著者
谷岡 哲也 浦西 由美 山崎 里恵 松本 正子 倉橋 佳英 多田 敏子 眞野 元四郎 山崎 正雄 友竹 正人 松下 恭子 上野 修一 大森 美津子 大浦 智華
出版者
香川大学
雑誌
香川大学看護学雑誌 (ISSN:13498673)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.65-74, 2007-03
被引用文献数
1

スティグマと疎外が精神疾患の治療と精神障害者の社会復帰を妨げていることが,精神保健上の問題として明らかにされている.地域住民の精神障害者との出会いの経験と精神障害者に対するイメージについて明らかにする目的で,郵送法による質問紙調査を行った.その結果,20代と30代の回答者の約50%が,精神障害者を意識した時期が小学校から高校であったと回答した.その当時の精神障害者のイメージは,否定的イメージが多かった.またその内容は,「変わっている」「こわい」が上位にあり,「普通の人と変わらない」は1割以下であった.回答者らが,実際に会ったことのある精神障害者は認知症のみであった.精神保健福祉施策は入院医療から地域ケアへと移行している.したがって,精神障害者やその障害について地域住民が理解する機会を我々は増やしていかなければならない.今後は,さらに若い年代から病院や施設等で精神障害者と日常的に交流を持てるような,ふれあいの場を作ることが重要である.また若い年代に対する精神障害者や精神障害に対する固定観念やスティグマを緩和ないし減少させるためのさらなる啓発活動が求められることが示唆された.
著者
須田 知樹 森田 淳一
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.231-241, 2014 (Released:2015-01-30)
参考文献数
27

本研究は,アカネズミ(Apodemus speciosus),ヒメネズミ(Apodemus argenteus),ハタネズミ(Microtus montebelli)の3種が混在する環境下において,正準判別分析を用いた足跡法による種の識別可否を検討した.捕獲した野生個体を飼育して得た足跡では,アカネズミは前足,後足どちらの足跡を用いても95%前後の識別精度が得られ,ハタネズミにおいては前足では85%,後足では90%以上の識別精度が得られた.しかし,ヒメネズミにおいては前足では20%,後足を用いても60%程度の識別精度しか得られず,前足では65%弱,後足では40%弱がハタネズミに誤判別された.さらに,2009年に栃木県奥日光地域において,アカネズミ,ヒメネズミ,ハタネズミの3種に関して,足跡法により得た足跡をこの正準判別分析を用いて種を識別して算出した足跡数と,捕獲法により得た結果を比較したところ,足跡法と捕獲法の結果の間にハタネズミにおいては有意な相関関係が見られたが,アカネズミとヒメネズミにおいては,有意な相関関係は見られなかった.足跡法は直接的に密度指標に用いることはできないが,費用対効果を考えれば,価値ある手法と言えるだろう.
著者
Franks Roger G.E. 森村 正直
出版者
THE SOCIETY OF INSTRUMENT AND CONTROL ENGINEERS
雑誌
計測 (ISSN:04500024)
巻号頁・発行日
vol.9, no.6, pp.361-364, 1959

アナログ計算機による模擬は,も早試用の時期を脱した.多くの大企業では,新設プラントの設計や構成,現存プラントの動作の解析などの問題を解くのにアナログ模擬を慣用している.<BR>もともと,アナログ計算機は軍事研究や航空関係で発展した.航空機や誘導弾の飛行動作を方程式によって解析的に解くことができることがわかったためその価値が認められたものである.これらの方程式をプログラムに組むと,アナログ計算機は,実際の航空機の動作と同じように動作する.すなわち,アナログ計算機は,検討しようとする系の動作を模擬するわけである.開発しようとしているモデルの設計や構成についての様々な新しいアイデアは,まず計算機で調査することによって,実物に直接適用したならば起らないとは限らない損害や危険などを防ぐことができる.<BR>これと同じことは,化学工業や石油工業でもいえる.これらの工業では,新しい装置や,極めて複雑な制御系統を採用してもあまり効果がないか,むしろ危険であることがあるからである.これらの場合,系統は余りに複雑なので,起動または定常動作を考察したり計算したりすることはほとんど不可能である.しかしながら,アナログ計算機は,必要な解析的な技法がすでに完全に確立されているので,まだ設計の段階にあるうちに上のような系統の動作を模擬することができる.何種類かの系統について調査を行って最良の解を見出し,さらに,なぜ他の解が悪いかという理由を定量的に出すことができる.
著者
牧 孝 中野 正博 隼田 和明 森田 浩介
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.19-51, 1980

