伝子が動脈硬化症に関係していることを見つけた。
著者
永田 量子 後藤 節子 鈴木 和代
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

日本における寝たきり老人は増え続け、平成11年には約120万にも達するといわれている。本研究は、寝たきり老人を起こすことの一つの妨げとなっている起座時(起立性)低血圧を防ぐために考案した「二度起こし法」の有効性を科学的に立証し、その適応を明らかにするを目的としている。起立性低血圧は多様な人に生じやすく、転倒や廃用性症候群、QOLの低下につながるので可及的な予防が必須である。二度起こし法とは、まず老人に声をかけて上半心をゆっくり起こし再度寝かせ、さらにもう一度ゆっくり起こしてベットに腰掛けさせて足底を床につける簡単な方法である。二度起こし法を寝たきり老人、健常老人、健常老人を対照に、一般的に行われている一度起こし法との差を以下のように測定・観察し次の様な結果を得た。1.一度起こし法と二度起こし法による臥床時と起座時の血圧の変動測定寝たきり老人では、一度起こし法の血圧低下が、二度起こし法により有意に軽減し、随伴症状も軽減した。特に糖尿病・高血圧を合併した人、人工透析をしている人では二度起こしよりさらに三度起こしの法がさらに有効であった。健常老人、健常成人では一度起こし法と二度起こし法の間には有意な差はなかった。2.一度起こし法と二度起こし法による臥床時と起座時の自律神経学的検査の変動測定健常老人に心電図RR間隔変動係数を用いて自律神経学的検査を行ったところ、安静時から起座時の心電図RR間隔変動係数の平均変化量は二度起こし法が有意に低値であり、より安定した自律神経状態をつくった。
著者
橋本 貴充
出版者
独立行政法人大学入試センター
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

大学入試センター試験は大規模データの分析に注目されがちであるが、受験者の少ない科目のための分析が必要である。そこで、事前情報を活用できる「ベイズ統計」を利用し、より適切な分析を行うことを試みた。まず、通常のモデルにベイズ統計を適用することに限界があることを明らかにした。次に、より適したモデルで分析を行うためのソフトウェアを開発した。最後に、受験者が少ないときの、そのモデルの振る舞いについて明らかにした。
著者
菊地 賢一
出版者
大学入試センター
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

大学入試センターでは、センター試験の各県ごとの志願者数の予測を行い、それにより試験会場の割り当てなど、試験実施に関する様々な準備を行っている。また、将来的には18才人口の減少などにより志願者数の大きな変動も予想される。,このため、センター試験の志願者数を予測することは、大学入試センターにとって非常に重要な問題である。これまでは、データに単純な多項式をあてはめて外挿する方法と現役高校生や浪人の数などにより予測を行うほほうが一般的であった。しかし、今後の大学受験の多様化により、センター試験の志願者数は、より複雑な変動を示すものと思われる。このため、データを多変量時系列データとして取り扱い、時系列モデルとベイズ的モデルを用いることによって予測を行った方が、より正確な予測が行えるものと考えた。まず、本研究において使用するデータの作成を行った。現在まで行われてきたセンター試験、共通一次試験の資料を、計算機で解析できるテキストファイルとして入力した。次に、多変量自己回帰モデルおよびベイズ的階層回帰モデルのそれぞれ単独での当てはめおよびその組み合わせの当てはめを検討した。そして、モデルを構築した後、そのモデルの妥当性を検討するためにシミュレーション実験を行った。また、そのモデルを利用して、各県、各性別のセンター試験志願者数を予測し、県または性別ごとのパラメータの値の違いなどにより、それぞれの県や性別の特色も検討した。
著者
内田 照久
出版者
大学入試センター
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

