著者
的場 康徳 村田 久行 浅川 達人 森田 達也
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.321-329, 2020 (Released:2020-11-30)
参考文献数
17
被引用文献数
1

【目的】がん患者の終末期医療に携わる医師のスピリチュアルペイン(SPP)を明らかにする.【方法】医師の臨床体験レポートを記述現象学と3次元存在論で分析した.【結果】すべてのレポートで医師のSPPが抽出され,時間性,関係性,自律性に分類された.とくに医師の意識の志向性が,がん治療や症状緩和の限界や患者の訴えるSPPに対応できないことに向けられ,それが医師としての無力・無能として現れる自律性のSPPが大多数を占めた.自律性のSPPの体験の意味と本質は,[治療(キュア)の限界に直面している自己が無力として現れる][患者のSPPに対応できない自己が無力として現れる][自分を取り巻く外的な環境の問題(過重労働や教育の不備など)が原因で自己の無力が生じる]という三つの構造で示された.またキュアの限界で医師が患者に会いづらくなる,避けるという体験は医師の自律性のSPPへの対処(コーピング)の可能性が示唆された.
著者
森田 理仁
出版者
総合研究大学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

適応度に最も強く影響を与える出生率の自発的な低下を伴う少子化は,ヒトの行動や生態を理解する上で大きな課題である.以下,特別研究員研究報告書に記載した内容をもとに,主要な成果を中心に報告する.研究1:子どもの数をめぐる父母間(夫妻間)の性的対立ヒトにおいても,出産や子育てに伴うコストは男性よりも女性の方が大きいため,父母間で性的対立が生じていると予測される.そして,配偶者の変更が可能な配偶システムのもとでは,欲しい子どもの数は男性よりも女性の方が少なくなると予測される.これらのことから,「女性の社会進出により,少ない子どもを望む女性の意思決定が男性より大きな影響力をもつようになれば,出生率は低下するのではないか」という仮説を立て,アンケート調査を子育て支援施設において行い検証した.その結果は,予測に反して,多くの場合,父母間で欲しい子どもの数は一致していた.また,子どもをもつことに対して,両親の希望が等しく重視された夫婦が最も多かった.これらの結果から,現在の社会では養育費の負担などによって,配偶者の変更に伴う男性のコストが非常に大きいことが考えられる.研究2:出産の起こりやすさに影響を与える要因生活史戦略の理論からは,子育てにとって好条件になった時に出産が多く生じていると予測される.本研究では,『消費生活に関するパネル調査』のソースデータを用いて,この予測を検証した.分析の結果,こちらも予測に反して,子育てにとって好条件になった時に出産が多く生じていることはなかった.さらに,子どもがすでに二人居ると,その後の出産が急激に起こりにくくなることがわかった.二人という子どもの数は,進化的には非適応的なレベルに少数であるため,今後はこの背景をさらに探求する.その他,数理モデルを用いて,子どもの質をめぐる競争的社会環境や,繁殖以外の選択肢の魅力が出生率に与える影響を研究した.
著者
大森 雅子
出版者
日本ロシア文学会
雑誌
ロシア語ロシア文学研究 (ISSN:03873277)
巻号頁・発行日
no.34, pp.1-8, 2002

ブルガーコフの代表作『巨匠とマルガリータ』(1928-1940)には,彼と同時代の宗教思想家で数学者,また物理学者で芸術学者でもある神父フロレンスキーの著作『幾何学における虚数性』(1922)の影響が見られると言われている。しかしながら,両者の影響関係に関する具体的な研究は皆無に等しい。本稿では,『幾何学における虚数性』で展開されるフロレンスキー独自の宇宙論が,『巨匠とマルガリータ』のプロットとテーマに見出し得ることを明示したい。
著者
松森 靖夫 一瀬 絢子
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.271-277, 2015
被引用文献数
1

本研究では, 計121人の小学校教員志望学生を対象に, 月の見かけの位置と観測時刻に関する認識調査を行った。具体的には, 計7種類の月の見かけの形(三日月, 上弦の月, 十二日月, 満月, 十八日月, 下弦の月, 及び二十六日月)を取り上げ, 夜間の肉眼観測によって見えはじめる位置と時刻, 及び見えなくなる位置と時刻について問うものであり, 質問紙法を用いて実施した。<BR>調査の結果, 科学的に認識できていた小学校教員志望学生は, 満月において約5%であり, 他の6種類の形においては皆無であった。また, 月の見かけの位置と観測時刻に対する小学校教員志望学生のプリコンセプションも認められた。
著者
宮崎 彰吾 皆川 陽一 沢崎 健太 飯村 佳織 脇 英彰 田原 伊織 吉田 成仁 赤岩 忠孝 佐保田 満美 田村 憲彦 藤岡 隆司 森野 一巳
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.254-265, 2019 (Released:2020-07-13)
参考文献数
20
被引用文献数
1

