著者
有馬 隆文 (2011) 出口 敦 (2009-2010) SWAI Ombeni
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究は、アフリカのヴァナキュラー建築の特性理解と今後の発展・改善を目標として、2009年9月より開始したものであり、建築スタイルの一つであるバイオ建築の設計原理に基づいて、近隣との共生するバイオ建築の在り方を明らかにするものである。本年度は、それまでの調査の内容を改良し、社会的・物理的環境変化による建築・近隣地区の変化を把握するために実施した。この調査では約90世帯を対象にインタビュー、アンケート、物的調査を実施した。結果として、(1)家族形態の変化が建物の拡張を誘導し、「建築物の不規則な密集化」を引き起こす要因であること。(2)建物規模の拡大要求は、家族形態の変化に対応することのみならず、近隣との社会的・経済的活動にも起因すること。(3)建物規模の拡張は、換気の障害といった影響を環境パラメーターに直接与えるとともに、中庭での社会的機能等にも影響を及ぼしていることなどを明らかとした。また、環境パラメーターの分析においては、気温、湿度、雲行き、風速と方向、太陽放射、雨降りといった環境データを分析し、この研究地域は、湿っぽい上、年間60%の高い太陽放射量があるので、住まいには相応しくない環境であること明確化した。ここで得られた知見は、バイオ建築設計上で解決すべき、最も重要な設計要素の手がかりである。このような湿度の高い気候では、中庭や建物の路地といった機能スペースを遮断する傾向が増したことで、より高度な設計が要求される。なぜなら、建物面積の拡張は、横断的な換気を必要とする気候の性質に反するからである。このような考察をもとに、最終的には「共生都市コミュニティ設計へのアプローチ」の戦略と方法論を提案した。以上の内容を取りまとめ、学術論文に投稿した。
著者
大中 忠勝
出版者
福岡女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

人工環境への非適応者としての「暑がり」の特徴を調査するために、実験室実験とフィールド調査を行った。1)実験室実験20名の青年女子(21.3±0.6歳)を被験者とし、自己申告に基づき暑がり(HS群: 12名)と非暑がり(NS群: 8名)の2群に分けた。被験者は26℃(60% RH)の前室で20分間安静を保った後、28℃、30℃、32℃(50% RH)のいずれかの温度に設定された曝露室で60分間過ごした。実験中、身体7か所の皮膚温、舌下温、衣内湿度が測定され、同時に温冷感、快適感の申告が記録された。28℃への曝露60分目の平均皮膚温は、HS群33.6℃、NS群33.2℃であり、群間に有意差(P<0.01)が認められた。HS群は発汗量が多く、発汗開始時期も早い傾向にあったが、群間に有意差は見られなかった。両群とも、平均皮膚温と快適感の間に有意な相関関係が認められ、HS群の回帰直線の傾きはNS群より大きかった。HS群は平均皮膚温の上昇に伴い、温熱的不快感を生じさせやすい傾向にあることが示された。2)フィールド調査本研究の目的は「暑がり」が生活する住居の温熱環境とその状況での生理・心理反応をあきらかにすることであった。被験者は暑がり10名(以下HS群)、非暑がり10名(NS群)の青年女子であり、彼女らの自宅(もっとも長い時間を過ごす部屋)において調査が行われた。調査は7月から8月にかけて行った。気温、気湿は2分間間隔で1週間にわたり記録した。自宅に滞在時には、約1時間間隔で身体7か所(前額、胸、前腕、手背、大腿、下腿、足背)の皮膚温が放射温度計により測定された。同時に温冷感、快適感、着衣量が記録された。温熱的中立(暑くも寒くもない)を申告したときの室温はHS群27.2℃、NS群28.3℃であった。平均皮膚温と室温の間には両群とも有意な直線関係が認められたが、中立温感が得られると考えられる平均皮膚温34℃が得られた室温はHS群31.2℃、NS群28.7℃であった。被験者が発汗を感じたときの室温はHS群30.2℃、NS群30.7℃であり、両群間に有意差が認められた。室内での着衣量はHS群0.27clo、NS群0.25cloであり、群間に有意差は認められなかった。HS群の被験者は暑さに敏感であり、涼しい環境を好む傾向にあることが示された。また、エアコンを使用して快適環境を構築する傾向にあることも示唆された。
著者
倉橋 奨
出版者
愛知工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

