著者
千代 浩之
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

今年度は, リアルタイムLinuxであるLITMus^RTに最適なマルチプロセッサ向けリアルタイムスケジューリングであるRUNを実装する研究を行った. また, LITMUS^RTに実装されているリアルタイムスケジューリングの実行を追跡・可視化するツールであるsched_traceをインプリサイス計算モデル向けに拡張した. これにより, インプリサイス計算モデル向けリアルタイムスケジューリングの開発効率を向上させることが可能になった.インプリサイス計算モデルに3つ以上の必須部分を持つタスクを扱うことを可能にするリアルタイムスケジューリングを提案した. この手法により, より複雑なインプリサイス計算モデルにリアルタイムスケジューリングを適用可能になった. また, インプリサイス計算モデル向け最適なマルチプロセッサ向けリアルタイムスケジューリングであるRUN-RMWPを提案した. RUN-RMWPはRUNを基調としたインプリサイス計算モデル向けの最適なリアルタイムスケジューリングである. シミュレーション結果では, 従来のインプリサイス計算モデル向けリアルタイムスケジューリングであるG-RMWPやP-RMWPよりプリエンプションやマイグレーションの回数が少ない結果を示した. さらに, タスクの品質の評価結果では, G-RMWPやP-RMWPと比較して少なくとも同等もしくは高い評価結果となった. 従って, RUN-RMWPは従来のインプリサイス計算モデル向けリアルタイムスケジューリングよりオーバヘッドを減らしつつ, タスクの品質を改善することが可能になった.上記の研究は, 分散制御型ロボット向けリアルタイムオペレーティングシステムを研究開発する上で非常に重要であり, これらを研究する意義は十分にあると言える.
著者
千葉 明 杉元 紘也 朝間 淳一 竹本 真紹 土方 規実雄
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

埋込型補助人工心臓、半導体製造装置、薬液搬送などの分野で、ベアリングレスモータのニーズが高まっている。ベアリングレスモータはモータと非接触磁気力支持を一体化した電磁機械である。ポンプとして応用する用途では、ワイドギャップを隔てて回転子と固定子が対向する必要がある。しかし、ギャップ長を大きくすると、モータ出力は低下し、磁気支持に必要な電磁力も低下してしまう。そこで、本研究では、従来のベアリングレスモータを超える新しい構造を考案した。回転子半径Rとギャップ長gの比g/Rをモータギャップ長評価指標とし、従来モータの10倍程度大きい0.1以上を実現するベアリングレスモータの研究開発を行った。
著者
吉田 武弘
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

貴族院院内会派の実態解明を目的に、本年度も昨年度に引き続き史料収集、翻刻、検討作業を行った。まず昨年以来検討している男爵議員の会派・公正会について、阪谷芳郎ら関係者の史料を網羅的に収集、検討する作業を継続して行った。公正会は、大正期後期の成立以来、政界において独自の存在感を示した会派としてその名が知られているが、一方でその実態や理念、動向についてはほとんど検討されていない。よって本研究がその先鞭をつけたものといえる。またこれに加えて本年は、伯爵議員団についても検討の幅を広げた。なかでも特に伯爵議員団において中心的役割を果たした大木遠吉に注目し、大木に関する史料を収集、検討する作業を行った。大木は「華冑界の総理大臣候補」ともいわれた華族政治家であるが、従来必ずしも十分に検討されてきたとは言い難い人物である。大正期華族研究は、近衛文麿、有馬頼寧らのちに「革新華族」を構成した人々に集中する傾向があるが、これに対し大木ら当時の政界において重要な役割を果たしていた華族政治家に着目することは、華族研究の視野をより広げることになるであろう。くわえて、院内会派の動向をより大きく議会史全体の文脈上に落とし込むべく、「両院関係史」の検討も行った。主には、第4次伊藤内閣下の両院衝突問題、大正政変などの時期に注目し、それら政治史上の重要事件を両院関係の視座から読み直す作業を行った。これは従来「議会」と「官僚閥」という視点で整理されてきた政治史理解に対し、むしろ「官僚閥」においても「議会」が絶対的に必要であったという視座からこれを再検討しようとするものである。こうした作業を通じて、近代日本における議会制度の意味を再検討することができるであろう。
著者
冨永 茂人 山本 雅史 久保 達也
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

