著者
中村 健二
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は,磁気変調型磁気ギアとモータ/発電機を融合した,磁気ギアードモータ・ジェネレータの開発を目的として,解析および実験の両面から種々の検討を行った。まず,アキシャルギャップ型とラジアルギャップ型の比較では,磁気ギアードモータの場合には偏平構造であってもラジアルギャップ型の方が性能が良いことが明らかになった。これは本来デットスペースとなるギア内側の空間に,モータを配置することができ,空間利用率が向上したためである。次いで,ラジアルギャップ型磁気ギアードモータの試作試験を行った。その結果,試作した磁気ギアードモータのトルクは要求トルクを上回ることが実証された。
著者
清水 慶子
出版者
岡山理科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

霊長類の生殖生理および配偶者選択におけるフェロモン作用やケミカルコミュニケーションについて調べた結果、チンパンジーの膣分泌物中のいくつかの物質が性皮の腫脹や月経周期と同期することが分かった。また、同所飼育のニホンザルにおいては、月経周期の同調が見られることが分かった。ニホンザルでは、射精を伴う交尾行動は排卵周辺期に限局されること、妊娠したメスではその後も交尾行動が見られることが分かった。さらに、交尾行動が観察された時は、糞中および尿中estrogen代謝産物の値が高いことが確認された。
著者
鈴木 雅夫 島田 二郎 村川 雅洋 深田 祐作 鈴木 雅夫
出版者
福島県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

マグネシウムは多くの酵素活性や細胞内伝達系において重要な役割を担う生体内で4番目に多い陽イオンである。本研究の目的は、マグネシウムの鎮痛効果とその機序を明らかにすることである。1.種々の予定手術患者を対象に、周術期の血清イオン化マグネシウム濃度を測定し、術式、手術時間、輸液量、出血量、尿量との関連を検討した。血清イオン化マグネシウム濃度は手術時間の経過とともに減少し、手術終了後徐々に回復した。血清イオン化マグネシウム濃度の減少は、体表手術や開頭術に比べて開腹術で大きかった。また、長時間手術、輸液・出血・尿量の多い手術で減少の程度が大きかった。2.帝王切開術後患者と婦人科手術患者を対象に、マグネシウム投与の有無による術後鎮痛薬の必要量の差を検討した。いずれの群においてもマグネシウム投与患者は、非投与患者に比べて、術後鎮痛薬の必要量が少なかった。3.雄性Wistar系ラットを用い、Neurometer CPT/Cによる疼痛閾値に及ぼすマグネシウムの影響を検討した。C線維を介する疼痛閾値はモルヒネ2mg/kgの腹腔内投与によって上昇したが、マグネシウム2mM/kg及び4nM/kg単独投与では変化せず、モルヒネとマグネシウムの相互作用も認められなかった。4.雄性Wistar系ラットを用い、ヒスタミン刺激に腰髄後角のc-fos発現を指標として、マグネシウムの鎮痛機構を検討した。c-fos陽性細胞は、ヒスタミン刺激と同側の脊髄後角側部に多く、I、IIそしてX層に主に観察された。ヒスタミン刺激側脊髄でのc-fos陽性細胞数は、マグネシウム150及び300mg/kg投与によって減少した。以上の結果から、周術期にマグネシウムを投与することは臨床的に鎮痛効果があり、この鎮痛効果は脊髄後角の二次求心性神経の反応抑制によることが示唆された。
著者
坪内 泰志 仁木 満美子 福田 隆志 八代 正和 瀬良 知央 金子 幸弘
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2021-04-01

スキルス胃癌に対して理想的な薬剤を発見するために、①深海・海洋性サンプルを微生物分離源、開発した微生物細胞剥離装置、及び生息環境-微生物群集構造の相関により構築した深海・海洋性放線菌ライブラリーを抗スキルス胃癌探索資源として、活性化合物候補を見出すこと、②多岐分類群の深海・海洋性放線菌が抗スキルス胃癌活性物質を生産する意義を、構造活性相関解析と作用機序解析の連関データの蓄積・比較により解き明かすこと、③独自に樹立したスキルス胃癌細胞8 株を用いた基礎病理学的解析を実施すること、そして④実用化へのシームレスな展開を視野に入れるためにオミクス解析を組み込む。
著者
趙 景達 佐藤 博信 久留島 浩 須田 努 慎 蒼宇 檜皮 瑞樹 小川原 宏幸 宮本 正明
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