南海トラフ巨大地震にも対応した緊急地震速報の高度化のため、震源に近い観測点のP波震動からより震源から遠い観測点のS波震動を予測する方法を提案し、適用性の検証を行った。具体的には、波線理論を基とした、P波震動とS波震動の比から計算される伝達関数を計算し、観測記録のP波震動と重畳積分することにより、S波震動を推定する方法である。また、リアルタイムで計算できるよう、伝達関数を時刻歴にするIIRフィルターも構築した。M5クラスの地震動によりその適用性は確認できたが、南海トラフ巨大地震に対しては、P波を含めたシミュレーション波形が得られなかったため、検証できなかった。
著者
中田 芳樹
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

超短パルスレーザーを用いてナノサイズの金属流体プロセスを瞬間的に誘起し、金属の直立構造が周期的に配列する構造を形成する。今年度は下記の成果を得た。1.装置の改良:前年度に開発した透過型回折格子と縮小光学系を組み合わせたフェムト秒レーザー干渉加工装置に対し、光束毎に位相・振幅を変調する装置を追加した。2.新規ナノ形状の達成:薄膜材料、膜厚、基板、干渉加工条件などをパラメーターとすることにより、下記の成果を得た。これらにより、(1)~(4)の研究目的を達成し、さらに(5)の新規ナノ形状を創製した(1)曲率半径7.5nmの極小ナノウォータードロップの形成(金)(2)最小頂点曲率半径約2nm(平均値5.4nm)の金ナノウィスカーの形成(3)金ナノウィスカーのアスペクト比:約17(4)最小頂点曲率半径約6nmの銀ナノウィスカーの形成、ナノクラウン周囲のナノスパイク頂点曲率半径:7nm、アスペクト比>5(5)位相・振幅変調による「多重周期構造」「倍密度構造」「周期破線構造」の創製本手法は従来のナノマテリアル形成法に対し、「従来に無いナノ形状」「正確な周期構造の自動生成」「素材の自由度」「加工速度」「大面積一括加工」等の点で優れており、ナノテクノロジーやメタマテリアルなどのナノマテリアル応用分野全般において新しい応用が期待できる。
著者
土肥 謙二 大滝 博和 小川 武希 宮本 和幸
出版者
昭和大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本検討の目的は熱中症モデルにおけるneuroinflammationの病態のメカニズムを明らかにすることであった。まず本研究ではいまだ確立されていなかったマウスの熱中症モデルを開発し、生理学的評価、血液学的評価、ミネラル補充の効果について明らかにした。さらに現在は酸化ストレスの評価や水素水を用いた新規治療法の開発に向けた検討を行っている。また、熱中症モデルにおいては腸管のダメージが組織学的に強かったことから重症熱中症モデルにおけるneuroinflammationと脳-腸管によるsystemic inflammationとの関係について再検討している。
著者
北尾 邦伸 安井 鈞 長山 泰秀 稲田 充男 新村 義昭 片桐 成夫 井口 隆史 瀧本 義彦 北尾 邦伸
出版者
島根大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

