著者
小林 武
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会宮城県理学療法士会
雑誌
理学療法の歩み (ISSN:09172688)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.25-36, 2005 (Released:2005-04-27)
参考文献数
13
被引用文献数
1

統計解析は,研究や調査等の成果を読み手(あるいは聞き手)に納得してもらうために必要な科学的証拠を提示するための一手法であり,科学的根拠に基づく介入(Evidence-based Practice)を目指す理学療法にとって欠くことのできないものである。パーソナルコンピュータとソフトウエアの高性能化によって,誰でも比較的容易に統計計算が可能になったが,最も確かな証拠を手に入れるためには,データの種類や分布等の特性を把握して,それらに適した正しい統計手法を選択・適用しなくてはならない。この総説は,理学療法で扱う変数の具体例を挙げながら,統計手法の適切な選択について概説した。
著者
加藤 林太郎 浅川 翔子 山元 一晃
出版者
日本国際看護学会
雑誌
日本国際看護学会誌 (ISSN:24341444)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.23-34, 2021-03-01 (Released:2022-10-01)
参考文献数
11

目的:外国人看護師の受け入れや教育についての議論は、2008年に経済連携協定に基づいて始まった外国人看護師の受け入れを主軸として展開され、多くの知見が蓄積されている。だがその一方で、看護教育課程を持つ大学に在籍し、日本で看護師国家試験合格を目指す留学生(以下、看護留学生)については、その学びの過程に寄り添った教育や教材についての研究が未だ少ない。そのため、看護留学生が実際にどのような困難を抱えながら講義や実習などに臨んでいるのかは、分からない部分が多い。また、看護留学生への教育研究や教材開発には、そこに携わる教員の視点も欠かすことができない。そこで本研究では、特に困難が予測されるライティング教材の開発を見据え、授業、演習、実習などで看護留学生が困難と感じていると思われる事象を、看護教員へのインタビューの分析を通じて明らかにすることを目的とする。 方法:実際に大学の看護学部において留学生の教育に当たっている看護教員4名を対象にしたインタビューを、日本語教員がインタビュアーとなり行った。そして、そこで看護教員が看護留学生に対する教育において困難だと感じる点について語った発話を抜き出し、Steps for Coding and Theorization (SCAT)の手法で分析した。 結果:まず、インタビュー内の発話から延べ78の構成概念を抽出し、それを基にストーリーラインを作成した。その結果、「留学生に見られる問題点」「看護教育の特徴に起因する問題点」「教育制度・環境面の問題点」「看護教員自身の問題点」の四つの視点からストーリーラインが作成された。そして、それぞれを細分化することにより、看護教員が捉える看護留学生への教育上の困難点に関わる24の仮説を導くことができた。その仮説は、看護留学生向けライティング教材作成の有用性を示すものであった。また、教材の内容についても、ライティングの周辺的能力を取り入れる有用性が示唆された。そして、看護教員と日本語教員が協働で看護留学生の学びを支える重要さも示されていた。
著者
小山 玲音 出村 幹英 野間 誠司 林 信行 原口 智和 宮本 英揮 笹川 智史 龍田 典子 上野 大介
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.226-232, 2021-07-25 (Released:2021-11-14)
参考文献数
28
被引用文献数
4

気生藻類の一種であるスミレモTrentepohlia aurea (Linnaeus) Martiusは,スミレのような“におい”があることが知られている.スミレモのにおいの有無や強弱には生育地域や場所による多様性の存在が示唆されるが,これまでは定性的な観察が中心であった.本研究ではスミレモのにおい物質を同定することで,スミレモのにおいに関する基礎的な知見を提供することを目的とした.におい物質の同定には,におい嗅ぎガスクロマトグラフィー(GC-O)を含む“におい分析システム”を活用した.分析の結果,“良い香り”として特徴的なにおい物質であるα-テルピネンと2-ペンチルフランを同定した(2-メチル-6-ヘプテン-1-オールとβ-イオノンは仮同定).将来的にスミレモ類縁種のにおい物質をデータベース化することで,におい物質を利用した化学分類学の発展に貢献できると期待される.
著者
福本 理恵 平林 ルミ 中邑 賢龍
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.379-388, 2017-06-01 (Released:2019-08-21)
参考文献数
13
被引用文献数
1

