著者
園田 祥三 伊佐敷 靖 園田 祥三
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

シトクロムP4501B1遺伝子およびその他の眼疾患関連遺伝子について、新しい知見を得ることができた.1.シトクロムP4501B1(CYP1B1)は先天緑内障の候補遺伝子のひとつであるが、成人発症緑内障の症例についてCYP1B1遺伝子多型を検索した.緑内障83例および正常対照90例を対象とした.CYP1B1遺伝子翻訳領域のアミノ酸置換を伴う多型(R48G, A119S, A330V, S331R)を検索した.それぞれの遺伝子型を、緑内障、正常対照の順に、置換ホモ/ヘテロ/正常ホモの例数で示すと、R48G:7/11/61、2/12/62;A119S:10/43/27、13/35/31;A330V:1/3/72、0/7/83;S331R:0/5/76、0/5/55であった.遺伝子型頻度およびアリル頻度の群間検定では、統計的な有意差はなかった.検討した限り、CYP1B1遺伝子は成人発症緑内障の罹病感受性に関与しない.2.先天網膜分離でのRS1遺伝子の新規ミスセンス変異およびNorrie病のNDP遺伝子の新規ノンセンス変異を検出した.3.レーベル病の人類遺伝学的な背景を検討するために、D-loop領域の塩基配列を決定した.対象は独立の家系(九州26、本州8、沖縄2)のレーベル病発病者で、mtDNA G11778A点変異陽性の36例である.D-loop領域(np16002-np16490)の塩基配列データを系統樹作成ソフトで処理して、類似の塩基配列を持つアラインメント群(以下、群)に分類した.37種類(既知34、新規3)の遺伝子多型(一塩基置換)がみられ、枝分かれパターンから13群に分類された.過去の報告と比較すると、mtDNA G11778A点変異で特化された集団のD-loop所見の概要はアジア人全体の概要と大差ない.D-looPの高い可変性と比べて、mtDNA G11778A点変異は保存性が高く、変異新生のイベントが古いことが示唆された.
著者
田畑 伸子
出版者
東北大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

私たちは以前、男性ホルモンの一つであるdehydroepiandrosterone(DHEA)がアトピー性皮膚炎でみられるTh2細胞の優位を促進している可能性があることを明らかにした。局所においてDHEAを不活性型のDHEA-sから活性型のDHEAに変換する酵素がDHEA-s sulfataseである。この酵素は、局所ではモノサイト中にふくまれている。私たちは、この酵素活性に及ぼすサイトカインの影響を、モノサイトのセルラインであるTHP-1を用いて調べた。DHEAを含まない無血清培地をもちいてTHP-1を培養し、IFN-γ、IL-4、IL-10、IL-12など10種類のサイトカインを加えてさらに培養後、細胞を採取し、DHEA-s sulfataseの活性をしらべたが、今回の実験では、サイトカインによる活性の違いはみられず、コントロールとの差もはっきりしなかった。また、THP-1にDHEAを加えた後、LPSで刺激し、T細胞をTh1に分化させる作用のあるIL-12の培養上清中の産生量を調べたが、コントロールとの差はみられなかった。私たちはアトピー性皮膚炎局所の特有の病態のなかでDHEA-s sulfataseの活性が変化することで、炎症のコントロールに影響がでるのではないかと考えたが、今回の研究で、DHEA-s sulfataseの活性は炎症局所で大きな変化を示すものではないということが明らかになった。また、喘息などのアレルギー疾患において、好酸球の浸潤に関係するplatelate-acutivating factor(PAF)を不活性化するPAF acetylhydrolaseの活性が低下が明らかになっている。今回私たちは、約70例のアトピー性皮膚炎患者のPAF acetylhydrolase活性を測定し、その重症度および好酸球数との関連を調べたが、はっきりした相関は得られなかった。この結果は、アトピー性皮膚と喘息では、好酸球浸潤の機序に違いがあることを示唆している。
著者
角谷 直彦 豊倉 穣 古川 俊明 小山 裕司 石田 暉
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

