著者
吉原 直毅
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.373-401, 2003-12-16

経済的資源配分の公正性の問題(分配的正義論)に関する、社会的選択理論と厚生経済学を軸とした理論経済学的なアプローチの近年の展開を概観する。分配的正義に関する従来の支配的見解は、人々の主観的効用の達成度の均等性を要請する「厚生の平等」論であった。対して、人々の主体的責任の問われ得る選択の結果とは見なし得ないような、天賦の才能や資質の格差に起因する、配分上の社会的格差への是正を動機とする「資源の平等」論を提起したのが、ロナルド・ドゥウォーキン(1981b)である。本論は、ドゥウォーキンの「資源の平等」論を、ミクロ経済理論と公理的交渉ゲーム理論の分析装置を用いて公理体系として定式化し、かつ批判したジョン・E・ローマーの研究、ドゥウォーキンの「資源の平等」論以降の政治哲学における分配的正義論の一潮流となった「責任と補償」アプローチを、ミクロ経済理論の分析装置を用いて公理体系として定式化し、その隠れた含意を明示化する事に貢献したマーク・フローベイやウォルター・ボッサール等の研究を概観し、その意義についてコメントする。
著者
吉原 直毅
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.63-98, 2006-11-29

アナリティカル・マルクシズムの,数理的マルクス経済学の分野における労働搾取論に関する主要な貢献について概観する。第一に,1970年代に置塩信雄や森嶋通夫等を中心に展開してきたマルクスの基本定理についての批判的総括の展開である。第二に,ジョン・E・ローマーの貢献による「搾取と階級の一般理論」に関する研究の展開である。本稿はこれら二点のトピックに関して,その主要な諸定理の紹介及び意義付け,並びにそれらを通じて明らかになった,マルクス的労働搾取概念の資本主義社会体制批判としての意義と限界について論じる。
著者
中尾 健児 飯星 茂
出版者
公益社団法人地盤工学会
雑誌
土質工学会論文報告集 (ISSN:03851621)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, 1974-06-15

従来, 口径60〜110 mm程度の岩盤ボーリングを行なう場合, 硬岩の短い孔では削岩機が用いられ孔壁が不安定な砂レキや土砂を掘る場合, あるいは硬岩でも長孔の場合にはロータリー式のボーリング機が用いられてきた。O.D.工法(Overburden Drilling Method)はこれらの機械の二つの働きを同時, または別々に一台で行なうローテーションドリフターと呼ばれる改良削岩機に, ケーシング掘進機能を持たせたものである。O.D.工法による海底岩盤の削孔発破の手順は1)海上作業船もしくは作業台からの削孔, 2)内管の回収, 3)ケーシングパイプを通して爆薬の投入, 4)ケーシングパイプの回収・脚線の引き上げ, 5)削孔位置を変え同様の削孔・装薬を行なう, 6)結線作業, 7)起爆, という手順である。結線作業をダイバーで行なう場合種々のトラブルがあるため, 起爆素子と爆薬・雷管とを接続し, 削孔内に設置後指令装置から発信された超音波信号により, 雷管に電流を流して起爆する遠隔起爆装置を開発し, その実験結果について述べられている。
著者
坂江 千寿子
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.7-15, 1998-03
被引用文献数
1

昨年10月15日, 臓器の移植に関する法律が施行されて4ヶ月経った。いまだに第1例目の移植は実施されておらず, このテーマは日本人には受け入れ難いともいわれている。そこで, そのような国民感情に影響したと考えられる新聞報道に着目し, 臓器移植問題が国際化し始めた1982年から, 脳死臨調の答申を経て議論が国会の場に移った1994年までの全国版三紙(読売新聞・朝日新聞・毎日新聞)の見出し文を対象にしてどのような問題点が掲載されたかを分析した。分析には, (1)見出し文をプラスイメージ(価値付与)・マイナスイメージ(価値剥奪)・中立の三方向で分類した後, (2)価値剥奪に属する見出し文をJSORTプログラムで分析し, 抽出された個々の言葉を統合して報道された問題点を示すという方法を用いた。その結果, (1)価値付与の見出しは約70%から60%で推移し, 記事の多くはプラスイメージを伝えていたが, (2)脳死への疑問やそれを認めた場合に生起する諸問題, 移植医療の体制の問題など慎重な立場を取らざる得ない背景や広範囲な問題点も伝えたことが示された。
著者
Takuhito Nozoe Takuro Shinano Masaaki Tachibana Akira Uchino
出版者
CROP SCIENCE SOCIETY OF JAPAN
雑誌
Plant Production Science (ISSN:1343943X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.314-318, 2010 (Released:2010-06-14)
参考文献数
23
被引用文献数
9

