著者
伊勢 秀夫 飯塚 成美 小林 勝 立花 継信
出版者
公益社団法人 高分子学会
雑誌
高分子化學 (ISSN:00232556)
巻号頁・発行日
vol.28, no.319, pp.873-878,938, 1971-11-25 (Released:2010-10-14)
参考文献数
9

レコードの射出成形に適する材料と射出条件を求めるため実験した。材料としては塩化ビニル。酢酸ビニル共重合体, ポリメタクリル酸メチル, 特殊配合ポリスチレンをとりあげ, その流動性を測定し, 各材料の成形加工性をWeirの成形加工性のパラメーターαSTVにより比較した.そのなかでレコード材料として適している塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体について, レコード成形性およびSN比と混変調歪率に対する金型温度と型締力の影響について調べた。各材料の最適加工温度において, 塩化ビニル・酢酸ビニルはαSTVが最も小さい値を示し, 成形加工しにくいことを表わしているが, レコードとしてSN比や耐摩耗性等の音響特性が優れている。射出条件によるレコード成形性の影響をレコードの音溝底半径と音溝縁半径の変化によって調べた。レコード成形性およびSN比に対する金型温度の影響は大きく, 少なくとも40℃ 以上, 型締力も100ton以上を必要とすることがわかった。
著者
大林 真也
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.357-366, 2018 (Released:2019-09-28)
参考文献数
34
被引用文献数
1
著者
井上 和哉 佐藤 健二 横光 健吾 嶋 大樹 齋藤 順一 竹林 由武 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.101-113, 2018-05-31 (Released:2019-04-05)
参考文献数
34
被引用文献数
2

本研究では、スピーチ場面に対するウィリングネスの生起には、価値の意識化のみで十分であるか、それとも、価値の意識化の前に創造的絶望を付加することが必要であるかを検討した。社交不安傾向者の学生22名を創造的絶望+価値の意識化群、価値の意識化のみ群、統制群の3群に割り当て、介入効果の比較を行った。価値の意識化のみ群、統制群には創造的絶望を実施せず、回避行動が一時的に有効であることを話し合った。介入から一週間後のスピーチ課題時に、創造的絶望+価値の意識化群、価値の意識化のみ群には価値を意識させ、統制群には価値を感じないものを意識させた。その結果、創造的絶望+価値の意識化群のスピーチ場面に対する前向き度が統制群より増加した可能性が示された。また、創造的絶望+価値の意識化群のスピーチ場面から回避したい度合いが他群より減少した可能性が示された。
著者
廣岡 茂樹 外田 洋孝 小林 夕里子 折田 博之
出版者
日本静脈学会
雑誌
静脈学 (ISSN:09157395)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.71-77, 2013-02-25 (Released:2013-02-27)
参考文献数
34

●要 約:原発性鎖骨下静脈血栓症(Paget-Schroetter症候群)は静脈性胸郭出口症候群および特発性鎖骨下静脈血栓からなり,アルゴリズムに従った治療法が普及しつつある.3例の原発性鎖骨下静脈血栓症を保存的(血栓溶解療法,抗凝固療法)に治療し,1例は良好な鎖骨下静脈の開存を得ることができ,1例は狭窄を残したものの再開通を得ることができた.1例は鎖骨下静脈に閉塞を認めたが,豊富な側副血行路の発達を認めた.3例とも症状は完全に消失し社会復帰を果たした.本邦論文報告86例の中で,治療後の開存性の記載のある42例に関し検討し,本邦の治療の現状を概観するとともに,当院の治療方針を構築したので報告する.
著者
福岡 裕美子 駒井 裕子 林 成蔚
出版者
弘前大学大学院地域社会研究科
雑誌
弘前大学大学院地域社会研究科年報 (ISSN:13498282)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.57-63, 2016-03-18