【背景】欠勤には至っていないが、 様々な徴候や症状で労働遂行能力が低下している労働者の状態 (プレゼンティーイズム) が、 企業に多額の損失を与えている。 しかし、 包括的かつ実効性のある労働衛生対策は未だ提示されていない。 そこで、 鍼治療を含む施術費用への助成が労働者のプレゼンティーイズムに有用であるか中間解析した結果を報告する。 【方法】プレゼンティーイズムと自覚しているオフィスワーカーを対象として、 4週間のランダム化群間比較試験を行い、 各職場において励行されている通常のプレゼンティーイズム対策を任意で行う対照群、 通常の対策を任意で行うことに加えて鍼治療を含む施術に要した費用に対して最大8,000円まで助成を受けることができる介入群、 のいずれかに割り付けた。 主要評価項目はWHO-HPQの相対的プレゼンティーイズム値 (1から低下するほど労働遂行能力が低下していることを意味する) で、 最大の解析対象集団を対象に解析した。 【結果】52例を介入群30例と対照群22例とに割り付けた。 介入群では、 首や肩のこり (67%)、 腰痛 (26%)、 うつ (5%)、 アレルギー (2%) に対して鍼治療を平均1.4回受療して合計7,219円支払い、 6,556円の助成を受けた。 その結果、 相対的プレゼンティーイズム値は対照群0.91に対して介入群0.95で、 群間差は0.04 (ES(r)=0.22、 P=0.12) であった。 【結論】プレゼンティーイズムと自覚しているオフィスワーカーに鍼治療の費用に対して4週間に合計最大8,000円助成する、 と提示すると平均1.4回受療し、 提示しない場合と比べて労働遂行能力が約4% (一人当たり19,691円に相当) 向上することが示唆された。
著者
堤 一郎 池森 寛
出版者
一般社団法人日本機械学会
雑誌
日本機械学会九州支部講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2010, no.63, pp.11-12, 2010-03-15

In this report, a short history and outline of wooden four wheel third class coach built by the Kokura works of Kyushu Railway Company in Fukuoka Prefecture will be explained. This wooden coach was constructed in 1897 and German-made; Van der Zypen & Charlier, same type coach became an example of it. Domestic-made this coach has been preserved at the Kyushu Railway Museum, Kitakyushu-city from 2004. Contents of this report are as follows. 1) A short history and outline of this domestic-made wooden four wheel third class coach. 2) Results of field study and relational analysis on the preserved two wooden four wheel coaches. 3) Significance on the history of technology of this wooden coach and conclusion of this report.
著者
松﨑 秀隆 原口 健三 吉村 美香 森田 正治 満留 昭久
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.57-61, 2015 (Released:2015-03-18)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

〔目的〕実習教育の現状を把握するために,臨床実習における不当待遇の有無を調査した.〔対象〕実習を経験した最終学年に在籍する全学科の学生159名.〔方法〕実習終了直後に,自記式の質問用紙を用いて調査を行った.内容は,「言葉による不当な待遇」,「身体へおよぶ不当な待遇」,「学業に関する不当な待遇」,「セクシャルハラスメント」,「性差別の経験」および「他科または他職種との関係」の領域である.〔結果〕全学科において不当待遇が認められ,その割合は理学療法学科59.7%,作業療法学科53.3%,言語聴覚学科61.5%,看護学科88.8%,視機能療法学科35.0%であった.〔結語〕本邦での,実習における医療系学生に対する不当待遇調査は殆どない.今後も実習教育方法の構築に向けた継続研究に努めていきたい.
著者
中森 一郎
出版者
大谷学会
雑誌
大谷学報 = THE OTANI GAKUHO (ISSN:02876027)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.1-25, 1998-01
著者
阿部 孝哉 河本 大地 森口 洋一
出版者
奈良教育大学
雑誌
奈良教育大学紀要. 人文・社会科学 = Bulletin of Nara University of Education. Cultural and social science (ISSN:05472393)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.73-85, 2020-12

