著者
森川 洋
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.7, pp.455-473, 2005-06-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
31
被引用文献数
1 1

日本の「平成の大合併」にとって参考にすべき点があると考え,連邦国家ドイツにおける市町村地域改革と市町村の現状について調査した.市町村地域改革が1960~1970年代に実施された旧連邦州では,「市民に身近な政治」が重視され,当初漸移形態と考えられた市町村連合は単一自治体にほとんど移行することなく今日まで存続している.一方,1990年代に旧連邦州を模倣するかたちで実施された新連邦州の市町村地域改革では,いまだ小規模村が多く残存する州もあるが,市町村連合の多くは経済的利益を考慮して将来単一自治体に移行するものと考えられる.
著者
森田 匡俊 奥貫 圭一
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.2, pp.82-96, 2006-02-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
22
被引用文献数
1

境界効果とは,分析対象とする地域境界の定め方が分析結果に与える影響のことであり,いくつかの問題がある.本稿では,そのうち特に,地域境界によって定まろ対象地域の大きさが分析結果に与える影響に焦点を当てて検討を行う.境界効果の既存研究では,平面上でのK関数法の実践における境界効果は扱われているものの,ネットワ-クK関数法の実践における境界効果は,いまだ検討されていない.そのためネットワ-クK関数法の実践には,境界効果によって分析結果から誤った解釈を行ってしまう危険がある.本稿では,まずネットワ-クK関数値の振る舞いを一直線上のモデルとして構築し検討した.次に愛知県日進市の道路ネットワ-クとコンビニエンスストアの立地点分布を利用して,一般のネットワ-ク上のネットワ-クK関数値の振る舞いと境界効果の関係式を導出した.
著者
森山 昭雄 鈴木 毅彦 加古 久訓 中村 俊夫
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.13, pp.924-939, 2004-11-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
28
被引用文献数
1

岐阜県高富低地において,ボーリング資料を用いて推定した地下構造と,1本のオールコア・ボーリング中の広域テフラおよび化石ケイソウ群集の分析から,堆積環境の変遷にっいて考察した.高富低地を構成する高富層(新称)は,下位から高富基底礫層,高富下部泥層,高富軽石質砂層および高富上部泥層に分けられる.上部泥層および下部泥層は湖成堆積物であり,上部泥層からはK-Ah,AT,Aso-4の広域テフラが検出された.高富軽石質砂層からは御岳火山起源の御岳第一浮石層(On-Pm1)および御岳藪原テフラ(On-Yb)などが検出され,高富軽石質砂層は木曽川流域に広く分布する木曽谷層に対比される.テフラの年代から古木曽川は,約100ka頃に美濃加茂付近より関市をまわる流路を通り,当時湖の環境であった本地域に高富軽石質砂層を一時的に流入させたと考えられる.オールコア・ボーリング資料が得られた西深瀬では,約31kaから現在まで泥炭湿地の環境が続いた.また,梅原断層以南の鳥羽川低地には,長良川が最近まで流下していた可能性が高い.
著者
森田 晴香 菅村 玄二
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.85, no.5, pp.437-444, 2014 (Released:2014-12-25)
参考文献数
43
被引用文献数
1 2

Bibliotherapy has occasionally been used as a counseling technique. However, most reports are basically single-case studies and the psychological effect of this approach remains unclear. Two experiments using 96 healthy college volunteers were conducted to determine how the reading of emotionally positive, negative, or neutral passages affect one’s mood and level of distraction. Study 1 revealed that participants felt more relaxed after reading positive poems with either personal or social content than after reading negative ones, and they felt least refreshed and calm after reading negative poems with personal content. Study 2 showed that participants reported less depressed feelings both after reading an excerpt from an explanatory leaflet and after a controlled rest period. These results were discussed in terms of the mood congruence effect. Future research may evaluate the effects of reading novels, manga, and life teachings on self-narratives and views of life in normal and clinical populations.
著者
山崎 洋治 森田 十誉子 藤春 知佳 川戸 貴行 前野 正夫
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.21-27, 2018 (Released:2018-02-28)
参考文献数
27
被引用文献数
1