外国語リスニング・テストなどの音声メディアを利用した試験を実施する場合,実施環境が異なる試験会場間での公平性の確保が急務となっている.このような状況を受け,提示される音声に重畳する背景雑音の影響を検討するための基礎研究を行った.本研究では,背景雑音の影響を分析的にとらえるため,日本語特殊拍(長音,促音,撥音)と閉鎖破裂子音(t,k)を対象とする音韻とした.ここでの日本語特殊拍は,音声信号としては比較的定常的な特徴を示す.一方,破裂子音は動的な特性を持ち,短時間の内にその波形概形が変移するものである.本研究ではこれらの音韻を含む単語音声において,当該の音声区間をコンピュータ上で雑音置換し,その音声の聴覚的な音韻修復の達成度を指標とした聴取実験を行なった.その結果として,下記の点が見出された.1.特殊拍などの定常的な音声の場合,原音声の波形振幅が小さく,外部雑音で妨害される可能性の多い音韻の方が,聴覚的に音韻修復される可能性が高い.2.破裂子音/t/を雑音置換した場合,音韻修復は/k/の方向に偏移する.3.単語提示で特定の音韻を聞き取らせるテスト形式には熟考が必要である.付記 本研究の結果の一部は,日本教育心理学会第38回総会で発表した.
著者
三田 勝己 宮治 眞 赤滝 久美
出版者
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

「重症心身障害児」(以下,重症児と略す)とは重度の知的障害と重度の肢体不自由が重複した人たちである。全国の重症児数は約36,000名と推計されており,そのうち2/3の約24,000名が居宅で家族によってケアされている。本研究は,重症児施設と居宅を通信回線で接続し,在宅ケアを支援するITシステムを開発し,その有用性を実証することを目指した。本年度は,在宅重症児の実態調査結果を踏まえて在宅支援システムの機能を決定し,これを実現できるシステムのハードおよびソフト開発を行い,さらに,主として技術的問題を明らかにするための試験運用を行った。本在宅支援システムは以下の7つの機能から構成された:音声情報機能,画像情報機能,バイタル情報機能,モニタリング機能,遠隔操作機能,自動収集機能,データベース機能。試験運用フィールドにはIT利用の有効性が高い地域として,北海道旭川市にある北海道療育園(重症児施設)が在宅支援を行っている地域を選んだ。運用のプロトコルとしては,居宅システムのみでのバイタル測定を1日1回実施した。測定項目は血中酸素飽和度,脈拍数,呼吸数,体温,血圧,心電図の6項目であった。これらは6時間毎にセンターシステムから自動収集された。また,週1回,センター(北海道療育園)からの接続により医師の電話診療を行った。その内容は健康状態や疾患の診察,日々測定されたバイタルデータに関する診断,生活に関する指導・相談を行った。以下,明らかとなった技術的問題の概要を述べる。(1)もっとも大きな問題はバイタルデータの自動収集機能がほとんど稼働せず,また,電話診療が時々できないことがあった。(2)居宅システムの電源ケーブル,接続ケーブルが多く,居宅内でのトラブルの原因になりやすいとの意見がでた。(3)ISDN回線が有線接続のため,特に居宅システムを居室間ですら移動できなかった。無線LANや携帯電話を利用したモバイル化の必要性が示唆された。(4)居宅からセンター(重症児施設)へ接続するためのセンター側の受け入れ体制がなく,特に急変時を考えると是非とも整備を要請される課題であった。
著者
諏訪部 真 白畑 知彦
出版者
静岡大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究・調査で、1において大学入試センター「外国語」(英語)」試験にリスニング・テストの導入が種々の面から検討の上、望ましいことを述べ、2では実際の導入の際にある問題点を明らかにした。1.大学入試センター「外国語」(英語)」リスニング・テスト導入に関して。1.1大学入試センター「外国語」(英語)」試験の目的、特質など。(平成8年度(1996)の英語の受験者数は530,734人であり、センター試験受験者の92%が受験する科目である。因みに他の外国語ドイツ語、フランス語の平成8年度の受験者はそれぞれ197人212人である。1.2リスニング・テスト導入に対する諸団体の要望(文部省協力者会議も含む)。1.3.新高等学校学習指導要領外国語(英語)・(評価としての)生徒指導要録外国語(英語)、特に新教科オーラル・コミュニケーションA/B/C/とリスニング・テストとの関係の詳説。1.4「外国語」(英語)」試験に対する大学入試センターの対応1.5リスニング・テスト導入の背景にある諸問題。(1)全国の公立高校入試でのリスニング・テスト(ヒヤリング・テスト)の実施状況、テスト内容の調査。(2)新教科オーラル・コミュニケーションA、同Bに使用される文部省検定教科書の採用数。(3)教室でのオーラル・コミュニケーション活動に大きな影響を与えている外国人教師(ALT)とティーム・ティーチング。(4)現在国内で実施されている諸資格テストの調査(英語検定、TOEFL、TOEIC、国連英研)。(5)大学入試センター「外国語」(英語)」試験と国際バカロレア、アビトウア試験(ドイツ)、大学入学資格検定試験の各英語試験の内容比較。2.大学入試センター「外国語」(英語)」リスニング・テストを実際に行う際の問題点として。2.1大教室(階段教室)での音源1(普通テープコーダー)による大学院生・学部生(英語専攻)を対象に、TOEFLレベルのテストを実施、座席位置による成績の違い、受験者のアン-ケ-トの実施。2.2やや大きい教室で大学1年生を対象に音源1での日本人向けのリスニング・テストを実施し、座席位置、問題文の繰り返しによる成績の違いを調査。2.3大学入試センター「外国語」(英語)リスニング・テスト調査検討委員会」のモデル大学(静岡大他3大学)での実地調査の問題の作成・録音と、静岡大学(100名の大学生)でのテスト実施(大教室及び小教室、スピーカーによる一斉聴取及び各自のCDプレーヤーによる)と結果の討議。2.4リスニング・テスト(パイロット)問題の作成と望ましいリスニング・テストの提案。
著者
那須野 三津子
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

