著者
加藤 義臣 吉岡 泰子
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.209-219, 2003
参考文献数
16
被引用文献数
1

本研究では,まず野外および温室においてアオスジアゲハの配偶行動を観察し,次に雄の配偶行動を解発する視覚刺激をさまざまな標本及び色紙モデルの提示により調べた.本種の雄はパトロール型の配偶戦略を示し,積極的に飛び回って雌を探す.雌を発見すると,雌に接近し求愛を行った.交尾が成立する場合には,雌を見つけた雄は,しばらく追飛し雌がホバリングし始めるとその周りを縦に円を描くように垂直方向に飛び,雌が翅を閉じて止まるとすぐに交尾に至った.一方交尾が不成立に終わる場合には,求愛する雄に対して雌は翅を拡げた姿勢を示し,しばしば翅をはばたかせて雄を拒否した.次に,標本モデルの提示実験により,雄は交尾試行は雌モデルに対してより頻繁に行なわれたが,接近行動は雌,雄のモデルに対して同等に行なわれた.雄の接近は翅の黄色や黒いモデルよりも青い翅モデルにより頻繁にみられた.このことは色紙モデル提示実験において明らかとなった.すなわち,青色および緑色,特に濃い青色が雄の接近には有効であり,赤,黄および黒色は効果を示さなかった.また色彩パターン,サイズおよび形は雄の接近を誘起するには重要でなかった.これらの結果は,アオスジアゲハ雄の求愛行動を誘起するには翅の青色自体が有効であり,形や大きさ,それに色彩パターンは調べた範囲では関係なかった.従って,翅の青色化を誘導する羽化後の光照射は配偶行動に重要な意味を持っていることが推察される.
著者
加藤,謙介
出版者
国際ボランティア学会
雑誌
ボランティア学研究
巻号頁・発行日
vol.6, 2006-02-28

本研究では、コミュニティにおけるコンフリクトを解消するための「対話」の特徴について、横浜市磯子区において実施されている『地域猫』活動を事例として取り上げ、検討を行った。磯子区では、地域の野良猫問題への対策として、住民が話し合いを通して猫の飼育方法に関するガイドラインを作成・遵守し、地域住民と猫との共生を果たしている。本稿では、これらの取り組みを、猫をめぐる社会問題の構築過程として捉え、検討を行った。具体的には、ガイドライン制定のための住民集会の議事録、ガイドライン制定前後に推進団体が発行したニューズレターを分析した。分析の結果、ガイドライン制定前の住民集会の議事録には、「『地域の問題』としての野良猫問題」という社会問題が構築される過程が見出された。一方、ガイドライン制定後は、『地域猫』活動を行うボランティアの紹介等を通して、周辺住民の視点が示され、『地域猫』をめぐる「問題」の再構築が行われたことが示された。
著者
両角 岳彦 割田 博 赤羽 弘和 稲吉 龍一 加藤 周平
出版者
一般社団法人 交通工学研究会
雑誌
交通工学論文集 (ISSN:21872929)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.B_13-B_21, 2017-02-01 (Released:2017-02-01)
参考文献数
3

都市高速道路の側壁には、自動車による擦過痕が相当数存在する。これらは、接触した部位や角度、車両速度によって、様々な色彩や形状を示す。特に、大型貨物車は施設接触後も自走可能な場合が、より小型な車両と比較して多く、物損事故としても記録が残りにくい。本研究では、高速道路側壁をビデオ撮影し、擦過痕画像を取得した。また、擦過痕画像は正対化により詳細な特徴を抽出し、位置情報と共にデータベース化した。擦過痕の分布状況と事故データを比較し、危険区間を抽出した。これらと道路幾何構造を統合分析し、擦過痕が形成された車両挙動の仮説を構築した。また、大型貨物車の実測検証を行い、速度変化の実態と、線形により加速が始まる箇所を確認した。
著者
成瀬 宇平 角田 文 加藤 真理 秋田 正治 村松 啓義
出版者
鎌倉女子大学
雑誌
鎌倉女子大学紀要 (ISSN:09199780)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.141-145, 2003-03-31