バナジウム(<sup>51</sup>V)による陽子の弾性・非弾性散乱の実験を, 陽子エネルギー5.700-5.962 MeVで行った. 励起関数については, 測定角度90°, 105°, 118°, 135°, 150°, 163°の6点を入射陽子エネルギーのステップ2 keVで測り, <sup>51</sup>Vの基底状態から第4励起状態までの陽子グループの励起関数を得た. 角度分布は50 keVステップで測定した. 得られた散乱断面積は陽子の入射エネルギーによって大きなゆらぎ現象を現わしている. 解析は統計理論に基づいて行った. エネルギー相関, 角度相関, チャンネル間相関, 確率分布, 分散の解析から平均準位巾 <i>&Gamma;</i> は2.0 keV, 複合核の寿命 <i>&tau;</i> は3.3×10<sup>-19</sup>秒, 核半径係数r<sub>o</sub>は1.1.8×10<sup>-13</sup>cm, 有効チャンネル数N<sub>eff</sub>は5-25, が導けた. 核反応機構は統計理論, Hauser-Feshbachの複合核理論や光学模型による計算, および角度分布の解析から, 断面積のうち直接反応過程からの寄与の割合が(p, p<sub>o</sub>)反応では90-95%, (p, p<sub>1</sub>), (p, p<sub>2</sub>)反応では60-80%, (p, p<sub>3</sub>), (p, p<sub>4</sub>) 反応では<u>~</u>0%であることが分った.
著者
森 節子
出版者
近畿大学教養・外国語教育センター
雑誌
近畿大学教養・外国語教育センター紀要. 外国語編 (ISSN:21856982)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.187-203, 2011

[Abstract] There has been a plethora of research suggesting that extensive reading improves reading comprehension, reading speed, vocabulary development, and attitude towards reading. Anecdote after anecdote shows how effective extensive reading is, and nobody seems to repudiate the power of reading in quantity. However, with my own experience as a teacher encouraging students to read extensively, I frequently encounter situations where only a limited number of students end up reading a lot whereas the rest of the class read at less than an ideal rate. If that is a general trend, there can be a possibility that the claimed effectiveness may be produced largely by outliers. The results of the present study suggest that only 12 percent of the students read significantly more than required, and this group of students' reading behavior and motivation is quite different from that of the majority. As a result, they skewed the results of the analyses. In short, the findings of this study imply that especially studies with a small n size that include outliers as in this study need to be interpreted with caution. [要旨] 多読の効果を示す研究は枚挙にいとまがなく、大学においても多読を取り入れる教員が徐々に増えている。また、多読を授業で取り入れていない教員であっても、その効果を完全に否定することはないのではないだろうか。しかし、学生に多読を奨励しても、全ての学生が積極的に取り組むというよりは、ごく一部の学生が非常に熱心に多くの本を読むといった傾向が多く見られる。本研究では、そのように平均から極端に離れた読書活動をする学生が、多読研究に与える影響について考察した。その結果、特に小規模な多読研究においては、これらの学生が与える影響は小さくなく、多読の効果を報告する際には、注意すべきであることが示唆された。著者専攻: 英語教育学
著者
森下 正之
出版者
日本マネジメント学会
雑誌
日本経営教育学会全国研究大会研究報告集
巻号頁・発行日
no.59, pp.95-98, 2009-06-26

