著者
安藤 仁介 岩沢 雄司 金 東勲 西井 正弘 薬師寺 公夫 坂元 茂樹 村上 正直 小畑 郁 中井 伊都子 徳川 信治 北村 泰三 初川 満
出版者
(財)世界人権問題研究センター
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

「市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)」の自由権規約委員会は、締約国の提出する政府報告を審査し、勧告を含む総括所見を採択して、そのフォローアップを求める慣行を確立した。本研究は、各締約国が、これらの勧告を受け入れているかいないか、また、各国に固有の文化的・社会的・宗教的構造が、それにどのように影響を与えるかを比較検討し、自由権規約の保障する人権を実現するためには、どのような課題が存在するかを分析した。
著者
関 宏子 熊本 卓哉
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

ビスグアニジン型化合物と各種酸性化合物との複合体を用い、単結晶X線解析や溶液・固体NMR を組み合わせた機能性化合物の分子間相互作用を含む構造解析を行った。ビスグアニジン-ヒ酸複合体の固体NMRは想定される本数よりも多いシグナルを示した。これは複合体中のグアニジン部位が非等価であるというX線解析の結果を反映したデータであり、固体NMRが分子間相互作用を持つ複合体の構造解析に有効な手段となる可能性を示した。
著者
伊達 章 倉田 耕治
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

画像,音声,自然言語,塩基配列などの大規模データに対し,確率モデルを構築し,認識,予測など確率推論を行なうことが,計算機性能の急速な向上に伴い可能になっている.ベイズ推論の本質の一つは,データを観測した後の事後確率分布の利用にあるが,その分布の構造については不明な点が多く,分布が奇妙な構造をもつことは十分考えられる.本研究では,事後確率分布から多数のサンプルを生成することで,事後確率分布の構造を反映した意味のある推定量を求める手法を開発した.単純な隠れマルコフモデル,格子型マルコフ確率場を用いて計算機実験をおこない,本手法の有効性を確認した.
著者
桜井 武 山本 三幸
出版者
金沢大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

3種の新規神経ペプチドについて、扁桃体機能と情動の制御におけるそれぞれの役割を解明すべく研究を遂行した。ニューロペプチドBおよびWに関してはそれらの受容体NPBWR1の欠損マウスとヒトにおける多型の解析から、社会行動やストレス応答に関与していることが明らかになり、オレキシンは情動にともなう自律神経系の応答に強く関わっていることが明らかになった。QRFPに関しては、遺伝子欠損マウスを作成した。
著者
大山 小夜
出版者
金城学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

貸し手側である業者と借り手側である消費者による金銭貸借をめぐる相互作用(消費者信用取引)において、紛争は、多くが複数の業者から借り入れる消費者の返済の遅れに始まる。このため、消費者信用取引の紛争は、一般に、多重債務問題と呼ばれる。破産はその一帰結である。本研究の目的は、紛争当事者が出会う市場、市場で生じた紛争の事後処理と市場に法規制を行う司法、借り手に資源を投与することで紛争の解決を図る行政など、消費者信用と多重債務問題に関わる諸制度の実証研究を通じて、紛争解決のための政策的、社会学的示唆を得ることである。この目的に対し、本年度の研究内容は以下の通りである。第1は、消費者信用市場のグローバル化にともなう紛争拡大の実態把握と、紛争解決のための国際的取り組みの必要性の提言である。2005年3月末、日本弁護士連合会が消費者信用法制について韓国で現地調査を行った。報告者はこの調査に同行し、帰国後、補足調査を行うことで次の2点を明らかにした。一つは、多重債務問題は、経済の低成長期にある社会において、高い収益性のある消費者信用市場への規制緩和と、市場から脱落する個人への司法的行政的救済制度(セーフティネット)の未整備による不幸な結婚によって生じること。いま一つは、こうした不幸な結婚には、豊富なノウハウと資金力をもつ諸外国業者による市場進出も大きく関わっていることから、多重債務問題の解決には、当該国内だけでなく、国際的取り組みが必要なこと、である。第2は、消費者信用市場への規制をめぐる論点整理である。市場へ事前に包括的な規制をかけることで紛争を防ぐという意見に対し、近年、市場に規制をかけないかわりにそこで生じる紛争を事後的に個別的に解決すればよいという意見が出されている。そこで、後者の、紛争解決のあり方の代表例として、日本の司法における紛争処理の実態を検討し、その利点と問題点を整理した。
著者
樋口 範雄 伊藤 洋一 浅香 吉幹 寺尾 美子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