The purpose of this study is to clarify the effect of game materials on the alleviation of disgust tendency toward geography learning in junior high school social studies. First, we analyze the effects and challenges of games "Momotaro Dentetsu" as a tool for geographic learning. Next, game teaching materials "Kyushu Quiz Tour" created based on the analysis results are put into practice for junior high school students. Then, based on the image of students practicing the game materials and the results of the subsequent questionnaire, we examine what kind of game materials are effective in mitigating the detestation tendency of geographic learning. As a result, by developing the class using the game teaching material, it was possible to give stimulation to the class which tends to advance in the same form every time. And it was proven that the detestation tendency was eased by attracting the interest of the students and repeating the experience which made the geography learning to be fun. In addition, playing games with other students has the potential to lead to the formation of human relationships.
著者
東 美穂 冨樫 耕平 大森 由紀乃 山本 淳一
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.235-247, 2021-09-30 (Released:2022-01-12)
参考文献数
11

本研究では、発達障害のある幼稚園年長児に対して、「家族」「先生」「友達」とのコミュニケーション行動の獲得を支援する家庭用教材を作成し、オンライン発達行動支援を実施した。課題間多層ベースライン法を用い、カテゴリーごとの介入効果を検討した。支援者が母親に対して行った半構造化面接をもとに、標的行動を選定した。支援者はプローブ試行のみを実施し、母親が家庭トレーニング試行の実施者となった。その結果、3種類のコミュニケーション行動が獲得され、100%に近い正反応率で推移した。1カ月後フォローアップでも高い値を示した。母親の満足度調査の結果からは、高い満足度と低い負担度が得られた。
著者
木内 大佑 久永 貴之 萩原 信悟 阿部 克哉 長田 明 東 健二郎 杉原 有希 沼田 綾 久原 幸 森田 達也 小川 朝生 志真 泰夫
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.169-175, 2019 (Released:2019-07-30)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

研究目的は緩和ケア病棟入院中の難治性せん妄患者に対する,クロルプロマジン持続皮下注射による有効性を観察することである.2013年7月〜2014年5月において2施設の緩和ケア病棟で,せん妄に対し規定量以上の抗精神病薬治療が行われているにもかかわらずDelirium Rating Scale Revised-98(DRS-R-98)≥13で,クロルプロマジン持続皮下注射で治療したすべての患者を対象とした.評価は治療開始前と48時間後と7日後に行い,DRS-R-98<12となる,もしくはDRS-R-98が低下しかつCommunication Capacity Scale(CCS)≤2であるものを有効例とした.評価対象84名中60名(71.4% 95%CI:61-80%)が有効例であった.CCSの平均値は治療前後で1.48から1.03に改善した(p<0.001).持続皮下注射の安全性についてはCommon Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE)注射部位反応でGr2以上は1名(1.2% 95%CI:0-7%)であった.難治性せん妄患者に対するクロルプロマジン持続皮下注射は,コミュニケーション能力を保ったまま,せん妄重症度を増悪させない可能性がある.
著者
佐藤 三佳子 前村 公彦 髙畑 能久 森松 文毅 佐藤 雄二
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.182-185, 2012-04-15 (Released:2012-05-31)
参考文献数
26
被引用文献数
4 3

カルノシン,アンセリンを高濃度に含有する鶏肉抽出物の摂取が,中高齢者の筋力にもたらす影響を検討した.中高齢者20名を2群に分け,鶏肉抽出物をそれぞれ一日量に1 500 mg(カルノシン,アンセリンの合計量として225 mg)もしくは0 mgを4週間継続摂取させた.摂取期間の前後に,等速性膝最大伸展力,膝最大屈曲力,および開眼片足立ちの保持時間を測定した.その結果,鶏肉抽出物群において,有意な膝最大伸展力の向上,開眼片足立ち保持時間の延長が認められた.これらの結果より,カルノシン,アンセリンを含有する鶏肉抽出物の摂取は,中高齢者の筋力の向上に有効であると考えられた.
著者
森 大樹 井口 綾子 仁平 守俊 石橋 弘志 高良 真也 武政 剛弘 有薗 幸司
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第34回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.5001, 2007 (Released:2007-06-23)

