著者
高倉 かほる 朝野 武美 石川 光男
出版者
国際基督教大学
雑誌
核融合特別研究
巻号頁・発行日
1988

トリチウム水による照射によって核酸の主鎖切断、形質転換能の不活性化が生ずるが、この時に、ある線量率の領域では、照射線量率が低くなる程、照射効果が増大するという現象が見られている。これは一般にKada効果とよばれているが、この現象がトリチウム水による照射に独特なものではなく、ガンマ線照射によってもおこることが、我々研究班によって明らかになった。本年度は、このKada効果の原因が、溶存酸素に由来するものではないかという観点から、Kada効果における酸素効果を調べた所興味深い結果を得た。照射はCo-60ガンマ線によるものであるが、アルゴンバブリングにより空気を除去した溶液中での照射では線量率依存性が見られず、空気飽和中での照射では、線量率依存性が見られた。この事は、Kada効果が溶液中の酸素と関連した活性ラジカルによるものであることを強く示唆した。トリチウム水の照射による核酸の塩基損傷については、次の様な研究を試みた。トリチウム水により汚染された核酸がどの程度のトリチウムの取り込みを行い、トリチウムは塩基特異的に取り込まれるのかどうかという観点から実験計画を練った。照射試料は液体クロマトグラフィーにより分離後、UV検出器とシンチレーションカウンターによって分析し、その結果、液クロパターンの特別な領域にトリチウムによる放射能のピークを認めた。今後さらに解析を進めて行く予定である。トリチウム標識核酸のβ壊変に関する化学的研究においては、今回はトリチウム(メチル位)標識チミンについて、その分解を調べた。その結果、3H標識チミンはβ壊変を起こすと、ほぼ100%の割合で分解をおこし、主生成物は壊変をおこした^3H位がOH基にかわった5-ヒドロキシメチルウラシルで、1壊変あたり60%生成していることが分かった。
著者
榊 佳之 金久 實 小原 雄治 大木 操 中村 桂子 高久 史麿
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1996

本研究は平成2-12年度に行われた特定領域研究「ゲノムサイエンス」の研究成果をまとめ、公表し、我が国のゲノム解析計画を新段階へと発展させることを目指すものである。そこでは「ヒトゲノムの構造解析」、「ゲノムの機能解析」、「ゲノムの生物知識情報」の3項目を中心に各々に成果を取りまとめ、公開シンポジウムなどを通して社会にゲノム研究の現状、意義と今後の展望を示すことを目標とした。研究成果の報告書は、既に平成12年度の研究成果報告と共に5年間のまとめを合わせて研究成果報告書として世に出したので、今年度は公開シンポジウムに焦点をあてて研究成果を社会に公開することとした。公開シンポジウムは日本科学未来館の協力のもと、関東一円の中高生を中心に若者世代を対象として行われ、約300名が参加した。「ゲノムから見たヒト」、「ゲノム科学の医学への応用」、「ゲノムから見た発生分化」などをテマとした。講演と共にパネル討論会も開催した。また未来館長の毛利衛氏の挨拶も頂いた。この公開シンポジウムの企画は文科省ヒトゲノム計画の中核となる本研究班の班会議で決定されたが、その内容は、我が国のバイオサイエンス全般、特に多くの国民の健康に直接かかわる疾患の医学研究の発展にとっても重要なものであり、その社会的意義、必要性、緊急性はきわめて大きいと言える。
著者
江藤 みちる
出版者
三重大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

突発性難聴などの内耳疾患はストレスが一因と言われる。生理活性ペプチド・マンセリンはストレス呼応性で神経内分泌系を中心に発現している。これまでに研究代表者はマンセリンが内耳に存在することを見出した。マンセリンのストレス性内耳疾患への臨床応用を目指し、マンセリンの局在について発達およびストレス環境下での局在について検討した。マンセリンはラット内耳の有毛細胞シナプスとらせん神経節細胞、延髄蝸牛神経核、橋外側上オリーブ核と、聴覚伝達系に広く存在していた。ストレス負荷に伴い、内耳II型らせん神経節細胞の発現は減少した。よって、ストレス環境下でのマンセリンの聴覚伝達系制御への関与が示唆された。
著者
古市 保志 加藤 幸紀 中塚 侑子
出版者
北海道医療大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