輪島・鳳至地域の現地においてアテ・複層林の森林を対象にして種々の計測を行った。また、その複層林を経営する担い手の経営構造やアテ材の生産・流通構造についても現地調査を行った。さらに、固定試験地の林分構造に関する過去20年間のデータの解析に努めた。これらのことから、次のような新たな知見や林分構造に対する理論モデルを導出した。1.複層林の直径分布および樹高分布は各齢階ごとのそれぞれの分布が結合したものと仮定して、頻度分布モデルとして混合対数正規分布g(w)を誘導し、計測データをあてはめた。結果はよく適合した。2.択伐林内の樹木の伐採確率分布の誘導を行い、混合マルコフ過程を応用した択伐林直径分布モデルを誘出できた。3.よく施業されたアテ択伐林分では直径や樹高の度数分布は逆J字型を示す。施業がよくない光環境のもとでは、上層木のみが成長して択伐林型が崩れる。これら林分構造・成長・光環境の関係を定量的に明らかにした。4.2つのアテ択伐林分における林分各部分の栄養塩類の集積量、およびそれに影響をおよぼす土壌の化学性を下層土壌を含めて明らかにした。これは、森林土壌の肥沃度および物質集積量の基礎的データとなる。5.暴風害の被害形態は幹折れ、根返りが多く、直径・樹高の全てのクラスに及んだ。折損被害は形状比が60-80のものに多く、冠雪害の場合よりも小で、折損高は2-3m、折損比高0.1-0.3と冠雪害に比較して低かった。6.光環境を整える枝打ち作業が労働力不足のために困難となり、この点を基軸にして伝統的なアテ択伐の経営構造が変容を迫られている。また、外材率20%という地域材の地場需要の強い伝統的な生産・流通構造も、その規模が小さく、飛躍的に増大した戦後アテ造林の資源的成熟に伴って、大消費地とのつながりにおける産地形成を迫られている。これらの点を実証的に明らかにした。
著者
飯島 純夫 山崎 洋子 古屋 洋子 芳我 ちより
出版者
山梨大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

患者と看護師に対する病院環境についてのアンケート調査と、病院における騒音、照度、温度、湿度、気流(風速)の環境測定を実施した。衛生状態、騒音、明るさ、総合評価で、看護師に比べ患者のほうが有意に良い回答をしていた。看護師では温度(「暑い」)と湿度(「蒸し暑い」)で、患者では湿度(「蒸し暑い」)と気流(「弱い」)で冬期と比較して、夏期で有意に高い割合が認められた。
著者
HILL P.Jonathan (2012) JONATHAN P.HILL (2011) JONATHAN P. (2010) SANCHEZ Ballester SANCHEZ BALLESTE M.N.SANCHEZ Ballester
出版者
独立行政法人物質・材料研究機構
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

無機物質と有機物質の両方の特性を兼ね備えかつナノメートルレベルの構造特性を持つ物質の合成は、様々な機能材料の開発にとって重要である。本研究では、マンガンと鉄を含む配位型の有機・無機ハイブリッドを新たに合成開発した。配位高分子(Coordination Polymer)としてはこれまでに報告のない種類のものであること、遷移金属の酸化物が組み込まれた新しいタイプのハイブリッドであること、二量体と三量体のマンガンクラスターの中間的な状態を持つ大変希少な形態であることなどが、結果としてわかった。これらの化合物合成は、物質科学上の研究ということだけではなく、生体内の金属クラスターの模倣という点からも進められている。本研究の成果は、いくつかの論文上で発表したが、特にDalton Transaction誌においてその詳細を報告した。また、いくつかの金属酸化物のナノ構造体の合成を室温条件下で行ったところ、そのうちに非常に比表面積地の高いものが得られた。この物質の特性をさらに検討するため、スーパーキャパシターやORR電気触媒反応の検討も行った。さらに、新規なキレート型ナノ粒子の合成と太陽光変更素子への応用も手がけた。後者の二つの研究テーマを次のポジションでも継続的に進める予定である。
著者
三木 成彦 副井 裕 藪木 登
出版者
津山工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

