著者
松田 直樹 二又 政之
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

時間分解ITO-SOWG分光法を開発し、ITO電極上にチトクロームcを吸着させ、ITO電極にパルスポテンシャルステップを印加し、酸化体と還元体を交互に生成させながら2ミリ秒ごとに吸収スペクトルの連続測定を行った。得られた吸収スペクトルでの時間依存吸収強度変化から時定数を求めたところ、チトクロームcとITO電極間の電子移動反応は10ミリ秒程度で終了しており、速度定数はk=100[s^<-1>]と概算された。
著者
片山 忠久 堤 純一郎 須貝 高 石原 修 西田 勝 石井 昭夫
出版者
九州大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1988

夏期の都市熱環境における水面・緑地の効果に関し、実測調査を主とした総合的な研究を行い、以下のような成果を得た。1.海風の冷却効果に関して、風向・風速と気温の3地点同時の長期観測を実施した。陸風から海風への変化により、気温上昇の緩和あるいは気温の低下が認められ、海岸からの距離によって異なるが、平均的に3℃程度に達する。2.河川上と街路上における熱環境の比較実測を行った。河川は風の通り道としての役割を果しており、その水面温度も舗道面温度などに比較して最大30℃程度低い。その結果、海風時の河川上の気温は街路上のそれに比較して低く、その気温差は海岸からの距離により異なるが、最大4℃に達する。3.満水時と排水時における大きな池とその周辺の熱環境の分布を実測した。池の内部と周囲には低温域が形成されており、その外周200〜400mまでの市街に対し0.5℃程度の気温低下をもたらしている。その冷却効果は池の風上側よりは風下側により広く及んでいる。4.公園緑地内外の熱環境の分布を実測した。公園緑地内はその周辺市街に比べて最大3.5℃低温である。また公園緑地内の大小に依らず、緑被率、緑葉率に対する形態係数が大きくなれば、そこでの気温は低下する傾向にある。5.地表面の粗度による風速垂直分布および地表面温度分布を境界条件として、LESとk-ε2方程式モデルを用いて2次元の市街地風の数値シミュレ-ションを行い、市街地の熱環境を数値シミュレ-ションにより予測できる可能性を示した。6.建物の形状や配置を考慮した地表面熱収支の一次元モデルを作成し、都市の大気境界層に関する数値シミュレ-ションを行い、接地層の気温の垂直分布について実測値とよく一致する結果を得た。建物高さ、人工廃熱、水面・緑地の面積率などに関してパラメ-タ解析を行い、都市の熱環境の定量的な予測を行った。
著者
都司 嘉宣 中西 一郎 佐藤 孝之 草野 顕之 纐纈 一起 西山 昭仁 行谷 佑一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

およそ100年ごとの間隔で発生していることが、歴史記録から判明している東海地震・.海地震、三陸沖の巨大地震、およびそれらに誘発されたと考えられる内陸直下の地震について、歴史記録の収集、現地調査、および理工学的考察を経て、発生機構にいたる研究を推進した。海溝型巨大地震として1707年宝永地震、1854年安政東海・.海地震、および古代に発生した869年貞観三陸地震などを検討した。内陸直下の地震としては1596年文禄豊後地震、1828年文政越後三条地震、1812年文化神奈川地震、1855年安政江戸地震などを研究した。
著者
堀井 悟志
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では,日常的な予算管理実践からどのように新製品開発戦略が創発するのかを実践論的研究によって検討した。その結果,集約的財務指標,新製品開発の短期化のもとで予算管理プロセスを議論の場として用いることで,会計と行動計画のリズムの調和の乱れをきっかけに戦略的適応,製品イノベーションが可能になっているだけでなく,予算管理プロセスが新製品開発の基礎である人的資本の構築の場を提供し,組織能力を向上させていることが明らかになった。そのうえで,予算管理の運用においては管理会計リテラシーが重要であることを指摘した。
著者
黒坂 愛衣
出版者
専修大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