樋口の英文報告「Legal Education in Japan」では、日本における学部レヴェルの法学教育と司法試験によって特徴づけられた法曹養成との伝統的制度を比較法的視点から概観した後に、平成13年6月の司法制度改革審議会意見書などにみられる法科大学院構想の趣旨と動向を跡付けている。寺尾の報告「アメリカ法学教育の特色とアメリカ・ロー・スクール協会-(AALS)の活動について」では、アメリカのロー・スクール教育において民法諸分野を中心とした1年生科員がとりわけ重視されつつ、多くの少人数クラスをしばしば別の法分野を専門とする教員が分担している、という事実を指摘し、その背景にあるアメリカ法学の特質について論じている。そしてそのような法学教育と法学との相互作用を象徴するアメリカ・ロー・スクール協会の活動を紹介する。浅香の報告「英米法諸国における大学法学教育と法曹養成」では、英米法諸国といえども、イングランド、オーストレイリア、ニュージーランド、アメリカにおいて大学法学教育と法曹養成との関係はさまざまであることを指摘した後に、アメリカの法学教育において、一方で実務能力や倫理の問題についてクリニカル教育の活用が盛んとなっていること、他方で英米法諸国において非法学分野の教育が法曹養成において積極的意義を与えられていると述べる。伊藤の報告「フランスにおける比較法研究・教育について」では、フランスにおいては意外にも比較法研究・教育の態勢が伝統的に脆弱であったことを指摘しつつ、最近になってヨーロッパ法の重要化とグローバル化がその重要性の再認識を起こしていることを紹介する。
著者
水田 邦子
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究で新たに抗ヒトGDD1ポリクローナル抗体を作製した.また,GDD1遺伝子の機能解析を目的にGDD1発現ベクターを作製し,培養細胞における外来性GDD1安定発現システムの確立を試みてきた.しかし,GDD1タンパクは細胞内で非常に分解を受けやすく,タンパク検出が困難であった.このため,GDD1遺伝子の生理的機能は長く不明であったが,申請者らはGDD1が筋萎縮を症状とするLGMD2の原因遺伝子であることを発見し,筋芽細胞株を用いた発現実験で骨格筋恒常性維持にGDD1遺伝子が重要な役割を発揮していることを証明した.
著者
古尾谷 知浩
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、日本古代史における文書行政のあり方を考える上で不可欠な出土文字資料である漆紙文書について、その史料学的性格について次の三つの観点から明らかにすることを目的とした。第一には、漆紙文書は、漆塗作業において用いられた反古紙であることから、漆工房関係遺物全体の中で位置づけること、第二には、漆紙文書と伴出した木簡などの文字資料との関連を明らかにすること、第三には正倉院文書など伝世文書の中に位置づけることである。以上三つの観点を中心に研究を進め、漆生産、流通、漆器生産のあり方と、それぞれの場における反古紙供給のあり方を解明していくこととする。上記の目的を達成するために、具体的作業として、平城京・長岡京などの都城遺跡、及び、多賀城跡・秋田城跡などの東北地方城柵遺跡を含む地方官衙遺跡、その他集落遺跡などから出土した漆紙文書の集成を行った。その成果を踏まえ、特に伴出木簡との関連に留意しながら分析を行った。その結果、都城遺跡についてみると、漆塗作業の場は、継続的に操業していた漆工房の場合、建設現場に関係する場合、天皇、皇族の宮もしくは貴族の邸宅における比較的小規模な漆塗作業の場合、寺院における漆塗作業の場合、という四つの類型に分けられることが判明した。また、地方遺跡についてみると、国府の造営における漆塗作業に際し、国府から払い下げられた反古文書が再利用される場合、国府付属工房に対し、国府から払い下げられた反古文書が再利用される場合、国府付属工房に対し、漆生産地に近い郡において、郡廃棄の反古文書が蓋紙として付され、容器、内容物とともにもたらされる場合、郡家関連の工房に対し、工房に直接関連する部署から反古紙がもたらされる場合、などの類型が抽出できた。このことは、即ち、それぞれの漆塗作業の場の性格により、供給される反古紙の性格が異なることを示しており、漆紙文書の最終保管主体、廃棄主体などをめぐる史料学的性格を明らかにすることができた。
著者
田中 恭子 荒井 茂夫 白石 昌也 黒柳 米司 真栄平 房昭 田中 明彦 中田 睦子
出版者
南山大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

