著者
浜岡 秀明 伊賀崎 央 吉田 泰子 押川 達郎 村松 知佳 鶴澤 礼実 柴田 陽三
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.J-59_1-J-59_1, 2019

<p>【はじめに】18トリソミーは多彩な合併奇形を有し、重度の発達遅滞を呈する予後不良の疾患であり、大規模な調査に基づく生命予後は1年生存率5.5~8.4%、生存期間の中央値10~14.5日とされている。今回、急性呼吸器感染症を繰り返す18トリソミー女児を担当する機会を得た。母親は潰瘍性大腸炎に羅患し、定頚が不十分である児を常に抱っこすることが困難なため、児は1日の大半を臥位で過ごしていた。そこで、前傾クッションを作成し、坐位保持を導入したので報告する。</p><p>【症例紹介】1歳6ケ月、女児。原疾患は18トリソミーで、Fallot四徴症等を合併した重症心身障害児(発達指数DQ12)である。某日、咳嗽後の嘔吐が頻回となり急性呼吸器感染症で入院した。入院時、鼻カニューラにてO2:3L、SpO2:87%、咽頭発赤、湿性咳嗽、陥没呼吸を認めたがチアノーゼはなかった。動脈血ガス(ABG)はpH:7.45、PaCO2:45mmHg、PaO2:34mmHgであった。</p><p> </p><p>【経過】入院後抗菌薬にて治療開始。第12病日に高炭酸ガス血症に伴う意識障害を呈し、第14病日にてんかん発作が出現した。第15病日に呼吸リハ目的で理学療法開始となる。第16~18病日には無酸素発作出現、第19病日のABGはpH:7.25、PaCO2:79.0mmHg、PaO2:33.0mmHgであり、高炭酸ガス血症を認め高流量鼻カニューラ(以下NHF)を装着した。4時間後には、pH:7.45、PaCO2:47.0mmHg、PaO2:29.0mmHgへ改善し、第23病日にNHFを離脱し鼻カニューラに変更となる。第24病日、前傾クッションを作成し坐位訓練を開始。バイタル著変なく、第34病日、自宅退院となる。理学療法開始時、鼻カニューラにてO2:3L、SpO2:70%台で陥没呼吸がみられ、脈拍は110~120回/回であった。追視は可能で、吸引時に微弱ながら啼泣がみられた。粗大運動能力尺度(以下GMFM)は臥位と寝返り領域が5.8%であった。臥位は頭頸部、骨盤右回旋位、左股内旋位で、入院前は左側臥位まで寝返りが可能だったが、理学療法開始時は困難だった。坐位は定頸不十分、体幹低緊張、骨盤後傾、右回旋位、左股内旋位で保持が困難であった。以上の評価から筋緊張の改善や、呼吸が安定しやすい、前傾坐位を取り入れた。退院時、GMFMは臥位と寝返り領域が17.6%へ改善。日中、笑顔で過ごす時間が増え、前傾坐位は見守りで保持が可能となり、周囲への反応や頭頸部のコントロールが向上した。</p><p> </p><p>【考察】呼吸と姿勢は密接に関係し、背臥位より腹臥位や坐位が呼吸に適しているとされ、特に前傾坐位では、重力により胸郭が下方に広がりやすく、舌根沈下や下顎後退を防げるとされている。園田らは、姿勢ケアは安定性のもとに運動の自由度を増す設定にすることで児の隠れた能力を引き出し、それを日常生活場面で取り込むことが大切と述べている。本症例でも、前傾クッションを作成し呼吸が安定しやすい前傾坐位を導入したことで、骨盤、胸郭が安定し、頭頸部のコントロールが向上し、運動発達の一助となったと考えた。</p><p> </p><p>【倫理的配慮、説明と同意】ご家族には、本症例報告の主旨と個人情報の保護について十分に説明し、書面にて同意を得た。</p>
著者
橋詰 直樹 八木 実 石井 信二 浅桐 公男 深堀 優 七種 伸行 吉田 索 升井 大介 坂本 早季 恵紙 英昭
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.1093-1099, 2015-10-20 (Released:2015-10-20)
参考文献数
22