文系の大学生・大学院生・社会人が経済や経営系の論文や書籍を読解力低下が観察される。原因の一つが小学校の作文の基礎的訓練に問題と推察。論文・作文の構成法として漢文由来の「起承転結」の基礎教育を受けた大学生・院生・社会人の「コピペ(データーや文章の切り張り)」横行で熟考忘れた社会が懸念される。明治維新に日本語の近代化に関係か。今注目の水村美苗氏の「現地語の日本語が英語という普遍語を介して国語に確立された」旨の理論を援用し、原因の説明が可能。日本語近代化の過程で英語の作文(composition)の主要な考え方が採りいれられず、経済・経営系論文を英語に翻訳の場合ハンディとなり、経済学・経営学での国際的業績評価が低くいのも原因と推察。解決法の一つとして中間言語的国語に基づき、論理的な国語で書くための読解力(reading for writing)の具体的改善指導法を提示。文系の大学生・院生・社会人に対して、一流の専門家が執筆した、最新の経済・経営系の新聞・雑誌等小論文を教材に使い、小テストと宿題の連動課題を与える。結果的に、短期のメモリーを長期メモリーに変換のプロセスで受講者が自発的に時間を掛け、熱中し、熟考する。特に、小論文の対象となる話題・テーマはリアルタイムで発生のインパクトのある事象を扱い、唯一絶対の正解は存在しない。社会的、経済的テーマの論文から書かれていない(隠された)問題を特定する演習は、複眼的思考を鍛えることを意図する。但し、課題は教員・講師の時間的負担が大きいが、実学である経済・経営系の小論文の書くために開発された読解力の向上方法の有用性をここに提示する。
著者
的場達矢 馬場隆 成山隆一 松本秀一 森勢将雅 片寄晴弘
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS)
巻号頁・発行日
vol.2014-MUS-102, no.12, pp.1-5, 2014-02-16

VOCALOID などの音声合成技術の普及に伴い,歌声に関連する研究は活性化し,歌声情報処理と呼ばれる研究領域が定着した.また,歌声のうまさを自動採点する技術が実用化され,プロ歌手が 「うた」 の上手さを競う TV 番組が制作されるなど,歌のうまさについて興味が高まっている.Pops 歌唱の主要な表現対象の一つに 「グルーブ感」 が存在するが,その構成要因については明らかになっていない.本稿では,プロ歌唱者による 「グルーブ歌唱」 と 「非グルーブ歌唱」 の比較に基づいて,聴取者が 「グルーブ感」 を感じる要因が何であるのかについて検討した結果について報告する.分析の結果,子音長が 「グルーブ感」 の重要な構成要因であることが見いだされた.
著者
内山 恭輔 松田 健男 松森 豊己
出版者
一般社団法人 資源・素材学会
雑誌
資源と素材 (ISSN:09161740)
巻号頁・発行日
vol.109, no.12, pp.1082-1086, 1993-12-25 (Released:2011-01-27)
被引用文献数
2 3

The Oheyama plant of Nippon Yakin Kogyo Co., Ltd. was built here at Miyazu city in 1942, for treatment of low grade nickel oxide are (0.4-0.7% Ni) from nearby Oheyama mine by Krupp-Renn process. but at the end of war in 1945, the nickel smelting operation was stopped.In 1950, the Kawasaki plant of Nippon Yakin Kogyo Co., Ltd. succeeded in producing stainless steel for the first time in Japan by oxygen top blowing in an arc-furnace, paving the way to mass production of stainless steel. This achievement quickly increased the demand for nickel, an important raw material of stainless steel, making the Oheyama plant resume its operation in 1952 by switching to higher grade nickel oxide ores imported from New Caledonia. Thus Nippon Yakin Kogyo Co., Ltd. established a vertically-integrated production process from Ni smelting to finished stainless steel products for the first time in Japan.Since then the process of the Oheyama plant has been greatly modified and developed to establish “Nippon Yakin Oheyama Process”, the only method in the world that uses a rotary kiln for smelting nickel oxide ores.The nickel ores are first ground by both dry and wet methods and blended well with anthracite and limestone, to be formed into briquets. They are first dried and preheated efficiently in a grate directly connected with a rotary kiln and then charged into the kiln, where all the metallurgical reactions such as dehydration, reduction, slag-formation and refining by excess air near discharge end, occur to form ferro-nickel nodules (0.3-20mm).The Oheyama Process is considered a very useful method to obtain nickel material for stainless steel production, because its low energy cost as well as individuality of its product, easy to handle and almost free of impurities, help significantly reduce the cost of stainless steel production.The Oheyama plant is now producing 1, 150t of Ni as ferro-nickel a month, and besides, 35, 000t of byproduct, “NAS Sand” a month from slag, which is mainly used as public works materials such as asphalt aggregate, concrete aggregate and so on.Situated near Amano-hashidate, one of Japan's Three Famous Views, the Oheyama plant pays full attention to protecting the surrounding environment and to existing in harmony with nature.
著者
桑原 史明 平手 裕市 森 俊輔 高野橋 暁 八神 啓 臼井 真人 宮田 義彌 吉川 雅治
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.280-283, 2009-07-15 (Released:2010-04-07)
参考文献数
14
被引用文献数
2

