著者
平石 裕実
出版者
京都産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究では、百台規模のクラスタシステム上での実行に適した並列分散型の形式的設計検証アルゴリズムの研究を行い、以下の成果を得た。1.二分決定グラフ(BDD)の並列処理:論理関数処理を進めていく過程で、動的に真理値を固定する変数を選択していくことによりBDDを分割して並列処理を行うアルゴリズムを提案し、このアルゴリズムにより並列度以上の高速化(スーパーリニア効果)が達成できることを示した。また、クラスタシステム上でこのアルゴリズムを実行することにより、1台の計算機上での逐次アルゴリズムではメモリ不足のために解くことが出来ないような問題でも、並列化により解くことが可能になった。2.探索処理の並列アルゴリズム:設計検証で用いられる探索問題に対して、探索処理中に動的に部分問題に分割し、分割した部分問題を各マシンに動的に割り当てて並列に探索を行うアルゴリズムを提案し、最適順序付け問題でスーパーリニア効果を達成できることを示した。3.並列システムの設計検証:多数の並行プロセスからなるシステムの検証に適した記号モデル検査アルゴリズムとデッドロックフリー性の検証手法を提案し、従来手法に比べて100倍以上高速化できることを示した。4.並列ソーティングアルゴリズム:クラスタシステムで並列バイトニックソートの有効性を検証した。複数のスイッチングハブを用いたイーサーネットワークを使用したクラスタシステムでは、予想通りスイッチングハブ間の通信がボトルネックになることが判明した。一方で、VIA方式によるcLANのフルバンド幅構成のネットワークを採用することにより、このようなボトルネックを解消できることを示した。
著者
高際 澄雄
出版者
宇都宮大学
雑誌
宇都宮大学国際学部研究論集 (ISSN:13420364)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.123-140, 2003-03-01

Milton's poems, L'Allegro and Ill Penseroso, and Dryden's A Song for St Cecilia's Day and Alexander's Feast were essentially important for Handel's career in that they showed him how rich the English literary tradition was so that he completely abandoned writing Italian opera for the composition of oratorio in English after the setting of music to these poems. Not only the English literary tradition, but also the musical one was important for him, though the precise influence of the late seventeeth-century English music on Handel's career has never been fully described. This paper analyses the six predecessors of Handel's Odes for St Cecilia's Day, i.e. the odes by Henry Purcell, Giovanni Baptista Draghi and John Blow, showing how quickly English music developed after the restoration of monarchy in 1660. It also tries to prove how rich the English musical activities had already been before Handel's arrival in London in 1710.
著者
笹川 千尋 冨田 敏夫 戸辺 亨 福田 一郎
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1992

赤痢菌は経口的にヒトへ感染後回腸に到達し、腸上皮細胞へ自ら食作用を誘発し細胞内へ侵入する。これには本菌の有する大プラスミド上のipaBCDから産生される侵入性蛋白(IpaB,IpaC,IpaD)が深く関っていることが知られているが、その機序は不明であった。そこで本研究ではIpa蛋白の性質と侵入に果す役割を理解する目的で、(i)Ipa蛋白の上皮細胞に対する作用、(ii)Ipa蛋白の菌体外論送機構、(iii)ipaBCD遺伝子の発現調節機構、の以上3つの研究を実施し、以下に列挙する知見を得ることができた。(1)Ipa蛋白は通常菌体表層に発現し結合状態にあるが、菌体から遊離することが細胞侵入に不可欠である。(2)Ipa蛋白の菌体からの遊離には、菌と上皮細胞との接解が必須である。(3)(2)の現像は、菌と細胞外マトリックス(フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲンIV)との接解により惹起される。(4)Ipa蛋白の遊離能には、大プラスミド上のSpa遺伝子の1つ、Spa32が関与している。(5)遊離したIpaBとIpaC蛋白は複合体を形成し、IpaDと共に上皮細胞上のレセプター(現在同定中)に結合する。(6)IpaB、IpaC、IpaDの菌体外論送には、大プラスミドのコードするmxi領域と共に、Spa領域が必要である。(7)Spa領域中には8つのSpa遺伝子が存在する。(8)Spa蛋白のアミノ酸一次構造は、動物・植物病原菌に広く存在する蛋白分泌系蛋白と著るしい(20〜45%)ホモロジーを示し、互いの遺伝子構成も類似している。(9)(8)で認められる蛋白による蛋白論送系は、Sec-依存的蛋白論送系あるいはヘモリジン蛋白論送系とも異なる、第3の蛋白論送系である。(10)ipaBCDの温度依存的な発現調節は、本遺伝子群の正の転写因子、virB、の転写段階で行なわれている。以上の成果は欧米でも注目され、平成6年にはゴ-ドン会議に於て招待講演として発表を行った。
著者
西岡 弘晶
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

