著者
中村 雅俊 池添 冬芽 梅垣 雄心 小林 拓也 武野 陽平 市橋 則明
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101053, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】ハムストリングスのストレッチング方法は主観的な伸張感により,近位部を伸張するには股関節屈曲位での膝関節伸展,遠位部を伸張するには膝関節伸展位での股関節屈曲が推奨されている.しかし,これら2種類のストレッチング方法の違いが近位部と遠位部の伸張性に及ぼす影響について客観的な指標を用いて比較した報告はなく,科学的根拠は乏しいのが現状である.そこで本研究は剪断波超音波診断装置を用いて,これら2種類の異なるストレッチング方法がハムストリングスの各部位における伸張の程度に及ぼす影響を検討し,ストレッチング方法の違いによって近位部と遠位部を選択的に伸張できるかを明らかにすることを目的とした.【方法】対象は整形外科的疾患を有さない健常男性15名(年齢23.8±3.2歳)とし,利き脚 (ボールを蹴る) 側の半腱様筋(ST)と大腿二頭筋長頭(BF)を対象筋とした.対象者をベッド上背臥位にし,骨盤後傾を防ぐために反対側下肢をベッドから下ろして骨盤を固定した状態で他動的に股関節90°屈曲位から痛みを訴えることなく最大限,伸張感を感じる角度まで膝関節伸展を行うストレッチング(KE),膝関節完全伸展位から痛みを訴えることなく最大限,伸張感を感じる角度まで股関節屈曲を行うストレッチング(SLR),股関節90°屈曲・膝関節90°屈曲位の安静時の3条件での筋の伸張の程度を評価した.筋硬度の測定には超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製 Aixplorer)の剪断波エラストグラフィ機能を用いて,STとBFそれぞれ大腿長の近位1/3(近位),1/2(中間),遠位1/3(遠位) の筋硬度を無作為な順番で測定した.筋は伸張されると筋硬度が増すことが報告されているため,伸張量の指標として筋硬度を用いた. 統計学的処理は,STとBFにおける各部位の安静時とKE,SLRの条件間の違いをScheffe法における多重比較を用い検討した.また安静時に対するKEとSLRの変化率を求め,各部位におけるKEとSLRの変化率の違いと近位,中間,遠位の部位による違いについてScheffe法における多重比較を用い比較した.なお,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】対象者には研究の内容を十分に説明し,研究に参加することの同意を得た.【結果】STの筋硬度について近位部は安静で39.6±31.8kPa,KEで398.4±125.8kPa,SLRで354.3±109.4kPa,中間部は安静で61.0±23.2kPa,KEで507.9±71.5kPa,SLRで472.6±81.5kPa,遠位部は安静で66.5±29.3kPa,KEで504.3±103.6kPa,SLRで478.4±151.2kPaであった.BFにおける近位部は安静で30.6±12.8kPa,KEで361.4±91.8kPa,SLRで343.3±92.6kPa,中間部は安静で45.4±32.3kPa,KEで386.4±147.6kPa,SLRで392.3±98.8kPa,遠位部は安静で54.1±22.4kPa,KEで490.5±112.3kPa,SLRで425.8±109.5kPaであった.多重比較の結果,STとBFともに近位,中間,遠位部の全ての部位において安静条件と比較してKEとSLRで有意に高値を示した.また安静時に対するKEとSLRの変化率を比較した結果,STとBFの全ての部位においてKEとSLR間で有意差は認められなかった.安静時からの変化率について近位,中間,遠位の部位間で比較した結果,STとBFのKEとSLRともに部位による有意差は認められなかった.【考察】本研究の結果,KEとSLRの2つのストレッチング法はともにSTとBF両筋の全ての部位を伸張することが可能であった.さらに,KEとSLR間では全ての部位で有意差が認められなかったことより,どの部位でも両ストレッチング方法による伸張の程度に違いはないことが明らかとなった.また,近位,中間,遠位部の比較においても有意差が認められなかったことより,部位による違いはないことも明らかとなった.これらの結果より,二関節筋であるSTとBFを伸張する場合にはKEとSLRの方法による違いはなく,両ストレッチングとも全ての部位において同じ程度のストレッチング効果が得られること,すなわちこれらストレッチング方法の違いによって近位部と遠位部を選択的に伸張することは困難であることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】股関節を屈曲した状態から膝関節を伸展するストレッチングと膝関節完全伸展位から股関節を屈曲するストレッチングの両ストレッチング手技ともにハムストリングスの近位部,遠位部を一様に伸張する効果があることが明らかとなった.
