著者
鹿児島 浩
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

乾燥・凍結に耐性を持つ南極クマムシActuncus antarcticusのゲノム解析を行い、総塩基数28.9 Gbの配列を得た。これにより完成したミトコンドリアの全長配列(14.4 kb)の解析結果を、国際的科学雑誌Mitochondoriaに投稿するべく、現在、論文の準備を進めている。一方、本来の目的であったクマムシの核ゲノム配列については、細菌ゲノム配列の混入のために完成には至らなかった。そこでクマムシの無菌化を行い、餌のクロレラとの二者培養の系を確立した。これによりクマムシの高純度の長鎖ゲノムDNAを調整することが可能になり、10x genomics社のchromium、並びにPacBio社のRSIIによる完全長ゲノムの決定を開始する準備が整った。さらに、南極線虫Panagrolaimus davidiから得られた乾燥・凍結耐性遺伝子の候補遺伝子LEAを、実験モデル生物Caenorhabditis elegansに遺伝子導入し、本来、乾燥感受性の生物であるC. elegansに乾燥耐性を付与することに成功した。これは耐性遺伝子の実用的な応用に大きなインパクトを持つ結果だと考えている。また、乾燥耐性との強い関連を持つ高温耐性生物(温泉に生息する)について、2報の論文を発表した。以上のように、数々の困難を乗り越え、研究のは好ましい方向に向かっていたが、残念ながら研究を続けるポストに就くことができず、科研費申請資格を喪失し、本研究を中止することになった。成果を期待され研究費を交付された研究を全う出来ず、慙愧の念に堪えない。現在、これまでに整備した実験材料や研究成果を活かせるよう、これまでの共同研究者と調整を行っている。
著者
数土 直紀
出版者
信州大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本プロジェクトでは、進化ゲーム理論を用いた数理的手法により、幾つかの具体的な社会現象を分析した。そしてその結果、権力現象を産出する二種類のメカニズムを特定化することに成功した。一つは、男性と女性というように性によって分割された異なる二集団間に存在する権力が生成されるメカニズムである。このメカニズムが成立する条件下では、自由で相互に対等であるような相互行為であっても、条件さえ整えば半ば必然的に権力関係が形成される。もう一つは、集団内において生成される権力である。このメカニズムが成立する条件下では自発的に搾取されることを選択する「利他的な」個人が広義の合理的選択を通じて出現する。しかも、搾取されることを自発的に選択するために、このような権力は個人の主観に定位する限り検出されない「見えない権力」となっている。本プロジェクトが解明したこれらのメカニズムの特徴は、いずれも自由で対等な相互行為から権力現象を明らかにしているところにある。従来の研究では、権力は自由と対立する概念だと理解されてきた。したがって、自由な相互行為からも権力関係が生成されるという認識が希薄であった,しかしながら、本プロジェクトの成果によって、対等で自由な相互行為からも結果として非対称的な権力関係が生成されうろことが示された。これは従来の権力研究を大きく前進させるものであり、それゆえ本プロジェクトの成果は重要な意義を有していると思われる。
著者
松林 嘉克
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2013-05-31

植物成長を制御する新しい細胞間シグナルとして,翻訳後修飾を伴った短鎖分泌型ペプチドに注目が集まっている.本研究は,翻訳後修飾ペプチドホルモンのさらなる探索や,既知因子の受容および細胞内情報伝達機構の解明を基軸としながら,翻訳後修飾のメカニズム,細胞外での分子動態などを解析し,翻訳後修飾ペプチドホルモンを介した植物形態形成や環境応答の分子機構を明らかにすることを目的としている.今年度は,ゲノム情報に基づいたペプチドホルモン候補のスクリーニングとLC-MSによる成熟型構造解析,そして受容体キナーゼ発現ライブラリーを用いた受容体探索により,植物の根の拡散障壁であるカスパリー線の形成に必要なペプチドホルモンの同定に成功した(Science 2017).Casparian strip Integrity Factor(CIF)と命名した21アミノ酸のチロシン硫酸化ペプチドは,根の中心柱で発現し,内皮細胞で発現する受容体GSO1/SGN3に特異的に結合する.これらを欠損する植物は,根のカスパリー線に穴があき,濃度勾配依存的に外界からイオンが道管に流入または道管から流出するため,至適栄養条件以外では成長が阻害されることが明らかとなった.また,以前に発見した全身的な窒素要求シグナリングに関わるペプチドホルモンCEPの下流で働く新しい長距離移行シグナルの同定に成功した.CEPは窒素欠乏時に根で誘導され,道管を通って葉の師部側にある受容体CEPR1に認識されるが,その下流で師管内を根へ移行するポリペプチドCEPD1およびCEPD2を見出した(Nature Plants 2017).根に移行したCEPDは,硝酸取り込み輸送体であるNRT2.1の発現を上昇させる.この発見により,片側の根が窒素欠乏になった時,もう片側の根で相補的に窒素取り込みが促進される現象の基本的なメカニズムが明らかとなった.
著者
芳鐘 冬樹
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