カラー情報を用いて道路標識の検出する方法の開発を目的とし,以下の項目に対して研究を行った.1.いろいろな環境(主に晴れ,曇り,雨)において各天候,各時期,各時間の色分布を調べ,それらの環境に対応できるよう,各環境のデータをまとめ各色毎の分布関数を作成した.さらに,少なめの収集データにおいても分布関数が作成できるように,数式表現で色分布関数を作成できるようにした.これにより,色分布を広めにしたり,狭めにしたりでき,検出実験が行いやすくなり,従来よりも安定した色抽出が可能となった.2.ニューラルネットワークを用いた方法では,画像における各画素の色を検出する方法を開発した.対象標識は最高速度標識とし,検出実験を行った.晴天の場合の検出率は高かった.条件の悪い,雨天・逆光の場合は誤検出が多く見られた.そこで,逆光の場合,暗いところを検出し,そこを明るくして色検出を行うなどして,改良を加えた.まだ十分とはいえないが,色検出はそこそこの結果を得た.3.画像エネルギー関数を考慮したActive Netを用いた標識検出のプログラム作成と実験を行った.従来の方法では,画像の中央付近に対象標識が存在しないと対象を抽出することは困難であったが,Active Netの形状を変更することにより,画像の周囲に存在する対象も抽出することが可能となった.さらに,安定な抽出を行うために,等面積ネット構造を提案した.このネット構造を用いて,道路標識を検出するプログラムを開発し、実験を行い,外側にある対象の対象捕捉率が向上し,良好な結果を得た.4.検出された道路標識の種類を識別する方法については,ある仮定のもとでの予備実験ではうまくいったが,実際の画像を用いた場合は十分実験ができなかった.
著者
三上 岳彦 高橋 日出男 森島 済 日下 博幸
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

東京首都圏 200 カ所の高密度気温観測データと気象庁 AMeDASの風観測データを用いて、夏季気温分布の時空間変動および要因解明を試みた。夏季の海風卓越日と強い単風日について気温偏差分布の日変化のデータ解析および夏季典型日(夏型)を対象とした気温と風の再現実験(WRF モデル)から、関東平野内陸部での高温域に及ぼす風の効果が明らか担った。また、WRF モデルによる都市型集中豪雨の数値シミュレーションを行った結果、都市の存在が首都圏に降雨をもたらす可能性が示唆された。
著者
里村 雄彦 松本 淳 森 修一 勝俣 昌己 荻野 慎也 横井 覚
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

多数のレーダーのエコー合成図を作成し、インドシナ半島上の台風の全体像を捕らえることができた。長寿命台風では半島上に降水に好都合な気象状況となっていることも示すことができた。数値実験では台風の中心位置が観測と良く一致する結果を得ることができた上、レーダーデータと共に上陸後の衰退期の台風構造を捕らえることにも成功した。また、半島東海岸中部では秋季に特に台風による降雨が多くなることやENSOの影響を強く受けていることも明らかにした。
著者
藤本 幸夫
出版者
麗澤大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

日本には朝鮮の古書が多く保存されている。これまでそれらに関する研究は十分されていなかった。当人は日本全国の文庫や図書館、必要に応じて英国・台湾所蔵の朝鮮本をも調査・研究してきた。調査項目は28項目で、従来にない綿密な調査である。各書については、出版経緯・刊者・刊地・活字の種類なども詳述し、版が複数の場合には、各版の関係についても明らかにした。朝鮮本の研究は朝鮮学のみならず、中国学・日本学にも資すので、重要である。
著者
竹見 哲也
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

「台風はどこまで強くなり、想定される風水害はどの程度の規模なのか?」この問いに対して、様々な大気・海面水温の条件において発達する顕著な強度の台風を気象モデルによる数値シミュレーションにより再現し、顕著台風により想定される風水害を評価することを目的とした。実事例の再現シミュレーションとともに、仮に経路がずれた場合にどのような風水害が生じうるのかという観点から、台風の経路を操作したシミュレーションも実施した。関東地方・中部地方・近畿地方において過去に顕著な災害をもたらした事例、さらには2013年11月にフィリピンで大災害をもたらした事例を対象として台風による風水害のハザードを評価した。
著者
大隅 尚広
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

