著者
青木 務
出版者
神戸大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

木管楽器としてクラリネットとリコーダーを用い.音の「聞こえ」の心理量と周波数分析などにより得られる物理量を関係づけることを試みた。すなわち.いつも一定の条件で楽器音が得られるように.まず簡便な吹奏装置を作製した。次に音色の管能評価実験を行った。最後に両者より得た物理量と心理量を関係づけるとともに.良い音色をだすリードとはどのようなものかを.吸水実験などから検討した。得られた結果は以下の通りである。(1)クラリネットの音色においては.響きのある豊かな音が好ましいとされた。一方リコーダーでは.豊かな音が好ましいとはされたが.響きや柔らかさには適度の範囲があるようであった。(2)両者とも,残響時間が長いほど.減衰速度が遅いほど「よく響く」音と評価されていることを確認した。なお.プラスチック管は木管と比べて.響きすぎるきらいがあると言える。(3)音の豊かさは.倍音当りのdb低下量と関係し.この低下の割合が少ないと芯のある良い音になることが確認できた。ただ.豊かさは柔らかさにも影響されることも明らかとなった。すなわち.低次寄数倍音が多くても.高周波成分の多いかたい音であれば貧弱に聞こえる。(4)リードが吸水するに伴い.音色は一度好ましくない状態になるが.一定時間後には好ましい方向に変化する。しかしそれ以降.再び好ましくない音色へと緩やかに変化する。このような変化は.吸水による材の軟化を水分吸収による質量増加の効果が組み合わさつて生じると考えられる。(5)ティップへの吸水は.材の軟化を重量増加を生じさせ.音を低周波側に移動させる。ハートへの吸水は.高周波側に移動させるが.軟化によりリードがたわみ.リードの開きが狭くなることに起固する。
著者
大竹 二雄 天川 裕史
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

アユ、ビワマス、ウナギを主要な研究対象に耳石のSr安定同位体比(^<87> Sr/^<86> Sr)や酸素安定同位体比(δ^<13> O)を用いて産卵場所を含む回遊履歴を明らかにした。耳石^<87> Sr/^<86> Srからアユの母川回帰性がないことを示し、ビワマスには母川回帰性があるもののその性質は弱く、母川近隣河川に遡上する傾向が強いことを明らかにした。耳石^<87> Sr/^<86> Srに基づいて、ウナギ産卵海域で採捕された親ウナギの成長場所の推定を行い、一部のウナギが日本列島太平洋岸の河川、汽水域で育ったことを示した。また、シラスウナギの耳石中心部分のδ13Oから卵の分布が水温26. 0℃、水深150-170mであることを明らかにした。この結果は2009年、2011年の学術研究船白鳳丸によるウナギ卵の採集に大きく貢献した。
著者
鈴木 慶子 三浦 和尚
出版者
長崎大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

急速かつ確実に「手書き離れ=PC依存」が進行している。手書き離れによる影響は「漢字が書けない」という現象を引き起こしていることに止まらない。学生は「読み」の力をも低下させている。同一問題を黙読して解答した群と視写して解答した群では総合点で視写群が高得点となった。視写することは、正確な「読み」に導く契機となる。 一方で、学生は、PC依存を自覚している。構想を練る時、全体と細部との関係を整合する時、及び立ち止まって自分の考えを吟味する時、PCでは不都合であると。同時に、下書き及び書き直しという概念が消失しつつある。両者の繰り返しによって鍛えられてきた、正確に「書く力」が危機的状況にある。
著者
島田 和子
出版者
山口県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