健常者と嚥下障害者の咽頭期嚥下音と舌骨上筋群の表面筋電図による嚥下評価我々は嚥下障害を呈した脳血管障害者20名と健康成人20名を対象者としてインフォームドコンセントを施行した。脳血管障害者20名は、男性10名女性10名で平均年齢が69.5歳であった。Control群である健常者20名は、男性2名女性18名で平均年齢が26.6歳であった。検査は頚部を軽度屈曲位にした座位姿勢にて液体(1ml,3ml,5ml,7ml,10ml)と固形物(丸呑み嚥下,咀嚼後の嚥下)に分類し、嚥下した時の咽頭期嚥下音と舌骨上筋群の表面筋電図で嚥下評価を施行した。健常者の評価では舌骨上筋群の持続時間は食形態や量に関わらず平均400msec以内となり嚥下音の高振幅が出現する時間は平均240msec以内になった。嚥下音の最大振幅は液体と固形間で有意差を示し、特に液体の3ml,5ml,7mlが嚥下障害の診断に有用と考えられた。MEMは液体7ml以上また固形物の嚥下で平均1000Hz以上の高周波を認めた。以上から嚥下障害を診断する為のparameterを検討した。parameterは舌骨上筋群の1)持続時間、2)平均振幅、3)嚥下音の持続時間、4)舌骨上筋群の大振幅を呈した筋活動の開始から嚥下音の第II成分が出現するまでの時間、5)嚥下音の周波数特性をControl群(健常者)と嚥下障害者で算出した。1)舌骨上筋群の平均持続時間(msec)はControl群で442(3ml),605(5ml),430(7ml)を示し嚥下障害者は986(3ml),1100(5ml),823(7ml)と有意な遅延を示した。2)平均振幅はControl群と嚥下障害者の間で有意差がなかった。3)嚥下音の持続時間はControl群で平均500msec以内で嚥下障害者との間で有意差を認めた。4)筋電図と嚥下第II成分までの時間はControl群で平均240msec以内、嚥下障害者は液体3ml,5mlの間で有意差を認めた。嚥下音の周波数特性では3ml,7mlで有意差を生じた。この検査は簡便であり、嚥下障害を診断するのに非常に有効であると考えられた。
著者
鈴木 博 西尾 治
出版者
日本医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

二枚貝を原因とする非細菌性急性胃腸炎が近年多発している。ウイルスが原因と考えられたが、ウイルスの分離が行えないことからその実態の把握が困難であった。しかし、PCR法の確立(RT-PCR)により、その検索が可能となった。我々は、汚染の状況を把握するためにカキ(N県)及びホタテ貝について生食を行わない夏期を含めた長期(毎月1回)のわたり観察した。さらに冬期は市販のカキについても検索を行った。対象としたウイルスはNorwalk-like-virus(NL Vs)、アストロウイルス、A型肝炎ウイルスである。その結果、N県産のカキからは我々が検索を開始した1995年9月より採取した46検体中16検体(34.8%)からNL VsRNAが検出された。遺伝子型はG1型が6/16、G2型が5/16、未同定5/16であった。A県産のホタテ貝は、1995年10月より採取を開始したが2000年2月と3月に初めてNL VsRNAが検出された(53検体中2検体、3.8%)。遺伝子型はG2型であった。カキ、ホタテ貝共アストロウイルス、A型肝炎ウイルスは検出されなかった。市販のカキは、46検体について検査を行ったところ9検体(19.6%)からNL VsRNAが検出された。遺伝子型はG2型が7、未同定2でありG1型は検出されなかった。アストロウイルスが1検体から検出された。A型肝炎ウイルスは、検出されなかった。食中毒例については、2000年1月にN県のホテルに宿泊したスキーツアー客の食中毒例があった。各県の衛生研究所から患者便より検出されたNL VsのPCR産物の分与を受け、遺伝子配列を検索したところ、遺伝子配列は多少の差は見られたがG2型があり、共通の食品はホテルで供されたカキが有力視された。
著者
石田 肇 近藤 修
出版者
札幌医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