これまでの研究において,他者からの不公正な金銭の分配を受け入れて利得を得るか,それとも拒絶して互いの利得をゼロにするかという意思決定場面(最後通牒ゲーム)におけるサイコパシー特性の影響を検討した結果,サイコパシーの利己性が高い個人は不公正を受諾する傾向が高いことが示された。この課題における不公正の拒絶は非合理的であるが,公正規範を犯した他者への罰,あるいは公正性の回復(不平等への嫌悪反応)としての意味があると考えられる。そこで,他者への罰の動機を検討するため,他者が意図的に不平等な分配を行った条件と,他者が意図せずに分配金額が不平等になってしまった条件における意思決定を比較した。その結果,実験参加者の拒否率は意図の有無という要因では変わらず,サイコパシーの影響のみが見られた。つまり,これまでの実験における拒否行動には罰の動機は含まれず,不平等への嫌悪反応を基盤としている可能性が示唆された。そして,このことから,サイコパシーによる拒否率の低下は嫌悪反応の低下であるということが推測される。また,この結果は,脳神経イメージングを行った前年の実験の結果,すなわち,嫌悪感情の脳表象であると考えられている前部島皮質が拒否率と相関すること,そしてサイコパシーによって前部島皮質の活動が低下することと整合性をもつ。また,イメージングの結果をさらに解析すると,サイコパシー傾向による前部島皮質の活動の低下が扁桃体の活動の低下と機能的に関連することが明らかになった。つまり,サイコパシーによって不公正が受諾される背景には扁桃体の機能低下の関与が示唆され,サイコパシーの扁桃体の機能低下説を支持した。この結果は,日本パーソナリティ心理学会第19回大会にてポスター発表された。また,国際学術雑誌に投稿予定となっている。
著者
横手 幸太郎 竹本 稔 藤本 昌紀
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究は、リンパ管の生活習慣病への関与を明らかにするため検討を行った。肥満2型糖尿病モデルマウスの膵臓ではリンパ管が増生しており、膵島においてVEGF-Cの発現が上昇していた。In vitroでの検討では、IL-1βやTNF-αにより膵α・β細胞でのVEGF-Cの発現が誘導された。以上より、糖尿病、肥満で発現が上昇する炎症性サイトカインが膵島でのVEGF-Cの発現を誘導し、膵リンパ管の増生をもたらすことが示唆された。
著者
横大道 聡
出版者
鹿児島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究は、裁判所「以外」の政治部門の憲法解釈の現状把握とそのあり方について、比較憲法的な見地から検討を行うものである。本研究により、(1)アメリカ大統領の憲法解釈の表明方法として、法案に署名する際に声明を出すという「署名声明(signing statements)」の近年の利用例とその含意、(2)アメリカにおける執行府の憲法解釈補佐機関である司法省法律顧問局(Office of Legal Counsel)の憲法解釈の実態把握とそのあり方、(3)日本における執行府の憲法解釈補佐機関である内閣法制局の憲法解釈のあり方、(4)国会論議や答弁書で示された日本の政府の憲法解釈の論理構造、を明らかにした。また並行して、比較の見地から政治部門のみならず、裁判所の憲法解釈についての研究を行い、(5)近年の憲法判例の動向の総合的調査、(6)違憲審査基準の使われ方についての研究も行った。
著者
北山 陽子
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

原核生物であるシアノバクテリアは、概日リズムを持つことが知られており、光合成活性や細胞分裂が約24時間周期で自律的に振動する。シアノバクテリアの多くの遺伝子の発現は概日時計に制御されており、24時間周期リズムでもって発現していることが知られている。シアノバクテリアの概日時計は、KaiA, KaiB, KaiCという三つの時計タンパク質によって構成されている。本研究では、概日的な遺伝子発現制御の大元である概日時計本体の周期が、どのような仕組みで調節されているのかを解明することを目的としている。概日時計の周期は、一般的に光照度に依存して変化するという性質を持つ。シアノバクテリアは照度が高くなるほど、周期が短縮する。平成27年度は、kai遺伝子に点変異を導入し、その周期が24時間から変化したシアノバクテリアを複数選別し、その周期変異体群から解析に適したものを探した。さらに、変異部位を同定し、光照度に依存した周知長変化の観察および遺伝子発現活性の測定を行った。
著者
兼清 健志 井出 千束 中野 法彦 鈴木 義久
出版者
藍野大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