技術融合型特許に関して,引用・分類共起関係のネットワーク構造という視点から調査した。自動車関連企業に関しては,次のことが分かった。付属パーツに関わるメーカは,以下の特徴を持つ。(1) 技術要素数の割に融合関係数が多い。(2) 特定の技術要素が多様な技術要素と融合関係を持つ一方,他の多くは融合関係をあまり持たない。(3) 特定の技術要素が,技術融合型の研究開発の核としても,補助的な関連技術としても採用される一方,他の多くは核,あるいは補助的技術のどちらかにしか採用されない傾向が強い。(4) 各技術要素が広い融合関係を持つ傾向は弱い。(5) 同じ技術要素を組合せる研究開発が繰り返される傾向は弱い。
著者
新谷 政己
出版者
静岡大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は,環境中における遺伝子の伝播を担うプラスミドpCAR1を用いて,異種細菌間におけるプラスミドの接合伝達を成立させる必須因子の取得を目的として行った.その結果,pCAR1上にコードされる3つの異なる核様態タンパク質(NAPs)が,異種微生物間の接合伝達における必須因子であることが示唆された.またORF145-146は,接合伝達に必須でないが,異種細菌間の伝達頻度に影響を及ぼすことが示された.また,NAP遺伝子は,他の様々な接合伝達性プラスミド上に分布していることも示した.さらに,異種微生物間の伝達を理解する上で重要な,プラスミドを一時的に受容可能な宿主の検出・分離・解析手法も確立した.
著者
塚本 勝男 中村 教博 横山 悦郎
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

太陽系形成初期過程におけるコンドリュール形成を模擬した珪酸塩メルト浮遊実験を行い,その結晶成長組織形成過程をフェーズ・フィールド・モデルによる計算機シミュレーションにより実験を行った.その結果は以下のとおりである.1.地上実験では容易に結晶化する珪酸塩メルトが,宇宙空間のような無容器浮遊実験では結晶化せずにガラス化してしまうことが初めてわかった.すなわち惑星間物質が結晶化するには星間ダストなどの微粒子と衝突することが必須であることが示唆される.この結果は,太陽系形成初期には非常に濃いダスト数密度が与えられていたことを示す.2.コンドリュールは従来言われていた平衡凝固ではなく500-1000Kという超高過冷却メルト(ハイパークールドメルト)からの結晶化であることが初めて示された.ハイパークールドメルトからは低過冷却結晶組織が安定に形成されることが熱力学的計算から予測されており,本研究は実験による証拠を提示したことにもなる.3.浮遊メルト結晶化実験,ならびに計算機シミュレーションの結果から,バードオリビンコンドリュールに固有の特徴的なリム構造は,従来言われているような徐冷過程(100K/hr)では形成されず,急冷過程(100K/s)によってのみ形成されることがわかった.4.コンドリュール再現実験結果から,直径1ミリのコンドリュールの結晶化が完了するまでの時間は,原始太陽系の冷却速度には無関係に約10秒程度であることが推定できた.この推定結果は従来説である数時間オーダーと比べて極めて短時間であり,コンドリュールは短時間イベントによる産物であることが予想される.この結果はコンドリュールに激しい蒸発の後が見られず揮発性成分が残されていることと調和的である.
著者
狩俣 繁久 田窪 行則 金田 章宏 木部 暢子 西岡 敏 下地賀代子 仲原 穣 又吉 里美 下地 理則 荻野 千砂子 元木 環
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