機能性ディスペスシアに対し漢方療法を施行し,胃運動機能の観点からその有効性が認められた1 例を経験した.症例は5 歳男児.急性胃腸炎症状軽快後より腹部膨満,心窩部痛,嘔吐を認め近医を受診した.約50 日間摂取後の嘔吐が続き,発症前より3.6 kg の体重減少を認めた.上部消化管内視鏡検査では軽度の胃炎が認められ,画像検査では器質的疾患は認められず,感染性胃腸炎を契機とした機能性ディスペスシアと診断した.胃運動機能検査では13C 酢酸および13C オクタン酸呼気胃排出機能検査,胃電図検査を用いて評価した.入院後アコチアミドとH2 ブロッカーにて治療を開始したが,薬剤性肝機能障害を認め,六君子湯に変更した.内服開始後も水分摂取にて上腹部膨満が認められたため茯苓飲合半夏厚朴湯を追加した.症状改善し固形食摂取可能となった.4 か月間の内服治療により正常な胃排出機能が確認され廃薬とし,廃薬後も経過良好である.
著者
吉田 一将
雑誌
福山大学経済学論集
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.95-114, 1981-03-30
著者
吉田 展也 竹内 操 菊池 利也 嶋倉 道郎
出版者
社団法人日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科學會雜誌 = The journal of the Japan Prosthodontic Society (ISSN:03895386)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.266-275, 1996-04-01
参考文献数
43
被引用文献数
11

チタンは軽くて生体親和性や耐腐食性に優れているため,従来の歯科用金属に代わるものとして補綴領域でも注目され,鋳造冠や金属床の分野においても実用化されつつある.このチタンの性質の1つとして,表面の酸化被膜を介して高分子材料と強固に接着するということもあげられる.この性質をうまく硬質レジン前装冠に応用すれば,従来の機械的維持装置をレジン前装部から除き,審美性を高めることも可能である.今回はそのための基礎的実験として,接着と密接に関係するといわれている濡れに着目し,種々の処理を行ったチタン表面に対する金属接着性プライマーおよび蒸留水の接触角を測定することにより,濡れを良くする表面処理方法を検討した.
著者
中村 順一 大庭 美香 甲斐 郷子 吉田 將
雑誌
全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.44, pp.79-80, 1992-02-24

自然言語では、一つの意味内容を表現するために様々な形式の表現を用いることが可能である。しかし、個々の発話状況においては、そのすベてが自然なものとは限らない。「太郎が花子を手伝った」は、太郎や花子が話者よりも目上であれば、「太郎さんが花子さんを手伝われた」の方が自然である。このような現象を扱い、機械翻訳システムや自然言語インタフェースなどの出力文をより自然なものにするためには、統語論・意味論上の処理だけではなく、語用論的な処理も必要である。本報告では、特に敬語などの待遇表現に注目し、話者、聴者、動作の関係者の間の関係に従って自然な待遇表現を用いた文を生成するモデルについて報告する。待遇表現としては、尊敬語・謙譲語・ていねい語を対象とし、登場人物間の身分的上下関係を与えることによりこれらを選択する。選択の対象は、「行く/参る/いらっしゃる」などの動詞、「φ/ます」の動詞語尾表現、「ぼく/わたし」、「太郎/太郎さん」などの人の呼び方、である。文生成には語彙機能文法(LFG)の考え方を用い、待遇表現の選択に関する規則性を個々の語彙記述中の制約として記述する。
著者
田中 章浩 吉田 誠克 諫山 玲名 藤原 康弘 笠井 高士 中川 正法
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.219-222, 2011 (Released:2011-03-24)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

症例は78歳の男性である.左前頭部痛,鼻痛,左眼瞼下垂,左視力低下,左眼球運動障害のため当科に入院した.頭部MRIにて左眼窩先端部と左中頭蓋窩硬膜に異常造影効果をみとめた.左蝶形骨洞開放術にてアスペルギルス様糸状菌をみとめ,髄液アスペルギルス抗原陽性より,副鼻腔アスペルギルス症による眼窩先端症候群と診断した.早期の副鼻腔ドレナージと抗真菌薬投与により感染症の沈静化がはかられた.本例の副鼻腔アスペルギルス症は,副鼻腔と眼窩の隔壁の破壊をみとめない"非浸潤型"であったが,眼窩先端症候群や肥厚性硬膜炎などの頭蓋内病変を呈していた.本例では髄液アスペルギルス抗原陽性が診断の参考となり,早期の抗真菌薬の投与が有効と考えられた.
著者
杉本 芳範 田中 伸哉 古川 彰久 渡辺 和夫 吉田 敏臣 田口 久治
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本釀造協會雜誌 (ISSN:0369416X)
巻号頁・発行日
vol.82, no.3, pp.205-210, 1987

