著者
淺輪 貴史 小林 秀樹
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本年度は、研究手法に関する定式化を理論的・実験的に行った。具体的には、気温分布の逆推定手法の数学的定式化と熱赤外域分光センサの利用可能性の理論的・実験的検討に関する課題に取り組んだ。まず、衛星リモートセンシング分野で用いられている気温分布や大気濃度分布の逆推定手法を調査し、都市大気の水平気温分布推定に適用する方法を理論的に検討した。特に、パスの終点が既知の温度(放射率)の物体である場合と大気の無限遠である場合とで、定式化がどのように異なるのかを示した。これらは、建築空間でパスが短く、且つパスの終点が壁面等である場合と、都市大気を対象として比較的遠距離のパスに適用する場合との違いに相当する。次に、熱赤外域分光センサを利用して、上記で定式化した逆推定手法を都市大気の気温分布逆推定に適用した場合に、どの程度の精度が得られるのか、また課題点は何かを実験的に検討した。実験は7月に東京都多摩市で実施した。4階建物の最上階から、500m遠方と2.7km遠方の森林までの区間を対象に熱赤外域分光センサによる観測を実施した。同時に、パスの終点が大気の無限遠である場合についても観測を実施した。パス間を4層に分割して気温分布の逆推定を行った結果、いずれのパスにおいても第1層目から誤差が大きく気温の過小推定が起こっていた。第2層目以降では、MAP法による事前分布に近い結果が得られており、実際の大気からの温度情報の寄与が小さい結果となった。上記の点について放射伝達モデルを用いて数値実験的に検討を行った。放射伝達モデルでは、実験のような誤差は生じなかったこと、また実験においてはいずれのパスにおいても同様の誤差傾向を示していることから、今回の実験に含まれるバイアスの原因であると考察した。これらは、実験と数値解析の両方を用いて、今後要因の感度分析を行って行く必要がある。
著者
李 正根 平山 和次
出版者
長崎大学水産学部
雑誌
長崎大学水産学部研究報告 (ISSN:05471427)
巻号頁・発行日
no.71, pp.p163-168, 1992-03
被引用文献数
1

The population growth of Noctiluca scintillans was investigated, using Tetraselmis tetrathelle as food, at salinities ranging from 8.5-34‰, food levels from 1×10³-8×10⁵ cells/ml and temperatues from 5-32℃. Under every experimental condition, ten to twenty Noctiluca were grown individually in 1 or 3ml of food suspensions for three to four days. The specific growth rates were obtained from the linear regression analysis of the population growth. Salinity: The specific growth rate was maximal at approximately 22‰, and decreased differentially with increasing or decreasing salinities. The lowest salinity for the minimal and continual growth was 14‰, but the sudden drop from 34‰ to 14‰ was lethal. Food Level: There was little growth at the food levels lower than 3×10⁴ cells/ml. At food levels between 3×10⁴ and 3×10⁵ cells/ml, the specific growth rate increased proportionally with increasing food levels. With further increases in food level, the rate increased asymptotically. The values of the specific growth rates were 0.03 (S. D; 0.16) at 3×104 cells/ml, 0.74 (S. D; 0.16) at 3×10⁵ cells/ml and 0.81 (S. D; 0.12) at 8×10⁵ cells/ml. Temperature: The specific growth rate was maximal around 23℃, and decreased differentially with increasing or decreasing temperatures. All Noctiluca died at 32℃ within a day. It grew at 5℃ normally but slowly.
