著者
佐藤 寿昭
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

採用者は「社会問題」と呼ばれる様々な問題を人々が議論し、合意を形成する際、それはいかにして達成されるのかという問いのもと日本のマンガ作品の性表現規制論争を事例に研究を進めている。平成28年度は①2010年の東京都青少年条例改正案をめぐる論争の分析、②日本のマンガの性表現規制を支えるレトリックの歴史的変化の研究を進めた。①2010年の東京都青少年条例改正案をめぐる論争の分析では、「相手のクレイムの一部を自説に取り込むことで相手のクレイムとは異なる結論を申し立てる」という反論戦術が同論争を方向づけた要因の一つであることを指摘した。競技ディベート論で「リンク・ターン」と定義されるこの反論戦術は対立するクレイム申し立て者の間で前提を構築し対立点を明確にする。本研究ではこの反論戦術を社会問題の論争分析の方法論である社会問題の構築主義アプローチに位置づけた。この成果は2016年11月発行『情報学研究』第91号に論文として掲載された。②戦後日本においてマンガの性表現を規制するに際してどのようなレトリックが用いられてきたのか、その歴史的変化を分析した。第一に戦後すぐ「社会問題」となった「子どもに悪影響を及ぼす」いわゆる「悪書」規制論争からマンガの性表現が特定的に「問題」とされていった経緯、第二に1990年代当初は公共の場における広告批判に用いられていた「女性の性の商品化」というレトリックがマンガの性表現批判にも用いられるようになっていった過程、第三に国際会議を端緒として国内で用いられるようになった「児童ポルノ」というカテゴリーにマンガの性表現を含めるか否かという論争の三点を中心に分析した。この時、それぞれの論に反対する過程でマンガの性表現を「日本固有の文化」として主張するレトリックが徐々に構築されていった。それぞれの分析結果は2017年度中に個別に論文化する予定である。
著者
熱田 直樹
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

難病である筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療法開発には病態関連分子の同定が必要である。ALS患者コホートによる大規模前向き臨床情報と遺伝子多型の解析を行い、ALSの進行と関連ある一塩基多型の探索を行った。その結果、ALS患者の生存期間、球麻痺症状の出現までの期間に強い影響を与える多型を見出した。今後の検証により、ALSの進行・予後に影響する分子の同定につながる可能性がある。
著者
藤澤 令夫 小澤 和道 美濃 正 山本 耕平 木曽 好能 酒井 修
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1986

昨年度に続いて本年度も各研究分担領域で「壊疑」のもつそれぞれの意味と役割を究明し, 西洋哲学における壊疑論の歴史的変遷を跡づけることに努めた. 古代ギリシアでは後期に懐疑派が現れるが, この派の哲学の全体的特徴はセクストス・エンペイリコス著『ピュロン哲学の概要』に述べられている. それによれば懐疑哲学では判断保留とそれに伴う平静な悟脱の心境が問題とされ, 特にその判断保留の十箇の方式をめぐってはその著の第14章で詳述されている. 教父哲学ではアウグスティヌスによる新アカデミア派の懐疑論克服が問題とされるが, 彼の『自由意志論』第2巻では「神の存在論証」と相俟って真理の超越的独存性が立証され, 真の認識の成立根拠が確証される. 彼の影響下にある中世哲学では基本的には懐疑の問題は主要な関心事とはならなかった. このような哲学としてはトマスの哲学が取り上げられ, 彼のessentia概念の二義性が抽象説との関係において論じられる. 近世ではデカルトが一切のものに対して徹底して懐疑を行なった末にcogito ergo sumという不可疑的な真理の発見に到るが, これに対するストローソンの批判が考察される. 彼のデカルト批判によれば, cogito ergo sumを成立させる「私」という個体の存在は「私」以外の他の個体の存在を既に前提とする. つまり, 個体指示表現が有意味であるためには, 個体とそれ以外の個体との識別可能性の原理の働くことを認めねばならないと言えよう. 現代の英米哲学においても懐疑論に関係する多くの問題がみられる. その一つに, 経験的認識の証拠による不十分決定underdeterminationの問題が挙げられる. 今日の反実在論の多くはこの「証拠による不十分決定」に依拠している点である意味での懐疑論の変種とみなすことも不適切とは言えない. 又, 懐疑論・弁証法・解釈学・ニヒリズム相互の関係も本研究において深く問題としてきた哲学的・倫理的課題である.
著者
山内 章 仲 政明
出版者
(財)元興寺文化財研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、膠の原料作りから膠の製造に至るまで、石灰・防腐剤・過酸化水素水などの薬品及び添加剤を一切使用せず、牛皮などの動物皮と水だけを用いた膠を製造することが出来た。また、原料作りや膠の抽出と乾燥などの製造技術と装置を開発し、入手ルートを確立したことにより、文化財の修復材料・日本画の固着材・製墨など、各々の用途に適した品質の膠を、原料や品質などの情報を明記して流通させることが可能になった。
著者
田中 彰
出版者
東海大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