計画研究「中国とアジア太平洋の広域世界」は、研究分担者6名、公募研究者6名、研究協力者2〜3名による共同研究を進めてきた。3年間にあわせて15回の研究会を行い、そのうち2回は領域研究の他の班(中華世界班、社会班)と、1回は特定領域研究「南アジアの構造変動とネットワーク」の世界システム班と合同で開催し、学際的研究を進めた。また、第5回研究集会において「アジア太平洋世界と中国」セッションを主宰し、班の研究成果を領域研究全体で共有するよう努めた。3年間の研究活動の結果、次のような共通認識を持つに至った。(1)冷戦の終結は、米ソ中3極構造を崩壊させ、中国を「地域化」させた。中国の影響力および経済関係は、アジア太平洋地域にほぼ限定され、その外交戦略もまた、近隣のアジア諸国との関係緊密化によって、平和な環境を維持し、アメリカの「脅威」に対処するものである。(2)東南アジア諸国には新たな「中国脅威論」が浮上しているが、これは、中国の「建設的関与」促進によって緩和可能と考えられていること、華人はもはや争点でないことの2点において、冷戦期の「脅威論」とは質的に異なっている。(3)経済的には、香港・台湾を含む華人ネットワークが中国の発展の重要要因となっている。とくに、広東・福建の僑郷(香港住民・海外華人の出身地区)の発展は、ほぼ全面的に彼らに依存してきた。このため、北京も僑郷地区も海外華人との連係強化に懸命である。(4)これらの動向は、いずれも何らかの構造的変化を示すものであり、1997年の香港返還およびアジア経済危機がさらなる構造変動を促すことかどうか注目される。
著者
横畑 泰志 金子 正美 横田 昌嗣 星野 仏方
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

航空写真(1978年)および高解像度人工衛星イコノス(2000年)、Quickbird(2004、2006年)およびALOS(2007年)の衛星画像を分析した。1978、2000、2006年の画像を用いて3次元立体化画像の観察と裸地面積の推定を行い、裸地の増加や崖崩れの発生などの状況を具体的に把握した。ALOS画像による植生指数値(NDVI)の分布の分析により、裸地化に至っていない森林にもヤギの影響が及んでいることが示され、場所ごとの違いが把握された。これらの結果とヤギによる変化のなかった時期に作成されていた植生図(新納・新城、1980)との比較照合によって、ヤギの影響を特に強く受けている植生区分が特定された。以上の研究成果は第55、56回日本生態学会、第31回日本土壌動物学会、第14回日本野生生物保護学会で発表され、論文などで公表されたほか、今後さらに学術論文として順次公表してゆく予定である。本研究の成果は、新聞、テレビなどのマスメディアでも繰り返し取り上げられ、関心を呼んだ。本研究の成果発表にともない、2008年3月に石垣市議会が政府に野生化ヤギの対策を要請している。
著者
國光 洋二
出版者
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