グラム陰性菌は、呼吸器、消化器、尿路、皮膚・軟部組織など、様々な部位に感染し疾病を引き起こし、その予防、治療は大変重要な課題である。グラム陰性病原細菌の多くは、宿主細胞へ接触すると、特殊な分泌機構を通じて、一群の分泌性機能蛋白質(エフェクターと呼ばれる)を宿主細胞質へ注入し、感染に必要な機能を誘導する。そこでグラム陰性菌の一つである赤痢菌から、感染に不可欠なエフェクター蛋白質を、ネイティブな形で精製する方法を確立し、そのエフェクター蛋白質どうし、あるいはエフェクター蛋白質と宿主因子の相互作用を明らかにすることを試みた。赤痢菌が宿主細胞へ感染する際に不可欠なエフェクター蛋白質は、IpaB、IpaC、IpaDと呼ばれる3つの蛋白質であり、IpaBとIpaCは複合体を形成することが知られているが、その詳細は明らかではない。本研究により精製したネイティブな形のIpaB/IpaC複合体は、安定した水溶性の複合体を形成しており、分子量はおよそ200kDで、IpaB : IpaC=1:3-5で結合していることが示唆された。またIpaB/IpaC複合体は、高度な二次構造を形成し、複合体を形成することで安定した構造をとることも示唆された。この複合体の形態は直径10-20nmの球状であり、電子顕微鏡でも可視できた。IpaB/IpaC複合体は、赤血球膜にコレステロール依存的に結合し、真核細胞形質膜にはコレステロール及びCD44依存的に結合した。その際IpaB/IpaC複合体は、リピッドラフトに存在した。またIpaB/lpaC複合体はリボゾームと結合し、小孔を形成した。同様にIpaD蛋白は35kDの蛋白として精製された。またIpaDの部分変異株の解析により、IpaB/IpaC複合体の真核細胞形質膜への挿入に、IpaDが関与していることを見出した。
著者
新山カリツキ 富美子
出版者
藤女子大学
雑誌
紀要 (ISSN:13483870)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.59-88, 2001-03-31

聖母マリアの母,聖アンナを尊ぶ風潮は,東方教会においては6世紀以来存在するが,西方教会においてはようやく10世紀になって認められた。聖アンナの祝日は1481年に教皇シクストゥス4世によってローマ暦に採り入れられ,1584年に教皇グレゴリウス13世によって7月26日と定められた。聖アンナは貴婦人として描かれ,聖母マリアと幼子イエズスを両手に抱いて守っている姿(Anna Selbdritt)が多くの絵や彫刻に表されている。ドイツ語圏で最も古い女子修道院であるノンベルク修道院は,714年の創立以来,聖母マリアへの崇敬を守っているが,マリアの母である聖アンナに対する崇敬も大切にしている。14世紀から16世紀にかけて,8名の修道院長がアンナを名乗っていることも,その現れの一つである。また,数々の絵や彫刻はもとより,アンナの祝日が典礼上いかに守られてきたかは,現存する中世の写本や修道院の記録にもうかがうことができる。その中でも興味深いのが3つの賛歌(Hymnen)と,1600年頃に書かれた,アンナの時祷(Officium)のドイツ語訳祈祷書(Cod.23 E17)である。ここでは,特に3つの賛歌(ノンベルクの2冊の賛歌集の中で,一人の聖人のための賛歌が3つも収められているのは,聖アンナの場合のみである)について,テキストにおいてもメロディにおいても,ノンベルクの修道女たちによって書き換えられた箇所を,他の写本と比較し,検討を加えた。聖母の母である聖アンナは,特に女性にとって崇敬の対象とされ,彼女の祝日のためのテキストや音楽は,ノンベルクのみならず,当時のザルツブルクに存在したペータースフラウエン女子修道院の写本にも残されている。
著者
丹波 敏子
出版者
東京女医学会
雑誌
東京女医学会雑誌
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.5-6, 1937-02

東京女医学会第3回総会 昭和11年11月22日 東京女子医専「クリニツク」講堂
著者
田岡 賢雄 遠藤 高由
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.75-83, 1980-03-01