外国において特殊教育を必要とする児童生徒の教育の機会均等化を促進するために求められる実現性のある解決策や対策を提言するため、今年度は以下の研究を行った。障害児童生徒の教育機会均等化を外国において実行可能とさせる条件を総合的に考察するために、いち早く1982年より障害のある児童生徒を受けいれ、その後も障害の種別や程度の異なる児童生徒の受け入れ体制を展開してきたシンガポール日本人学校を取りあげた。具体的には11月24日から12月5日の間にシンガポール日本人学校(クレメンティ校小学部・チャンギ校小学部・中学部)を訪問し、管理職及び養護教育担当者に養護教育の現状と課題について聞き取り調査を行った。また、プライバシーの保護を厳守することを条件に、養護教育展開の経緯を示す資料の閲覧を行った。さらに、12月から2月の間に、養護教育展開過程の経緯に記録されていない初期の時期について、当時の保護者および教育関係者を対象に聞き取り調査を実施した。その際、氏名の公表の可否について尋ねた。特殊教育のはじまりは20年ほど前に遡るため、当時の特殊教育関係者の記憶があいまいな点もあった。そのため、聞き取り調査においては、まず文書で残された記録の有無を尋ねた。(現在、執筆中)また、アメリカ合衆国と国内において他言語環境下にある障害児童生徒については、前年度の調査結果を基に、分析、比較、検討を行っている。
著者
松田 佳久 佐藤 正樹 中村 尚 高橋 正明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

異常気象の力学の問題は複雑であり、様々な側面をもっている。本研究では、この問題を、中高緯度でのロスビー波の振る舞い、熱帯の40日振動、及び熱帯地方と中高緯度の相互作用という観点から捉え、緊密な協力の下にそれぞれの研究を行った。中村らは,東西非一様な基本流中を3次元的に伝播する定常ロスビー波束に伴う活動度フラックスの定式化に初めて成功した.それをブロッキング時に観測された偏差場に適用し,大陸上で冬季形成されるブロッキングが上流側から入射する定常ロスビー波束の「局所的破砕」に伴い増幅する事を確認した.また,等温位面データの解析で,7月にオホーツク海高気圧上空のブロッキングが同様の機構で増幅する事も確認した.松田らはこの解析結果に基づき、東西非一様な基本流中をロスビー波がどのように伝播するかを、数値実験により研究した。計算には、球面上の順圧モデルを用いた。数値実験の結果は、上流側から入射する定常ロスビー波束がジェットの出口付近で停滞し、その振幅が増幅する事を示した。この計算結果は上のデータ解析結果と興味深い対応を示している。高橋らは熱帯の40日振動に関して,年々変動の立場から解析的研究をおこなった.エルニーニョ時の40日振動はノーマルな状態にくらべ,振幅が強化され,また40日にともなうクラスターは熱帯東太平洋まで進むことがわかった.佐藤らは低緯度循環と中緯度循環の相互作用を子午面循環と角運動量輸送の観点から調べた角運動量バランスにより,熱帯の熱源が十分強い時には中緯度の傾圧帯の活動は熱帯の循環に支配される.一方,中緯度から低緯度に及ぼす影響についても,傾圧帯の活動が熱帯の積雲活動に及ぼす効果として現れる.
著者
宮地 充子
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

