著者
大迫 政浩 山田 正人 井上 雄三 金 容珍 朴 政九 李 東勲 吉田 悳男 野村 稔郎
出版者
一般社団法人 廃棄物資源循環学会
雑誌
廃棄物学会論文誌 (ISSN:18831648)
巻号頁・発行日
vol.12, no.6, pp.256-265, 2001-11-30 (Released:2010-05-31)
参考文献数
30
被引用文献数
3 2

韓国では, 都市ごみ焼却主灰 (以後主灰と略す) からの鉛の溶出濃度が判定基準に適合しないために, 埋め立てできない状況に陥っており, 深刻な問題になっている。その原因を明らかにするとともに, 日本の主灰においても同様の問題が生じていないかを明らかにするために, 韓国の都市ごみ焼却施設に野積み保管されている主灰を採取し, 日本の施設からも主灰試料を採取して, 含有量試験, 環境庁告示13号法による溶出試験およびpH依存性試験を実施した。試験結果に基づいて, 日韓の主灰の重金属類含有量および溶出量を日本を中心にした文献データと比較検討した。その結果, 韓国の試料で鉛 (Pb) の溶出濃度が高い原因は, アルカリ・アルカリ土類金属の含有量が高く, それらの酸化物等の溶解によってpHが高くなったためであると考えられ, 文献データを基にした考察から, 日本の主灰でも同様の現象が起こっていることがわかった。韓国において埋立を法的に可能にするためには, 埋立前にエイジングを行う方法などが考えられる。日本では主灰に対する溶出基準はなく, 今後の埋立処分および有効利用の観点から適切な対策を講じる必要がある。
著者
丹羽 靭負 飯沢 理 赤松 浩彦
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.103, no.2, pp.117, 1993 (Released:2014-08-12)

最近のアトピー性皮膚炎(atopic dermatitis,AD)は以前と比べ成人の重症型が増加して来ているが,今回,過去2年間の197例の重症・難治型のAD患者について統計的観察を行い患者の種々の血清脂質値や活性酵素と生体内の脂質が反応して生成される過酸化脂質を測定し,更に生体の主たる活性酸素消去酵素であるsuperoxide dismutase(SOD)誘導能を測定した.結果は,入院患者の83%が13~30歳の年齢層に集中し,更にその90%以上が大都市在住の患者であり,皮疹の形態は,肥厚・苔癬化が強く,結節性年疹を全身に合併したものが多く,また,5%の白内障の合併が認められ,全例が治療に抵抗した重症型であった.検査結果は,成人AD患者では低比重のリポ蛋白(VLDL,カイロミクロン)が健康対照群に比して高く,また過酸化脂質値が増悪期に上昇し,一方患者白血球のSOD誘導能の低下が(軽快期,増悪期を通して)証明された.以上より,AD患者は体質的に細胞障害性の脂質が多く存在し,そこへ最近の環境汚染の増悪により,放射能,農薬,殺虫剤,化学薬品などが体内で活性酸素を増産させ,この活性酸素が,脂質と結合して過酸化脂質を形成する反応を,AD患者のSOD誘導能の体質的低値が一層促進させ,その結果,体内で組織障害性の過酸化脂質を増産させ,ADの病態の変化やその増悪をもたらしているものと推察された.
著者
Hisashi Koshino Toshihiro Hirai Yoshifumi Toyoshita Yuichi Yokoyama Maki Tanaka Kazuo Iwasaki Toshio Hosoi
出版者
Japan Prosthodontic Society
雑誌
Prosthodontic Research & Practice (ISSN:13477021)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.12-18, 2008 (Released:2008-02-22)
参考文献数
17
被引用文献数
19 40

Purpose: The purpose of this study was to reduce the number of food items for ease of use, and to eliminate the influence of food preferences (likes and/or dislikes) on an earlier version of the food intake questionnaire method for evaluating the ability of mastication in complete denture wearers which had been previously developed by the authors.Methods: The subjects were 262 complete denture wearers (average age: 76.7±6.1 years old, male: 128 persons, female: 134 persons). The food intake questionnaire composed of a list of 35 food items which were used in the study. All subjects were asked to assign a mark to each type of food according to one of five categories (easily eaten, eaten with difficulty, cannot be eaten, do not eat because of dislike, have not eaten since starting to wear dentures). In order to reduce the number of the initial 35 food items in the questionnaire, the correlation coefficient of the masticatory score, representing the masticatory ability before and after elimination of foods, was examined in all the subjects. The masticatory performance (MP) was also evaluated by a sieving method in all subjects.Results: In the questionnaire with 5 categories composed of 25 foods, the reliability coefficient (Cronbach’s α) was 0.939. There was significant correlation between the masticatory score using the 35 food item list and the new masticatory score using the new 25 food item list (r=0.95, P<0.01). There was significant correlation between the MP using the sieving method and the N-MS using the 25 food item list (r=0.62, P<0.01).Conclusion: It was confirmed that the new food intake questionnaire method, with a revised 25 food item list, was both valid and reliable.
著者
井黒 弥太郎
出版者
北海道地理学会
雑誌
北海道地理学会会報 (ISSN:21865418)
巻号頁・発行日
vol.1954, no.20, pp.87-94, 1954 (Released:2012-08-27)

