著者
鈴木 知子 宮木 幸一
出版者
国際医療福祉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

大学学生対象の調査に関しては、本大学における公衆衛生学、精神医学、学生相談室の先生方との研究協力において実施した。そして、約500人の学生に調査参加頂いた。現在、解析実施中である。また、対象学生に調査票の回答をしてもらう以外に調査に協力頂いたことに対する還元、フィードバックとして、メンタル面においてリスクが高いと思われる学生に任意での学生相談室への相談の呼びかけを第1回調査対象の学生に行った。残りの学生に対しても準備中である。発達障害傾向として当初はその内の自閉症特性のみの着目を計画していたが、もうひとつの大人の発達障害傾向として問題となっている注意欠如・多動症(ADHD :attention-deficit hyperactivity disorder)傾向にも着目し、日本国内でも世界的にも使用されている成人ADHDスクリーニング用の自記式調査票ASRS(Adult ADHD Self-Report Scale)も追加して調査を行った。そして、現診断基準DSM-5による改訂版(DSM-5版ASRS)が今年2017年5月に原著者のKessler教授らにより公表された(JAMA Psychiatry. 2017)ため、原著者の許可のもと、日本語訳を作成し調査票に含めた。発達障害者の支援をされている、協会理事長、発達障害支援団体代表理事、クリニック院長、社会福祉法人役員、社会福祉士、産業保健師、精神保健福祉士などの方々のインタビューを行い、支援をする時に心がけていること、もどかしい点など、支援する立場からの意見を伺い、今後の研究への。収集したデータ解析については順次実施中であり、テーマごとに完成次第、学会発表、論文化を進めている。
著者
金田 淳子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

今年度は、マンガ同人誌の男性向けジャンル、女性向けジャンルのそれぞれについて、(1)同人誌のなかで何が描かれているか、(2)担い手はどのようなアイデンティティを持っているか、について調査・研究を行った。その結果、以下のことが明らかになった。まず(1)では、性的な物語に焦点を絞って分析した。男性向けジャンルにおいてはキャラクター(主に女性キャラクター)が性的対象として描かれるものが多かった。他方で、女性向けジャンルにおいては、キャラクター(主に男性キャラクター)を性的対象として描き出す側面もあるが、同時に2人のキャラクターの性的な「関係」を描き出すという側面が強く、このような物語内容は「やおい」と呼ばれる男性どうしの性愛を描く同人誌において、関係を表す専門用語が案出されるなど、特に発達していた。このように、本研究では性的な物語の形式におけるジェンダー差が明らかになった。また(2)では、同人活動を行う者は男女ともに「おたく」というアイデンティティを持っており、「おたく」集団内でのより高い地位の獲得を求めて同人活動を行っている。「おたく」集団においては固有の文化資本が形成されており、それは「(同人活動への)愛」「(同人誌制作の)技術」「(同人誌市場における)人気」「(マンガについての)知識」などである。このうち、「知識」を文化資本とする傾向は男性のみに見られた。ただし「おたく」はアンビバレントなカテゴリーであり、「おたく」集団内での地位がそれほど高くない多くの当事者においては、男女とも、自らが「おたく」であることを自己卑下し、隠す行動や、隠す行動を規範化する言説が見られた。このように本研究においては、マスメディアで「おたく」が肯定的にとりあげられるようになった現在でも、多くの当事者にとって、「おたく」が否定的なアイデンティティとして生きられている側面が明らかになった。
著者
日永 龍彦 石渡 尊子 照屋 翔大
出版者
山梨大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

1940年代の米国では、民間の大学・学校協会よりも州立大学や州政府がアクレディテーションを行なう件数が多く、それが占領側の指導内容に影響していた。これは、戦後改革期の大学設置認可とアクレディテーションの制度を「特殊日本的」と見てきた先行研究の見直しを迫るものである。また、米軍統治下の琉球では、日本本土で頓挫した大学設置認可や大学管理制度が実現していて、それが琉球の人々の選択の結果であったことを明らかにした。さらに、ランドグラント大学をモデルとする琉球大学では、本土と異なり、家政学の教授陣による普及事業が推進され、米国のカリキュラムがそのまま移入されたことなどを明らかにした。
著者
松本 佳彦
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

