著者
鷹嘴 亜里 飯嶋 一侑樹 森谷 祐介 鈴木 南帆 倉橋 慎太郎 山川 信子 高橋 若生
出版者
日本神経治療学会
雑誌
神経治療学 (ISSN:09168443)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.30-34, 2019 (Released:2019-07-10)
参考文献数
9

身体疾患で入院した認知症患者に対する認知症ケアサポートチーム(以下ケアチーム)の役割について検討を行った.対象は,ケアチームが介入した65歳以上で,かつ認知症生活自立度III以上の130例(平均年齢86±6歳)とした.入院の原因は肺炎,骨折が多く,行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD)が67%の症例で認められた.ケアチームによる介入は入院後平均9.1日で開始され,介入期間は平均34.0日間であり,その内訳は看護ケア単独57%,看護ケア+薬剤調整40%,前者+家族指導3%であった.介入終了時,BPSDは改善64%,不変35%,悪化1%の割合であった.自宅から入院した症例のうち,退院後自宅へ戻ったのは46%で,54%は転院もしくは施設に入所した.BPSDを伴う認知症の入院患者に対しては,認知症の専門知識を持った多職種からなるケアチームのサポートが有用と思われる.
著者
森口 弘美 井口 高志 太田 啓子 松本 理沙 モリグチ ヒロミ イグチ タカシ オオタ ケイコ マツモト リサ Moriguchi Hiromi Iguchi Takashi Ohta Keiko Matsumoto Risa
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Social science review (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.123, pp.83-99, 2017-12

研究ノート(Note)本稿では,知的障害者と一緒に取り組んだ調査活動を紹介し,インクルーシブリサーチの観点から検討を加えた。その観点とは,1)言語だけに頼らない多様な方法を用いること,2)知的障害者のポジティブな変化,3)障害のない人の変化である.今後我が国においては,知的障害者が自らの権利や差別といった問題をテーマとした調査研究にアクセスしたり,そのプロセスに参加したりできる状況を作っていく必要がある.In this paper, we introduce the research activity "What kind of cafeteria everyone likes to go?" in which we tried to research with people with intellectual disabilities, and reconsider the research activity in some aspects related to Inclusive Research. The aspects are 1) Various methods not limited to languages, 2) positive change of people with intellectual disabilities, 3) change of people without disabilities. In Japan, few inclusive research has been done. It is necessary to make people with intellectual disabilities to be able to access and participate in researches on their own rights or discrimination.
著者
朝倉 俊成 名取 和幸 江森 敏夫
出版者
一般社団法人 日本くすりと糖尿病学会
雑誌
くすりと糖尿病 (ISSN:21876967)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.69-76, 2015

ハイリスク薬であるインスリン製剤やGLP-1受容体作動薬の種類を,患者が識別して使用することは医療安全において極めて重要である.そこで,薬剤の効力や使用時期などのイメージに適合する注入器の色彩を把握するため,色彩の異なる注入器に対するイメージに関するインターネット調査を行った.対象者は4年齢層(9-12歳,20代,40代,70代)のそれぞれについて男女各103名(計824名)とした.13色の注入器の画像を提示し,"薬剤のイメージに適合する注入器の色彩"の選択と"注入器の色によるイメージ"を評価させた.回答結果を多変量解析を用いて分析し,色彩とイメージとの対応関係を明らかにした.結果を総合的に判断し,2種類のインスリン製剤とのイメージの整合性が高く,相互の識別性も高い注入器識別色を以下のように検討した.白色は汚れやすさの点で問題はあるが,「安心」「落ちつき」「信頼」「親しみ」などの印象もあり,本体のベース色などには好ましいといえるが,いずれのイメージに対しても選択率が高いため,識別色としての条件には不適である.赤は速効型製剤のイメージとの適合性が高く,持効型のイメージはもたれにくいので識別色としては優れている.しかし,赤のイメージには「痛そう」「こわい」といったネガティブな印象の選択率が高く,注入器に用いる色として望ましいとはいえない.その結果,速効型インスリンに相応しい識別色には,赤とピンク以外の暖色系が適すると考える.一方,持効型は,「長くゆっくりと効く」「寝る前に合う」との適合性が高い水色や青といった寒色系が好ましいと考える.ただし,速効型と持効型の2種の識別性を高くするためには,それぞれの色の調整と組合せを吟味することが必要である.
著者
森松 健介
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
no.82, pp.1-28, 2015

