著者
尾崎 貴士
出版者
大分大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

研究代表者が所属する研究室では、SLEモデルマウスと野生型マウスの脾臓および血液中に含まれる脂質メディエーターの濃度を、計159種類の脂質メディエーター関連物質を解析対象とした液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS)を用いて解析を行った結果、SLEモデルマウスではパルミトイルエタノールアミド(PEA)及びオレオイルエタノールアミド(OEA)の濃度が野生型マウスに比べて血中及び脾臓内で低値であることをこれまでに明らかにした。そこで、SLEの病態形成機序に関わっているToll様受容体9(TLR9)刺激に対するPEAの作用を解析することとし、これまでの研究においてPEAは骨髄由来樹状細胞におけるTLR9刺激による炎症性サイトカイン(IL-6, IL-12, IL-23)の産生をmRNAレベルおよびタンパクレベルの両者で抑制することを見出した。また、同様に脾臓B細胞やマクロファージ細胞株(Raw 264.7細胞)においても、PEAはTLR9刺激によるIL-6の産生をmRNAレベル、タンパクレベルで抑制した。さらにPEAは、骨髄由来樹状細胞においてTLR9刺激による細胞表面マーカー(CD86、CD40、MHC ClassII)の発現を抑制し、同様にB細胞においてもCD86とCD40の発現をPEAは抑制することを見出した。また、本年の研究により、PEAはTLR9刺激によるマウス脾臓B細胞の増殖を抑制すること、さらにB細胞におけるTLR9刺激によるIgM抗体産生も抑制することを明らかにした。in vivo においても、TLR9刺激薬であるCpG-ODNとDガラクトサミンを用いたseptic shock modelマウスにおいて、PEAを投与することにより血中IL-6濃度の上昇が抑制されることをすでに見出しており、一連の研究結果から、SLEをはじめとするTLR9刺激よる炎症病態の制御にPEAが有用である可能性が示唆される。
著者
宮坂 力 近藤 高志 早瀬 修二
出版者
桐蔭横浜大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2019-06-26

鉛を含有しない安価で耐久性に優れる環境適応型のハロゲン化ペロブスカイト材料を創製し、これを用いる光電変換素子のエネルギー変換効率を鉛型のレベルまで高めるための材料組成と製膜技術を構築し、無鉛型ペロブスカイトを用いる光電変換素子を高性能化して実用化を促すことを目的とする。ビスマス、スズ、チタン、銀などの金属カチオンで構成されるペロブスカイト結晶の薄膜を高品質で製膜する方法を溶液法と真空蒸着法の両面から検討し、光物性の計測等をもとに光発電における電荷再結合損失を抑制する組成改良と製膜方法の技術基盤を構築し、光電変換素子の高効率化につなげる。
著者
長谷川 修司 平原 徹
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010

今まで我々は10年以上にわたって,マイクロ4端子プローブ法という新しい実験手法を開発し,それらを用いて表面・モノレイヤー(単原子層)の伝導物性の研究を展開してきた。本研究では,さらにその装置性能を向上させ、ミリケルビンの超低温(0.4K)および7Tまでの強磁場中でのマイクロ4端子プローブ測定を可能とし、モノレーヤー(単原子層)超伝導の探索やモノレーヤー磁気輸送の研究に発展させる。
著者
鈴木 絢子
出版者
北海道大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2019-08-30

予防接種政策の評価基準の1つとして費用対効果分析が広く利用されており、日本においても研究が行われているが、多くは感染症の罹患リスクと予防接種率との間に線形の関係を想定したモデルを用いる傾向がある。しかし、ワクチンには集団免疫等の間接的効果があり、感染リスクと接種率の関係は本質的に非線形であるため、伝播メカニズムを捉えた数理モデルを用いて間接的効果を加味した評価が求められる。本研究ではワクチンの間接的効果を考慮し、日本において理論的に最適な予防接種政策を確立することを目的とする。
著者
田崎 博之 大久保 徹也
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