ネットワークの普及により各種サービスがネットワークを介して実現できる基盤が確立しつつある.電子医療・政府などでは,紙面に代わり電子的なデータがネットワーク上を流通するようになる.こうして情報セキュリティの技術である公開鍵暗号系によるデータの秘匿及び完全性の技術が不可欠になった.鍵進化公開鍵暗号は,公開鍵と秘密鍵という2つの鍵ペアのうち,公開鍵は不変で対応する秘密鍵のみ定期的に進化(変化)することで,秘密鍵の露呈攻撃に強化した概念であり,IDベース暗号と密接に関係する.IDベース暗号はユーザのIDが公開鍵で,対応する秘密鍵はセンタが構築する方式であり,階層的IDベース方式はセンターの階層化によりセンタ負荷を削減した方式である.IDベース暗号はブロードキャスト暗号の公開鍵暗号化にも大きな影響を与える.ブロードキャスト暗号は大きくCS法,SD法の二つが存在するが,公開鍵CS法はIDベース暗号から,公開鍵SD法は階層的IDベース暗号から実現できることが示されている.しかし公開鍵CS法の構築は冗長性を含まない完璧な実現であるのに対し,公開鍵SD法の構築は冗長で,階層的IDベース暗号の概念とはギャップが存在し,中間概念の構築が必須である.IDベース暗号は,鍵進化公開鍵暗号,ブロードキャスト暗号の2つの概念の構築に必須の概念であり,IDベース暗号の効率化及び新たな概念の構築は,鍵進化公開鍵暗号,ブロードキャスト暗号に多大な影響を与えるといえる.この背景の下,本研究では以下の研究を行った.1.IDベース暗号と階層的IDベース暗号の中間概念(階層構造をもつIDベース暗号)の構築2.具体的な階層構造をもつIDベース暗号方式の実現3.階層構造をもつIDベース暗号方式の鍵進化公開鍵暗号及びブロードキャスト暗号への応用本研究により,鍵進化公開鍵暗号・ブロードキャスト暗号の概念に影響を与えるIDベース暗号と階層的IDベース暗号の中間概念が実現され,鍵進化公開鍵暗号・ブロードキャスト暗号の研究への多大な発展が見込まれる.さらには本概念の適用により,ブロードキャスト暗号の公開鍵SD法を冗長性を含まず完璧に実現することができ,その影響は計り知れない.
著者
井上 豪 中村 努 石川 一彦 甲斐 泰 松村 浩由
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