1.斜里町知床博物館の協力により斜里町ウトロ神社山遺跡を発掘し、男性人骨1体を追加することができた。2.東京大学文学部常呂実習施設保管の稚内市大岬遺跡出土人骨、北海道大学文学部保管の稚内市オンコロマナイ遺跡ならびに大岬遺跡出土人骨の調査を行なった。3.断片的な資料ながらも,サハリンの南部,北海道のオホーツク海岸,千島列島に,一つのまとまった群としてオホーツク文化を担った集団が存在したらしいことがわかってきた。4.頭蓋形態小変異22項目の頻度から四分相関係数を用いて生物学的距離を推定してみた。距離では,オホーツク文化人骨から近い集団として,サハリンアイヌ,バイカル新石器時代人骨,アムール集団を挙げることができる。国立遺伝学研究所の斎藤成也氏の開発した近隣結合法で集団間の関係をみると,オホーツク文化人骨はアムール集団を中心としてバイカル新石器時代人を含むシベリア集団とアイヌの間に位置することがわかった。5.アイヌについては、北海道の中で脊稜山脈を挟む地域間での変異が大きい。これはアイヌの生活についての民族学的データや、遺伝学的なデータに見られる川筋を単位とした地域変異とは違った様相を見せる。アイヌの起源を縄文人とすると、縄文時代から近世までのアイヌ成立過程における外来要素の影響が無視出来ないが、遺伝的、文化的な要素がどの程度頭骨の形態変異に影響したのかはこれからの課題である。
著者
内藤 芳篤 加藤 克知 六反田 篤 中谷 昭二 分部 哲秋 松下 孝幸
出版者
長崎大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

1.研究方法および資料九州から出土した縄文人骨について、マルチンの方法により人類学的計測および観察を行い、時代差とともに、同じ時代でも遺跡の立地条件による差異について比較検討した。資料は、長崎大学に保管されている人骨の他に、九州大学,久留米大学,鹿児島大学および京都大学所蔵の人骨で、縄文時代早期21体,前期56体,後期71体,晩期3体,合計151体である。2.人骨の形質(1)脳頭蓋では、洞穴出土の早期人は長頭(頭長幅示数74.74),前期人は中頭(77.29),後期人は短頭(82.24)であるが、貝塚出土の人骨は、いずれも中頭(76.82)に属し、全般に長頭に傾いていた。(2)顔面頭蓋では、洞穴出土の前期人(上顔示数59.13),後期人(59.83)ともに低顔性が強く、貝塚出土の前期人(64.00),後期人(63.38)はやや高顔であった。すなわち顔面については、時代差よりも山間部の洞穴人と海岸部の貝塚人との差が認められた。(3)四肢骨については、早期・前期人は後期・晩期人に比して、細くて,周径や長厚示数が小さく、また洞穴人は貝塚人に比して時代差と同じように細く、きゃしゃであった。しかし長径については、必ずしも周径にみられたような傾向は認め得なかった。(4)推定身長をピアソンの方法式で算出すると、洞穴人は、早期(男性167.22cm),前期(162.82cm),後期(157.95cm),貝塚人は前期(162.48cm),後期(161.17cm)で、縄文人としてはやや高身長であった。3.今後の研究方針九州縄文人骨の収集につとめ、時代差,洞穴人と貝塚人との差の他に、地域差の有無について検討したい。
著者
茂原 信生 松村 博文
出版者
獨協医科大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1989

本研究は、当面は基礎データの収集と文献的データの収集が主な仕事である。基礎データの収集は、計測による研究を主にし、歯冠近遠心径頬舌径の計測をおこなった。非計測的データ(22項目)もあわせて収集した。対象とした材料は、日本およびアメリカの各研究施設に所蔵されているアジア系モンゴロイド人骨合計2249の上・下顎歯である。分析は統計的な解析方法(多変量解析)を用いた。それにもとづいて、まず日本国内の各時代・各地域の集団を調査し、それぞれの変異を明かにした。計測的なデータから得られた分析結果と非計測的なデータから得られた分析結果とは、現在収集している日本人のデータに関するかぎり、かなり高い関係が見られた。どちらの方法によっても「縄文・アイヌ」の集団と「弥生・中世・現代人」の集団とに分離された。この他、古墳人は弥生時代人に最も近く、現代人の含まれる集団の方に属している。ただし、種子島の弥生人は「縄文・アイヌ」の集団に近く位置し、やや特殊な位置にある。このような地方差や時代差を検討するためには、日本人の祖先となるモンゴロイドの大陸からの流入に関しても、琉球列島経由にようものと朝鮮半島経由によるものとの相互関係を詳しく調べる必要がある。縄文人では、東日本縄文人と西日本縄文人との間の歯の大きさに差があり、東日本縄文人の方がやや小さかった。このように、縄文時代人の中での歯の大きさの変異は地理的な分散と対応している。今後の分析には、日本人の直接的な祖先となったと考えられる系統をひいている中国人のデータが必要になり、次年度の調査目標である。これらの歯の調査の他に、アジア・オセアニアおよび北米のモンゴロイドの歯に関する文献データベースを集積中である。
著者
小沢 登高
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