①資料の調査と分析土器生産技術の共有化と維持・伝達を考察するため、「限られた集団によって製作された」と考えられる土器群として、まず土器づくりの場に廃棄された焼成失敗品を取り上げた。具体的な資料は、愛媛県文京遺跡12次調査SK-21と23次調査SX-16(弥生中期後葉)、福岡県迫額遺跡土壙24(弥生後期初頭)出土の焼成失敗品を含む土器群であり、形状や調整痕跡、施文手法に着目して分析を行った。また、画一性の高さから特定の限られた遺跡もしくは遺跡群で生産されたと考えられる香東川下流域産土器群(弥生後期中葉~終末)について、製作技法・手順・胎土的特徴を観察し分析を進めた。分析に供した資料は、高松平野域の27遺跡約900点、徳島・岡山県域の41遺跡の約1500点である。一部については薄片プレパラートを作成し岩石学的観察を行った。加えて、土器焼成失敗品の出土を確認できた石川県八日市地方遺跡(弥生中期中葉と後葉)と、大阪府上の山遺跡(弥生中期前葉)の資料の予備的な調査を行い、次年度の本格的な資料調査と分析にそなえた。②研究集会での分析結果の検証と意見交換研究代表者・分担者・協力者が参画する研究集会を計3回開催した。岡山大学での第1回研究集会においては、研究目的・内容の共通認識を得るとともに、分析資料を絞り込むことができた。香川県埋蔵文化財調査センターで開催した第2回研究集会では、香東川下流域産土器群について、成形・整形・調整痕跡の観察、製作手順の復元、胎土類型について実物を観察しながら検討した。第3回研究集会は愛媛大学で開催し、文京遺跡出土の土器焼成失敗品を観察し、分析結果について論議した。加えて、筑前町文化財収蔵庫で実施した迫額遺跡出土土器群の資料調査では、分析成果の中間成果、分析方法についての意見交換を行い、問題点の整理、問題解決のための方策を検討することができた。
著者
廳 茂
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

「社会学」という学問の形成に歴史的にみて重大な意義を果たした19世紀後半から20世紀初頭の初期ドイツ社会学の包括的な思想的布置は、ウェーバー研究を除けば、今日に至るまで十分に解明されていないテーマである。本研究は、当時を代表するディルタイ、テンニース、ジンメルの3人の思想家の関係と相違に着目しつつ、そもそも社会学とはいかなる思想的課題を担ったものであったのかを明らかにしようとしたものである。とりわけ、ジンメルを中心におき、そこにディルタイとテンニースなどを絡ませる形で、研究を進めた。ドイツ社会学の思想的意味をめぐる研究の基礎を立ち上げるまでには、研究は確実に進捗したといえる。
著者
高木 周 関 和彦 神保 泰彦 榛葉 健太
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的研究(開拓)
巻号頁・発行日
2020-07-30

超音波の脳神経系の刺激に関しては,神経細胞レベルで発火が観測されている複数の報告がある一方,マウスを用いた動物実験では,脳への超音波刺激による運動誘発は脳神経系への刺激ではなく,聴覚を刺激する音の影響によるものとする異なる内容の報告がなされている.申請者らは,超音波が神経細胞の活動を誘発し,生体の運動誘発が達成できる可能性について,独自の実験系や数値解析手法を利用して,その詳細を調べる.本実験で得られた知見は,今後,脳神経系に損傷を与えない低強度の超音波による脳活動の活性化などへの応用に繋がり,将来的にはリハビリや認知機能の改善などへの革新的技術へと展開していくことが期待できる
著者
木林 和彦
出版者
熊本大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