消滅の危機に瀕した琉球諸語の奄美語の七つの下位方言、沖縄語の十の下位方言、宮古語の四つの下位方言、八重山語の五つの下位方言、与那国語の計27の下位方言、および八丈語を加えた計28の方言についての文法記述を行った。記述に際しては、統一的な目次を作成して行った。琉球諸語についての知識のない研究者にも利用可能なものを目指して、グロスを付した記述を行った。最終年度までに研究成果として『琉球諸語 記述文法』Ⅰ、Ⅱ、Ⅲの3冊を刊行した。
著者
落合 勇一 日野 照純 関根 智幸 石橋 幸治 青木 伸之 山本 和貫
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、多層カーボンナノチューブ(MWNT)における本質的な伝導様式の差異を詳細に調べ、その原因の解明と「朝永・ラッティンジャー液体(TLL)モデル」の適用の可否について検討を行うことを目的としている。本研究の最終的な結論としては、通電加工法を用いることにより、精密ではないが、多層CNTの層数制御が可能であることがわかった。そこで、これまで行ってきた、加工雰囲気・破壊の進行・電気伝導特性変化がどのように相関するのかを再検討した。常温・大気中では破壊がランダムに進行し、最外層から同心円状に破壊が進行するモデルが成り立ち難いということが明らかになった。さらに、高温領域での伝導度の温度変化に現れるベキ乗則と低温領域での微分コンダクタンスのバイアス依存性に現れるベキ乗則は、加工前は両方共にベキが0.4程度でほぼ一致しており、いわゆるTLL的な伝導が起こっているのに対し、通電加工後は伝導度の減少とともに両方のベキが増大し、値に差が出てくることがわかった。そしてさらに通電加工を進めると、バリアブルレンジホッピング(VRH)的な伝導へと変化することがわかった。これは大気中での通電により発熱した状態で酸素との反応による破壊が進行し、その際に生じた格子欠陥が電気伝導を支配していることを意味しており、層数の厳密な制御には適さない条件であると結論づけた。一方で雰囲気制御を確かめるため、高真空中(10^<-6>Torr程度)および液体窒素中にて通電破壊を行った場合は、層の破壊が一箇所で比較的秩序をもって進行し、最外層から同心円状に破壊が進行することがわかった。これは精密なMWNTの層数制御ができる事を意味しており、低層数MWNTを得るには有望な加工条件であることがわかった。しかしこの方法で通電加工を行った場合でも、加工を進めるとVRH的な伝導が観測され、厳密な意味では低層数部分だけでの伝導特性を分離して議論する必要があるという結論に至った。
著者
守山 雅也
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

