著者
西部 忠 橋本 敬 小林 重人 栗田 健一 宮﨑 義久 廣田 裕之
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
Discussion Paper, Series B
巻号頁・発行日
vol.104, pp.1-79, 2012-05

私たちは2011年2月21日より25日まで,ブラジル・セアラ州フォルタレザ郊外パルメイラ地区にあるパルマス銀行を訪問して,その設立者,従業員,近隣小売業者などの関係者にインタビューを行い,同銀行の沿革や特徴,および,その近隣の経済社会への影響を調査した。本調査報告書の目的は,このインタビューの内容を参照可能な一次資料として記録し,公刊することにある。
著者
山本 哲朗 林 光緒
出版者
Japanese Society for Physiological Psychology and Psychophysiology
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.249-256, 2006
被引用文献数
3

午後の眠気の抑制には短時間仮眠が有効であることが報告されている。しかし, 短時間仮眠が運動パフォーマンスを向上させるかどうかについては検討されていない。そこで本研究は, 短時間仮眠が運動パフォーマンスに及ぼす効果を検討した。運動部に所属する男子大学生10名が実験に参加した。彼らは14 : 00に仮眠をとるか (仮眠条件), 15分間新聞を読んだ (仮眠なし条件) 。仮眠条件では, 睡眠段階2が3分間出現した時点で起こした。15 : 00より自転車エルゴメータで, 参加者の限界に至るまで運動を続けた。その結果, 運動継続時間は仮眠条件の方が27秒長かった (<I>p</I><.05) 。運動中の心拍数に差はみられなかったが, 仮眠条件の方が, 主観的運動強度, 眠気が有意に低く, 活気も有意に高かった (<I>ps</I><.05) 。これらの結果は, 短時間仮眠が午後の運動パフォーマンスを改善させる効果があることを示唆している。
著者
林 聖将 松田 剛 玉宮 義之 開 一夫
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.79-89, 2013-03-01 (Released:2014-11-20)
参考文献数
22
被引用文献数
1

Manga is a visual art consisting of still images, words, and various symbolic rep-resentations. “Speed lines” are type of the symbolic representation in manga. They are typically depicted as several lines placed on the opposite side of the direction of motion. Although readers of manga can empirically estimate the motion direction of objects with speed lines, few studies have experimentally examined the perception of speed lines. We hence investigated spatial attention arising from speed lines by using a pre-cuing technique (Posner, 1980). For example, if speed lines placed on the left side of a depicted object induced a rightward motion perception, then spatial attention to the right should be enhanced. A total of thirty university students who have read manga before participated in two experiments. In Experiment 1, we employed schematic balls with or without speed lines as cues and measured reaction times for three different conditions. Target stimuli were presented on the opposite or the same side of the speed lines across the balls in the congruent and incongruent conditions, respectively. In the neutral condition, the schematic balls without speed lines were used as cues. Reaction times were found to be shorter for the congruent condition than the incongruent and neutral conditions. In Experiment 2, schematic balls with four figures instead of speed lines were used as cues in order to elucidate the particularity of the speed lines. Reac-tion times were shorter for the congruent and incongruent conditions than the neutral con-dition, and did not differ significantly between the congruent and incongruent conditions. These results indicated that spatial attention toward the direction of motion corresponding to manga artists’ intention was aroused by speed lines. Therefore, we conclude that adults who read manga can perceive the motion direction of objects with speed lines.
著者
大江 康子 林 健 内野 晃 棚橋 紀夫
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.247-254, 2014 (Released:2014-07-25)
参考文献数
56
被引用文献数
4 3

要旨:けいれん発作,とくにけいれん重積発作にともない,皮質や皮質下領域にMRI で信号異常を認めることがある.海馬を含む大脳皮質や,皮質下病変として視床,脳梁,また小脳など多岐にわたる部位での信号異常が報告されている.これらのけいれん発作にともなうMRI 異常信号は,異常興奮による脳局所の血流増加や代謝亢進を反映していると考えられる.最近では,臨床の場で脳血管障害や脳腫瘍などの他疾患との鑑別が問題になるケースにも出合うようになった.本稿では,けいれん発作にともなうMRI 異常信号について,臨床的,画像的,生物学的,病理学的観点から概説する.
著者
林 明人 大越 教夫
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.847-851, 2004-09-10

