- 著者
-
中村 英代
- 出版者
- 日本社会学会
- 雑誌
- 社会学評論 (ISSN:00215414)
- 巻号頁・発行日
- vol.58, no.4, pp.557-575, 2008-03-31 (Released:2010-04-01)
- 参考文献数
- 27
- 被引用文献数
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近年,摂食障害の当事者は,インターネット上で自らの経験や考えを語りはじめた.そんななか,一部の当事者たちの間で,摂食障害はダイエットが原因であり規則正しく一定量の食事をとることで回復するという解釈が,回復への道のりのひとつとして注目されている.このような「食事」への注目は,摂食障害が「個人」「家族」「社会」のいずれかの地平で論じられがちな風潮のなか,一部の回復者たちの間で生じている新しい動向と考えられた.そこで,本稿では,こうした動向に着目することで,摂食障害者が置かれている状況や回復者の実践の一端を明らかにすることを試みた.本稿ではAさんとBさんの回復体験記を取り上げ,彼女たちが,摂食障害を他の解釈ではなく「食事」の問題として説明する論理はいかなるものなのか,このような解釈を提示することで何を達成しようとしているのかを検討し,以下の知見を得た.体験記では,原因の探求と解決方法は別だという視点から,「個人」「家族」「社会」といった解釈は具体的な解決方法を提示していないと指摘されていた.次に,食べれば治る「食事」の問題と説明する体験記は,過食や嘔吐を解決する手段を当事者自身に取り戻そうという試み,すなわち,「解決権の回復」が試みられている事例であることがわかった.「食事」への注目の背後に,摂食障害者を取り巻く言説環境に対する,回復者による批判的な眼差しをみてとることができた.