ジャケット冷却時の醪温度応答特性の解析結果をもとに, 温度制御方式としてカスケード制御を採用し, 総米1トン仕込みの醪で発酵ガス発生速度をオンライン計測しつつ計算機を利用した適応的自動制御を行ったところプロセスは順調に制御され, 生成酒の品質も目的に近いものが得られた。
著者
横川 正美 山田 正仁 菅野 圭子 柚木 颯偲 堂本 千晶 吉田 光宏 浜口 毅 高橋 和也 岩佐 和夫 駒井 清暢
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.E3P3233, 2009

【目的】認知症予防のための方法は種々報告されており、運動に関しては有酸素運動が効果的であるとされているが一定の見解には至っていない.本研究では地域住民を対象に有酸素運動を主体とした運動機能プログラムを実施し、その効果について同時期に行われた認知機能プログラムと比較検討した.<BR><BR>【方法】前年度に地域で実施された脳健診の受診者から、脳老化関連疾患の疑われる者および介入法参加に支障をきたすような身体疾患のある者を除き、臨床的認知症尺度(Clinical Dementia Rating; CDR)が0または0.5にあたる健常者または軽度認知障害者379名に本研究への参加を募った.参加への同意の得られた36名のうち、介入前後の評価を実施できた29名を本研究の対象とした.介入法はプログラムを2つ設け、参加者を無作為に振り分けた.一つは認知機能プログラム(n=12)で、認知症の前段階で低下しやすいと考えられている実行機能を重点的に高める内容として、A.ゲームやパズル、B.地域の地図作り、C.自助具技術の習得を行った.もう一つは有酸素運動を主体とした運動機能プログラム(n=17)で、A.体調確認、B.テレビ体操(ウォーミングアップ)、C.ウォーキング、D.柔軟体操(クールダウン)を行った.2つのプログラムはどちらも週1回約1時間で合計14回、4ヶ月間にわたって実施した.認知機能プログラムはAからCをそれぞれ4回程度ずつ費やして行い、運動機能プログラムはAからDを毎回行った.対象者には介入前後に認知機能検査としてファイブ・コグを施行した.<BR><BR>【結果】参加者の平均年齢は72.2±7.1歳、平均教育年数は10.4±2.3年であった.2つのプログラムの間で対象者の年齢、教育歴による差はみられなかった.参加者の年齢層や日常的な活動の幅を考慮して、運動プログラムでのウォーキングは10分より開始し、6回目より15分に延長した.実施期間中に体調不良を訴えた者はなかった.介入前後の認知機能検査において、認知機能プログラムでは「手がかり再生課題」が12.6±5.6点から17.0±5.7点へ、「動物名想起課題(言語流暢性課題)」が12.8±4.0点から16.4±2.9点へとそれぞれ有意に改善した(いずれもp<0.01).運動機能プログラムでは「手がかり再生課題」のみ、11.5±5.3点から16.2±5.3点へと有意に改善した(p<0.01).<BR><BR>【考察】認知機能検査において、両プログラムで「手がかり再生課題」が改善し、記憶機能の改善が示唆された.アルツハイマー病では初期に記憶機能が低下するとされている.記憶機能の改善が示唆された今回のプログラムはどちらも予防プログラムとして効果的であることが考えられた.その一方で運動機能プログラムでは認知機能プログラムで示された言語流暢性課題の改善は得られなかった.今後は運動内容の再考や、さらに対象者が今回のプログラムで獲得した体力を維持し、長期的に認知症予防に取り組めるような支援方法の検討が必要と考える.
著者
吉田 ゆき
出版者
日本英学史学会
雑誌
英学史研究 (ISSN:03869490)
巻号頁・発行日
vol.1983, no.15, pp.77-92, 1982 (Released:2009-09-16)
参考文献数
73