バイオエタノールの生産、利用は,温室効果ガスの削減,エネルギー自給力の向上、農村地域振興,といった効果が期待できる反面、食料との競合のような問題も指摘されている。本研究では,東アジア諸国においてバイオバイオエタノールの生産、利用の経済面・環境面の波及効果を産業連関モデル及び動学応用一般均衡モデルを用いて分析した。分析結果から、生産プラント建設投資段階に加え、プラント建設後のバイオエタノール生産段階でも、投入費用の2倍前後の生産誘発効果が期待できること、ガソリン価格と同等レベルの生産費用を実現可能な第2世代のバイオエタノール生産は、食料との競合を回避して、国全体の所得の増加をもたらす経済効果が期待できることを明らかにした。
著者
清川 泰志
出版者
東京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

本年度に得られた成果の概要は以下の通りである1.警報フェロモン候補分子の絞り込み及び同定これまでの研究により確立した方法を用いて警報フェロモンを多数匹のドナーラットから放出させ、それを吸着剤(Tenax)に捕捉し、含まれる成分を3つに分画したところ、そのうち1つの画分においてのみフェロモン活性を有することが明らかとなった。次にその画分に含まれるメジャーピーク物質を全て揃えることで合成ブレンドサンプルを作製し、そのフェロモン活性を生物検定法により判定したところ、フェロモン活性は認められなかったため、警報フェロモン分子はマイナーピーク物質であることが明らかとなった。そのため上記画分をさらに3つに分画したところ、そのうちの1つにのみフェロモン活性が認められることが明らかとなった。現在、この画分に含まれている物質を分析しているところである。2.安寧フェロモン解析のための実験系の改良前年度に確立した安寧フェロモン評価系を用いて、安寧フェロモンに対する理解を深める目的で実験を行った。主嗅覚系で受容された安寧フェロモン情報は前嗅核へと伝達されることが示唆されているが、その後フェロモン情報が扁桃体へと機能的に伝達されているかは不明であった。そのため、前嗅核と扁桃体を非対称的に破壊することでこの問題を検討したところ、安寧フェロモン情報は前嗅核から同側の扁桃体へと機能的に伝達されることが明らかとなった。またトレーサーを用いることで、前嗅核が主嗅球からフェロモン情報を受け取っていることを解剖学的にも確認した。現在は、パートナー由来の匂い物質のみを提示することでこれまでと同様の現象を引き起こすことが可能であるかを検討することで、安寧フェロモン同定の基礎となる実験系を整備しているところである。
著者
植田 文明 松井 修 鈴木 正行
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

3テスラ、1. 5テスラ磁気共鳴装置による塞栓術後の脳動脈瘤の経過観察法の研究を行った。塞栓脳動脈瘤の評価に造影剤を使用したMRAの元画像による評価が再発・残存腔の遅い血流、瘤内血栓、さらに瘤壁の増強効果による瘤径の拡大傾向といった治療法の変更や再塞栓術につながる情報の提供をしていることを突き止めた。一方で明らかに不十分な塞栓に終わっているにもかかわらず瘤壁の増強効果を示さない症例も認められ、今後の課題となる。
著者
中坪 文明 矢野 浩之 高野 俊幸 佐川 尚 伊達 隆
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

