著者
中嶋 隆藏
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

出版物としての嘉興大蔵経が、(1)どのような目的のもとどのような計画で出版されるようになったのか、その出版費用はどのようにして工面されたのか、出版を推進した人物は表面的には誰であり、実質的には誰であるか、(2)出版に至るまでの具体的経過(定本の確定、浄書、刻印、校正、刊行)はどのようなものか、頒布方法はどのようなものか、刊行された大蔵経が事後どれほどの影響を持ったのか、こういった様々な事情を具体的に跡づけることを研究の目標とした。(1)の諸問題については『刻蔵縁起』所収の諸文献がが有力な資料を提供してくれる。これによって検討した結果、次のような事実が明らかになった。末法のただ中を生きるすべての人々にくまなく真の仏教を認識させそれぞれの情況と資質に応じて仏法の実践を勧め悟りの境地へ向かわせるために、廉価で扱いやすい方冊版大蔵経を提供するというのが刊行の目的である。出版費は協賛者の醸金によるとされたが、有力信者の大口寄付を主として早期刊行を目指すか、無名信者の貧者の一燈を主とし刊行の遅延もやむを得ないとするかで見解が分かれた。表面上の推進者と実質上の推進者との意見・方針の不一致が顕在化した。(2)の諸問題については、『嘉興蔵目録』と各典籍巻末の刊記が有力な資料を提供してくれる。これによって検討した結果、次のような事実が明らかになった。定本の確定に至るまでの過程は、当初、厳密な規約によって統一的に処理されるべきであるという共通認識がされていたようであるが、その意識は時に弛緩したようで、少なくとも三度にわたって規約の確認が行われたにも拘わらず、結局一貫されなかった模様で、そのため大蔵経全体としての形式上の統一性を欠く結果を招いた。刊行には莫大な費用がかかったが頒布に際しては紙代、印刷代、製本代などの些少の印刷実費を負担すれば購入できるということで所期の目的は達成された。刊行された大蔵経がその後、中国の各種仏典刊行に際して必ずしも底本の役割を果たさなかったが、日本では、鉄眼の黄檗版大蔵経刊行において底本として採用された。
著者
松井 道昭 永岑 三千輝 廣田 功 上杉 忍 浅井 良夫 小野塚 知二
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

松井は、普仏戦争において、最初の国民戦争=総力戦の要素を抉り出した。この戦争において交戦国双方において兵站力が増せば、自ずと戦争は長期化し、持久消耗戦に転化していく可能性がすでに存在したことを摘出できた。永岑は、ヒトラーの戦略と領土膨張構想を秘密文書と国会演説で解きほぐし、第一次大戦と戦後再建のあり方の相互連関を明らかにすると同時に、戦争と復興が内面的に関連することを摘出した。廣田は、「連続性」を指摘されるフランスの福祉国家成立史において、第1次大戦がフランスの経済社会に与えた影響の重要性を明らかにした。小野塚は、1930年代中葉から戦時にかけて、社会主義・労働運動系の音楽運動が活力を回復した要因と、その過程に表れた新たな特質を明らかにして、戦後復興のもう一つの国際連帯の側面を明らかにした。本宮は、横浜における戦後復興の過程に関して、市内神奈川区大口地区を事例に採り上げ、それをとりまく地域社会との関係性も意識しながら、戦後復興過程の具体的様相を考察し、都市横浜における戦後復興過程の研究に奥行きを持たせる上での詩的素材を豊かにした。浅井は、ワシントンの国立文書館で占領後の対日援助政策とその実態に重点を置いて検討を行ない、占領後においても、対日援助が重要な役割を果たしたことを明らかにした。上杉は、冷戦期の黒人公民権運動とその圧力を受けて進められたとされてきた連邦政府の公民権政策の転換に関する近年の研究動向を概観し、(1)この公民権政策の外交戦略的側面への注目が重要であること、(2)冷戦下の「赤狩り」によって公民権運動の軌道が規定されたこと、(3)さらに直接的大衆行動に立ち上がった南部の頑迷な白人人種差別主義者をアメリカ史の逸脱としてとらえるのではなく、アメリカ社会の基本的構成要素としてこれを社会史的に分析することが求められていること、を指摘した。上原は、第二次世界大戦後のフランスが、国力の疲弊という構造的制約のもとで、いかにしてpuissanceパワーを獲得するために、近代化優先政策を展開したプロセスを分析した。小島は、第二次世界大戦中にナチス・ドイツによって占領され,戦後に経済復興を遂げたベルギーについて,欧州統合との関係を視点として検討し、ヴァンゼーラントを発掘して、ベルギーの戦後復興にけるイニシアティヴを解明した。
著者
石黒 真木夫 OTTO Marc C. CHEN Bor Chu BELL William MONSELL Bria FINDLEY Davi 川崎 能典 北川 源四郎 尾崎 統 BOR Chung H. R.BELL Willi 浪花 貞夫 赤池 弘次 LARRY G Bobb BRIAN C Mons DAVID F Find 田辺 國士
出版者
統計数理研究所
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1992