Before the Educational System was put in force in 1872, a few public or private educational institutions for English studies had made their starts in various districts. In this state of affairs, National Schools for Foreign Languages were founded in March 1874. These schools, which were renamed “National English Schools” in December that year, were under the direct control of the Ministry of Education. Each school was set up at the seat of the administrative office of each Major School Area. They followed the same intention and school regulations, and were kept with the Government expenditure, not with the prefectural expenses, while in certain cases they took their own separate ways because of different circumstances in their respective prefectures.National Niigata English School was established at Niigata Town (an administrative division in the early years of the Meiji Era); there its port had already been opened in 1868. The opening naturally led to the founding of such an English school in 1869. Though unfortunately Niigata proved to be an unprosperous international trade port after 1871, the prefectural authorities gave protection to such schools of this kind. In 1874 there coexisted National Niigata English School and Niigata School established by the prefecture in 1873. As most of school subjects were taught in English in the latter as well as in the former, these two schools were similar in their character. This similarity may have made it easier for the latter, after the reform of curriculum in 1876, to unify the former when it was closed.The history of education has generally regarded a national English school as the predecessor of the preparatory course for a national university and the foundation of higher education in the province. This paper is going to describe how the Government teaching institution for English studies lived a short life in the provincial environments and exerted some significant influences on its followers.
著者
村上 平 榊原 宣 堤 京子 田中 三千雄 丸山 正隆 鈴木 茂 橋本 忠美 金山 和子 長谷川 利弘 吉田 操 山田 明義 鈴木 博孝 遠藤 光夫
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.20, no.7, pp.623-629_1, 1978

Early-stage cancer located on the upper part of the stomach, especially near the esophagogastric junction, is still difficult to diagnose, and frequently undiscoverd until it is too late. Minute cancers so far discovered, in particular, are few in number, and much remains obscure about their morphology, , including such problems as strophic and metaplastic changes in the mucous membrane over the said area. We looked into diagnosis and morphology of minute cancers of the said region in patients encountered by us. Subjects consisted of 12 patients with early-stage gastric cancer the size of 2 cm or less in maximum diameter, a margin of which was within distance of 2 cm from the junction. Total 13 such lesions were found in them. Our findings were as follows : (1) Straight-view fibescope is more useful in observation snd biopsy of small lesions adjacent to the junction, while lateral-view fiberscope has slight advantages with small lesions off the junction, (2) of small, early-stage gastric cancers near the junction, those adjacent to the junction are frequently protuberant, and those off the junction tend to be concave, (3) the majority of small, early-stage gastric cancers near the junction are histologically highly differentiated.
著者
吉田 竜矢 宇田川 貴大 日比野 拓
出版者
埼玉大学教育学部
雑誌
埼玉大学紀要. 教育学部 = Journal of Saitama University. Faculty of Education (ISSN:18815146)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.341-351, 2018

Hozoji pond is a natural habitat of the almost extinct aquatic carnivorous plant, Aldrovanda vesiculosa L., which the Government has designated as a special natural monument since 1966. Multifaceted research to save the endangered plant was urgently started from 2009. One of them, investigations of aquatic fauna of Hozoji pond was conducted for three years. The investigations revealed that an invasive alien species, Rana catesbeiana was dominant in the pond and it preyed upon A. vesiculosa. Here we showed four years of change in the aquatic fauna in the pond that was continuously investigated after the emergency research. Our data indicated that Palaemon paucidens, R. catesbeiana and Procambarus clarkii were still dominant in the pond. Small fishes, Pseudorasbora parva and Rhinogobius sp. were reduced in number. The Simpson index as a measurement of diversity was fluctuated between 0.313 and 0.802. The pH level of the pond was acidic. On the one hand the acidity is inhabitable for A. vesiculosa, but on the other hand it is not so appropriate for the small fishes. The continuous activity of both exterminating R. catesbeiana and monitoring aquatic fauna in the pond could be necessary in the future.
著者
杉崎 健太郎 中林 巌 小島 糾 冨安 朋宏 明石 真和 伊保谷 憲子 吉田 雅治
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.44, no.9, pp.969-975, 2011-09-28 (Released:2011-10-26)
参考文献数
21