(1) 南九州~奄美大島のタンカンでは、植え付け後数年間は樹体発育を主体にするカラタチ台苗木と若木から結実させるシトレンジおよびシトルメロ台苗木を組み合わせた植栽が望ましい。(2)(1)摘果技術によって、葉数 4~5 枚の有葉果の適正結果で高品質果実の安定生産が可能である。(2)直径 5mm 程度の中根のデンプン含量を適正着果の指標として用いることが可能である(3)(1)奄美大島では、高品質果実の安定生産のための最終摘果時期は10 月中下旬であり、それ以前では果実が大きく、品質がやや低下すること、それ以降では翌年の着花が不良になる。
著者
今本 喜久子 喜多 義邦 高田 政彦 日浦 美保 大町 弥生
出版者
滋賀医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

我々は、科研補助金・基盤研究(C)を受けて平成13年から16年にわたって大学の近隣に在住の高齢ボランティア29名(男10名:女19名)と施設入所者15名(男3名:女12名)を対象に、身体的基礎データを4年間8回継続的に採取した。これらの測定は、身長、体重、BMI,体脂肪率、バイタルサインなどの身体的基礎データの他、握力と下肢筋力、ドプラーERによる足背動脈の血流速度、超音波測定装置Achillesによる踵骨の骨指標、Stabilo-101による重心動揺を含む。また、転倒・骨折についてのアンケート調査、食事と運動についての生活習慣調査も行った。調査期間中の転倒者は8名、骨折者は11名であった。身体的基礎データについては、4年間に大きな変化は認められなかったが、高齢者ほど身長の短縮が目立ち、加齢にともない体脂肪率が高くなる傾向がうかがえた。1.骨量については、第109回日本解剖学会(福岡2003)、第1回コメディカル形態機能学研究会(福岡2003)第16回日本看護研究学会地方会(神戸2003)で口頭発表した。良い運動習慣を維持することで骨指標を高めることができた高齢者がいる事実は、骨量減少に生活習慣の弊害が深く関与することを裏付けた。骨粗鬆症の予防対策は、後期高齢者にまで対象を広げて効果を上げるべきである。2.重心動揺と下肢筋力は骨量への影響が明らかで、これらの関係については滋賀医科大学看護学ジャーナル3巻1号(2005)に論文として発表した。重心動揺計による総軌跡長をパラメーターとしたバランス感覚の変化に注目すると、男性では閉眼時に動揺が高まる傾向が著明であり、加齢にともなう視力の低下がバランス感覚に影響することが推測された。3.下肢の足背動脈の血流速度については、第17回日本看護研究学会近畿地方会(京都2004)、第2回コメディカル形態機能学研究会(大津2004)に口頭発表した。対象者の加齢に伴う明朗な変化は認められなかった。著しく血流の流速波形が変化した数例で、動脈硬化の進行が推測され、その例では骨量の低下が認められた。
著者
神園 幸郎
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

高機能広汎性発達障害児に見られるファンタジーの没入現象について、その特性を明らかにした。第一に、高機能広汎性発達障害児のファンタジーは、対象児に固有なこだわり行動に起源を持つことが明らかになった。第二に、彼らのファンタジーは実体験の再現もしくはそれを基に再構成されたものであり、想像上の存在や架空の物語展開といった虚構性は極めて薄く、その点で定型発達児のファンタジーとは大きく異なることがわかった。
著者
渋谷 賢
出版者
杏林大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