社会的なつながりがほとんどない中高年化したニートを支える高齢の親の心配事を高齢者ケアに携わる専門職への実態調査から把握することを目的とした。S市社会福祉協議会が運営する介護保険サービス事業所で働くケアワーカーを対象にアンケート調査を実施した。調査期間は平成27年1月末から2月末。調査対象者数は146名。アンケート調査の内容は、①65歳以上の親(両親あるいは父親あるいは母親)と中高年化したニートが同居しているケースの担当の有無、②担当ケース数、③担当ケースの概要(自由記載)、④65歳以上の親の心配事(自由記載)の自記式質問紙にて実施した。倫理的配慮は、ケアワーカーが所属する事業所長への同意を得て、各ケアワーカーへのアンケート調査は回収をもって同意とみなした。倫理申請はT 大学研究倫理審査の承認を得た。アンケート調査の結果は、ここ1年で中高年化したニートがいるお宅を担当したことがあるケアワーカーは32名(43.8%)だった。担当ケースの概要が記載されていたのは23件だった。自由記載の内容は意味内容を変えずに1文節化してコード化し類似性のあるものにまとめた。その結果、親の心配事の内容は【親の年金に依存した生活】【ニートの病気の心配】【心理的負担感】【親の死後の生活の心配】【親戚への負い目】【親の過剰な保護】【助けてもらえる存在】【日常生活の不自由さ】というカテゴリに分類された。ケース概要の中にはニートから受けた相談の内容も含まれていた。内容は【親の介護の負担】【生活費の工面】というカテゴリに分類された。親以外の家族からの相談内容は【妹の行く末の心配】というカテゴリに分類された。ニートを支える高齢の親の心配事を把握することができた。また、親の心配事に関する調査であったが、ニート本人から受けた相談の内容も含まれていた。その内容から、親の介護のために離職し、そのまま社会との接点を失ってしまったケースがほとんどであると推察された。
著者
越後 宏紀 小林 稔 五十嵐 悠紀
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.2-10, 2022-01-15

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により,国内会議および国際会議においてオンラインによる学会発表が急増している.オンラインによる学会発表が定着したことで,感染症の感染が収束した後も,オンラインによる学会発表は1つの選択肢として残っていくと考える.オンラインによる学会発表の課題として,身振り手振りや目線,表情といったノンバーバル情報が伝わりにくいことがあげられる.本論文では,発表者の腰から上を投影した発表手法と2D CGのアバタを用いた発表手法を提案し,発表者のノンバーバル情報の有無が,聴講者にとってどれほど影響があるのかを調査した.比較実験を行い,発表者の腰から上を投影した発表手法が聴講者にとって印象が良い発表手法であることを確認した.
著者
竹下 和貴 林 岳彦 横溝 裕行
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.69-79, 2022 (Released:2022-02-09)
参考文献数
33

回帰分析は,説明変数の変動から目的変数の変動を定量的に説明しようとする統計手法である.回帰分析には,目的変数と説明変数の関係の記述,説明変数による目的変数の予測,目的変数に対する説明変数の介入効果の推定という3つの目的が存在するが,それら3つの目的の間で説明変数の選択基準が異なることに対して,国内の哺乳類研究者の理解はあまり進んでいないように思われる.また,哺乳類研究では,集団(例えば個体群)の平均だけでなく,平均から外れたもの(低順位個体など)も,重要な研究対象となり得る.しかし,これまでの国内の哺乳類研究では,目的変数の条件付き期待値に着目した回帰分析が半ば無自覚的に選択される傾向があり,それ以外の値に対する回帰分析は行われてこなかった.本稿では,記述,予測,そして介入を目的とした回帰分析における統計学的な留意点を整理するとともに,分位点回帰と呼ばれる,任意の分位点に対する回帰直線を推定することができる統計手法の導入による哺乳類研究の今後の発展性を記した.
著者
滝澤 恵美 鈴木 雄太 小林 育斗
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.127-132, 2018 (Released:2018-03-01)
参考文献数
14
被引用文献数
1 2

