著者
程 くん 丸山 智 朔 敬 依田 浩子 大城 和文
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、唾液腺に発生する良性腫瘍・多形性腺腫の二次的悪性転化を中心に検討し、良性腫瘍から悪性腫瘍が発生する機序について考察した。多形性腺腫内には異型細胞が出現する頻度が高く、巣状癌が二次的に悪性化する可能性を提言してきたからである。まず、ヒト耳下腺多形性腺腫組織から不死化細胞を単離し、6株の細胞系SMAPを樹立し、これら細胞について種々の検討をおこなった。SMAP1-3は導管上皮、SMAP4-6は筋上皮への分化性格が有していた。これらの細胞は平均107本の染色体、核型5nの異数倍性、さらに第13番染色体q12と第9番染色体p13の相互転座が共通してみいだされ、同部より遠位の遺伝子座欠失で同位のp16遺伝子など癌化関連遺伝子の機能喪失が示唆された。またp53遺伝子異常も発見された。したがって、以上のような遺伝子レベルでの異常をもとに悪性形質が獲得されていくことが示唆された。また、多形性腺腫における被膜浸潤と脈管侵襲の発生頻度を検討したところ、被膜浸潤は検討症例ほぼ全例ときわめて高頻度で、被膜外進展も約20%の症例でみられた。さらに静脈侵襲事例は約15%であった。侵襲部位の組織学的特徴は粘液様間質で乏血管性の特徴があった。その乏血管分布性の背景にはVEGFと特徴的スプライシング様式とHIF-1α高発現の関連があった。したがって、多形性腺腫の悪性形質獲得には、これらの生物学的態度も重要な貢献をしている可能性が示唆された。ついで、ヒト顎骨に発生した黒色プロゴノーマ由来細胞株も作製し、その染色体に、SMAP細胞同様、第9-第13染色体の相互転座がみられ、良性腫瘍の悪性転化の解析に重要な変化とみなされ、今後の検討方向が示された。
著者
和田 杏実
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

第一年度目はまず、これまでの研究成果を整理し、追加・修正を行なうことで、本研究テーマの基礎を固めることを目標とした。本研究テーマの基礎とは、19世紀末から第一次世界大戦までのイギリスが、帝国防衛という観点から戦時国際法形成にどのような態度で取り組んだのかを検証することであり、この作業によって、同時代の他国の態度との比較および戦間期イギリスの態度との比較検証が容易になると考える。そこで、特別研究員奨励費を使用して2008年8月15日から21日までロンドンに滞在し、ロンドン国立公文書館において、イギリス外交文書の収集を行なった。その成果を「20世紀初頭イギリスにおける海戦法政策:軍事的観点からみた国際規範形成」として論文形式でまとめた。従来の研究では実際の政策担当者たち以外の言説、つまり傍系の閣僚の理想主義的見解や野党の批判を主に参照していたため、イギリスの海戦法政策は"変則的"あるいは"不合理"と評価されてきたことを指摘する。そこで、実際にはどのような権利と軍事戦略が重視されて海戦法政策が立案されていったのかを、政策形成に直接携わった閣僚と将校の見解を分析対象として再構築することで、そうした従来の評価の修正を試みた。その結果、海軍省と外務省の大臣や国際会議に出席した実務家は、第一回ハーク会議当初から一貫して、イギリスの交戦国の権利を主張し、海上における通商戦争に勝利できるような軍事戦略と海戦法政策を構想していたことを明らかにした。重要な主張を他国に認めさせることができた1909年ロンドン宣言はイギリス海軍省によれば「決定的勝利」であったが、イギリスが第一次大戦中に宣言を放棄したことは、"不合理"ではなく当然の帰結であった。というのも、イギリスの基本的な態度は帝国防衛のためには自国の規則が海戦に関する戦時国際法より"優れて"いるというものであったからだ。さらに、ハーグ会議や戦時国際法に関する研究は国内外で積み重ねられてきたが、戦争違法化の第一歩という今日的意義で捉えられることが多く、その"善きイメージ"が実態と乖離しているように思われる。しかしながら、戦争が政治紛争を解決する最終手段として合法であった当時においては、軍事行動を拘束するいかなる措置も認められるべきではないという見解が主流であり、各国の軍事行動に影響を及ぼす一連の国際法規範形成から自ら手を引くことが結局は国益を損なうことを意味した。二つのハーグ会議とロンドン会議は、軍事力を規定する規範形成における各国の攻防が繰り広げられた舞台であったと言えよう。以上の研究成果を、2009年2月付けで、東京大学大学院総合文化研究科の国際関係論研究会が発行する『国際関係論研究』に投稿した。現在、当該論文は査読中である。
著者
伊藤 隆寿 平井 俊榮
出版者
駒澤大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