合成香料である合成ムスクは、洗濯洗剤、石鹸、化粧品等の家庭用品の芳香化合物として年間約5,000t生産されており、世界中で広く使用されている。欧米では新たな環境汚染物質として注目されており、近年の研究では、水環境、大気環境中での存在が確認され、ヒトの脂肪組織や母乳中からも検出が報告されている。これらの化合物は、脂溶性が高く生体内で加水分解されにくいため生体への生物濃縮性が憂慮される。本研究では、合成ムスク類である6-acetyl-1,1,2,4,4,7-hexamethyltetraline(AHTN)および1,2,4,6,7,8-hexahydro-4,6,6,7,8,8-hexamethylcyclopenta-γ-2-benzopyran(HHCB)をヒト遺伝子と高い相同性があり、ヒトへの影響解析モデルとしても有用とされている土壌自活線虫C. elegansを用いた各種毒性試験法および新たに約80種のチトクロームP450(CYPs)遺伝子群をスポットした自作カスタムチップを用いて、DNAマイクロアレイによる発現変動遺伝子解析を行った。 実験には、野生型線虫を用い、AHTNおよびHHCBはDMSOに溶解して試験物質とした。溶媒対照群をDMSO0.1%として、同調・孵化させたL1幼虫を24時間曝露し、mRNAを抽出した。対照群をCy3、曝露群をCy5で蛍光標識し、CYP遺伝子群の発現変動解析を行った。対照群と比較して、変動倍率が2倍以上の遺伝子を誘導遺伝子とし、2分の1以下の遺伝子を抑制遺伝子とした。 AHTN、HHCB曝露後のCYP遺伝子群の発現変動解析を行った結果、AHTN、HHCBに共通してCYP14群およびCYP34群、CYP35群の発現誘導が確認された。一方、両化学物質曝露によるCYP遺伝子群の発現抑制は認められなかった。これらから、多環ムスク類はヒトへの曝露影響も憂慮されることから今後、詳細に検討する必要があると思われる。
著者
池田 弘 櫻間 教文 黒住 順子 大森 一慶 荒木 俊江 真鍋 康二 福島 正樹
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.115-122, 2019 (Released:2019-02-28)
参考文献数
27
被引用文献数
1

銅欠乏症による種々の血球減少症を併発した透析患者5例を経験した. 男女比は1 : 4, 平均年齢は76歳, 平均透析歴は5.2年, 原疾患は糖尿病2例, 多発性囊胞腎1例, 腎硬化症1例, 不明1例, 併存症は誤嚥性肺炎3例, 脳神経障害2例, アクセス感染2例, 大腸癌術後の低栄養状態1例, 化膿性脊椎炎1例であった. 1例で経腸栄養, 4例で亜鉛製剤投与が行われていた. 診断時の血中銅, セルロプラスミンの平均濃度は26.6μg/dL, 12.6mg/dLで, 汎血球減少症2例, 貧血+血小板減少2例, 貧血のみ1例であった. 3例に硫酸銅, 1例に純ココア, 1例に銅サプリ投与を行い, 全例, 血球減少が改善した. 透析患者ではリン制限に伴う銅摂取量減少, 亜鉛補充による腸管での銅吸収抑制から健常人より銅欠乏をきたしやすいと考えられる. ESA抵抗性の貧血や複数系統にわたる血球減少症をみたときは, 銅欠乏も念頭において診療を行う必要があると考えられた.
著者
森 一生
出版者
北翔大学
雑誌
北翔大学北方圏学術情報センター年報 (ISSN:21853096)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.143-149, 2012

『人々が生きる気力を取り戻す場所としての劇場』,『様々な人が出会い新たなコミュニティーを生み出す場所としての劇場』の構築の動きは,ここ数年,国や地方自治体や中央のアーティスト,研究者などの『声』となって論じられている。(その例,劇作家・演出家で,内閣官房参与でもある・平田オリザ氏は,2010年7月6日「劇場/新時代への展望」と題し,札幌市(かでる27)で講演。また,2010年12月5日にも札幌(キューブガーデン)で(第一部)「芸術立国から10年,演劇の未来」と題し講演。(第二部)『創造都市』をめざして新しい動きを展開する上田文雄・札幌市長と対談。など)にもかかわらず,残念ながら国レベルでも,地方自治体レベルでもその構築の動きは,「頓挫している」と言えないだろうか。一方,教育の現場では,文部科学省が,2010年5月,文部科学副大臣の主催による「コミュニケーション教育推進会議」を設置し,子どもたちのコミュニケーション能力の育成を図るための具体的な方策や普及のあり方について議論し,その審議経過報告をまとめている。そこでは「コミュニケーション能力が求められる背景」として,①社会の変化と子どもたちに求められる能力,②子どもたちの現状や課題,③新しい学習指導要領における言語活動の充実――等が述べられ,「効果的な手法・方策」が提案され,平成22年度から予算化され,実施されている。ところが,(道内の)各学校,地域の教育委員会,など「教育の現場」では,この動きに対する認識は「希薄」であり,その動きは,「鈍い」といわざるを得ない。私ども,舞台芸術プロジェクトは,その研究・実践活動の一つとして『人々が生きる気力を取り戻す場所としての劇場』,『様々な人が出会い新たなコミュニティーを生み出す場所としての劇場』の構築を目指して,研究・実践を続けているが,その実践例として2011年6月,ニセコ町・有島記念館で上演した『老船長の幻覚』について考察・報告したい。