症例は44歳,女性.不明熱の原因検索のため紹介された.血液培養でメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を検出し,心臓超音波検査で大動脈弁に疣贅を認め,Duke criteriaに基づき感染性心内膜炎(IE)と診断した.バンコマイシン(VCM)とイセパマイシン(ISP)により治療を開始したが,その後も高熱が続き,皮疹も出現したため,抗生剤をテイコプラニン(TEIC)に変更したが効果が見られず,最終的には,第22病日よりリネゾリド(LZD)に変更した.LZDに変更して1週間後には解熱し,心内膜炎に伴う塞栓症による血管炎も軽快した.大動脈弁膜症による心不全を薬物療法によって管理しながらLZDを28日投与し,その時点で,その副作用と思われる貧血を認めたためLZDの投与を中止してレボフロキサシン(LVFX)の内服に変更した.感染の再燃がなく,機械弁による大動脈弁置換術を施行した.LZDは手術直前に投与し,術後も15日間継続した.その後,LVFXの経口投与に切り替えて術後35日目に退院した.退院後も1年間感染の再発がなく経過している.リネゾリドはMRSA心内膜炎の治療法の一つとして有効であると考えられるが,その投与法や投与期間に関しては,さらなる検討が必要である.
著者
松田 健 佐藤 暁 森 健介 堤 利幸
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告. SLDM, [システムLSI設計技術] (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2007, no.2, pp.67-72, 2007-01-17
参考文献数
9

情報処理技術者試験で用いられている仮想計算機COMET IIとそのアセンブリ言語CASL IIは、シンプルで理解しやすい構造のため多くの教育機関でCPUやアセンブリ言語の学習に広く活用されている。しかし現在組込みソフトウェアの開発では、C言語でCPU制御プログラムを記述することが一般的である。しかし実用的なCOMET II用Cコンパイラはこれまでなかった。そこで本研究では実用レベルのCOMET II用Cコンパイラの開発を行い、C言語を用いたCOMET IIマイコンの制御を可能にした。
著者
森 裕
出版者
大阪大学
巻号頁・発行日
2006

14401甲第10815号
著者
橋本 好弘 森谷 きよし 大塚 吉則
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.109-119, 2008

消防活動は重装備の激しい活動であり,過労・ストレスによる隊員の死傷者が多い.本研究では,寒冷環境下における消防活動が隊員に及ぼす身体負担を経時的に分析し,休憩の必要性を検討した.北海道 S 市の消防隊員 71 名に対して 24 時間の拘束勤務中にホルター心電計を装着させ,消防活動中の心拍数変化を測定し,Wu <i>et al.</i>(2001)の maximum acceptable work duration(MAWD)でその負担を評価した.出動途上の平均最高心拍数は 145.5 拍/分であり,急激に心拍数が上昇していた.現場活動中の最大心拍数と活動時間には正の有意な(P<0.01)相関が認められた.小規模火災 2 件で MAWD を大きく超え,活動開始 5 分間の負担は平均で 92.6 並びに 93.6% heart rate reserve (HRR),活動全体の平均でも 72.3 と 70.2% HRR であった.災害現場での消防隊員の死傷事故減少には,寒冷環境下の小規模火災でも,火勢制圧後,隊員に休憩・交替を与え,過労・ストレスを軽減させる必要がある.<br>
著者
中野 禎 村西 壽祥 新枦 剛也 片岡 紳一郎 阿曽 絵巳 森 耕平 中土 保 伊藤 陽一
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100776-48100776, 2013