試魚として卵生種のヤモリザメ64個体、ニホンヤモリザメ47個体、卵黄依存型胎生種のラプカ90個体、ユメザメ31個体、ヘラツノザメ16個体、サガミザメ56個体、ヨロイザメ7個体を用いた。これらの標本は全て成熟しており、卵生種の2種は卵発達中、排卵直前、卵殻形成中、卵殻保持、卵殻産出後の各発達段階にあり、また胎生種の5種の卵発達中、排卵直前、排卵中、排卵終了、妊娠前期、妊娠後期、出産後の各段階をほぼ網羅した標本である。卵生種2種とラブカでは卵殻腺のアルブミン分泌域と卵殻分泌域の境界部分に精子が観察されたが、他の4種では同じ部位に精子は観察されなかった。また、これら4種の生殖輸管を詳細に調べ、精子の貯蔵部位を検査したが、精子は確認できなかった。卵生種2種における精子の発見率は排卵直前の段階で最も高く卵殻形成中の段階で最も低かった。これら2種はほぼ周年にわたり数週間に1回の割合で産卵を行っており、精子の貯蔵期間はある程度長いと考えられるが、その精子量の減少状態から自然界では2〜3ヶ月に1回ぐらいの割合で交尾を行っていると考えられる。卵黄依存型胎生種で唯一精子が確認できたラブカでは排卵直前と排卵中の段階の個体はすべて精子を持っており、精子量は排卵直前、卵発達中、排卵中の順で多かった。また、妊娠前期の個体の60%は精子を持っていたが、妊娠後期では35%の個体で精子を確認できた。ラプカの出生全長は約550mmであるが、全長356mmの胎仔を持つ個体でも精子が確認できたことから、精子の貯蔵期間はかなり長いと考えられた。電子顕微鏡での観察では精子と管状腺を形成する細胞との結び付きは見られなかった。繁殖様式が同じの卵黄依存型胎生種5種のうち、ツメザメ目に属する4種において排卵直前、排卵中の段階にある標本でさえ精子が確認できなかった。このことが精子を貯蔵しないことを意味しているのか今後解明する必要がある。
著者
原 彩佳
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究では、膠芽腫の診断が得られた患者の末梢血および手術時に摘出された腫瘍組織を用いて、NKT細胞を中心とした各種免疫細胞の機能解析を行い、腫瘍局所における抗腫瘍効果発揮メカニズムを明らかにする。そして、膠芽腫に対するNKT細胞を用いた免疫療法有効性の検討のため、重症複合免疫不全マウスにCD1d陽性膠芽腫患者検体を同所移植した膠芽腫patient-derived xenograft(PDX)モデルを用いて、NKT細胞および樹状細胞を投与する免疫治療実験を行う。さらに、膠芽腫におけるCD1d発現制御メカニズムを解析し、NKT療法の有効性を評価するコンパニオン診断の開発を目指す。
著者
柳沢 英輔
出版者
青山学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