近世の薩摩藩には、豊臣秀吉の朝鮮侵略の際に連行されてきた朝鮮人の村があった。苗代川である。本研究は、この村の歴史を近世から近代にかけて明らかにすることによって、幕藩体制の性格を地域から照射するとともに、民族差別の性格を長期的視野のもとに解明しようとしたものである。その結果、薩摩藩の分離主義的傾向と朝鮮人差別の近代的様相が明らかになった。
著者
長峯 岳司 永瀬 守 鈴木 一郎 中島 民雄 長峯 岳司
出版者
新潟大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

α型の燐酸三カルシウム(α-TCP)粉末は水との反応により、ハイドロキシアパタイト(HA)に転化し、常温で凝結硬化する事が知られている。この反応は酸の存在により促進するが、この凝結硬化のみでは硬化物は脆弱で人工骨としては利用し難い。私達は、この反応系に多糖体(デキストラン)を加える事により人工骨として十分な強度の硬化物を得るのに成功した。本材料はこの硬化の過程で形態付与が可能となり、付形成に優れているため、組織親和性も優れていれば臨床的な応用範囲はかなり広いものと考えられる。本研究では、この硬化物の組織反応について観察するとともにHA顆粒との複合剤としての利用も検討した。蒸留水とグルタール酸とデキストランを14:6:25の比率で混合し、これを多糖溶液とする。α-TCP粉末とこの多糖溶液を7:5の比率で混合し練和すると、2〜5分で硬く硬化する。この硬化の過程で形成を行う(TCPインプラント)。これを家兎の下顎骨外側の骨膜下に移植し1、2、4、12、24週後に屠殺し下顎骨を摘出、HE染色にて組織学的に生体反応を観察した。さらにこの材料とHA顆粒の複合材を家兎に同様に移植し、同様に組織反応を観察した(TCP-HAインプラント)。両者で活発な骨新生が観察され、グルタールや酸やデキストランによる阻害は殆ど観察されなかった。この材料は、人工骨として十分な強度を持ち、硬化の過程で形態付与が可能となり付形成に優れ、また本実験にて生体親和性も優れていることが観察され、いままで再建術等で用いられていたHA顆粒の欠点を補うものとして有用である事が確認された。
著者
森田 真史 糸満 盛憲
出版者
北里大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

1.αーTCPとDCPDの配合比と練和液の粉液比と圧縮強度および硬化時間ここで用いた燐酸カルシウムセメントは三菱マテリアル(株)によって開発されたαーTCP・DCPD系水硬性セメントである.DCPD10%,粉液比P/L=2.6で効果時間6分,最大圧縮強度は練和後,3日目で57.0MPaに達し,その後徐々に強度は低下することが平野らによって明らかにされている.2.練和セメントの粘度人工関節の固定または骨欠損部への充填材として本骨セメントを用いる場合,セメントの操作性のうち特に練和時における粘性と硬化時間が重要である.そこで,DCPD10%セメント粉末に対する粉液比を1,2,3の割合で練和し,硬化前の粘度を測定した.粉液比2程度が最も操作性がよいことが分かった.3.TCP顆粒混入によるセメント強度の改善効果ハイドロオキシアパタイト粉末((1)粒度1.0ー0.5mm,(2)粒度0.5ー0.3mm,(3)粒度0.3ー0.15mm,1200℃焼結)をセメント粉に5,10,20%それぞれ混入し,同セメント粉末をポリエチレングルコ-ス(PEG)30%を含む水2gに対して3.2gの割合で練和し,直径6mm,深さ12mmの圧縮強度測定試験片を作成した.強度はいずれもアパタイト不含のセメントの強度の50%以下であり,強度の改善は観られなかった.その原因として,アパタイト粉末とαーTCPの界面接着性に乏しいことが強度改善に結び付かなかった原因と思われた.4.家兎によるセメントの生体適合性評価大腿骨遠位端から2cm骨腿空を掻爬し,セメントを注入し,親和性を経時的に観察した.長期経過は現在観察中であるが短期の組織像では特に拒絶反応は認められない.
著者
全 泓奎 川本 綾
出版者
大阪市立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