歯周病の予防に影響する口腔清掃習慣を,産業歯科健診情報を用いて縦断的に検討した.対象は,某企業の事業所従業員で2002年と2006年に歯科健康診断を受診した者1,985名(男性1,617名,女性368名,平均年齢40.0±9.2歳)とした.歯周病の評価はCPIで,健康行動(歯磨き,歯間ブラシおよびデンタルフロスの使用頻度,喫煙習慣)は自記式質問紙で調べた.ベースライン時の健康行動およびCPIの所見と4年後の歯周ポケット形成との関連性を多重ロジスティック回帰分析した. 2002年に歯周ポケットなしであった臼歯部セクスタントの7.3~9.5%,前歯部セクスタントの1.9~2.3% が,それぞれ4年後に歯周ポケットありに変化した.また,歯周ポケットなしのセクスタントが4年後に一箇所でも歯周ポケットありに変化した者と関連性が認められた要因は,1日3回以上の歯磨き(1回以下に対するオッズ比:0.68,p<0.05),デンタルフロスの毎日の使用(使用しないに対するオッズ比:0.41,p<0.05)およびベースライン時の歯周ポケットの有無(なしに対するオッズ比:1.52,p<0.01)であった. 以上の結果から,1日3回以上の歯磨きと毎日のデンタルフロスの使用は歯周ポケット形成の予防に有効であることが,また,歯周ポケットの保有は,歯周ポケットがない部位での新たな歯周ポケット形成のリスクとなることが示唆された.
著者
森岡 義成
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.13, no.4, pp.172-173, 1960

出産後寒さに向ったため, 室温は15~20℃を保たしめ, 直ちに父親ヒョウと母親ライオンを別離し, まったく秘密裏に仔レオポンを母親ライオンに一任し, 遂に38日目父親ヒョウと親仔水いらずの同居を決行し発表にいたったので, その間の苦労, 心配は言外のものであった. 以上のごとく昭和35年1月10日現在までは頗る健康 (もちろん12月20日に雌の風邪気味はあったが) であり, 将来への生長の希望を明るいものにしてくれているが, 1年経って見ないとまだまだ心配はつきない. これからの努力によって生長し, 3年以上経過した暁は雄のタテガミ発生にも希望はもてるし, F<SUB>2</SUB>を誕生さすことによって動物遺伝学をくつがえして見たいという野望にももえている次第であります.
著者
金森 祥子 野島 良 岩井 淳 川口 嘉奈子 佐藤 広英 諏訪 博彦 太幡 直也
雑誌
コンピュータセキュリティシンポジウム2017論文集
巻号頁・発行日
vol.2017, no.2, 2017-10-16

サービス提供者が, ユーザのパーソナルデータを収集・利用する場合, 事前にサービス提供者とユーザの間で合意形成が必要とされている. その方法の一つとして, 現在, プライバシーポリシーを提示する方法が広く普及している. しかし, 一般にプライバシーポリシーは長くて難解であるため, 読んでいないユーザが多いとされている.本研究では, 利用するサービスによって,ユーザがプライバシーポリシーを読む度合いが異なることを調査したので報告する.さらに, プライバシーポリシーを読んだ際に, ユーザにとって,具体的にどのキーワードが理解が難しかいのかについても調査したため合わせて報告する.
著者
山森 光陽
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.71-82, 2004-03-31 (Released:2013-02-19)
参考文献数
20
被引用文献数
2