今年度は、ベトナム中部高原のコントゥム省、ジャライ省、ダクラク省において、約3カ月間のフィールド調査を行い、これまでの研究成果を国際シンポジウムで発表した。具体的な調査内容は以下の通りである。(1)バナ族、セダン族、ジャライ族、ジェチエン族、エデ族の少数民族村落で、ゴングセットの計測・録音と聞き取り調査を行い、各ゴングのサイズや音高、ゴングの名称、入手経路、使用する儀礼などについて明らかにした。(2)バナ族、セダン族、ジャライ族の葬礼、バナ族の教会の祭礼など、重要な儀礼・祭礼を撮影・録音し、記録に残した。(3)バナ族の伝統的な建築物であるNha Rongと呼ばれる集会所について聞き取り・計測調査を行い、その建築方法と現在における文化・社会的利用に関するデータを収集した。(4)ゴング文化継承にとって重要な役割を担う「ゴング調律師」について、聞き取り調査とゴング調律過程の撮影・録音とから、調律方法の詳細に関するデータを得た。(5)若い世代へのゴング演奏・調律に関する教育的取り組みについて具体的な事例を記録した。(6)社会変化に対応して新たに誕生した「改良ゴングアンサンブル」について、これまでの調査では分からなった点を聞き取りした。(7)研究代表者が制作した映像作品「ベトナム中部高原のゴング文化」を撮影地となった村で上映し、作品を村に寄贈した。以上より、現地調査によって研究課題に関する多くの民族誌的資料(音響・映像資料を含む)を得ることができた。3月には国立民族学博物館で行われた国際シンポジウム「東南アジアにおけるゴングの映像民族誌」において、映像作品の上映を含む口頭発表を行い、国内・東南アジア各地の研究者と知見を交換し、交流を深めた。現在、フィールド調査で得たデータの分析を進め、投稿論文を執筆中である。
著者
樋口 由美子
出版者
信州大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

[目的]樹状細胞療法をうける患者にG-CSFを投与することにより、樹状細胞ワクチンの作製量を増やすことができるかということを、単球表面の接着分子及び細胞外マトリックスの発現に着目し解明する。[方法]1.対象樹状細胞療法を行う患者7名を対象とし、G-CSF投与前と投与24時間経過した後の末梢血を用いた。2.末梢血からの単球分離末梢血より比重遠心分離法を用いて単核球を分離した後、CD14Micro Bead (Miltenyi Biotec)と反応させ、磁気分離装置(Auto MACS)を用いてCD14陽性細胞を分離した。3.PCRアレイ分離したCD14陽性細胞よりtotal RNAを抽出し、RT反応によりcDNAを作製した後、RT^2 SYBER Green/Rox qPCR Master Mix (Quiagen)を用いてPCR反応液を作製し、RT^2 Progiler PCR Array (Quiagen)を用いて定量PCRを行った。装置はABI7900 (Applied Biosystems)を使用した。[結果]末梢血より分離したCD14陽性細胞のうち、単球は97.86±2.62%であった。PCRアレイを用いて84種類の接着分子及び細胞外マトリクスの発現解析をした結果、G-CSF投与前に比較して投与後ではMMP9のmRNA発現量が7.62倍に増加していた(最大値29.61倍・最小値1.91倍)。MMP9はヒト末梢血単球においても少量分泌されており、in vitroの実験においては単球を培養する際にPMAまたはM-CSFを添加することによりMMP9の分泌量が増加し、単球の接着性、伸展性が促進されることが報告されている(mRNA量はそれぞれ7倍、5倍)。今回の結果は、その報告を強く支持するものであり、G-CSF投与により単球のシャーレへの接着が増強され、結果的に樹状細胞ワクチンの作製量が増加すると考えられた。
著者
石田 弘明
出版者
兵庫県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、ニホンジカの不嗜好性植物が生態系保全に果たす役割とその緑化材料としての有用性について検討すると共に、不嗜好性植物を用いた緑化手法の開発を行うことを目的とした。ニホンジカが高密度に生息する地域で不嗜好性植物の調査を行った結果、様々な種類の不嗜好性植物が緑化材料として有用であることがわかった。また、不嗜好性植物を用いた緑化試験の結果、種子・胞子の播種による緑化は非常に困難であるが、苗の移植による緑化は比較的容易であることが示唆された。
著者
永尾 一平
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