中国隋代に三論教学を大成した嘉祥大師吉蔵(549-623)には、『法華玄論』『法華義疏』『法華統略』『法華遊意』『法華論疏』の5部の法華関係注釈書がある。これら法華関係注釈書の著述量は、彼の著作全体から見ても大きな割合いを占める。しかし、それらに対する文献学的研究は立ち遅れているのが現状であった。そこで吉蔵の法華経注釈書の定本作成を目的に研究申請した私どもは、今年度次のような研究を行なった。定本作成にあたり、私どもは時代の趨勢を鑑み、これまで活字化されていた吉蔵の法華経注釈書すべて(主として大正蔵経所収の文献)をOCRによってコンピュタ-入力することを企図した。その結果、学内の研究者や多数の大学院生の協力を得て、大部分その作業を終えることができた。これによって、「研究目的」に記した校訂本(定本)のCD-ROM化のための基盤は整えられたといえる。ただ、入力した原文に厳密な校訂を施した定本作成の作業までは終了するに至らなかった。東大寺図書館をはじめ各仏教系大学図書館より校訂に必要な写本や刊本はすでに入手してあるので、今後は精力的に校訂作業を継続する予定である。今年度のわれわれの研究により、博引旁証をもって知られる吉蔵の著作研究において、研究者はその引用経論の検索等に計り知れない便宜が与えられることは疑いなく、その点はあえてここで強調しておきたい。作成する定本は、活字化して公開するのが建前であるが、そのためにはさらに莫大な経費が必要であり、条件が整えば、国内外に向けてインターネット上でテキスト公開することも現在検討中である。
著者
長洲 南海男 伊佐 公男 今村 哲史 熊野 善介 山下 宏文 山崎 貞登 新田 義孝 杉山 憲一郎 畑中 敏伸 八田 章光 島崎 洋一 高木 浩一 藤本 登 滝山 桂子 安藤 雅之 出口 憲 大高 泉 内ノ倉 真吾 丹沢 哲郎 佐藤 修 尾崎 誠
出版者
常葉学園大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

英、仏、米国、オーストラリアでのエネルギー環境教育調査により独立教科はないが、ESDとして積極的に取り組んでいた。日本国内のエネルギー環境教育実践校のデータベース研究により意思決定の教育実践は少なかった。理工学系、教科教育等の多様な研究分担者等によりエネルギー環境リテラシー育成のカリキュラム構築の基本的枠組が、次の2点の合意形成を得た。エネルギー環境リテラシー育成のカリキュラムフレームワークの目標と内容の二次元マトリックスと重層構造図である。
著者
河村 伊久雄 光山 正雄
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