The effects of addition of rice straw to submerged soil on the emergence and growth of rice (Oryza sativa L.) and two paddy weeds (Echinochloa oryzicola Vasing. and Echinochloa crus-galli (L.) Beauv. var. crus-galli) were investigated. Rice straw suppressed both the emergence and growth of transplanted plants depending on the amount of rice straw added (0%, 0.3%, 0.6% and 0.9% (w/w)) in the order of E. crus-galli > E. oryzicola > rice. The severe suppression of emergence and growth of E. crus-galli in the presence of 0.9% rice straw in hydroponic culture was thought to be due to high Fe content of the shoots. Since the difference in tolerance for the toxicity of rice straw is an important factor, the addition of organic materials into soil may help to suppress Echinochloa weeds selectively.
著者
保城 広至
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年度は、実証に入る前に、本プロジェクトに必要とされる基本的な知識の底上げ、特に理論と方法論を幅広く吸収することに努めた。理論的には、1950年代から始まり、1970年代に急速に廃れていった地域統合論の研究群を一通りサーベイし、90年代以降における新しい地域主義論との相違が何であるのかを把握することに努めている。ただしこれはまだサーベイ中であり、先行研究が主張していること以上の新規な視点が提出できるとは考えていない。仮に興味深い知見を発見することができたなら、平成22年度中に、紀要か研究ノートとして和文雑誌に投稿する予定である。また、今世紀に入って雪崩のように出版されている、東アジア地域主義に関する書籍や論文のサーベイも同時進行中である。方法論的には、一つは中級統計、もう一つは定性的研究の方法論を集中的に学習している。前者は昨年度と同様ミシガン大学の統計セミナーに参加して、今回はMLE(最尤法)の基礎を学習した。今後データを集めた後、計量的な分析を加える予定である。また、定性的研究の方法論としては、報告者の従来のディシプリンである外交史アプローチは、どのようにすれば理論化が可能かという問題に一つの解答が出たため、それを国内の学術雑誌に投稿し、「学界展望」として採用された。今秋掲載の予定である。本来の予定であればすでに実証研究を始めているはずであるが、理論的・方法論的知識をより広く、より深く習得た方がおそらく実証も行いやすいという判断により、今年度はそちらの部分に力を注いだ。報告者は4月より就職するため、残念ながら今回のプロジェクトはいったん打ち切りとなるが、民間あるいは他の科学研究費補助金を申請して、本プロジェクトを継続していくつもりである。
著者
吉田 克己
出版者
東北大学
雑誌
東北大学医学部保健学科紀要 (ISSN:13488899)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.93-98, 2006
被引用文献数
1

In the present review, the clinical utility of determining red blood cell (RBC) carbonic anhydrase I isozyme (CA1) and zinc (Zn) concentrations in patients with various forms of thyroid disease is discussed. RBC CA1 and Zn concentrations were both decreased in patients with hyperthyroid Graves' disease, and the RBC CA1 concentration significantly (r=0.95) correlated with the RBC Zn concentration. After treatment, the normalization of RBC CA1 and Zn lagged 2 months behind normalization of plasma thyroxine (T4) and triiodothyronine (T3) levels. Furthermore, the highest correlation coefficients were observed between RBC CA1 and Zn levels and plasma thyroid hormone levels measured 8 weeks earlier. Transient thyrotoxicosis due to destructive thyroiditis did not cause significant changes in the RBC CA1 and Zn concentrations. T3 at a physiological free concentration significantly decreased the level of CA1 mRNA and the concentration of CA1 in burst-forming unit-erythroid-derived cells. These results indicate that the measurement of RBC CA1 and Zn concentrations may be useful as follows: (1) in obtaining an accurate estimate of the extent of elevated thyroid hormone levels in hyperthyroid patients in whom serial measurements were not obtained over time; (2) in differentiating patients with hyperthyroid Graves' disease from those with transient thyrotoxicosis.総説Review Article
著者
田村 純一 石塚 幹夫 手塚 昌宏 飯塚 良子
出版者
一般社団法人照明学会
雑誌
照明学会誌 (ISSN:00192341)
巻号頁・発行日
vol.85, no.6, pp.381-382, 2001-06-01