標的(ターゲット)に向けて腕を伸ばす到達運動が空間的注意に及ぼす影響を調べた.到達運動中に標的が左右に不意に移動した場合,素早い修正運動が引き起こされたが,この潜時は腕と対側半空間に標的が移動した方が同側半空間よりも早く,最終的な到達位置も正確であった.この非対称性は,運動空間と視覚空間を乖離させたバーチャル環境下でも観察されたが,特に腕の動きが視覚空間に見えていることが重要であった.さらに,実際の到達運動のみならず,他者が到達運動を行っている映像を観察する際にも,空間的注意が実際の到達運動と同様に変化することを発見した.
著者
納口 恭明 下川 信也 栢原 孝浩 鈴木 真一 小林 俊市
出版者
独立行政法人防災科学技術研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

災害を引き起こすような自然現象を科学教育・防災教育を目的にコンパクトに再現できる装置をまとめた手で持ち運べるハンディータイプの科学館と車1台で運べるポータブル科学館を開発した。このなかには雪崩、落石、地盤液状化現象、固有振動によるビルの倒壊、台風、突風などが含まれる。これらを用いた実践例は合計で数百件を越える。
著者
小嶋 英夫
出版者
文教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

教育学部在籍の英語教員志望生を主な研究対象として、彼らの専門職能と自律的成長を促す省察的ポートフォリオを開発するために、理論と実践の統合を通して継続的に研究した。文部科学省から「グローバル化に対応した英語教育改革」が提唱され、小・中・高を通じた一貫生のある新しい英語教育の推進に貢献できる英語教員の養成・研修が求められている。学習指導要領が全面的に改訂される2020年に向けて、学校教育全体が大きく見直され、すべてのキャリアステージにおける教師教育も改善されることになる。これらの動向を見据え、国内外の研究大会での発表、学術誌への投稿、図書の刊行等により、本研究の成果を結実させることができた。
著者
早川 清 鍋島 康之 太井子 宏和 庄司 正弘
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

表層軟弱地盤における振動伝播挙動の正確な把握および振動増幅現象の予測手法についての検討と検証解析課題に関して、平面道路・高架道路などにおける振動実側調査および数値解析を行った。長野県内の地盤が軟弱な幹線平面道路での振動調査およびボーリング調査・貫入抵抗調査などの詳細な地盤調査結果より、表層軟弱地盤の固有振動数が5Hz付近にあり、家屋の固有振動数と一致して共振現象を生じていることを解明した。ISO規準に基づいた路面凹凸条件を入力し、数値シュミレーションでもこの現象を解析している。大阪府内幹線高架道路の構造体の固有振動数は5Hz付近にあり、沿道家屋との共振現象を励起して苦情に繋がっていた。橋体本体の床版たわみを制御する縦増桁による対策効果を固有値解析から検討したが、低域振動数では顕著な効果の期待できないことが理解された。高架道路交通振動を対象とした地盤振動の伝播特性に関しては、上下方向だけではなく、橋軸方向および橋軸直角方向の3方向加振の影響も大きく、現行振動予測法の不備を指摘した。京都南部の幹線平面道路は、表層が軟弱な沖積粘土層で構成されている。道路交通振動調査および表面波探査から、地盤の固有振動数が3Hz付近の低域にあることを確認した。地中防振壁を用いる振動低減対策工に関する研究課題に関しては、大きな中空部を有するPC壁体および矢板の振動低減効果を、現地振動実験。模型振動実験およひ数値シュミレーション解析から考察した。高架道路でのPC壁体の振動低減効果量は5dB程度であり、2次元FEM手法で橋体の動的応答を再現できることを確認した。PC壁体周辺部の剛性を3種類に変化させた模型壁体を作成し、中規模振動実験から壁体重量の影響を検討した。この結果、軽量壁体の効果が大きく生じたが、さらに数値解析からもこの点を解明する必要性を感じている。剛矢板地中壁の振動遮断効果は、既に現地振動実験結果から確認している。しかしながら、矢板が2次的な振動源となって矢板の背後で振動増幅される問題点を改善するために、矢板の打設深度、打設枚数およひ軌道下地盤改良などの対策効果を、数値解析から検討している。
著者
冨田 裕彦
出版者
地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター(研究所)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