この研究で扱われた問題は以下の通りである:1.譲歩量基準EICの利用:季節調整の問題におけるEIC(Extended Information Criterion)の利用が論じられ、提案されたリサンプリング法によると、外挿による予測に適したトレンドが選択されることが示された。2.多変量経済時系列解析:多次元時系列解析のための前処理としての季節調整の役割を研究した。相互に関連している時系列を個々に季節調整し、トレンドを除去すると相互の関係に関する情報が失われる危険があることが湿された。3.動的X11モデル:米国センサス局の開発した季節調整法であるX11法は手続きの総体として定義されている。これをモデルベースの現代的統計手法に再構成するためにその中味を分析するなかでそれが乗算的時系列のトレンド推定に関してユニークな特色を持っていることが明らかになり、その特色をモデルベースで実現する方法を考えた。一つの方法はlog変換した後で加算的モデルベース季節調整法を適用してトレンド推定し、その後バイアスを修正してやる方法で既にYoung.A.H(1968)の仕事があるがそれをさらに拡張した方法を導入しその有効さを実データを用いて示した。もう一つはX11的性質を持ったモデルを新たに導入し直接そのようなトレンドを推定することで、動的X11モデルとでもいえるモデルを開発し、その有効さを示した。4.モンテカルロ・フィルター:任意の密度関数を多数の粒子を用いて表現する方法を用いて、非線形・非ガウス型の状態空間モデルのフィルタリング・平滑化を行なうためのモンテカルロ・フィルタを呼ばれる新しいアルゴリズムを開発した。この方法は従来の非ガウス型フィルタと異なり数値積分を必要としないので高次元の状態空間モデルへの適用が可能となった。モンテカルロ・フィルターの開発により季節性を持つ時系列の解析においても自由に非線形・非ガウス型のモデルを利用することが可能となった。具体的には以下の問題への応用を行なった。1)トレンドや季節成分のステップ状の変化の検出2)異常値の処理3)積型・混合型モデルの推定4)システムノイズなどのハイパーパラメータのベイズ推定5.遺伝的アルゴリズム:パラメータ間に一次元的な特殊な構造をもつようなもの-例えば時系列-は、一般化された状態空間表現の枠組みで問題解決を行うのが、計算手続きの見通しが良く様々な点に於いて都合が良い。状態ベクトルの次元が比較的高い場合に提案されたモンテカルロフィルタは(以後MCF)、自然淘汰と発生のメカニズムを模倣する最適化の一手法の遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm、以後GA)とほぼ同じ構造をもつことが指摘されている。GAと対応づけることでMCFの理解は容易になるうえに、アルゴリズムに内在する本質的な問題点の認識も深まる。また、MCFの予測の操作にGAのCross-overやMutationの操作をとりこんだ手法が考えられる。実際にその試みを季節調整などの具体的な問題に適用した。6.DECOMPの改良:ベイズ型季節調整モデルDECOMPにおける定常自己回帰成分推定について、トレンド成分や季節成分とのデータの「食い合い」を避けるために、周波数領域で制約つきの最適化を行なうことで、business cycleに相当する成分の摘出を安定的に行なうような改善を行なった。一方、トレンドのジャンプやキンクのモデリングについては十分な検討を行なうことができなかった。7.共和分モデル:また、多変量時系列モデルで共通トレンド成分を考慮する共和分モデルについて、その代表的な推定法を取り上げ、状態空間表現を与えることでone-stepで推定する方法を提案した。8.X-12-REGARIMA:移動平均法を基礎としたセンサス局の季節調整プログラムX-11にAICを利用した回帰モデル選択による予測方式を組み込んだ。
著者
原口 強 下田 一太 杉山 洋 登坂 博行 内田 悦生 山本 信夫 中川 武
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は密林に覆われた古代都市アンコール帝国の実像解明を目的としている.2012年に取得されたLiDAR地形データから作成した高分解能赤色立体図は密林下の地形と遺構を鮮明に描き出し,王都アンコール・トム周辺地域を含む往時の都市構造を解読することが可能となった.LiDAR地形データをベースに王都内の現況水路網の配水・排水検証と降雨に対する挙動を数値計算した結果、自然勾配を生かした水路網と溜池群などの水利都市構造が,雨季と乾季に二分されるこの地域の気象環境条件を克服し,多数の人口を維持するために機能していたことが推定された.
著者
増原 英彦
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