著者
古川 郁将 本田 陸人 湖平 元彌 藤井 悠野 西村 江梨花 東元 太誠 岩満 春樹 丸山 璃花 前田 稜河
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-05-06

1.はじめに市街地では、夜になっても星を綺麗に見ることができない。この光害に関心を持ち、研究を始めた。現在は市販のスカイクォリティーメーターで、夜空の明るさを数値化している。この観測値を気象条件や環境指標のデータと比較し、夜空の明るさに大きく影響していると分かった。2012年には、「北九州1/5万等光度曲線地図」(図1)を製作し、夜空の明るさを可視化した。光害とは、人工の光の環境への悪影響である(図2)。特に、街などの地表の光がエアロゾルによって散乱・反射され、夜空が明るくなる現象を研究をしている。今回、明るい暗いという曖昧な表現しかない光害を数値化するための"光害公式"を考えた。2.夜空の明るさと経時変化率「等光度曲線地図」製作の際には、1日に150ヵ所以上観測することもあり、各地点で観測した時間が異なる。そこで経時変化率を用いて、観測値を21時基準に補正した。図3は、北九州市内7ヵ所で観測した結果である。時間毎に夜空が暗くなっている。この経時変化率は、最小二乗法を用いて算出した。図4、5は19時から4時までの自動車の交通量および、マンションの点灯率である。どちらも時間の経過で減少している。このように、経時変化率は人間の活動に大きく影響される。3.光害の数値化3-1.光害公式の作成2008年に発足させた「夜空の明るさ全国ネットワーク」のデータを見ると、観測地毎に経時変化率に特徴があった。つまり、経時変化率で光害を数値化できるかもしれない。岩手県のひろのまきば天文台は光害が小さいため経時変化率は0.002と非常に小さい(図6)。逆に、三重県の津高校のように、市街地に位置し光害が大きい場所では、経時変化率が0.05と大きくなっていた(図7)。このように光害の大小は、経時変化率で表せることが分かった。そこで、経時変化率を中心に、次の光害公式を考えた。光害指数(Light Pollution Index of Sky)は、人口密度[P]、経時変化率[r]、夜空の明るさ[b]の3つを要素として、光害を数値化しており、光害指数が大きいと、光害の影響が大きいことを示す。単位は[人/(k㎡・h)]となり、人間の活動量の変化によって起こる光害を数値化した指数だといえる。人口密度が増えると、消費電力量が増えるため光害指数は大きくなる。夜空の明るさは明るくなると値が小さくなり、光害指数に反比例する。なお、人口密度を要素としたのは、新宿区のように夜まで人間の活動が盛んな場所では、経時変化が小さくなるためである。3-2.人口密度(P)と住宅率(h)人口密度は、観測地点を中心とした半径2km圏内で算出した。2012年の研究より特定の強い光源は最大2km先まで影響するためである。さらに、圏内に居住区でない部分が含まれる場合、それらを除いた部分の割合(住宅率:h)を用いて人口補正をした。住宅率は雲量の指標を参考に、有効面積内の非居住部分を目視で確認する。図8は補正後の人口密度と光害指数を比較したものである。人口密度の増加に比例してLPI-Sが大きくなっている。このように補正をしたことで、地域性をより明確に表現したものとなった。3-3.LPI-Sの実用性についてこの式が現状の光害を適切に数値化できるのかを考察するため、北九州市内各地での観測を行った。さらに、全国ネットワークの参加校へアンケートを行い、その地域特有の光害の様子について調査を行った。北九州市熊本は、観測地付近に北九州市民球場がある。そのナイター照明の影響で経時変化率が大きくなり、新宿よりも大きいLPI-S=156.4だった。人口密度だけで表せない光害を、経時変化率で表現できた。一方で、天文台はどちらも値がほぼ0であり、明確に光害を表現できた。4.おわりに 曖昧な指標である光害を、経時変化率を中心に公式化、数値化した。また、全国ネットワークへのアンケートから、LPI-Sで適切に光害の大きさを表現できるかを確認した。以前に光害をモデル化した研究はあるが、美しい星空を見るための、「暗い夜空」を数値化したものである。私たちの「明るくなった夜空」を表現した光害指数(LPI-S)は、これまでになかった。黄砂や雪など、様々な要因で夜空の明るさの地域性が生まれる。しかし、光害指数に地域性がどう表れるのかを詳細に調査するには、より多くのデータが必要だ。今後も観測を続け、全国のデータを集めていきたい。5.謝辞全国ネットワーク参加団体のデータ提供に感謝します。星空公団の小野間さんには、多大なご協力を頂きました。ありがとうございました。6.参考文献(一部)・東筑紫学園高等学校・照曜館中学校理科部(2013); 第22回「星空の街・あおぞらの街」全国大会環境大臣賞受賞記念 77pp.・環境省(2000), 地域照明環境計画策定マニュアル 2p.・J.Bortle(2001);The Bortle Dark-Sky Scale, Issue of Sky & Telescope,126p.~129p.