〔目的〕異なる股関節肢位でスクワットを行い,大内転筋が発揮する伸展トルクの特徴から役割を検討した.〔対象と方法〕健常男性1名が股関節内外転,回旋中間位(NS)と外転,外旋位(SS)でスクワットを行い,大内転筋と股関節伸展筋が発揮する伸展トルクを筋骨格モデルを用いて推定し,比較した.〔結果〕NSとSSともに,大内転筋や大殿筋,大腿二頭筋長頭が発揮する伸展トルクは半膜様筋や半腱様筋よりも大きかった.〔結語〕大内転筋は,前額面や水平面の股関節肢位に関わらず,中腰姿勢を伴う動作に対して抗重力筋の役割を有すると推察された.
著者
小林 豊 飯干 茜 渡邉 博文 井出 和希 堀内 祐希 手島 麻美子 中川 喜文 山口 安乃 小林 伸一郎 谷口 幹太 関 泰 榊間 昌哲 鈴木 豊秀
出版者
一般社団法人 日本腎臓病薬物療法学会
雑誌
日本腎臓病薬物療法学会誌 (ISSN:21870411)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.347-355, 2021 (Released:2021-12-29)
参考文献数
12

CKDシールは、腎機能情報共有により患者に有効かつ安全な薬物療法を提供することを目的に各地で検討されている。CKDシールに対する病院・薬局薬剤師のニーズに関する調査は存在するものの、患者が腎機能情報共有の必要性をどのように理解しているかは不明である。静岡県富士宮市でCKDシール貼付システムを構築するとともに、富士宮市立病院でシールを貼付した患者のニーズと、同地域における腎機能情報共有の現状と課題を調査した。2019年7月10日からの3か月間にお薬手帳にCKDシールの貼付を提案した228名の患者全員より同意を得た。医師と作成したプロトコルに基づく貼付を行った患者は62名(27%)であった。アンケートは入院患者、腎臓病教室受講患者、維持透析患者74名中67名(G3b/G4/G5/G5D=7/12/11/37、回答率91%)及び、腎臓病薬物療法の研修会に参加した薬局薬剤師20名中19名(回答率95%)から回答を得た。保険薬局で薬を貰った経験は患者51名(76%)が有したが、51名のうち腎機能を伝えた患者は10名(20%)のみであり、薬局薬剤師から腎機能を聞かれた患者は15名(29%)のみであった。一方、薬局薬剤師16名(84%)は検査値を入手できた時にのみ腎機能を確認していた。腎機能により薬を調節することへの患者の認知度は29名(43%)と低く、CKDシール貼付開始を全ての患者と薬局薬剤師が期待すると回答した。薬局薬剤師のCKDシール活用方法は用法用量等の確認だけでなく、患者とのコミュニケーションや生活指導が挙げられた。患者は薬局薬剤師に腎機能情報が必要との認識が低く、腎機能の共有はされていなかった。CKDシールが薬物療法適正化につながるだけでなく、腎機能情報共有の意義を患者に説明し理解を得ることで、CKDシールが貼られたお薬手帳の活用と薬剤師による腎臓病療養指導につながる可能性が示唆された。
著者
勝田 茂 神林 勲
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.111-120, 1989-08-01 (Released:2016-10-31)
被引用文献数
1
著者
大竹 裕香 奥村 優子 山田 祐樹 小林 哲生
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.243-253, 2019-06-01 (Released:2019-12-01)
参考文献数
17

Many studies have suggested that the knowledge of picture books possessed by caregivers predicts their children’s language abilities, reflecting the richness of linguistic inputs in shared book reading. Previous studies have measured knowledge of picture books by asking caregivers to check the items they know from the lists of titles and authors of popular picture books (Title/Author Recognition Test). However, these studies have been conducted only in English-speaking countries. We developed a Japanese version of the Title/Author Recognition Tests to measure the picture book knowledge of Japanese caregivers. In Study 1, Japanese caregivers completed questionnaires on title/author lists that we developed and some measures related to shared book reading. The results revealed significant correlations between recognition scores and measures related to shared book reading. In addition, the score on the title list correlated with the age of the eldest child, which reflects the length of child-rearing experience. In Study 2, we compared the recognition scores of the caregivers with students of a course on childcare worker training and students with little experience of caring child. The results showed that the recognition scores varied reflecting both child-rearing experience and childcare worker training. These results suggested the validity of the recognition lists we developed. Future research is needed to investigate whether the scores on the recognition lists are related to children’s language abilities.
著者
久野 智之 打田 佑人 宇佐美 寿彦 小林 晋 高田 幸児 大村 真弘 松川 則之
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
pp.10722, (Released:2019-11-26)
参考文献数
12

