著者
山本 恭子 鵜飼 和浩 高橋 泰子
出版者
日本環境感染学会
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.329-334, 2002-11-26
参考文献数
23
被引用文献数
8

本研究は非薬用固形石鹸と流水による手洗いを, 石鹸を泡立て擦り合わせる行為, 流水にてすすぐ行為, ペーパータオルで拭く行為の3段階に分け, それぞれの段階における手指の細菌数の変化を明らかにし, 有効な手洗い方法に関して検討を加えた. 石鹸を泡立て擦り合わせることによる手掌部の細菌数を経時的に測定した結果, 泡立て時間が長いほど細菌数は多くなった. 次に, 15秒間石鹸を泡立てた後流水ですすぎ, 手掌部, 指部, 指先の細菌数を経時的に測定した結果, 3部位ともすすぎに伴い細菌数は減少した. しかし, 手洗い前と比較して, 手掌部では120秒間, 指部では60秒間のすすぎで細菌数は有意に減少したが, 指先では120秒間すすいだ後も細菌数が有意に多かった. また, すすぐ過程で指先を他方の手掌部に擦り合わせることを試みたが, 除菌効果に改善は認められなかった. 最後に15秒間石鹸を泡立て15秒間すすいだ後ペーパータオルで手を拭くことによる除菌効果を調べた. 手掌部, 指部では手拭きの前後で細菌数の有意な減少は認められなかったが, 指先では手拭きによる有意な細菌数の減少が認められた. 以上の結果から, 手洗いで除菌効果を得るためには, 石鹸泡立て時間が長いほど充分なすすぎを行う必要がある. さらにすすぎにより指先は手掌部および指部と比べて除菌されにくく, すすぎ後にペーパータオルで拭くことが除菌に有効であると考えられた.
著者
山本 杏子 小島 隆矢
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会環境系論文集 (ISSN:13480685)
巻号頁・発行日
vol.79, no.702, pp.649-654, 2014-08-30 (Released:2014-09-30)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

This study examines the classification of the user type and behavior in a comedy theater. First surveys were carried out for the classification of the user type and the comparison. Second surveys were carried out for the evaluation of the ease of behavior and the degree of action implementation of the environment around a comedy theater. The results are as followings: 1) Comedy theater users were classified into four types and user behavior is different by user type. 2) The ease of behavior and the degree of action implementation are different by each theater.
著者
島田 沢彦 中西 康博 木村 李花子 渡邉 文雄 渡辺 智 山本 裕基 伊藤 豊 大山 修一 ファドモ Aマロウ
出版者
日本沙漠学会
雑誌
沙漠研究 (ISSN:09176985)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.61-67, 2019-09-30 (Released:2019-10-24)
参考文献数
8

東京農業大学とジブチとの25年に渡る共同研究で培ってきた成果は,JST・JICA共同実施の地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)への課題「ジブチにおける広域緑化ポテンシャル評価に基づいた発展的・持続可能水資源管理技術確立に関する研究」の採択により評価され,2019年度から新たなフェーズとして社会実装へとつなげることとなった.本報では,これまでのジブチでの成果,今後5年間で展開される研究のビジョン,持続可能なパストラルアグロパストラル(農牧業)・システムの実装への課題および達成されるSDGsについて紹介した.
著者
鈴木 秀和 遠藤 健司 松岡 佑嗣 西村 浩輔 関 健 堀江 真司 前川 麻人 小西 隆允 山本 謙吾
出版者
三輪書店
雑誌
脊椎脊髄ジャーナル (ISSN:09144412)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.265-269, 2017-04-25