1)脳皮質挫傷による神経細胞死の機序(特に、アポトーシスの関与について):脳皮質挫傷7症例、脳皮質挫傷と類似の組織所見を呈する脳梗塞6症例及び正常対照5症例について約2週間ホルマリン固定した脳の肉眼検査を行い、損傷(病変)部位2個と定常部位13個の組織標本を作成して髄鞘染色と軸索染色を行った。神経細胞の虚血性変化は受傷後約6時間から始まり、軸索の腫張は12時間前後で起こり、境界明瞭な髄鞘の崩壊は約1日で形成されることを明らかにした。また、in situ end labeling法によるアポトーシスの検出と免疫組織化学法によるアポトーシス抑制因子bel-2の検出を行ったところ、皮質挫傷と梗塞の周辺部に神経細胞のアポトーシスと星状膠細胞のbel-2発現が観察された。今後検討を重ねて、皮質挫傷による神経細胞死の機序にはアポトーシスが関与し、星状膠細胞がbel-2を発現して神経細胞のアポトーシスを抑制していることを証明する。2)脳皮質挫傷に伴う深部白質損傷:瀰漫性軸索損傷の自験17症例の受傷機転と神経病理を検索した。瀰漫性軸索損傷の多くは頭部顔面への前後方向叉は上下方向の外力で生じ、受傷後生存期間と脳組織標本の関係から受傷後早期に脳橋内側毛帯に軸索腫張が出現することが判明した。以上の結果は法医解剖例の受傷機転の解析と瀰漫性軸索損傷の診断に役立っている。現在、脳皮質挫傷7症例について、脳の深部白質における軸索変性を抗ニューロフィラメント抗体を用いた免疫組織化学法によって検索しており、脳皮質挫傷には"intermediate coup contusion"と言われる深部白質損傷が高頻度に合併することを証明し、また瀰漫性軸索損傷との移動を明らかにする。
著者
永田 靖
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

タグチメソッドは田口玄一博士が長年にわたり独力で開発してきたデータ解析手法の総称であり,世界中の技術者により用いられている.タグチメソッドは,①SN比に基づくロバストパラメータ設計,②MTシステムと呼ばれる独自の多変量解析手法,③損失関数を用いた評価技法の3つに分類できる.本研究では,①と②を取り上げ,既存手法の理論的性質を明らかにし,様々な改良手法を提案した.これらの研究成果のいくつかは,関連学協会からの賞の対象となり,この分野の研究者や技術者から高く評価されている.
著者
杉原 重夫 叶内 敦子 梅本 亨 竹迫 紘 小疇 尚
出版者
明治大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1992

平成4年度は、伊豆半島先端部の蛇石大池湿原において、深度40mまでのオールコア採取の機械ボーリングを行った。ここでは、深度35.3mまで池沼性の有機質堆積物が認められ、示標テフラの同定、^<14>C年代測定から最終氷期以降の堆積物であることが明らかになった。また花粉分析の結果、約5万年以降の植生変化が明らかになった。このほか東北地方南部から中部地方にかけての湿原(矢の原湿原など)においてシンウォールボーリングを行い、試料を採取して^<14>C年代測定などの分析を行った。平成5年度は、内陸の乾燥地域の湿原(長野県の八島ヶ原湿原)と、日本海側の多雪地域の湿原(福島県の大曽根湿原)においてボーリング調査を行った。八島ヶ原湿原では採取した約6mの試料全層について、微化石(花粉・珪藻)分析とテラフの同定・レスの検出を行った。大曽根湿原(福島県)では約3mの試料を採取し^<14>C年代測定と花粉分析を行った結果、完新世に形成された湿原であることが明らかになった。平成6年度は、日本海側の多雪地域の湿原(福島県苗場山山頂湿原・新潟県小松原湿原)においてボーリング調査を行った。これらの湿原の泥炭層から妙高系、浅間系のテフラが数枚検出された。湿原堆積物の花粉分析の結果、両湿原とも完新世に形成された湿原であることが明らかになった。本年度までに行った各地の湿原調査・研究の結果、湿原の形成年代や成因が明らかになった。また、湿原堆積物の花粉分析から最終氷期の寒冷化の開始時期について新たな知見を得て、湿原の気象観測結果と既在の気象データを整理し、実験的に山地の降雪現象をシミュレイトした。
著者
植野 洋志
出版者
大阪医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