はじめに パーキンソン病の治療は薬物療法が中心であるが,現在使用されている抗パーキンソン病薬では病気の進行を抑えることはできない.罹病期間が長期になると,運動障害,特に歩行障害が強くなる場合が多く,リハビリテーションの果たす役割が重要と考えられる. 近年,パーキンソン病の歩行障害に対して音リズムを取り入れた音楽療法などのリハビリテーションに関わる研究がなされ,その有用性が注目されている1,2).また,音リズム刺激による機序として,パーキンソン病で障害される内的なリズム形成に対して,外的なリズムである音リズムにより刺激することで歩行リズムの形成が安定化する可能性が推察されている3,4).また,メトロノームのような,より明確な音リズム刺激のほうが,行進曲などの音楽よりも効果があることも報告されている2).しかし,これまでの報告は音リズムに歩行訓練を合わせた課題だけの結果のみであり,音リズム刺激のみの効果について調べた報告はない.したがって,パーキンソン病に対する音リズム刺激のみの効果を検討することはその機序を考察するうえでも試みられるべきと考えられる. 本研究では,歩行障害を有するパーキンソン病患者に対して,歩行訓練を行わないで,音リズム刺激のみによる効果の有無を調べ,その有用性を検討することを目的とした.また,パーキンソン病患者はしばしば抑うつなどの精神症状を伴うことがあり,歩行障害だけではなく,抑うつに対する効果についても検討を加えた.
著者
斎藤 翔 小林 達明 高橋 輝昌
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.168-173, 2017 (Released:2018-03-15)
参考文献数
17
被引用文献数
2 3

有機物層除去試験が行われた福島県川俣町山木屋地区の落葉広葉樹林の林床にリターバッグを設置し,2016年 5月から 10月にかけて,リターバッグを毎月採取し,逐次抽出法によって 137Cs の吸着様式の変化を調査した。その結果,リターバッグ内リターの 137Cs 濃度は増加傾向であり,不可給態は 5月には 17%であったが,10月には対照区で 76%,林床処理区で 89%に増加した。このことから,リターの分解を行う糸状菌の体内に 137Cs が吸収,蓄積され不動化している可能性が考えられた。また林床の有機物層除去は,リターバッグ内リターと土壌の混入を引き起こし,粘土鉱物による 137Cs の固定化を促進する可能性が考えられた。
著者
小林 彰夫 王 冬梅 山崎 美保 巽 規子 久保田 紀久枝
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.8, pp.613-618, 2000-08-15 (Released:2009-02-19)
参考文献数
5
被引用文献数
4 7

(1) 豆腐香気成分の捕集法として,ポーラスポリマービーズ充填カラムによる吸着とエーテルによる脱着が有効であった.(2) 国産大豆3種,米国産大豆1種から同様な条件で豆腐を調製しその香気組成と官能評価を比較した結果,エンレイ,フクユタカの高い評価にはマルトールの増加による甘い風味が関連すると考えられる.(3) 豆腐製造中の加熱温度条件として,磨砕時の温度および磨砕後の温度上昇速度について検討した.前者についてはっきりした違いは認められなかったが,後者では緩慢な上昇が風味の増加に寄与しており香気成分としては,ヘキサノール,マルトールが増加していたことから,これら2成分が風味の向上に寄与しているものと思われる.
著者
小林 将生 佐藤 みゆき 酒井 保治郎
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.489-492, 2016 (Released:2016-07-06)
参考文献数
18

〔目的〕脱神経筋に対して電気刺激を併用した自転車エルゴメーターの有用性を検討する.〔対象〕腰椎椎間板ヘルニアに対して,除圧術を施行された後に下垂足を呈した28歳男性とした.〔方法〕標準的な理学療法に加え,週に4~5回の電気刺激を併用した自転車エルゴメーターを6週間実施した.電気刺激は自転車エルゴメーターの下肢屈曲相に腓骨神経に刺激が入るよう調整した.〔結果〕介入後,前脛骨筋や腓骨筋の筋力が向上し,歩行能力の改善が認められた.〔結語〕脱神経筋に対して電気刺激を実施することは効果的であった可能性がある.
著者
田中 篤 林田 憲明 石川 陵一 櫻井 健司
出版者
日本医学教育学会
雑誌
医学教育 (ISSN:03869644)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.377-385, 2004-12-25 (Released:2011-02-07)
参考文献数
8