さきに北海道開拓図 (昭25) と石狩平野のフロンティヤーライン (昭26) を報告したが、今囘さらに大谷地 (東米里) を例として、開拓の一面を述べてみたい。この地域は北海道地理学界にとっても、ゆかりの深いところであり、かつ刊行物に登載されることの多い土地の1つである。この母村白石は明治4年に成立したが、原野の「川下」に小池嘉一郎が造田を目的として入地したのが明治18年のことである。厚別川の流下した沃土が湿原の中に自然堤防を形成していたからである。以来周辺の開拓は駸々として進んだが、この湿原は容易に人を近ずけず、ようよう昭和27年に至って一応開拓を完了した。1896年図では「川下」水田地の外は一帯原始の面影を残しているが、1916年図ではようやく四周より水田化が進み、殊に明治39年山本厚三氏の計画村が延長1里にわたって楔入し、石狩湿原開拓の範を示した。1935年図では更に耕境の北進が著しい。この頃より石狩川の治水工事が着々進行し浸水の憂は去り、地下水位は低下してでい炭地は乾燥しはじめた。昭和21年この地を踏査したときは (開拓線図参照) 広い草原に道もなく、足もとの湿地に少からぬ危険を感じたが、草小屋が点々し鍬持つ人々も散見して開拓の気運が満ちていた。この頃から国の力がかつてない勢を以て、この近く札幌のビルディングを指呼する好位置に集中された。昭和27年にはその名も東米里となって区画整然とし、わずかの草地を残して生気に満ちた好農村となった。昭和20年以降のいわゆる開拓地に属する部分は約1050町歩で、内可耕地は840町歩、昭和27年まで約650町歩が耕成され、160戸860人が定着し、この年電燈も点じ、軌道客土も進行している。さらに北海道総合開発計画による豊平川河水統制が実現すれば全部開田する予定である。開拓は自然景観が文化景観に移行し終る過程をいう。これを明らかにするためには、原始景観を復原し、その地域の各年次景観 (その時代の地理的断面) をあつめて、総合観察することが基本的な仕事である。ここでは1896、1916、1935の3図を示した。昭和21、27は測図し得ないので、特に掲げることができなかつた。ここでは総合の1例として開拓線Frontier Lineを描いてみた。開拓は社会条件 (開拓営力) が自然条件を統制して居住圏を拡大することであるので、この地の最も重要な条件たる壌と洪水の図 (自然条件図) を示した, 他の諸図と対比せられて、その密関性を観察されたい。社会条件については、ところどころに若干触れておいた。この地域は全道的にみて、もとより狭小な面積に過ぎないにしても、80年にわたる住民努力のあとは決して簡単ではない。他日詳しく論ずるの機を得たいと思う。

1 0 0 0 OA 親屬容隱考

著者
中村 茂夫
出版者
東洋史研究會
雑誌
東洋史研究 (ISSN:03869059)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.676-696, 1989-03-31

In the history of Chinese law the origins of the law concerning the concealment of crimes by family members, according to which, those who conceal the crimes of their relatives are either exempted from criminal prosecution, or charged with minor offenses, are very ancient. For example, they are detectable in the Analects. Also in the legal codes of the Tang dynasty this law is set forth in detail. Later dynasties, including the Qing, also recognized this law. While many previous studies of this topic have been made, they have not systematically ordered the various provisions of these laws. This paper will attempt to fill that gap in the research surrounding this topic. While leaving discussions of these laws to other studies, this paper particularly will focus on an examination of various provisions of the Qing dynasty laws, taking up a few decisions from collections of judicial precedents. The paper will try to introduce systematically the legal status of laws pertaining to the concealing of crimes by family members. Since this traditional law also influenced the Japanese legal system, this paper will also briefly discuss the particulars of that influence.
著者
吉井 善弘 伊東 昭芳 平嶋 恒亮 真 鍋修
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1985, no.1, pp.70-74, 1985-01-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
10