著者
秋葉 絢子 浅野 尚文 大喜多 肇 中山 ロバート 中村 雅也 松本 守雄
出版者
東日本整形災害外科学会
雑誌
東日本整形災害外科学会雑誌 (ISSN:13427784)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.159-166, 2020 (Released:2020-04-29)
参考文献数
22

若年成人の大腿部筋内に発生したきわめてまれな類血管腫型線維性組織球腫の1例を経験した.切開生検において明らかな腫瘍細胞を認めず,血腫などの良性嚢胞性疾患との鑑別が大きな問題となった.臨床および画像所見から,類血管腫型線維性組織球腫などの腫瘍が否定できなかったため,広範切除を行い,最終的に類血管腫型線維性組織球腫と診断した.
著者
諏訪 僚太 中村 崇 井口 亮 中村 雅子 守田 昌哉 加藤 亜記 藤田 和彦 井上 麻タ理 酒井 一彦 鈴木 淳 小池 勲夫 白山 義久 野尻 幸宏
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.21-40, 2010-01-05 (Released:2022-03-31)
参考文献数
103

産業革命以降の二酸化炭素(CO2)排出量の増加は,地球規模での様々な気候変動を引き起こし,夏季の異常高海水温は,サンゴ白化現象を引き起こすことでサンゴ礁生態系に悪影響を及ぼしたことが知られている。加えて,増加した大気中CO2が海水に溶け込み,酸として働くことで生じる海洋酸性化もまた,サンゴ礁生態系にとって大きな脅威であることが認識されつつある。本総説では,海洋酸性化が起こる仕組みと共に,海洋酸性化がサンゴ礁域の石灰化生物に与える影響についてのこれまでの知見を概説する。特に,サンゴ礁の主要な石灰化生物である造礁サンゴや紅藻サンゴモ,有孔虫に関しては,その石灰化機構を解説すると共に,海洋酸性化が及ぼす影響について調べた様々な研究例を取り上げる。また,これまでの研究から見えてきた海洋酸性化の生物への影響評価実験を行う上で注意すべき事項,そして今後必要となる研究の方向性についても述べたい。
著者
堀 桂子 中村 雅也 岡野 栄之
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.116, no.2, pp.53-59, 2013 (Released:2013-04-11)
参考文献数
34
被引用文献数
1

脊髄損傷とは, 外傷などによる脊髄実質の損傷を契機に, 損傷部以下の知覚・運動・自律神経系の麻痺を呈する病態である. 本邦の患者数は10万人以上おり, 加えて毎年約5,000人の患者が発生しているにもかかわらず, いまだに有効な治療法は確立されていない.しかし, 近年基礎研究が進歩し, 中枢神経系も適切な環境が整えば再生することが明らかになった. 脊髄損傷に関する研究も著しく進み, すでに世界中でさまざまな治療法が臨床試験に入りつつある. わが国でも, 神経幹細胞, 嗅神経鞘細胞, 骨髄細胞などを用いた細胞移植療法のほか, 顆粒球コロニー刺激因子 (granulocyte-colony stimulating factor, G-CSF) や肝細胞増殖因子 (hepatocyte growth factor, HGF) などの薬剤が臨床応用される可能性がある.本稿では, 脊髄再生に関する基礎研究を, 細胞移植療法とそれ以外に分けて述べ, さらに現在世界で行われている臨床試験について概説する.