はじめに 成人脊柱変形患者は社会の高齢化に伴い増加し,脊椎矢状面アライメントに関する知見の重要性は増している.加齢による姿勢変化は,胸椎が後弯化し頸椎前弯が増強する傾向にあり,頸椎症の発症に大きく関与することが知られているが1,2,13),骨盤を含めた全脊椎アライメントと頸椎アライメントに関する定量的解析は多くなされていない.頸椎形態は,直線状,S字状,すべりの存在など多様性があり,頸椎前弯の計測法にもさまざまなものがある6).C2-7角は,途中の形態が不明となり前弯の形成の程度が不明となるため,C2-7角で頸椎矢状面アライメントを述べることにも問題があるといわれてきた9).また,頸椎矢状面アライメントは年齢,性差や個体差があるため,正常の定義,病的アライメントの解釈を明確に決めることは難しい11).1968年,石原8)は頸椎弯曲指数(石原指数)を用いて頸椎アライメントの性差,年代による変化があることを述べた7,8)が,徐々に,全脊椎矢状面アライメントとの関連が明らかになり,頸椎アライメントの概念は変化しつつある.近年,日本人を対象にYukawaらは626人の性別,年代別に全脊椎矢状面アライメント計測と,1,200人の頸椎矢状面アライメントと頸椎可動域(range of motion:ROM)を示した11,12).頸椎前弯の消失や後弯発生は,C2-7sagittal vertical axis(SVA)やT1椎体の傾斜と大きな関連があり,頸椎症発生は隣接脊椎のアライメントに強く影響を受ける2,4).本稿では,日本人のデータより得られた健常人の頸椎矢状面アライメントと全脊椎矢状面アライメントとの関係について述べる.
著者
山本 晃生
出版者
公益社団法人 計測自動制御学会
雑誌
計測と制御 (ISSN:04534662)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.122-126, 2004-02-10 (Released:2009-11-26)
参考文献数
34
被引用文献数
1 3
著者
近藤 勲 河崎 雅人 山本 尚武 西野 麻由子 河原 美智子 前川 朋子
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. ET, 教育工学 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.101, no.397, pp.39-44, 2001-10-19
参考文献数
10

視覚並びに聴覚サブリミナル効果の有無について検証するために, 3年前から情動の変化を皮膚電気活動(EDA:Electrodermal Activity)並びに精神性発汗(Emotional Sweating)に変換して測定し, その結果をもとに検討している.本稿では, そのうち視覚サブリミナル知覚の検証を中心に述べる.標本には, 映像情報として中性刺激と見なせる構成のビデオ映像約9分に性的興奮を惹起させると期待される画像・文字を1/30秒間並びに1〜2秒間ランダムに11の挿入カット(文字2種, 画像9種)をランダムに2回づつ計22カ所に挿入し視聴させた.被験者は男子学生22名である.この結果, カットを挿入した映像を視聴した場合には, 皮膚電気活動並びに発汗量の変化については, 情動に有意な変化が見られたが, 無挿入の映像を視聴した場合には, 明確な変化は見られなかった.したがって, 映像情報については, 視覚サブリミナル知覚の存在を否定できないという結果を得た.
著者
塩原 由香 村山 伸子 山本 妙子 石田 裕美 中西 明美 駿藤 晶子 硲野 佐也香 野末 みほ 齋藤 沙織 吉岡 有紀子
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.66-77, 2020-04-01 (Released:2020-05-27)
参考文献数
28

【目的】本研究は,小学生の日常の食卓に並び,かつ喫食した料理から1食の食事パタンの出現状況を明らかにする。【方法】対象者は,K県の小学5年生235人のうち,4日間の食事記録がある185人(有効回答78.7%)。調査は,2013年10~11月の平日,休日の各2日の連続する4日間に児童自身が写真法を併用した秤量法または目安量記録法によって実施した。解析対象の食事は,185人の朝・昼・夕の3食×4日間の12食/人のうち,学校給食の2食を除く1,850食から,欠食を除いた1,820食とした。料理は食事記録に記載された料理名,主材料並びに食事の写真を照合し,16の料理区分(主食,主菜,副菜,主食と主菜等を合せた料理等)に分類した。食事パタンは,料理区分を組合せた13の食事パタン(「主食+主菜+副菜」「主食と主菜等を合せた料理+主菜+副菜」等)に分けた。解析方法はχ2 検定を用いた。【結果】13の食事パタン全てが出現した。多い順に「主食」19.9%,「主食+主菜+副菜」17.3%であった。食事区分別では,朝食は平日・休日共に「主食」が30.8%,33.4%と多かった。夕食は「主食+主菜+副菜」が多かったが,4割以下の出現に留まった。【結論】食事パタンは全体で「主食」が多かった。夕食は平日・休日共に「主食+主菜+副菜」が多かったが,出現数は4割に留まり,その他10種以上の食事パタンが出現した。
著者
山本 欣司 大橋 毅彦 永井 敦子
出版者
武庫川女子大学
雑誌
武庫川女子大学紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:09163115)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.11-21, 2013