京料理の手法を参考に昆布だし汁のグルタミン酸量とだしの調製条件との関連について検討し,さらに昆布だしにかつお節を加えた「一番だし」の香気成分についてガスクロマトグラフィーマススペクトロメトリー(GC-MS)を用いて検討し,次の結果を得た。1)だし汁を調製する水の温度は60℃,昆布の浸漬時間が60分間のだし汁のグルタミン酸量は他の条件に比べて多かったため,京料理のだしを調製する方法は本実験と一致した。2)京料理では昆布に利尻昆布を使用するのは,濃度の薄いだしをとるためと考えられる。3)一番だしの主な香気成分はかつお節由来の成分であった。
著者
加藤 直志 加藤 弓枝 三宅 宏幸 KATO T. KATO Y. MIYAKE H.
出版者
名古屋大学教育学部附属中・高等学校
雑誌
名古屋大学教育学部附属中高等学校紀要 (ISSN:03874761)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.154-165, 2018-03-01

昨年度に続き、日本近世文学会の「出前授業」の一環として、同学会から2名の研究者を講師に迎え、中学1年生を対象に、くずし字で書かれた江戸時代の「さるかに合戦」を読むという特別授業を協同で実施した。本稿は、その実践報告である。事前と事後のアンケート調査も実施し、くずし字の解読が、古典への関心・意欲を喚起するのに有効な方法になり得ることを明らかにした。第3部 教科研究・特別研究.本研究の一部は、JSPS科研費JP16H00094の助成を受けている。
著者
加藤 光裕 米谷 民明 大川 祐司 菊川 芳夫 風間 洋一 奥田 拓也
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

H29年度は、当初計画の最終年度であったので、これまでの研究のまとめも兼ねて、駒場研究会「弦・場・素粒子」を開催し、他機関の研究者との情報交換と討論等、研究交流を行った。各分担研究に関しては、以下の通り。■加藤は、N=2超対称SYK模型の格子化に成功し有限自由度の場合について解析を進めている。また、N=4超対称SYK模型の構成についても取り組みを開始した。■米谷は、前年度の研究成果(共変的行列理論、および南部力学のハミルトン・ヤコビ理論の定式化)に基づき、さらに発展させるべく考察を進めた。■風間は、ブラックホール時空の地平線近傍における、代表的な異なる観測者によって量子化されたスカラー場のヒルベルト空間の構造の詳しい比較研究を行い、等価原理が量子論的にも成り立つことを示した。■菊川は、H28年に引き続き、フェルミオン行列式のゼロ点を境界にもつ,複数のLefschetz thimbleの経路積分への寄与を有効的に取り組む手法の検証と開発に取り組んだ。■大川は、プリンストン高等研究所の大森氏との共同研究により超リーマン面の超モジュライ空間の分割に基づく開いた超弦の場の理論の構成法を開発し、ボソンを記述する弦の場の4次までの相互作用を具体的に構成した。■奥田は、2次元の超対称性をあらわに保つ繰り込みの処方を定式化し、分配関数や vortex 演算子の相関関数の局所化計算に適用した。結合定数が空間的に変化する2次元理論のインターフェースを構成し期待値の局所化計算を行った。
著者
中谷 江利子 加藤 奈子 中川 彰子
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.7, no.Special_issue, pp.2-41, 2016-05-31 (Released:2016-06-02)
参考文献数
4
被引用文献数
2

本マニュアルおよび付録資料は,厚生労働省科学研究費補助金障害者対策総合研究事業「精神療法の有効性の確立と普及に関する研究(代表:大野裕)」(平成22~24年度)および「認知行動療法等の精神療法の科学的エビデンスに基づいた標準治療の開発と普及に関する研究(代表:大野裕)」(平成25~27年度)の助成を受けて作成されました。なお,執筆は肥前精神医療センター(現:筑後吉井こころホスピタル)の飯倉康郎の助言を受け,中谷江利子(九州大学),加藤奈子,中川彰子(千葉大学)を中心に,九州大学行動療法研究室のメンバーにより行われました。
著者
加藤 貴彦 今井 博久 今井 博久 濱砂 良一 中尾 裕之 篠原 久枝 加藤 貴彦
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