著者
八幡 薫 佐藤 成 清野 涼介 稲葉 和貴 須藤 重樹 平泉 翔 中村 雅俊
出版者
一般社団法人日本体力医学会
雑誌
体力科学 (ISSN:0039906X)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.157-164, 2020-02-01 (Released:2020-01-21)
参考文献数
25
被引用文献数
2

It is well known that eccentric exercise induces muscle damage that is characterized by a prolonged decrease in muscle strength and range of motion, development of delayed onset muscle soreness. The previous studies showed that hold-relax stretching (HRS) was effective for improving the decreases in range of motion and muscle soreness. In addition, modified proprioceptive neuromuscular facilitation stretching (mPNF) was an equally effective for HRS. However, it was unclear whether there are differences between acute effects of HRS and mPNF on muscle strength and muscle soreness in eccentrically damaged muscle. Therefore, the present study aimed to compare the acute effects of HRS with those of mPNF on muscle strength and soreness in eccentrically damaged muscle. The participants comprised 40 volunteers randomly assigned to either the HRS group (N = 20) or the mPNF group (N = 20). Initially, the participants of both groups performed 60 maximal eccentric contractions of the knee extensors. Two days after this exercise, each group performed either HRS or mPNF for 60 s at a time and repeated them six times for a total of 360 s. Muscle strength and soreness during stretching and contraction were measured before and immediately after HRS and mPNF. The results showed that the muscle soreness observed after eccentric contraction significantly decreased immediately after both HRS and mPNF. In addition, there were no significant changes in muscle strength immediately after both HRS and mPNF. These results suggest that while both HRS and mPNF can effectively decrease muscle soreness without reducing performance.
著者
徳川 貴大 中村 雅俊 市橋 則明
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Cb0487, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 ストレッチングは関節可動域(Range of Motion:以後ROM)の改善のために広く用いられている.ストレッチングの中で,スタティックストレッチング(Static Stretching:以後SS) はROMを改善するが,即時的な筋力低下を引き起こすという報告が多数ある.SSのほかのストレッチング法として,ホールドリラックスストレッチング(Hold Relax Stretching:以後HRS)がよく用いられている.HRSはSS中に伸張した肢位で対象筋の最大等尺性収縮を行うストレッチング法である.HRSについて,SS同様ROM改善に効果があるという報告があるが,最大筋力発揮に対する即時的な影響に関する報告はほとんどなく,SSとHRSの最大筋力発揮に対する即時的な影響の比較は検討されていない.