Listeriamonocytogenesの主要な病原因子であるリステリオリシンO(LLO)はコレステロール結合型膜傷害毒素であるが、我々はこのLLOが宿主Th1型サイトカイン産生を誘導することを明らかにした。また、このLLOの活性から、LLOをアジュバントとしてワクチンに応用できる可能性が考えられた。一方、細胞に対して傷害性を有するLLOはそのままin vivoに用いることはできないため、本研究では膜傷害性のないLLOのサイトカイン誘導活性の最小単位を決めると共に、抗結核ワクチンへの応用の可能性を検討した。その結果、LLOは第4ドメインを欠失させてもIFN-γ産生誘導能示したが、この第4ドメインを持たないLLOのN末端部分をさらに欠失させると、そのIFN-γ誘導能が低下することがわかった。しかし、このtruncated LLOのIFN-γ誘導活性が消失するわけではないことから、このN末端部分がサイトカイン誘導活性に必要なLLOの立体構造の維持に必要であると考えられた。また、LLOによるサイトカイン誘導活性は、LPSに低応答性のC3H/HeJでは認められなかった。さらに、CD14に対する抗体でLLOのサイトカイン誘導が阻害されたことから、LLOの刺激がLPSのシグナル伝達系を介して細胞内に伝わる可能性が考えられた。また、LLOはJ774.1細胞表面の分子量50-60kDaの分子と結合することが示され、この分子がLLOの受容体として、あるいはアクセプター分子としてLLOサイトカイン誘導に関与すると考えられた。LLOのアジュバント活性を調べるため、単独では防御免疫を誘導できないBCG死菌と共にLLOでマウスを免疫し、防御免疫が誘導できるか否かを調べた。その結果、リポソームに封入したLLOがアジュバント活性を発揮したことから、結核に対するワクチンにLLOを応用できることが示された。一方、LLOより細胞毒性の低いtruncated LLOは、リポソームへの封入効率が悪く、その投与方法を検討する必要があった。
著者
真鍋 誠司
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

日本の自動車部品メーカーを対象に、部品の開発に必要な方法を顧客への適応と開発の効率化という視点から検討した。まず、顧客への適応では、いわゆる系列取引を調査した結果、関係的な信頼をベースにした取引において顧客の要求への効果的な適応が可能になっていることが分かった。また、開発の効率化においては、近年、工場ではなく間接部門の効率化方法として自工程完結という取り組みが始まっており、製品開発への応用が課題となっていることが明らかになった。自工程完結とは、従業員一人一人が、後工程(カスタマー)のことを何よりも先に考えて、決して悪いものは造らず、仮に造ってしまっても後工程には流さないということを意味する。
著者
竹内 義喜 中村 和彦 岩橋 和彦 三木 崇範 伊藤 正裕
出版者
香川医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

発達障害誘導因子として放射線とアルコールを取り上げ、脳組織のうちとくに海馬領域のニューロンネットワーク形成を対象として研究を行った。妊娠動物(ラット)に放射線を照射し、生後6週で脳組織を検索したところ、海馬に対する影響は0.6Gy以上から現われ、錐体細胞の脱落および層構造の乱れがCA1領域よりCA3領域でより顕著であった。また、CA3領域では異所性mossy fiberの終末がstratum orienceに存在するのが特徴的であった。一方、生後ラットへのアルコール投与実験では、まず小脳のプルキンエ細胞を研究対象とした。プルキンエ細胞は生後4-9日でアルコール高感受性であり、樹状突起の発育不全を示した。しかしながら、生後10日以降の脳組織においてはプルキンエ細胞をはじめとする他の神経細胞には何ら変化が認められないという実験結果を得た。次に、このような生後早期における神経細胞のアルコール感受性に関し海馬で行なわれた研究では、歯状回門領域の顆粒細胞や錐体細胞にも小脳組織と同様神経細胞の発育不全が認められ、海馬領域においても高感受性であることが明らかになった。さらに、マウスに対する短期アルコール投与実験をおこなったところ、海馬領域においてcalbindin D28k免疫反応陽性細胞の数が減少した。しかしながら逆にGFAP反応陽性細胞の数の増加が認められ、神経細胞とグリア細胞の変化が形態学的に非常に対照的なものとなった。このようなニューロンとアストログリア細胞の脳組織における変化は、海馬に起因する神経症状発現メカニズムにこれら細胞相互の働きが深く関与することを示唆するものであると考察される。
著者
安田 彰
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