ジョン・クレア(1793-1864)とトマス・ハーディ(1840-1928)には明らかな共通性がある。両者とも社会派作家として社会悪の《真実》を暴いた。クレアに上位階級批判が多いと同じく,ハーディは初期小説から社会派的批判を濃厚に示し,中期,また特に後期小説では上位階級批判を主題とした。詩においてもハーディのギボン(Edward Gibbon, 1737-94)礼賛も社会悪の直視だ。《真実》を語れば文筆家は弾圧されるという感覚は両者に顕著である。それでも二人共,農村労働者の勤勉と優しさを描き,具体例としてはクレアの農耕馬,ハーディの馬車馬描写が酷似し,また荒れ地の植物ヘザーと針エニシダも二人の共通の愛を受けている。クレアは旧式のパストラルを批判したが,これはハーディが『緑の木陰』で実践した。その小説の最終章冒頭の緑の木の蔭とクレアの詩の類似は驚くべきだ。クレアの荒地変貌への嘆きもハーディに受け継がれた。最後に,クレアの「原野」と「恋と記憶」を読み,二人の郷土愛・恋愛観の類似を示した。
著者
中山 智晴 松岡 隆成 岩村 玲那 山﨑 裕司 森野 勝憲 和田 譲 有澤 雅彦
出版者
学校法人高知学園 高知リハビリテーション学院
雑誌
高知リハビリテーション学院紀要 (ISSN:13455648)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.23-26, 2017-03-31 (Released:2019-07-10)
参考文献数
27

今回,Pusher現象と重度認知症を有する左片麻痺患者に対する段階的難易度設定の技法を用いた移乗動作練習方法を考案した.移乗動作時に著明な突っ張りを認めた症例に対してその方法を適応し,その効果についてシングルケースデザイン(AB法)を用いて検証した.介入前移乗動作では著明な突っ張りを認め,重度の介助を要した.18病日から介入を開始し,10日で車椅子~ベッド間の移乗が監視下で可能となった.介入前後の10日間では,身体機能に大きな変化がないことから,移乗動作の獲得は病態の回復によるものではなく,動作学習に依存したものと考えられた.学習の困難性を有する本症例において短期間のうちに移乗動作能力を向上させられたことから段階的な難易度設定による無誤学習は,有効に機能したものと考えられた.
著者
稲垣 貴彦 森田 幸代 大川 匡子 辻川 知之 山田 尚登
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.27-32, 2010-01-15

抄録 潰瘍性大腸炎は大腸粘膜の炎症性疾患であるが,粘膜障害の重症度と臨床症状の重症度との間にかい離がみられる場合があり,心理社会的ストレスへの曝露や人格の偏りが臨床症状の重症度や再燃に関与すると考えられている。 我々は,潰瘍性大腸炎の緩解と再燃を繰り返した後に大うつ病性障害を合併し,認知療法を試みたところ,潰瘍性大腸炎の消化器症状の緩解期間の延長が得られた症例を経験した。粘膜病変には変化がないにもかかわらず,それまで再燃を繰り返していた潰瘍性大腸炎が緩解状態を維持していたことから,認知療法的かかわりが潰瘍性大腸炎の消化器症状に対し軽減効果を示したと考えられる。 潰瘍性大腸炎は,併存する精神疾患に対してだけではなく,その身体症状に対しても精神科医が多分に治療的関与するべき疾患であると考えられたので報告する。
著者
山本 陽平 三谷 純 福井 幸男 金森 由博
出版者
一般社団法人 映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会技術報告 (ISSN:13426893)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.13-16, 2012
参考文献数
4