We, the Society for the Research of Modern Culture of Kobe, have been studying the cultural formation of the port city of Kobe from various aspects. In this paper( which will form the first part of our whole research) we deliver a report on the trend of movies, theater, performing arts, fine arts and photography in the city, by scrutinizing a series of articles, Zassô-en, written by the Kobe correspondents, in the newspaper Kobe Furoku, Osaka Asahi Shimbun, issued in 1923. Through the Zassô-en articles we can see not only various incidents reported by the correspondents but also their love for their hometown, which encouraged them to plan and carry out diverse cultural and artistic events in the town. We can also find the trend of the picture houses and moviegoers in Shinkaichi, Kobe, in those days, especially the way the entrepreneurs attracted people. Concerning the theater, the articles tell us that the things gladly accepted then were comedy and Shinkokugeki.
著者
石井 慎一郎 山本 澄子
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.11-16, 2008 (Released:2008-04-05)
参考文献数
15
被引用文献数
2 3

スクリューホームムーブメントの特性を明らかにするため,非荷重位での膝関節伸展運動をPoint Cluster法を用いた三次元動作解析により計測した。対象は20~65歳までの健常成人30名とした。その結果,19人の被験者は膝関節の伸展運動中に脛骨が外旋し,5人の被験者は終末伸展付近から脛骨が内旋し,6人の被験者は伸展運動中に脛骨が内旋していた。終末伸展付近から脛骨が内旋する被験者は女性が多く,全ての被験者がLaxity Test陽性という身体的特徴を有していた。また,膝関節伸展運動中の脛骨前方変位量も大きいという特徴も認められた。伸展運動中に脛骨が内旋する被験者は,40~60歳代の年齢の高い被験者であった。スクリューホームムーブメントは,靭帯の緊張や加齢変化によって影響を受けることが明らかとなった。
著者
山本 隆一郎 野村 忍
出版者
日本行動医学会
雑誌
行動医学研究 (ISSN:13416790)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.22-32, 2010 (Released:2014-07-03)
参考文献数
43

本研究の目的は,実際の就寝環境における入眠時選択的注意が入眠困難に及ぼす影響を2週間のホームワーク実験によって検証することが目的であった。13名の入眠困難者は実験群と統制群に割り付けられた。実験群は,後半の1週間,就寝時の注意統制のため毎日寝床で数息観(自発的な呼吸を数える禅瞑想課題)を実施した。実験群と統制群における,入眠時選択的注意尺度得点,入眠時認知活動尺度得点,1週間の平均入眠潜時の違いを検討するため,2要因反復測定分散分析(2群×2時期)を行った。その結果,入眠時選択的注意得点において有意な交互作用が確認された(F(1,11)=6.24,p=.030)。また入眠時認知活動尺度の第2因子(眠れないことへの不安)得点において交互作用の有意傾向が確認され(F(1,11)=3.78, p=.078)た。さらに1週間の入眠潜時において交互作用の有意傾向が確認された(F(1.11)=3.35, p=.095)。本研究より,入眠時選択的注意の入眠困難に及ぼす影響が示唆され,数息観による注意統制が入眠困難に効果的である可能性が考えられた。
著者
山本 けい子 寺門 修 竹内 孝 中村 和之 広瀬 義朗 八重樫 忠郎 瀬川 拓郎
出版者
独立行政法人国立高等専門学校機構 函館工業高等専門学校
雑誌
函館工業高等専門学校紀要 (ISSN:02865491)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.105-110, 2018 (Released:2018-01-31)
参考文献数
9

