- 著者
-
吉田 国光
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2008, pp.34, 2008
<BR>1.研究課題<BR> 現在,日本の農業は国際競争の波にさらされている.その対抗手段として,政策的に農業経営の大規模化が推進されている.この大規模化という現象は,農地の売買,貸借,作業受委託などによって達成される.しかしながら,大規模化に成功する農家は一部に限られる.農地拡大のために,労働力と経済力に余裕があって,地縁・血縁をもとに,集落内外の農地を取得することができる経営者が,大規模化に成功すると考えられる.日本の農村において,ほとんどの世帯は,顔見知りであり地縁関係にあり,またいくつかの血縁に基づいた同族集団に所属する.<BR> 農地移動については,従来から指摘されるものの,農地移動に至るプロセスについては,「地縁・血縁によるもの」と指摘されるにとどまり,その具体的なプロセスについては不明瞭な点が多い.農地移動が円滑に進められる要因や障壁となるものを明示し,これらが機能する仕組みの解明が必要である.<BR> そこで本研究では,大規模化の基盤である,農地移動に至るプロセスを明らかにする.集落を基点に,農地移動がいかなる社会関係によって行われ,その社会関係が,どのように空間的に広がってきたのかを明らかにすることを目的とする.<BR><BR>2.研究対象地域と研究方法<BR> 研究対象地域である北海道音更町大牧・光和集落は,1950年に入植が始まった開拓地で,大規模畑作農業が卓越し,酪農家,野菜作農家が混在している.開拓時には,141戸が入植したが,2007年には,31戸にまで減少した.<BR> 研究方法としては,現地調査にて,大牧・光和集落の全農家の農業経営の現状を把握し,これまでの農業経営の変遷について,農地移動の実施状況を中心にして情報を得た.この情報をデータ化し,ネットワーク分析における多重送信性の概念(ボワセベン 1986)を援用し,農業者のもつ複数の社会関係を,その組み合わせから分析した.そして,その社会関係が,時代とともに,いかに多様化し,空間的に拡大してきたのかを明らかにした.<BR><BR>3.社会関係からみた農地移動プロセス<BR> 大牧・光和集落における,農地移動に関係する社会関係は,集落と中音更地区内での地縁や,本家分家,姻戚などの血縁に加えて,小学校での同級生,同窓生,PTA役員同士との関係,農業開発公社などの公的機関を介したより広範囲にわたるものまである.近隣世帯や集落などの地縁よりも,血縁の方が例え空間的に離れていても重視された.すなわち血縁が,他の社会関係よりも強く,決定要因となりうるものであった.血縁をもたない場合については,同一集落における近隣世帯で,の場合が最も多く,より近接性の高い農家との農地移動が行われることが多かった.農地移動が隣接集落におよぶ場合は,小学校の校友関係や,開拓以前からの付き合い,開拓世帯などの結社縁を含む場合が多かった.これらに加えて,地縁や血縁,結社縁が希薄である場合については,公的機関などを介したものが関係していた.<BR> このような,農地移動に関係する社会関係は,各農家によって差異がみられ,全体として5つに類型化できた.それらは,近隣・集落完結型,中音更地区拡大型,選択縁活用型,二次入植型,入作型である.それぞれの類型に該当する農家の事例分析から,農地移動に関係する社会関係が,いかなる経緯をもって成立したのかを提示した.さらにその社会関係が,いかにして農地移動に結び付けられてきたのかを明らかにした.このことから,農地移動に関係する社会関係は,時間の経緯とともに,近隣世帯や集落内で完結していたものから,中音更地区,他地区,音更町外に空間的に拡大するようになった.また,農地移動に関係することがなかったような社会関係が,従来からの地縁や血縁,結社縁に加えて,農地移動に結びつくようになり,社会関係の多様化をもたらした.その結果,農地移動は,地縁,血縁以外の社会関係によって行われ,集落や地区の範囲を超えて展開するようになったといえる.<BR><BR>【参考文献】ボワセベン, J.著,岩上真珠・池岡義孝訳 1986.『友達の友達-ネットワー ク,操作者,コアリッション-』未来社.Boissevain, J. 1974.<I>Friends of Friends :Networks, Manipulators and Coalitions.</I> Basil Blackwell.