本研究では, 中学校1年生の英語学習に対する学習意欲はどの程度持続するのか, また持続させている生徒とはどのような生徒なのかについて検討を行った。具体的には, 中学校1年生の英語学習に対する学習意欲はどの程度持続するものであるのかを生存時間分析を用いて検討し, さらに, 学習意欲を持続させている生徒とはどのような生徒なのか, またどのようなことが切っ掛けとなって学習意欲が失われるのかを検討した。その結果, 中学校1年生の英語の学習においては, 初回の授業では9割以上の生徒が英語の学習に対して高い学習意欲を有していることが確認された。しかし, それを持続させることが出来たのは6割程度の生徒であったことが確認された。また, 1年間の中でも, 特に2学期において学習意欲が低くなる生徒が顕著に多いことが, 本研究の結果明らかになった。さらに, 試験で期待通りの成績が得られたかどうかではなく,「もうこれ以上がんばって勉強できない」と感じることの方が, その後の学習意欲の変化に影響を及ぼす可能性のあることが示唆された。さらに, 学習意欲が上昇する生徒についても考察を行った。
著者
古森厚孝 編
巻号頁・発行日
vol.[1], 1837
著者
森本 栄一
出版者
日本科学史学会
雑誌
科学史研究. 第II期 (ISSN:00227692)
巻号頁・発行日
vol.36, no.202, pp.85-95, 1997-06-27
参考文献数
69
被引用文献数
3
著者
井上 賢治 森 美紀 志村 和可 千葉 マリ 桑波田 謙 間瀬 樹省
出版者
日本ロービジョン学会
雑誌
日本ロービジョン学会学術総会プログラム・抄録集
巻号頁・発行日
vol.9, pp.4, 2008

【目的】ロービジョン者ならびに高齢者が、駅からお茶の水・井上眼科クリニックまでのアクセス環境において、不便に感じていることはないかを調査した。<BR>【方法】JRお茶の水駅あるいは東京メトロ千代田線新御茶ノ水駅を通院のために利用しているロービジョン者あるいは高齢者20名(男性9名、女性11名)を対象とした。「駅から当クリニックに来るまでに困っていること」を駅構内、横断歩道、ビル入り口までの通路・階段、ビル入り口からのエレベーターに分けて、各地点の不便を調査した。<BR>【結果】JRお茶の水駅を利用している患者10名(男性5名、女性5名)は、平均年齢74.0±7.4歳、疾患は緑内障および白内障7名、糖尿病性網膜症 2名、黄斑上膜 1名であった。駅からクリニックまでに困っている場所は、駅構内80%、通路・階段50%、横断歩道30%、ビル入り口からのエレベーター 10%で、駅構内が一番多く、特にホーム・階段が狭い、案内が見づらいなどの声が多かった。東京メトロ新御茶ノ水駅を利用している患者10名(男性4名、女性6名)は、平均年齢70.8±5.4歳、疾患は緑内障8名、糖尿病性網膜症 1名、ぶどう膜炎1名であった。駅からクリニックまでに困っている場所は、駅構内70%、通路・階段 50%、ビル入り口からのエレベーター 30%で、駅構内が一番多く、特に千代田線のお茶の水口は駅ホームから改札までが長いエスカレーターのため不便と言う声が多かった。<BR>【結論】JR、東京メトロ利用者に共通していたのは、駅構内で困っていることが多かった。特に駅ホームから改札へのアクセスが階段や長いエスカレーターのみで利用しづらく、案内表示が見づらいと感じていた。患者さんのことを考えると、クリニック内にとどまらず、まち全体のユニバーサルデザイン化を検討すべきである。
著者
高橋 隆宜 井上 健太郎 森 一彦 宮野 道雄
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.27, no.6, pp.677-681, 2012 (Released:2013-01-30)
参考文献数
21
被引用文献数
2 1