研究目的は、ある1つの県内の男女学生における無症候の性器クラミジア感染症の有病率と危険因子を明らかにすること、効果的な予防方法とスクリーニング法を検討することである。早朝初尿を検体として用い、近年開発され感度と特異度に優れたPCR方法により陽性率を検討した。第1段階として3176名(女性:1869名、男性:1307名)の対象者を得た調査を実施。大学および専修職業学校に在籍する無症候の性行為経験を有する18歳以上の男女学生における性器クラミジアの有病率は8.7%(女性:9.9%、男性:6.9%)であった。その後、対象者を増やして最終的に、無症候の男女学生10111名から尿サンプルと無記名自記式の性行動に関する質問票の回答を得た。有病率は、女子学生が9.6%、男子学生が6.7%であった。危険因子は、女子学生と男子学生で共通してあったのは、「これまでの性的パートナー数が4名以上」、「必ずしもコンドームを使用しない」、「過去6ヵ月間に2名以上の性的パートナーがいた」であった。女子学生だけの危険因子は「年齢」、男子学生だけのそれは「喫煙」になった。危険因子を用いたスクリーニングが効果的であることが示唆された。本研究班は、18歳以上の学生を対象にクラミジア感染の実態に関する研究を実施してきた。無症候の感染が概ね1割程度あることが明らかになったが、調査研究を進めて行く過程で18歳未満の若年者にも感染が拡大していることが示唆された。そこで、対象の拡大(年齢の引き下げ)を行い、ある県の男女高校生を対象に無症候のクラミジア感染の感染率を明らかにするための試験的な研究(パイロット研究)を実施した。男子高校生が7.3%、女子高校生が13.9%であった。これまでの全部の結果から考えると、わが国のクラミジア感染はかなり蔓延した状態であることが明らかになり、早急に蔓延防止の対策を立てる必要性が示唆された。
著者
山田 弘之 加藤 昭彦 石永 一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.103, no.1, pp.13-18, 2000-01-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
10
被引用文献数
4 5

目的:早期癌を発見するのが目的の一つである人間ドックにおいて,甲状腺癌発見を目的とした超音波検査の導入が普及してきている.この導入がもたらした結果と当院で発見された甲状腺癌の詳細を検討し,その意義を考察した.対象:1989年から1998年までの10年間に,山田赤十字病院の検診センターで施行した人間ドックにおいて発見された甲状腺結節性病変のうち,手術によって癌であることが確認された78例と,同期間に当科において手術を行ったそれ以外の甲状線癌287例と対象とした.また,ドックによって発見され手術を行った良性疾患26例も検討対象に含めた.方法:ドック群と対象群287例において,手術時年齢,TN分類(なかでもT1とT4について),遠隔転移の有無,性比を比較した.結果:ドック群には44歳以下の症例が24例30.8%含まれ,対象群の60例20.9%に比して高率であった.また,ドック群には微小癌が41例52.6%含まれており,対象群の100例34.8%に比して高率であった.逆にドック群には気管食道など周囲臓器に浸潤した症例が1例1.3%に過ぎず,対象群の21例7.3%に比して低率であった.一方で,ドック群にも遠隔転移を認めた症例が1例あり,対象群の3例1.0%とほぼ同率であった.なお,ドック群には22例28.2%の男性症例が含まれ,対象群の28例9.8%に比して高率であった.結論:ドックで発見される甲状腺癌には若年者が多く,また微小癌が多い一方で,周囲組織特に気管食道などへの浸潤例が少なかったことから,ドック群には予後良好な症例が多いと考えてよい,微小癌の良好な予後を考えると,ドックによって不急の微小癌手術が増えていること,更にドックによって結果的に不要であつた良性疾患手術があったことから,穿刺吸引細胞診など精査の対象とすべき症例を嚴選することが頭頸部外科医に求められる.
著者
加藤 真司 桑沢 保夫 石井 儀光 樋野 公宏 橋本 剛 池田 今日子
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.39-44, 2012 (Released:2013-04-16)
参考文献数
11
被引用文献数
3 4