バルクへテロ接合型有機薄膜太陽電池に用いられている p-および n-型半導体機能官能基担持させたセルロースおよびセルロースナノファイバー(CNF)誘導体からバルクへテロ接合型光電変換デバイスを作成し、そのエネルギー変換効率を測定した。その結果、CNF-ZnPc から作成したフィルムデバイスは低いエネルギー変換効率(0.0011%)ではあるが光電変換機能を示した。また、CNF-graft-poly-3-alkylthiophene から作成したフィルムデバイスのエネルギー変換効率は 0.025%(約 25 倍)に向上した。すなわち、CNF 担持 p-型官能基の構造を最適化することで、更なるエネルギー変換効率の向上が期待されると考えられる。
著者
安井 眞奈美 飯島 吉晴 齊藤 純 柿本 雅美 高橋 大樹
出版者
天理大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、近代における出産・育児の変容を明らかにするため、「奈良県風俗誌」と呼ばれる大正4年(1915)に編纂された史料の出産・育児に関する記述を翻刻し、分析を行なった。この史料は、奈良県教育会によって大正天皇即位大礼記念事業の一つとして実施された、民俗調査の膨大な報告書群である(未刊行)。本研究では、明治期から大正期にかけて、出産・育児習俗がいかに変容したのかを明らかにし、当時の出産観や子ども観についても考察した。
著者
伊達 聖伸
出版者
上智大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、フランスのライシテの歴史を批判的に見直す一方で、ケベックのインターカルチュラルなライシテの分析を進めた。その結果、政教関係の国際比較のツールとして、また新たな共生の原理としてライシテを再定式化するためには、ライシテの構成要素がさまざまな社会でどのように編成されているのかをとらえることが重要であることがわかった。また、日本の政教関係史をライシテの観点から読み解くための見通しが得られた。
著者
佐久間 路子
出版者
白梅学園大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、児童期中・後期の自己概念の発達を縦断的調査によって明らかにすることを目的に、小学校4~6年生を対象に質問紙調査を行った。その結果、4~6年生の間に、自己の捉え方が否定的になり、コンピテンスが低下することが、部分的に明らかになった。また6年生になると自己の肯定的・否定的側面への気づきが高まることが明らかになった。この結果を生かして、高学年における自己理解を深める授業実践について考察した。
著者
武田 はるか
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究は、現代作家サミュエル・ベケット(1906-1989)、マルグリット・デュラス(1914-1996)、ナタリー・サロート(1900-1999)の作品を分析対象に据え、三作家による多分野(小説、劇、映像等)に亘る「声」の表現の探究の独自性とその複雑な相互関係を、厳密な作品分析に基づいて解明し、文学における「声」の問題の重要性を明示することを目的とする。本年度は、言葉とイメージの関係を作家たちがどのように捉え、かれらが共通して、(1)なぜ抽象的な声の表現を必要としたのか、(2)かれらがいかにして声を(あるいは声をともなう言葉を)表現し、それがなにを可能にしたのか、以上の二点を基軸に、これまで個別に行った作品分析の成果を下地にした考察を展開した。かれらの作品を全体的かつ具体的に辿ると、言葉によるイメージの表現には(テクストであれ、映像作品であれ)、共通して、言葉への強い執着と紙一重の懐疑が出発点としてあり、それが、かれらの作品に、断片的で輪郭の不確かなイメージを、頻度を高めながら繰り返させる。この点に着目し、(1)そこにどのように声の問題がかかわっているのか、(2)書かれたテクストにおける声の扱い方と、劇や映画における物質的な声を扱う実験的試み、これら異なる声へのアプローチが、いかなる共通の一貫した意図によって進められたのかを明示し、(3)さらにはその意図が、晩年の作家たちを、いかなる声のエクリチュールに向かわせたのかを、とりわけ自伝的・伝記的要素の独特の組み込み方に着目しながら分析した。この過程に、作家ごとの表現方法の変遷と、その差異を明確化することで、かれらの作品が、いかに必然的なかたちで記憶の問題に結びついているのかも明らかになった。「声」の問題は、アウシュヴィッツ以後の世界ゆえに生じた問題として検討する視点が立てられるが、本年度は、ジャック・デリダやモーリス・ブランショの声にまつわる議論の再検討を詳細に行うことで多くの示唆を得、戦後文学という時代性のみに思考を還元せず、エクリチュールと記憶の問題に根底的にかかわる問題として、声にかんする哲学的な考察をより自由に展開できる足場ができたため、作家たちの試みを単純化することなく、より広い視点からとらえなおし、かれらの文学のありかたを通して、文学とはなにかを問い直すことができるようになった。学術振興会の研究員に採用され、補助金を受けることで、研究指導の委託の制度によって、パリ第八大学のブリューノ・クレマン教授のもと、フランスでの研究を進めることができ、また、これに付随して、フランス国立図書館およびフランス国立視聴覚研究所(INA)、そして、イギリスのレディングにあるアーカイブでのベケットの映像資料の調査を行うという、日本ではできなかったことが可能になり、非常に大きな意義があった(費用は学術振興会の研究遂行費でまかなった)。非常にコーパスの広いテーマ研究であるため、補助金交付期間終了後も、引き続き、残された課題を遂行し、発表していく必要がある。期間中、研究資料のひとつであるデュラスの短いテクストの翻訳を水声社刊行の『水声通信』(28号)にささやかながら寄稿することができた。また、日本での資料調査のために一時帰国した際には、指導教官からの提案を受け、所属する大学院フランス文学科の修士以上のすべての学生・研究者を対象に、本研究にかんする四十五分間の発表をする貴重な機会を得た。さまざまな時代・作家を扱う専門家たちを対象に、一般的かつ専門的な内容の発表を行ったことで、テーマ研究のひとつの可能性を打ち出すことができた。以上の翻訳および発表は、学会や雑誌への公の研究発表ではないため、項目11の欄には未記入だが(なお、同じ理由から、帰国費用は私費によった)、個別作家研究が主流の日本の研究者たちに、テーマ研究の可能性、重要性をうったえることができたという意味でも重要な意義を持ったと考えている。今後、より正式な形での発表を行うことを強く希望している。
著者
松崎 克彦
出版者
東京工業大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