漸近的対称空間にはさまざまな種類があるが、本研究においてもっとも基本的な対象となるのは漸近的複素双曲空間(ACH空間)である。初めの課題としたのは、ACH空間であってアインシュタイン方程式を満たすようなもの、すなわちACHアインシュタイン空間に存在すると考えられる、一種の複素構造(正確には概複素構造)についての考察であった。候補となるような数種類の概複素構造に関する直接的な検討を行い、また研究協力者との議論を行っている。それと並行して、作業仮説を検証するためのテストケースとして用いることを意図して「ACHアインシュタイン空間であって、特に大きな対称性を持つものを構成する」というアプローチに取り組み、これには明確な進捗があった。構成にあたり生じる困難を具体的に把握するために、漸近的双曲アインシュタイン空間(AHアインシュタイン空間)も合わせて考えることにして、複数の手法を検討したところ、AHアインシュタイン空間についてはある手法が特に有効であることがわかり、結果としてPedersenによる構成(1986年)の高次元化が得られた。ACHアインシュタイン空間には現時点ではより原始的な手法しか通用せず、その効力も限定的なのであるが、引き続き研究を進めている。この他、ACHアインシュタイン空間に関する研究の世界的な状況について、韓国多変数関数論シンポジウム報告集にサーベイ論文を寄稿した。また、国内およびアメリカ(2017年8月より滞在)の複数の大学のセミナーや、メキシコで開かれた「The Third Pacific Rim Mathematical Association Congress」、東京で開かれた「Geometric Analysis in Geometry and Topology 2017」において、関連する内容の講演を行った。
著者
安達 秀雄 井山 寿美子 笠木 健
出版者
鳥取大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1987

胃全摘を含む胃切除術後に起こる最大の愁訴は食欲不振と摂食量の低下である。その原因としては術後の生理・代謝機構の変化とするものが最も妥当と考えられるが、患者の中には顕著な味覚異常を訴えるものがあり、本研究では味覚変化を中心に、術式、化学療法、年齢、摂食量、食事援助法などについて検討した。味覚検査は甘味、塩味、酸味、苦味の4基本味を中心に行ったが、術前後、化学療法施行前後に実施し、比較検討した。栄養充足率は献立表と患者の病床日誌から摂食量を求め、これを四訂食品標準成分表を用いてコンピュ-タシステムで算出した。そして熱量充足率と6種食品群(魚・肉・卵群、緑黄色野菜群、糖質群、油脂群、乳群、果実群)について検討した。研究対象患者39名はすべて胃癌であり、手術前後ならびに化学療法前後の味覚検査から閾値変化のあったものは93.8%であった。2味覚に異常のあるものが最も多く43.8%、ついで4味覚のすべてに出現しているもの25.0%であった。これらの味覚変化中、顕著な変動を示したのは甘味で、閾値の下降(感受性鋭化)が目立ち、とくにその変動幅が大であった。年齢別に比較すると、総体的に高齢者の味覚変化は若・中年層患者よりも大きく、甘味閾値の低下が顕著であった。塩味については、若年者では閾値の上昇(感受性鈍化)、高齢者では下降が認められた。酸味に関しては、若年者では下降、高齢者は上昇し、それぞれ逆の反応を示した。上記症例の中から3事例を選び食事援助法を検討したが、早期癌のA事例では栄養充足率に問題は認めなかった。進行癌で亜全摘が施行され、摂食量が半減したB事例には緑黄色野菜の摂取が目立った。胃全摘と化学療法、温熱療法施行のC事例では顕著な食欲不振と熱量充足率低下のため静脈栄養管理下に置かれたが、血清蛋白量増大と共に食欲も改善し、栄養状態と食欲の関連が強く示唆された。
著者
小野 幹雄 伊藤 元己
出版者
東京都立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