水素結合による分子の自己集合・自己組織化を利用した材料では、ミクロな分子間相互作用によって形成される周期構造や階層構造、つまり集合・組織化構造が材料の多機能・高機能を発現させることが期待できる。本研究ではこの自己集合、自己組織化材料として物理ゲルに着目し、その機能(分子間相互作用)を制御する外的刺激として「光」を用いた。まず、前年度に開発したアゾベンゼン部位を有する光応答性ゲル化剤とディスコチック液晶であるトリフェニレン誘導体を複合化して、光刺激による液晶ゲルの複合構造変化を検討した。その結果、紫外線照射によるアゾベンゼン部位の光異性化反応により、ディスコチック液晶の自発的な配向を誘起し、光刺激を与えない場合と異なる複合構造の作成に成功した。また、局所的な紫外線照射を行うことで、この複合構造変化を利用したマイクロメートルレベルの光パターニングにも成功した。さらに、水素結合部位と光応答性部位のアゾベンゼンの距離が近いゲル化剤(イソロイシン誘導体)をあらたに開発し、ネマチック液晶と複合化した際の光誘起複合構造変化について調べた。その結果、非偏光の平行紫外光を照射することで、ゲル化剤が形成する繊維状集合体上のアゾベンゼンの光配向が起こり、周りのネマチック液晶分子もそれに応じて配向することが分かった。基板に対する紫外光の照射角度を制御することで、液晶配向の角度もコントロールできた。低分子液晶の光配向制御に関しては、これまで基板表面の2次元平面に展開した光応答性分子で制御することが主であったが、今回3次元空間に展開した自己組織性集合体により液晶配向を光制御できたことは、液晶の3次元空間的制御を行う観点から非常に興味深い結果である。
著者
田中 眞奈子
出版者
昭和女子大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は、X線と異なる特性を持つ中性子を用いて鉄鋼文化財を分析し、結果の総合的解析により材質や内部構造を解明すること、そして最終的には鉄鋼文化財の非破壊分析手法を確立することを目的としている。平成29年度も「研究実施計画」に沿って研究を進め、以下のように意義のある成果を得ることが出来た。(1)日本刀断片、火縄銃断片に加え、個人蔵の日本刀、火縄銃、自在置物、そして本研究の最終目標であった美術館所蔵の大変貴重な鉄鋼文化財である自在置物のSPring-8での高エネルギーX線CT測定に取り組んだ。L28B2およびBL20B2で実験を重ね、また実験条件(空間分解能、密度分解能など)の調整・改善に取り組み、日本刀のように30mm程度の厚さのある鉄文化財でも、鋼中の非金属介在物(サイズは30~60μm前後)の配列を非破壊でも明瞭に観察できるようになってきた。(2)パルス中性子透過法を用いてこれまで分析してきた試料(鉄鋼標準試料、たたら製鉄により製造され日本古来の折り返し鍛錬や鍛接などの加工を行った試料(日本刀制作過程再現試料)、和釘、火縄銃、日本刀断片など)について、ブラッグエッジ解析による詳細な解析を進めた。なかでも日本刀制作過程再現試料は、各パラメーター(格子面間隔、歪、結晶子サイズなど)毎に2Dマッピング像の作成に成功し、格子定数の変化を指標とした焼き入れ範囲の可視化など、日本刀の制作工程と結晶組織変化の関係性を非破壊で解明することが出来、大きな成果を得た。(3)試料ごとに、高エネルギーX線を用いた分析結果と、中性子を用いた分析結果の比較検証を行った。X線と中性子の相補利用により非破壊での日本刀や火縄銃、自在置物などの具体的な制作技法や材料特性が解明されてきた。(4)研究成果は、国際会議BUMAⅨなど5件の発表(うち2件が招待講演、2件が国際会議)を通して積極的に公表した。
著者
細井 公富
出版者
長浜バイオ大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

1.昨年度に引き続き,琵琶湖から採集したタイワンシジミ種群およびセタシジミの分子遺伝学的解析を行った。ミトコンドリアCOI遺伝子の部分領域に基づく解析の結果,琵琶湖のタイワンシジミ種群のミトコンドリアDNAには2つのハプログループが存在することが明らかとなった。また,2つのハプログループは混在して分布していたことから,異なる移入源をもつ複数の個体群の交雑が進んでいることが予想される。タイワンシジミ種群が雄性生殖することを考慮すると,ミトコンドリアDNAを琵琶湖のタイワンシジミ種群のタイピングに用いることは困難であると考えられた。2.さらに,固有種であるセタシジミについても同遺伝子領域の解析をすすめた。その結果,これまで報告された2つのハプロタイプとは異なる配列を持つセタシジミ個体群の存在を確認した。さらに,その個体群のミトコンドリアCOI遺伝子は,タイワンシジミ種群がもつハプロタイプの一つとほとんど同じ配列をもち,タイワンシジミ種群のハプログループに属することが明らかとなった。また,この個体群の雌雄性および精子鞭毛数を観察した結果,既知のセタシジミと同様に雌雄異体であり,2本の鞭毛を持つ精子を有していたことから,本個体群はセタシジミであることが支持された。以上の結果は,雄性生殖を行うタイワンシジミ種群から両性生殖を行うセタシジミに,生殖様式の違いを超えて,タイワンシジミ種群のミトコンドリアDNAが水平的に移動したことを示唆している。
著者
横山 知子
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

2007~2008年に広島・長崎放射線影響研究所において行った、原爆被爆者の緑内障調査の全データを解析した結果、原爆被爆者において、正常眼圧緑内障と被爆線量には有意な正の相関を認めることがわかった。正常眼圧緑内障の発症メカニズムはいまだ不明であるが、循環障害の関与が疑われている。そこで、眼局所の循環障害に関連すると考えられる網膜細動脈硬化と、被爆線量との関連を調べたが、有意な相関を認めなかった。
著者
松井 哲哉 並川 寛司 板谷 明美 北村 系子 飯田 滋生 平川 浩文
出版者
独立行政法人森林総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