著者
Kohei NAKATA Harumi MIURA Hiroki SAKAI Takashi MORI Sanae SHIBATA Hidetaka NISHIDA Sadatoshi MAEDA Hiroaki KAMISHINA
出版者
公益社団法人 日本獣医学会
雑誌
Journal of Veterinary Medical Science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
pp.17-0142, (Released:2017-05-04)
被引用文献数
10

A 7-year-old cat was referred with pelvic limb ataxia. Radiography and CT revealed bone resorption of the L1 vertebral arch, and myelography identified a compressive extradural lesion. The mass was surgically removed and histopathologically diagnosed as giant cell osteosarcoma. Three years later, the recurrent tumor resection and vertebral fixation were performed. Six months later, vertebrectomy was performed to radically excise the recurrent mass and a titanium spinal cage was placed. The cat is alive approximately 5 years after the first surgery. This case report describes vertebrectomy and vertebral body replacement as a radical treatment for feline vertebral osteosarcoma.
著者
三年生
出版者
お茶の水女子大学地理学教室
雑誌
お茶の水地理 (ISSN:02888726)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.40-40, 1965
著者
佐藤 芳彦 SATO Yoshihiko
出版者
岩手大学人文社会科学部
雑誌
言語と文化・文学の諸相
巻号頁・発行日
pp.145-183, 2008-03-21

近代イギリス予算制度成立史研究の一環として,名誉革命(前後)期(1640年代から1714年アン女王の死まで)を考察対象として扱った拙稿1)においては,当該期における財政面での「立憲体制」の成立過程を総括的に論じることを意図したので,わが国において研究史が殆ど欠落している当該期における具体的な予算の審議過程2)については,冊子体での史料的制約もあり,殆ど全く言及しえなかった。本稿では,(その後に知った)Web上で利用しうる史料3)を利用して,近代イギリス予算制度の完成期(1860年代末)における予算の審議過程に至る歴史的・段階的な位置如何という観点から,「王政復古」Restoration期,とりわけ,その中でも「第二次オランダ戦争」Second Dutch War期(1665年~1667年)に限定して,(1)イングランド議会における予算の審議過程,及び(2)そのような審議過程を経て制定されたいわゆる「援助金及び議定費」法 Act of 'aids and supplies' において初めて導入されてくる4) 「借入及び割当条項」の内容を具体的に明らかにすることにしたい。
著者
野田 岳人
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究はチェチェン紛争における人権侵害を事例として、冷戦後のロシアをめぐるヨーロッパの国際人権レジームの変化を考察するものである。人権分野では、冷戦時代にソ連に影響を与えた欧州安保協力機構から冷戦後には欧州評議会と欧州人権裁判所へと担い手が交替した。それに伴い、人権保護の射程はより個人的なもの、より人道的なものへと移りつつある。これは国際政治の司法化(judicialization)の現象の一つである。本研究では、第一にヨーロッパ人権レジームの変化と国際政治の司法化の現象を検討する。第二にチェチェン紛争における人権侵害の実態を把握し、その人権侵害の事例が国際政治化する過程を考察する。第三に他の地域紛争における人権侵害の事例と国際人権レジームの関わり方について整理する。初年度の目標は、本研究のアウトラインを可能な限り正確にスケッチすることであった。まず、国際人権レジームの変化については、アクターを欧州評議会・欧州人権裁判所とロシア政府に限定し、学術的動向を把握した。チェチェン紛争の被害者に関し、欧州人権裁判所の裁判記録やNGO団体による人権侵害の資料などをもとに事実関係をまとめた。また、国連や欧米各国が関与して設置された旧ユーゴスラヴィア国際刑事裁判所(ICTY)の成果などについても整理した。しかしながら、第二の点と第三の点は予定通り進んでいない。第二のロシアにおけるチェチェン紛争の動向調査は受入先との関係で、来年度以降に実施することになった。第三の他地域における人権侵害状況を理解し、冷戦後の地域紛争における人権侵害に関する共通点を探るための地域研究者との意見交換も来年度に予定を変更した。

1 0 0 0 OA 宋代の武階

著者
梅原 郁
出版者
京都大學人文科學研究所
雑誌