小笠原諸島には多くの固有植物が産するが、このほかに他の地域の植物と形態的分化があまりおきておらず、広域分布種とされている植物も産する。本研究はこれまで蓄積した小笠原産固有種とその近縁種との遺伝的差異にくらべ、同諸島に産する広域分布種の小笠原と他の地域の集団間の遺伝的差異がどうであるかを明らかにする目的で行なわれた。小笠原諸島に分布する広域分布種としてテイカカズラとウラジロエノキを選び、テイカカズラは沖縄の石垣島と本州の知多半島の2集団、ウラジロエノキは石垣島の1集団をサンプリングし、小笠原諸島の集団との遺伝的差異を調査した、遺伝的差異は酵素多型分析によりNeiの遺伝的同一度を計算することにより比較を行なった。テイカカズラでは8酵素14遺伝子座について解析し小笠原集団と他の集団の遺伝的同一度の平均は0.786であった。ウラジロエノキについては8酵素15遺伝子座について解析を行ない集団間の遺伝的同一度として0.732の値を得た。これまでの小笠原の固有種と周りの地域の近縁種間の遺伝的同一度はアゼトウナ属で0.533、トベラ属で0.647、ハイノキ属で0.538であったが、今回の研究で得られた2種の広分布域種の値はこれらの固有種と比べて高い値を示した。これは今回調べた2種の広分布域種が小笠原諸島に進入した時期が固有種になった植物の祖先に比べて遅いか、あるいは両集団間になんらかの遺伝的な交流があるかどちらかである。いずれにせよ、形態的な分化の低さは遺伝的にも分化が進んでいないことを示している。
著者
嶋田 正和 柴尾 晴信 笹川 幸治 石井 弓美子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

寄生蜂ゾウムシコガネコバチと宿主アズキゾウムシとヨツモンマメゾウム による3種累代実験系を構築し、個体数動態を調べた。豆はアズキとブラックアイを組み合わせて捕食圧を調整した。この寄生蜂は頻度依存的捕食を発揮し、豆内の幼虫・蛹の密度に依存して選好性を切り変える。蜂の導入により、最大で118週まで3者の共存持続が維持され、そこでは2種の宿主の交代振動が現れていた。学習実験では雌蜂が条件づけされた宿主の匂いに惹かれて多く寄生していた。多い宿主種に選好性を高め、少ない宿主種が寄生を免れることで、3種の共存持続性が高く維持されていた。
著者
河野 功
出版者
長崎大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

日本産シキミおよび中国産シキミ科(Illiciaceae)植物の有毒成分検索の過程で,シキミ科に特有と考えられる化合物群が得られた.そこで,より系統的に特異な化合物群の存在を検討する目的で,幾つかのシキミ科植物について成分検索を研究を開始した.その結果 1)シキミ(Illicium anisatum)の果皮から得られるanisatin,pseudoanisatinの他に,新規なanisatinの誘導体を得た.また,anislactoneAおよびBと名付けた新規なanisatin由来の骨格を持つ化合物を単離した.2)大八角(I.majus)の果皮の成分としてmajucinおよびneomajucinと名付けたsesquiterpeneを得た.これらはanisatinと同じ骨格を持つものである.また,phytoqu-inoidと呼ばれるヤエヤマシキミから得られていた化合物群も得られた.このものの分布も非常に限られており,シキミ科に特異的成分と言える.3)紅八角(I.macranthum)の樹皮によりmacrantholと名付けたtriphe-nylneolignanが得られた.また,4)南川八角(I.dunnianum)の果皮よりこれと同じ骨格を持つdunnianolとその異性体isodunnianolが得られた.5)野八角(I.simonsii)より同種のsimonsinolを単離した.以上のtri-phenylneolignan類はモクレン科(Magnoliaceae)見られるbiphenylneo-lignanの存在と考え合わせると,シキミ科のケモタクソノミー的考察を加える上で重要な知見を与えた.また,野八角にも有毒成分のanisatin型sesquiterpeneが存在することが分かった.一方,民間的に漢薬として用いられている地楓皮(I.difengpi)からglycerophenylpropanoidやglyceroneolignanに属する化合物を数種得た.この種のものは野八角からも単離されているので,この種の化合物の存在はシキミ科に特有のものと言える.以上の結果,シキミ科の特有の成分としてanisatin型sesquit-erpeneやphytoquinoid,triphenylneolignan,glycelophenylpropanoidあるいはglyceroneolignanの存在が示された.
著者
稲田 有史 中村 達雄
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