聖路加国際病院では研修医の採用試験として, 学科試験・面接に加え, 1998年から適性検査であるSPI検査を導入している.今回われわれは, SPI検査の結果と, 研修医の知的能力・学科試験の成績・研修中の評価との相関を解析した.SPI検査のうち, 基礎能力検査は, 知的能力とは相関するものの, 学科試験の成績とは相関しなかった.高い基礎能力・身体活動性, 外向性は2年間平均した高い評価と関連があった.一方, 思考・実践の重視, 協調性が, 1年目から2年目への高い成長と相関していた.基礎能力は成長とは関連していなかった.以上より, SPI検査の結果は研修医のさまざまな人物特性と相関があることが明らかとなった.
著者
前田 治男 五十嵐 雅之 宮川 喜洋 小林 肇 佐藤 光三 眞弓 大介 坂田 将
出版者
石油技術協会
雑誌
石油技術協会誌 (ISSN:03709868)
巻号頁・発行日
vol.76, no.6, pp.530-537, 2011 (Released:2014-01-18)
参考文献数
7
被引用文献数
1 2

INPEX Corporation, Tokyo University and Natural Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST) have been working since 2008 to study methane-producing technology using microbes inhabiting depleted oil and gas fifields. The concept and mechanism of microbial methane conversion are depicted as follows. First, inhabiting bacteria prompt to produce acetic acid or hydrogen from residual petroleum components in the underground reservoir. Next, methane-producing microbes (methanogens) are concerned in generating methane from the produced acetic acid, hydrogen and carbon dioxide injected for geological sequestration as CCS operation.A wide variety of hydrogen- and methane-producing microbes have been discovered in (depleted) oil fields. We found that microbes indigenous to the reservoir brine could produce methane probably by using crude oil as a carbon source in the presence of CO2 (10 mol%).Kinetics of gas (methane, carbon dioxide) production and consumption of acetic acid indicated that there are two reaction pathways from oil to methane; the acetoclastic methane producing pathway and the hydrogentrophic methane producing pathway.Furthermore, from the result of methane producing experiments and Carbon isotope tracer test, the existence of syntrophic cooperation between hydrogen producing bacteria and methane producing archaea is also identified.We are currently evaluating the way to enhance the capability of methane-producing microbes and developing an effective and efficient process for methane production in the actual reservoir condition.Our results will lead to establish a new MEOR system that converts residual oil in depleted oil fields into environmentally friendly methane efficiently.
著者
宮田 翔平 赤司 泰義 林 鍾衍 呉 楊駿 田中 勝彦 田中 覚 桑原 康浩
出版者
公益社団法人 空気調和・衛生工学会
雑誌
空気調和・衛生工学会 論文集 (ISSN:0385275X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.257, pp.11-20, 2018-08-05 (Released:2019-08-05)
参考文献数
15
被引用文献数
2

建築物の熱源システムにおいて,設計性能を発揮できなくなる要因である不具合を明らかにする不具合検知・診断は非常に重要である。本研究は物理モデルと機械学習により熱源システムの不具合検知・診断を行うことを目的とする。本報では未知の不具合を有する熱源システムを対象として,機械学習の一手法である畳み込みニューラルネットワークによる不具合検知・診断を試みた。そのための学習・テストデータとしては,該当システムに対する詳細なシミュレーションにより 6 種類の不具合状態を再現し,適切なラベルをもつように作成されたデータベースを利用した。十分な学習データ量を用いることで高い精度で検知・診断できることを確認した。
著者
横山 広樹 玉置 昌孝 竹林 崇
出版者
一般社団法人 大阪府理学療法士会生涯学習センター
雑誌
総合理学療法学 (ISSN:24363871)
巻号頁・発行日
pp.2021-002, (Released:2021-12-23)
参考文献数
20

【目的】胸椎化膿性椎間板炎に対する脊椎固定術後の脊髄性運動失調を呈した症例に対して,歩行機能の改善を目的とした振動刺激療法を運動療法と併用した結果,改善を認めたため報告する。【方法】運動療法に併用して下肢に対して振動刺激療法を用いる介入期間を設けた。筋力強化練習や動作練習を中心とした運動療法を34日間実施した後に,振動刺激療法を追加して14日間実施した。そして,Walking Index for Spinal Cord Injury II(以下,WISCI II)を用いて歩行機能を評価した。【結果】WISCI IIは13点から16点へと改善し,自宅内移動動作の獲得や屋外歩行手段の獲得につながった。【結論】脊髄障害を伴った歩行障害に対して振動刺激療法を用いた介入が歩行機能の改善の一助となる可能性がある。
著者
酒井 保藏 鈴木 秀一 若林 章一 高橋 不二雄
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1988, no.11, pp.1880-1884, 1988-11-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
10

