著者
篠崎 温彦
出版者
金原一郎記念医学医療振興財団
雑誌
生体の科学 (ISSN:03709531)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.455-457, 1984-12-15

■特性 植物レクチンのコンカナバリンA(Con A)は赤血球やグリコーゲン,デキストランなどの多糖類と凝集沈降反応を起こし,またメチル-α-D-マンノピラノシドやメチル-α-D-グルコピラノシドのような単糖グリコシド誘導体に対しても極めて特異的な結合をする。この二つの単糖グリコシド誘導体に共通していることは,2位炭素以外の全骨核原子における置換基の立体配置が全く一致していることであり,これはまたそれぞれ凝集反応を起こす多糖類の非還元末端残基に対応している。このように,Con Aは極めて特異的に一定の糖構造と結合することが明らかにされたのに伴い,これを用いて生理学的,生化学的に多方面の研究が進み,Con Aの各様の生理活性が報告されるに至っている。この項ではシナプス後膜に対する作用に限定して解説する。神経伝達物質の受容体は糖蛋白も関与していると考えられることから,伝達物質応答に対するCon Aの作用が調べられ,特に興奮性神経伝達物質の有力な候補であるグルタミン酸による受容体の脱感作(desensitization)を抑制することが報告された。グルタミン酸が受容体に長い間(おそらく5msec以上)作用し続けると,グルタミン酸が存在するのにもかかわらず,グルタミン酸に対する受容体の反応が低下(desensitization)する性質がある。
著者
大沼 すみ 竹川 清 岡島 光也 川口 とし子 大沢 純子 北村 和子 池澤 善郎
出版者
医学書院
雑誌
臨床皮膚科 (ISSN:00214973)
巻号頁・発行日
vol.51, no.8, pp.597-601, 1997-07-01

過去4年間にラノリン製剤による接触皮膚炎を23例経験した.男性6例,女性17例.平均年齢は35.6歳であった.基礎疾患はアトピー性皮膚炎が最も多く,18例,78%を占めた.基礎疾患の罹病期間は平均10.8年と長くなっていた.原因薬剤はアズノール軟膏が最も多く15例,次いでアンダーム軟膏が10例であった.1995年の当科におけるラノリン,ラノリンアルコールのパッチテスト陽性率は4.5%であった.基礎疾患の約8割を占めたアトピー性皮膚炎では,総IgEが4桁の症例が最も多く,罹病期間も平均13.3年と長くなっていた.また,顔面の皮疹を伴う症例が大半を占め,原因薬剤の使用部位も顔面が最も多くなっていた.ラノリン製剤は種々の医薬外用剤,化粧品に含まれているが,重症,難治性で顔面に皮疹があるアトピー性皮膚炎の症例では,ラノリン製剤の接触皮膚炎を疑って,パッチテストを行うことが望ましいと思われた.

1 0 0 0 感情失禁

著者
藤井 博之
出版者
医学書院
雑誌
訪問看護と介護 (ISSN:13417045)
巻号頁・発行日
vol.10, no.9, pp.774-778, 2005-09-01

脳血管障害などで,感情のコントロールがきかないように見える人がいます。ふとしたことで笑ったり泣いたりして,それが止まらなくなることもあります。なにがきっかけとなったのかはっきりしない人も,なかにはおられます。 こうした現象は,医学的にはいくつかの症状として理解されています。「感情失禁」は,そのなかで最も有名な用語で,看護・介護の現場はもちろん,ときには一般の会話などでも使われます。
著者
浅井 邦彦
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.598, 1988-05-15

1987年11月13〜14日本精神衛生学会の第3回大会が,一番ケ瀬康子(日本女子大)会長,榎本稔実行委員会長のもとで開かれた。 第一日目は一番ケ瀬会長の講演「居住環境と心の健康」が行われた。国際居住年にあたり,居住環境と心の健康の問題の重要性を強調された。WHOは国際居住年のテーマとして,ホームレスのためにシェルター造りをかかげている。世界的規模で貧困化が進み,失業と病気(アルコール中毒など)により,ストリートピーブルが増加し,更に精神病院に老人ホームから退院して帰る家のない人達が増えてくる問題のあること。そして日本では,一般住宅の狭さが問題で三世代同居が多く,老人ホームも一人当りの面積が,英国の1/3,スウェーデンの1/5であり,高齢者の自殺率が高いことは,居住環境と関係があり,個室化をすすめたホームで自殺が減少したなどのデーターを示し,居住環境の改善が心の健康にとって大切であることを強調し,都市計画などでも精神衛生の側からの積極的発言と関与が必要であるとまとめられた。
著者
武久 徹
出版者
医学書院
雑誌
臨床婦人科産科 (ISSN:03869865)
巻号頁・発行日
vol.61, no.7, pp.947-949, 2007-07-10