視神経脊髄炎(neuromyelitis optica:NMO)は重度の視神経炎と脊髄炎を特徴とする炎症性脱髄性疾患である.抗アクアポリン4(AQP4)抗体は2004年にLennonらによって報告され,NMOの診断に有用な抗体として知られている.今回経験した2例はともに抗AQP4抗体陽性であり,NMOに特徴的とされている3椎体以上の病変を伴うが,視神経炎の所見は乏しく,NMO関連疾患であった.急性期にはステロイドパルス療法が有効とされているが,無効な場合は血漿交換療法が有効であるとの報告もあり,今回経験した2例ともステロイドパルス療法に抵抗性であったため,血漿交換療法を行った.血漿交換療法としては,単純血漿交換(PE)に比べて血漿補充を必要としない免疫吸着療法(IAPP)を選択した.IAPP開始後より,2例とも速やかに症状の改善を認め,ステロイドを含めた免疫抑制剤の減量が可能であった.IAPPはステロイド治療抵抗性のNMOに有効な治療法の一つであると考えられた.
著者
高位 篤史 吉田 安奈 山崎 文香 河田 真之介 西川 彰 今北 英高
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ab0457, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 呼吸運動は胸腔の拡大運動によって行われており、中でも主要な呼吸筋として横隔膜が挙げられる。横隔膜は左右の横隔神経によってそれぞれ支配され、吸息運動における主動作筋として働く。また、安静時1回換気量の約70%を横隔膜が担うとされている。さらに、片側横隔神経切除により対側横隔膜の筋活動が増加すると言われている。そこで、本研究では横隔膜を支配している横隔神経の片側および両側を切除することで、横隔膜筋活動と呼吸機能との関係についてより詳細に把握することを目的とした。【方法】 10週齢のWistar系雄ラット8匹を使用した。ケタラールおよびセラクタールの混合液を腹腔内投与にて麻酔した後、頚部腹側にパルスオキシメータ(プライムテック社製)を装着し、末梢血酸素飽和度(SpO2)を測定した。また、頚部腹側を切開した後、気道挿管したシリコンチューブおよび気流抵抗管を差圧トランデューサー、コントロールボックス(日本光電社製)に接続し、呼吸流速を測定した。測定した呼吸流速波形から、画像解析ソフトを用いて1回換気量、平均呼吸流速、1回換気時間を算出した。また、左右両側の横隔膜に直径0.03mmのワイヤー電極を装着し、TRIAS筋電計(バイオメトリクス社製)を用いて横隔膜の筋電図を測定した。測定は、安静時、片側横隔神経切除時、両側横隔神経切除時について実施した。【倫理的配慮、説明と同意】 本実験は畿央大学動物実験倫理委員会の承認を得て、畿央大学動物実験管理規定に従い実施した(承認番号22-1-I-220421)。【結果】 1回換気量は、安静時に比べ片側神経切除で約15%、両側神経切除で約30%の有意な減少が認められた。平均呼吸流速は、吸気では安静時に比べ片側神経切除後20%低下、両側神経切除後55%低下と有意な差が認められた。呼気では安静時に比べ片側神経切除後15%低下、両側神経切除後40%低下と有意な差が認められたが、吸気流速の方で低化率が大きかった。1回換気時間は、吸気では安静時に比べ片側神経切除で約20%、両側神経切除で約60%の増加が認められた。呼気では安静時に比べ両側神経切除で約30%の増加が認められた。また、呼吸流速波形は両側神経切除によって波形の平低化が観察された。片側横隔神経切除後における非切除側横隔膜の筋活動は、安静時に比べ約40%増大した。末梢血酸素飽和度(SpO2)は、安静時に比べ片側神経切除で約4%低下、両側神経切除で約9%低下と低下傾向がみられたが、有意な差は認められなかった。【考察】 横隔膜は左右の横隔神経によって支配されることから、片側横隔神経を切除した結果、1回換気量や吸気時の呼吸流速は低下し、それに伴い換気時間は増加した。さらに、非切除側の横隔膜においては筋活動量が増加した。以上のことから、片側横隔膜の機能が消失するともう一方の横隔膜で大きく代償することにより、換気量の大幅な低下を抑えることができると考えられる。両側の横隔神経を切除し、横隔膜の機能を完全に停止させた結果、1回換気量は大きく低下し、末梢血酸素飽和度は約9%低下した。このことは、生命を維持させるために肋間筋等の呼吸補助筋が強く活動したことによるものと考えられるが、横隔膜の機能を代償するほどの能力はなく、すべての測定項目において低換気の状態を示した。また、両側横隔神経切除により呼吸流速波形において平低化が観察され、横隔膜が呼吸活動における速度の変化に大きく関与していることが示唆された。このことから、横隔膜の障害によって、特に運動時など、十分な換気が必要となる際に努力性呼吸に対応することができなくなり、種々の身体活動における呼吸適応という側面でも重要な役割を担っているものと考えられた。【理学療法学研究としての意義】 理学療法士が呼吸分野に関わることは少なくなく、呼吸器疾患に限らず開胸・開腹術前後の呼吸理学療法など、理学療法としての重要性は広範囲にわたる。本研究は、呼吸活動に非常に大きく貢献している横隔膜について、その役割を基礎的な側面からより明確にするものである。今後、横隔膜の機能的知見についてさらに理解を深めるとともに、呼吸理学療法における治療法や運動指導について考察する際の一助となると考える。
著者
秋山 雅博 外山 喬士 吉田 映子 鵜木 隆光 安孫子 ユミ 新開 泰弘 熊谷 嘉人
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.42, pp.P-113, 2015