ゴシポールの多岐にわたる作用機構の解明の為に、二枚貝であるSpisula solidissimaの精子をモデルとして実験を進めた。まずは、精子の細胞膜表面に存在するゴシポールの受容体と思われるタンパク質の同定を目標とした。Spisulaより多量の精子を採取し、Triton X-100を含む緩衝液で精子を処理後、可溶化されたタンパク質の精製をアフィニティーカラムを使って試みた。アフィニティーカラムには、ゴシポール、および、ゴシポールの酸化物であり、精子とのインターラクションの後、誘導されると思われるゴシポロンを幾種かの市販のアフィニティーゲルにカップリングさせたものを準備した。SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法による解析の結果、幾種の特徴的なバンドが観測された。その内、3種類のタンパク質をゴシポール受容体として精製をおこなった。ゴシポールの構造類似化合物および誘導体と精子との相互作用を検討した。これにより、ゴシポールの構造上、どの部位がその生理作用発現に関与するかを知る事ができると考えた。20種近い構造類似物および誘導体が及ぼす精子の運動能力、酸素消費量、そして卵子との受精効率への効果を比較検討した。その結果、アルデヒド基の存在は全ての生理作用に必須であり、受精効率と構造上との間での相関はなかったものの、ゴシポロンの生成には第2芳香族環に存在する水素原子の存在が必要であることが判明した。ゴシポールのもつ生理作用をより深く理解する意味で精子運動を阻害する他の化合物、例えばカルシウムチャンネルブロッカーやtricyclic antidepressant剤の作用を検討した。これらの試薬とゴシポールとの拮抗作用も検討した。近年、生殖のメカニズムに神経伝達物質であるGABAおよびGABAの合成を司るグルタミン酸デカルボキシラーゼの関与が示唆されており、我々は偶然に抗グルタミン酸デカルボキシラーゼ抗体が前出のゴシポール受容体タンパク質の一部と反応することを見つけた。現在、その意味合いを解明中であるが、GABAを通じての精子運動の制御機構は未だ知られておらず今後の課題として興味深い。
著者
三浦 佳二
出版者
東北大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究においては、グラフ版のHodge-小平分解の神経科学への応用を目指した。Hodge-小平分解は、向き付けられたネットワークを流れに見立てて勾配流、大域循環流、局所渦の3成分へと分解して、ネットワークの構造解析を可能とする。例えば、大域循環流(harmonic flow)の自由度はネットワーク中のループの数に対応し、勾配流の自由度は連結成分数を反映する。本年度は、このHodge-小平分解を青木・青柳らによる時間変化するネットワークモデルの構造解析に応用した。その結果、ネットワークの結合の時間変化を支配する学習則がSTDP則(β~0)である時に、ループが多くでき、Hebb則(β<-0.5)である時にはループができにくいことを解明した。また、ネットワークの不変量であるループの数が、従来知られていたこのモデルの分岐図(Aoki & Aoyagi 2009, 2011)を反映するだけでなく、これまでカオス領域としてひとくくりにされていたパラメタ領域(Anti-Hebb則,β>0.3)をさらに細かく特徴づけることを可能とすることを発見した。また、Hodge-小平分解のデータ解析への応用だけでなく、脳のモデルとして、脳の触覚系がHodge-小平分解のアルゴリズムを利用して、不変量を取り出しているという仮説を提案した。数学のトポロジーの分野において導かれた(連続変形において保存する)不変量を活用することで、2次元タッチパネル上の指の形や位置に全く影響を受けず、タッチ回数を正しく数える並列アルゴリズムを提案した。
著者
近藤 亮介
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