本研究の目的はSSとHRSが最大等尺性筋力発揮に及ぼす即時的な影響を明らかにすることである【方法】 対象は下肢に整形外科的疾患を有さない健常男性20名(年齢22.0±1.2歳,身長171.6±4.6cm,体重62.6±10.4kg)の利き脚(ボールを蹴る側)とした. 腹臥位・膝関節完全伸展位で足関節を等速性筋力測定装置のフットプレートに固定した.上記の装置を用い,足関節底背屈0°位で3秒間の足関節底背屈等尺性筋力を測定し,最大発揮筋力は各々の最大値とした.筋力測定時,表面筋電図を用いて,腓腹筋外側頭,腓腹筋内側頭,ヒラメ筋,前脛骨筋(以後LG,MG,Sol,TA)の4筋の筋活動を記録した.サンプリング周波数は1500Hzとした.筋電図処理は全生波形を全波整流化し,50msの二乗平均平方根を求めた.SSとHRSの即時的な影響を検討するため,ストレッチングの介入前後に測定した.HRSは上記の測定と同様の装置を用い,腹臥位・膝関節完全伸展位で対象者が伸張感を訴え,痛みが生じる直前の足関節背屈角度で15秒間SSを行った直後に5秒間底屈方向に最大等尺性収縮を行い,その後10秒間同じ角度でSSを行った後,底屈30°まで戻すというHRSを4セット,計2分間施行した.SSはHRSと同様に,対象者が伸張感を訴え,痛みが生じる直前の足関節背屈角度で30秒間SSを行った後,底屈30°まで戻すSSをHRSと同様に4セット,計2分間施行した.また,HRSとSSは 1週間以上2週間以内の間隔をあけて測定を行った.統計学的処理はWilcoxon検定で,HRS前後とSS前後の底背屈トルクと各筋の筋活動量の比較を行った.Mann-Whitney検定で,HRS前後とSS前後の底背屈トルクの変化率と各筋活動量の変化率の比較を行った.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究の内容を説明し,書面にて研究参加の同意を得た.なお,本研究は本学倫理委員会の承認を得た.【結果】 底屈トルクはHRS前後で197.6±41.2Nmが187.4±43.3Nmとなり,有意に低値を示した.SS前後で195.4±39.7Nmが170.7±36.5Nmとなり,有意に低値を示した.背屈トルクはHRS前で51.7±11.6Nmが55.4±11.0Nmとなり,有意に高値を示したが,SS前後では有意な変化を示さなかった.底屈時の筋活動量では全ての筋において有意な変化を示さなかった.背屈時の筋活動量はHRS前後でLGは31.3±13.2μVが29.1±12.2μV ,MGは29.7±8.7μVが 27.9±7.8μVとなりHRS後はHRS前と比較し有意に低値を示し,SolとTAは有意な変化を示さなかった.SS前後でLGは32.7±11.1μVが28.9±10.8μV,MGは30.2±8.4μVが27.3±8.9μV ,TAは384.7±111.2μVが344.9±102.4μVとなりSS後はSS前と比較し有意に低値を示し,Solは有意な変化を示さなかった.底屈トルクの変化率はHRS前後が-5.9±11.2%で,SS前後が-12.7±5.0%となり,SS前後はHRS前後と比較し有意に大きく筋力が低下した.底屈時のSolの筋活動量の変化率はSS前後が-5.8±14.3%で,HRS前後が2.5±16.0%となり,SS前後はHRS前後と比較し有意に筋活動量が減少した.一方LGとMGとTAの変化率は有意な変化は示さなかった.背屈トルクと全ての筋の背屈時の筋活動量の変化率は有意な差を示さなかった.【考察】 本研究結果より,2分間のHRSとSS後ではともに即時的に底屈筋力は減少し,SS後の方が大きく減少することが明らかになった.これはSolの底屈時の筋活動量がSSの方が大きく低下していることによると考えられる.そしてHRS後では即時的に背屈筋力が増加することが明らかになった.HRS後では背屈時の拮抗筋であるLGとMGの筋活動量が減少したことが関与していると考えられる.またSS後ではHRSと同様に背屈時にLGとMGの筋活動量は減少しているが,主動作筋であるTAの筋活動量も減少しているため背屈筋力に差が生じなかったと考えられる.【理学療法学研究としての意義】 本研究により,2分間のHRSとSSはともに即時的にストレッチングを行った筋の筋力を低下させるが,SSの方がより即時的に低下させることが明らかになった.本研究結果は場面に適したストレッチング方法を選択する際の重要な判断材料の一つになると考えられる.
著者
中村 雅子
出版者
一般社団法人 経営情報学会
雑誌
経営情報学会誌 (ISSN:09187324)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.179-198, 2020-12-15 (Released:2020-12-23)
参考文献数
20

クラウドファンディングはすでに新しい資金調達手段として多様な実践者および研究者の注目を集めている.本研究ではオンライン調査によってクラウドファンディング利用者の多様性について実証的に検討した.日本の調査会社のオンラインモニターを用いて,支援者または提案者として購入型または寄付型のクラウドファンディングを使ったことがある者を対象に2018年5月に回答を依頼した.本論文の目的は以下の二点である.第一に日本のクラウドファンディング支援者の実態を明らかにした.また支援者の多様性を明らかにすることを第二の目的とした.25項目の変数を用いてクラスター分析を行い,五つの類型を抽出した.これらの類型間では支援理由や今後の利用意向などにも違いが見られた.