本研究では、自己反映並列オブジェクト指向言語ABCL/R3の言語設計および、インタプリタ処理系の作成を行い、従来のものより、より記述が容易で効率的な実行が可能となる言語処理系作成のための方向付けが得られた。具体的には、以下のとおりである。(1)ABCL/R3の言語設計、特にメタオブジェクトプロトコルに関しては、継承と委譲(delegation)による拡張を念頭に置き、細分化されたメソッド群によって定義を行った。特にこの細分化は、部分計算による実現を前提とすることで、プログラマが利用しすい形で定義することが可能になっている。そのため、報告者らがこれまで設計・実現を行ってきたABCL/R./R2に比べて、メタオブジェクトの拡張に継承機構が利用でき、再利用性を向上させている。また、メタインタプリタ設計に関しては、新しく委譲にもとづいた設計を行った。これによって、インタプリタ実行時にインタプリタ定義を拡張することが可能になり、動的かつ局所的な変更を容易にしている。さらに委譲オブジェクトは、関数定義への変換できるように制限されているため、部分計算を用いたコンバイルを容易にしている。(2)Schemeの並列オブジェクト指向拡張であるSchematicをもとにして、ABCL/R3のインタプリタ処理系を作成した。現在のところ、メタレベルの変更を含めた簡単なサンプルプログラムが動いている。Schematic処理系は、並列環境に対応しているため、ABCL/R3処理系を並列に動作させることは容易であると思われる。また、コンパイル方法については、メタオプジェクトを部分計算した結果を、他のオブジェクトと同様に扱うための枠組が必要であることが分かり、現在はその解決方法を新たな研究課題として検討している。
著者
森田 茂之 二木 昭人 藤原 大輔 藤田 隆夫 岡 睦雄 丹野 修吉
出版者
東京工業大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