今年度は引き続き、離散群に関連する作用素環の研究を行った。作用素環には大別してC*環とフォンノイマン環の二種類あり、多くの研究者はどちらか一方を専門にしているが、私は両方の分野で活発に研究している。離散群Gの複素係数群環CGはヒルベルト空間1_2(G)に畳み込み積で作用している。このCGを作用素ノルム位相のもと完備化したものを既約群C*環と言い、C*_r(G)と表す。一方、畳み込み積で作用する作用素全体のなす環のことを群フォンノイマン環と言い、L(G)で表す。群が可換の場合、Gのポントリャーギン双対をXと書けば、フーリエ変換によって、C*_r(G)とコンパクト空間X上の連続函数のなす環C(X)は自然に同型になる。また、X上のプランシェレル測度をμと書けば、L(G)はL^∞(X,μ)と自然に同型になる。これらのことから、一般の非可換群Gに対する既約群C*環や群フォンノイマン環の研究は非可換位相空間論や非可換測度空間論であると捉えることが出来る。私は離散群Gの「幾何学」がこの非可換空間の構造に反映されることを示した。これは通常の測度空間が原子を除けば一意であることと非常に対照的である。今年度は特に、Kazhdanの性質(T)と作用素環の関連について研究した。
著者
中谷 英明 徳永 宗雄
出版者
神戸学院大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

本研究の目的は、『マハーバーラタ』と『ラ-マ-ヤナ』という古代インドの2大叙事詩の韻律の解明である。両名は2年来、2大叙事詩の韻律解明を行ってきたが、この過程において、インド古典期のもっとも普通の韻律形式であり、2大叙事詩においては9割以上を占めるアヌシュトゥブ(シュローカ)律の変遷を探るうち、アヌシュトゥブが、インド最古の文献『リグ・ヴェーダ』において、ガーヤトリー律から派生したことを示す新事実を発見した。『リグ・ヴェーダ』における生成から、2大叙事詩に至るまでのアヌシュトゥブの展開が、ここに初めて連続的に明らかになったと言え、インド韻律史上の重要事実であるから、本年度はこの発見を学界に報告することとした。その事実は、「韻律パターンの使用頻度」に関わる。パターンを一々数えなから作詩することは不可能であり、作者にとってほぼ無意識の領域に属すると推定される。しかし3行ないし4行から成る1詩の各行によって異なるパターン頻度が認められること、しかもそれが2種の異なる韻律(ガーヤトリーとアヌシュトゥブ)の間でまったく平行することは、熟練した詩作者の心の内にある微妙な韻律観念を映し取るものと言えよう。詩人のこの繊細な感覚には驚きを禁じ得ない。統計的研究は、今後この種の人間精神の精妙な働きを、さらに明らかにしてゆくであろう。またこの例は、古典期の複雑に規程された韻律形式が、本源において、ここに認められるような詩人の半ば無意識的な、柔軟なリズム的感性から発生し、次第に固定化したものであることを明瞭に示しており、インド韻律史的観点からも極めて興味深い。
著者
篠田 謙一
出版者
佐賀医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