海洋植物プランクトンが生成する硫化ジメチル(DMS)は、大気中で硫酸エアロゾルとなり、雲形成に不可欠な凝結核となる。このDMSの海洋から大気への放出量を渦相関法などにより正確に測定することが求められている。本研究は、観測船のフォアマストに設置可能な小型で、渦相関法で要求される高時間分解能でDMS濃度変動を測定するため、フッ素との化学蛍光反応を利用した装置から構成される測定システムを構築し、これらを観測船上に設置して北部北太平洋上でDMSフラックス測定を実施した。
著者
佐藤 雅彦 秋吉 亮太
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

述語論理を史上初めて整備し、分析哲学の源流となったフレーゲがその著書『Grundgesetze der Arithmetik』で構築した論理体系は、ヒルベルトの形式主義への道を切り拓いた極めて重要なものであったがラッセルのパラドックスを含んでいた。本研究は矛盾の根本原因を証明論的および意味論的手法により解明することを目指す。本年度はフレーゲ論理学に関して、(i)フレーゲの無矛盾性証明の分析 (ii)フレーゲの『概念記法』における記号法の分析、という二つの課題に取り組んだ。(i)については引続き、伝統的証明論の手法を適用することでフレーゲの無矛盾性証明の矛盾の原因を明らかにすべく取り組んだ。分担者である秋吉はパリ第一大学科学史・科学哲学研究所(IHPST)で、ドイツにおける伝統的証明論の手法であるΩ規則に関するレクチャーを昨年に引続き行い、パリ第一大学アルベルト・ナイーボ准教授と討論を行った。今後は、より抽象的な仕方で証明を捉えるフランス証明論の概念(具体的にはフランスのジラールによるlinear logicやludics)を用いることで,まずはΩ規則の理解を深めることを目標とすることで合意を得た。また,本研究の成果として, 2018年出版予定の著書『よくわかる哲学・思想』 (納富信留,檜垣立哉,柏端達也編, ミネルヴァ書房 ) に「論理学」の項目を執筆した。(ii)については、普遍限量子の論理的振舞いを分析するために、λ項の代数的構造を分析した。この結果、変数の概念を経由せずに、普遍限量子の導入および除去の規則を記述できることを解明した。
著者
石田 健 宮下 直 服部 正策 山田 文雄 石井 信夫 前園 泰徳 亘 悠哉 川崎 菜実
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

多様な固有種のいる生態系に、国際自然保護連合が「最も危険な外来種100種」に指定しているジャワマングースによる被害の出ていた奄美大島において、マングースの餌ともなる外来種クマネズミ、両種に捕食される鳥類とイシカワガエル、動物個体群に大きく影響するスダジイ堅果結実量、の動態を調べ、生態系管理の基礎情報を得た。研究成果をふまえ、国内外で外来種管理の重要性と可能性を説明した。
著者
新谷 由紀子 菊本 虔
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

近年日本の大学の利益相反マネジメント体制は急速に整備されてきたが、利益相反を一因とする研究不正がたびたび起きている。このため、本研究では、主要な国公私立大学の教員や外部理事計1,000名に対してアンケート調査を実施し、具体的な利益相反問題に対する意識を明らかにし、報告書を刊行した。これをもとにこれまでの研究成果を付加し、実務者等の手引となるよう『大学における利益相反マネジメントの実質化のために-運用の手引-』を刊行した。また、教職員研修のためのテキストとして活用できる『大学における利益相反を学ぶ-利益相反研修用テキスト-』も刊行して、日本の大学の利益相反マネジメントの向上に資することとした。
著者
真柳 誠
出版者
茨城大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