東方學報 (ISSN:03042448)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.217-268, 1984-03-15
著者
小久保 康之
出版者
東洋英和女学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

スイス国民党(SVP)が主導する大量移民規制を定める憲法改正案が2014年2月9日の国民投票で可決されたことに伴い、人の自由移動について合意した1999年のスイス・EU双務協定に祖語が生じ、スイスは対EU関係の悪化が懸念される事態に陥っていた。移民規制について新たに導入された憲法121a条とその関連条文では、3年以内に移民規制に関する法律を定めることや、121a条に抵触する国際条約を再交渉することが規定されていた。スイス政府は、EUとの双務条約の再交渉の余地を探るが、EU側は「人の自由移動」はEU市場の根幹を構成する要素であり、再交渉には応じられないとし、更に、英国が2016年6月の国民投票でEU離脱派が勝利を収めたことにより、非EU加盟国であるスイスとの再交渉が英国のEU離脱交渉に影響を与える事を恐れ、スイスとの正式な再交渉には一切応じないとの姿勢を崩さなかった。スイス政府は、2016年3月に移民規制に関する法案を提出するが、連邦議会はそれを否決し、同年12月16日に急進民主党と社会党が中心となって提出した「外国人に関する連邦法」が連邦議会で可決された。同法は、明確な形で移民規制を行うことを避け、スイス人の就労機会を優先させることに限定するものであり、憲法121a条は骨抜きにされた。同法に関する政令が2017年12月に発令され、2018年7月1日より、失業率が8%を超える業種について、スイス人失業者に優先的に雇用案内が提示されること、2020年1月からは失業率が5%を超える業種に適用されることなどが定められた。EU側は、スイスのこれらの一方的な措置がスイス・EU間の人の自由移動を妨げるものではないとして歓迎し、スイス・EU関係の悪化は回避された。この一連の動きから、非EU加盟国であるスイスがEUの基本原則に従わざるを得ない状況にある実態を明らかにすることができた。
著者
神江 沙蘭
出版者
関西大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

平成29年度の春から夏にかけて、欧州の通貨・金融分野において、金融市場での欧州単一パスポートの導入や共同通貨ユーロの導入等の市場創出的統合が加速したのに対して、監督規制改革等の市場修正的な統合がなぜ遅れたかという点を、1990年代のグローバルな国際金融規制(バーゼル委員会での議論等)の流れを踏まえて分析した。そこでは特に米国等の域外の経済大国との競争的関係が、域内で必要とされた金融ガバナンスの構築にどう影響したかを検証している。その成果の一部は、6月に香港で開催された国際問題研究学会(International Studies Association:ISA)で報告し("Germany and Japan: Great or Middle Powers in Global Banking Regulation?")、共著本(『Middle Powers in Europe and Asia』eds. Giacomello and Verbeek)の執筆担当章の草稿に取り入れた。当該年度の秋からはユーロ導入によってインフレ調整や経済政策の調整がより困難になった点をECBの設立が市場での期待形成に与えた影響という観点から分析し、これが分権的な金融監督体制の下にあった欧州金融市場でのリスク膨張に繋がった可能性について検討した。また、ユーロ危機を経て、ECBが金融安定化や市場回復に積極的な役割を担う等、ユーロ圏においてサプライサイド政策を重視する従来の傾向に一定の変化が生じた点に着目し、その背景/影響としてドイツ国内政治に生じた変化や摩擦について検討した。2月19日~3月7日にケルンのマックス・プランク研究所(社会科学)において客員研究員として現地調査を行い、セミナー報告、関連機関へのヒアリング調査を行い、その成果を単著原稿『統合の政治学』の草稿の執筆に取り入れた。
著者
臼井 陽一郎 市川 顕 小山 晶子 小林 正英 小松崎 利明 武田 健 東野 篤子 福海 さやか 松尾 秀哉 吉沢 晃
出版者
新潟国際情報大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

(1)先行研究のレビューを進めるとともに、海外学会(英国EU学会など)に参加、さらにブリュッセルなどヨーロッパ諸国で実務者および海外研究者にアクセス、インタビューを実施するなかで、本研究課題に関わる研究状況をサーベイし、<EUの規範パワーの持続性>という研究テーマの意義およびアクチュアリティについて再確認できた。規範パワー論はEU政治研究においていまだ<終わった>研究課題ではなかった。(2)研究会を3回実施(関学大・東海大・新潟国際情報大)、理論枠組と役割分担の微調整を行った。また4名の研究協力者に参加してもらい、理論枠組と実証事例の整合性について批判的視点を加えてもらった。この一連の研究会の結果、規範パワーたろうとする加盟国首脳の政治意思と、EUの対外関係にみられる4つの制度的特徴(マルチアクターシップ・シンクロナイゼーション・リーガライゼーション・メインストリーミング)の関係性をどう理論的に突き詰めていくかについて、メンバー間に意見の不一致があることが分かり、今後の理論的討究の課題が浮き彫りとなった。それは大きくは、合理主義アプローチに依拠した因果関係として仮説化していくべきか、それとも構成主義アプローチに依拠した構造化プロセスの把握を目指していくべきなのか、という二つのアプローチの対抗関係であり、次年度の研究会で詰めていくべき課題となった。なお4年後の研究成果発表のため、メンバーそれぞれの研究課題を仮題として章立てを作り、出版社を決め、出版へ向けた交渉に入った。