本研究はリボ核酸 (RNA) から5'-イノシン酸 (IMP) を連続生産するのに水酸化ジルコニウムダイナミック膜を被覆したセラミック膜 (Zr-CM膜) を分離膜として応用することを目的としている。2種の酵素 (5'-ホスポジエステラーゼと AMP(5'-アデノシンーリン酸, 以下 AMP と略す) -デアミナーゼ) を用いて RNA からモノヌクレオチドへの反応と, 生成したモノヌクレオチドの一種 AMP から IMPへの反応を行なった。同時に Zr-CM膜を用いて酵素や未反応 RNA を反応器内に保持しつつ低分子成分である IMP などのモノヌクレオチドを分離した。このメソプランリアクターの操作では沸過された IMP などのモノヌクレオチドに見合う分の RNA を逐次添加している。ここで反応系を定常状態にして RNA から IMP への連続生産を期待した。本研究はその基礎的条件として, 高分子排除率, 透過流束, 酵素活性の時間変化, RNA から IMP への変換率, 炉液中の IMP 濃度などを検討した。その結果, 酵素活性が一定になるように反応途中で失活分に相当する量の両酵素を逐次添加していれぽ高分子排除率, 透過流束, および炉液中の IMP 濃度は一定となり, RNA から IMP の連続生産が可能になること明らかにした。
著者
林 卓行
出版者
美学会
雑誌
美学 (ISSN:05200962)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.56-66, 1995

No one could deny that "Minimal art" is one of the most significant movements of contemporary art in 1960s. Donald Judd, sometimes called one of the "Big Five" of Minimalists, strongly hated the name. His hate is natural for the originality of his works is often beyond the concept of Minimal Art. Judd, as "empiricist, " insists on the clarity and reality of his works, and the originality of his spatial (though not in traditional sense) works is in them. His refusal of 'composition' and 'illusion (of pictorial space)' is derived from this, because of indefinability of the former and falsity of the latter. But his works could be 'real' as long as they are visually identified and their 'clarity' means such visual identifiability. As if "What you see" were inevitably "what you see" (Frank Stella), for Judd, visual objects never loses their identities and also vision itself never do their subjective and intersubjective ones. In other words his works are created to be visually identified. The true innovation of Judd's works must be this radical identifiability because all past visual works consequently have been intended not to be visually identified, to leave behind some virtual elements of them.
著者
小林 健彦
出版者
新潟産業大学経済学部
雑誌
新潟産業大学経済学部紀要 = BULLETIN OF NIIGATA SANGYO UNIVERSITY FACULTY OF ECONOMICS (ISSN:13411551)
巻号頁・発行日
no.59, pp.43-80, 2021-10