ブナ分布北限地域の最前線における正確な分布を調べるために、空中写真解析と現地調査を併用した結果、ブナの孤立林は最大約4km間隔で9箇所分布していることが判明した。これらの孤立林は、ブナの連続分布域から鳥などによって運ばれた種子が育ち、成立した可能性がある。遺伝的解析の結果、孤立ブナ林では孤立度が高く、多様度は低下する傾向がみられたものの、ブナの樹齢は120年以下の若い個体が多く、ブナは林冠のかく乱などを契機として今後もゆっくりと分布範囲を拡大すると考えられた。
著者
羽田 康一 佐野 好則 山口 京一郎
出版者
東京藝術大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

紀元3世紀に2人のフィロストラトスが書いた『エイコネス』(絵たち)は古代エクフラシスの代表作である。本研究では、『エイコネス』各章の記述において、造形の伝統と文学の伝統がどのように混在しているかを精細に考察し、また各作品中の複数場面を明確に区別することに努めた。個々のモチーフや描法、構図が出現したおおよその年代を、場合によってはその特定の典拠まで、推定できる事例は多い。フィロストラトス『エイコネス』全80数章と、彫刻を扱ったカッリストラトス『エクフラセイス』全14章の翻訳註解に加え、エクフラシス、第二期ソフィストなどの問題についても考察し、さらに一部の章について再現図を制作した。
著者
中生 勝美
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、GHQの下部組織であるcivil Information and Education section (CIE)に所属していた人類学者の分析から、戦後のアメリカの極東政策と人類学の利用について、公文書と聞き取りから研究を進めた。当時GHQが収集した資料はアメリカの公文書館に所蔵されている。特に、1990年代に日本への戦時賠償請求が時効にかからないという法令が採択された影響で、2000年以降、新たな資料が公開されている。本研究では、CIEの資料を中心に調査をしたが、かつてCIEに勤務していた日系人研究者へのインタビューより、アメリカの人類学が日系人強制キャンプでの調査から始まり、戦時情報局、CIAの前身のOSSと関係を持ち、それがGHQの調査に継承されていくプロセスを明らかにできた。CIEの調査部長であったH. Passinは、1946年8月に目本民族学協会主催の講演会で「現代アメリカ人類学の諸傾向」を講演しており、その後、当該学会はCIEからの依頼で『日本社会民俗辞典』の編纂に着手して、GHQの人類学を利用して日本社会の深い理解を目指したことが判明した。さらに、CIEは、農地改革などの改革政策について、日本各地に調査拠点を選定し、その調査に日本人の人類学者、民俗学者、社会学者を嘱託で採用して実態調査をさせている。この調査方法が起点となって、アメリカにおける日本研究の基礎となり、また日本におけるアメリカの方法論に基づく調査研究が発展している。しかし、アメリカの学界では、GHQ時代の日本研究について、全く知られていない。本研究は、GHQの人類学者たちの活動を、オラル・ヒストリーと公文書により、戦前から戦後にかけてのアメリカの人類学者の活動を明らかにし、戦後の日本の人類学・民族学・民俗学との関係を解き明かすことに一定の成果を挙げた。
著者
佐藤 誠 赤羽 克仁
出版者
東京工業大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

日本の重要な無形文化財である「あやつり人形」遣いの技能を特徴別に分類し、技能の記録、技能の難易度の数値化を行い、糸を使った芸術表現を提示するために年度ごとに設定された研究目標に向かって研究開発を行った。・平成26年度【生き生きとしたあやつり人形の要因の解明】・平成27年度【あやつり人形を工学的に再現】以上の研究開発を行い、操作性、有効性、実用性などの評価実験を行い、今後の課題を明らかにした。
著者
孝口 裕一 山野 公明 八木 欣平 奥 祐三郎 松本 淳 浦口 宏二
出版者
北海道立衛生研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

