- 著者
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小島 大輔
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集 2017年度日本地理学会秋季学術大会
- 巻号頁・発行日
- pp.100178, 2017 (Released:2017-10-26)
日本では,近年「インバウンド・バブル」と呼ばれるほど外国人観光者数が増大している。この動向は日本全国の観光地で注目され,市場化を目的として外国人観光者の行動パターンの詳細な把握が試みられている。 ところで,戦後日本の外国人観光者は一様に増大してきたのではない。1960年代,1970年代半ば~1980年代半ば,1980年代半ば~1990年代半ば,1990年代半ば~2000年代末,および2010年代以降といったような段階的な増大を示している。 これらの長期的な発展段階については,外国人観光者に関する全国的な統計データの整備が遅れたため,その行動パターンの空間的特徴やその時間的変化を国土スケールで検討することはなされていない。 そこで,本研究では,外国人入国者のゲートウェイの変遷から,日本におけるインバウンド・ツーリズムの時間的・空間的な発展傾向について検討する。 ゲートウェイという視点から分析する理由は以下の通りである。 まず,前述したように,外国人観光者の行動パターンの空間的特徴を長期的に比較検討可能な統計データが存在しないことがあげられる。そこで,本研究では,法務省『出入国管理統計年報』の港別入国・出国外国人に関する統計を使用した。電子化されていないものはデータベース化し,1961~2015年までの55年間の数値について分析を試みた。 また,観光者数の長期的な変動については,地理学では伝統的に観光地のライフサイクル(Tourism Area Life Cycle:TALC)という視点で検討がなされてきた。しかし,長期的な観光者数の変化とゲートウェイの変動という関係について検討した研究はほとんどない。 さらに,国籍別に出入国両ゲートウェイの関係を分析することによって,国籍別の日本国内の行動パターンの空間的特徴を抽出することが可能である。すなわち,入国港―出国港の関係を検討することで日本国内でのルートを類推することができる。 以上のことから,本研究は,近年増大する外国人観光者の集中する地域(インバウンド・クラスター)が発生する背景,およびそれら特定の地域における行動パターンを説明に寄与することも想定している。 各発展段階を通して,ゲートウェイは一様に発展しておらず,各発展段階においてその構成が大きく変化していることが明らかになった。ゲートウェイは,インフラ整備の影響によって,まず東京への集中および地域的ゲートウェイの出現による多極化が進展していった。続いて,「ゴールデン・ルート」に代表される「定番ルート」の形成によって,さらに多極化の特徴が強くなった。その後,「定番ルート」からのトリクルダウン,チャーター便を利用したツアー,特定の観光対象の出現・衰退,およびクルーズ船寄港などによって多様化が生じていった。 なお,これらの特徴は,外国人の国籍によって大きく異なっていることも明らかになった。欧米からの観光者のゲートウェイは,東京への集中傾向が強く,発展段階を通じてその変化も小さかった。一方,東アジアからの観光者のゲートウェイについては,入国者数の増大に伴い多様化が進展していったこと,および国籍別に集中するゲートウェイが異なることが明らかになった。 付記:本研究はJSPS科研費15H03274の助成を受けたものである。