介護老人福祉施設[鷲ヶ峰]は川崎市宮前地区に計画された施設である.周りには桜が敷地を囲むように植樹されており,この付近の桜の名所となっている.自然と暮らしの息吹にあふれたこの立地条件を生かした自然を感じ取れる空間が,今回の施設計画のテーマである.
著者
山根 久代
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

温帯果樹は芽を分化させたのち、翌春の生長開始期まで休眠状態で越冬する。越冬芽は一定期間の低温に遭遇することにより自発休眠から覚醒し、好適条件下で発芽可能な状態となる。果樹の休眠現象の調査研究の多くは休眠覚醒期の生理と人為的制御法の検討に向けられており、休眠現象の分子レベルでの実態は明らかとなっていない。果樹の越冬芽は花器官が分化していく花芽と栄養生長点が存在する葉芽にわけられる。休眠の実態は両者で異なることから、本研究では花芽と葉芽を明確に区別可能な純正花芽をもつウメを材料とした。ウメ品種‘南高'とタイや台湾で育成されたST, SC,‘二青梅'を供試し、その休眠深度を秋から早春にかけて調査した。その結果、2006年11月26日時点で加温したST, SC,‘二青梅'はいずれも20日前後で萌芽したのに対し、‘南高'では萌芽に至らなかったことから、後者3系統は休眠覚醒に必要な低温要求量が著しく低い系統と位置づけることができた。これらの系統を供試して、細胞周期関連遺伝子であるサイクリンB遺伝子の発現レベルを調査した結果、‘南高'と比較して他の3系統では発現レベルの上昇が早い時期からみられた。しかしながら、その発現量は気温の変化に敏感に反応することが示唆され、サンプリング時期によっては発現レベルの季節的変動がみられないこともあった。したがって、これら遺伝子の発現レベルのみでは越冬芽の休眠深度をはかる指標として不適切な可能性も考えられた。そこで本研究では自発休眠と他発休眠を明確に区別するための分子マーカーの獲得を目的として、自発休眠芽で特異的に発現している遺伝子の探索を試みた。その結果、転写因子や植物ホルモン関連遺伝子などの単離に成功した。
著者
川並 透
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.95, no.7, pp.1323-1327, 2006-07-10 (Released:2009-03-27)
参考文献数
5
被引用文献数
1 1

スギヒラタケの関与が疑われる脳症の神経画像は, 両側島皮質下白質がT2強調MR画像で高信号, CT画像で低吸収域を呈する特徴を示す. 同様の画像変化は大脳皮髄境界部に散在したり, 両側基底核に出現することがある. 神経病理学的報告は, 髄鞘崩壊とグリオーシスを特徴とする2例とマクロファージの出現を伴う壊死巣を認めた2例がある. 4例とも炎症性病変は否定的で, 橋-橋外髄鞘崩壊症に類似した病態が推定される.
著者
近藤 悟 平井 信博 瀬戸 秀春
出版者
県立広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