著者
村田 浩一 佐藤 雪太 中村 雅彦 浅川 満彦
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

日本アルプスの頚城山脈、飛騨山脈および赤石山脈において、環境省および文化庁の許可を得てニホンライチョウから血液を採取した。栄養状態や羽毛状態に著変は認められず、すべて健常個体であると診断された。血液塗抹染色標本を光学顕微鏡下で観察したところ、78.1%(57/73個体)にLeucocytozoon sp.の感染を認めたが、他の血液原虫感染は認めなかった。検出された原虫の形態および計測値から、大陸産のライチョウに確認されているL.lovatiと同種であると判定した。感染率に性差は認めなかった。本血液原虫の血中出現率は、春から夏にかけて上昇し、夏から秋にかけて低下する傾向が観察された。ほとんどの地域個体群にロイコチトゾーン感染が確認されたが、常念岳および前常念岳の個体群には感染を認めなかった。L.lovatiのmtDNA cytb領域を解析し、各地域個体群間および他の鳥種間で塩基配列の相同性を比較検討した。南北アルプスのライチョウ間では差が認められなかったが、他の野鳥寄生のLeucocytozoon spp.との間では差が認められた。L.lovatiを媒介していると考えられる吸血昆虫を調査した。調査山域でアシマダラブユおよびウチダツノマユブユ等の生息を確認した。PCR法によりブユ体内からL.lovatiと100%相同の遺伝子断片が増幅された。このことから、L.lovatiの媒介昆虫はブユであることが強く示唆された。本研究で得られた数々の知見は、ニホンライチョウを保全する上で有用であると考える
著者
中村 雅一 千原 典夫 山村 隆
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.277, 2014 (Released:2014-10-07)

自己免疫疾患におけるプラズマブラスト(PB)は自己抗体,あるいはサイトカイン産生により病態形成に寄与すると考えられる.実際に,全身性エリテマトーデスなどいくつかの自己免疫疾患では,末梢血PBの増減と病勢との関連が報告されている.また,PBはCD20の発現を欠くためRituximabの標的外であり,関節リウマチや特発性血栓性紫斑病などにおける同薬抵抗性例の存在は,自己免疫疾患におけるB細胞除去治療の標的としてのPBの重要性を示唆する.  私達は,中枢神経系の自己免疫疾患である視神経脊髄炎(NMO),及び多発性硬化症(MS)の臨床検体を用いてPBと病態との関連を検討してきた.NMOでは,CD138+ PBがCXCR3介在性に中枢神経系に浸潤し,IL-6依存性の生存,及び自己抗体産生により病態形成に寄与することを明らかにするとともに,Tocilizumab治療の有効性を確認した.また,古くから自己抗体介在性亜群の存在が指摘されるMSにおいても,一部の患者で末梢血IL-6依存性PBの増加を認め,これらの患者は既存治療抵抗性であることを見出した.従って,MSにおいてもPBは有力な治療標的になる可能性があり,MSにおけるPB研究は,これまでのランダム化比較試験結果に基づく画一的な治療薬選択から病態に応じたテーラーメイド治療への発展の契機となることが期待される.