抹茶は、5月に製造された新茶(碾茶)を半年以上低温下で熟成保存させ、それを茶臼で微細紛にしたものである。保存しない新茶(碾茶)を用いて製造した抹茶は、抹茶特有の香り、こく味などの風味に欠け、泡立ち性も劣ることが製茶業者では知られている。この研究は、「抹茶特有の風味が生じるためには、なぜ碾茶を熟成保存する必要があるのか」について明らかにすることを主目的とし、以下の結果が得られた。抹茶の官能評価では、碾茶を含気包装で6ヶ月間保存して調製した抹茶は、保存しない碾茶から調製した抹茶より、うま味・甘味があり、渋味・苦味が抑えられ、まろやか感があると判断された。また、窒素充填包装保存よりも含気包装保存の方が、抹茶らしい風味があると判断された。渋味・苦味成分であるカテキン類の抹茶溶出液中の量は、保存期間が長くなるにつれて僅かに減少した。苦味成分のカフェイン、うま味・甘味成分の遊離アミノ酸、甘味成分の遊離糖の各溶出量は保存期間中ほぼ一定であった。抹茶の泡立ち性は含気保存6ヶ月の抹茶が最も泡立ち性が良く、次いで窒素充填保存6ヶ月の抹茶、保存0ヶ月の抹茶の順であった。以上の結果より、碾茶を保存した抹茶の方が抹茶らしい風味であって、総合的においしいと評価が得られたのは、泡立ち性の向上がその一因であると推察した。碾茶を5℃、6ヶ月間保存しても、抹茶中の総ビタミンC及びアスコルビン酸の残存率は80%以上で高かった。クロロフィル及びクロロフィル誘導体含量、クロロフィラーゼ活性も変化がなかた。以上のことから、抹茶の風味生成のための碾茶保存条件では、茶葉の品質は劣化しないことが確認された。また、カテキン類、カフェイン、ペクチンは茶葉採取時期による抹茶の風味の違いに大きく寄与していないことが認められた。
著者
佐藤 正明
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

翻訳論、メディア論、精神分析を理論的に結びつけることを目指した本年度の研究では、フリードリヒ・キットラーのテーゼ「文字が保存するものは、ただ文字のみなのであり、それ以上でもそれ以下でもない」(『グラモフォン・フィルム・タイプライター』)に注目し、「翻訳が保存するものは、オリジナルではなく、ただ翻訳のみである」という仮説を立てることから出発した。メディア論の観点に立てば、文字という物質が記録しているのは、その背後に広がるアイディアの世界ではなく表面の文字だけであり、読み手がそこから読み取る意味と厳しく峻別されなければならない。同様に、「翻訳」と呼ばれる文字列が記録しているのは「翻訳されたもの」だけであり、その媒体の中に「翻訳されるべきもの」であったオリジナルは含まれていない。原文と翻訳の「等価性」や「誤訳」の問題は翻訳論で常に焦点を当てられてきたが、そこでは二つのテクストの連続性が前提され、かつ要求されている。これに非連続性、恣意性を対置させることで、翻訳論は精神分析的なダイナミズムへの広がり獲得する。原文の刺激に由来しつつもそこから断絶されて別の言語体系に現れた「翻訳」は、その国語に運動をもたらし、話者を新たな連想の連鎖に置くことができる。このとき翻訳は、原文の代理としての「翻訳されたもの」ではなく、独自の(シニフィアンの)論理に従って振舞う(話者/主体を)「翻訳するもの」となる。フロイトの用語において「翻訳」は「解釈」の意味で使用されることがあるが、彼が「翻訳/解釈」によって目指していたのは真理としての原文の正しい再構成ではなく、翻訳の連鎖としての連想が先に進むことだけである。ラカンが日本語の特徴として名指した「永遠の翻訳」とは、漢字というフェティシズム化された対象のまわりで「翻訳するもの」が循環してしまい、機能不全に陥った状態を指すといえる。
著者
大澤 範高 梅澤 猛
出版者
千葉大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

プログラミング学習に対する興味を喚起すると共に、プログラミング学習において重要な抽象化の概念の学習と利用を促進することを目的に、3次元プリンタによるプログラムの3次元実体化の方法を研究した。また、複合現実感技術を用いて、実体化された部品と仮想部品を統合して利用できるプログラミング環境を研究した。さらに、学習者の行動の分析に必要となる、屋内における位置推定技術として従来とは異なる方法での位置指紋法と自律航法を統合した方法を開発すると共に両手の動きによる行動判別技術の研究を進めた。
著者
宇佐美 雄司 大須賀 伸二
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