集合住宅における緑のカーテンによる夏季の室内の温熱環境改善効果を明らかにするため,独立行政法人都市再生機構が所有する集合住宅を使用して,様々な条件設定をした複数の住戸の室内温熱環境改善効果を比較測定したものである。比較条件は,緑のカーテンの設置量の違いと,代替手法である簾との比較である。室内温熱環境の実測の結果,緑のカーテンによる室温の低下が確認できたとともに,簾よりもより大きな室温低下傾向が確認できた。また,この結果をもとに緑のカーテンの節電効果を算定した。さらに,戸窓の開放時においては,通風性と日射遮蔽性を併せ持つ緑のカーテンの特徴から,体感温度においても簾と比べて緑のカーテンの有利性が確認できた。
著者
舟生 日出男 加藤 浩
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.309-319, 2010

近年,卒業論文や修士論文の研究課題を設定する能力が低い工学系の学生が増えている.そこで本研究では,「課題の設定に関わる力」の効力感を高めるために,CSCLシステム「ProBo」を取り入れて,「協調的調査活動」をデザインし,大学院の授業の中で実践した.協調的調査活動とは,A)先行研究とそれに関連する文献を調査し,その研究の特徴として,位置づけや実現している範囲について吟味し,ドキュメントとしてまとめ,B)ドキュメントについての相互閲覧や質疑応答,発表,それらの結果を踏まえたドキュメントの改善を行う活動である.自己評価や相互評価,質問紙調査の結果,学生の多くは実践を通して,情報活用能力とプレゼンテーション能力について,効力感が得られたことが明らかになった.また,相互にドキュメントを閲覧したり,質疑応答することの有効性についても,多くの学生に認められた.
著者
加藤 忠史
出版者
一般社団法人日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.152-161, 2007-06
被引用文献数
2

昨今、「脳を鍛える」がブームになっている。これは、音読・計算が脳を「活性化」させるとのデータに基づいている。しかし、「活性化」という言葉の実態は、単に血流増加を示し、ストレスや痛みでも脳は「活性化」するのであるから、「活性化」=プラス効果、という判断は問題がある。グルタミン酸による神経の「興奮」という生理学用語に価値判断を持ち込み、ご飯にグルタミン酸をふりかけることが流行ったという過去に学ぶべきであろう。計算中の脳血流増加には、計算そのものの他に、注意、情動、ストレスなどの多様な要因が関与する点も注意を要する。また、どのようなゲームでも練習すると上手になるが、その成績改善が認知機能全般の向上につながるかどうかは慎重に検討する必要がある。今後、脳科学からの問いかけに対し、教育界が沈黙することなく、議論を進めていくことに期待したい。
著者
加藤 秀夫 国信 清香 齋藤 亜衣子 出口 佳奈絵 西田 由香 加藤 悠
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.137, no.3, pp.120-124, 2011 (Released:2011-03-10)
参考文献数
19
被引用文献数
3 2