フェノールの硫酸によるスルホン化とヒドロキシフェニルスルホニル化を行ない反応温度と配向比の関係を調べた。その結果,スルホン化では高温になるほど動力学的支配による配向比および熱力学的支配匿よる配向比(o/p比)は減少した。一方,スルホニル化では高温になるほど,動力学的支配による配向比(2,4'/4,4比)は減少するが,熱力学的支配による配向比は増加することが判明した。スルン化,スルホニル化の等運温度ばそれぞれ -24,36℃ であった。これらの結果はスルホン化,スルホニル化はともに, o-位, p-位への反応の等速温度が異常に低く実際的な反応は等速温度より高い条件で行なわれていることおよび o-フェノールスルホン酸が p-異牲体より安定であり,ジヒドロキシジフェニルスルホンでは逆に 4,4'-異性体が 2,4-異性体より安定であることに基因することを明らかにした。
著者
植松 茂男 佐藤 玲子 伊藤 摂子
出版者
小学校英語教育学会
雑誌
小学校英語教育学会誌 (ISSN:13489275)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.68-83, 2013-03-20 (Released:2017-10-05)

本研究は,2011年度に小学校英語活動経験がある小学校6年生に対して,英語習熟度テストと英語活動に関する情意アンケートを実施した結果のまとめである。同時に実施した小学校教員に対してのアンケートも参考にしながら,小学生が英語活動をどのように受け止め,どのような「学び」があったのか,教える側の教員の意見も参考にしつつ明らかにしようとする,総合的なアプローチの開始部分である。協力を得た各小学校に於いて開始学年や総履修時間数が異なるため,総履修時間数別に4群に分けた。それらのグループ間比較で,時間数が一番少ないグループに比べて,一番多いグループは,習熟テストのスコアも高く,情意アンケートにおいても肯定的な回答が多かった。
著者
古武 弥三 池田 小夜子 柴田 満里子
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
栄養と食糧 (ISSN:18838863)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.355-365, 1981-08-10 (Released:2009-11-16)
参考文献数
23
被引用文献数
1

亜鉛は多くの酵素の成分として重要な作用を果たしている。年少者に亜鉛欠乏があると成長発育の停止, 性機能不全症などが起こることがアラブ連合共和国, イランなどで明らかにされているが, 遺伝性の乳児疾患である腸性先端皮膚炎 (Acrodermatitis enteropathica) では亜鉛の欠乏によって四肢, 顔などに水胞性, 膿胞性の湿疹様皮膚炎, 脱毛, 下痢などを起こさせることが知られている。同様な症状は中心静脈カテーテル挿入法によって長期間にわたって高カロリー輸液を送り込む非経口的栄養において, 微量栄養素として亜鉛の添加が行なわれない場合にも起こることが明らかにされている。したがって亜鉛の所要量の決定はきわめて重要であって可及的早期に行なわれる必要性のあることを述べ, われわれの実験成績から次のような点を結論としてあげたい。1) 日本人はたん白源を魚に求める人達が多いが, 魚たん白は獣鳥肉に比べると概して亜鉛含量が多くないので, 成人1日の亜鉛摂取量はそれほど高くならない。神戸市在住者の代表的な献立10例を選んで, 成人1日の亜鉛量を調べたところ, その平均値±標準偏差は8.9±2.5mgであった。この値はアメリカ, イタリア, デンマーク等の推奨所要量15mgに比べるとかなり低い値であるが, チェッコスロバキアの推奨所要量8mgには十分達している。2) 人工栄養児の哺乳に使用されるわが国の特調製粉乳の亜鉛含量はいずれも100g中0.7~0.9mgであって, これらの粉乳は13~14%の濃度で使用されるので, たとえば生後4~6か月児に1回180mlの哺乳がなされたとしても, 約0.2mgの亜鉛含量にしかならない。その結果1日量としては2mgに達しない。アメリカ, イタリア, デンマーク等の推奨所要量では亜鉛は生後6か月までは3mg, 7か月から12か月までは5mgとされており, チェッコスロバキアでは生後6か月までは4mg, 7か月から12か月までは5mgとされている。人工栄養児の亜鉛摂取量をこれらの国々の推奨所要量に比べると少ないので, 特殊調製粉乳中の粉乳含量を増加させ亜鉛含量を多くする必要があろう。3) 離乳期の幼児の毛髪中の亜鉛量を測定したところ, 毛髪中の亜鉛量の平均値±標準偏差は10.2±2.5mg/100gと低く, 成人の毛髪中の亜鉛量平均値±標準偏差30.2±5.8mg/100gに比べると危険率0.001以内の有意差を持って離乳期の幼児の毛髪中の亜鉛含量の少ないことが明らかとなった。このことから亜鉛の体内保有量は生後しだいに増加するものと考えられる。
著者
岩下 亜季 田原口 智士 高瀬 公三
出版者
鹿児島大學農學部
雑誌
鹿児島大学農学部学術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
no.56, pp.1-7, 2006-03