唾液によるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染の可能性を検証するために、HIV感染者から全唾液を採取しnested-PCR法を用いてHIVプロウイルスDNAの検出を試みた。さらに、感染性については唾液中の血液の混入を調べる必要があるが、ヘモグロビン量を測定することにより評価した。その結果、CD4陽性リンパ球数が500/μ1以上の患者の唾液中からはHIVプロウイルスDNAは検出されなかったが、ほぼAIDS関連症候群にあたるCD4陽性リンパ球数500/μ1未満の200/μ1以上の患者の唾液の57%からHIVプロウイルスDNAが検出された。AIDS状態に相当するCD4陽性リンパ球数が200/μ1未満の患者から採取した唾液からは検出されなかった。HIVプロウイルスDNAが検出された全ての唾液検体からは血液の混入が認められた。すなわち、唾液自体による感染の危険性は否定的であるが、微量ながら血液が混入している唾液によってはHIV感染が成立する可能性があると考えられた。さらに今後はより厳密な検討のために唾液中のHIV-RNAの測定も必要と思われた。次に唾液によるHIV感染の危険性を修飾すると考えられる口腔内の局所免疫能を検討するために、唾液中の分泌型免疫グロブリンAを定量した。その結果、CD4陽性リンパ球数が200/μ1未満の患者において唾液中の分泌型免疫グロブリンAの濃度が低下する傾向が示された。これはHIV関連口腔症状の発現にも関与していると推測された。
著者
恩田 裕一 山本 政儀 山田 正俊 北 和之 竹中 千里 浅沼 順 中島 映至 篠原 厚 神田 穣太 五十嵐 康人
出版者
筑波大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2012-06-28

1.領域内の相互啓発と情報共有:全計画研究班の研究が円滑に進むよう統括を行った。WEB中継会議システムを活用して全構成員間のより緊密な連携を図った。 2.研究支援活動:「データベースワーキンググループ」を統括し、事故発生以降の環境データ、モデリングデータ、分析データを使いやすい形で整理し、関係研究者に提供した。また「分析チーム」を統括し、分析がIAEAスタンダードになるようproficiency testの結果を反映させた。3.公募:各計画研究の補完・推進を目的として採択した第ニ期公募案件について研究支援を行った。
著者
笠原 諭
出版者
福島県立医科大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