ICT機器の普及はLD児の障害機能の代替を可能にしている。それと同時に法律と社会インフラの整備により,教科書など子どもたちが使用する紙の印刷物をアクセシブルな形でLD児に提供可能になった。これによりLD児の読み書きの負担は低減してきている。しかし,こういった技術発展と制度整備があるにも関わらず,特別支援教育やリハビリテーションは,治療訓練するアプローチが中心でICTを活用した代替に移行できないでいる。治療訓練は子どもによっては大きく効果を上げる場合もあるが全ての子どもに有効な訳ではない。効果のない訓練が学習の遅れをさらに拡大し,それが子どものモチベーションを低下させ,自己効力感を消失させることになる。一方,ICTを早期から導入することでLD児が高等教育に進学する事例が出てきている。ただし,ICT活用にも限界はある。それは,学習に大きな遅れが生じ,学習へのモチベーションを失っている場合は,ICTを導入したところで問題が解決するわけではない。こういった子ども達を学習に戻す事は容易ではなく,別のアプローチが必要となる。本稿では彼らのモチベーションを高め,現状の能力で学べる教材と場所を提供する取り組みを紹介し,今後のLD児への教育に求められる視点を展望した。
著者
小林 哲夫
出版者
特定非営利活動法人 日本火山学会
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.335-350, 2022-09-30 (Released:2022-10-27)
参考文献数
90

In the Kikai caldera, a major caldera-forming eruption, the Akahoya eruption (Ah eruption), occurred at 7.3 cal ka BP. It started with a plinian eruption (K-KyP), accompanied by a small intra-plinian Funakura pyroclastic flow (K-Fn). In the second eruptive stage, large Koya pyroclastic flow eruption (K-Ky) occurred, which covered the southern part of Kyushu with widespread co-ignimbrite ash (K-Ah (c)). These series of pyroclastic materials are collectively called Kikai-Akahoya tephra (K-Ah (T)). It has been thought that the Akahoya tsunami (Ah tsunami), occurred in connection with the Ah eruption. However, in outcrops below 50 m elevation in the proximal area of the caldera (~60 km), the K-Ah (T) was either replaced by Ah tsunami deposits of various sedimentary facies or completely eroded away by the same tsunami. The largest tsunami was therefore estimated to be due to the collapse of the caldera rim, which occurred some time after the end of the Ah eruption. On the other hand, in the Yokoo midden at Oita city, approximately 300 km from the caldera, it was considered that the K-Ah (c) was deposited immediately above the sandy tsunami deposit. However, the parent material of these distal Ah tsunami deposit is presumed to be K-Ah (r), which was transported and deposited from hinterland to the estuary, and was then incorporated and redeposited by the subsequent striking Ah tsunami. That is, the particles in the tsunami can be interpreted as separating and settling into two different layers, i.e. the basal sand layer and the upper K-Ah (r) set as the same tsunami deposit, due to differences in density. This interpretation is also supported by the chemical analyses of volcanic glass. Thus, the erosion and deposition either proximal or distal area of the caldera indicate that the largest Ah tsunami occurred some time after the Ah eruption. The caldera rim shows a double depression structure which was formed during the Ah eruption, and there are many channel structures on the caldera rim that suggest intense seawater movement. It is therefore highly probable that the sudden collapse of caldera wall after the Ah eruption is the cause of the tsunami, together with the run-up height near the caldera. However, it is not possible to estimate the time until the collapse that caused the Ah tsunami.
著者
林田 和之 堀 耕太 寺住 恵子 佐々木 妙子 原口 英里奈
出版者
一般社団法人 日本外傷学会
雑誌
日本外傷学会雑誌 (ISSN:13406264)
巻号頁・発行日
pp.35.3_11, (Released:2021-07-06)
参考文献数
16