日本では、古来、様々な自然災害―大雨、泥雨、洪水、浸水、土石流、地滑り(陸上・水底)、地震、津波、火山噴火、大雪、雪崩、紅雪、雹、台風(大風)、暴風雨、竜巻(辻風)、落雷、高波、高潮、旱害、低温、高温、蝗害、黄砂、飛砂、塩害、山火事等、そして、人為的災害―疫病流行、戦乱、火災(失火)、盗賊・海賊、略奪行為の発生等々、数え切れない程の災害が人々を襲い、人々はその都度、復旧、復興させながら、現在へと至る地域社会を形成、維持、発展させて来た。日本は湾曲した本州部分を主体とした島嶼国家であり、その周囲は水(海水)で囲まれ、高山地帯より海岸線迄の距離が短い。自然地形は狭小な国土の割には起伏に富む。その形状も南北方向に湾曲して細長く、本州部分の幅も狭い。日本では、所謂、「水災害」が多く発生していたが、それは比較的高い山岳地帯が多くて平坦部が少なく、土地の傾斜が急であるというこうした地理的条件に依る処も大きい。つまり、日本では古来、日常生活に適した安全な土地は少なく、折角営んでいた集落も被災し、消滅する可能性が大きかったと言うことができ得る。古代宮都の設定条件の1つとして盆地地形が選択されていたのも、中国由来の都城設計思想上に依る理由以外にも、そこへ流れ込む大河川が少なく、かつての日本でも頻発していたであろう「水災害」に対しては、比較的安全であったという現実的な事情も大きく関係していたことが想定されるのである。ただ、こうした地理的要因に依る自然的な災害も、人の活動に伴なう形での人為的な災害等も、発災当時の日本居住者≠日本人に無常観・厭世観を形成させるには十分な要素として存在したのである。文字認知、識字率が必ずしも高くはなかった近世以前の段階でも、文字情報を自由に操ることのできる限られた人々に依った記録、就中(なかんづく)、災害記録は作成されていた。特に古い時代に在って、それは宗教者(僧侶、神官)や官人等に負う処が大きかったのである。正史として編纂された官撰国史の中にも、古代王権が或(あ)る種の意図を以って、多くの災害記録を記述していた。ここで言う処の「或る種の意図」とは、それらの自然的、人為的事象の発生を、或る場合には自らの都合の良い様に解釈をし、加工し、更に、政治的、外交的に利用し、喧伝することであった。その目的は、正確な記録を取ること以上に、それらを独占し、災害対処能力を持ち得る唯一無二で、広域的版図を持った王権として、自らの「支配の正当性、超越性」を合理的に人民へ主張することであったものと考えられる。それは又、自らの政権が国を代表する王権であるとした意思表示でもあり、自負でもあったものと類推されるのである。日本に於ける「公儀」意識成立の瞬間であった。時期が新しくなり、取り分け、カナ文字(特にひらがな)が一般化する様になると、その文体とは関わり無く、私的記録としての個人日記(私日記)や、読者の存在を想定した日記、物語、紀行、説話集等、文学作品の中でも、各種の災害情報が直接、間接に記述される様になって行った。前者では、自らの住居が在る都や、自らの所領が存在する等、所縁(ゆかり)や権益関係のある場所に関わる発災、被災状況の記録が主体であるが、後者では、そうした関係性は殆(ほとん)どの場合には見られない。ただ、文学作品中に描写された災害情報が全て事実であったとは言い難い。しかしながら、それも最初から嘘八百を並べたものではなく、素材となる何らかの事象(実際に発生していた災害)を元にして描かれていたことは十分に考えられるのである。自らが被災したか、否か、現認情報であるか、伝聞情報かを問わず、そうでなければ、読者、受け手の共感を得、興味を引くことは困難であったものと考えられる。従って、文学作品中には、却って真実としての、当時の人々に依る対災害観や、ものの見方が反映され、包含されていたことが想定されるのである。筆者がかつて、『災害対処の文化論シリーズ Ⅰ ~古代日本語に記録された自然災害と疾病~』〔DLMarket Inc(データ版)、シーズネット株式会社・製本直送.comの本屋さん(電子書籍製本版)、2015年7月1日、初版発行〕に於いても指摘をした如く、都が平安京(京都市)に移行する以前の段階に於いては、国政運営に際して「咎徴(きゅうちょう)」の語が示す中国由来の儒教的災異思想の反映が大きく見られた。しかしながら、本書で触れる平安時代以降の段階に在って、表面上、それは影も形も無くなるのである。その理由に就いては、はっきりとはしていない。それを補うかの如く、人々に依る正直な形での対自然観、対災害観、対社会観の表出が、古記録や文学作品等を中心として見られる様になって来るのである。本稿では、以上の観点、課題意識より、日本に於ける対災害観や、災害対処の様相を、意図して作られ、又、読者の存在が意識された「文学作品」―「今昔物語集」をその素材としながら、「災害対処の文化論」として窺おうとしたものである。作品としての文学、説話の中に如何なる災異観の反映が見られるのか、或いは、見られないのかに関して、追究を試みることとする。これに加えて、それらの記載内容と、作品ではない(古)記録類に記載されていた内容に見られる対災害観との対比、対照研究をも視野に入れる。ここでは、既刊である『災害対処の文化論シリーズ Ⅷ 日本の古典に見る災害対処の文化論 ~日本的無常観の形成~』(販売:シーズネット株式会社、2021年6月30日初版発行)とも合わせて、日本の古典中に出現していた災異の様相を垣間見たものである。
著者
小林 徹
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.67-77, 2002-01-31

1994年9月下旬に岐阜県八尾津において,杉原千畝(1941年リトアニア日本外務省職員として勤務中,ユダヤ難民に日本通過ビザを発行して避難の手助けをした人物として知られる)の業績を讃える式典が挙行された。参加者の中には日系元米兵及び救出されたユダヤ人や子孫が含まれており,その式典に著者も参加する機会を得て,以来7年間にわたり日系米人(多くは二世の世代)との交流を通じて様々な歴史的知見を得ることができた。本論は小林がまとめた日系米人年表である。第2次大戦後の日米関係の改善にあたって,二世,三世を中心とする日系米人の果たした力の源泉をこの年表からくみとっていただけたら幸いである。若干のまとめは年表の末尾に記述する。