何も避妊方法を使わないと1年以内に35%は妊娠する.日本に比べ,米国では多くの避妊方法が使用許可されている.それぞれに利点と欠点があるが,各避妊方法別の1年目の失敗率は,殺精子剤29%,コンドーム15%,経口避妊薬3%であり,銅付加子宮内避妊器具(IUD)は0.8%,黄体ホルモン放出子宮内避妊装置(IUS)は0.1%である(Contraception 71 : 319, 2005/70 : 89, 2004).参考までに,日本で使われているIUD(非薬剤付加.プレイン)の失敗率はFD-13.7%,優性リング2.5%と高率である. 子宮内避妊用リング(IUD)は安全で有効な長期使用ができる避妊方法である.米国では2つのIUDが利用できる.Coopper T 380Aとlevonorgestrel(レボノルゲストレル)子宮内システム(日本商品名Mirena)である.しかし,米国でIUDを使っている女性は少数である.その理由は,1970年にダルコンシールドが米国で発売され間もなく,敗血症性流産や骨盤内炎症性疾患の報告があり医療訴訟が多発し,販売会社は莫大な訴訟費用の懸念が発生したため,1988年までに1社のIUDを除いてすべて完全に米国市場から撤退したためである.
著者
佐藤 章悟 谷端 淳 今泉 和彦
出版者
金原一郎記念医学医療振興財団
雑誌
生体の科学 (ISSN:03709531)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.426-427, 2009-10-15

[用いられた物質/研究対象となった受容体] クレンブテロール,デキサメタゾン/β-アドレナリン受容体 骨格筋のβ-アドレナリン受容体(AR)を介した情報伝達は筋タンパク質合成と分解,グリコーゲン代謝,脂質代謝など様々な生理機能に関与する。骨格筋に分布するβ-ARサブタイプはβ2-ARが80-95%,β1-ARが5-10%を占め,β3-ARは殆んどない。また,β2-ARの密度は収縮速度の低い筋(slow-twitch muscle:ST筋)(ヒラメ筋)では収縮速度の高い筋(fast-twitch muscle:FT筋)(長指伸筋・足底筋)より2-3倍高い。一方,心筋のβ-ARを介した情報伝達は心収縮力や心拍数などの生理機能に関与する。心筋に分布するβ-ARサブタイプはβ1-ARが60-70%,β2-ARが20-30%を占め,β3-ARは殆んどない。特に左心室筋(left ventricle muscle:LV筋)ではβ1とβ2-ARの密度が高い。このような骨格筋と心筋のβ1とβ2-AR発現は,カテコールアミンやグルココルチコイドなどの生体内情報伝達物質によって影響を受ける。また,各種作動薬によっても骨格筋と心筋のβ1とβ2-AR発現は変動するが,遺伝子発現に着目した研究は比較的少ない。
著者
弘末 明良
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.589-590, 1986-05-15

「日本精神衛生学会」が,発足した。「日本……」とは大きく出たものだ,というのが,まずは名称から受けた印象であるが,2日と1晩(懇親会)参加してみて,私は,この会は明るくのびやかに続いていくだろう,と思った。 ときは,昭和60年11月30日と12月1日。ところは,都立中部総合精神衛生センター(松沢病院の隣)の体育館。参加者数477名。第1回会長は,土居健郎氏。参加費3,000円。年会費5,000円である。
著者
本橋 ほづみ
出版者
学研メディカル秀潤社
雑誌
細胞工学 (ISSN:02873796)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.364-365, 2015-03-22