【目的】丸山らにより作成された患者立脚肩関節評価法Shoulder36 Ver.1.3(Sh36)は、計量心理学的検証を経た肩関節疾患に対する包括的患者立脚評価とされており、36項目の質問により構成されている。Sh36による評価は患者の主観に基づく評価シートであり、EBM確立に大いに役立つ評価法として期待されているがSh36に関する報告は少ない。本研究の目的は、Sh36における機能領域の主観的評価と肩関節に障害をもつ術前患者の機能実測値評価と関連性について調査し、評価シートの妥当性について検証することである。【方法】対象は肩関節疾患を有する術前患者117名(男性62名、女性55名、平均年齢63.2歳)117肩で、その内訳は腱板断裂55名55肩(腱板断裂群)、インピンジメント症候群41名41肩(インピンジ群)および拘縮肩21名21肩(拘縮群)であった。術前機能評価として、visual analogue scale(VAS)を用いた痛みの評価、肩関節可動域測定、筋力評価ならびにSh36評価シートによる自己回答を実施した。VASは運動時痛を評価し、可動域測定は自動屈曲および自動外転とした。筋力評価はベッド上背臥位、肩関節外転0°、肘関節屈曲90°、前腕中間位を測定肢位とし、ハンドヘルドダイナモメーターを用い、外旋および外転筋力をそれぞれ3秒間の等尺性運動を3回行わせ、その平均値を測定値とし、患側/健側比を算出した。次にSh36で機能領域にあたる3項目「可動域」、「筋力」および「疼痛」の重症度得点有効回答の平均値を算出し、Spearmanの順位相関係数にてそれぞれの客観的実測値可動域(自動屈曲、自動外転)、筋力(外旋および外転筋力)及びVASの関連性を検証した。また疾患別で同様の検討を行った。【説明と同意】対象者には本研究の目的を文書と口頭にて説明し、同意書に自署を得た後に術前機能評価、評価シートへの回答を実施した。【結果】全疾患117肩を対象にした場合、可動域ではSh36と実測値の相関係数は自動屈曲、自動外転でそれぞれ0.59、0.61、筋力は外旋筋力、外転筋力で0.47、0.45、疼痛は-0.42であり、有意な相関関係を認めた(p<0.01)。また疾患ごとの検討において、腱板断裂群は可動域が自動屈曲、自動外転ではそれぞれ0.63、0.60、筋力は外旋筋力、外転筋力で0.55、0.44、疼痛は-0.45と有意な相関関係を認めた(p<0.01)。インピンジ群は可動域が自動屈曲、自動外転で0.53、0.60、筋力は外旋筋力、外転筋力で0.49、0.54、疼痛は-0.53と有意な相関関係を認めた(p<0.01)。拘縮群は可動域が自動屈曲、自動外転で0.49、0.57有意な相関関係が認められ、筋力や疼痛に有意な相関関係は認められなかった。【考察】本研究により、Sh36と客観的実測値には中等度の関連性がみられたが、疾患別では腱板断裂群が可動域において、インピンジ群では可動域および疼痛において、相関が高かった。これらは疾患の特徴を反映するものであり、腱板断裂群では自動屈曲、外転制限が日常生活上の困難性を示し、インピンジ群ではインピンジメントによる疼痛誘発を示す評価としてSh36の有用性を認めた。しかし、拘縮群は筋力と疼痛において客観的実測値とSh36は相関が弱かった。その理由として、Sh36の筋力領域は「患側の手で頭より上の棚に皿を置く」、「患側の手でバスや電車のつり革につかまる」など他4項目、疼痛領域は「患側の手でズボンの後ろポケットに手をのばす」、「テーブル上の調味料を患側の手を伸ばしてとる」など他4項目が質問項目として設定されている。拘縮群は自他動とも可動域制限をきたしているため、可動域制限が原因で質問項目の動作が行えないことが考えられ、必ずしも筋力や疼痛が影響しているとはいえない。また、拘縮肩患者は痛みが生じない代償動作を獲得している可能性も考えられ、領域別平均値と客観的実測値に乖離が認められたと考える。このことから、Sh36は肩関節疾患の一般的評価としてその有用性は認められるものの、疾患によっては客観的実測値を反映しない可能性について留意すべきである。Sh36は日常生活の実態を捉えたものであるため、日常生活における代償機能獲得による機能改善指標としての評価ツールとしても有効であると考える。【理学療法学研究としての意義】主観的評価と客観的評価の関連性を検証することにより、治療者側のみの判断を回避でき、患者満足度を考慮した評価、治療技術発展のために有意義と考える。