近年、経済のグローバル化の進展に伴い注目されるようになった、多文化コミュニティに対する生活課題の解決への対応が求められている。本研究では、「多文化コミュニティワーク」という実践の重要性と、それにかかわる現状と課題を示すところに主眼をおきながら実施したもので、主な研究の成果は、以下の通りである。(1)東日本大震災当時の外国籍住民の現状と生活課題を明らかにしたもの。(2)大阪府下の多文化コミュニティでの生活実態を踏まえた地域資源の調査を実施し、多文化コミュニティワークとしての地域再生の実践を提案したもの。(3)台湾の例として、都市原住民コミュニティの生活実態を調べ、多文化共生の課題を探ったもの。
著者
築地 茉莉子
出版者
千葉大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

研究目的 : 治療抵抗性統合失調症の治療薬であるクロザリル(以下CLZ)は重篤な副作用の無顆粒球症を引き起こすことが知られ、アジア人では白人と比較して無顆粒球症の発現リスクが2.4倍であるという報告もある。血液毒性が発現する要因についてはいまだ解明されていないため、CLZの使用にあたっては白血球数のモニタリングが必須となっている。躁うつ病の躁状態改善薬である炭酸リチウム(以下Li)は、その副作用に白血球上昇作用を有する。千葉大学医学部附属病院(以下当院)ではCLZ投与患者においても、白血球減少を予防する目的で低用量のLiを使用しているケースが認められている。そこで本研究ではCLZ使用患者において、白血球減少をきたす要因ならびにLi投与による白血球増加の患者側の要因と白血球増多を目的としたLiの至適投与量を解明することを目的とした。研究方法 : 当院精神神経科においてCLZが投与開始となった症例について、患者背景、CLZ投与前後の白血球数〓iの使用の有無などを電子カルテより遡及的に抽出し、本年度は白血球減少をきたす患者の要因ならびにLi投与による白血球数の変動への影響の検証とその要因の検討を行った。研究成果 : 検討の対象となった症例は、2010年以降当院にてCLZが投与開始となった16例であった。このうちLiが投与された症例は10例であった。今回の検討により、CLZを投与された患者の白血球数は、長期的には減少傾向であったが、投与開始初期はCLZ投与前よりも白血球数が上昇する傾向が認められた。また、Liを併用した患者群のCLZ投与前の白血球数は、Liを使用しなかった患者群よりも低値であったことが明らかとなった。Liを併用した群では白血球減少の割合は軽度であったが、LiはCLZによる白血球減少を根治するものではなく、長期使用による副作用発現も懸念されることから、有効性と安全性の検証が必要であることが示唆された。
著者
張 慶在
出版者
広島大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2022-04-01

本研究では、東アジアの国や地域において(旧)軍港都市の観光地化が進められるプロセスについて、どのような社会・政治・文化の文脈が絡み合っているのかを明らかにする。具体的には、鎮守府が置かれ現在日本遺産となっている日本の旧軍港4都市(横須賀、舞鶴、呉、佐世保)、日本時代に開発され現在韓国海軍の母港となっている韓国の鎮海、日本時代から現在まで台湾海軍の中心となっている台湾の高雄において、軍港という表象が社会・文化・政治の文脈と如何に絡み合い、特に2000年代以降の地域の観光振興(観光地化)と如何に関連しているかについて分析・考察する。
著者
浅井 章良 小郷 尚久 村岡 大輔
出版者
静岡県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

抗PD-1抗体など免疫チェックポイント阻害薬の腫瘍微小環境における作用を妨げる要因のひとつとして、トリプトファン代謝酵素IDOとTDOを中心とするキヌレニン経路による免疫寛容が注目されている。研究代表者らは、これまでに独自の細胞系アッセイ系によって複数の阻害化合物を発見してきた。本研究ではIDOとTDOを標的とした創薬基盤の構築を目的として、IDO1/TDO二重阻害作用を有するS-ベンジルチオウレア誘導体の活性向上を達成し、作用機序解析に基づくドッキングモデルを構築し化合物デザインに活用した。IDO1/TDO二重阻害化合物の機能と有用性を検証するためのアッセイ系など創薬基盤技術を確立した。
著者
石黒 勝己
出版者
奈良県立橿原考古学研究所
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