生体が,様々な生命活動を維持するには,自由エネルギーの持続的な取得が必要である.生化学の教科書によれば,生体が生命活動に必要な自由エネルギーを取り入れて利用するプロセスを代謝と呼び,自由エネルギーを取り出す過程は異化,生体分子を合成する過程は同化として区別されている.一方,代謝中間体が,自由エネルギーのやり取りとは必ずしも直結しない生命活動に重要な役割を果たしていることも明らかにされている.クエン酸回路の中間体である2-オキソグルタル酸は,低酸素応答の鍵因子であるHIF因子群の活性制御や,コラーゲンタンパク質の成熟,ヒストンやDNAの脱メチル化などに重要な役割を果たしている.同じくクエン酸回路の中間体であるフマル酸は,その親電子性により,様々なタンパク質のシステイン残基に共有結合し,サクシネーション(succination)と称される新しい翻訳後修飾をもたらすことが報告されている.このように,代謝中間体とタンパク質機能との新しい関係の解明から,生命活動における「代謝」の意義が見直され始めている.
著者
長谷川 純 川瀬 哲明 菊地 俊晶 小林 俊光
出版者
医学書院
雑誌
耳鼻咽喉科・頭頸部外科 (ISSN:09143491)
巻号頁・発行日
vol.77, no.12, pp.905-909, 2005-11-20

Ⅰ.はじめに 後天性中耳真珠腫の発症機序は単一ではない。過去には,種々の成因に関する学説が呈示されてきた。内陥説1~4),基底細胞乳頭状増殖説5),穿孔説6)などがその代表である。このなかでは内陥説が広く支持されるに至っているが,内陥から真珠腫が形成されるためには,表皮ならびに皮下組織の増殖・分化にかかわる各種サイトカインの関与が必要と考えられている7,8)。 鼓膜内陥の原因としては,耳管機能不全が想定しやすく,過去にも多くの耳管閉塞実験が行われた9,10)。一方,本庄(1987)11)は,陥凹型真珠腫では耳管の通気圧は正常かむしろ低いものが多く,耳管の器質的狭窄はないことを指摘した。また,多くの症例が陰圧を能動的に解除できることから,Bluestone(1978)12)のいう機能的閉塞も少ないことを述べた。森山(2004)13)は後天性真珠腫の耳管機能について,音響法では正常型が約半数と最も多かったが,健常者に比較すると狭窄型が多かったとしている。 真珠腫の成因説として発想を転換したものに,1970年代後半にMagnusonら14)が提唱した鼻すすり説がある。耳管閉鎖障害(耳管開放症)患者では,嚥下やあくびの際に耳管が開放状態となると,耳閉感や自声強聴などの不快感が生じる。このときに「鼻をすする」ことにより中耳腔の陰圧化に続いて「耳管のロック」が起こり,不快感が取り除かれる(図1)。このとき,鼓室内陰圧は時に1,000mmH2Oにも達し,これが鼓膜の内陥やポケット形成を引き起こし,真珠腫を発症する基盤となるとの考えである。 筆者らもこの説に注目し調査を行ってきた。その結果,真珠腫症例全体の約25%にMagnusonの説を裏付ける鼻すすり癖が認められ15),上鼓室陥凹例でも20%に鼻すすり癖を認めた。もちろん,鼻すすり説以外にも真珠腫の成因は複数存在する可能性があるものの,鼻すすり癖は真珠腫の重要な成因の1つであると考えられる。 本稿では,後天性真珠腫の耳管機能について耳管閉鎖障害の観点を中心として述べ,鼻すすり癖を有する真珠腫(以下,「鼻すすり真珠腫」)の取り扱いおよび治療について述べる。
著者
福田 秀樹
出版者
医学書院
雑誌
神経研究の進歩 (ISSN:00018724)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.462-470, 1996-06-10

はじめに 突然,視野の中にものが現れたり,注意を引くものがあると,その方向へすばやく目が動く。このような目の動きはサッケード(saccade)と呼ばれ,その発現には前頭前野,前頭眼野,補足眼野,頭頂連合野などの大脳皮質,大脳基底核,中脳,脳幹,小脳など脳の多くの領域が関与している(Goldbergetal,1991)。臨床神経学では,これらの領域に器質的,機能的障害があるとサッケードに異常が生じるために,サッケードは神経疾患の病態生理解明の一つの重要な指標とされてきた(Fletcher,Sharpe,1986;Hikosakaetal,1993;1995;Laskeretal,1987;Zeeetal,1976)。 しかしながら,パーキンソン病やアルツハイマー病のコントロールとなる正常な高齢者のサッケードの特徴を調べた研究では,サッケード潜時が遅れる点で一致した結果が得られているが,振幅と最大角速度については一貫しなかった(Abeletal,1983;Carteret al,1983;馬嶋ら,1981;Moschneretal,1994;Sharpe,Zackon,1987;Spooneretal,1980;蕨ら,1984;Wilsonetal,1993)。
著者
天野
出版者
医学書院
雑誌
看護学雑誌 (ISSN:03869830)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.157, 1992-02-01