著者
佐藤 成 中村 雅俊 清野 涼介 高橋 信重 吉田 委市 武内 孝祐
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.I-52_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】スタティックストレッチング(SS)は関節可動域(ROM)などの柔軟性改善効果が期待でき,臨床現場やスポーツ現場で多用されている.しかし近年では,特に45~90秒以上のSSにより筋力やパワーなどの運動パフォーマンスが低下することから,運動前のウォームアップにおいてSSを行うことは推奨されていない.しかし,実際のスポーツ現場では20秒以下のSSが用いられる場合が多いと報告されており,20秒以下のSSは運動パフォーマンス低下を生じさせない可能性がある.しかし20秒以下のSSの即時効果を検討した報告は非常に少なく,さらにその持続効果を検討した報告はない.そこで本研究では,柔軟性改善効果の指標としてROMと弾性率,運動パフォーマンスの指標として求心性収縮筋力(CON)と遠心性収縮筋力(ECC)を用いて20秒間のSSの即時効果と持続効果を明らかにすることを目的とした.【方法】対象は健常成人男性20名の利き足(ボールを蹴る)側の足関節底屈筋群とした.足関節底屈筋群に対する20秒間のSS介入前後に足関節背屈ROM(DF ROM),弾性率,CON,ECCの順に各々測定した.先行研究に従ってSS介入後の測定は,①介入直後に測定する条件,②介入5分後に測定する条件,③介入10分後に測定する条件の計3条件を設けた.対象者は,無作為に振り分けられた条件順にて3条件全ての実験を行った.DF ROM,CON,ECCの測定は多用途筋機能評価訓練装置(BIODEX system4.0)を用いて行った.なお,CONとECCの測定は足関節底屈20°から背屈10°の範囲で,角速度30°/secに設定して行った.弾性率の測定は超音波診断装置(Aplio500:東芝メディカルシステムズ株式会社)のせん断波エラストグラフィー機能を用い,腓腹筋内側頭(MG)に対して行った.統計学的検定は,SS介入前後および条件(直後条件,5分条件,10分条件)間の比較は繰り返しのある二元配置分散分析(時期×条件)を用いて検討した.さらに,事後検定として,SS介入前後における条件間の比較はBonfferoni法,各条件におけるSS介入前後の比較は対応のあるt検定を用いて検討した.【結果】DF ROMに有意な交互作用(p=0.004, F=6.517)と,時期に主効果を認めたが,MGの弾性率,CON,ECCには有意な交互作用及び主効果を認めなかった.事後検定の結果,DF ROMは全条件において介入前と比較して介入後に有意に増加した.またDF ROMは介入直後と比較して介入10分後に有意に低値を示した.【考察】本研究の結果より,20秒間のSSはDF ROMを即時的に増加させるために有効であり,その効果は10分後まで持続するが,5~10分の間で減弱することが明らかとなった.また,20秒間のSSは弾性率,CON及びECCに影響を及ぼさないことが明らかとなった.【結論】20秒間の短時間のSS介入は等速性筋力を低下させずにROMを増加させるが,弾性率を変化させることが出来ないことが明らかとなった.【倫理的配慮,説明と同意】本研究は本学の倫理審査委員会も承認を受けて実施された.また,本研究はヘルシンキ宣言に則っており,実験開始前に対象者に本研究内容を口頭と書面にて十分に説明し,同意を得た上で行われた.
著者
沢田 雅 中村 雅英 鎌田 信
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集 B編 (ISSN:03875016)
巻号頁・発行日
vol.51, no.471, pp.3743-3747, 1985-11-25 (Released:2008-03-28)
参考文献数
3
被引用文献数
2 2

For the purpose of clarifying the mechanism of rotation of Savonius rotors, ones which have two semicylindrical blades are studied experimentally. The force acting on a blade is measured in a water two tank for both cases where a rotor is at rest and rotated. The flow around a rotor is observed by using aluminum powder floating on the water surface. Although the Savonius rotor is classified into a resistance type, the lift produces the torque in a pretty wide range of angle relative to the flow.