〔目的〕本研究の目的は,歩行環境が虚弱高齢者の歩行動作に与える効果を検討することであった.〔対象〕実験参加者は15名の高齢女性であった.〔方法〕実験環境は,「手の届く範囲に壁がある」条件(条件①)と「手の届く範囲に壁がない」条件(条件②)で5 mの距離を自由歩行することであった.測定指標は身体加速度と身体動揺量,歩行速度とした.身体加速度より歩行時の動きの強度を算出し,その平均値を用いて動きの強度の弱群と強群に分けた.〔結果〕条件②では,強群は弱群に比べ身体動揺量が大きくなり,歩行速度も速かった.条件①では,弱群と強群に身体動揺量の差は確認されなかった.〔考察〕動きの強度に関わらず,手の届く範囲に壁がある歩行環境は虚弱高齢者の身体動揺量を軽減させ,転倒のリスクを軽減することが示唆された.
著者
大塚 義顕 石川 哲 斉藤 雅史 斎藤 隆夫 大森 恵子 渋谷 泰子 佐藤 孝宏 長谷川 正行
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.69-74, 2020-08-31 (Released:2020-09-02)
参考文献数
14

呼吸器疾患患者の中でも慢性閉塞性肺疾患(以下COPD)には嚥下障害が高率に併存し,増悪と嚥下障害との関連が指摘されている.一般的に,呼吸と嚥下は文字通り表裏一体の協調関係にあるとされ,切り離しては考えられない.嚥下筋は呼吸中枢からの制御を受けて呼吸と協調した運動をするが,COPDでは呼吸のサイクルが増し,呼気が短くなることから異常な嚥下反射が起こりやすくなると考えられる.そのため嚥下障害の特徴を踏まえたうえで対応することが望まれる.一方,フレイル・サルコペニアを考えたときにオーラルフレイルから咀嚼障害や嚥下障害に移行しないようにしなければならないし低栄養に陥らないようにもする必要がある.そこで,本報告はCOPDのオーラルフレイル・サルコペニア,嚥下障害との関連,および包括的な嚥下リハビリテーションの介入でCOPD増悪の頻度を低下できた症例を提示する.
著者
藤田 茂 平尾 智広 北澤 健文 飯田 修平 永井 庸次 嶋森 好子 鮎澤 純子 瀬戸 加奈子 畠山 洋輔 大西 遼 松本 邦愛 長谷川 友紀
出版者
一般社団法人 日本医療・病院管理学会
雑誌
日本医療・病院管理学会誌 (ISSN:1882594X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.95-104, 2020-07-31 (Released:2020-11-11)
参考文献数
48

医療従事者の働き方改革は,医療従事者の健康や幸福だけでなく,医療安全の向上にも寄与すると推測される。本研究は,コメディカルの労働量と医療安全に関するアウトカムとの関係を明らかにすることを目的とした。1964年1月から2018年8月までに出版された医中誌Web収載の文献と,2008年8月から2018年8月までに出版されたPubMed収載の文献を対象に,システマティックレビューを行った。その結果,看護師の労働量に関する文献を26件,薬剤師の労働量に関する文献を2件,その他の文献を7件得た。それらの文献には,システマティックレビューが7件,対照群のある観察研究が28件含まれ,無作為化比較試験は無かった。コメディカルの労働量の多さが患者の死亡率に負の影響を与えるという明確なエビデンスは得られなかった。一方で,看護師の労働量が多いと,与薬エラーや集中治療室における院内感染症が増加する可能性が示唆された。
著者
早坂 洋史 森田 克己 松岡 龍介
出版者
日本図学会
雑誌
図学研究 (ISSN:03875512)
巻号頁・発行日
vol.35, no.Supplement, pp.57-58, 2001 (Released:2010-08-25)
参考文献数
1