・引き続き,被差別部落出身者,ハンセン病病歴者およびその家族,トランスジェンダー,レズビアン,中国帰国者といったインビジブル・マイノリティの聞き取り調査を重ねた。さらに,ハンセン病療養所をフィールドワークし,当事者との関係の構築を図ってきた。・蘭由岐子『病の経験を聞き取る』(2004年)以降,社会学の文脈では,ハンセン病病歴者の姿が隔離政策の「被害者」としてのみ描かれることが批判され,彼ら/彼女らの「生活者」としての姿をとらえるべきだという主張がなされてきた。しかしながら,ともするとそれは,被害を訴える病歴者と,国に感謝する病歴者とを,対立的に位置づけることにつながった。「隔離政策の被害を訴える」語りと,「国に感謝する」語りが,じつは,両方とも隔離政策の力によって生み出されていること。同様に,園内での堕胎について,「意志に反して堕胎させられた」という語りと,「みずから進んで堕胎した」という語りがあるが,これも,両方とも,優性政策の力の強さを示すものであることを,語りの分析によって示した。・群馬県にある国立ハンセン病療養所・栗生楽泉園の入所者自治会が中心となって作成される『栗生楽泉園入所者証言集』編集委員会の一員として,8月から原稿作成作業に専心してきた。これには,ぜんぶで51人の入所者の証言,および,家族や園の元職員らの証言が掲載される予定である。入所者の平均寿命が80歳を超えた現在,これだけの数の当事者の語りを記録できることは,今後はそうそうないことであり,貴重な歴史的資料をつくる営みに参画できた。わたしも編者のひとりであるこの証言集は,2009年夏は出版予定である。
著者
渡辺 裕
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、日本の民謡を題材に、地方文化において伝統芸能の「保存」活動が行われる際の「伝統」の表象や地域文化の表象のありよう、その地域アイデンティティ意識との関わりについて考察しようとするものである。当初は、現地における文献調査や聞き取り調査を通じて、その表象のあり方にみられる「中央」と「地方」との温度差を浮き彫りにしてゆく計画であったが、途中からは、そのようなあり方を生み出す媒介としてメディア、観光、文化運動などの要因が大きな役割を果たしていることが認識されるにいたったため、それら諸要因の絡み合いから生じる様々な力学のありようや、それらが芸能の伝承や保存に関わるプロセスやメカニズムを解明することに焦点が移行した。そのため、民謡だけでなく幅広い対象をとりあげてレコード・メディアや観光産業の関与のあり方を捉える一方で、民謡に関してはそれを応用した形でいくつかの問題をトピック的にとりあげて考えてゆくという形をとることになった。とりわけ、当初「国民文化」として位置づけられていた民謡が「地方文化」として捉えられるようになる上で、昭和戦前期の「旅行ブーム」が大きな役割を果たしたこと、他方で、民謡を「国民文化」の基礎にすえる考え方が戦後にも引き継がれ、それがレクリエーション運動やうたごえ運動などの文化運動と結びついて機能しており、それが今日とは異なる民謡の「保存」や「伝承」のあり方を生み出していたことなどを明らかにしえた。なお、現在まだ未定稿の状態にあるいくつかの論考を完成させた上で、本研究の成果は本年中には単行本として公刊される見通しである。
著者
平田 俊博
出版者
国立大学法人山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

現代の日本において、どのようにして死刑制度について国民的合意が可能か、をカント倫理学に立脚して市民レベルで究明した。そのために、生者と死者の相関関係の3様態に基づく近代倫理の3区分という新機軸の構想を導入することによって、殺人行為の3領域を明らかにした。つまり、行為者に定位する功利主義的な近代法、行為とその動機に定位するカントの義務倫理、行為の結果に定位する前近代の宗教倫理である。
著者
西村 ユミ 前田 泰樹 前田 泰樹
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、看護場面として急性期医療の現場に注目し、そこでの実践がいかに成り立っているのかを記述することを目的とした。研究期間内においては、おもに、患者の苦痛の理解という実践に注目した。看護師たちは、観察や評価に先立って、患者の痛みの経験を理解しはじめていた。この理解は、患者の痛みに応じようとする行為的な感覚や、具体的な行為とともに成り立っていた。そして、この行為を交換することによって、看護場面における協働が達成されていた。
著者
白川 友紀 鈴木 敏明 鴫野 英彦 佐藤 博志 長澤 武 武谷 峻一 加茂 直樹 山岸 みどり 夏目 達也 渡辺 公夫
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