培養細胞のミトコンドリア遺伝子発現パターンが血清添付培養と無血清培養とで異なるのではないかとの仮説のもとに検討を行った。In situ hybridizationやPCR法を用いて検討した結果、明らかな違いを見出せなかった。転移と密接に関与するValosin containing protein (VCP)と結合するubiquitin like 4A (UBL4A)が細胞増殖の重要なシグナルであるSTAT3シグナルに対し核内で抑制的に働くことを見出した。膵癌発生母地として膵臓の線維化、炎症細胞浸潤があることを見出した。
著者
角館 俊行
出版者
東北大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

研究目的 : 本研究では、軟X線顕微鏡の開発を進める中で課題として浮上した、軟X線ミラー基板の形状測定の高精度化を目的とし、新たな基板保持方法の開化を目指した。具体的には、基板回転機構の導入などにより、測定誤差(標準偏差)0.10nm以下のレーザー干渉計測を目標とした。研究方法 : 研究代表者が従事するレーザー干渉計による軟X線ミラー基板の形状測定では、ミラー基板の位置及び姿勢を精密に調整し、それを保持することが重要となる。測定では、測定用ホルダにセットしたミラー基板を90°または180°回転させる必要があるが、従前、この回転はホルダに直接手を触れ行っていた。本研究では、既存のピエゾ駆動精密XYZステージに、コンピュータからの指令が可能な基板回転機構を導入することにより、面内回転・X・Y・Zの全ての軸の調整及び保持を遠隔操作で行えるよう改良し、回転角精度の向上と実験室内での移動や入退室に伴う測定環境変化の回避を図った。また、経年劣化による動作不良が生じた干渉計の拡散板を改良した。上記改良に必要な部品は本研究所の機械工場の協力を得て作製した。全システムの完成後、測定を繰り返し行い、データの取得・解析を行った。研究成果 : ミラー基板の形状測定における測定誤差(標準偏差)は、従来、0.15-0.20nmであったが、本研究では目標であった0.10nm以下まで低減させることに成功した。また、一部作業を除きミラー基板の位置及び姿勢の調整と干渉計測を全て遠隔操作で行えるようになり、測定の高精度化だけでなく簡便化・効率化にもなった。
著者
三宅 晶子 橋本 雄一
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

【烟台大学・魯東大学研究者受け入れと共同研究】(2017年1月~8月)李文哲准教授(烟台大学)・朴銀姫講師(魯東大学)を千葉大学大学院人文公共学府に「外国人研究者」として受け入れ、共同研究と打ち合わせを行った。【中国研究調査】(2017年9月3日―9月11日)青島:ドイツ統治期・日本統治期建築群調査(ドイツ水兵クラブ、徳華銀行旧址、山東鉄道公司旧址、旧モルトケ砲台、旧青山中学校、青島福音堂、天主教堂、聖保羅教堂、青島徳国総督楼旧跡博物館等)烟台:招遠芸術センターにおける抗日戦争期の資料展示、東砲台調査、魯東大学・烟台大学との打ち合わせ 大連:日本・ロシア統治期建築調査(ダーリニー市役所旧址、旧満鉄本社、大連賓館、大連図書館、旧西本願寺、旧東本願寺、旧日本人住宅街等)【徳島県調査】(2017年11月23日-26日)鳴門市:坂東俘虜収容所跡、ドイツ館、ドイツ村、香川豊彦記念館 徳島市:ドイツ兵慰霊碑、松江豊寿旧居調査、資料収集:『Die Baracke』CD-ROM,『青島戦ドイツ兵俘虜収容所研究』等。シンポジウムの準備、発表内容の打ち合わせを行った。ドイツが模範的植民都市として建設した青島を調査し、1914年第1次世界大戦での日独戦敗北後ドイツ兵が俘虜として収容された鳴門市坂東俘虜収容所跡を調査することによって、ドイツ兵俘虜たちが、狭い収容所敷地内において、かつての青島の地域の名を命名し、都市を模した活動を行うことによって、都市共同体を作り出そうとしていたことが分かった。また、ドイツ兵の慰霊という想起は、そのつどの日本のドイツとの政治的関係、敗戦体験が深く関わっていることが分かった。
著者
佐藤 美理 山縣 然太朗 鈴木 孝太
出版者
山梨大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