宇宙線ミューオンによる墳丘内部の計測をすることで春日古墳の内部3D画像を作成、内部埋葬施設の検出や構造の解析をした。さらに結果を用いて周辺に存在する藤ノ木古墳と比較研究を行った。西乗鞍古墳では作成した画像を電磁探査による探査結果とも比較して埋葬施設位置の特定に役立てた。これらの測定は検出器である原子核乾板の弱点であった熱に弱く夏季の使用が難しいという点を技術開発によって克服したうえで行った。さらに改善点を生かしてこれまでに箸墓古墳及び日本の古い塑像の計測データも取得することが出来た。
著者
吉岡 太陽
出版者
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究の目的は、再生シルクタンパク質から天然シルクの力学物性に匹敵する強く丈夫な繊維を人工的に紡糸するための技術を確立することである。最初に、様々な天然シルクの階層構造を詳細に解析し、それらに共通するフィブリル階層構造の詳細を定量的に解明することで、人工紡糸で目指すべき階層構造の指針を明確にした。次いで、フィブリル階層構造の形成過程を調べ、絹糸腺内部でのナノフィブリル前駆体・自己組織化形成とその集合化を定量的に捉えることに成功した。これら天然シルクの構造形成に関する知見を紡糸技術に模倣・取り込むことで、天然繊維の力学物性に近付ける紡糸技術の改善を得た。
著者
山下 穣
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

間隔12.5μmの並行平板セルを作成し、その間にある超流動ヘリウム3のNMR信号を観測した。従来、このような間隔のセルの実験においては平行度のよいサンプルを作る事が困難であったが、我々は試料の材質、その加工方法を工夫することで平行度の良い試料容器を作ることに成功した。この結果、超流動ヘリウム3A相においてその秩序変数の方向を均一にそろえることに成功し、その回転変化を精密に測定することに成功した。回転下においてある回転数(〜1rad/s)以上ではNMR信号が変形し、静止下における信号の位置とは異なる周波数位置にNMRの共鳴信号が観測されることが分かった。この信号は並行平板間の秩序変数が回転による常流動速度場と超流動速度場の差により変形したことによるスピン波の信号であると考えられるが、その信号の周波数位置と秩序変数との関係はよくわかっていない。今回の実験では平行度の良いサンプルを用意できたことでこの新しい信号を精密に観測することができたので、数値計算との比較によってその理解が深まると考えている。また、2rad/s以上の回転数においては並行平板間に渦が入り、それが中心で集まっている事がわかった。また、こうしたNMR信号の回転変化は超流動転移温度を通過するときの回転数、磁場の大きさ、およびそれらが平行であるか、反平行であるかによって変化することが分かった。特に、回転(1rad/s以上)と磁場(27mT)の両方をかけた状態で超流動転移温度を通過した後の回転変化においては、常流動速度場による秩序変数の変形が観測できなかった。これは超流動転移温度における条件によって生成される渦が異なりその臨界速度の違いを反映している可能性がある。並行平板という境界条件においては渦量子が通常の1の渦とは別に1/2の渦の存在が予言されており、こうした特異な渦の生成を示唆している可能性がある。
著者
竹中 修 相見 満 竹中 修
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

本研究は各地の博物館に保存されている骨格標本や毛皮標本を形態学的に詳細に検討比較すると共に、皮革標本の一部の供与を受けDNAを抽出しミトコンドリアの一部の塩基配列を決定比較することを目的とした。まず、ライデン博物館に保管されているヤマイヌの毛皮標本と形態試料を入手することが出来た。ニホンオオカミについても大英博物館、北海道大学農学部附属博物館、和歌山大学教育学部、国立科学博物館のものを入手し、さらに石川県立七尾高校と愛媛県立博物館にも標本のあることが新たに判明した。後二者の資料は今回初めて明らかになったもので資料収集の面では当初予期した以上の成果を上げることが出来た。現在までに収集した資料はニホンオオカミ、エゾオオカミ、タイリクオオカミ、イヌの資料は、毛皮試料がそれぞれ、3点、3点、2点、1点で、計測資料それぞれ、10点、2点、16点、10点にのぼった。計測資料を多変量解析法の一種である正準相関分析法により検討したところ、タイリクオオカミとエゾオオカミがよく似ていること、イヌがそれらの近くに位置し、ニホンオオカミが離れたところに位置することが分かった。さらにヤマイヌとされているライデン博物館の3点の標本の内、b標本を除くaとc標本がニホンオオカミではなく、イヌではないかとの疑いが出てきた。毛皮を出発試料としたPCR法によりミトコンドリアのチトクロームb遺伝子を増幅し、直接塩基配列を決定することを試みた。最初約360塩基対の増幅では一試料を除き増幅できなかった。タンパク質のアミノ基が求核試薬として還元糖のカルボニル基を攻撃してシッフ塩基を経由してアマドリ転移生成物にいたるメイラード反応が試料の保存中に起こっている可能性があるが、DNAがさらに断片化している可能性も考えられるので、PCR法のプライマーを合成し直して現在増幅を試みている。
著者
堀田 和義
出版者
大谷大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