本研究では各大学における教育目標、教育方針、アドミッションポリシーと中等教育の多様性の適合度を明らかにしたいと考え、入学者受入方針等に関する調査を行うとともに、AO入試の実施状況、オープンキャンパスにおける高校生に対する情報提供の現状と課題、専門高校および総合学科高校出身者の大学受入の現状、ならびに入学者の志望動機等に関するアンケート調査などを実施した。また、専門高校、総合学科高校、SSHと高大接続、総合的な学習と高大接続などの高校での学びの多様化と大学入試について研究会を開催し、話し合った。モデル化も行う予定であったが、この数年でAO入試実施大学が急激に増加し、そのアドミッションポリシーも新たに独白性を持ったものが増えており、今後さらに増加すると予想されるため、静的なモデルではあまり意味がないと考え現状分析を行った。今後、時代の変化に応じた新しい入試や大学進学を扱う、環境適応能力を表現できる動的なモデルを考える必要があると思う。アドミッションポリシー、入学試験や合格者への調査は本研究のメンバーによって大変精力的に行われ、大きな成果があったと考えている。一方、入学後ある程度の時間を経た学生や大学側の満足度のような指標の調査はあまり広く実施できなかった。複数の大学で共通のアンケート調査を実施して卒業研究評価を試み、幸い九州大学と筑波大学の2大学で実施した結果を平成18年度の入研協で報告できることとなったが、このような共同研究は大学間の調整の困難さだけでなく、アドミッションセンターと学部や学科との間の調整がかなり困難であるらしいことも分かった。海外調査はSARSの影響で平成16年度以降に行った。欧州の調査は行えなかったが本研究メンバーが他の研究費で行ったフィンランド等の調査結果について本研究のミーティングで知ることができた。本研究では米国、オーストラリア、中国、台湾の調査を行い、各国で入試の多様化が進んでいることが分かった。「理科離れ」について、理科教育を熱心に行っている教員や学芸員、SSHの教員との研究会を開催してAO入試との関連について話し合った。総合的な学習で理科が好きになる、総合的な学習の時間を減らして理科の時間を増やすべき、などの意見があった。しかし、私見であるが、実践されている授業内容に大きな違いは無いように思われ、また、理科離れは科学振興という社会の要請と生徒や学生の個人の幸福が結びついていないというところにも問題があると思われた。さらなる研究が必要である。本研究の成果は、平成15、16年度中間報告書とシンポジウム論文集ならびに成果報告書の4部に収録した。
著者
佐藤 嘉夫 浜岡 政好
出版者
岩手県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

超高齢化が進行する中山間地域の集落自治会への住民の期待と参加意識は高いが、限られた地域資源と人材不足から、軽度の見守りやサロン活動等は、広くおこなわれているが、集落の共同事業とは異なる性質を有する個別援助活動は広がっていない。伝統的家族規範が支配的な中で、集落自治会の福祉的機能を高めるためには、ローカル・ガバナンスの視点に立った、地域福祉のメインシステムとサブシステムの連結を図る「新たな公共」の創出が不可欠である。
著者
梅村 雅之 中本 泰史 朴 泰祐 高橋 大介 須佐 元 森 正夫 佐藤 三久
出版者
筑波大学
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2004

宇宙第一世代天体の誕生は、宇宙全体の進化、銀河の誕生、重元素の起源を解き明かす上で根源的な問題である。本計画の目的は、宇宙第一世代天体形成過程について、超高精度のシミュレーションを行い、その起源を解き明かすことにある。そのために、天体形成シミュレーションの専門家と計算機工学の専門家が、緊密な協力体制の下に重力計算専用ボードBlade-GRAPEを開発し、これをPCクラスタに融合させた宇宙シミュレータFIRSTを開発した。FIRSTは、256の計算ノード、496CPUからなり、2つのファイルサーバをもつ。また、分散したローカルディスクから一つの共有ファイルシステムを構築するGfarmシステムが導入されており、総計22TBのファイルシステムをもつ。FIRSTの総演算性能は、36.1TFLOPSであり、内ホスト部分3.1TFLOPS、Blade-GRAPE部分33TFLOPSである。また、主記憶容量は総計1.6TBである。このような融合型並列計算機の開発は、世界でも例を見ないものである。FIRSTを用いてこれまでにない大規模なシミュレーションを実行した。その結果、次のような成果を得た。(1)宇宙第一世代天体形成のダークマターカスプに対する依存性の発見、(2)初代星に引き続いて起こる星形成への輻射性フィードバックの輻射流体計算とフィードバック条件の導出、(3)紫外線輻射場中の原初星団形成シミュレーションによる球状星団形成の新たな理論モデルの提唱、(4)3次元輻射輸送計算による原始銀河からの電離光子の脱出確率の導出、(5)銀河団合体時の非平衡電離過程効果の発見、(6)アンドロメダ銀河と衛星銀河の衝突による“アンドロメダの涙"のモデル提唱。中でも(1)は、過去の他グループの計算に比べて2桁以上高い質量分解能を実現することによってもたらされたものである。この計算によって、従来の第一世代天体に対する描像に見直しが必要であることが明らかとなった。
著者
青山 潤 佐藤 克文 吉永 龍起 マイケル ミラー
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