低次元トポロジー、擬等角写像の理論、タイヒミュラー空間論、双曲幾何学を使いながら、双曲的3次元多様体の剛性定理、離散群の極限集合上の作用のエルゴード性の研究、リーマン面のタイヒミュラー空間および射影構造の研究に関して成果をあげた。[1]では、リーマン面の射影構造を、展開写像のSchwarz微分により正則2次微分の空間として表現するときのいくつかの注意をあたえた。[2]では、グリーン函数を持たないような双曲的リーマン面に対応するフックス群の特徴づけに関するレビューをした。フックス群のMostow剛性についてのAstala-Zinsmeisterの定理の簡単な証明も紹介している。[3]では、非定数有界調和函数を許容しないリーマン面を、その正規被覆に対応するフックス群の保存性に関する条件で特徴づけた。[4]では、リーマン面のタイヒミュラー空間を普遍タイヒミュラー空間内に実現したとき、面積有限なリーマン面のタイヒミュラー空間の埋め込みが基点の変化に対して離散的であることを証明した。[5]では、有限型リーマン面の射影構造で展開写像が被覆となっている表現に対して、モノドロミ-表現の核が一致するとき、それらの表現は展開写像の像の間の等角写像で共役の関係にあるという基本定理を証明した。[6]では、有限生成クライン群間の代数的同型が幾何学的に誘導されるためのシャープな条件を与えている。但し、論文の番号は上の表に並べた順番にふられている。
著者
山本 興太朗 綿引 雅昭 田中 歩
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

植物の茎の伸長や屈曲を引き起こすオーキシンの分子機構をシロイヌナズナで研究した。その結果、オーキシンによって発現するMSG2 遺伝子が、伸長や屈曲が起こりすぎないように抑制的に働くことを明らかにした。一方、屈曲に働く新規遺伝子LAZY1を単離した。屈曲では屈曲に特異的に働くオーキシン輸送体が存在することが知られているが、LAZY1 はそれらとは別経路で屈曲を調節していることを明らかにした。