平成13年度に追加した新たな試料は、福岡県鞍手郡新延野田遺跡から出土した人骨である。この横穴遺跡は古墳時代のものであるが、この地域の弥生時代のサンプルが手に入らなかったので、古墳時代の遺跡を選択した。全部で6個体のサンプルからDNAを抽出し、PCR法を用いてミトコンドリアDNAのD-loop領域の一部を増幅した。残念ながら人骨の保存状態が悪く、塩基配列の決定ができたのは一個体のみであった。現代人との相同検索の結果、この配列は琉球の現代人と一致することが判明し、その系統は日本の基層集団に由来する可能性が示唆された。本年度は研究の最終年度であるので、これまでに蓄積した古人骨データを用いて、縄文・弥生・現代日本人の関係を解析した。その結果、以下の事柄が明らかとなった。1.縄文人とアイヌ・琉球の人々とは共通するミトコンドリアDNAハプロタイプを持ち、その近縁性が確認された。2.同時に縄文人と朝鮮半島の人々との間にも共通する配列が多く出現し両者の近縁性も無視できないことが新たに判明した。3.縄文人には南太平洋諸島に特有なミトコンドリアDNAの配列は存在せず、今回の解析でもたらされたデータからは縄文人の南方起源ないし密接な関係は支持されない。むしろ縄文人の起源は、アジアの広い地域に散在しているように思える。4.唐古・鍵遺跡のmtDNAのタイプは、モンゴル等の北方系の集団やアイヌと共通の塩基配列を持ち、最近の遺伝学的な研究の結論から演繹すれば、縄文系の特徴を持つと考えられる。5.渡来系弥生人にはアイヌ・琉球と共通する塩基配列も存在するが、その割合は縄文人ほどではない。6.本土日本人と縄文・弥生人との間には、共に共通する配列があり、両者が現代日本人の祖先であることが示唆された。
著者
東野 正幸
出版者
鳥取大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の目的は分散環境におけるモバイルエージェントの動的なデバッグ手法を開発することであるが、本年度の研究過程において、分散環境のパラダイムにおいては、高い独立性を持つ低粒度のサービスを組み合わせて情報システムを実現する、マイクロサービスアーキテクチャと呼ばれる構築方法が急速に普及しつつあり、マイクロサービスは、モバイルエージェントに類似した性質をいくつか持っており、分散環境におけるモバイルエージェントの動的なデバッグ手法を開発・適用する上で、重要な意味を持つ応用対象の1つになると考えられることが新たに判明した。本年度では、研究課題全体の最終的な目標として分散環境におけるモバイルエージェントの動的デバッグ手法を実アプリケーションに適用することを見据え、モバイルエージェント技術をマイクロサービスアーキテクチャへ導入するための課題の整理及び解決するためのアプローチの提案を行った。マイクロサービスを分割・統合する処理は、モバイルエージェントにおけるエージェントの分割・統合と共通点がある。しかし、モバイルエージェントは自律的にホスト間を移動することやホストも自律的に生成・消滅する可能性も考慮する必要があり、マイクロサービスにおけるサービスメッシュなどのインフラ及びデプロイ環境は、モバイルエージェント環境が持つ副作用を強く抑制し選択的に緩和した環境として扱うことが可能であると考えられる。これはマイクロサービスなどの普及が進みつつあるアーキテクチャが次世代のアーキテクチャへ発展する際において、モバイルエージェント技術が寄与する知見として重要な意義を持つと考えられる。
著者
久徳 浩太郎
出版者
大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2015-08-28

今後、アメリカのLIGOや日本のKAGRAによって、ブラックホールと中性子星との連星が合体する際の重力波が検出されると期待されている。この重力波からは、中性子星の半径や、さらにそれを構成する高密度物質の状態方程式を引き出せる。本研究では、観測と比較するのに必要な、正確な重力波波形を導出するシミュレーションに向けて、円軌道の連星の初期条件を用意する手法を開発した。連星の様々なパラメータに対し、試した全ての場合で離心率を0.1%程度に抑えることに成功している。
著者
大越 和加
出版者
東北大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