平面多角形で表される複数のピースを並び替えて異なる2通りまたはそれ以上の数の形を作り出すパズルを、シルエットパズルと呼ぶ。このパズルに対して、我々は与えられた問題を解くことに着目することが多い。ここで本研究は、問題を作ることに着目して、複数の形を入力すると、その形を構成するピース群を自動生成するシステムを提案する。入力は、同じ数の正方形をグリッド状で構成した複数の形とする。また、一般的に単色の形を扱うシルエットパズルの表現の幅を広げるために、着色された形を取り扱えるようにする。システムはそれらを既存の裁ち合わせの手法を用いて、複数のピースに分割する。本研究の貢献として、着色が可能な拡張と、多角形を用いた入力の支援の提案、その際に多角形の一部を保持したピースを形の一部として扱う形状の拡張が挙げられる。提案手法を1つのシステムとして実装し、パズルの解とする形の入力からピースの自動変形を行い、その妥当性を評価した。
著者
森田 明夫 UCAS II研究者グループ
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.7, pp.484-490, 2011-07-20 (Released:2017-06-02)
参考文献数
13
被引用文献数
16 10

目的:未破裂脳動脈瘤は無症候性疾患であり,治療合併症を最小限に抑える努力が必要である.日本における未破裂脳動脈瘤治療の詳細なデータを得るべくUCAS IIを開始した.中間成績を示す.方法:2006年に31施設からオンラインで前向き登録された1,059例を対象とした.登録時,3ヵ月,12ヵ月,60ヵ月の経過観察登録の予定である.全症例の詳細な画像データ,各登録時の生活の質(SF-8,SF-36,EQ5D),治療前後の高次脳機能(MMSE),診療開始後1年間の総治療費を計測している.結果:治療は558例に施行され,開頭術81%,血管内治療19%であった.重篤な合併症はmodified Rankin scale 2ポイント以上の低下が25例(4.5%)に認められ,MMSEの24以下への低下を含めると5.3%であった.治療予後はサイズ,部位,クモ膜下出血既往により有意に影響された.SF-8,SF-36,EQ5Dで測定された生活の質は術前後に大きな変化は認められなかった,治療に要する費用は1年間で約200万円であり,血管内治療が有意に高額であった.結語:日本における未破裂脳動脈瘤の治療成績はおおむね良好である.しかし大型動脈瘤や椎骨脳底動脈瘤の治療成績はいまだ不良であり,今後さらなる治療技術の向上およびリスクコミュニケーションの改善が必要である.
著者
内野 權次 三好 茂樹 森山 利治 小林 正幸
出版者
筑波技術短期大学学術国際交流委員会
雑誌
筑波技術短期大学テクノレポート (ISSN:13417142)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.75-80, 2002

筑波技術短期大学の聴覚部では通常の学内放送の代わりに、ケーブルテレビシステムを利用して開学時から文字と画像を中心とした学内広報〔1〕〔2〕や、学生に必要な様々な情報伝達を行ってきた。またこの設備は、通常のテレビ放送を受信し、再転送放送も行っており、時代の変遷に伴って用途に応じた様々な改善や機能増設を施しつつ活用されている。ここ数年間に一般のテレビ放送局においても、聴覚障害者のための情報保障として字幕放送番組が増えつつある。また、放送大学でも本学と単位互換協定を結んで、昨年から字幕入りの講義科目を開設している。一方全日本ろうあ連盟では独自の聴覚障害者専用デイジタル衛星放送「目で聴くテレビ」を平成12年度から開始した。そこで本学では、これを期に学生達が寄宿舎の個室で様々な学習情報や生活情報など、字幕放送を通じてより多くの知識が吸収出来るよう設備の改善充実を実施した。その内容について報告し、活用状況と運用上の課題および今後の検討事項などについて触れてみたいと思う。
著者
森山 昭雄 江口 亜希
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.136, 2004