ウナギ資源変動機構の解明のため、小規模な産卵回遊を行っている熱帯ウナギ(A. celebesensisとA. marmorata)仔魚の接岸回遊およびインドネシア・スラウェシ島における下りウナギの降河回遊生態を調べた。その結果、ウナギ属魚類ではおよそ70年ぶりとなる新種(A luzonensis)の記載も行うとともに、熱帯ウナギの降河・繁殖生態に関わる重要な知見を得ることが出来た。
著者
本庄 武
出版者
一橋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

19年度は、第1に国内において、量刑が争点となる実際の裁判でのあるべき弁護活動、並びに裁判員制度の下でどのような対応策を検討しているかについて聴き取り調査を行った。また、裁判員制度の下での量刑評議をどのように行うことが想定されているか、模擬裁判でどのような取組みがされているかについて文献研究を行うと共に裁判実務家の意見聴取を行った。以上の検討を踏まえ、特に評議における量刑相場(量刑傾向)の扱われ方をチーマに研究会で報告を行った。第2に、裁判員制度の対象となる少年の刑事裁判における量刑及び家裁への再移送のあり方につ.いて従来の研究を発展させ、学会で報告を行った。またその成果の一部として、判例評釈を執筆した他、論文を執筆中である。第3に、アメリカ合衆国マサチューセッツ州における量刑の実情について実態調査を行うと共に文献研究を行った。マサチューセッツ州では、連邦とは異なり、拘束力のない量刑ガイドライン制度を採用しており、量刑の統一性と個別的妥当性を両立させるシステムとなっており、連邦量刑ガイドラインに対してなされているような、硬直的で個別的妥当性を犠牲にした量刑となっているとの批判を回避し得ており、裁判員制度の下での量刑を考える上でも極めて示唆的であった.第4に、アメリカ合衆国連邦最高裁の近時の量刑に関する判例の研究を行うと共に、現地の研究者との間で意見交換を行った。連邦最高裁では裁判官の量刑裁量を拡大する方向での判決を相次いで下している。この動向は、ガイドライン制度の下で量刑の統一性乏個別的妥当性を両立させるというマサチューセッツ州の制度と方向性を同じくしており、非常に興味深いものである。以上の日米の動向についての調査に17-19年度の調査の成果を踏まえ、20年度論文を執筆する予定である。
著者
山崎 文雄 小檜山 雅之
出版者
千葉大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

研究代表者らは地震時の車両走行安定性に関して,数値解析とドライビングシミュレータを用いた走行実験を行い定量的な検討を行ってきている.その結果,地表面地震動の計測震度が6.0程度に達した場合,震動の影響で走行車線をはみ出す被験者が多く見られ,周囲の交通状況によっては他車との接触事故を起こす可能性があることが示された.そこで,気象庁などが導入を検討している地震動早期警報である緊急地震速報の高速道路ネットワークへの応用を目指し,運転者に地震動早期警報が与える影響をドライビングシミュレータを用いた走行実験で検討した.1995年兵庫県南部地震における地震データ,観測点位置などをもとに,現在運用が検討されている地震動早期警報をシミュレーションしたところ,最も震源に近傍なJR西明石観測点でP波検知を行い,「0次情報」が発信されたと仮定すれば,JR宝塚付近では主要動到達前に約5.9秒の余裕時間があることが分かった.したがって,JR宝塚観測点における兵庫県南部地震の地震記録を地表面地震動とし,早期地震情報を運転者に伝えるためのシステムの作動時間を考慮に入れ,主要動到達5秒前から3秒間の減速及び路肩への侵入を促す音声通報を地震動早期警報として運転者に提供した.地震動早期警報の有無で地震時の車両走行の様子を比較すると,早期警報を行わなかったときは走行車線をはみ出したり,車線内を蛇行して走行する被験者が多かったが,早期警報を与えると蛇行走行は見られなくなり,走行速度が120km/hのときは,警報開始時から300m程度車両が進むとほとんどの被験者が路肩に待避を始めていることが分かった、震動による道路変状を想定し,自車前方の障害物回避の対応状況を地震動早期警報の有無で比較した.その結果,地震動早期警報が行われない場合は回避困難な位置(11名中9名が障害物に衝突)にある障害物に対して,早期警報の効果で11名の被験者のうち9名が回避に成功した.
著者
斎藤 誠
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