神経因性疼痛モデルを大型動物(ビーグル)で作製した。それを外科的に治療することにより、局所ならびに中枢でどのような変化が起こるか電気生理学的及び病理・生化学的に解析することにより発症メカニズと治療のメカニズムを解明した。疼痛動物モデルとしては、末梢神経絞把モデルが確立されているので、それを坐骨神経に対して用い、末梢損傷の回復モデルとしてはビーグル犬坐骨神経を神経切除後に欠損部を人工神経で再建したものを用いた。さらに神経再生を促進する方法として、自己由来細胞の応用についても検討した。
著者
伊東 由文 片山 真一 桑原 類史 大宮 真弓 一條 義博
出版者
徳島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

1(伊東). 佐藤・フーリェ超函数の基礎理論の整備がようやく満足できる程度に完成した。ベクトル値佐藤・フーリェ超函数の値の空間を一般化する方向では,ベクトル値佐藤・フーリェ超函数の値の空間を必ずしもFiechet空間とは限らない一般の局所凸空間まで拡張し,究極の結果に到達した。劣指数型正則関数の関数論的研究では,レンゲの定理やクザンの加法的問題が解決した。〓擬凸領域の特徴付けと岡・カルタン・河合の定理Bの一般化等の問題の研究が進行中である。2(一條). 共形不変なテンソルを用いて,フィンスラー多様体が共形的平坦であるための必要十分条件を明らかにした。3(大宮). 漸化作用素を用いて急減少ポテンシャルの1次元シュレジンが一作用素に対する一連の跡公式を統一的に導いた。また、KdV多項式の代数的性質をへ作用素を用いて解析した。上の結果を発展させ,Mckean-Turbowitz型の跡公式やCrumのアルゴリズムの代数的証明を与えた。4(桑原). gordon-wilsonによって構成された巾零多様体上の等スペクトル変形を古典力学的視点から考察した。巾零多様体上の等スペクトル変形について,力学系の簡約化の視点から考察し,その古典力学的構造を明らかにした。4(片山). 最近RA.Mollin-HC.Willismo,横井英夫,M、G.Leu-H、K、kim-小野孝等によって盛んに研究されているR-D-typeの実2次体の類数に関する研究を4次のbicyclic bignadratic fieldsに拡張した。R-D-typeの実2次体に関する様々な結果をbound funotionという新しい概念を導入することにより一般的に扱った。さらに,素数と実2次体の基本単数の関係を明らかにした。
著者
藤井 敏嗣 吉本 充宏 石峯 康浩 山田 浩之
出版者
山梨県富士山科学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

山小屋の屋根構造の落石や噴石などの岩石の衝突に対する強度を明らかにするために、富士山の山小屋で使用されている杉の野地板を用いた屋根構造に噴石を模した飛翔体を衝突させる実験をH28年度に引き続き実施した。屋根構造の簡易的な強化策を検討することを目的に、杉板2層を重ね合わせた構造を検討することとした。衝突実験は、H28年度と同様に防衛大学校所有の圧縮空気によって飛翔体を噴射させる高速投射型衝撃破壊試験装置を使用した。飛翔体は昨年度と同様にビトリファイド砥石(2421 ㎏/m2)、直径90mm、質量2.66kgを使用した。本実験では、飛翔体の質量を固定したため、速度を変化させることで運動エネルギーを変化させた。飛翔体速度は20m/s~50m/s(衝突エネルギーは約1000J~3600J)の範囲で行った。基本構造は、杉板2層を重ね合わせた表面に、防水シート(厚さ約1mm)とガルバリウム鋼板(厚さ約0.4mm)を取り付けたものに垂木を組み合わせた。杉板の重ね合わせ方は、1枚目と2枚目を直交させるように重ね合わせるクロス型と平行に重ね合わせるスタッカード型の2種類を作成した。実験結果より杉板の貫通限界エネルギーは、板厚15mmのクロス構造において2100~2700J、板厚15mmのスタッガード構造において1200~1900J、板厚18mmのクロス構造において2500~3000J、板厚18mmのスタッガード構造に1300~2400J付近と求めることができた。すなわち、板厚に関わらず、クロス構造はスタッガード構造に比べて高い衝突エネルギーにおいて貫通の境界が現れた。そのため、杉板を2枚重ねて木造建築物屋根を作製する場合、クロス構造の方が噴石衝突に対する木造建築物の安全性が高いといえる。
著者
小林 悟
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、生殖細胞系列の性決定機構を解明することを目的としている。これまでに、始原生殖細胞中において細胞自律的にメス化を誘導できるSxlに制御される候補遺伝子を同定するとともに、始原生殖細胞の性差に依存して発現する遺伝子の網羅的な同定、中胚葉を持たない原始的な動物であるヒドラにおいて、生殖幹細胞の性差に依存して発現する遺伝子の網羅的な同定を行うことに成功した。以上の成果は、生殖細胞系列における普遍的な性決定機構を明らかにする上での基盤となる。
著者
岩波 明
出版者
昭和大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