【目的】消防職員に対してBleeding Control (以下B-Con) 教育の有効性を検討する. 【方法】professional first responder (専門的ファーストレスポンダー) となる消防学校救急科の学生80名に対し, 米国で行われているimmediate responders対象のStop the Bleed (以下STB) コースを行った. 受講前後の意識変化 (10段階自己評価形式 : リッカート尺度) を評価し, その結果で消防職員へのB-Con教育の有効性を検討した. 【結果】受講前後で比較すると, 技術・知識・教育のすべての項目で有意に上昇した. とくに他者指導の自信も有意に上昇した. 【結語】定期的な技能維持は必要ではあるものの, 消防職員に対しSTBコースによるB-Con教育は有効であり, 外傷初期診療体制におけるファーストレスポンダー教育を確実に行うために, 消防職員への教育を強化すべきである.
著者
林 伸和 森 直子 内方 由美子 是松 健太 可児 毅 松井 慶太
出版者
日本臨床皮膚科医会
雑誌
日本臨床皮膚科医会雑誌 (ISSN:13497758)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.434-444, 2021 (Released:2021-07-03)
参考文献数
9

過酸化ベンゾイルゲル(ベピオ®ゲル 2.5 %,以下,本剤)は,2014年12月に尋常性痤瘡を効能として承認された,抗菌作用および角層剥離作用を有する薬剤である.2015年7月より本剤の日常診療下における尋常性痤瘡に対する特定使用成績調査を実施し,観察期間12ヵ月間での安全性および有効性について検討した. 安全性解析対象症例の15.2%(169/1109例)に副作用が認められた.重篤な副作用として適用部位紅斑が1例認められたが,それ以外は非重篤であった.副作用発現症例169例すべてに,医薬品リスク管理計画で「重要な特定されたリスク」とされている皮膚刺激症状がみられており,そのうち119例は本剤使用1ヵ月以内に発現していた.女性や乾燥肌,敏感肌の症例等で皮膚刺激症状の発現頻度が高い傾向がみられたが,特に本剤の使用を回避すべき患者層はなかった. 全顔の皮疹数の減少率(中央値)は,12ヵ月後までの最終評価時において,炎症性皮疹が80.0%,非炎症性皮疹が66.7%,総皮疹が73.9%であった.また,最終評価時の全般改善度「著明改善」または「改善」と判定された症例は,顔面で71.4%(788/1103例),顔面以外で64.1%(59/92例)であった.Skindex-16日本語版を用いたquality of life評価において,症状,感情,機能および総合スコアの全てが本剤使用開始時と比べて3ヵ月後に有意に減少しており,本剤使用12ヵ月後においても減少状態が維持されていた. 以上より,本剤は実臨床において,急性炎症期だけでなく長期使用した場合にも有用な薬剤であることが示された。
著者
木庭 顕 桑原 朝子 松原 健太郎 中林 真幸 山本 隆司 加毛 明 金子 敬明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