鹿児島県小宝島.北緯29度線の少し北に位置し,鹿児島市からの交通機関は月に8往復する定期船だけ.所要時間は片道約13時間. 周囲3.2km,島民44人(全19世帯)自然のままの珊瑚礁が広がる,日本で“最後の海”に囲まれたこの島に,中田美津江さんは1991年5月,ボランティア看護婦として赴任した.
著者
平井 郁仁 高田 康道 佐藤 祐邦 高橋 晴彦 矢野 豊 高津 典孝 松井 敏幸 今村 健太郎 池田 圭祐 岩下 明德 宮岡 正喜
出版者
医学書院
雑誌
胃と腸 (ISSN:05362180)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.345-357, 2014-03-25

要旨 当科において診療したCrohn病(CD),潰瘍性大腸炎(UC),Behçet病患者(BD)を対象とし,生検および手術標本における病理組織学的所見の結果から,二次性アミロイドーシス(SA)合併の有無を検討した.CDに関してはデータベースを用いて患者数,臨床像,臨床経過および長期予後について解析し,さらにSA合併症例の詳細とSAの合併有無別の比較検討を加えた.IBD患者におけるSA合併率は1.1%(CD : 1.6%,UC : 0.3%,BD : 3.4%)であった.CD症例においては,(1) 診断では十二指腸病変の認識と生検が有用であること,(2) SA合併率は1.6%で,近年やや下降傾向であること,(3) 累積生存率はSA診断後50か月で79.5%,131か月で53.0%と生命予後が不良であること,(4) SA合併例は悪性疾患の既往の頻度が15.4%で非合併例より有意に高かったことが明らかとなった.
著者
齊藤 治 小島 敬史 寺西 務 中川 憲 萱澤 正伸 南里 昌史 江頭 由太郎 平田 一郎 勝 健一
出版者
医学書院
雑誌
胃と腸 (ISSN:05362180)
巻号頁・発行日
vol.34, no.10, pp.1307-1312, 1999-09-25

要旨 患者は29歳の女性.1985年(14歳時)に下痢が出現.1986年に発熱,関節炎が出現し,大腸型のCrohn病と診断された.その後,steroid,salazosulfapyridineなどで治療されていたが,入退院を繰り返した.1993年5月には上行結腸の狭窄のため結腸唖全摘術を施行した.その後,salazosulfapyridineで治療されていたが,1997年2月には発熱,貧血,低蛋白血症で入院.腸管狭窄(回腸S状結腸吻合部およびその口側の回腸)のため回腸,S状結腸の部分切除術を施行した.1998年8月には貧血,低蛋白血症で入院.大量の蛋白尿を認め,ネフローゼ症候群を呈していた.腎生検の結果,アミロイド(AA型)の沈着を認めた.
著者
帖佐 宣昭 江良 幸三
出版者
医学書院
雑誌
臨床皮膚科 (ISSN:00214973)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.132-134, 2008-04-10

要約 皮膚真菌症の診断において,苛性カリ(KOH)直接鏡検検査は重要であり,菌の検出を容易にするのに従来からパーカーブルーブラックインク(Parker-super-Quink permanent-blue-black-ink:Parker BB)を加え汎用されていた(パーカーブルーブラックインク・KOH法:Parker BB・KOH法).しかし,1995年までにつくられた製品だけが使用可能で,現在市販されているParker BBでは染色できず利用できない.当科では現在市販されているパーカーブラックインク(Parker-Quink black-ink)をKOH液に加えて使用し(パーカーブラックインク・KOH法:Parker B・KOH法),癜風,カンジダ症などをはじめ皮膚真菌症において菌要素がきれいに青染されることを確認している.筆者らが行っているParker B・KOH法は,従来のParker BB・KOH法と比較しても遜色なく,菌要素がきれいに青染され,実地診療上,真菌の直接鏡検検査としてきわめて有用である.
著者
鹿毛 勇太 磯田 祐士 大川 智子 渡邉 裕子 金岡 美和 相原 道子
出版者
医学書院
雑誌
臨床皮膚科 (ISSN:00214973)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.31-35, 2017-01-01