○研究目的:トップレベルのラグビー選手が知能検査の積木課題(空間認識能力を反映する)で高得点を示すことが報告されている(2008.Kasahara)。そこで本研究ではトップレベルのラグビー選手に特徴的な認知能力の脳内基盤を解明する。また各種心理検査も行いアスリートの心理発達面についても調査する。○研究方法:対象はtop群(秋田ノーザンブレッツ選手)20名と、novice群(ラグビー未経験者)20名に対して、知能検査(WAIS-III)、MRI形態画像、fMRI機能画像検査(メンタルローテーション課題など、約3分のセッションを11通り)、心理検査(STAI, Self efficacy, EQ/SQ, NEO-FFI)を行った。○研究成果:多数の項目について検査を行ったため、解析が終了し空間認識能力と関連のある項目に焦点を絞り報告する。top群とnovice群において、知能指数、積木課題の得点、メンタルローテーション課題における正答率、反応時間いずれにおいても有意差は認められなかった。メンタルローテーション課題時の脳活動は、右上頭頂小葉、右背外側後頭皮質、左中側頭回においてtop>noviceで、右内側眼窩前頭皮質ではtop<noviceであった。これらの脳活動の差は、課題施行の方略の違いを反映している可能性があると考えられた。右背外側後頭~頭頂領域の脳活動がtop群で高いことから、top群はより俯瞰的かつ想像的に課題を遂行している可能性が示唆された。またメンタルローテーション課題における正答率と積木課題の得点は、top群、novice群いずれにおいても有意な正の相関を示した。
著者
大城 道則 トロイ サグリロ
出版者
駒澤大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、古代エジプト史のなかで、特に曖昧な時期である第三中間期の第24王朝の社会状況を古代エジプト王バクエンレンエフ(ボッコリス)に属する数少ない文字史料・考古資料を通して明らかにすることを目指した。研究を進める過程で第三中間期を専門とするスウォンジー大学のサグリロ博士、エジプト探査協会のノウントン博士、ウィルソン博士を日本に招聘し、三度の研究発表会を開催した。今後、彼らと研究代表者が発表した内容をまとめて出版する計画を進めている。その一環として「タルクイニア出土のボッコリス王のファイアンス製壷―紀元前8世紀ににおける古代エジプトと地中海世界―」が『関大西洋史論叢』の最新号に掲載された。
著者
山本 宏子 徳丸 吉彦 鈴木 正崇 垣内 幸夫 細井 尚子
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、日本および周辺アジア地域の太鼓文化を対象に、そのリズムパターンを収集し、それぞれの伝統的伝承システムである口唱歌(口太鼓)に基づく記録方法でデータバンクを構築することを通して、アジアの太鼓文化の相互関係を明らかにし、また、各地域の口唱歌システムを比較分析することによって、日本人のもつ音楽性を浮き彫りにすることを目的とするものである。さらにはアジアの伝統的太鼓文化の保存と発展に資する資料を提示し、理論的・方法論的に問題提起をすることをも、その目的としている。中国・ベトナム・インドネシア・インド・日本で調査をおこない、資料を収集した。1、実際のコンテクストの中でおこなわれた祭・儀礼・芸能を参与観察し、関係者の許可が得られたものは、写真やVTRで記録作成をおこなうことができた。2、芸能の芸態つまりテクストそのものの分析に資する資料として、上演を依頼し、舞踊劇や人形劇・舞踊などを収録した。3、太鼓をそれぞれの伝承者から習い、口唱歌と伝承方法についてのインタビューでデータを集積した。これらの調査から、口唱歌には、「インド系単音オノマトペ型」と「中国系重音オノマトペ型」の2つの化圏があることが分かってきた。また、単に太鼓の音を真似て歌う「単純口唱歌」と、それを体系化した「システム口唱歌」の2つのレベルの文化圏があることも分かってきた。両要素は必ずしも連動してなくて、それらの重なり具合は複雑な様相を呈している。さらに、それらを比較すると、「聞き做し」のオノマトペが、発展し体系化し、伝承システムとして構築されるには、太鼓というテクストだけではなく、太鼓を取り囲むさまざまなコンテクストが影響を及ぼしていることが明らかになった。
著者
石川 一
出版者
広島女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究の目的は、慈円の法楽歌群(諸社法楽百首歌八種及び日吉社法楽『慈鎮和尚自歌合』)を調査・収集した上で、和歌内容の分析・検討することにある。調査対象となる当該伝本は相当数存在しているが、その本文は多分に錯綜しており、極めて複雑な様相を呈している。また、諸社法楽百首歌の中には同時代歌人の競作が確認されるものがあるので広角的・多面的視野からの精密な考察が要求されるところである。平成11年度から四年に亘る調査・収集は全国の当該伝本の紙焼写真・マイクロフィルムが収蔵されている国文学研究資料館を中心に段階的に行い、概ね順調であったと言える。ただし、撮影・紙焼写真頒布などが許可されなかった伝本については費やした労力に見合うだけの成果が得られたかどうか判断に苦しむところである。今後、それらを反省材料として検討を重ね、次の分析段階へと進めてゆきたい。なお、一連の校合作業の基準となる青蓮院本本文については、先年の科学研究費「『拾玉集』の諸本分析による本文整定」(一般研究C、課題番号・05610359)によって整定作業が完了しているので、その基盤の下で百首内容の解析がある程度可能であったことは特筆しておきたい。さらに平成十年度文部省科学研究費補助金(研究成果公開促進費)によって刊行され、『拾玉集本文整定稿』(勉誠出版・平11)は学界に寄与している。本研究成果の一部として提出した小論「『慈鎮和尚自歌合』再考」は、科研費導入によって得られた新たな調査報告・見解と共に、前稿以降十年間の研究動向を併せて論述したもので、本学部紀要に掲載することができた。参考資料として、前稿「雙厳院蔵『日吉七社歌合』翻刻」(広島女子大学文学部紀要25号・平2)・同「校本『慈鎮和尚自歌合』」(同紀要23号・昭63)を合冊し、報告書とする。
著者
石川 一
出版者
県立広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