著者
中村 雅基
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3+4, pp.81-94, 2002 (Released:2006-07-25)
参考文献数
14

自動的に、P波の初動極性を取得し、発震機構解を決定し、十分な精度で発震機構解が決定できているか否かを判別する手法を提案した。P波の初動極性を取得する際には、まず、ベッセルバンドパスフィルタを適用し、次に、ARモデルを用いてP波の初動到達時を得、ARフィルタを適用した。発震機構解の決定には、グリッドサーチによる手法を用いた。十分な精度で発震機構解が決定できているか否かを判別するために、解の安定性、過去に発生した地震の発震機構解等から総合的に判断し、発震機構解の決定精度の評価を行った。気象庁によって読みとられた初動極性の70%が、本手法を適用することによって得られた。また、両者でくい違った験測を行っているのは全体の3.5%以下であり、十分な精度で初動極性の自動験測が行われた。さらに、本手法を適用することにより、気象庁で発震機構解が得られた地震の2.8倍以上の地震について、決定精度の良い解を得ることができた。M<2の内陸浅発地震やMが決定されていないような小さな深い地震でも、十分な精度で発震機構解が決定できることもある。本手法を適用することにより、十分な精度で効率的に発震機構解を決定することができる。
著者
中村 雅也 戸山 芳昭 石井 賢
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

損傷脊髄に対する神経幹細胞移植とC-ABCの併用損傷部脊髄内にはコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)が発現し軸索再生を阻害することが知られている。そこで、損傷脊髄に対する神経幹細胞移植にCSPGを分解するChondroitinaseABC(C-ABC)を併用した。損傷脊髄内のCSPGは正常脊髄レベルまで分解され、移植細胞はグリア瘢痕を越えて広範囲に移動し、旺盛な再生軸索が損傷部にみられた。Bio-imagingを用いた損傷脊髄に対する神経幹細胞移植時期の検討損傷脊髄に対する神経幹細胞移植の至適時期を検討するために、bioluminescence imaging system(BLI)を用いて移植神経幹細胞の経時的動態(生存率、体内動態など)を評価した結果、損傷脊髄に対する神経幹細胞移植は損傷後急性期よりも亜急性期のほうが適していると考えられた。自家組織由来神経幹細胞の培養の確立損傷した中枢神経組織に対する神経幹細胞や胚性幹細胞を用いた細胞移植治療の有用性が報告されているが、倫理的問題のため臨床応用には至っていない。そこで、自家組織成体幹細胞である神経堤幹細胞に着目して、その局在と特性を明らかにした。今回の解析より、神経堤幹細胞は胚葉を超えて各組織に成体になってからも潜伏していることが明らかとなり、従来の報告では胚葉転換によると考えられていた骨髄などの組織幹細胞が、実は神経堤に由来していることが示唆された。腫経幹細胞移植による運動機能回復メカニズムの検討損傷脊髄に対する神経幹細胞移植による機能回復メカニズムを明らかにするために移植後生着した細胞のみに特異的細胞死を誘導する方法を確立した。その結果、神経幹細胞移植によってもたらされる機能回復は液性因子によるもののみではなく、移植細胞が神経回路網に組み込まれている可能性が示唆された。
著者
中村 雅子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.76-85, 2003-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
16
被引用文献数
10 3

本研究では, 青年の環境意識や環境配慮行動の形成に及ぼす母親の言動の影響を, 母親と子どもから独立に回答を得て, 両者のデータをマッチングさせることにより検討した。分析対象者はオンライン機器による調査で回答を得た, 中学生から独身社会人までの男女およびその母親の273組である。環境意識尺度・環境配慮行動尺度を目的とする重回帰分析, および13の環境配慮行動のそれぞれの実行の有無を目的としたロジスティック回帰分析の結果, 以下のことが明らかになった。1) 子どもの環境意識尺度に対して説明変数として母親の環境意識尺度の効果が有意だった。2) 環境配慮行動尺度に対して母親の環境配慮行動, とくに実践とともに家族にも協力要請を行った場合の効果が有意だった。3) いずれの場合も母親変数の投入で重回帰分析の説明力が大きく改善された。4) 個別の環境配慮行動を目的変数とするロジスティック回帰分析では, 13項目のうち10項目について母親の環境配慮行動の実践-要請の変数が最も有効な説明変数であった。以上のことから, 環境意識形成および具体的な行動場面での母親の影響の重要性が確認された。また発達段階別に見ると, 子どもが中学・高校生の年齢段階よりも大学生等・社会人の年齢段階の方が母親関連の変数の影響が大きかった。