中国周縁国は過去から現在まで中国医学を受容・消化し、自国固有の伝統医学を形成してきた。これまで実施した現存古医籍の調査分析により、およその形成過程と特徴が明らかになってきた。日本・韓国とも初期は唐宋代医学全書の影響で、中国書から自国に適した部分を引用した臨床医学全書を編纂している。日本の『医心方』(984)、朝鮮の『医方類聚』(1477)などである。同時に固有の医薬も集成し、日本の『大同類聚方』(808)、朝鮮の『郷薬集成方』(1433)などが編纂された。中期は主に明代の臨床医書を引用しつつ、日本の『啓迪集』(1574)、朝鮮の『東医宝鑑』(1611)、ベトナムの『医宗心領』(1770)など自国化した医学全書が編纂される。かつ各国とも明代の各種医学全書を19世紀後半まで復刻し続けたが、そうした流行は中国にない。また漢字交じり自国語訳本も周縁国に共通する現象だった。一方、日本だけに特異的な現象が見出された。すなわち中国医学古典と、それらの中国における研究書が日本では100回以上復刻されたが、朝鮮では1点、ベトナム・モンゴルにはひとつもなかった。また中国医学古典の日本における研究書が江戸時代だけで760種ほど現存するが、朝鮮におけるそうした研究書は1点のみ、ベトナム・モンゴルにはひとつもなかった。なぜ日本だけかくも中国医学古典を研究したのだろうか。これは日本のみ島国という因子に由来しよう。つまり日本は中国との往来が極めて困難につき中国人から直接学べず、書物のみを師とし、難解な古典まで自ら研究した。かつ日本だけ中国との戦争や被支配の経験がなく、その強い影響を意識的に排して自国文化を強調する必要がなかった。それゆえ中国文化の深くまで親近感を持ち、古典を研究した。他方、朝鮮・ベトナムでは中国臨床医書は利用するが、臨床にあまり関係もない別国の古典研究などありえなかっただろう。他分野の漢籍でも類似現象が見出される可能性は高い。
著者
真柳 誠
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

漢字文化圏4国の古医籍約28000種の書誌データを調査し、定量分析した。その結果、日韓越は明代の中国南方で著された医書をモデルとし、自国化した体系を形成していたことが知られた。これは今日まで未知だった歴史現象である。当歴史観は各国で共有が可能であり、今後の相互理解と交流を進展させるだろう。
著者
辺見 葉子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、従来のトールキン研究から抜け落ちていた「『ケルティシスト』としてのトールキン」という視座から、『指輪物語』をその未刊の草稿原稿を含めて考察することを目的とし、テキスト変遷を詳細に検討すべく、米国マーケット大学と英国オックスフォード大学における調査を行った。マーケット大学図書館のトールキン・アーカイブでは『指輪物語』の追補篇Fの言語に関する草稿の、オックスフォードのボードリアン図書館ではトールキンのブリテン観の根幹を成すケルト語(British-Welsh)観についてのエッセイ"English and Welsh"の草稿のトランスクリプトを、それぞれ作成することが出来た。
著者
岩崎 久美子 豊 浩子 立田 慶裕 福本 徹 金藤 ふゆ子 須原 愛記 笹井 宏益
出版者
放送大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、貧困家庭の増加など、子どもをめぐる成育環境の悪化が社会問題化し、家庭の社会経済的背景に由来する教育格差が拡大・再生産される懸念が生じている中で、国内外の格差是正のための先導的事例を検証し、我が国の施策に資する知見を提供することを目的としている。平成29年度は、英国に焦点を当て、子供の貧困に関する関係書籍や文献による分析を行い、併せて英国での現地調査を実施した。英国の現地調査では、英国に在住する海外共同研究協力者とともに子供の貧困問題を扱うチャリティ団体を特定し、視察・関係者への聞き取りを行った。訪問したチャリティ団体は、①就学前教育や保育の分野の研究にさまざまな助成金を提供しているNuffield Foundation、②ロンドン市長がパトロンでロンドンの貧困層の子供たちを対象にウェルビーイング、スキル、雇用と起業に関する支援を行うThe Mayor's Fund for London、③Lambeth地区の貧困家庭に対し10年計画の早期介入プログラムを多機関連携により実施しているLambeth Early Action Partnership、④ホームレスの若者に住居を提供、雇用支援、教育(英語、リテラシー、ITスキル、職業訓練、幼児教育、育児教育)などを通して雇用機会や社会復帰を支援するThe Cardinal Hume Centre、⑤貧困と子供の保護に関するプログラムを提供することを通じ課題を把握し国、地方自治体への政策提言を行っているThe Children's Society、⑥貧困、恵まれない環境、社会的孤立状態にある人々への実践的、情緒的、財政的支援を行う英国で最も古いチャリティの一つであるFamily Actionである。これらの聴取内容の一部は、雑誌『社会教育』に、英国NPO(チャリティ)の事例紹介として連載している。
著者
佐々 悠木子
出版者
東京農工大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