要旨:症例は21 歳の男性である.8 カ月前から男性型脱毛症に対してフィナステリドとミノキシジルを服用していた.ウエイトトレーニング中に突然,頭痛と視野異常を自覚した.視野検査では,左上四分盲を認め,画像検査では,右後頭葉に出血性脳梗塞を認めた.右後大脳動脈の塞栓症と考えられたが,塞栓源は明らかではなく,フィナステリドとミノキシジルの関与が疑われた.若年性脳梗塞を発症した場合,非認可薬を含めた服薬歴を詳細に問診する必要がある.
著者
粕田 晴之 福田 博一 池野 重雄 清水 禮壽 林 和
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.103-108, 1997-09-10 (Released:2010-07-21)
参考文献数
26
被引用文献数
3

手術室看護婦と麻酔科医師10人 (看護婦医師群) と臨床実習生10人 (医学生群) について, 擦式アルコール消毒剤 (ウェルパス®3ml;丸石), 電解酸性水 (超酸化水®流水式500ml・1分;シオノギ) あるいは手術用滅菌手洗い水 (流水式5l・1分) を用いた衛生学的手洗いを行い, 寒天培地接触法を用いて除菌効果を比較検討した. 電解酸性水については手洗い時間 (250ml・30秒, 500ml・1分, 750ml・90秒, 1000ml・2分) と除菌効果との関係も検討した.擦式アルコール消毒剤を用いた手洗いによる除菌率は看護婦医師群, 医学生群それぞれ96.4±4.5%, 91.2±9.9%と差がなかったが, 流水式電解酸性水による手洗いではそれぞれ90.5±13.5%, 37.3±69.0%と医学生群で有意に低かった.流水式手術用滅菌手洗水による手洗いでは除菌されず, むしろ菌数の増加がみられた. 電解酸性水による手洗い時間と除菌効果との関係では, 看護婦医師群で手洗い1分から手洗い時間依存性に生菌数の有意な減少が認められたのに対し, 医学生群では30秒で菌数の増加がみられ, 1分30秒後から有意な減少が認められた.擦式アルコール消毒剤による衛生学的手洗いは, 日頃手洗いを行っていない手指保菌数の多い医学生群に対しても看護婦医師群同様に有効な除菌法であることが示された.日頃手洗いを行っていない手指保菌数の多い医学生群が流水式電解酸性水による手洗いで有効な除菌を得るためには, 看護婦医師群よりも30~60秒長い手洗い時間が必要で, 手洗い対象を考慮した手洗い時間を設定する必要のあることが示された.
著者
小林 聡 石坂 克彦
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.265-267, 2014 (Released:2014-09-26)
参考文献数
7