Based on the hypothesis that Hokkaido gold dust was contained in the enormous amount of gold that supported the wealth of the Oshu-Fujiwara clan, we analyzed gold dusts which were obtained from relics excavated in Yanagi-no-Gosho Site in Hiraizumi.In this research, we conducted the analysis using statistical methods such as data similarity, principal component analysis(PCA) and support vector machine(SVM). The target data are elemental analysis data sets of gold on relics excavated from Hiraizumi and they are compared to data sets of gold dust picked in Hokkaido and Tohoku region.Through these statistical analysis, we concluded that the gold on relics excavated from Hiraizumi was closer to the elemental constituents of gold dust picked in Iwate Prefecture. About this Hiraizumi sample, we were not able to estimate that its gold might have been brought from Hokkaido. However, we are thinking that these statistical approaches are useful methods to clarify facts of the trade between the Oshu-Fujiwara clan and indigenous people in Hokkaido.
著者
山本 啓介
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.62, no.9, pp.25-37, 2013-09-10 (Released:2018-09-11)

後柏原天皇時代の文亀二年(一五〇二)より、参会・披講を伴う晴儀の御会始が行われている。ただし、後年の御会始には、不参の者も少なくなかった。それは貴族達の困窮が一因であったとみられる。そうしたなか、内裏では参会・披講は行わずに、懐紙・短冊のみを詠進する形式の月次和歌も行われた。これは、比較的流動的な方法で懐紙・短冊に和歌を書いて提出するものであり、動乱期の状況下でも少ない負担で和歌活動を継続することが可能な形式であったと見なすことができる。
著者
松原 恵 小宮山 史 山本 和明
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.68, no.6, pp.285-290, 2018-06-01 (Released:2018-06-01)