環形動物スピオ科の種類は、海産貝類の貝殻に穿孔する多毛類として広く知られている。今回、北日本太平洋沿岸に広く分布する2種(ポリドラ属とボッカルディア属)について、それらの穿孔している貝類(ホタテガイ、マガキ)を採集し、正の走光性を利用して浮遊3節幼生を得、培養条件を検討した。その結果、2種ともに大きな差はなく、水温15℃、飼育密度1個体1ml、換水間隔1/7日で生存率、成長速度ともに好成績が得られた。同時に、これら2種の初期生活史について、形態的、生態的な特徴をも把握した。定着および定着変態後の初期穿孔に何ら関与していると考えられた第5剛毛節球状器官について同2種で調べた結果、両種について球状器官が確認され、その消長は一致した。球状器官は、1.定着期前後の幼生に現われ、貝殻内部へと穿孔を開始した個体にははられなかったこと。2.球状器官の出現期が第5剛毛節剛毛の出現期と一致することから、定着、穿孔を開始する初期の第5剛毛節剛毛の機能と深くかかわっていることが示唆された。穿孔された部位の貝殻微細構造を、走査型電子顕微鏡を用いて調べた結果、貝殻表面につくられた穿孔初期の孔道、貝殻内部へと垂直に揺られた孔道ともに内表面に特徴的な同心円状のあなが観察された。これは、スピオ科の貝殻穿孔に重要な鍵をもつと考えられているが、基本的には穿孔の初期とそれに続く拡大期ともに同じ機構で穿孔されると推察された。今後、スピオ科に共通している貝殻穿孔機構について、大きく第5剛毛節の球状器官と第5剛毛節剛毛との関係、そして掘られた孔道内表面に現われた同心円状のあなの形成に関与している器官とそのあなを形成する機構の点から調べる必要があると考える。これらの研究は、炭酸カルシウムを主成分とする貝殻を溶解する生物侵蝕という点より、広い分野への応用が期待される。
著者
岩佐 峰雄 大谷 勲
出版者
名古屋市立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

各種動物唾液および植物抽出液のアミラーゼ活性を測定すると、サルおよび噛歯類動物唾液でヒト唾液に匹敵する活性が、植物抽出液ではわずかな活性が認められた。動物唾液斑および植物抽出液斑について、従来からのアミラーゼ活性検出法であるヨウ素-デンプン反応およびブルースターチ法を実施してみると、ヒト、サル、噛歯類唾液斑は両検査法で陽性を呈し、植物抽出液は、ヨウ素-デンプン反応のみで陽性を呈した。ヒト顎下腺から精製したアミラーゼを家兎に免疫して得た抗アミラーゼ血清をヒト血清と精漿で吸収すると、唾液とのみ反応する唾液特異的抗アミラーゼ血清が得られた。この抗血清はヒト、ニホンザル、カニクイザル唾液と反応し、他の動物唾液や植物抽出液とは反応しなかった。この抗血清をニホンザル唾液で吸収すると、ヒト唾液特異的抗アミラーゼ血清が得られた。唾液特異的抗アミラーゼ血清(ヒト、ニホンザル、カニクイザル唾液と反応するもの)を用いて、希釈唾液および陳旧唾液斑の抽出液を対向流免疫電気泳動法で検査すると、128倍希釈唾液、3週間経過した唾液斑の抽出液で沈降線が認められた。一方、ヒト唾液特異的抗アミラーゼ血清(ヒト唾液と反応し、ニホンザル、カニクイザル唾液と反応しないもの)を用いて同様に検査すると、8倍希釈唾液、1週間経過した唾液斑で沈降線が認められた。以上の成績から、アミラーゼはヒト唾液のみならず動物唾液や植物にも広く分布し、従来からのアミラーゼ活性検出法によってヒト唾液を特異的に検出することは困難である。一方、ヒト唾液特異的抗アミラーゼ血清はヒト唾液とよく反応し、サルも含めた動物唾液や植物抽出液とは反応しないことから、唾液検査において極めて有用であると考えられた。
著者
福原 知宏 三輪 洋靖 西村 拓一 濱崎 雅弘
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

高齢者介護サービスにおける介護者の気付きを収集・分析し、サービス改善に役立てる手法を開発した。スマートフォン、タブレット端末で動作する気付き情報収集システムを開発し、実際の介護施設の申し送り業務に本システムを運用・評価した。集められた気付き情報をマイニングした結果、サービス提供場面における課題が見出され、サービスの改善が可能となった。
著者
山西 弘一 岸本 忠三 審良 静男 菊谷 仁 木下 タロウ 山西 弘一 清野 宏
出版者
大阪大学
雑誌
特別推進研究(COE)
巻号頁・発行日
1997