【目的】水俣病の原因物質としても知られるメチル水銀(MeHg)は, 高濃度の摂取により深刻な神経毒性を引き起こすことが示されているが, 我々は大型魚類などを介し日常的にMeHgに暴露されている現状にある. そのため, 生体におけるMeHgへの毒性防御機構の解明は急務の課題となっている. これまでに我々はMeHgの解毒代謝物の一つとして(MeHg)<sub>2</sub>Sを発見し, 生体内においてはシステインの代謝関連酵素によって産生される活性イオウ分子(reactive sulfur species, RSS)がこの解毒代謝に寄与している可能性を示してきた. しかし, これまでの研究は主に培養細胞を用いた<i>in vitro</i>レベルの研究であり, 実際に個体レベルでの知見は得られていない. そこで本研究では個体レベルにおいて, 生体内で産生されるRSSによるMeHgの解毒代謝機構を証明することを目的とした.<br>【方法】Cystathionine γ-lyase (CSE)は生体内においてRSSを産生するシステイン代謝関連酵素の一つである. 本研究ではこの<i>CSE</i>遺伝子を全身で欠損しているCSE ノックアウト(KO)マウスに対するMeHg毒性を評価することでCSEによって産生されるRSSがMeHgの解毒代謝機構に関与しているかを個体レベルで検証した.<br>【結果および考察】<br><i>CSE</i>-KOマウスは通常では神経毒性を引き起こさない低濃度のMeHgの投与によって振戦などの神経障害が現れ, その後死亡した. このことから個体レベルにおいてCSEはMeHgの解毒代謝機構に関与していることが示唆された. 近年, CSEから生じるRSSは硫化水素(H<sub>2</sub>S/HS<sup>-</sup>)ではなく, システインパースルフィド(Cys-S-SH)であるという事実が明らかとなっており, このCys-S-SHなどによるMeHgの捕獲に伴うイオウ付加体形成がMeHgの解毒代謝に寄与している可能性が高いと考えられる.
著者
中山 智裕 吉田 健史 森 雅紀
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.19-25, 2021
被引用文献数
1

<p>【背景】国内の実臨床でのアドバンス・ケア・プランニング(ACP)の実践の度合いや阻害因子は明らかでない.本研究の目的は,医師におけるACPの実践の度合いを明らかにし,実践の阻害因子を探索することである.【方法】地域の基幹病院(934床)の医師対象に質問紙調査を行い,ACPに関する実践,認知,考えを尋ねた.ACPを実践していない要因を同定するため,二項ロジスティック解析を行った.【結果】186 名中90名(48%)が回答し,ACPを実践していたのは42名(46%;95%信頼区間37-57%)だった.「実践していない」ことに影響する独立因子として,ACPの認知の欠如に加え,リソース・時間の欠如や実践に労力がかるという考えが含まれた.【結語】ACPを実践していた医師は半数に満たなかった.今後,ACPの認知度の向上,実践のための時間・労力の確保等勤務面の見直しが求められる.</p>