図形認識力における男女差は、よく知られているにも拘わらず、その理由は必ずしも明白ではなかったように思われる。A.Peaseらは、彼らの著書『話を聞かない男、地図が読めない女』の中で、人は性によって異なった構造の脳、いわゆる男脳と女脳を有しているとし、その構造の違いにより種々のシチュエーションでの行動パターンが異なっているとしている。例えば、一般的に女性は男性に比べ地図を読むのが苦手だったり、方向音痴だったりするのは、この脳の構造の違いによるものとしている。もしこれが本当ならば、特に図形を取り扱う図形科学系の授業でも、この男脳・女脳を考慮しての教授法の展開が必要となってくると考えられる。本報告では、A.Peaseらが提案している、男脳・女脳テストを紹介すると共に、男脳・女脳テストを著者らが所属する大学で実施した結果につき述べる。男脳・女脳テストの被験者数は、三つの大学で合計257名 (男109名、女148名) であった。テスト結果の点数により、男脳・女脳の分布図を作成した結果、男脳・女脳のオーバーラップ域 (150~180点) に約1/3の学生が含まれること、この範囲を男脳側に20点広げ、130~180点とすると、約半数が含まれること、男性のみの傾向としては、男脳側の130点と90点にピークを有すること、女性のみの傾向として、オーバーラップ上限値の180点と男脳域の100点の両方に二つのピークを有することなどがわかった。また、北海道大学社会工学系の学生 (男35名、女10名) の傾向と上述の全体傾向との比較の結果、約8割弱は男性であるにも拘わらず、オーバーラップ上限の180点にピークを有し、80~230点までの広範な学生層であることなどが明らかになった。今後の課題としては、男脳・女脳テスト結果と図形科学の成績や切断面実形視テスト (MCT) の点数などとの関連性、専攻の違いによる男脳・女脳テスト結果の違いや傾向、などについての詳細な検討は、今後の課題である。
著者
松本 珠希 後山 尚久 木村 哲也 林 達也 森谷 敏夫
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.48, no.12, pp.1011-1024, 2008-12-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
50
被引用文献数
3

月経前症候群(premenstrual syndrome; PMS)は,身体・精神症状から社会・行動上の変化に至るまで広範囲にわたる症状が,黄体期後半に繰り返し出現し,月経開始後数日以内に軽快するという特徴をもつ.種類や程度,継続する期間を問わなければ,性成熟期女性の大半が何らかのPMS症状を自覚しているといわれているが,その成因はいまだ明らかにされていない.本研究では,PMS症状のレベルが異なる女性を対象に,"体内環境の恒常性維持に寄与し,心の状態にも影響を及ぼす"とされる自律神経活動の観点から月経前の心身不調の発症機序について探求することを試みた.正常月経周期を有する20〜40代の女性62名を対象とした.実験は卵胞期と黄体後期に各1回行った.月経周期は,月経開始日,基礎体温および早朝第一尿中の卵巣ホルモン・クレアチニン補正値を基準に決定した.自律神経活動は,心拍変動パワースペクトル解析により評価した.月経周期に伴う身体的・精神的不定愁訴および行動変化は,Menstrual Distress Questionnaire (MDQ)により判定した.MDQスコアの増加率に応じて,被験者をControl群,PMS群,premenstrual dysphoric disorder (PMDD)群の3群に分け,卵胞期から黄体後期への不快症状増加率と自律神経活動動態との関連を詳細に検討した.PMS症状がないあるいは軽度のControl群では,自律神経活動が月経周期に応じて変化しないことが認められた.一方,PMS群では,卵胞期と比較し,黄体後期の総自律神経活動指標(Total power)と副交感神経活動指標(High-frequency成分)が有意に低下していた.PMDD群では,黄体後期の不快症状がPMS群よりもいっそう強く,自律神経活動に関しては,他の2群と比較すると卵胞期・黄体後期の両期において心拍変動が減衰,併せて,すべての周波数領域のパワー値が顕著に低下していた.PMSは,生物学的要因と・心理社会的要因が混在する多因子性症状群であり,その病態像を説明するさまざまな仮説が提唱されてはいるが,統一した見解が得られていないのが現状である.本研究からPMSの全貌を明らかにすることはできないが,得られた知見を考慮すると,黄体後期特有の複雑多岐な心身不快症状の発現に自律神経活動動態が関与することが明らかとなった.また,PMDDのようなPMSの重症例では,月経周期に関係なく総自律神経活動が著しく低下しており,黄体後期にいっそう強い心身不調を経験するとともに,月経発来後も症状が持続するのではないかと推察された.