近年、小児における抑うつ症状の罹患率が上がっている。我々は、コミュニティベースのコホート研究により、思春期における抑うつ症状と他のメンタルヘルスに関する要因の検討を行った。起立性調節障害は思春期特有の症状である。我々は、女子において、抑うつ症状とこの起立性調節障害に因果関係があることを明らかにした。また、歪んだボディイメージは抑うつ症状と関連があることが示唆されており、検討した結果、思春期の早い段階で体型に関する不満足があることが後の抑うつ症状の増加に関連していた。
著者
村上 武則 SCHELLER Andreas
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

研究成果の第1として、2003年9月29日、ドイツのバヅーラ教授を大阪大学に迎え、「公益企業による生存配慮」と題して、講演会を開催することができた。そこで、教授は、民営化の時代においても、公行政による最低限度の保障の責任として生存配慮概念を維持されようとされる。さらに欧州連合においても、加盟国は、一般的経済的利益の給付は、市場関連的給付として、許容されうると主張されるのが注目されうる。そして、公益企業による生存配慮は、社会的法治国の本質的メルクマールであると結ばれている。研究成果の第2として、日本の近距離旅客輸送の法律問題に関し、ドイツのシュパイア大学で行われた国際シンポジウムにおいて報告したこと、およびその内容を、シュパイア大学法学論叢に公表できた(2004年)ことである。その中では、とくに日本では、ドイツやヨーロッパと異なり、東京圏や大阪圏および中部圏においては、きわめて人口密度が高く、その意味で近距離旅客輸送は、住民の生活と極めて密接な関連を有していることを指摘するとともに、我が国においては明治期以来、近距離旅客輸送は、民間企業によって担われていたこと、しかし同時に行政主体によっても近距離旅客輸送が担われていたことを指摘した。研究成果の第3として、欧州連合、イギリス、ドイツ等における近距離旅客輸送の民営化に関する理論と実態を考察できた。とりわけ、フェーリング(Professor Dr.Fehling)「公的な近距離旅客輸送を例にした生存配慮の改革の考察」(Die Verwaltung 34.Bd,2001)を参考に、様々なモデルについて考察できたことである。このように、近年は世界的に、行政の規制緩和と並んで、民営化が大胆に推進されることになった。国鉄も民営化され、近距離旅客輸送は、いっそうの民営化が迫られている。しかし、どうだろうか。2005年4月25日午前9時20分に発生したJR福知山線の尼崎での大事故は、民営化の落とし穴の如実な例である。人命を預かる近距離旅客輸送として、安全性は効率性以上に尊重されなければならない価値である。この度の事件において、安全性軽視の実態が明白になったが、一日も早く、その原因が解明され、利用者の安全性の保障がなされなければならない。このため、生存配慮としての公益企業、たとえば近距離旅客輸送において、国家は、最低限の保障を担うべきであろう。
著者
小松 和彦 徳田 和夫 ADAM Kabat 佐々木 高弘 横山 泰子 安井 眞奈美 常光 徹 山田 奨治
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