研究代表者、各研究分担者のそれぞれの分野における、当研究課題に関連する研究計画にもとづいて、研究を進めた。その結果、当初の目標を完全に遂行し、更にこれからの発展に関する展望を込めた、大きな成果をあげることができた。以下に3の概要を簡単に記述する。研究代表者(森田)は、ここ数年来研究している、向きづけ可能閉曲面をファイバ-とするファイバ-バンドル(曲面バンドル)の特性類の理論を更に発展させ、主要な応用として、リ-マン面のモジュライ空間のトポロジ-に関するいくつかの結果と、曲面の写像類群の構造と3次元多様体の不変量との深い関連を示す定理とを得た。特に写像類群の重要な部分群であるTorelli群と、ホモロジ-3球面のCasson不変量と関連を与える決定的結果を得た。次に、各研究分担者の成果のうちおもなものを列記する。丹野は三角関数の積を変数の巾ぐ割った形の関数の無限巳間での積分に関して新しい公式を求めた。またCR構造、接触構造についても、微分幾何的研究を発展させた。岡は非退化完全交差系に関する一連の研究を推し進め、自然な滑層分割の存在、生ゼ-タ関数を与える公式等を得た。藤田は弱異点のあるDel Pezzo多様体の分類をほぼ完成した。また一般ファイバ-がDel Pezzo多様体であるような偏極多様体の一次元変形栓に出現し得る特異ファイバ-の型を分類した。藤原はFeynmanの経路積分をソボレフ空間上の広義積分として収束を証明した。道具として停留位相法における誤差の大きさを、空間次元に無関係に評価出来るという新しい結果が使われる。また二木はKa^^¨hlerーEinstein計量の存在に関する二木不変量のeta不変量による解釈を与えた。
著者
二木 昭人 服部 俊昭 辻 元 石井 志保子 黒川 信重 丹野 修吉
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

二木は、ケーラー・アインシュタイン計量の存在、Mumfordの意味での代数多様体の安定性および二木指標の非自明性との関連について研究した。丹野は、E^<m+1>の中の完備、向きづけ可能で、安定な極小超曲面上では、0≦p≦mについてL^2調和形式は0に限るのではないかという予想について、m≦4では正しいことを証明した。黒川は著書『数論1』を著した。石井は、任意の非退化超曲面特異点の標準モデル、極小モデル、対数的標準モデルを構成した。またコンパクトトーリック多様体の因子の極小モデルを構成した。また16年前に出された標準特異点に関するリ-ドの予想の反例を構成した。辻は、特異計量を用いて標準環の構造を解析した。特に一般型の代数多様体のモジュライ空間の構成を考察した。服部はリーマン面の射影構造が導くホロノミー群が離散群になる場合を考察し、それが安定な場合には擬Fuchs群しか現れないことを示した。
著者
吉田 朋好 辻 元 志賀 啓成 二木 昭人 小島 定吉 北野 晃朗
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

向きづけられた3次元閉多様体のWitten不変量を共形場理論のコンフォーマル・ブロックに属する真空ベクトルの内積により定義することができた。この定義の仕方はハンドル体に分解された3次元多様体のWitten不変量の計算のアルゴリズムを与え、そのガウス和としての表示が得られる。この表示は従来の量子群の3次元多様体のリンク表示から得られるWitten不変量のガウス和表示のフーリエ変換にあたるものであることを見出した。これは上記の方法によるWitten不変量の定義が単なる定義の変更ではなく、本質的に異なる知見をもたらすものであることを意味している。実際Witten不変量の古典極限に関する情報が、この表示によりもたらされる。
著者
日野 義之 二木 昭人 稲葉 高志 田川 正二郎 安田 正實
出版者
千葉大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

1.解析的研究実績いくつかの公理系をみたす相空間上の無限遅れをもつ関数微分方程式の研究はすでに多くなされている。しかしそれを実際にある種の積分微分方程式に応用しようとすると相空間の具体的選び方に難しさがある。この難しさをFavardのMini-Max理論を応用することにより、線形周期系に対しては有界な解が存在すれば周期解が存在することを示した。2.位相幾何的研究実績余次元1の【C^2】級葉層構造内の例外極小集合が区分的に線形なものに位相共役ならば、それに含まれる半真葉は、有限枚であることを示した。さらに例外極小集合の例をたくさん作ることに成功した。3.微分幾何的研究実績(1)compactな複素多様体Mの解析的自己同型群H(M)に対し、ある準同型f:H(M)→RがMの複素構造の特性類との関連、M上のk【a!¨】hler-Einsteinmetricの存在との関連を論じた。(2)Fano manifoldには標準的なmoment mapが存在することを証明し、次にこのmoment mapを使って作られるsymplectic quotientのRiui曲率を計算した。この計算の系として、sympletic quotientも再びFano manifoldとなることがわかった。
著者
下濱 俊 北村 佳久
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