超好熱始原菌Aeropyrum pernix K1株由来のペルオキシレドキシン(Prx)であるThioredoxin Peroxidase(ApTPx)は、チオール依存型のペルオキシダーゼであり、過酸化水素H_2O_2やalkylperoxideを水やアルコールに還元する働きを持つ。ApTPxは、子量20万の10量体蛋白質であり、プロトマー1分子中に3つのシステイン残基(C50,C207,及びC213)を持ち、たとえば、過酸化水素を水に還元する反応を行う。これまでの研究から、ApTPxのアミノ酸配列は1-CysのPrxと相同性が高いのに対し、その反応機構は2-CysのPrxと同様に2つのシステイン残基(C50及びC213)が反応に必須であることが報告されている。本研究課題では、変異体C50S,C20,7S,C213Sの結晶中で過酸化水素と反応させ、中間体構造を低温でトラップしてX線構造解析を行う方法で、ApTPxによるH_2O_2の還元機構の詳細の解明を目指した。その結果、C50SおよびC213SについてX線回折強度データの収集を行い構造精密化中で反応機構に関する知見はまだ得られていないが、C207S変異体からは、Cys50がCys-SHから、Cystein sulfenic acid (Cys-SOH)の状態へと酸化され、S-OH中間体を形成し、配位子数4の硫黄原子(10-S-4)を持つ超原子価構造をとることが判明した(Proceedings of the NattionalAcademy of Sciences USA(PNAS),in press)。
著者
加藤 宏 皆川 洋喜
出版者
筑波技術短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究は視覚障害者のための高等教育レベルでの教材、特に図的教材の視覚障害者向け適性化と活用支援システム構築のための基礎的研究である。重度視覚障害者のための教材には点字と触図があるが、触図はグラフィック情報であり、1次元の情報ではない。結論としては図も、視覚障害者向けには文字記述形式などへの1次元情報化が推奨されることが示された。触図についてはセンター試験の点字問題の視覚障害者による解答過程と触察行動を観察した。結果は成績は、図形式へのリテラシィと教科内容についての知識の2要因に影響されることが示唆された。特にグラフ形式についての習熟が、触図の読みとりに大きく影響した。チャートや模式図・地図等の触図は、その形態・内容を比較的容易に触察できた。触図では、触覚で形の認知という問題以上に、その事象についての知識と図の諸書式への習熟、軸の意味理解等が鍵となることが示唆された。このことはキャプション情報で軸説明などを補足すれば、特別な変換を行わない原図に近い触図で対応できるということである。触図にはキャプション等が必須であることも示唆された。弱視用教材研究には眼球運動測定装置を導入した。図とテキストを含むドキュメントを解読中の眼球運動からテキスト理解に及ぼす図の外的資源機能を探った。弱視者の場合、CRT画面上の文字と図を読ませるという方法では、注視点の記録が困難である場合があることが分かった。さらに眼疾別に適切な拡大提示法を検討する必要がある。諸外国における視覚障害者への図情報提示の実態調査も行った。スウェーデンでは、視覚障害者用の大学適性試験では図は削除か文による説明に代替された。ドイツでは大学の点訳教科書では、数式や図形はマークアップ言語による線形的記述か言語説明に代替された。図情報もテキスト文と同じくテキスト情報として一元化管理されることが有効であることが示唆された。
著者
水江 一弘 清水 誠 松宮 義晴 竹村 暘 井田 斉 村松 毅
出版者
長崎大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1985

遠洋性のクロトガリザメを南西太平洋で練習船鶴洋丸の旋網実習で本年も多数漁獲し、雌雄の性的成熟体長・生殖分娩の時期・妊娠尾数などを明らかにし,年齢成長を知るため、現在、脊椎骨研摩標本作製中(水江)。サメ類乳酸脱水素酵素の遺伝的特性を知る目的でラブカの3つのアイソザイムを単離し、速度論的解析をした。ネズミザメ・アオザメ・ヨシキリザメ等の同酵素のアイソザイム分布を調べ、単離を試みた(村松)。本年度はウシエイ・カラスエイ・ナヌカザメ・トラザメ・などの6種類について、それらの核型を明らかにすることが出来た。これらの結果は87年発行の魚類学雑誌に投稿準備中である(井田)。ガンギエイ類の食性はその遊泳力に影響され、小型魚のときは、かなり雑食性を示すが、大型になるにつれ魚食性が顕著になる。胃内容量は体重の平均1〜2%,最大3-4%であった(竹村)。最適化技法により、板鰓類の適応戦略を模索した。卵数とサイズの進化,性比の包括適応度,成長と死亡の戦略,棲み場所と採餌の適応単位を題材として、仮説と知見を比較検討した(松宮)。エドアブラザメ,ラブカなど6種のサメについて、筋肉・肝臓の重金属(Hg,Zn,Fe,Cu)濃度を検討した。何れも従来のサメ類の分析値の範囲にあった(清水)。生態を異にする各種板鰓類の網膜および松果体の微細構造と感光色素などを調べ、いづれの結果も環境水中の光分布と大きな相関が得られた(丹羽)。板鰓類の歯の形態と組織構造について、食性および系統との関係を検討した。また、日本のペルム紀から第四紀の板鰓類の歯と皮歯の化石を、現生種との比較により研究した(後藤)。銚子沖および松生場,小笠原諸島周辺ならびにハンコック海山から採集した板鰓類の標本を比較検討したところ、それらの形態に地理的変異が存在することが明らかとなった(谷内)。プランクトン食性のウバザメの脳はミツクリザメおよびラブカと同様に深海性であることを示唆する形態を示し,ウバザメと食性が同じであるジンベエザメの脳には、強大な遊泳力の反映がみられる(佐藤)。
著者
谷内 透
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1984