デジタル直接駆動型スピーカを実現するにあたり必要な基礎的データの収集のための電気一音響変換素子(圧電素子)単体の特性を評価し、複数の電気一音響変換素子を用いた場合を鑑み、圧電素子の特性ばらつきの評価を行った。圧電素子を駆動するためのデジタル信号処理部をFPGAによる実装を行い,圧電素子の特性を考慮したドライバをCMOSデバイスで実現し,この評価を行った.この結果,従来に比較して提案するデジタル信号直接駆動型スピーカは低歪み特性を実現出来ることが確認された.●電気-音響変換素子圧電素子(圧電スピーカ)の基本特性の評価:周波数特性:圧電素子単体は平坦で良好な周波数特性を示したが、200Hz以下の低周波領域では音圧の低下が観測された,また,複数の素子間では10%以上の特性のばらつきが観測された.歪み特性:圧電素子は非線形特性を有するため歪みの発生が問題なる。高調波歪み特性の実験から比較的高い歪み率32%(3次歪み)が測定された。圧電素子をそのままアナログ駆動する場合には、歪みの影響を低減する方法が必要となる。●デジタル直接駆動スピーカの高性能化の検討ノイズシェーピング・ダイナミックエレメント・マッチング法(NSDEM)の検討:デジタル直接駆動型スピーカに適したNSDEMの実現方法検討を行い,この特性をシミュレーションにより確認した,また,これに基づき論理回路設計を行い,論理合成したもののシミュレーション,検証、FPGAへの実装を行った.このFPGAの評価から,従来方法と比較して20%以上小さいハード規模でNSDEMを実現出来ることを実証した.●提案するデジタル直接駆動型スピーカの総合評価FPGAを用いた駆動回路および高速圧電素子ドライバ回路に複数の圧電素子で構成した電気一音響変換器を接続した場合の総合特性の評価:サイン波を:入力した場合の特性を評価した.その結果,平面板にサブスピーカを配置した場合,それぞれのサブスピーカは,そのユニットのばらつきおよび配置によりサブスピーカ自体の特性にばらつきが生じるが,NSDEMの効果によりその影響が低減され,歪み率2%以下の良好な特性が実現されていることを実験により確認した.
著者
菊川 徳之助 永田 靖 瀬戸 宏 鈴木 公子 山下 純照 熊谷 保宏
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