からだのリズムは,体温や血圧,睡眠,運動などの生命活動を始め,心と身体の健康を管理している司令塔であり,生活リズムに適応するための自律的な予知機能も備えている.明暗サイクルのあるなしに関係なく,一定の摂食時間に餌を与えると血中副腎皮質ホルモンはいずれも摂食直前にピークを示す日内リズムが形成される.次の日から絶食にしても血中副腎皮質ホルモンの日内リズムは持続し,典型的な内因性のリズムを示す.このことから,血中副腎皮質ホルモンのリズム発現には,明暗サイクルより摂食サイクルが重要であると考えられる.血中副腎皮質ホルモンのリズム形成には口から摂取する食餌そのものと,食餌を感知する消化管が関与している.血中副腎皮質ホルモンのリズム形成・維持には摂食リズムと食餌の刺激を感知する空腸が重要な役割を果たしている.ヒトでの研究においても同様の知見が得られ,血中副腎皮質ホルモンのリズム形成には,摂食リズムが重要であることを明確に示した.一方,ヒラメ筋グリコーゲンは摂食によって増加し,その後減少する日内リズムが認められる.しかし,1日摂食量の1/3を遅い時刻に摂食させた場合,摂食によるヒラメ筋グリコーゲンの増加はなかった.また,脳などにグルコースを供給する肝臓グリコーゲンは,摂食によって増加し,その後,糖新生の利用による低下が認められる.しかし,1日摂食量の1/3を遅い時刻に摂取させると肝臓グリコーゲンの総貯蔵量は減少した.つまり,遅い時刻に摂取する夜食では,摂取した栄養素が筋肉や肝臓グリコーゲンの合成に利用されず,むしろ脂肪蓄積につながると考えられる.次に,食塩の摂取と血圧との関係を時間栄養学の観点から検討した.朝や昼に比べて夕食後に食塩の尿排泄が多く,血中アルドステロンの日周リズムと連動していた.血中成長ホルモンの分泌は,朝の運動で減少し,夕方の運動で増大した.トレーニング効果を高めるためには生体リズムを考慮することも重要である.以上のことから,時間栄養学は体内時計が実証する新しい健康科学である.
著者
加藤 恭郎 德岡 泰紀
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.147-152, 2022 (Released:2022-11-07)
参考文献数
19

内服困難ながん終末期患者にオピオイド鎮痛薬の持続皮下注(以下,CSCI)を開始する場合,悪心・嘔吐予防にハロペリドール(以下,HPD)の混合が広く行われている.しかしHPDにはCSCI部皮膚障害の危険がある.そこで当院ではヒドロモルフォン塩酸塩(以下,HYM)CSCI時の悪心・嘔吐予防としてブロナンセリン経皮吸収型製剤(以下,BLO-P)を用いてきた.今回,オピオイド鎮痛薬使用歴がなく,他の制吐剤や抗精神病薬の併用がなく,1週間以上経過観察できた例を後方視的に検討した.BLO-P使用5例では悪心・嘔吐はなく,BLO-P貼付部,CSCI部の皮膚障害もなかった.HPD併用5例では,1例に悪心,2例にCSCI部皮膚障害がみられた.BLO-PはHYMのCSCI時の悪心・嘔吐予防として選択肢の一つになり得ると思われた.
著者
加藤 晃己 喜山 克彦 杉山 和成 志田 直樹 絹川 典
出版者
公益財団法人 国際全人医療研究所
雑誌
全人的医療 (ISSN:13417150)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.40-49, 2021-03-25 (Released:2021-04-02)
参考文献数
16

筋痛性脳症/慢性疲労症候群(ME/CFS)とは,原因不明の慢性で深刻な疲労や広汎な痛み,睡眠障害などの多彩な症状を呈する疾患である.今回,自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如・多動症(ADHD)が併存する神経発達症群に合併したME/CFSの1例を報告する.【症例】14歳,男性,神経発達症群,感冒を契機に多彩な身体症状を呈し,ME/CFSと診断された.低血糖とグルコース・スパイクが認められた.治療は補剤の投与と食事指導を行った.実存的資源であるマリンバ演奏を支持した.発症後5ヶ月での学習環境の調整を機に症状は改善しME/CFSの診断基準から外れた.低血糖とグルコース・スパイクの頻度は軽減した.【考察】神経発達症群に合併したME/CFSの1例に対して,社会的ストレス軽減のため学習環境を調整することと周囲の理解を得ることが最も治療効果があった.その上で衝動性に関与する可能性のある低血糖やグルコース・スパイクを改善するための食事指導が成り立つと考えられた.