(木下)1.ヒトのGPIアンカー生合成遺伝子群の解明に関し、PIG-Vが第2のマンノース転移酵素であること、PIG-Wがイノシトールへのアシル転移酵素であること、PGAP1がイノシトール・デアシラーゼであることを証明した。これにより、GPIアンカーが小胞体膜の細胞質側から内腔側へフリップするステップを除き、生合成の全ステップに働く遺伝子群が解明された。2.睡眠病トリパノソーマのGPIアンカー生合成遺伝子群の解明に関し、アンカーをタンパク質に付加するGPIトランスアミダーゼにヒトには存在しない2つのタンパク質(TTA1,TTA2)が必須であることを見いだした。これらのタンパク質は、睡眠病治療薬の標的に適している。(菊谷)これまでクラスIVセマフォリンSema4AがTIM2を介してT細胞を刺激することを報告してきたが、本年度はSema4A欠損マウスを作成し、その解析からSema4Aが抗原特異的T細胞の分化、特にTh1細胞に必須であることを示した。また、新規クラスVIセマファリンSema6Dをクローニングし、Sema6Dがその受容体Plexin-A1を介して心内皮細胞の遊走を調節し、心臓形態形成に必須の役割を果たすことを明らかにした。さらに、Sema6Dは免疫系においても樹状細胞のサイトカイン産生を誘導するなどの生物活性を有することが明らかになった。(審良)Toll Like Receptor(TLR)を介した細胞内シグナル伝達では、全てのTLRの炎症性サイトカインの誘導に必須のMyD88依存性経路と、TLR3,4を介しInterfron(IFN)-β,IFN誘導性遺伝子を誘導するMyD88非依存性経路が存在する。MyD88と同じTIRドメインを持つアダプター群のノックアウトマウスの作製、解析を行った。TIRAPはTLR2,4を介したMyD88依存性経路に関与していた。データベースから同定したTRIFはTLR3,4を介するMyD88非依存性経路に、TRAMはTLR4を介するMyD88依存性経路にだけかかわるアダプターであることを明らかにした。TLRを介したシグナルはアダプター群が制御しその特異性も規定していることがわかった。(山西)1.ヒトヘルペスウイルス7(HHV7)U12遺伝子が機能的なβケモカインレセプターであることを明らかにした。これによりU12遺伝子産物が何らかのかたちで病態発症にかかわっていることが示唆された。ヒトヘルペスウイルス6(HHV6)variant AのgH-gL-gQがCD46と相互作用すること、HHV6 A U100遺伝子産物がgH-gLコンプレックスの形成因子の一つになっていることなどが明らかになった。Variant Aとvariant Bではウイルス粒子膜分子の形成が異なっており、これが感染細胞の特異性を決めているものと思われる。2.カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)では、前初期遺伝子RTAがアポトーシスインデューサーであるにも関わらず、感染細胞ではXIAPの発現上昇によりこの機能が阻止されることを明らかにした。この機構にはORF57遺伝子産物と宿主細胞因子PCBP1が相互作用することにより、XIAP遺伝子のIRESの機能を上昇させることが主な理由であることを突き止めた。潜伏感染状態はウイルス遺伝子latency associated nuclear antigen(LANA)がヒストンメチラーゼSUV39H1と相互作用し、ゲノムをヘテロクロマチン化することにより誘導され、このことが潜伏感染での遺伝子発現プロファイルに強く関わっていることを明らかにした。
著者
細田 典明 藤井 教公 吉水 清孝
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