演劇教育の実態調査を、目本演劇学会の会員を対象に、3度にわたって行ない、その分析を試みた。さらにはインターネットのホームページその他で、演劇教育関連科目の情報を集め、これを整理、分析し、演劇教育の実態を探る試みを行なった。また、演劇教育の方法を構築するための内容探求のため、科研費研究メンバーでの研修会を持ち、さらには、規模を大きくした演劇教育コロキウムを2年にわたって開催した。(1)2003年度には、8月に演劇教育の事例報告を中心にした研修会。大学演劇教育を考える基礎がためのため、10月と翌年1月に、宝塚北高校、神奈川総合高校の現場で2校の演劇教育の実際を材料に研修した。そして2月に演劇教育のコロキウムを開催した。大学演劇教育においては、演劇専攻を設置する大学と設置しない大学、あるいは、実技科目を設置する大学と設置しない大学、などの多様な軸を見据えて討論した。(2)2004年度は、8月に演劇教育の研究を深めて行く更なる方法の討議を行なう研修会を持ち。12月に、演劇教育を専門とする大学の授業と普通授業に演劇的手法を用いた演劇授業の2つの大学における演劇教育の現場を材料に研修会を行なった。そして、昨年度に続いて演劇教育コロキウムを3月に開催した。第1部は、「外国における演劇教育研究」で、<英米およびポーランドの高等教育機関における演劇教育とその研究をめぐって>を、第二部では、12月に研究対象とした2つの大学の演劇教育の姿を討論材料に討議を進め、第三部では、<これからの演劇教育>のタイトルのもとで、イ)学部に演劇教育の専門コースを設置し、尚且つ実技を伴う授業を設置。ロ)学部に演劇教育の専門コースを設置するが、理論(座学)中心の演劇教育を設置、などの5つのタイプをもった大学の演劇教育の姿の基に討議するコロキウムを行なった。これらの成果は、来年の「日本演劇学会紀要」にまとめる計画である。
著者
大澤 義明 古藤 浩
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究では,迷惑施設配置モデルを構築し,理論的に分析を加えることである。得られた成果は少なくとも以下の3点である。第一に、迷惑施設配置を多目的計画法として定式化し,迷惑施設の配置場所候補となる,パレート最適集合やトレードオフ曲線の導出方法を示す.楕円距離マクシミニ型レクティリニアー距離ミニサム型モデル、レクティリニア距離ミニサム型マクシミニ型モデル、レクティリニア距離ミニマックス型マクシミニ型モデルなどを解く一般的解法を提示した。さらに、移転を考慮した場合、k次距離ボロノイ図を利用して有効集合やトレードオフ曲線を解析的に導けることを明らかにした。第二に、分枝限定法を利用した数値解法を用いて、より一般的な状況の下での、ミニマックス距離制約やマクシミニ距離制約での配置場所を数値的に求め、パレート最適集合を近似する方法を示した。茨城県、山形県の人口分布を事例対象とした。第三に、旧厚生省から各都道府県に対しごみ処理圏域広域化促進の指導があった。広域化はごみ焼却から発生するダイオキシン類を大幅に減少させるが、一方でごみ収集車からの排気ガスを増加させる。そこで、このトレードオフ関係に着目し、ダイオキシン類及び排気ガスをともに減少させる広域化計画を数理計画法により求め、現在の茨城県案を評価した。ダイオキシン類発生量を基準値及びごみ発生予測値から求め、排気ガス量を茨城県内のごみ収集車走行実距離と道路網距離から推定した。そして、茨城県案よりパレート最適の点で優れた多くの代替案を提示した。さらに、広域化計画にて、現存の市町村間ごみ処理協力関係への配慮がどの程度足かせになるのかをも数値的に示した。
著者
大澤 義明
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究は,欧州を対象地域とし欧州経済にて大きな課題の一つである税競争について現地調査した.欧州税競争及び調和政策,欧州連合,税率差,クロスボーダー購買者の実態を把握し整理し,調査を踏まえ,より単純でより本質的で政策実行に役立つナッシュ均衡モデルを開発した.本年度では,モビリティ拡大という視点から欧州各国間税競争,そして,競争の弊害を調整する欧州における経済共同体の政策について分析した.この経済問題をモデル化し,国の位置,大きさ(人口・面積),国境長といった地理的要因が,各国の税率や税収へどのような影響を与えるかを検討した.1)OECD(経済開発協力機構)からタックスヘブンとして認定されているリヒテンシュタイン公国を訪問し,金融機関の誘致,そしてガソリンスタンドでの越境購買の現状を調査した.2)欧州の付加価値税(VAT)政策に関して,空間を明示的に取り入れた既存研究に加えて,スペースレスの研究について文献調査を進めた.3)一次元市場のモデルを二次元市場で展開するために,ポロノイ図をモデルに応用し分析を進めた.また,ネットワーク市場のモデルを定式化し,日本の道州制など地方分権の下での税競争へ応用した.4)成果の一部を,「付加価値税に関する競争・協調モデル」という章題にて建築学会監修の本「建築最適化への招待」にて発表した.調査による主たる成果は,経済連合の関係もありリヒテンシュタイン公国とスイスとでは消費税に関する競争は顕著ではないが,オーストリアとではガソリン価格差の差異が大きいことが分かった.モデル化に関する成果として,モビリティ拡大としてネットワーク市場を取り入れ,複数国を経由する通過交通や人口一様分布の仮定の緩和を考慮し,均衡の安定性を議論した.
著者
大澤 義明 古藤 浩 栗田 治
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