ナタマメはマメ科の植物であり、古くから膿とり豆として知られ、漢方薬として使用されてきた。本研究では、In vitro におけるナタマメ抽出物(SBE)の抗炎症作用、マウス実験的歯周炎に対するSBEの効果、マウス実験的歯周炎とマウス実験的RAの関連性、実験的歯周炎・RA併発マウスに対するSBEの効果、に関する検討を行った。その結果、SBEの飲用によって歯槽骨の吸収が抑制されたこと、また歯周炎と関節リウマチの併発動物実験モデルにおいて関節炎の進展と歯槽骨の吸収が抑制されたことが明らかにされた。SBEが炎症性サイトカインの産生を抑制し歯周炎や関節リウマチの発現・進行を抑制する可能性が示唆された。
著者
稲永 由紀 吉本 圭一 猪股 歳之
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2019-06-28

本研究では、高等教育機関の地域配置および高等教育の地域社会的効用について、高等教育あるいは高等教育機関の地理的影響範囲(高等教育「後背地」)の理論モデル確立を目指すべく、既存指標の収集、いくつかの地域での関係者へヒアリング等によって、影響評価の候補となる主観的/客観的指標を収集し、検討する。これは、研究者の研究・勤務経歴の偏り(特に都市/国立/研究大学)に起因するであろう高等教育領域の研究知の偏在を問い直す、オルタナティブな高等教育研究領域を切り開く企てでもある。
著者
西尾 信博 中沢 洋三
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

新たながん治療法として、キメラ抗原受容体(CAR)を用いた遺伝子改変T細胞療法(CAR-T療法)は有望であり、各種がんへの応用が期待されている。本研究では、骨肉腫の表面に高発現する抗原に対する新規キメラ抗原受容体遺伝子改変T細胞を作成するためのpiggyBacトランスポゾンベクターと、piggyBacトランスポゾン法を用いて高い導入効率を可能とする培養方法を開発した。本研究で開発したベクターと培養法を用いて作成した新規CAR-T細胞は、ヒト骨肉腫細胞に対して強力な細胞傷害性を発揮した。本研究により、骨肉腫に対する新規免疫療法の基盤データを得ることができた。
著者
見延 庄士郎 増永 浩彦 山本 絢子 杉本 周作 佐々木 克徳 時長 宏樹 釜江 陽一
出版者
北海道大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2019-06-28

日本の南岸に沿って流れる黒潮は,膨大な熱を熱帯から運びそれを日本付近で大気に放出する.この熱放出があることによって,中緯度大気が様々な影響を受けることが,最近十年間の高解像度観測データ解析および数値モデル実験で報告されてきた.しかし,この中緯度海洋が大気に及ぼす影響が異なる数値モデルでも同じように再現されるのか,またこの作用が将来の温暖化においてどのような役割を果たすのかは不明であった.そこで本研究では,これらの問題を解決することを目的として,多数の気候モデル,特に高解像度モデルデータの収集と解析を行う.
著者
加藤 かおり 沖 裕貴 杉原 真晃 勝野 喜以子
出版者
国立教育政策研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、ビグス(John Biggs)によって提唱された教授学習理論である「教育構成の整合(Constructive Alignmentの仮訳)」の理論に焦点をあて、①その理論の大学教授学/大学教育開発上の意義に関する理論研究、②同理論を踏まえた学習成果基盤型の大学教育の実効化を促すFDプログラム及び教育プログラム検証モデルに関する開発的な実践研究、③これら二つの側面を往還して行う日本の文脈への適合のための課題分析の三つの観点から調査研究を行う。
著者
堀井 祐介
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