アルツハイマー病(AD)の病態解明にはニューロン・グリアの分子病態の解明が重要である。小胞体内に存在する分子シャペロンであるBip/GRP78は、ストレス条件下において誘導され、細胞機能の維持に重要な役割を持っている。Bip/GRP78タンパク質投与により、IL-6、TNF-αの産生が認められた。このサイトカイン産生能はBip/GRP78タンパク質の熱処理により消失した。また、同様の投与により、Aβ1-42の取り込み量及びAβ1-42を取り込んだミクログリア細胞数の増加が認められた。これらの結果よりBip/GRP78はミクログリアの活性化及びAβのクリアランスに対して促進的に作用することが示唆された。heat-shock protein (HSP)のミクログリアへの作用について検討した。その結果、細胞外HSP70は、Toll-like receptor4を介したnuclear factor-κB、p38 mitogen-activated protein kinase経路の活性化によりミクログリアからのサイトカインの産生及びAβ1-42の取り込み・分解を促進している可能性が示唆された。その後、確立した脳ミクログリアの純粋培養系ならびにAβファゴサイトーシス(貪食・除去)アッセイ系を利用して、グリア細胞による神経保護作用の解析を進めた。その結果、high mobility group protein-1 (HMG1)がAD脳内で増加しており、老人斑のAβと共存していること、ミクログリアの純粋培養系においてミクログリアによるAβ1-42のファゴサイトーシスを阻害すること、試験管内ではこの物質は単量体AβからAβオリゴマー形成を促進することを見出した。このことは、このHMG1阻害物質がAβオリゴマーの形成を除去し、単量体Aβの分解除去を促進しうることを意味する。ADに対する新たな治療戦略と考えている。
著者
鷹栖 雅峰
出版者
那須野ヶ原アニマルクリニック
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2012

本研究では、盲導犬として使用されるラブラドール・レトリーバーの遺伝性疾患の頻度調査を行った。盲導犬集団での遺伝性疾患の頻度と交配個体の遺伝子型が明らかになり、調査した遺伝性疾患について出産を抑制する交配コントロールが可能となった。・運動誘発性虚脱1強い運動によって誘発される神経疾患である。174頭の盲導犬を調査して、発症犬が13頭(7.45%)、キャリアが58頭(33.3%)、野生型が103頭(59.2%)であった。運動誘発性虚脱の遺伝子頻度は24.1%で、野生型の遺伝子頻度は75.9%と算出され、運動誘発性虚脱は盲導犬集団に非常に広く浸透していることが明らかになった。遺伝子検査が可能となり、交配コントロールができる目処が付いた。・中心核ミオパチー:主に欧米で発症が認められる疾患である。149頭の盲導犬を調査して、発症犬が0頭、キャリアが1頭(0.68%)、野生型が148頭(99.3%)であった。盲導犬集団内にはほとんど浸透していないと考えられた。発症犬の期待値頻度は0.0011%であり、母集団が2,000頭余りの盲導犬集団には発症犬はいないことが明らかになった。・進行性網膜萎縮症:遅発性の網膜症で、発症犬は6~8歳で視力を失う。170頭の盲導犬を調査して、発症犬が0頭、キャリアが9頭(5.3%)、野生型が161頭(94.7%)であった。盲導犬協会では眼科検査(表現型の検査)によって、発症犬を選別し交配コントロールを実施している。その結果が顕著に現れていることが明らかになった。発症犬の期待値頻度は0.07%であり、盲導犬集団内からは進行性網膜萎縮症の変異遺伝子はほぼ排除されていると考えられた。・ナルコレプシー:発作性睡眠と呼ばれる神経疾患で、アメリカでの発症が報告されている。148頭の盲導犬を調査し、発症犬およびキャリアともに0頭であった。148頭全てが野生型で、盲導犬集団内には変異遺伝子が無いと考えられた。
著者
日野 愛郎
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、政党マニフェストを時系列に収集・テキスト化することにより、様々なコーディング方法を用いて政党の政策位置を推定することを試みるものである。政党マニフェストは、政党の政策やイデオロギー的な立ち位置を知る上で重要な資料となる。本研究は、過去の政党マニフェストのテキストをデータベース化することにより、ヒューマン・コーディングとコンピュータ・コーディングの両面から発展的な分析を行うことを目指す。
著者
小路田 泰直
出版者
奈良女子大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