国文学研究資料館(国文研)が進める歴史的典籍NW事業では,画像公開している古典籍をもっと自由に活用してもらう活動にも取り組んでいる。そのなかでも特に反響の大きかったのが「江戸料理」に関する事業で,人文学オープンデータ共同利用センター(CODH)などの研究機関や企業等とのコラボレーションに進展し,多くのメディアにも取り上げられた。そのあらましを述べたうえで,企業と連携していくなかで見えてきた可能性と,課題について考える。
著者
豊田 和典 山本 泰三 矢口 春木
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101156, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】膝蓋骨上脂肪体(suprapatella fat pad;以下SPF)は膝蓋骨上端と膝蓋上嚢前面と大腿四頭筋腱遠位後面で形成される三角形を埋めるように存在しており、その機能は膝関節屈曲時の大腿四頭筋腱の滑走や伸展機構の効率を高めること(H.U.Staeubli,1999)や大腿骨と膝蓋骨間での膝蓋上嚢のインピンジメントを予防すること(C.Roth,2004)が報告されている。SPFに関する報告は、MRIを用いての膝関節前面痛とSPF拡大の関係(C.Roth,2004)や滑膜増殖の指標として有効性を検討した報告(M.E.Schweitzer,1993・Lee HS,2000)、超音波画像診断装置を用いてのSPF浮腫に対する超音波検査とガイド下局所注射の有効性を示した症例報告(B.V.Le,2009)がある。静的な指標はあるものの、膝関節運動時のSPF動態に関する報告はほとんどない。そこで今回、SPFの大腿四頭筋腱側の長さ(以下;腱側長)が膝関節屈曲時にどのように変化するか超音波画像診断装置を用いて検討した。【方法】対象は神経学的および整形外科的疾患の既往がない健常男性10名で、測定肢はすべて左下肢とした。対象者の平均年齢は32.9±4.7歳、平均身長は174±6.4cm、平均体重は66.2±9.0kgであった。測定姿勢は背臥位とし、膝関節伸展時および膝関節屈曲90度・120度・最大屈曲・正座時の長軸像を撮影した。膝関節屈曲角度は東大式ゴニオメーターを使用して設定した。撮影は超音波画像診断装置(esaote社製 MyLab25)を使用して、プローブを皮膚に対して直角にあて、過度の圧が加わらないように注意した。撮影したSPF腱側長を内臓デジタルメジャーにて計測した。測定部位は下前腸骨棘と膝蓋骨中央を結ぶ線上でプローブ端を膝蓋骨上端とし、膝関節屈曲時には膝蓋骨とプローブの位置関係が変化しないように膝蓋骨の動きに合わせてプローブを操作した。測定は3回行い、その平均値を測定値とした。測定および計測はすべて同一セラピストが行なった。検討項目は、膝関節伸展時、膝関節屈曲90度・120度・最大屈曲・正座時のSPF腱側長とその増加率とした。増加率は膝関節伸展時の計測値を基準としそれぞれの膝関節屈曲角度で比較した。統計処理は多重比較法を用い、すべての統計解析とも危険率5%未満を有意水準とした。統計処理にはSPSS Ver.14を使用した。【倫理的配慮、説明と同意】実験に先立ち、対象者には研究内容について口頭にて十分に説明を行い、同意を得た。【結果】膝関節伸展時のSPF腱側長は18.0±1.1mm、膝関節屈曲90度では22.2±1.8mm、膝関節屈曲120度では23.0±1.6mm、最大屈曲では25.7±1.3mm、正座時は28.5±1.4mmであった。SPF腱側長の増加率は膝関節屈曲90度では123.5±10.0%、膝関節屈曲120度では128.3±10.6%、最大屈曲では143.1±10.7%、正座時は158.6±12.3%であった。それぞれの膝関節屈曲角度のSPF腱側長増加率に主効果が認められた。膝関節伸展は膝関節屈曲90度・120度・最大屈曲・正座時、膝関節屈曲90度および120度では最大屈曲・正座時、最大屈曲では正座時との間に有意差があった。膝関節屈曲90度と120度との間には有意差はなかった。【考察】近年、関節拘縮や疼痛の原因の一つとして関節周囲の脂肪体が注目されている。膝関節周囲の脂肪体は膝蓋下脂肪体や大腿骨前脂肪体、SPFがあり、関節もしくは関節周囲のスペースを埋めるように存在している。大腿骨前脂肪体とSPFの機能は比較的類似しており、筋・腱や膝蓋上嚢の滑走性維持、大腿四頭筋腱のレバーアーム長維持による伸展機構の効率化機能が報告されているが、動態についての報告はほとんどない。今回、SPFの腱側長増加率を指標に膝関節屈曲に伴うSPFの動態を分析した結果、腱側長増加率は膝関節屈曲に伴い増加しており、特に最大屈曲、正座時において顕著であった。関節可動域、特に深屈曲や正座を獲得するためには、SPFは大腿四頭筋腱の滑走を促すだけではなく、大腿四頭筋などの他の軟部組織と連動して十分に変形できる柔軟性が必要であり、SPFは関節可動域を制限する軟部組織の一つである可能性が示唆された。今回は、SPF腱側長のみの分析であったが、膝関節屈曲時にはSPF膝蓋骨側が変形する様子も観察できており、今後はSPF膝蓋骨側の動態や関節拘縮との関連性などの研究をさらにすすめていきたいと考えている。【理学療法学研究としての意義】SPFは膝関節機能改善を図るためには重要な組織であると考えられるが、その動態については明らかにされていない点が多い。今回、健常者のSPF動態の一部が明らかになったことで、理学療法手技や評価に応用していけるのではないかと考える。