昨年度に予告したとおり本年度は公共団体の問題に活動を集中した。その集大成は3月にKinch HoekstraとLuca Ioriを迎えて行われた「ホッブズとトゥーキュディデス」に関する研究会であり、事実上の締めくくりとなるに相応しい濃厚な二日間であった。つまり古典古代と近代をまたぎ、また国際間の衝突もテーマであったから国家間の問題、近代国家共存体制外の地域の問題、をも視野に入れた。ホッブズはまさに枢要な交点である。そのポイントで、公共団体立ち上げの条件を探った。ゲスト二人の報告は或る雑誌に翻訳して発表の予定である。また、研究代表者自身、この研究会に至る中で同時並行して一本の論文をまとめ、『国家学会雑誌』に発表した。後者は、このプロジェクトが深くかかわってきた法人理論がホッブズにとって有した意義をも論ずるものである。また、ともに、自生的な団体と深く関係するメカニズムである互酬性を、そのメカニズムの極限的なフェイズをホッブズがいかに利用しつつ克服するか、を追跡した。こうした考えをホッブズはトゥーキュディデス読解を通じて獲得した。彼が同じく翻訳したホメーロスを含め、ギリシャの社会人類学的洞察をバネにしたことになる。こうした見通しは、本研究会が遂行してきた広い比較史的視野を有して初めて持つことが可能になる。その意味では、今回の成果は、公共団体をターゲットとしてきた本年度の活動のみならず、全期間の活動の凝縮点である。付言すれば、教育目的ながら野心的な内容を含む拙著『現代日本公法の基礎を問う』も同一の軌道を回る惑星である。
著者
石橋 里美 林 潔 内藤 哲雄
出版者
日本応用心理学会
雑誌
応用心理学研究 (ISSN:03874605)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.218-226, 2022-03-31 (Released:2022-06-30)
参考文献数
29

This is a study that analyzed effects of self-oriented motivate and other-oriented motivate on career development among university students. A questionnaire that was asking "attitude toward self- and other-oriented motivation" and "career resilience" had been carried out to 316 students. And then pass-analysis had been conducted on the result above mentioned questionnaire on the assumption that "attitude toward self- and other-oriented motivation" might affect "career resilience". As a result of the analysis showed that only "integrating self- and other-oriented motivation" affected "novelty and diversity of interests", "optimism about the future", "social skills" and "ability to cope with problems and change" all of which are belong to subscale of "career resilience". A certain result showed that an importance of "integrating self- and other-oriented motivation" in the career development process.
著者
唐渡 弘起 徳田 和宏 竹林 崇 佐々木 庸
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.162-169, 2020-04-15 (Released:2020-04-15)
参考文献数
23

当院では脳卒中後の麻痺手に対し,課題指向型アプローチ(TOA)とTransfer packageおよび機能指向型アプローチ(IOA)とTransfer packageのプロトコルがある.今回,これらの差について報告する.対象はTOA+Transfer package群7名とIOA+Transfer package群6名でそれぞれの上肢機能(FMA)および麻痺手の使用行動(MAL/AOU,QOM)について比較検討した.結果,FMAは有意な変化を認めなかったが(p=0.18),MALはTOA群がIOA群に比べ有意な変化を認めた(MAL AOU:p=0.04,MAL QOM:p<0.01).よって,TOAは同じTransfer packageを実施したとしても,より効率的に練習で獲得した機能を生活に転移できる可能性が示された.
著者
林 雄亮
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.59-70, 2008-07-17 (Released:2013-12-27)
参考文献数
18
被引用文献数
1

労働市場の流動化は世代内移動,とりわけ転職行動の活発化と言い換えることができる.理論的には,転職行動の増加は労働市場の効率化とジョブ・マッチングの向上という意味から肯定的に捉えられてきた.しかし,実際の転職行動には転職後の賃金低下やキャリア形成の阻害となる可能性が存在し,どのような状況下でも個人にとって望ましい結果をもたらすとは限らない. そこで本稿では,労働市場の状況によって世代内移動の帰結が変化するプロセスについて,転職行動に伴う賃金低下構造の時代変化から考察する.転職に伴う賃金低下のメカニズムは先行研究の蓄積がなされているが,本稿の目的は時系列分析によって先行研究が問題にしてこなかった長期的トレンドを把握することである. 分析の結果,以下の知見が得られる.1950年代後半から2005年にかけて流動性の高まりと賃金低下率の上昇が確認できる.賃金低下メカニズムに関する多変量解析を時代別に行った結果,バブル経済期までの時代では企業規模間の下降移動のみが賃金の低下に強い影響を与えていたが,それ以降は,企業規模間の下降移動に加えて,非正規雇用への移動,会社都合による離職,前職勤続年数の長さが統計的有意に賃金の低下に寄与している.したがって,転職に伴う賃金低下構造にみる世代内移動の帰結は,1990年代以降大きく変化したのである.
著者
林 弘正
出版者
関西法政治学研究会
雑誌
憲法論叢 (ISSN:24330795)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.115-152, 2009-12-22 (Released:2018-01-10)