四年計画の研究は、以下のテーマにしたがって展開され、成果がまとめられた。1.「怪異・妖怪伝承データベース」を活用した怪異関係記録の数量的分析手法の開発:すでに公開されている民俗学雑誌記事をもとにしたデータベースを利用し、信仰や心意現象に関するデータの計量分析手法の開発と研究をおこなった。四年間の調査・研究実績は、研究代表者・研究分担者がそれぞれ論文を執筆し、報告書(冊子体)にまとめた。2.怪異関係記録の収集および分類・整理:『日本伝説体系』全17巻(みずうみ書房1982-90)、および日本全国の都道府県史(民俗編に該当するもの)などを対象に、各地域に根付いた持続性のある「伝説」を中心とした怪異・妖怪伝承についてのデータを集積した。集積方法については、すでに公開されている「怪異・妖怪伝承データベース」作成時のマニュアルを参考にして都道府県史専用マニュアルを作成、それに従って作業を進めた。なお、都道府県史(民俗編)については合計6625件の事例を収集し、カードを作成した。3.妖怪・怪異関係典籍の収集:各地域・各時代の妖怪・怪異関係典籍を中心に発掘及び収集を行った。絵画資料については、二次資料(妖怪展などの図録資料)、一次資料(絵巻物・浮世絵・黄表紙などの現物)を対象として収集を行った。4.絵画資料データベースの試作版作成:日文研所蔵の妖怪・怪異に関する絵画資料をデジタルデータとして保存し、その画像についての書誌情報のデータベース構築をめざし、研究・開発を行った。
著者
黄 暁芬 宇野 隆夫 吉井 秀夫 河野 一隆 上原 雅文 米田 穣 河野 一隆 諫早 直人 宮原 晋吾 臼井 正 張 在明 塔 拉 魏 堅 王 曉〓
出版者
東亜大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は4年間にわたり、対象調査地のフィールドを通して考古学、歴史学、地理情報システムや年代測定法などの学際的研究を展開していた。主な成果は下記3点にまとめられる。1.漢魏帝都と郡県城址の構造プランとその象徴性1)帝都建設における理念空間の完成:漢帝都長安の建設プランは、南山子午谷口から嵯峨郷五方基壇まで南北軸線全長75kmに及ぶ。それが渭水を中心として都城・陵墓との生・死空間が南北正方位に対置し、天と地・自然山川と記念的建造物の対象性をベースにおき、漢帝国支配の正統と神聖を表象したシンボルであり、東アジア古代都城の成立にも多大な影響を与えていた。2)郡県城址の調査と復元:華北、内蒙古における戦国・秦漢期の郡県城址が計26ヵ所を調査、測量した。GPS・GIS解析によって各遺跡の方位と構造プランを解明し、中央帝都建設に対して地方郡県都市の特色を初めて把握した。一辺500~600四方の城郭都市がほとんどで、北方位を重視するが、真北からの偏角は1度~7度あり、帝都建設ほどの精度がない。その偏角の大小は、中央勢力との関係緊密度に影響されるように見て取れる。城外には正方位重視の墳墓が造営されたことも判明し、帝都長安の都市計画を模倣したものと考える。3)北方国境線遺跡の探求:内蒙古の陰山南麓一帯の調査では、城塞、長城、烽火台の併存が発見した。一辺40-50四方の城塞は城門1つ、石積みの城壁が幅3-5、頑丈な防御施設で、それに長城と烽火台は近接に築かれ、戦国秦漢期の北方軍事施設として完備されたことが判明した。2.秦直道の調査と研究1)秦直道の真相究明:紀元前212年建造された秦帝国の南北幹線道路-秦直道は歴史上、深い謎に包まれ、長い間不明なままであった。近年、秦直道の発掘調査や日中連携調査によって、秦直道の真相がようやく解き明かされてきている。山岳高地の作道、版築土の舗装道路の道幅は平均30m、道の沿線に壮観な皇室の行宮や防御に備えた関所、駅舎施設が付設された。それは高度な土木技術と巨大な権力組織によって創り出された「帝国の道」である。2)古代ローマ道との比較:ローマ道は礫石や砂石の作道が主で、道幅4の石畳みの舗装道が特徴的である。帝国領域間の軍事、交通運輸道として発達し、商用道路の兼用を含む実用性の優れた古代ハイウェーである。3.チベット吐蕃王墓の調査と実測チベットの吐蕃王国を象徴する巨大墳墓の4大分布地点で実地調査とGPS測量を行った。その結果、時期の異なる巨大方墳・円墳を特徴とした吐蕃王室・貴族大墓の構造配置と分布を総合的に把握し、吐蕃大墓の立地方位と景観の特色などの検証が初めて実施した。
著者
榊原 哲也
出版者
立命館大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