近代国家において首都の役割は、世界市場の中にあって国民社会を枠づける国民文化を創造することであるが、後進国日本においては、東京がその役割を果たすことは容易なことではなかった。圧倒的な西洋文明の影響の中で、国民のアイデンティティーの核になる文化を創造することがいかに困難であったかは容易に想像できる。だから東京は単独で首都としての機能を果たすことはできなかった。京都という国枠文化の中心をもう一つつくりだし、京都との役割分担によって首都としての機能を果たそうとした。そこに東京と京都を二つの核とした、近代日本文化の構造が生まれた。その構造の中でいかなる近代日本文化が育まれていったのか、それを両都の象徴空間のあり方を手がかりに探ろうとしたのが、本年度の私の研究であった。廃仏〓釈の段階では、仏教伝来以後の日本文化はいったん否定されたが、その背景になった国学的文化観では、近代日本に必要な日本文化は生み出せなかった。伝来した外来文化を常に日本化して受け入れる、その文化受容の柔軟性にこそ日本文化の特質を見いだした、岡倉天心的文化観の確立が不可欠であった。そこで明治政府はその文化観を確立するために、帝国博物館をはじめ様々な象徴空間を造り上げていったが、その最大の象徴空間が、まさに長年にわたる外来文化の蓄積地京都であった。だから明治政府は、京都を日本文化の中心として演出することに全力をあげた。そしてその演出の帰結が、遷都1100年祭であった。以上が研究のおおよその結論である。
著者
辻田 祐一
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

MPIにおける入出力インタフェースであるMPI-IOの代表的な実装であるROMIOでは、高速な並列入出力機能を有しているが、ノード内に複数のプロセスを起動する場合において十分な性能を発揮できない問題があった。そこで本研究では、ファイル入出力を行うプロセスの配置や、ファイル入出力操作に合わせて行うデータ通信の順番に関して、ノード間・ノード内のプロセス配置に配慮した最適化手法をROMIOに適用し、ユーザが設定したプロセス配置に関係無く、高い入出力性能が発揮できる実装を実現した。
著者
上木 直昌
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究はランダムなシュレディンガー作用素に関する様々な問題に確率論的立場から取り組むことを目的としている。本年度は正則性の弱い係数を持つ確率偏微分方程式に対するHairer の正則性構造の理論による定式化を本研究代表者の所属研究科の修士課程の学生である舩橋巧と共に舩橋の修士課程における研究として追及した。具体的にランダムなシュレディンガー作用素の研究に関形する方程式としては円上の放物型 Anderson 模型でポテンシャルを時空ホワイトノイズとするものを扱った。しかし配位空間を1次元とするシュレディンガー作用素に対しては常微分方程式論による研究手法が発達しているので、今回の結果からランダムなシュレディンガー作用素に関する新しい結果を導出することは難しいかもしれない。更にシュレディンガー作用素に周期的境界条件が課せられている場合だけ考えていることが制限になっている。従って今のところ大事なことは大きい枠組みで確率偏微分方程式を扱う新しい手法が出来たことだけであり、応用として得られた結果で注目されているものはランダムなシュレディンガー作用素からは離れて、KPZ方程式など、非線形偏微分方程式の定式化である。また Hairer の理論は大掛かりな道具を用いる難解な理論であるが、比較的理解しやすくて、似た結果を得られる理論として最近 Gubinelli, Imkeller, Perkowski によるパラコントロール理論が始められた。この方面では Allez, Chouk が2次元トーラス上の空間ホワイトノイズをポテンシャルとする Anderson 模型の定式化を行っているので今後この模型のスペクトルの性質をもっと明らかにする研究が考えられる。
著者
塩見 一雄
出版者
東京水産大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