AS群においては、文字流暢性課題において、健常者と比較し、酸素化ヘモグロビンの変化量が小さかった。ADHD群においても、同様に、文字流暢性課題において酸素化ヘモグロビンの変化量が小さく、健常者との差は、左背外側前頭前野、左腹外側前頭前野、上側頭回で顕著であり、現在論文化し投稿中である。AS群とADHD群の精神症状を比較したところ、AQおよびCARRSの値について両者の差異は少なく、臨床所見の類似性が明らかになった。また両者の鑑別のために、動画を用いた「心の理論」課題を施行し、アイトラッカーにより視線計測を行った。この結果、両群の間に明確な差異が認めらており鑑別診断に重要な所見である。
著者
一色 哲
出版者
帝京科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

「南島」には、キリスト教徒が多く、独特の信仰がある。本研究では、その原因が、戦後、沖縄各群島の米軍占領にあることを解明した。また、19世紀末に開始した南島キリスト教伝道は、旧植民地や帝国日本の周辺地域との信仰上のネットワーク形成や、越境と交流の繰り返しで「周縁的伝道知」が蓄積し、「民衆キリスト教の弧」が形成されたことを立証した。あわせて、この信仰のあり方が戦後も継承されていることを明らかにした。
著者
片岡 洋祐
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-04-01

プラズマは光・荷電粒子・ラジカル等からなり、その医療応用においてはさまざまな可能性が示唆されているものの、確立された理論に基づく医療技術あるいは装置は未だ確立されていない。特に、中枢神経組織へのプラズマの作用についてはほとんど研究が進められておらず、その作用や医療応用の可能性すら議論できる状況にない。そこで、ラット大脳皮質を対象に大気圧プラズマ照射がどのような作用を有するかについて、光組織酸化反応との相違点から明らかにしてきた。具体的には、光組織酸化の場合、一過性のシナプス伝達抑制が引き起こされるが、プラズマ照射ではそういった神経伝達への影響は小さかった。また、強い光組織酸化反応では周辺細胞の脱分極現象が引き金となって片側大脳皮質にSpreading depressionが発生し、グリア前駆細胞やミクログリアが一斉に増殖を開始する一方、プラズマ照射ではSpreading depressionを発生させることなく多数の増殖細胞を出現させることを発見した。こうしたプラズマによる細胞増殖の誘導と組織再生との関係について分子メカニズムを解明し、さらに、再生誘導に最適なプラズマ照射条件を見出した。
著者
宮澤 陽夫 仲川 清隆 木村 ふみ子
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

本研究はプラズマローゲン(Pls)の脳神経細胞死抑制作用について、細胞実験、機器分析、動物実験を用いて解明することを目的として実施した。細胞実験によりPlsの脳神経細胞アポトーシス抑制作用の証明を行うとともに、LC-MS/MSによるPls分子種の生体組織と食品中の分析法を検討し、最も抗アポトーシス効果の強いDHA含有Plsのスクリーニングを行った。また、アルツハイマーモデルラットを作成し、海産物由来Plsの投与試験を行い記憶学習能維持効果を確認した。
著者
三浦 猛 三浦 智恵美 太田 史
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-07-18