本研究は、ドイツ現象学派内部においてダウベルト、プフェンダー、ライナッハらによって提示された言語行為の考え方の全貌をできる限り明らかにし、それをオースティンに始まる英米の言語行為論の成果と比較検討することによって、現象学の立場から、現象学と英米哲学との架橋を試みるものであった。英米の言語行為論との比較の上に立った、これまでにない新たな「言語行為の現象学」を可能な限り展開することを目指して、本研究は始められた。まず第一に、ドイツ現象学派内部における言語行為の考え方の発展過程を辿って、ダウベルトからプフェンダー、ライナッハに至る思想の全貌をできる限り明らかすることが試みられた。ダウベルト、プフェンダーについては、時間的制約のために、その思想を十分に捉えることができなかったが、しかし、ライナッハについては、近年公刊された新全集の読解に基づいて、そこに明らかに、しかも英米の言語行為論よりも約半世紀も前に、「言語行為」論の考え方が形成されつつあったことが確認された。これが本研究の第一の成果である。その上で第二に、ライナッハの言語行為の考え方と英米の言語行為論(とりわけオースティン)との比較検討が試みられた。これについては、残念ながら、十分な考察がなされたとは言えないが、しかし、次のことだけは、すなわち、現在英米哲学の一つの潮流を為しているオースティン以来の言語行為論に対して、ライナッハの「現象学的」言語行為論が、各言語行為の持つ本質連関を現象学的に解明してくれるという点で、十分寄与しうる余地のあることだけは、少なくとも確認された。以上が本研究の第二の成果である。さらに第三に、「現象学的」言語行為論を基礎づける為に、現象学の流れを解釈し直す試みと、「現象学的記述」をめぐる考究が行われたが、これらは本研究にとって、きわめて有益であった。以上が第三の成果である。以上の成果の一部は、論文の形で公刊され、また一部は立命館大学における講義で開陳された。
著者
土川 洋子 関谷 栄子 森山 千賀子 杉本 豊和 西方 規恵
出版者
白梅学園短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

介護は、わが国に定着している家庭生活技術ではあるものの、学問としての介護教育は、未だ明確に確立しているとは言いがたい。その中で、精神障害者は、長期入院と社会的入院という処遇の長い歴史を経て、平成18(2006)年4月に、障害者自立支援法が施行され地域での自立生活支援がすすめられ始めている。本研究では、精神障害者に対する介護を学問として構築していくために必要な根拠を当事者、家族会、介護従事者、海外の現状、病院、教育機関に求め、幅広い現状を把握し、必要な介護技術を抽出しようと試みた。
著者
太田 佳宏
出版者
神奈川大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

連鎖縮合重合とそれに続くフォーカルポイントの修飾によって合成した分子量と分子量分布の制御されたハイパーブランチポリアミド (HBPA) を持つ高分子モノマーのラジカル重合を検討した。本研究期間を通じて、2,2'-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル) (V-70) を用いて重合温度を 30℃でHBPAを持つ高分子モノマーのラジカル重合を行うと、高分子量で分子量分布の狭いグラフトポリマーが生成することを明らかにした。