フトツノザメは成長,繁殖,食性を検討した。成長については銚子産,小笠原産,ハンコック海山産に違いがみられた。どの海域も雄の方が雌よりも成長が悪かった。性成熟の大きさも海域間で異なり、雌雄とも銚子産,小笠原産,ハンコック海山産の順となった。成熟年齢も同様に雌雄ともにこの順となった。交尾器長も精巣重量は性成熟の開始と共に急激に増大した。1腹あたりの胎仔数と大型卵巣卵数は親の大きさと共に増加した。成熟の大きさが異なるため、胎仔数と卵数は海域間で異なるが、種としての統一性は保持されているものと推測された。平均大型卵数は胎仔数よりも少なかった。食性についてみると、どの海域でも魚類の出現が高く、次いで頭足類,甲殻類の順となった。しかし、出現種が海域間で異なるため選択性は小さかった。小型ツノザメ類は銚子産の繁殖と食性を調べた。性成熟の大きさや最大体長は雌の方がかなり大きく、性差が著しかった。みかけの胎仔数よりも大型卵巣卵の方が実際の胎仔数を正確に反映していると判断された。胎仔の体長組成,卵径組成から判断して特定の繁殖周期はないものと推測された。食性については3種とも空胃率が著しく高いのが特徴であった。また、胃内容物重量の体重に対する割合はほとんどの場合3%以下であった。3種ともにイカ類と魚類の出現率が高かった。トラザメとニホンヤモリザメは銚子産の繁殖と食性を調べた。成熟の大きさと最大全長は雌雄でほとんど差がみられなかった。トラザメは周年卵殻をもつ雌が存在することから特定の繁殖周期はないものと推測された。2種とも空胃率はきわめて低かった。餌生物に大きな分類単位では重なりは認められるが、組成比が大きく異なること、また下位の分類単位で出現する餌生物が異なるので、両種は食い分けをしているものと推察された。
著者
馬見塚 拓 HANCOCK Timothy Peter
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は、生命科学の様々なデータを統合し、各データの解析のみからでは得られない新たな知識発見が可能な統計的手法を構築することである。特に近年の生命科学ではグラフやネットワークで表わされるデータが増えている。そこで、事例間の類似性すなわちグラフと事例の実数値ベクトルの2つを入力とする研究課題を設定した。具体的には、事例は遺伝子に相当し、グラフは遺伝子ネットワーク、実数値ベクトルは遺伝子の発現を表す。このデータにおいて、実数値ベクトルにラベル(クラス)が与えられている状況を考え、グラフ上での、実数値ベクトル(事例)の分類問題を設定した。この問題では、事例間の類似性を情報として利用可能なことにより、実数値ベクトルにより事例を単純に分類することに較べて精度の良い分類が期待できる。加えて、どのような類似性が分類に重要かという知識発見も可能である。この問題に対し、2つの解決手法を考案した。まずマルコフモデルの混合分布に基づくモデル・学習手法を構築した。この手法は、確率モデルであるためノイズや誤差に頑健であり、生命科学データに適していると考えられる。また、人工データのみならず遺伝子ネットワークおよび遺伝子発現の実データにおいて、手法の有効性を実証した。本成果は論文にまとめ現在投稿中である。次に再帰的な分割に基づく学習手法を構築した。この手法は、決定木の学習やグラフクラスタリングに類似しており、実際、決定木の学習にグラフクラスタリングのいくつかの標準的な分割基準を導入した場合とほぼ等価である。この手法は人工データのみならず実データでの実験により評価を行いGenome Informatics誌に発表を行った。
著者
前川 覚 太田 仁 菊池 彦光 小山田 明 松平 和之 石田 憲二
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