植物体の生理活性物質であるアブシシン酸(ABA)およびジャスモン酸(JA)は環境ストレスに反応するストレスホルモンとして知られている。一般に6℃以下の低温は熱帯果実において貯蔵期間を延長するものの、果皮の褐色化などいわゆる低温障害の原因となり、著しく商品性を損なう。本研究では低温がABAおよびJA代謝、ABA合成経路の鍵酵素である9-シスエポキシカロチノイドジオキシゲナーゼ(NCED)遺伝子発現に及ぼす影響を検討した。低温ストレスはコントロール区に比較して、ABAの増加を誘導した。ABAおよびその代謝物であるファゼイン酸(PA)、ジヒドロファゼイン酸(DPA)およびそのエピ体であるepi-ジヒドロファゼイン酸(epi-DPA)は貯蔵日数とともに増加した。マンゴー果実において、ABAの主要代謝物はepi-DPAであった。JA濃度もまた、ABAと同様に低温貯蔵中、徐々に増加した。NCEDはカウピーより単離されているNCED遺伝子配列を基にディジェネレートプライマーを設計し、マンゴー果実のcDNAを鋳型として、RT-PCRにより遺伝子のクローニングを行った。本研究では1遺伝子を単離した。マンゴー果実からクローニングしたNCED遺伝子はカウピーおよびブドウ等と高い相同性を示した。低温ストレス下でのマンゴー果実におけるNCED遺伝子の発現を示す。NCEDの転写量はコントロール区の果実に比較し低温ストレス下で増加し、ABAの変化と一致した。以上の結果は低温ストレスは、ストレスシグナル物質としてのABAの増加を誘導するが、これはNCED遺伝子の発現増加に起因するものであることが推定される。
著者
弦間 洋 小松 春喜 伊東 卓爾 中野 幹夫 近藤 悟
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

暖地での高品質果実生産のための指針を得る目的で、果皮着色機構、成熟制御機構並びに分裂果等の障害発生機構の解明を行い、一定の成果が得られた。すなわち、リンゴ及びブドウ果実のアントシアニン生成経路の詳細な調査を基に、暖地産果実の色素発現生理の一部を解明することができた。例えば、ブドウ'巨峰'の場合、適地である長野産はアントシアニン含量が高く、暖地産のものは低含量であったが、熊本産はプロアントシニンやフラポノール含量が高く、前駆体のフラバノノールからアントシアニンに至る経路が高温によって阻害され、一方、和歌山、広島産ではこれらの含量が低く、フラパノノール合成以前の過程で阻害された可能性が推察された。ジャスモン酸アナログのn-プロピルジハイドロジャスモン酸(PDJ)とABA混用処理をベレゾーン以前に行うと、不適環境下での着色改善に効果があった。暖地リンゴの着色に及ぼす環境要因について、紫外線(UV)吸収及び透過フィルムで被袋し、さらに果実温を調節して検討したところ、低温(外気温より3〜4℃低い)によってアントシアニン畜積が認められ、内生ABA含量も増加する傾向にあった。しかし、UVの影響については明らかにし得なかった。リンゴ品種には貯蔵中に果皮に脂発生するものがあり、'つがる'果実で検討したところ暖地産(和歌山、熊本、広島)は'ふじ'同様着色は劣るが、適地産(秋田)に比べ脂上がりが少ないことが認められた。果実成熟にABAが関与することがオウトウ及びブドウ'ピオーネ'における消長から伺えた。すなわち、ブドウでは着色期前にs-ABAのピークが観察され、着色に勝る有核果で明らかに高い含量であった。また、種子で生産されたs-ABAは果皮ABA濃度を上昇させるが、t-ABAへの代謝はないことを明らかにした。モモの着色機構についても、無袋果が有袋果に着色が勝ることから直光型であることを認めた。さらに裂果障害を人為的に再現するため、葉の水ポテンシャルで-3.0MPa程度の乾燥処理を施したが裂果は起こらなかったものの、糖度が向上すること、フェノールの蓄積があることなどを認めた。これらの知見は暖地における品質改善への指針として利用できる。
著者
長谷川 耕二郎 北島 宣
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