脊髄損傷モデルラットを用いて、骨髄間質細胞の培養上清の投与によって神経が再生する際、神経細胞に対する直接な効果だけでなく、シュワン細胞の浸潤や損傷部周辺のアストロサイトが活性化することを明らかにした。培養アストロサイトを用いて in vitro での骨髄間質細胞の影響を調べたところ、骨髄間質細胞の培養上清の添加によってアストロサイトによる炎症性ケモカインの産生が抑えられていた。また、脳脊髄液を産生し中枢神経系の維持に重要であるグリア細胞の一つである脈絡叢上皮細胞も骨髄間質細胞によって一部の栄養因子の産生が増加した。さらに、この脈絡叢上皮細胞の培養上清を脳脊髄液経由で投与し、神経再生を確認した。
著者
大原 隆明 神戸 敏成 中田 政司
出版者
公益財団法人花と緑の銀行
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

北陸地方における菊咲き性サクラ栽培品種群の調査の結果、樹齢40年以上の古木が44個体確認された。中には4新品種が含まれており、3品種をニュウゼンオトメキクザクラ、ショウホウジキクザクラおよびシママチキクザクラと命名した。二季咲き性1新品種は‘コシノフユザクラ’として品種記載を行った。芽接ぎ法については活着率11.8%と低い値であり、芽接ぎでの増殖は効率の良い方法ではなかった。組織培養については、実験に用いた10品種すべてにおいて、成長点からシュートを誘導することに成功した。最も効果的な培地は1 mg/l BAPおよび5 mg/l GAを添加したWP培地であった。
著者
柴田 和彦
出版者
山形県立鶴岡工業高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

1、研究目的環境保全の立場から地方農村住宅の変容を考察し、その中から伝統的かつ環境共生的住まいを持続してきた事例を発見し、伝統的空間や住まい方への回帰の実態を把握すること。2.研究方法1995年から調査した庄内地方農村住宅(107件)と旧由利郡の農村住宅(2005年調査96件)の中から、伝統回帰傾向にある住宅を抽出しその特徴を明らかにする。また、新旧住宅の対比及び鶴岡市の大工業を営む人達への伝統と環境共生についての意識調査からもアプローチする。3、研究成果庄内地方農村住宅の変容過程では、瓦屋根の継続需要、板張り嗜好、和室嗜好、鍵座敷回帰などの実態が明らかになった。また、旧由利地方では昭和50年頃中門総2階が発生し、南部曲屋系中門造りの影響と思われる伝統回帰現象の存在が確認できた。環境共生住宅調査から、豊かな自然環境の中、住宅そのものが自然の一部であると感じられる事項が多く見受けられた(下見板張り、セガイ造り、縁側の多用、座敷構成、瓦屋根、無垢材の使用、古材利用、自然換気重視、漆喰壁の採用)。周囲の屋敷は、防風林、沢水の敷地内への引き込み、食用植物の栽培(山椒、柿、椎茸、孟宗竹・・)など自然環境を見事に生かしていた。新旧比較では、鍵座敷や続き間の利用、仏壇位置の固定、ハレとケの明確な空間意識、外壁の下見板張りと漆喰壁嗜好、縁側の設置、三列型・四列型の継承など前住宅の強い影響が見られた。一方、環境共生のマイナス面は、過剰な車の保有、敷地内全面舗装化、ブロック塀や単管パイプによる防風柵、樹木伐採の増加などの問題があり、特に高齢化による維持管理の困難さが浮き彫りになった。最後に、大工さんへのアンケート結果からは、現代の高気密高断熱などの手法に矛盾を感じながらも、自然環境を生かした木造住宅の造り方を継承したいと考えていることがわかった。以上により、今後の農村住宅の目指すべき姿は「昭和30年代の環境と共生した伝統的木造住宅」ではないかと考えている。