スピンが規則格子上に位置しながらもスピン間相互作用が競合する幾何学的フラストレート磁性体として、三角格子、かごめ格子、パイロクロア格子等の新磁性体を探索・合成して、核磁気共鳴、磁化、比熱、ESR測定等の実験をおこない、フラストレーションに起因する新しいタイプの相転移や秩序状態の発見と、その状態と機構の解明を行った。特にフラストレーションに量子効果が加わることにより生じる新奇な状態に注目して、量子スピン液体や特異な中間秩序状態、近藤スクリーニング部分無秩序状態を発見し、その特異なスピン状態を明らかにした。
著者
肥田野 登
出版者
東京工業大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1994

本研究では、これまで注目されることの少なかった都市内移動過程における移動者の行動に関して、文献調査および実態調査から基礎的な知識を得た。(1)文献により移動の機能の調査これまでの研究により示唆されていた移動の機能の具体像を都市内での移動過程を描いた文献をもとに分析した。対象としては日本の明治以降の小説、髄質に加え、現状にとらわれない自由な視点から移動をとらえているまんが「ドラえもん」をとりあげた。この結果、移動の機能としては大きく情報授受、心理状態の変化の2つがみられ、それらの内容が利用交通手段や移動の頻度(定期または一時)により異なることが示された。(2)移動の機能の実態調査JR常磐線、営団地下鉄丸の内線および日比谷線を対象として車内の乗客の行動の観察調査を行った。この調査では、筆記に加え小型ビデオカメラを用いて乗客の行動と周囲の状況を同時に連続してとらえた。また、本調査では車内での乗客間および乗客と設備の間での情報の授受形態を明らかにすることに重点を置いた。得られた結果としては、まず乗客の密度が情報授受形態に大きな影響を与え、座席定員程度の時がもっとも情報の授受が活発に行われることが示唆された。また、駅の間隔や地下と地上との出入りにより生じるリズムが乗客の行動をある程度規定し、したがって、これらの条件の違いによって乗客の情報授受形態が異なる可能性が示された。
著者
岡本 正志
出版者
大阪女子短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究は,Maxwell電磁理論の確立過程を分析することによって,科学理論が科学者社会の中でどのように確立してゆくか,確立されつつある理論が社会的にどう取り扱われるのかについて明らかにしようとするものである。96年度の調査により,マクスウェル理論の確立に際してO.Lodgeが大いに貢献していたことを明らかにできたが,97年度はそれに引き続いて,O.LodgeとO.HeavisideやH.Hertzらとの関連を中心にして,J.C.MaxwellからH.Hertzに至るマクスウェリアンの活動を調査した。この調査の結果,現在,電磁気学史上Heavisideは欠くことのできぬ科学者としての位置を占めているが,このHeavisideを見いだし,科学者社会の中に積極的に紹介したのがLodgeであったこと,Lodgeの実験ノートからみて,彼の電磁波検出実験はH.Hertsとほぼ同様な地点にまで到達していたこと,などを資料的にも確認することができた。また,Lodge資料の中から,Lodgeと交流した日本人の存在が明らかになり,それが旧制七高物理学教授村上春太郎であったことが判明した。村上春太郎は,わが国の物理学史上まったく無名であったが,調査の結果,流体力学や月の摂動論などの研究において当時としては国際的なレベルの研究を行っていたことが判明した。本研究の主目的からは外れるが思わぬ副産物の発見で,日本物理学史や日本中等物理教育への新たな資料を追加できることになった。
著者
出口 利定
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

大学入試センター試験・英語(リスニング)における聴覚認知障害者への特別措置について検討した。聴覚認知障害者にとって有効な特別措置の一つとして、原音声の話速を加工伸張した音声でリスニングテストを実施したところ、有意に高い成績の向上を示した。更に、聴覚認知障害者では、騒音下における受聴明瞭度が健聴者に比べて著しく低下することが判った。この結果は学校教育現場における配慮のあり方を示唆するものである。
著者
船寄 俊雄
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

『教育修身研究』誌は、「文検」の受験雑誌であった。受験の技法や情報を伝達するとともに、教師としての人間的教養の蓄積や「文検」受験を通しての人間的な成長を主張した。1937年7月以降日中戦争が本格化するにつれて、その時局の変化が「文検」の試験問題に強い影響を与えた。同誌発行の中心人物は島為男であったが、その戦前戦後を通じた教育活動と著作は今日改めて評価されないといけない。