研究2年目にあたる本年は、19世紀中葉のアメリカにおけるピクチャレスクについて、「パーク(park)」概念に焦点を当てて検討した。主な対象としては、アメリカ最初の郊外住宅地であるニュージャージーのルウェリン・パーク(1853)とアメリカ最初の公園であるニューヨークのセントラル・パーク(1857)を扱った。この研究成果は、「2つの公園―ルウェリン・パーク(1853年)とセントラル・パーク(1857年)」として、日本臨床政治学会(専修大学、2015年10月24日)にて口頭発表(招待講演)を行った。また、前年度の研究成果を踏まえ、トマス・ジェファソンの私邸・大農園である「モンティチェロ」の造園を英国風景式庭園およびピクチャレスク美学との関係から分析した「アメリカのピクチャレスク移植―19世紀前半の農園と霊園を中心に」を、日本18世紀学会第37回大会(東京大学、2015年6月20日)にて口頭発表した。さらに、前年度から引き続き、19世紀前半の英国におけるピクチャレスクについての理解を深めるために、1790年代以降の美学言説の精読を行った。その研究成果の一部として、美学言説と植物学・旅行との関係性からピクチャレスクの社会的受容を考察した論文「ジェームズ・プラムトリが見たピクチャレスク美学―『ザ・レイカーズ』(1798)を読む」を『日本18世紀学会年報』(日本18世紀学会、第30号、2015年6月)で発表した。その他、夏期休暇には、ルウェリン・パークおよびセントラル・パークの実地調査だけでなく、ヨセミテ国立公園とイエローストーン国立公園の実地調査・資料収集も行うことができた。1860~70年代にかけてオルムステッドが深く関与した国立公園構想と環境主義についての論文をまとめることが、今後の課題である。
著者
高橋 美野梨
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本プロジェクトの目的は、近年のグリーンランドにおける自治と気候変動との相関をめぐる政治的諸相を明らかにすることに向けられた。明らかになったのは、グリーンランドにおける自治のあり様が、各地域に見られる気候変動に対するさまざまな解釈に規定されているということであった。すなわち、気候変動をスナップ的に切り取ることで方向づけられる立場と、気候変動を長い時間軸の中で捉えることで方向づけられる立場との相関によって形作られているということであり、前者は西部・南部に比較的多く見られ、後者は北部・中西部に比較的多く見られる傾向が見出せた。
著者
鈴木 哲 松井 岳巳 安斉 俊久 孫 光鎬 菅野 康夫
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では,マイクロ波を用いた完全な非接触での生体計測手法を応用し,血圧変動を推定する手法の確立を目指すことを目的とした.手法の有効性の確認のための,①推定法の理論的検討,②システムの試作,③実験室内における試作したシステムの評価実験,を実施した.さらに,臨床的知見の蓄積とシステムの問題点の確認のため,④医療現場における心不全患者へ適用した実証実験,の4点の実施を目標とした.結果として,理論構築およびシステム試作,さらに評価実験を行い,ある程度良好な結果を得た.一方で,臨床的知見の蓄積のための調査については,安全性と精度に課題があったため十分な実施が出来ず見送る結果となった.
著者
ヤーッコラ伊勢井 敏子 広瀬 啓吉 堀田 典生 板井 陽俊 越智 景子
出版者
中部大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

言語差は発話時の呼吸の制御や腹筋・胸筋と切り離せないことや下腹部の筋肉は呼吸筋とは異なる動きをすることが明らかになった。発話時の呼吸回数に差はほぼないが,呼気量の制御に言語差が見られた。さらに,男女差は言語によるが腹筋・胸筋の使い方に出る。ポーズ制御に言語差が大きく出る。文法的単位や韻律単位になり,文・節・句以外に複合語や単語レベルにも及ぶ。また,母語と学習外国語の差は,母語で使う呼吸方法や腹筋・胸筋の使い方の影響が出る。加えて,喉頭制御は腹筋・胸筋の動きとは必ずしも連動しないことや,肺活量に基づく年齢(肺年齢)と実年齢では大きな不一致があり喫煙との相関はほぼないということも確認できた。
著者
長内 和弘 栂 博久 高橋 敬治
出版者
金沢医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