この春の地理学会で,中道 (2004)は,瀬戸市海上の森で,地形地質の立場から花崗岩地域と土岐砂礫層地域において森林植生の違いを定量的に調査した結果,花崗岩地域はコナラ・アベマキが優位な生長の良い森林,砂礫層地域はアカマツが優位な生長の良くない森林にはっきりと分かれ,花崗岩地域は砂礫層地域の3倍もの生長量(材積)の差があることを明らかにした.地質(地形)の違いが明瞭に森林植生に表れることは,他の地質でも起こっているのではないかと考え,今回は中・古生層の上に土岐砂礫層を乗せる濃尾平野北東縁丘陵地において,地質(地形)と二次林植生との関係を明らかにするために調査を行なった. 調査地点は,標標高の増大に伴う気温の低下など気候的影響を少なくするため高300m以下の地域で,斜面の方位により地表面での水や熱の配分が変わるその違いをなくすため,地形的位置は南向きの斜面とした.地質としては,土岐砂礫層地域,中・古生層の主としてチャート地域および中・古生層の主として砂岩地域の3地域とした. さらに,1947年撮影の米軍航空写真を判読し,樹木が一様に伐採されて丸刈り状態になっている場所で,それ以降人為的な手入れが行なわれていない森林とした.これは,遷移のスタートが同じ時期である二次林の,その後の生長を比較するためである.また,現地調査により,新しい崩壊がない二次林で,広い範囲を代表する植生地点とする.本研究では斜面の一連の変化と植生との関係を見るため,上部斜面,中間斜面,下部斜面を選定した. 毎木調査は,方形区内の樹高が1.4m以上のすべての木本について,樹木の種類を同定し,個体数,胸高直径,樹高を測定する.高木層・亜高木層・低木層に分類し,樹冠投影図を作成した. 土壌に関しては,土壌断面形態を調べ,A層厚,貫入深,土壌水分量,土壌pHを計測した.調査地点のA層とB層の土壌を持ち帰り土壌中の養分を蒸留水に溶出させこの土壌水をイオンクロマト法(日本ダイオネクス社製)によりイオン分析を行った. 毎木調査を基に森林植生を定量的に分析した結果,地質別に見ると,土岐砂礫層地域がコナラ・アベマキなどの落葉広葉樹の生長が最もよく,チャート地域ではアカマツ・クリが優勢で生長が悪いこと,砂岩地域ではヤマザクラ・アラカシが優勢である.地形別に見ると,下部斜面が最も生長がよく,上部斜面が悪い.生長量の違いは材積の違いからも明らかである.遷移のスタートが同じであるにもかかわらず,植生に違いが生じるのは土壌の影響が大きいと考えられる.土壌は,岩石の風化によって生成されるため,地質によって土壌の養分量が異なる.また,土壌の粒度の違いにより孔隙量,透水性,水分量が異なる.そのため,その土壌条件に耐えられる根を持つ植物が優先的に生長する.その結果,高木層の樹種が異なり,これが低木・亜高木の植生に影響を与え,全体的な樹種の違い,生長量の違いとなったと考えられる.つまり,地質による植生の違いは,土壌養分量の違いだけではなく,土壌の透水性など性質の違い,樹木の根の性質の違いなどによる影響も受けていると考えられる.地形による植生の違いは地質の影響より小さいが,上部斜面と中間・下部斜面では明らかな植生の違いがみられ,斜面位置の違いにより生長量(材積)も異なっている.上部斜面は排水が盛んであるため,水分量が中間・下部斜面に比べて明らかに少ない.そのため,乾燥に強いアカマツが優先的に生長し,上部斜面では中間・下部斜面とは異なった植生になったと考えられる.また,中間・下部斜面は,A層厚,土壌養分量の違いが生じている.砂礫層地域では根を深く張るコナラの生長が良い.根を深く張るため,土壌が厚く,地上部の生長を促進する窒素やマグネシウムが多く含まれる下部斜面で生長がよい.一方,チャート地域では,根を浅く張るリョウブの生長が良いため,土壌養分量が多く, A層が厚い下部斜面の生長がよい.以上のように,地形による植生の違いも,土壌養分量の違いだけでなく,土壌の厚さや根の性質の違いによる影響を受けていると考えられる.
著者
岡部 幸子 森本 泰宏 田中 達朗 安細 敏弘 高田 豊 竹原 直道 大庭 健
出版者
九州歯科学会
雑誌
九州歯科学会総会抄録プログラム
巻号頁・発行日
vol.66, pp.9, 2006