要約 70歳,男性.右上顎洞悪性黒色腫術後に全身の紅斑が出現した.皮疹出現より4日目に発熱と皮疹が急速に増悪し,Stevens-Johnson症候群と診断した.被疑薬はすべて中止し,ベタメタゾン8mg/日の点滴を開始し,翌日よりステロイドパルス療法を施行したが病勢が進行し,表皮剝離が進行したため,中毒性表皮壊死症(toxic epidermal necrolysis:TEN)と診断した.集中治療室に転棟し,全身処置を行いながら血漿交換療法,大量免疫グロブリン静注療法を併用した.最大表皮剝離面積は80%に及んだが,16日目より皮疹の改善がみられ,32日目には完全に上皮化し,後遺症を残さず治癒した.TENの急速進行期では,各種の免疫調整効果を組み合わせた治療が有効であると考えた.
著者
中島 そのみ 仙石 泰仁 中村 裕二 加藤 静恵 岸 玲子
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.309-316, 2010-06-15

要旨:ベイリー乳幼児発達検査一第2版(以下,BSID-Ⅱ)は乳幼児期の発達状況を評価できる,国際的にも用いられることの多い検査の一つである.しかし,日本では標準化されておらず使用報告が少ない現状にある.本研究では,生後6ヵ月児192名にBSID-Ⅱを実施し,日本版デンバー式発達スクリーニング検査(以下,JDDST)から見たBSID-Ⅱの有用性を検討した.BSID-ⅡのMentalとMotorの平均得点は米国の標準値よりも約10低い値であった.また,BSID-ⅡのMental,MotorはともにJDDSTの関連領域との間で感度・特異度が高く有用性が認められた.しかし,本邦においてはBSID-ⅡのMotorは過剰に遅れと判定する可能性があった.
著者
山本 達也
出版者
医学書院
雑誌
神経研究の進歩 (ISSN:00018724)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.920-924, 1968-12-25

I.脳炎後パーキンソニズム 脳炎後パーキンソニズムのなかには,二つの異なつた理解が含まれている。一つは,エコノモ脳炎後遺症ないしは慢性に進行するエコノモ脳炎の症状としてのパーキンソニズムという把え方,第二は不特定の脳炎,たとえばマラリア,梅毒その他の熱性疾患などを経過した後に現われたパーキンソニズムという見方である。一方病理学的な立場からいうと,脳炎後パーキンソニズムの名称ば,もつぱら第一の範疇すなわちエコノモ脳炎後パーキンソニズムと同義に用いられてきたのであつて,それは当然,一定の病変分布とその性質によつて規定されたものである。すなわち主要なcriteriaとして黒質と青斑核におけるメラニン色素含有神経細胞の脱落消失,ならびに神経細胞に広くみいだされるアルツハイマー原線維病変1)が挙げられる。 最初にエコノモ脳炎後と思われるパーキンソニズムの1例を述べて当面の問題に対する理解の助けとLたい。
著者
奥田 俊伸 綿貫 俊夫 松原 敏郎 渡邉 義文
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.59, no.12, pp.1135-1139, 2017-12-15

抄録 進行性核上性麻痺(PSP)では多彩な精神症状がみられることがある。今回我々は,多彩な精神症状を伴い前医で緊張型統合失調症として加療されていたPSP患者の1例を経験した。神経症状に加えて特徴的な画像所見からPSPであると診断し,L-dopaの投与を行ったところ,パーキンソニズムに効果はみられたものの精神症状が悪化した。そのためドーパミンパーシャルアゴニストであるaripiprazoleに切り替えたところ,パーキンソニズムと精神症状のいずれにも効果が認められた。PSPの治療はパーキンソニズムと精神症状の両方に配慮する必要があることから,aripiprazoleが効果的な薬剤である可能性が示唆された。