インド哲学・仏教思想においてヨーガ・禅定の修習は重要な修行法であるが、その起源は必ずしも明確になっているとはいえない。本研究では最も成立の古い『ブリハッド・アーラニヤカ・ウパニシャッド』第1・2章を解読し、その内容が、古ウパニシャッドにおける内観によるアートマンの認識を瞑想の問題として捉え得るものであり、他のウパニシャッドにも影響していることを明らかにし、研究発表を行った。仏教において四禅・四無色定と八解脱・八勝処、四念処をはじめとする三十七菩提分法、止観など様々な修行法が知られるが、それらはどのようにして体系化されたのかという問題について、阿含・ニカーヤの中で『雑阿含』「道品」を中心に考察し、三十七菩提分法による修行の体系化とともに、三学(戒・定・慧)の構成は禅定の意義が、修道の要であることを、律蔵文献や仏伝などを広く参照して解明し、研究発表を行った。本研究によって、従来不明であった『雑阿含』の禅定に関する漢訳語彙のサンスクリット原語やチベット訳語の多くが判明し、原始仏教研究の資料論に貢献した。以上、本研究は、古代インドにおける瞑想・禅定の問題点の解明に寄与したが、研究成果報告書の論文篇として、「『雑阿含』道品と『根本説一切有部毘奈耶薬事』」と、研究期間以前に公刊されたが、『雑阿含』「道品」の持つ様々な問題点を整理した「『雑阿含経』道品の考察 -失われた『雑阿含経』第25巻所収「正断相応」を中心に-」を参考として掲載する。さらに、資料篇として、『雑阿含』「道品」について、『瑜伽論』「摂事分」のチベット訳を入力し、玄奘訳と対照したものを提示し、今後の阿含研究の資料に供するとともに、データベースとして公開する準備を進めている。
著者
藤田 卓仙
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究においては、ゲノム情報を中心とする医療ビッグデータの3つの特殊性(1.対象情報 2.取得状況 3.情報の活用方法)に着目し、改正個人情報保護法を中心とした現行法制度下での医療情報の取り扱い及び必要な立法政策等に関する検討を行った。医療情報に関しては、匿名化のあり方や、情報取得の際の、利用目的の示し方と、同意のとり方に関して課題があること等が明らかとなり、医療情報を取り扱う特別法の立法の必要性が示唆された。
著者
鈴木 洋一郎 佐藤 勝彦 荒船 次郎 中畑 雅行 梶田 隆章 戸塚 洋二
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

ニュートリノ物理学・宇宙物理学国際会議のための企画調査を行った。本国際会議はニュートリノ物理学全般に渡るが、主に、(1)太陽ニュートリノ、大気ニュートリノを含む宇宙ニュートリノ、(2)加速器を用いたニュートリノ物理学、(3)理論、(4)その他、について、動向を調査した。国内での企画調査会を3回、外国での情報収集を2回行った。現在、この分野での最大の話題は、ニュートリノの質量の問題である。(1)、(2)、(3)ともに質量問題が中心テーマとなろう。(1)では、特に太陽ニュートリノ、大気ニュートリノの観測データーがニュートリノ振動の証拠であるかが、緊急最重要テーマである。太陽ニュートリノでは、今までに行われた5つの実験すべてから振動の可能性が得られている。特にスーパーカミオカンデは、過去の実験の50倍のスピードでデーターを取得している。これは本国際会議での重要なテーマとなる。いくつかの新しいアイデアも提案されている。たとえば、Ybを使ったエネルギーの低い太陽ニュートリノのスペクトラムの測定である。大気ニュートリノは初期の実験との食い違いが問題であったが、これも高統計のスパーカミオカンデで新たな展開が期待される。(2)では、宇宙暗黒物質の候補としてのニュートリノ質量探しが、本国際会議をめどに新しい結果を出すであろう。また、大気ニュートリノの振動を加速器からのニュートリノを用いて確認するための所諠長基線ニュートリノ振動実験が重要なポイントとなる。
著者
浅井 史敏 加藤 行男 仲野 和彦 仲野 道代
出版者
麻布大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

我々は犬歯周病の人獣共通感染症としての可能性ならびに全身疾患との関連性を明らかにすることを本研究の目的とした。家庭内で飼育されている犬から口腔スワブサンプルを採取し、PCR法により10種の人歯周病菌および1種の犬歯周病菌の存在の有無を解析した。P. gulaeは解析した100頭以上の犬のほとんどで検出された。P. gulaeについて線毛遺伝子(fimA)の配列を解析したところ、3タイプに分かれ、これらをA, B, C型と命名した。C型の毒性はA型およびB型よりも強力であった。P. gulaeのC型とある種の循環器疾患との相関が見出された。