In this article, I have referred to the current state of child abuse in Japan and listed serious problems in solving from the viewpoint of the criminal law. The prevention of child abuse is indispensable to constructing of social systems and it needs multidisciplinary corporation with the other organizations and various occupations like the Multidisciplinary Team. We have to continuously study and share experience that leads to protect child from abusing and prevent child abuse. The childhood sexual abuse is one of child abuses that victims are forced to be imposed a lot of emotional burden and the most of victims has frequently suffered from PTSD. Especially in the case that perpetrators are father by birth or teacher. In such case the victims are forced more difficulties in recovery due to self-reproach. So childhood sexual abuse should be considered this status and take measures to prevent from the viewpoint of the public health. I would like to propose three new provisions for childhood sexual abuse in order to prevent childhood sexual abuse and regain the victim's self-esteem. 【Proposal 1】Make a new provision that the age of object raises from 13 to 14 in case of crimes of rape and forcible indecency. 【Proposal 2】Make a new provision to forbid childhood sexual abuse by a person who is at a certain position like a person being relatives, the one living with a child obliged to care for, or the one obliged to teach or guide.
著者
下林 俊典 大崎 雄樹
出版者
一般社団法人 日本生物物理学会
雑誌
生物物理 (ISSN:05824052)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.267-271, 2020 (Released:2020-09-30)
参考文献数
14

Recently, there is growing evidence in the field of cell biology that membrane-less organelles or condensates are formed by liquid-liquid phase separation (LLPS), as well as some types of membrane-bound organelles like lipid rafts and lipid droplets. Biophysical analyses are powerful and indispensable to elucidate those structures, dynamics and (dys)functions. Here, we combine in vivo intracellular imaging with in vitro synthetic biology and soft-matter physics, to show a new avenue for understanding the biophysics of LLPS-driven organelles. In this review, we particularly discuss macro-to-micro phase separation in lipid rafts and liquid-liquid crystal phase transition in lipid droplets.
著者
藤井 良知 平岩 幹男 野中 千鶴 小林 裕
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.592-601, 1986-06-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
14
被引用文献数
15 9

小林らの1966年から16年間の小児細菌性髄膜炎と比較し本邦に於ける1979年以降6年間の小児細菌性髄膜炎の現況を把握する目的で同じ施設107についてアンケート調査を行った.1,246名の症例を集計出来たが入院患者に対する比率は年次的に1984年の0.31%まで緩かな減少傾向を続けており, また地域差も見られた.新生児期24.8%と最も頻度が高く以降漸減するが4歳未満までに総数の84.7%が含まれ, この年齢別累積頻度は小林の報告と殆ど一致する.男女比は平均1.62: 1であった.起炎菌は3ヵ月未満の新生児・乳児ではE.coliとGBSが集積し, 3ヵ月以降ではS.pneimoniaeとH.influenzaeが集積してこの4菌種で菌判明例の70.1%を占め, 第5位のSmmsは各年齢に分散した.結核菌14, 真菌3, 嫌気性菌5などを除きグラム陽性菌と同陰性菌の比は1: 1.2であり少数宛ながら極めて多様なグラム陰性桿菌が検出された.髄膜炎菌22, リステリアは18件検出された.複数菌検出例は10例に認められた.起炎菌不明例は279例で年次的に3ヵ月未満群で菌判明率が梢高くなる傾向が見られた.