学生中心の学びへと転換しつつある近年の高等教育において、「学生の主体的な学びへの関与<学生エンゲージメント(student engagement)>」はその核となる概念である。英国では、<学生エンゲージメント>は、教育評価を含む大学評価における評価指標の一つとされている。本研究では、今後の日本の高等教育評価政策に資するため、英国での教育評価を含む大学評価に関する自己点検・評価報告書等を分析対象とし、テキストマイニングの手法を用いて、英国での大学評価における<学生エンゲージメント>の位置づけを明らかにし、日本の大学評価における<学生エンゲージメント>評価指標のあるべき姿を明らかにする。
著者
杉原 真晃
出版者
聖心女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、教養教育におけるサービス・ラーニングの実践研究を通して、①地域社会という学外要件を含み入れたサービス・ラーニングならではの学習共同体の意義と構造を明らかにするとともに、深い学びに関する学習理論を参照しつつ、②学生自身による市民的教養の涵養、多様な学問領域の関連づけ、初等・中等教育と高等教育との関連づけを実現するサービス・ラーニング・プログラムを開発し、③教養教育カリキュラムにおける有効な位置づけを探ることを目的とする。本研究により、教養教育の理論的発展、学生の深い学びの実現、ウェル・ビーイングを追求する社会を創る主体の形成等の成果が期待される。
著者
鳥居 朋子 岡田 有司 高橋 哲也 林 透 村上 正行 山田 剛史 串本 剛 大山 牧子
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、4年間の研究期間において下記の5点を一体的に進める。(1)教育プログラムの評価と改善の好循環システムの先進事例を検討するため、米国・英国等の大学への訪問調査を行い、優れた循環システムの要件を抽出、(2)日本の大学の全国的な量的調査により、教育プログラムの評価と改善に関わる実態分析や主要な問題を特定、(3)学習成果測定や教育プログラムの評価を推進している日本の大学への訪問調査、(4)日本の大学において教育プログラムの評価と改善の好循環システムを形成する際に考慮すべき点やシステム構築上の要件等の抽出・整理、(5)好循環システムを組織的に構築するための具体的な手法をティップスの形式にまとめ公表。
著者
斎藤 有吾
出版者
新潟大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

近年、推し進められている高等教育改革において、「学習成果の可視化」は重要なキーワードである。学習成果とは、大学での学習の結果、得た知識、技術、態度などの成果を指す。そしてその可視化が多くの高等教育機関において精力的に取り組まれている。しかし、多くの大学で実施されている方法は、ディプロマ・ポリシーに対応するような評価であるとは言い難い。そこで、医療系単科大学の藍野大学を主たるフィールドとして、上記の問題を乗り越えるための学習成果の測定手段を提案し、その信頼性・妥当性・実行可能性を検討し、さらに他分野への適用可能性を検討する。
著者
齊藤 貴浩
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、大学等における教育改革は何を行い社会に何を与えたのか、一方で社会からは大学等に何を求めているのか、これらを明らかにすることで、教育改革成果のエビデンスを明らかにし、大学の教育改革が社会に受け入れられるようにすることを目的としている。政府から補助金を受けた教育改革事例の公開資料から取組の内容、成果、派生した組織等への影響を把握する。これらの情報をもとに訪問調査を行い、成功例に見られる共通要素を探索する。また大学関係者と大学と関係のない社会人に調査を行い、教育改革として高い評価を受ける要素を選択する。最終的に、教育改革の成功のエビデンスと社会の要請に即した教育改革の示し方を明らかにする。
著者
景山 千愛
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2016-04-22

本年度は、化学物質過敏症の社会的な取り扱われ方に重点を置き、調査研究を行った。具体的には、(1)化学物質過敏症の因果性に関する法学と医学の齟齬、(2)化学物質過敏症の存在を支持し調査研究を行う医師・学者のグループである「臨床環境医」の主張、の分析を行った。(1)に関しては、特に、化学物質過敏症罹患を争点とする訴訟と、化学物質過敏症の医学的不明確性がどのように関連しあっているのかを時系列的に読み解くことを試みた。これにより、「疾患」として医学的な論争のただなかにある化学物質過敏症が、法学という異なる分野において、その不明確性ゆえに法的論理に取り込まれる余地があることを示した。(2)に関しては、化学物質過敏症に関する一般読者向けの書物を対象にして、医学的に確立されていない「病」をいかに正統なものとして示すのかを明らかにした。これら2点の共通性は、ある「病」の不明確性が、異なるアクターが折衝する場面において、どのようにある「病」の不明確性が説明されるのか明らかにする、ということである。医学と司法、化学物質過敏症の存在を支持し研究を行う「臨床環境医」と一般の医師、患者など、異なるアクターや業界の狭間で、ある「病」の不明確性が新しく解釈されなおされるという現象は、化学物質過敏症に限らず、今まさに論争中にあるさまざまな「病」に関しても同様である。また近年では、柔軟剤やアロマなどによる「香害」が社会問題となっており、この文脈で化学物質過敏症も再注目を浴びている。このような社会的状況からしても、本研究でさまざまな「医学的に説明されない症候群」、ひいては化学物質過敏症について扱う意義がある。
著者
中尾 欣四郎 KWETUENDA Me ZANA Ndonton 冨永 裕之 知北 和久
出版者
北海道大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1990