科学技術にかかわる法的諸問題を発見し、解決するための科学技術法という法分野の体系形成において、重要な領域を占める責任法領域の体系化を目的とする本研究において、研究最終年度である本年度は、民法改正論議における、一般不法行為法の改正論の動向を踏まえながら、科学技術の利用に起因する事故における、民事・行政責任の成立要件につき、検討を行い、以下のような新たな知見を得ることができた。(1)科学技術を利用する組織において、安全性の確保に向けて、どのような内部組織を置き、どのような手続を踏まえたかは、民事責任の成立要件としての「過失」の判断において大きな要素になるのみならず、利用にあたっての許認可等をなした行政において、そのような内部組織・手続の整備を許認可の要件として要求していたかどうかが、行政責任の成立要件としての「違法」判断の基準となる。(2)安全性確保のための内部組織については、科学技術の利用自体にあたる内部部局からの分離・独立性の確保が重要であり、この点に関しては、地方自治体における専門的な監査組織・機能の行政・議会からの独立性を強めるべきであるという議論が参考になる。(3)内部的な組織・手続の整備を、過失要件の具体化という形で明文で規定するかどうかについては、科学技術にかかわる諸活動において、無過失責任を特別法で規定している分野(原子力損害賠償)における取扱いにも考慮した上で、一般法としての規定化が検討に値する。
著者
長谷川 公一 青木 聡子 上田 耕介 本郷 正武
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

「持続可能な都市形成」が議題設定され、NGOメンバーなどの間で社会的な認知が進み、政策決定過程にフィードバックし、形成・遂行された政策がどのように中・長期的な波及効果をもちうるのか。本研究は、ソーシャル・キャピトルをもっとも基本的な説明変数として、環境NGOメンバーと地域社会に対するその社会的効果を定量的に分析した。都市規模・拠点性などから仙台市、セントポール市(米国)に拠点をおく環境NGOの会員を対象に行った郵送調査結果の分析にもとづいて、仙台市の環境NGOのソーシャル・キャピトル的な性格・機能の強さに対して、セントポール市の環境NGOは、政策提案志向型の専門性の高い団体を個人会員が財政的に支援するという性格が強く、ソーシャル・キャピトル的な性格は弱いことが明らかとなった。
著者
坪郷 實
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究では、社会民主党と90年同盟・緑の党との連立であるドイツ・シュレーダー政権の政権政策を比較政治の観点から調査し、分析を行った。特に、2002年連邦議会選挙の分析と、第一期(1998-2002年)の政権政策の分析に重点をおいた。シュレーダー首相とフィッシャー外相は、2002年9月の連邦議会選挙において辛うじて再選された。最大の課題としてきた失業者数の削減を果たせなかったことが、辛勝の理由である。有権者は、赤と緑の連立に「第二のチャンス」を与えた。本政権の再選は、直前のスウェーデンにおける中道左派政権の継続とあわせて、ヨーロッパレベルでの中道左派政権の退潮に歯止めをかけたものと位置づけられる。シュレーダー政権は、経済・財政政策では、緊縮財政政策をとっているが、雇用政策において成果を挙げられないでいる。社会保障制度の改革の課題も大きい。現在「アジェンダ2010」という改革プロジェクトが継続しているが、改革には負担が伴い、有権者の支持を得ることは困難であり、政権への支持は低迷している。他方、赤と緑の「政策革新」の領域である「多文化社会」をめぐる政策、脱原発と新しいエネルギー政策、エコ税制改革、「ジェンダーの主流化」への動きについては、一定程度の成果をあげている。さらに、「新しい政治スタイル」として合意形成の手法の重視も指摘できる。また、経済政策、環境政策、社会政策の総合化を目標にする「維持可能性の戦略」も注目される。社会民主党は、「社会的公正」の現代的理解を初めとして、新しい基本綱領について議論を継続している。シュレーダー政権は、中長期的見通しのある政権政策の形成と、有権者の多数派を獲得する政治戦略の形成を課題としている。
著者
木部 暢子 中島 祥子 太田 一郎
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1994