(1)前年度行ったメダカDNAマイクロアレイ解析の結果、昆虫由来免疫賦活化物質のメダカへの経口投与により腸管で発現が上昇する遺伝子群のうち、獲得免疫に関係するMHCクラスI関連因子のorla-UBA、免疫グロブリン重鎖IgVH、自然免疫に関係する補体Ca8、および細胞間結合に関係するClaudin 28bのエドワジェラ菌感染後の腸での発現をリアルタイムPCRにより調べた。その結果、いずれの免疫関連遺伝子も感染前および感染直後は、シルクロース投与群では発現量が多いものの、感染後12あるいは72時間では、シルクロースを給餌しない対照群ではこれらの遺伝子が著しく増加したのに対し、シルクロース投与群では、感染開始前の発現レベルにまで低下していた。これらの結果は、シルクロースの給餌により、これらの免疫関連因子の遺伝子発現の反応性が向上し、病原体感染後直ちにこれらの因子の遺伝子発現が誘導され、その結果として、感染を防御できたものと考えられた。(2)昨年度開発した、成長抑制および免疫活性抑制に作用すると考えられるカテコールをはじめとする炭化水素類を除去する方法により最適化したイエバエミールを魚粉に置き換えて作製した飼料により、マダイの飼育試験を行ったところ、全ての魚粉をイエバエミールに置き換えても、魚粉のみの飼料と同様の成長を再現することに成功した。(3)実際の養殖ブリおよびマダイに昆虫由来免疫賦活化物質を添加した飼料を1ヶ月間給餌して、養殖魚の状態を観察したところ、昨年示した飼育試験による結果と同様、昆虫由来免疫賦活化物質には飼育魚のストレスを低減する効果があるとともに、肉質および味にも付加価値を高める効果があることが明らかとなった。
著者
古性 淑子
出版者
横浜美術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

一般的にデッサン画の評価においては評価語を用いた主観評価が用いられる。これは美術教育者が鉛筆生物デッサン画を評価する際の視点である。一方デッサン画には、形状やバランス、明暗といった特徴が含まれている。客観的評価モデルは、評価要因Fiから構成され、このFiは、バランスや明暗、モチーフの形状の大きさといった主観評価に含まれる項目を考慮して定義した基本的な鉛筆生物デッサンの特徴量を含む。本研究において、鉛筆静物デッサン画に含まれる特徴量を定義し、主観評価値を近似できる線形回帰分析を利用した評価モデルを構築した。この結果、構築した評価モデルが主観評価結果を近似していることを確認できた。
著者
甲斐 昌一 猪本 修
出版者
九州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

脳における情報処理過程、特に知覚や認知といった脳の高次機能にも確率共鳴同様のノイズ効果があると予想されるが、実験系の確立が困難であるために、高次機能におけるノイズの役割はほとんど分かっていない。それを明らかにするのが本研究の目的である。そのため本研究では、平成19年度に引き続き、知覚・認知における確率同期の存在を明確にするとともに、そのまとめを行った。平成19年度に確立された位相ロック値(PLV)の定義、ならびにパターン相似度の定義を使って、脳波を国際10-20法によるα波ならびにγ波に焦点を絞った全頭ならびに前頭-後頭間の引き込み特性として視覚化した。これによれば視覚刺激(顔刺激、図形刺激)がα波の位相同期を誘起し、特に顔刺激では前頭部の皮質間で相互に強く同期することが分かった。すなわち刺激提示後100-200msを中心に前頭部で最も同期し、またそれが刺激の性質に依存することが明らかになった。この同期はおおよそ100〜200msしか続かず、次第に各部位で脱同期が起こる。その様子を表すのがパターン相似度で、それは無刺激時との相似性を表す。この手法では、その時間変化で、最も相似度が小さくなるときに、認識が行われたことを確認した。全域で同期がそのパターン相似度とこれまで使用されてきた事象関連電位(ERP)と比較した結果、パターン相似度がα波領域で格段に優れた認識判定指標であった。さらにパターン相似度を前頭部と後頭部とに分けて局所表示すると、視覚に与えられた刺激が図形の場合と顔の場合では、その前頭部でのパターン相似度の時間変化に大きな相違が見られ、刺激の識別が可能であることが明らかとなった。この成果をもとに視覚刺激にノイズを重ねると、最大で20ミリ秒程度、認識速度が上昇することが分かった。つまり適切なノイズの存在が認識を早めると結論された。