2年目は、ジャイナ教文献における断食死儀礼についての記述の解読作業を行った。まずは、断食死儀礼の実践が認められる条件について分析し、災難、飢饉、老齢、不治の病が中核的な条件であり、これら4つは必要に応じて減らされ、最少の場合にはそれらすべてを含む「死期が近付いた時」という表現になることを明らかにした。この分析のもとになった訳注研究は、詳細なクロスリファレンスを付して将来的に公開する予定である。また、ジャイナ教の綱要書Tattvarthadhigamasutraの注釈文献の記述に基づいて、断食死儀礼を行う者の心理に関する分析も行い、ジャイナ教徒から見た断食死と自死との相違を解明した。上記の作業と並行して、5種類のシュラーヴァカ・アーチャーラ文献、および、その理論的基礎を考察するための3種類の哲学文献の電子テキストの入力を行った。この検索可能な電子テキストは、インターネット上での公開を予定している。2年目の経過報告としては、2017年9月に花園大学で行われた日本印度学仏教学会において「地水火風は生きているか?―「ジャイナ教=アニミズム」説の再検討」という題目で、ジャイナ教徒の生命観を再考する報告を行った(発表内容は、2018年3月発行の『印度学仏教学研究』第66巻第2号に論文として投稿)。その他にも、2017年11月には、イギリスの雑誌International Journal of Jaina Studiesの第13巻第2号に"On Corresponding Sanskrit Words for the Prakrit Term Posaha: With Special Reference to Sravakacara Texts"と題する論文を投稿したほか、ジャイナ教在家信者の行動規範を考察するうえで比較が必要となる、ヒンドゥー教の格言詩と聖者伝の訳注も発表した。
著者
長岡 龍作
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、美術を、何かの代替物を意味する「表象」として捉え、超越者と人間との交感を意味する「感応」との関わりを探求した。そのために、(1)仏の感応そのものの表象、(2)仏の感応を呼び起こす場、(3)仏の感応を呼び起こす場の表象、の各柱を設けて調査ならびに分析をおこなった。(1)については仏像・絵巻・宗教説話、(2)については寺院や経塚の立地、(3)については庭園や屏風という具体的な事例を調査し、その成果に則して、美術の宗教的な機能の特性についてあきらかにした。
著者
蓮田 隆志 内田 力
出版者
立命館アジア太平洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

本研究は、1980年代以降の日本の中学・高校の歴史教科書に掲載されている朱印船貿易・日本町関連情報を記した図版を網羅的に収集する。その上で、記載内容の検討に留まらず、図版がどのような経緯をたどって掲載され、現在に至るまで流通しているのか、背景としての学界動向や学説史、教科書出版を取り巻く社会情勢の推移と関連させて明らかにする。
著者
奥野 利明
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

近年、腸内細菌叢(腸内フローラ)が様々な疾患に関わることが明らかにされ、腸内フローラと健康との関係が注目されている。腸内細菌叢が、多様な脂肪酸代謝物を産生することが明らかにされてきているが、それら脂肪酸代謝物の生体内における役割はほとんど明らかでない。本研究では、腸内細菌が産生する脂肪酸ライブラリーを用いてBLT2を活性化する新規脂肪酸を同定し、機能未知の新規脂肪酸代謝物の生理機能を明らかにする。