カキ果実の離脱過程は"誘導段階"→"決定段階"→"実行段階"と考えられるが、離脱過程に関与する要因は明らかではない。本研究は、離脱過程に関与する要因を明らかにするとともに、離層細胞の形態形成と離脱過程における形態的変化を明らかにし、"実行段階"を分子細胞生物学的に捉えようとした。離層細胞は満開6週間前から識別されはじめ、満開4週間前には離層組織が観察でき、満開1週間後にはほぼ完成していた。樹上環状剥皮処理果実と室内水差し処理果実の離脱の推移はほぼ同様であり、両者の離脱過程はほぼ同様であると考えられた。20℃→5℃の変温処理では子房より果梗が顕著に早く離脱するので果梗と子房の離脱過程は異なると考えられた。エチレン発生量は離脱前に増加し、果肉部より果梗部から発生していた。さらに、35℃、20℃で離脱前に急激に多量のエチレンが発生し、変温処理では少量ではあるが離脱前にピークを示しており、少量のエチレンが離脱に密接に関係していると考えられた。採取果実のジベレリンとサイトカイニン様物質処理による、離脱、呼吸量、エチレン発生量の違いはみられず、これらは離脱過程に関係していないと考えられた。35℃処理、20℃処理、20℃36時間後5℃処理、20℃24時間後5℃処理、20℃12時間後5℃処理の順に自然離脱と強制離脱の差が小さく、離脱の実行段階の進行は温度に依存していると考えられた。35℃、20℃、20℃48時間後→5℃、20℃36時間後→5℃、20℃24時間後→5℃処理ですべて離脱したが5℃処理は離脱せず、20℃では24時間までに決定段階に入っていると考えられた。20℃処理果実の離層細胞は処理24時間後から凝縮した核が散在的に観察でき、時間の経過に伴ってその数は増加した。このことから、果実の離脱は核の断片化によるアポトーシスである可能性が示唆され、実行段階は核の断片化で捉えられると考えられた。
著者
林 進 伊藤 栄一 岡田 正樹 塚本 睦 中川 一 野平 照雄 山口 清 横井 秀一
出版者
岐阜大学
雑誌
岐阜大学農学部研究報告 (ISSN:00724513)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.9-26, 1992-12-25
被引用文献数
1

国指定天然記念物「臥龍桜」は,岐阜県宮村にある推定樹齢一千年の,淡墨桜に次ぐ県下第二位の老大樹である。その姿には,一千年という時間の厳しさ,またそれを生き技いてきた樹自身の生命力の強さが表されている。しかし,近年腐朽が進み樹勢維特上不安が持たれている。このため早急に何らかの対策を講じなければならない。樹木保護に当たっては総合的な対策が必要であるが,現在そのための調査方法や,対策技術が未確立な状況にある。そこでそれらの確立に向けて基礎調査研究を行った。調査は,現状を把握するため,桜本体の形状,腐朽部,成長状況,葉・花・根の様子,病虫害について行った。調査の結果から,臥龍桜の樹勢は旺盛である点,しかし,腐朽が強度に進行している部分もありそれらに対しての防腐対策,さらには,樹形保存のための外科手術など,多くの保護対策を講じる必要がある点などが考えられる。これらの保護対策は,それぞれ個別の対策ではなく,総合的に実施されること必要である。そのため,臥龍桜の保護管理サポートシステムを確立すること,モニタリングを長く継続して行うことが必要となる。以上のことから体系的樹木医学の確立へのステップとなり得る研究として報告する。
著者
有馬 道久
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究では,小学校に入学した児童が,潜在的カリキュラムをどのようにして習得していくのかについて検討した。2000年度は,小学校1年生のあるクラスについて,4月,6月,11月,翌年の3月に計36日間,計58時間の授業を観察,録画し,カテゴリー分析と事例分析を行った。このクラスには40名(男女同数)の児童が在籍し,担任教師は教歴17年の39歳の男性であった。その結果,児童は,潜在的カリキュラムの1つである教室ルールとして,「適切な姿勢のとり方」,「発表の仕方」,「号令の掛け方」などを学習することがわかった。教師は,入学直後は「説明する」という方略を用いるが,しだいに「ほめる」,「注意する」,「待つ」という方略を多用するようになることがわかった。2001年度は,1年生の別のクラスについて,4月,11月,翌年の2月に計32日間の朝の会と48時間の授業を観察,録画した。このクラスには35名(男子20名,女子15名)の児童が在籍し,担任教師は教歴32年の54歳の女性であった。ADHD(注意欠陥/多動性障害)児と集団保育未経験児の2人の児童に焦点を当てて,事例分析を行った。その結果,教師は,この2人の児童に対してかなり長時間の個別対応を行い,社会的スキルを指導していることがわかった。そして,この相互作用を通じて,クラスのすべての児童に「我慢すること(教師の指示に従うこと,順番や時期を待つこと,課題に集中すること)」という潜在的カリキュラムを教えていることが明らかになった。