主たる研究成果は以下の5点からなる.1)原風景の要素であるスカイライン景観と校歌との関係を考察した.平面上眺望点から,山頂仰角を算出し,最も大きな仰角となる山頂に関して領域分割を理論的に求めた.一方で,関東地方公立高校897校の歌詞を調査し,歌われている山を抽出した.そして,領域分割と校歌分布とが8割程度合致することを実証した.2)面的に広がる夜景景観の数理評価モデルを構築した.夜景規模を測る尺度として立体角を導入し函館市街拡大が函館山夜景や裏夜景にどの程度寄与しているのかを時系列(1975年から2000年まで5年間隔6時点)比較することにより定量的に明らかにした.質を求める指標として道路可視率を導入し,函館では度重なる大火の影響で道路幅員が広り防火遮断帯を配置し,結果としてメリハリのある夜景となったことを数値的に検証した.3)季節前線は日本の景観の大きな構成要素である.その一つとして桜前線を取り上げ,モデルや現実データから桜前線近接性時空表示方法を提案したり,日本の中で桜前線を早くかつ長く楽しめるパレート最適場所を求めたりした.また,これらの多項式計算アルゴリズムを提示した.4)斜線規制に換わる代替規制として2003年1月に建築基準法に導入された天空率規制の問題点を解析的に明らかにした.円環敷地や直線敷地に直方体建物建設という単純な数理モデルを通して,天空率規制導入は,高層建物の許容,共同立替を非促進,建築形態への影響から見て斜線制限の代替指標としての不自然さを数学的に証明した.このようにして,規制導入が町並み景観,都市内のスカイラインへ強く影響することを指摘した.
著者
大澤 義明
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

本年度実施した主たる研究内容は以下の2点である.1)少子高齢化を迎え社会構造が大きく変化しつつあり,将来の自治体が目指すべき将来像や,政策の方向性を定める総合計画や都市計画マスタープランにおいては,人口フレームが設定されるのが通常である.そこで,北関東3県(茨城県,栃木県,群馬県)の全112市町村の総合計画を冊子ベースで収集し,総合計画における目標人口と国立社会保障・人口問題研究所による趨勢人口を比較した.過大推計の度合いを数値的に把握し,どのような自治体が過大推計しているかといった要因分析を実施した.2)地方交付税額の算定には市町村面積に依存する要素があり,複数の市町村に跨る未定境界地域であった湖などで境界を設定する動きがみられる.境界確定の手法には近年「等距離線主義」手法が採用されるケースが多い.そこで,この手法により配分される地方交付税の推計を行い,市町村の現状や湖との関わり方を整理した.その上で湖境界の確定によって増加する地方交付税配分について考察した.等距離線主義の湖分割のみによる交付税配分では,湖に関連する費用負担を反映した配分を実現できないことを,霞ヶ浦・北浦を例に示した.湖分の増額交付税については湖境界の内側・外側に要する事業費用の拠出を算定した後,各市町村の一般財源として振り分けることが,環境保全・持続可能社会の形成に向けて必要であることを示した,水際線からの湖バッファー・陸バッファーという,湖への交付金の新たな再配分を提示した.
著者
大澤 義明 栗田 治 吉瀬 章子
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

縮小時代やインフラ老朽化に直面し,道路,交通標識,信号機,図書館,ガソリンスタンド,防災拠点などの施設の整備の見直しが必要となってきた.廃止手続きとして計算負担が軽く現実の政策実施の近似となるけちけち算法の効率性が高いことを証明した.現実データへの適用により,平均距離最小化問題の最適値とカバー率最大化問題の最適値との相関が高いこと,パレート最適配置が狭いことを地理空間を通して確認できた.全体の効率性と地域間公平性とのトレードオフ状況を視覚化することにより,平成の大合併や昭和の大合併の影響を評価した.
著者
大澤 義明 鈴木 勉 秋山 英三 吉瀬 章子 宮川 雅至 小市 俊悟 渡辺 俊 堤 盛人 藤井 さやか 竹原 浩太 有田 智一 田中 健一 小林 佑輔 櫻井 一宏
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究課題は,老朽化する都市インフラ整備の選択集中に関して,独自にデータ収集し,実証分析を実行し,同時に理論的知見を導くことを通じ,施設整備に関する具体の政策を提言することを目的としている.最初に研究基盤を構築した上で,逐次廃止手法の効率性評価,リスク分析における効率性と冗長性とのトレードオフ構造等に関する理論研究・実証研究を展開した.様々な自治体と意見交換・情報収集することから,実装対象を北海道網走郡津別町,茨城県土浦市,茨城県常総市に絞り,研究・理論の自治体への実装を進めた.
著者
大澤 義明 石川 竜一郎 小林 隆史
出版者
筑波大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