1.ヤツメウナギの体表粘液および卵巣中にタンパク毒を発見した。体表粘液および卵巣1gでそれぞれ体重20gのマウスを70匹、215-800匹殺し得ると見積られた。両毒は赤血球凝集活性、溶血活性を示さず、また卵巣毒には抗菌活性も認められなかった。2.体表粘液毒はきわめて不安定で精製には至らなかったが、50%グリセリンによる安定化効果が見いだされたので、今後の精製ならびに性状解明が期待される。3.卵巣毒はCM-celluloseクロマト、ヒドロキシアパタイトクロマトおよびFPLC(Mono S)により、natiive-PAGEで単一バンドを与える精製毒を得た。精製毒の毒性は強く、マウス静脈投与によるLD_<50>は33μg/kgと求められた。毒は低温貯蔵、pH変化に対して安定であるが加熱には不安定な塩基性タンパク質で、分子量は還元剤非存在下のSDS-PAGEにより40,000と測定された。還元剤存在下のSDS-PAGE分析により、毒はS-S結合を介した分子量30,000と10,000の2種類のサブユニットで構成されていることが判明した。アミノ酸組成では含硫アミノ酸の乏しいことが特徴であった。サブユニットの分離を達成できなかったためアミノ酸配列に関する知見は得られなかったが、今後に残された重要課題である。4.体表粘液毒は調べた54種魚類中9種に検出された。特に3種ウナギ目魚類(ウナギ、ヨーロッパウナギ、ハモ)の毒性が高かったが、クロマト挙動などから毒の性状はお互いに類似しており、いずれも分子量約400,000の酸性タンパク質と判断された。スフィンゴシンおよびガングリオシドにより毒性が阻害されることが注目された。5.卵巣毒は20種魚類について検索したが、すべて陰性であった。
著者
山田 明義 久我 ゆかり 小倉 健夫 増野 和彦
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

1.マツタケ菌根合成系にエビオス(窒素源)を添加することで,苗の生育不良を回避できることを明らかにした.2.新たに開発した二層培養法により大量調製したマツタケとショウロの土壌接種源を野外の自然土壌条件下でアカマツ実生に接種した結果,ショウロでは外生菌根の形成に成功し本技術が実用的側面を有することを明らかにした.3.アミタケ,ショウロ,シモフリシメジ,ホンシメジの菌根苗を直接野外条件下に大量に植え付けた結果,菌株によっては十分な菌根の増殖が見られ,菌根苗定着の実用的な技術になりうる事を明らかにした.4.マツタケ類、イグチ類、チチタケ類を含む39種64菌株について菌根苗をポット培養し順化した結果,シモフリシメジ,ミネシメジ,クマシメジ,スミゾメシメジの4種で子実体発生に成功した.5.マツタケ,アミガサタケ,チャナメツムタケで複数の菌株を確立し培養特性を把握した.このうちマツタケでは,チョウセンゴヨウ,ヒメコマツ,ならびにドイツトウヒとも菌根形成する事を明らかにした.6.ハルシメジがウメの実生根系にも菌根を形成することを明らかにし,また,ウメ苗木根系に胞子散布することで菌根形成させうる事も明らかにした.これにより,ウメ苗木とハルシメジ胞子を用いた実用的な菌根苗作出が可能なことを明らかにした.7.マツタケのシロに接してアクリルチューブを埋設し,ミニリゾトロンを用いて継続観察した結果,チューブ近傍でのシロの回復は必ずしも速やかではなく,他の菌根菌が散発的に増殖しうることを明らかにした.8.ミニリゾトロンを用いてクリタケの土壌中での動態を長期継続観察した結果,菌糸束の発達,分枝,分解と再形成といった動的挙動があり,菌糸束が地中での菌糸体拡散において重要な役割を果たしうることを明らかにした.発達した菌糸束の顕微鏡観察により,主に外層と内層からなる二重構造が形成されることを明らかにした.
著者
後藤 嘉也
出版者
北海道教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