高齢者のパノラマX線写真上で検出された茎状突起の長さ及び形状の臨床的意義を検討する。8020データバンク構築の疫学調査で集められた659名の80歳のパノラマX線写真を対象に茎状突起の長さの計測及び形状のパターン分類を行った。被検者の全身状態に関する各種データ(骨密度、血圧、心電図の異常の存在、心拍数、血清カルシウム値及び身体的スタミナ)に関して、茎状突起の長さとの間で関連性の有無を検討した。80歳における茎状突起の長さはパノラマX線写真上0.0 mm から153.0 mmで左右には有意差はなく、男女間では有意差を示した。形状のパターンは、MacDonald-Jankowskiの分類中、パターンEに属するものが、次いでパターンDに属するものが多く認められたが、男女間に有意差はなかった。茎状突起の長さと各種データに関する関連性は、血清カルシウム値と骨密度に関連性を示し、他には明らかな関連性はなかった。高齢者のパノラマX線写真を読影する上で我々歯科医は茎突舌骨靱帯の骨化に伴う茎状突起の変化について把握しておく必要がある。同時に、顕著な骨化を来している症例は血清カルシウム値の上昇を意味する可能性があることを考慮しておくべきである。
著者
森川 敏生 松尾 一彦 八幡 郁子 二宮 清文 村岡 修 中山 隆志
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.56, 2014

<p>1.はじめに</p><p> ケモカインは,白血球やリンパ球などの免疫担当細胞の細胞遊走を誘導するサイトカインとして広く認識されており,現在までにヒトにおいては50種類近くのリガンドと18種類のシグナル伝達型受容体が知られ,さらに5種類のスカベンジャー/デコイ型受容体も存在する.ケモカインにはよく保存された4つのシステイン残基が存在し,そのうちのN端側の2つのシステイン残基が形成するモチーフにより,CXC,CC,CX3CおよびXCの4つのサブファミリーに分類される.これらのケモカインは免疫応答の制御にとどまらず,アレルギー疾患,自己免疫疾患,感染症やがんの病態発症においても重要な役割を果たしていることが明らかとなっている.近年,種々の疾患の発症や増悪などのキーファクターとなるケモカインおよびその受容体が解明されるにつれ,新たな創薬ターゲットとしてケモカイン受容体アンタゴニストの探索が精力的に展開されている.アレルギー疾患の発症や増悪に関与するケモカイン受容体として,CCR3,CCR4およびCCR8が挙げられる.これらのなかでCCR3は,好酸球の最も主要な遊走制御因子であり,好酸球,好塩基球およびTh2細胞の一部に選択的に発現する (Figure 1).<sup>1,2)</sup> </p><p> </p><p> </p><p> 我々はアレルギー疾患をはじめとした難治性炎症性疾患の新たな治療薬シーズの探索研究として,これまでにi.肥満細胞のモデル細胞であるラット好塩基球性白血病細胞(RBL-2H3) を用いた抗原刺激による脱顆粒抑制活性およびTNF-αおよびIL-4産生抑制活性,ii.マウス受身浮腫アナフィラキシー (PCA) に対する抑制作用 (in vivo),iii.マクロファージ様 RAW264.7 細胞を用いたリポ多糖 (LPS, lipopolysaccharide) 誘発一酸化窒素 (NO) あるいはiNOS 発現抑制活性,およびiv. HL-60 細胞由来好中球様細胞からの fMLP (N-formylmethionyl-leucyl-phenylalanine) 刺激による脱顆粒抑制活性,などを指標として検討してきた.<sup>3)</sup>これらの生物活性評価試験において見いだされた天然資源について,単一のケモカイン受容体のみを遺伝子工学的に過剰発現し樹立したケモカイン受容体安定発現細胞株を用い,細胞遊走阻害活性を指標として種々のケモカイン受容体に対するアンタゴニストの探索を行った.その結果,薬用のみならず香辛料として食用にも用いられるメース[ニクズク科(Myristicaceae) 植物Myristica fragrans Houtt. 仮種皮]のメタノール抽出エキスに,CCR3選択的なアンタゴニスト活性を見いだしたことから,その活性寄与成分の探索に着手した.</p><p>2.メタノール抽出エキスのケモカイン受容体アンタゴニスト作用試験</p><p> マウスB細胞株L1.2 細胞を用い各種ケモカイン受容体を過剰発現させた細胞株を樹立し,ケモタキシスチャンバーを用いた細胞遊走抑制作用を指標にアンタゴニスト作用を評価した.すなわち,各発現細胞を細胞遊走バッファー (0.5% BSA,20 mM HEPES pH7.4,RPMI-1640 without phenol red) で洗浄を 2 回行った後,8 × 10<sup>6</sup> cells/mL となるように懸濁した.リガンドとなるケモカインを細胞遊走バッファーで希釈して下部ウェル</p><p>(View PDFfor the rest of the abstract.)</p>
著者
若杉 晃介 藤森 新作
出版者
農業・食品産業技術総合研究機構農村工学研究所
雑誌
農村工学研究所技報 (ISSN:18823289)
巻号頁・発行日
no.208, pp.67-74, 2008-03