[1]抗ABVモノクローナル抗体の作製ABVのMuBV-1とPaBV-4のN領域の組換えタンパクを大腸菌にて発現精製し、Balb/cマウスに免疫した。マウスにおいて、抗体価は十分に上昇し、抗血清を得ることができた。しかしながら、マウスの脾細胞とミエローマSp-2/AG14の融合を試みたが、MuBV-1及びPaBV-4に対して抗体価をもつハイブリドーマは得られなかった。[2]動物感染実験によるABVの感染性、病原性および体内動態の評価生体のトリへの接種に用いるABVをABV持続感染細胞から回収し、ウイルス力価を確認し、接種の準備が整った。導入した生体のトリが、ABVとは関連のないマクロラブダス症などの他の感染症で亡くなってしまったため、今年度は発育鶏卵でのABVの増殖の有無を調べた。ニワトリの品種は、GRN, GSP, GSN/1, PNP/DO, YL, BL-E, WL-G, WL-M/O, RIR, CAL, 413, OS, GB, EJ, DDW, POL, BRB, JB, SIL, FZSILの20品種を用いた。10日齢の発育鶏卵にMuBV-1を漿尿膜腔接種し、5日培養して漿尿液を回収し、MuBV-1を定量PCRにて測定したがいずれの品種の発育鶏卵でもウイルスの増殖が確認されなかった。また、4代まで継代を試みたが、ウイルスは増殖しなかった。このことより、発育鶏卵ではMuBV-1は増殖せず、ニワトリでのABVの感染のリスクは他の鳥種と比較して低いと考えられる。
著者
山形 眞理子 田中 和彦 松村 博文 高橋 龍三郎
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

環南シナ海地域の先史時代の交流というテーマに最も合致する遺跡として、ベトナム中部カインホア省カムラン市ホアジェム遺跡を選び、平成18年度(2007年1月)に発掘調査を実施した。ベトナム南部社会科学院、カインホア省博物館との共同調査であり、ベトナム考古学院の協力もいただいた。その結果、6m×8mの面積の発掘区から甕棺墓14基、伸展土坑墓2基を検出することができた。そのうち6号甕棺から漢の五銖銭2枚が出土したことから、ホアジェムの墓葬の年代を紀元後1,2世紀頃と結論づけることができた。平成19年度にはカインホア省博物館において出土遺物の整理作業を実施した。6個体の甕(棺体)をはじめ、多くの副葬土器を接合・復元することができたが、それらはベトナム中部に分布する鉄器時代サーフィン文化のものとは異質で、海の向こうのフィリピン中部・マスバテ島カラナイ洞穴出土土器と酷似することがわかった。これは南シナ海をはさんで人々の往来があったことを示す直接の証拠であり、重要な成果である。ボアジェム遺跡とオーストロネシア語族の拡散仮説との関係、さらには、1960年代にハワイ大学のソルハイムが提唱した「サーフィン・カラナイ土器伝統」の再吟味という、二つの重要な課題がもたらされた。甕棺に複数遺体を埋葬する例があることも大変に珍しい。たとえば8号甕棺からは3個の頭蓋骨を含む多くの人骨が検出され、人類学者によって一人が成人女性、あとの二人は5歳くらいの子供と確認された。成人は改葬ではなく一次葬である。人骨の系統分析(歯冠計測値と歯のノンメトリック形質にもとづく)によれば、ホアジェム人骨の特徴はフィリピンのネグリトとの親縁性を示した。遺跡から採取した炭化物と貝の放射性炭素年代は前1千年紀前半を示したが、これは墓葬に先行する居住の時期と考えられる。