イヌの抗多包条虫ワクチンの開発は将来的に飼いイヌからヒトへ、あるいは終宿主動物の感染率を長期的に下げる有力な手段になる可能性がある。一方、イヌに感染と駆虫を繰返すと部分的な感染抵抗性を示すという報告があり、再感染によって誘導される虫体排除機序を解明することはワクチン開発を行う上で重要であると考えられる。本研究ではイヌに多包条虫を繰返し実験感染させ、従来の糞便検査に加え、分子生物的な解析を行うことにより主要な虫体排除機序の一端を明らかにした。また、繰り返し感染により感染抵抗性を獲得したイヌの虫体排除能は短期的に消失せず、イヌの抗多包条虫ワクチン開発の可能性を裏付けた。
著者
竹田 隆一 坂井 伸之
出版者
山形大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

初年度は実績概要について、(1)力学モデルと運動法則によって合理的な動作の原理を解明する。(2)理論に基づいた指導法を開発し、主に中学校体育で活用できる指導書を作成する。(3)外国人も理解できる指導書を作成する。の3項目を示した。これを踏まえ、昨年度は、(1)について、新たな知見を積み重ねることができた。具体的には、「多段階ブレーキ効果」と「下肢の支点移動」である。「多段階ブレーキ効果」は、初年度示した「ブレーキ効果」のい理論を更に深化させたもので、竹刀の振り下ろし時に、前方に移動する竹刀に、はじめに左手のブレーキがかかり、次いで右手のブレーキがかかる、つまり二重のブレーキが働くわけである。それによって、竹刀の先端に勢いがつき、速い振りとなるのである。また、「下肢の支点移動」とは、左脚で蹴り、右足で踏み込む(作用反作用効果)局面において、左脚の一点を支点にして、上肢が動くわけだが、そのとき、左脚の支点が移動しながら上肢が前方に移動することである。これによって、より勢いをつけて踏み込み運動が遂行されることがわかった。さらに、(2)については、物理学的理論を深める一方で、指導法の基礎について深めた。初年度は、①エレベーター効果を得るために、送り足を連続しておこなうこと。②上肢と下肢の作用・反作用効果を得るために、ギャロップ運動を利用すること。③打突運動においてブレーキ効果を得るために、実際に物を打つこと。を示したが、昨年度は、それらを検証し、さらに、「多段階ブレーキ効果」を効果的に遂行できることを目的に「跳ね上げ竹刀振り」の練習法を考察した。また、上肢と下肢の協応を効果的に練習できる「跳躍正面打ちからの面打ち」を効果的で有効な練習法と考察した。
著者
國保 成暁
出版者
日本医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

(背景)mTOR阻害薬(mTOR-i)は種々の悪性疾患に対して抗腫瘍効果を有する薬剤であるが、高頻度でリンパ球性胞隔炎等などの薬剤性肺障害を発症することが知られている。同薬剤は脂質代謝異常の副作用も引き起こすが、肺障害のメカニズムは未解明であるため検討した。(方法)ヒトmTOR-i肺障害2症例の肺病変を病理学的に検討した。またmTOR pathwayと脂質関連分子に着目してマウスと培養細胞(マウス肺胞上皮株MLE12)を用いてmTOR-i肺障害モデルを作製し病理および生化学的解析を行った。C57/BL6Jマウスを用いてTemsirolimus (10mg/kg/day)を3回/週で計4週間投与したモデルと、Control群としてVehicleとBLM投与モデルを作製した。MLE12ではTemsirolimusを0-20microMの濃度で投与し24時間まで観察するモデルを作製し解析した。(結果)mTOR-i肺障害2症例においては泡沫化した肺胞上皮の増生が認められた。mTOR-i投与マウスでは血清中T-choと遊離脂肪酸値が上昇し、血清とBAL中のSP-Dも高値を示した。Temsirolimus投与によりモデルマウスで肺胞上皮の増生とその細胞質内の脂肪滴貯留が認められ、MLE12においても脂肪滴貯留の所見が認められた。Temsirolimus投与により、マウス肺やMLE-12ではPPAR-γの発現が低下していた。(結語)mTOR-iは、全身性および肺胞上皮における脂質代謝ストレスを介して上皮傷害を惹起していると考えられた。mTOR pathwayの下流に位置するPPAR-γの発現変化がmTOR-iによる肺胞上皮傷害に関与する可能性が示唆された。