肺胞II型上皮細胞で産生される肺サーファクタントは肺の恒常性維持に不可欠な物質であり、複数の脂質・アポタンパク質から構成される。本研究により、肺サーファクタントのリン脂質主成分であるフォスファチジルコリンは小胞体で合成後、ゴルジ装置を介さない経路で層状封入体へ輸送され貯蔵される。一方、アポタンパク質成分であるサーファクタントプロテイン-Aは小胞体で合成後、ゴルジ装置へ輸送され糖修飾を受け、層状封入体へは輸送されずにそのまま連続的に細胞外へ分泌され、エンドサイトーシスにより細胞内へ再び取り込まれ、層状封入体へ輸送されることが判明した。また肺胞II型上皮細胞内にはゲル濾過カラム上分子量約110kDにピークを有する、サーファクタントのエキソサイトーシスを誘発するタンパク質が存在することを発見し、その性質分析を行った。さらにコレラトキシンによる肺胞II型上皮細胞のアデニレートサクレース連関3量体Gタンパク質の活性化は予想に反してサーファクタントの分泌を強力に抑制することが明らかになった。これらの結果はこれまで信じられてきたサーファクタントの輸送経路が誤ったものであることを示し、肺サーファクタントの分子生物学に新知見をもたらした。さらに肺胞内水分クリアランスにおよばす肺虚脱の影響、薬剤の効果を明らかにした。これらの知見は今後急性呼吸不全の病態解明、治療法の開発に役立つと思われる。これらの研究成果は医学雑誌、学会・研究会での口頭発表、医学誌への著作などを通じて随時公表した。とくに欧米の医学雑誌に掲載されたもののImpact Factor(1999 Jounal Citation Reports,ISI社)は合計11.295であった。
著者
道家 紀志 吉岡 博文 川北 一人
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

植物の感染防御応答の初期始動シグナルであるオキシダティブバースト(OXB)系の分子的実態とその制御機構の解明とOXBの制御下で局部的および全身的に発現する防御遺伝子とそれらの二次元的変動を総合的に解明する3カ年計画を実施し、次の成果を挙げた。1)感染・エリシターに対する細胞応答のOXB系うぃ担う酵素系として推定されるNADPH酸化酵素のサブヨニットであるgp91phoxホモログの2種のcDNAをクローニングし、それらはNADPH結合、6箇所の膜貫通、2箇所のca^<2+>結合ドメインをもつなど構造を推定し、その一つは常時発現、他は感染応答性であるという遺伝子の発現様相を明らかにした。2)OXB系の活性化は、インタクトな状態の細胞ではOXB応答機能はなく、傷や感染刺激で速やかに活性化され、その状態の細胞ではca^<2+>チャネル、カルモジュリン、ca^<2+>依存タンパク質リン酸化酵素が関与することを薬理学的に明らかにした。3)エリシター処理などでOXBを誘導し、その下流において発現が誘導される遺伝子をディファレンシャルディスプレー法およびサブストラクション法で各種の誘導性遺伝子をクローニングした。4)OXB関連タンパク質(SrtbohAとB)、NADPH生産に関わるG-6-P脱水素酵素遺伝子の断片をPVXベクターに組み込みタバコに接種しジーンサイレンシングを実施し、非親和性疫病菌に対する抵抗性が打破されることを示し、OXBの防御応答における決定的な役割を確認した。5)局部的OXBの誘導は局部的防御代謝を活性化するばかりでなく、全身的獲得抵抗性誘導の引き金となり、Ca^<2+>インフラクスを起こし細胞の興奮様反応を連鎖的に進行させる情報が伝わり、その興奮が離れた組織でのOXB能をもつ活性化状態の組織に到達するとそこで再びOXBが起こり、それがSARの誘導の引き金となっていることを示唆した。
著者
佐藤 雪野
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

「ロマ」を「ジプシー」の言い換えとすると、必ずしも共通の特徴やアイデンティティがある存在ではなく、「ジプシー」とは、しばしば他から貼られたレッテルであった。しかし、チェコやスロヴァキアでは、「ロマ」は、文化・言語・歴史などの共通性や共通のアイデンティティを持っているので、「ロマ」の集団への帰属は、自己規定と他からのレッテル貼りによるものとが共存し、近代的「民族」としての誕生も、他者との関係で創り出されるともいえる。
著者
中西 和樹 金森 主祥
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

メチルシルセスキオキサン組成の有機一無機ハイブリッド湿潤ゲルを、界面活性剤および尿素を用いた一段階合成法によって作製し、超臨界および常圧乾燥によって、高い可視光透過率に加えて優れた断熱性を示す低密度固体を得た。界面活性剤の濃度と出発組成を緻密に制御して、連続マクロ孔と高気孔率メソ孔・高比表面積を併せもつ多孔体の作製に成功し、これらのゲルの熱伝導率の気体圧力依存性と微細構造との関係を明らかにした。