マウスのウイルス肝炎を実験モデルとして抗胸腺リンバ球作清(ATS)とそのγ-グロプリン分両および抗プラズマ細胞血清の投与により, 実験的免疫不全状態を作成し, この場合の肝炎の推移と細胞性免疫の関与について検討したところ, ATS投与により肝炎は軽減化するが遷延する. 組織学的にもKupffer細胞の動員, 門脈域や小葉内の細胞浸潤, 線維増生が対照に比して強かった.(1979年11月22日 受付)
著者
吉水 千鶴子 佐久間 秀範 小野 基
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、チベット人シャン・タンサクパ著『中観明句論註釈』の写本解読により、インドからチベットへ、チャンドラキールティの帰謬論証を用いる中観思想がインドの仏教論理学と融合しながら伝承された11~12世紀の時代思潮を明らかにした。すなわちチャンドラキールティ自身が先行するディグナーガの論理学を取り入れており、中観派によって他者に真実を知らしめるための命題と論理の使用は是認される。この新しい知見により、本研究は中観仏教思想史を見直し、論理学との融合過程に焦点をあてて再構築した。
著者
園田 直子 日高 真吾 岡山 隆之 大谷 肇 増田 勝彦 青木 睦 近藤 正子 増田 勝彦 青木 睦 金山 正子 関 正純 村本 聡子 森田 恒之 大江 礼三郎
出版者
国立民族学博物館
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

図書・文書資料に適用できる劣化度評価法のうち、ローリングテストはほぼ非破壊で実施でき、通常の物性試験では測定不可能なほど劣化の進んだ紙の劣化度評価に適用できる可能性を持つ。アコースティック・エミッションは最小限の破壊はあるものの、劣化度評価に有効である。極微量のサンプル量を必要とする熱分解分析法は劣化度評価だけでなく、これにより劣化機構の違いが解明できることが示唆された。紙の劣化度を考慮に入れながら強化処理法を検証した結果、セルロース誘導体による強化処理は状態の良い酸性紙に対する予防保存的措置として、ペーパースプリット法は対処療法という位置づけが明確になった。
著者
泉 武夫 長岡 龍作 シュワルツ・アレナレス ロール 井上 大樹
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

兜率天上の弥勒菩薩の造形について、インドから日本中世までの展開過程をおおよそ明らかにした。中国唐代までは持水瓶・交脚形が主流であるが、宋代およびその影響を受けた日本中世では持麈尾・趺坐形が浸透する。また兜率天浄土の表現についても、中央アジアから中国、日本に至る図様形成と変容状況を遺品から跡づけた。とくに日本中世の兜率天曼荼羅図のタイプを整理することができた。
著者
佐久間 秀範 吉水 千鶴子 ALBERT Muller 馬淵 昌也 吉村 誠 橘川 智昭 岡田 憲尚
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

研究期間内に以下の三つのプロジェクトを完成させた。1.『大乗荘厳経論』第三章、第六章、第十九章の偈頌(サンスクリット語、チベット語訳、漢訳)、世親釈(サンスクリット語、チベット語訳、漢訳)、無性釈(チベット語訳)、安慧釈(チベット語訳)の対照テキスト。2.研究チームで五姓各別のインド、中国、韓国、日本の総合研究。3.研究チームで玄奘訳『仏地経論』全体の日本語訳(日本初)の吟味。
著者
越智 保雄 松村 隆
出版者
電気通信大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

各種熱産業,工場などから排出される大量で低温度レベルのエネルギの利用法の一つとして,形状記憶合金をエネルギ変換素子として利用する動力回収システムの開発のため,形状記憶合金の熱・機械的繰返し変形特性と疲労寿命評価に関して基礎的研究を行った。用いた形状記憶合金は安定性,耐食性,変態温度や疲労特性等の点で優れた性質を持つとされているTiNiCu系合金であり,Cu濃度を0〜13%に変化させたものと,形状記憶熱処理温度348K-363Kと変化させた7種類の合金を用いた。得られた主な結果をまとめると以下のようになった。1. マルテンサイト変態温度Ms点はCu濃度が増加するにつれて上昇し,逆変態温度As点はCu濃度の増加につれて低下するが,M相の結晶構造が単斜相M相から斜方相M相に変態する状態になると再び上昇した。2. 繰返しによる有効ひずみエネルギWaは,最大ひずみε_<FTBK>が3%の範囲ではCu濃度の増加とともに増大するが,高ひずみ範囲ではほぼ一定となった。3. 回復ひずみエネルギの1サイクル当たりの減少量で定義した散逸ひずみエネルギは,Cu濃度の増加とともに低下した。回復ひずみエネルギは高いCu濃度域においては試験サイクルによる差異は認められなかった。4. 繰返し応力-ひずみ曲線の面積で定義した回復ひずみエネルギと寿命の両対数関係から,最大ひずみが4%以上では熱処理温度が高いほど低寿命となったが,最大ひずみが3%以下では加熱温度の影響はなく両対数ほぼ一本の直線で評価できた。5. 散逸ひずみエネルギと疲労寿命の両対数関係から,加熱温度,最大ひずみによらず散逸エネルギが減少するほど長寿命となる一本の直線関係で評価できた。7. 超弾性サイクルにおける疲労寿命は,Cu濃度が5〜10%の領域で低寿命となった。一方,熱・力学的サイクル条件下ではCu濃度の増加にともない低寿命となった。