西日本の動物園および水族館で飼育されているペンギン(合計144羽)から、2002年8月-2004年5月にかけて採取された糞324検体についてサルモネラの分離を試みた。その結果、2002年8月にA動物園由来の16検体中8検体(50%)からサルモネラが分離され、すべてSalmonella Senfenberg(SS)と同定された。また、2003年12月にC水族館由来の糞15検体中1検体(6.7%)からサルモネラ(04群、血清型不明)が分離された。市販の12薬剤に対する薬剤感受性試験の結果、分離SS株はクロラムフェニコールに対して耐性を獲得していると思われた。04群血清型不明株は耐性を獲得しているとは考えにくかった。SSの7株および04群血清型不明1株を用いて、侵入遺伝子invAの検索を行ったところ、全てinvAを保有していることがわかった。
著者
井門 修 舘野 正 長竹 真美 伊東 伸孝 安陪 光紀 三代 絹子
出版者
一般社団法人エレクトロニクス実装学会
雑誌
エレクトロニクス実装学術講演大会講演論文集 第18回エレクトロニクス実装学術講演大会
巻号頁・発行日
pp.37-38, 2004 (Released:2004-09-01)

モバイル機器に搭載されている実装部品の衝撃強度を評価するために、衝撃時に実装基板上に発生する歪みを利用している。実装基板上の歪み波形は衝撃の加わる方向によって形状が異なる。鋼球落下衝撃試験や自然落下衝撃試験などの複数の試験方法により、部品単体の試験サンプルで実機搭載時相当の衝撃強度を評価することができる。
著者
戸原 玄 阿部 仁子 中山 渕利 植田 耕一郎
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.265-271, 2013 (Released:2013-11-06)
参考文献数
27
被引用文献数
1

日本では要介護高齢者が増加しているため,誤嚥性肺炎の予防が重要である.誤嚥性肺炎は摂食・嚥下障害により引き起こされるため,患者の食べる機能を正しく評価した対応が重要である.訪問診療で利用可能な評価法にはスクリーニングテストと嚥下内視鏡検査があり,嚥下内視鏡検査は近年小型化が図られている.咀嚼中には食塊が咽頭に送り込まれるため相対的に嚥下反射が遅延するが,症例によっては噛み方を工夫することで嚥下反射遅延を防ぐことができる可能性がある.歯科的な対応のうち特殊な補綴物には舌接触補助床および軟口蓋挙上装置がある.また,新しい訓練方法として開口訓練により舌骨上筋群を鍛えて嚥下機能を改善する方法がある.
著者
前田 俊輔 伊達 豊 西村 貴孝 新村 美帆 林 政伸 青柳 潔 澤田 晋一 前田 享史
出版者
日本生理人類学会
雑誌
日本生理人類学会誌 (ISSN:13423215)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.155-163, 2018 (Released:2019-01-17)

To prevent heat stroke, we aimed to clarify the relationship between core body temperature and physiological measurements during incremental load test under hot environment. Subjects exercised under hot environment (33°C for air temperature, 60% for humidity) with measuring rectal temperature and other physiological measurements. In results, the increase of heart rate correlated with not only increase of rectal temperature at the same point in time but also the value after 5 or 10 minutes. Our results suggested that heart rate was useful physiological value as related or estimated core temperature.
著者
本多 真隆
出版者
社会学研究会
雑誌
ソシオロジ (ISSN:05841380)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.21-38, 2015

<p>近代日本の家族とセクシュアリティに関する歴史社会学研究において、「近代家族」規範の浸透と連動した「妻」と「娼婦」の分断は重要なテーマのひとつである。この分断は、近年の先行研究においては、幕藩体制では必ずしも蔑視の対象ではなかった芸娼妓が、明治期以後、「妻(家庭婦人)」に対する「娼婦」の側に位置づけられる過程として描かれてきた。 しかし近代日本の言説を検討すると、「娼婦」を「公娼」と「私娼」に類別して、前者を家族規範と共存させる論調など、先行研究とは異なる局面も散見される。また、戦前期においては、婚姻外の性関係を一定程度許容する「家」規範も優勢であった。本稿は廃娼論と存娼論における、「公娼」と「私娼」の分断への着目から、近代日本における家族規範と買売春の関連の一端を明らかにする。 検討の結果、廃娼論は「近代家族」的な家族観と「性」の問題は個人の倫理観に委ねるという発想から公娼制度を批判し、対して存娼論は公娼制度との共存で保たれていた「家族」を擁護するという発想から、「私娼」を批判していた様相が示された。結論部では、近代日本における廃娼論と存娼論の対立、および「公娼」と「私娼」の位置づけの違いは、存続の危機をむかえていた公娼制度と、新たに勃興した性風俗、そして「家」と「近代家族」のあいだで変動の過程にあった「家族」をどのように整合的に位置づけるかをめぐる見解の相違であったと位置づけた。</p>