著者
金子 芳樹 浅野 亮 井上 浩子 工藤 年博 稲田 十一 小笠原 高雪 山田 満 平川 幸子 吉野 文雄 福田 保
出版者
獨協大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究のASEANを①拡大と深化の過程、②地域横断的イシューの展開 、③域内各国の政治社会変動分析という観点から「国際・地域・国内」の3次元で捉え直すという目的に沿って、第1年目の平成29年度においては、各担当者が現地調査や文献調査を中心に国別、イシュー別の調査を進めた。また、本研究のもう一つの特徴である「ASEANとEUとの比較」という観点については、その第1歩としてEU研究者を報告者に招聘して研究会を複数回開催し、EUの組織や地域統合のあり方などについて研究分担者・協力者の理解を深める活動を行った。その際、ASEANとEUの両研究分野の相互交流や共同研究を今後進めていくことについても、その体制造りなどを含めて意見交換を行い、具体的な段階へと歩を進める準備を行った。さらに、本研究の研究成果を逐次社会に公表していくという目的と、研究の新たな展開と蓄積のために他国や他分野の研究者との情報・意見交換を進めるという目的に沿って、国内の公開シンポジウムや学会ならびに他国開催の国際研究集会に研究分担者・協力者を派遣もしくは参加支援を行った。また、各研究分担者・協力者は、本研究のテーマもしくは関連テーマに関する論文および書籍の発表・刊行を積極的に行った。これらを通して、研究成果の公表とフィードバック、新たな研究知見の獲得、国内外での研究人脈の形成といった面でそれぞれに成果を得ることができた。上記のような諸活動を通して、1年目の目標であった本研究の基盤作りを着実に進めることができ、2年目以降のステップアップに向けた準備を整えることができた。
著者
Day Stephen
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

In June 2017, I was able to make an initial presentation to the EUSA-AP Conference (Tokyo) which provided invaluable feedback for the start of my project. Two months later, I was invited to give a lecture at the United Nations University (Tokyo) on the issue of Brexit. Indeed, much of this year has been taken-up following the on-going machinations of the UK's withdrawal process and the corresponding impact on the European Union. This has resulted in public lectures for the EUIJ-Kyushu and the Saga EU Association. In terms of party-politics above the level of the nation-state, I was asked to write a contributing chapter for the International Institute for Democracy and Electoral Assistance (co-ordinated by Steven Van Hecke, Leuven University). In December 2017, I attended the Congress of the European Liberals (Amsterdam) where I observed preparations for the 2019 European elections and the process for selecting a leading candidate (spitzenkandidat); undertook numerous on-the-spot interviews; and engaged in some debates.While in Amsterdam, I also had the opportunity to undertake some archival research on the start of the European integration process post-1945. In addition, I visited Ireland where I undertook numerous interviews with national parties, across the political spectrum, about their views on Brexit and their relations with their corresponding Europarty. The information I collected is presently feeding into a paper I will present in Taiwan (EUSA-AP) in June 2018.