症例は60歳代男性. 原因不明の微熱, 食欲不振に対してうつ病の診断で加療されていた. 全身倦怠感, 肝機能障害等を主訴に入院し, 精査の結果ACTH単独欠損症の可能性が考えられヒドロコルチゾン内服により症状は改善した. ACTH単独欠損症を含む慢性副腎皮質機能低下症には特異的な症状は無くプライマリ・ケアの場でも頻繁に遭遇する症状ではあるが, 疾患を想定し内分泌学的検査を行う事で診断・治療に結びつけ易い疾患であると考えられるので報告する.
著者
宮垣 さやか 長谷川 聡 梅垣 雄心 中村 雅俊 小林 拓也 田中 浩基 梅原 潤 藤田 康介 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0096, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】胸郭可動域制限は,肋間筋など胸壁に付着する軟部組織の柔軟性低下,呼吸筋の筋力低下,脊柱や肋椎関節の可動性低下などにより生じる。臨床現場においては肋間筋ストレッチングや肋椎関節の運動など,肋骨の動きの改善を目的とした胸郭可動域トレーニングが実施されており,呼吸機能の改善に有用であると報告されている。一方,呼吸時には胸椎も屈伸運動するといわれており,胸椎アライメントが呼吸機能に影響を及ぼすという報告もあるものの,胸椎後弯姿勢の改善を目的とした運動(胸椎伸展運動)が呼吸機能を改善させるという報告は見あたらない。さらには,頚部痛など整形外科疾患患者や脊髄損傷患者において,胸椎可動性の低下が呼吸機能低下に影響するとの報告もあることから,肋骨の動きの改善だけではなく,胸椎の伸展運動が呼吸機能を改善することが予想される。そこで本研究では,胸椎伸展ストレッチング(以下胸椎ストレッチ)が,脊柱アライメント,胸郭拡張性,呼吸機能に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は喫煙歴のない健常男性15名(平均年齢24±3.4歳)とした。胸椎ストレッチ前後に胸椎アライメント,呼吸機能,胸郭拡張差,上部および下部肋間筋・胸部脊柱起立筋の筋弾性率を測定した。胸椎アライメントの測定はSpinal mouse(Index社製)を用い,安静立位での胸椎後弯角度を測定し,胸郭拡張差は腋窩,剣状突起,臍レベルの三箇所で測定した。呼吸機能はAutoSpiro(ミナト医科学社製)を用い,安静立位で対標準肺活量(%VC),一秒量(FEV)を測定した。筋弾性率は超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製)のせん断波エラストグラフィー機能で測定し,各筋の筋腹に設定した関心領域の弾性率(kPa)を求めた。上部肋間筋は右側の鎖骨内側1/3から下した垂線上の第2肋間,下部肋間筋は右側の前腋窩線上の第6肋間,胸部脊柱起立筋は第6胸椎棘突起右側方1横指の部位にて,全て安静吸気位で測定した。胸椎ストレッチは,対象者の両肩甲骨下角の位置で背部を横断する方向に株式会社LPN製ストレッチポールハーフカット(以下ハーフポール)を設置し,その上に背臥位となりセラピストが肩関節前方から鉛直方向に3分間抵抗を加えた。統計学的解析は,第2・第6肋間の肋間筋と脊柱起立筋の3筋の弾性率,3箇所での拡張差,%VC,FEVについて,対応のあるt検定を用いて胸椎ストレッチ前後の値を比較した。なお,有意水準は5%とした。【結果】肺機能について,胸椎ストレッチ前後に%VC(前:90.0±10.1%,後:91.3±9.6%)は有意に増加したが,FEVは介入前後で有意な差は認められなかった。筋弾性率について,上部肋間筋(前:18.9±7.5kPa,後:14.7±6.4kPa),下部肋間筋(前:17.6±9.2kPa,後:13.8±7.3kPa),脊柱起立筋(前:18.1±9.9kPa,後:13.1±5.1kPa)は,介入後に有意に低下した。胸郭拡張差について,腋窩レベル(前:5.5±1.8cm,後:6.2±1.9cm),剣状突起レベル(前:6.7±1.9cm,後:7.7±2.0cm)で介入後に有意に増加し,臍レベルでは変化は認めなかった。胸椎後弯角度は,胸椎ストレッチによる変化は認めなかった。【考察】本研究の結果より,胸椎ストレッチは,肺活量を増加させ得ることが示された。胸椎ストレッチにより改善がみられると予想された胸椎アライメントは,介入による変化を認めなかった。一方で,各筋の弾性率の有意な低下から,胸椎ストレッチによって,上部および下部肋間筋,さらに,ハーフポールにより圧迫された脊柱起立筋の柔軟性が向上したことが示された。これにより,腋窩・剣状突起レベルでの胸郭拡張差が増し,上位胸椎部分の胸郭拡張運動が改善したことで肺活量が増加したと考えられる。これまでは主として肋骨の動きに関連の強い肋間筋にアプローチする手技が胸郭可動域トレーニングとして取り上げられ,これらの手技により呼吸機能が改善するという報告がされている。しかし本研究では,胸椎の屈伸運動に着目した胸椎ストレッチによっても上位胸郭可動性が向上し,呼吸機能が改善することが示された。また同時に,肋間筋のみならず,胸郭構成筋として着目されることの少ない,脊柱起立筋の柔軟性も,呼吸機能に関連していることを示唆する結果となった。【理学療法学研究としての意義】本研究では,これまで着目されることの少なかった,呼吸時の胸椎伸展運動を促すようなストレッチによっても胸郭可動性が改善することが示唆され,胸郭の可動性低下を認める拘束性換気障害に対する有用な治療手段の一つとなり得る可能性が示唆された。