慈円の和歌活動のうち自省期における諸社法楽百首群を分析・検証することによって、寺社縁起形成に関する基本資料を精査することを目的として解明を進めてきた。その結果、東大寺大仏再建に掛ける九條兼実などの活動や東大寺衆徒による伊勢神宮参詣などの動向などの基本資料を博捜することが出来たが、膨大な伊勢神道に関する著作が対象として扱うことのない「法楽歌」の背景に潜む歴史意識の深遠さに迫ることが出来なかった。引き続き法楽歌の全容解明に取り組んで行きたいと思う。
著者
山中 浩司 岩江 荘介 香取 久之 野島 那津子 樋口 麻里
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

研究期間中、希少疾患当事者53件(医療費公費負担対象疾患(インタビュー実施時)25件、2)その他希少疾患20件、3)未診断8件)に対して56回のインタビュー調査を実施した。うち、40件については、2017年3月に、病の経験と社会的認知に関係する11項目について中間報告書(162頁)をまとめ、関係者に送付し、概要を協力団体のウェブサイトに掲載した。40件の聞き取りデータ(のべ76時間)から、希少疾患患者における「社会的宙づり状態liminality」を明らかにし、成果の一部については、国内外の学会で報告を行った。また、こうした状態の中核をなす就労問題について、関係者から意見聴取も行った。
著者
津田 充宥 大垣 比呂子 垣添 忠生
出版者
国立がんセンター
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1986

生体、特に胃以外の部位で、ニトロソ化合物が生成する可能性をさぐる目的で、チオプロリンのニトロソ化を指標として、以下の研究を実施した。1.生体試料中のチオプロリンの分析:生体内での亜硝酸捕捉剤と考えられるチオプロリンの微量分析法として、化学発光検出器を用いる方法を独自に開発した。本法により、ヒト血中並びに尿中に、チオプロリンが常在すること、更に動物(ラット)組織を分析した結果、肝、肺、腎の各組織中にもチオプロリンが存在する事を明らかにした。この事は、チオプロリンが生体における常在成分である事を示唆するものであり興味深い。もし胃以外の部位でのニトロソ化が起こるとするなら、組織中のチオプロリンが優先的にニトロソ化され、尿中にニトロソチプロリンとして排泄されている事が予想され、今後の検討課題と考える。2.中性条件下でのニトロソ化反応のin vitroでの検討:Cigarette smokeや都市ガス燃焼雰囲気中のNOxが、ニトロソ化反応に関与するか否かを知る為で、これらをチオプロリンの水溶液中に導入した結果、それぞれ,10-16ng/cigarette,500-800ng/30min.燃焼でニトロソ化体を検出した。この事実は、cigarette smoke中や大気汚染物質としてのNOxが、何らかの形でヒト体内でのニトロソ化反応に寄与し得る事を示したものと考える。3.【NO_2】曝露の生体内ニトロソ化反応への影響:上記1.、2.の知見に基づいて、【NO_2】に曝露(10ppm,12時間)されたラットの尿中ニトロソアミノ酸含量を調べた結果、ニトロソプロリン及びニトロソチオプロリン含量が、曝露群で有意(約2倍)に上昇していた。この事実は直ちに、胃以外の部位、例えば肺組織中でのニトロソ化を意味するものではないが、重要な知見と考える。更に詳細な検討を重ねて結論する必要があり、現在、追試験を検討中である。
著者
鈴木 啓子
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

泉鏡花作品がどのような文学状況を背景に、どのような読者を意識しつつ制作され、どのように受容されたかを、同時代評・先行研究の収集検証によって、その通史的な全体像の把握に努めるとともに、作品成立期の文化・文学状況を視野に入れながら、個々の鏡花作品の具体的な検証を行い、「対時代性」と「伝統性」の観点から、鏡花文学の文学的特色と文学史的位相の再検証を試みた。
著者
下浦 享 道正 新一郎 鎌田 裕之 大田 晋輔
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