著者
中村 雅基 金沢 敏彦 佐藤 利典 塩原 肇 島村 英紀 仲西 理子 吉田 康宏 趙 大鵬 吉川 一光 高山 博之 青木 元 黒木 英州 山崎 貴之 笠原 順三
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
気象研究所研究報告 (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.1-28, 2002
被引用文献数
5

中部日本におけるP波およびS波の3次元速度構造を地震波走時トモグラフィーを用いて求めた。その際、定常観測点で得られる自然地震を対象とした観測値だけでなく、人工地震や海域における臨時観測点等を用いた観測値を積極的に利用した。得られた成果は以下の通りである。沈み込むフィリピン海プレートと思われる高速度域が検出された。フィリピン海プレートは、少し高角度で沈み込み始め、その後なだらかになり、最後は高角に沈み込んでいる。35&deg;N、136.5&deg;E付近では、フィリピン海プレートが分かれている。将来発生が懸念されている東海地震の固着域の北西隣は、プレート間カップリングが弱い。35.6&deg;Nから35.8&deg;N、137.5&deg;E、深さ100kmから200km付近で、非地震性のフィリピン海プレートが検出された。
著者
宮本 仁美 中村 雅道 成田 修 横田 歩 森永 裕幸 Hitomi Miyamoto Masamichi Nakamura Osamu Narita Ayumi Yokota Hiroyuki Morinaga
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.477-533, 1999-11

この報告は, 第37次南極地域観測隊気象部門が, 1996年2月1日から1997年1月31日まで昭和基地において, 1996年1月23日から1997年1月24日までドームふじ観測拠点において行った気象観測の結果をまとめたものである。観測方法, 測器, 統計等は第36次観測隊とほぼ同様である。越冬期間中に特記される気象現象としては, 次のものがあげられる。1) 昭和基地においては7月から10月にかけて気温が平年より高めに経過し, 特に9月は月平均気温が平年値に比べ6.1℃も高かった。月平均気温は9月と10月に歴代1位の高温を記録した。2) 5月26日から28日にかけて発達した低気圧(ブリザード)に昭和基地が襲われ, 27日には最大風速44.3m/s(歴代3位), 最大瞬間風速61.2m/s(歴代1位)の強風を記録した。3) 昭和基地において, 8年連続で大規模なオゾンホールを観測し, オゾンホールが顕著だった10月, 11月のオゾン全量の月平均値は過去最低を記録した。特に10月の156m atm-cmは, これまで観測された月平均値の中で最小であった。4) 37次では36次に引き続きドームふじ観測拠点において越冬観測を行った。ドームふじ観測拠点における1996年の年平均気温は-54.4℃, 最低気温は5月14日に観測した-79.7℃であった。
著者
上村 佳代 入江 香 小山 徹平 春日井 基文 中村 雅之 赤崎 安昭
出版者
九州精神神経学会
雑誌
九州神経精神医学 (ISSN:00236144)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.101-110, 2021

<p>バウムテスト(樹木画テスト)とは投映法に分類される人格検査の一種である。本研究では,刑事精神鑑定において行われたバウムテストの結果の特徴について分析を行なった。殺人(未遂)被疑事件16例と放火(未遂)被疑事件14例の計30例において,バウムの各種サイン(筆圧,位置,枝先,樹冠の豊かさ,樹冠輪郭線の有無)について性別,知的水準,診断名,被疑事件内容の観点から検討を行なった。その結果,男性の方が女性より有意に筆圧が強かった。知的に健常な群は知的障害群と比べて有意に左寄りの位置に描く傾向があった。これらの結果から刑事精神鑑定において,女性は男性ほど自己主張や攻撃性を表現せず,知的に保たれている事例では未来志向にならないことが示唆された。被疑事件内容別に比べると,放火群は樹冠輪郭線が殺人群よりも少なく,放火事例は殺人事例と比べると外界の刺激に敏感な可能性が示唆された。また,殺人既遂群は左寄り,殺人未遂群は右寄りの位置に描く傾向があり,殺人既遂事例は過去を志向する傾向がある一方,殺人未遂事例は未来を志向する傾向が示唆された。</p>