平成19年(2007年)3月25日9:42頃に石川県能登半島沖を震源としたM6.9の地震により、輪島市、七尾市、穴水町では震度6強を観測し大きな被害が出た。農地については不陸や亀裂の発生、畦畔の崩壊、用水路では砂の流入、目地外れ等が発生した。本地域は農業が基幹産業であることから、早急な補修工事を必要とした。本報告では、輪島市および穴水町における、水田の被災状況と復旧状況、及び調査地区の自然的条件や水田の整備水準、区画形状等と不陸や亀裂の発生状況の関係を考察した。なお、本調査は農林水産省農村振興局防災課からの派遣要請により平成19年4月17〜19日に実施し、水稲の作付け時期を迎えた平成19年5月16〜19日に追加調査を行った。
著者
森 一幸 中尾 敬
出版者
長崎県農林技術開発センター
雑誌
長崎県農林技術開発センター研究報告 (ISSN:18848605)
巻号頁・発行日
no.4, pp.51-72, 2013-03

1)赤肉バレイショ「西海31号」は,加工適性が高い品種である。春作マルチ栽培における慣行栽培(2月上旬植付け,5月中旬収穫)では,主要品種「デジマ」,「ニシユタカ」に比べて収量性が低いことから,多収かつ商品化率が高い安定生産を可能にする栽培条件(栽培期間,被覆資材,栽植密度)および芽出し作業の省力化について検討した。2)2月下旬植え付けでは,慣行栽培(2月上旬植付け,5月中旬収穫,透明マルチ)に比べ,被覆資材の種類に関わらず出芽期は遅れ,収穫時の茎葉の黄変も遅れた。3)2月下旬植え付け6月上旬収穫では,慣行栽培に比べ,上いも重は増加した。4)透明マルチを用いた栽培では,生育日数の延長により,慣行栽培に比べ,二次生長発生重量率が増加するが,黒マルチを用いた栽培では慣行栽培と同等な発生率で,透明マルチよりも商品重量が高かった。5)6月上旬収穫では黒マルチ,黒メデルシートとも,標準植に比べ,密植により平均1個重は小さくなるが増収し,さらに,二次生長重量率が低下するため,商品重量は高くなった。6)バレイショ「西海31号」の栽培の高収量を実現する栽培条件(栽培時期および被覆資材)は,植え付け時期を2月下旬,収穫時期を6月上旬とし,黒マルチあるいは黒メデルシートを使用し,慣行栽培よりやや密植することである。7)黒メデルシートの利用あるいは機械移植栽培により,芽出し作業時間を大幅に削減でき,慣行栽培と同等な収量が得られた。