著者
力久 昌幸
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は,イギリスのEU国民投票を主な事例として取り上げて,イングランド・ナショナリズムの政治化によってEU離脱派のキャンペーンにどのような特色がもたらされたのか,そして,EU離脱決定後のイギリスの政党政治において主要政党の戦略的行動にどのような変化がもたらされたのか,という点について明らかにすることを目的としている。平成29年度の研究においては,本研究にとって重要な位置を占める概念であるナショナリズム,ナショナル・アイデンティティ,欧州統合,権限移譲改革に関する理論・事例研究を取り扱った文献・論文を収集したうえで,その内容に関する分類・整理を行った。上記のような本研究に関連する文献の収集・整理に加えて,本年度はイギリスのロンドンとカーディフを訪問し,上院議員,下院議員,ウェールズ議会議員,そして,EU離脱問題に関わる運動団体に対して聞き取り調査を行った。こうした聞き取り調査を通じて,EU国民投票およびその後のEU離脱をめぐる政治過程とイングランド・ナショナリズムの政治化との関係について,一定程度理解を深めることができた。また,カーディフ訪問を通じて,イングランド・ナショナリズムの比較対象として,ウェールズ・ナショナリズムについて一定の知見を得たことは,本研究にとって重要な,多民族国家イギリスを構成する各ネイションの間の相互関係を理解するうえで意味があったものと思われる。なお,平成30年度にはスコットランドを訪問することを考えているが,それにより,イングランド・ナショナリズムとスコットランド・ナショナリズム,そして,平成29年度に聞き取り調査を行ったウェールズ・ナショナリズムの異同について,さらに理解を深めることができるものと期待される。
著者
中村 英俊 BACON Paul.M. 吉沢 晃
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究課題をめぐり、早稲田大学とブリュッセル自由大学(ULB)との間の国際共同研究を着実に拡充することができた。3月12日にULBで開催した日EUフォーラムでは、研究代表者と研究分担者の全てが研究報告をすることが叶った。理論研究、人権外交、競争政策などの観点から有意義な中間報告の場が得られた。また、オックスフォード大学やキングスカレッジ・ロンドンの研究協力者との共同研究も一定の進展を見ることができた。このような国際共同研究の成果の一つとして、アメリカや中国という大国の背後で日EU関係が有する意義を探る共編著の中で執筆した共同論文は、EUとの比較から日本の国際アクターとしての特質を描いたもので2018年夏に公刊予定である。この論文は、リベラル国際秩序の中でEUとともに日本がどのように振る舞ってきたかを論じようとしたものである。本年度は、イギリスのEU離脱(Brexit)をめぐる公式交渉の1年目とほぼ一致しており、同交渉に関する情報収集も重要な研究調査の対象となった。日本とEUとの二者間関係はEPAとSPAの公式交渉が終わり署名へ向かおうとしている。日本とイギリスの二国間関係も首脳会議によって深まったと言われる。本研究の文脈で、このような現状の考察も試みることができた。政治外交および経済貿易の両分野でリベラル秩序が流動化する状況下で、「安全保障アクター」概念を独自に定義し、EUと日本という国際アクターの行動を正確に描写し、両者の政治関係が持つ意義を深く考察している。