鹿児島地域における「地域共通語」の実態を明らかにするために、在来の方言形で現在でも若年層に使用される語、在来の方言形とも共通語形とも異なる語、鹿児島特有の文法現象、言語意識、社会意識を調査した。調査地点は鹿児島市、枕崎市、都城市である。鹿児島市調査(平成6年度実施)では以下のことが明らかになった。(1)ケ-(質問)、ガ(伝達の文末詞)は在来の方言形であるにもかかわらず、若年層で使用率が伸びている。また同じく方言形のワッゼ(大変)、ナオス(片付ける)、ハワク(掃く)は全ての層で高い使用率を保っている。(2)高年層・中年層ではこれらの語を方言と意識せずに(共通語と思って)使用しているケースが多いが、若年層では方言と意識して使用するケースが多い。(3)若年層に広まりつつある新語形にはナカッタデシタ(なかったです)、デスヨ・ダヨ-(相槌)、ヤスクデ(安価で)などがある。(4)〜ガナラン(不可能)、カセタ(貸した)、ネッタ(寝た)などの鹿児島特有の文法現象は若年層で使用率が急に下がり、特に若年女性では共通語化が著しい。これを枕崎市調査・都城市調査(平成7年度実施)と比較すると、以下のようなことが明らかになる。(5)枕崎市・都城市では、上記(3)の語の使用率が鹿児島市に比べて低い。しかし世代ごとに見ると若年層では使用率が急に伸びており、鹿児島市で生まれた「地域共通語」が枕崎市や都城市の若年層にいち早く受け入れられている。(6)枕崎市では上記(4)の方言形を若年層でもまだ使用している。(7)都城市は枕崎市に比べると鹿児島市の影響を受ける度合いが小さい。しかし(5)で述べたように、若年層には鹿児島市のことばが確実に定着しており、いまだに鹿児島市の影響下にある。(8)これに関連して、都城市では予想した程には宮崎市のことばの影響を受けていない。
著者
奈良林 直 島津 洋一郎 辻 雅司 辻 雅司
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

スイスにおける原子力熱エネルギー供給システムの詳細調査を踏まえ、住民の要望や地域の要求を満たすシステムについての概念形成を地域住民と共同で検討し、北海道内3000世帯の中都市に原子炉からのエネルギー供給システムの検討を実施した。可燃性毒物としてガドリウムとエルビアを酸化ウランに混入することにより、10年間燃料交換なしで運転できる炉心が構成できること、1℃/5kmの温度降下で長距離熱輸送が可能なこと、神経・知能系を取り付けた原子炉機器による予兆検知実験とその解析シミュレーションを実施し、ポンプ、バルブ、炉内機器の異常検知が可能であることを明らかにした。
著者
西村 隆
出版者
大阪教育大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

論文「20世紀初頭のイギリスにおける義和団事件の表象」においては、1899-1901年頃に中国で起きた義和団事件が、当時のイギリスの主要なメディアである出版物においてどのように表象されていたか、そしてそれに基づいてどのような中国人(東洋人)のイメージが形成されたかを考察した。当時のイギリスで活躍していた文筆家たち、政治・経済学者J.A.ボブスンや冒険小説作家G.A.ヘンティ、小説家ショウゼフ・コンラッドの著作や雑誌『ブラックウッズ・マガジン』など、1901-1903年頃(義和団事件の当時や直後)に出版された資料を集め、中国人がどのようなイメージで表象されているかを具体的に分析した。当時のイギリスの論調が必ずしも「義和団憎し」「中国人は野蛮だ」という方向に偏っていたわけではなく、中国人が西洋列強の中国進出に対して憤るのも当然であるといった論調もあったこと、しかしながら全体として「中国人は高い文化を持ち、普段は穏やかだが、興奮すると凶暴になる」といったステレオタイプを広めるものが多く、義和団の暴動を説明する上でイギリスにとって都合のよいイメージが喧伝されていたことを明らかにした。