平成17年度に、ハイデガー哲学の内在的・歴史的研究をとおして、非対称的共同性という問題を浮かび上がらせ、ハイデガーに学びハイデガーを批判したドイツ系哲学者と対話して非対称的な共同性の構造を解明し、平成18年度に、ハイデガーに学びハイデガーを批判したフランス系哲学者と対話して非対称的な共同性の構造を解明した。平成19年度にはこれらの研究を総括し、そこからハイデガー哲学を逆照射するとともに、非対称的共同性の構造の解明に関して暫定的ながら結論を出した。それはおよそ次のとおりである。非対称的共同性は死すべきものたちの単独性と複数性から解明できる。できるかぎり自らを不死にしようとする努力はおそらく幻想を核にしており、死すべきものは、不死の神々にならうのではなく死すべきもののことを考えなくてはならない。そうすることによって、私たちは、19世紀半ば以来の誰でもない人の支配する公共性・公開性から自らの運命に、そしてまた同じく死すべきものである他者の運命に引き戻される。自他の死はそれぞれの単独性を浮き彫りにし、私をこえた他者の命令の前に私を立たせる。これに応えて私は種々の仕方で生と死を他者と自分に返し与える。そのとき、愛や友情においてであれ、民主的な討議においてであれ、他者(たち)と私はけっして一つにはならない。それぞれの単独性を受け入れることは自他の複数性を承認することである。ところが、自己愛ゆえだけでなく、そのためにも、複数のものたちに無条件に従うことは不可能であり、単独性をおびた他者たちを比較考量せざるをえない。単独のものを計算しその他者性を否定しながらも、死すべきものたちの統一なき統一という可能性を、調和を拒まれ逸脱にみちた一種の公的空間を、いまここで遠くに望めるかもしれない。
著者
新美 倫子
出版者
名古屋大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

縄文分化を考えるためには縄文人たちの生活の季節性を探る必要があり、彼らの主要な生業の一つであるイノシシ狩猟の季節性を調べることは、そのための有効な手段となる。そこで、イノシシ狩猟の季節的なサイクルを明らかにすることを目的として、縄文時代のさまざまな時期・地域の遺跡において出土資料を行うことにした。信頼できる結果を得るためには、なるべく資料数の多い遺跡を中心に検討を行なう必要があるので、イノシシの出土量の多い鳥浜貝塚(福井県)と田柄貝塚(宮城県)から出土したイノシシ下顎骨資料について観察・計測を行った。方法は下顎骨の肉眼的観察による年齢・死亡季節査定法によったが、この方法では歯の萌出が完了した成獣については死亡季節を査定できない。そこで、実際に出土資料を見て、歯の萌出が完了していない幼獣・若獣については死亡季節を査定できない。そこで、実際に出土資料を見て、歯の萌出が完了していない幼獣・若獣個体の下顎骨を抜き出し、それらの歯の萌出状態等を詳細に観察した。そして、鳥浜貝塚では49点、田柄貝塚では15点の幼獣・若獣の下顎骨を、死亡季節査定基準に従って分類することができた。その結果、縄文前期の鳥浜貝塚では冬以外の季節にはイノシシ狩猟をほとんど行っていないが、縄文晩期の田柄貝塚では、資料数がやや少なくてよくわからないものの、比較的1年中イノシシ狩猟を行っている可能性が高いことがわかった。これらと、縄文晩期の伊川津貝塚(愛知県)では1年中イノシシ猟を行っていることを考えあわせると、イノシシ利用のあり方には時代性と地域性が見られ、時代や地域によってその季節性はかなり異なっていたと言うことができる。