中性子多体系のダイナミクスの情報を得るために、不安定原子核の内部エネルギーを利用した原子核反応-発熱型荷電交換反応-を用いて軽い中性子過剰核および4中性子系の生成過程を調べることが目的である。これを実現するために、反応高分解能磁気分析装置(SHARAQスペクトロメータ)および高分解能ビームラインにおいて飛跡を分析する検出器を設計・製作し、4中性子系の生成に最も適した原子核反応(8He, 8Be→2α)で測定する2個のα粒子の検出システムを開発した。発熱型荷電交換反応による高励起状態および二重荷電交換反応による中性子過剰核12Beの生成に成功し、2012年前半に実施予定の4中性子系生成実験の礎が固められた。
著者
坪野 公夫
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究課題提案型)
巻号頁・発行日
2008

非線形光学結晶を用いた2次の非線形光学効果を用いたスクイーズド真空場生成装置を開発し、8dBのスクイージングに成功した。そしてプロトタイプ重力波検出器を設置し、生成したスクイーズド真空場を入射することにより、スクイーズド真空場を用いた重力波検出器の散射雑音の低減に初めて成功した。
著者
細野 智美
出版者
筑波大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

本研究は、副腎皮質刺激ホルモン受容体の遺伝子多型の違いによるコルチゾール分泌の違いが睡眠薬の効果に及ぼす影響を調べ、効果的な睡眠薬の選択へ応用することを目的とした。筑波大学附属病院に入院中の患者を対象に、セントマリー病院睡眠質問票を用いた聞き取り調査を行った。対象は、ゾルピデム(ZOL)服用172名およびブロチゾラム(BRO)服用157名である。ZOL群およびBRO群について、さらにそれぞれの群を患者の満足感(不満あり・不満なし)で2群に分類して、患者背景、総睡眠時間、中途覚醒回数および睡眠に影響をおよぼす薬剤の併用割合を調べた。ロジスティック回帰分析は、男性、65歳未満、総睡眠時間6時間未満、中途覚醒回数、副腎皮質ステロイド剤の併用を独立変数、不満ありを従属変数としてオッズ比と95%信頼区間を求めた。その結果、ZOL群とBRO群に共通した不満要因は、総睡眠時間6時間未満であることと中途覚醒回数の多いことであった。また、ZOL群では男性であること、BRO群では65歳未満であることと副腎皮質ステロイド剤の併用が不満要因であった。これより、睡眠薬の種類によって、患者の満足感に副腎皮質ステロイドが影響を及ぼすことが示された。睡眠薬服用によるコルチゾールの分泌変動について健常成人を対象に検討を行った。尿中17-ハイドロキシコルチコステロイド(17-OHCS)濃度はPorter-Silber反応を、尿中コルチゾール濃度はHPLCを用いて測定した。その結果、ゾルピデム服用において尿中コルチゾール/17-OHCSの低下がみられた。これより、睡眠薬服用時のコルチゾールの分泌低下が睡眠薬の効果に影響を及ぼしている可能性が示され、副腎皮質刺激ホルモン受容体の遺伝子多型の違いにより、睡眠薬の効果が異なる可能性が考えられた。
著者
関 一誠 佐藤 健 宮崎 正己
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

本年度は携帯型GPSレシ-バを使用して、携帯電話による補正位置情報サービスによる補正された位置情報を取得した。この取得された位置情報を基にSISという地図情報システム(Geographic Information System)にその位置データを基にした移動軌跡図を描いた。また、同時に生体情報(心拍数、呼吸数、節電図)も携帯型データレコーダによって取得した。位置情報は携帯電話を利用しているため電波を受信できない状況(例えば地下など)も生じてくるが、精度の高い位置データの取得が可能であった。このことにより、二次元的及び三次元的な人の移動距離の実測が可能となった。また、同時に取得した生体情報は人の移動距離の生体の状況を説明できるものとして有用なことが示された。今後は、位置情報のデータ・生体情報をオンライン化することや位置情報の補正サービスを受けた際のデータの補間法などがいくつかの点での問題が残された。