安定な密度成層状態にある深湖で、深水層の熱エネルギ-や溶存成分がどのような機構で、表水層へ拡散・移流され、安定状態を保っているのか未だ不明である。深水層の擾乱機構を明らかにするため、世界有数の深湖であるアフリカ、リフトバレ-のキブ湖、タンガニ-カ湖を調査対象として選んだ。昨年度は9月〜10月に、主としてキブ湖について予備的調査を実施した。キブ湖は中央アフリカ、リフトバレ-の赤道地帯で、南緯2度、東経29度に位置する。流出河川のルジジ川は湖の南端から流出し、約150km下流のタンガニ-カ湖に注いでいる。湖は谷を横切る溶岩流より塞止められ、約1万年前に形成されたと云われている。塞止湖としての特徴はリアス式の湖岸線に示されている。湖面積は2,300km^2、湖を含む流域面積は7,300km^2で、最大水深485m、平均水深240mと落ち込みの激しい湖盆形状はリフト湖の特徴の一つである。タンガニ-カ湖畔のウビラ気象観測所における記録(1986年)によれば、年平均気温は24.7℃で、月平均気温の平均偏差は0.3℃で年較差の少ない熱帯性気候の特徴を示している。湖は水温構造から見て熱帯湖であり、表水層の深度は60〜90mで、この下面で、22.8℃〜22.9℃まで低下した水温は、これ以深では、湖底までゆるやかに上昇し、450m水深で、25.98℃を示している。なお、表水層下の深水層水温は経年的変動がほとんど認められず、極めて安定したメロミティック傾向を示している。湖の水質はC1^<ー1>、30〜68ppm、SO_4^<ー2>、2〜10ppmと著しく少く、Alkalinity(Na+K)は、表層水の630ppmから、底層水の3,200ppmと著しく高い。また、表面水のPH値は9.2の強アルカリ性を示し、他のアフリカ、リフト湖と同様にアルカリ営養湖の特性を示している。表水層下面から湖底へと水温が上昇しているにもかかわらず、安定した密度成層状態を保持している最大の要因は、深水層に溶存する二酸化炭素(CO^2)とメタン(CH_4)の存在である。ただ、両ガスともに、深水層の水圧下では不飽和状態にあり、溶解度は30%を越えない。予備調査で試作された圧力型特殊採水器により採水された深水層(水深400m)では、常圧下で試水(2.19l)の約2倍の二酸化炭素およびメタンの混合ガス(4.05l)が発泡した。混合ガスの存在比は、二酸化炭素が74%、メタンガス、18%であった。万一、深水層の水塊が表水層に上昇することになれば、発泡した気泡の上昇により、連鎖反応的で急激な湖面からのガス突出が起ることになる。この時、重い二酸化炭素ガスから成る無酸素雲は下方に流れ下りニオス湖のガス突出のような重大災害が生じることになる。ただ、現状のガス溶解度では深水層の小擾乱が発泡を起す可能性は極めて少い。ただ、深水層の水圧下で二酸化炭素、メタンガスが飽和状態に達したとすれば、小擾乱で減圧による発泡が起り、ガス突出に至る。湖底から供給される二酸化炭素、メタンガスを表水層へ拡散、移流する機構が分子拡散と熱塩対流のみで行なわれているか否かを明らかにすることは深湖深水層の擾乱機構の研究のみならず、ガス突出予測においても肝要な点である。STDプロファイラ-により測定された水温、電気伝導度の鉛直分布を見みると、60〜90m以深の深水層において、活発な熱塩対流を示す水温分布の階段構造が見られる。湖の擾乱の著しい等温層は、厚いもので40mを越え、水深200mに達している。この拡散機構が火山活動の変化に伴う二酸化炭素供給変動を解消し、深水層におけるガス溶存量を安定に保っているのであろうか。1991年度のキブ湖本調査とともに、1992年度に実施するタンガニ-カ湖との比較研究が必要である。