公共施設立地を巡る投票に参加する住民の影響を考察するため, 空間を取り込んだ基礎理論を構築した.住民アクセスという距離空間を明示的に取り込んだ単純な公共施設配置モデルを構築し,施設建設について各人の負担する費用(個別合理性)と行政が負担する全住民分の費用(全体合理性)についての比較を数式により明示し投票結果が経済的に最適となる必要十分条件を導出した。庁舎問題に関しては現地建て替えが有利となる2/3以上の同意要件(現在の地方自治法)の非効率性について明らかにした.加えて,実際の関東地域自治体庁舎建設に関して,GISを用いて可視化しながら投票結果の移動効率性の大きさや空間分布に関して分析した.
著者
菊池 聡
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

個人特性としての「あいまいさ耐性」は、クリティカルシンキングの態度を構成する主要要素の一つだと考えられている。この特性と、疑似科学を中心とした超常現象信奉との関連性を明らかにするために、中・高生を対象に質問紙調査を行った。その結果、「あいまいさへの不寛容(非耐性)」は超常信念と正の関連性を示したが、疑似科学や超常信念の種類などによって、関連性が異なっていることが明らかとなった。
著者
池辺 忠義
出版者
国立感染症研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

劇症型溶連菌感染症(STSS)は、発病からの病状の進行が急激かつ劇的で、いったん発病すると数十時間以内に、死に至る可能性の高いことが知られている。本研究において、劇症型溶連菌感染症臨床分離株で、新たにrgg遺伝子に変異があることを見出した。マウスモデルにおいて、このrgg変異株は、致死性が高く、様々な臓器に障害を与え、ヒトの好中球を殺傷することが明らかとなった。STSS株と非侵襲性感染株におけるrgg遺伝子の変異頻度を調べた結果、劇症型溶連菌感染症臨床分離株の約25%を占めていた。また、咽頭炎などの非劇症型感染臨床分離株では、1.7%しかこの遺伝子に変異が見られず、有意に劇症型感染症臨床分離株においてrgg遺伝子に変異がみられることが判明した。このことから、このrgg遺伝子の変異は、劇症型感染症に重要な役割をしていることが考えられた。
著者
宮 紀子
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

13-15世紀にペルシア語、漢語等で著された文献を収集、当時の多言語辞書を利用して分析し、以下の新事実が判明。(1)モンケがフレグ大王のもとに常徳を派遣した目的は東西の薬草の名前の統一にあった(2)Nasira1-dinT丘siに中国の歴史と天文学を教えた医師の名は傅野(3)14世紀初頭にペルシア語に翻訳された中国の医学書Tanksuq namahの原本は李駒の『日希萢子脈訣集解』十二巻(4)和算の発展はモンゴル初期における東西学術交流の延長(5)ケシク制度の原型は旬奴に遡る(6)ブラルグチの重要性(7)クビライの宰相アフマドもブラルグチの長官(8)アフマド暗殺は江南の富の掌握をめぐる皇太子チンキムとの権力闘争の結果。
著者
草薙 裕
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

日本語をコンピュータで処理するための日本語文法の徹低的な形式化が本研究の目的である。本研究は、実際に書かれた、随筆、小説、科学技術論文などの大量の文章をデータとして、日本語の語構成(形態論)および文の構造(統語論)の規則を次のような手順で、分析、記述している。1.語の定義、2.語の分類、3.形態素の語中の位置および共起関係の分析、記述、4.語間の共起関係による表層構造の文型の記述、5.語間の意味関係による格フレームの記述を行い、さらに、これらの記述を基にして、6.上記記述を基にした語構成規則の統合化、7.上記記述を基にした文構造規則の統合化、8.日本語コンピュータ辞書の整備、9.形態素解析および構文解析のアルゴリズムの作成およびそのコンピュータ・プログラム化を行った。なお、実際に書かれた文の構文規則は非常に複雑であり、現在も規則の記述の整理を続けているところであり、この構文規則の形式化およびそのプログラムは近日中にまとめて出版の形で公表するつもりである。本研究では、日本語の統語上の単位である語を従来の単語とは異なり、同時性と不可分性という基準から定義したので、形態素解析の規則が3型規則で記述でき、2型あるいは1型規則が必須な構文解析と完全に分離できたことに大きな特徴がある。